グリトニル戦記   作:ヒナヒナ

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侵食

「侵食」

 

 

 

 

駐留艦からビーコンによる誘引作戦が提案された後、散発的に流れ弾を受けていたグリトニル基地は、ついにゲインズの陽電子砲の直撃を受けた。運悪くタブロックによって外壁が剥がされた所を打ち抜かれたらしく。グリトニルの玄関口である第一ワープ施設とそこに隣接する港湾区画のかなり奥まで破壊されていた。

 

 

「非戦闘要員の避難急げ。被害区画を閉鎖して隔壁を下ろせ」

 

 

そこにさらにかすかな衝撃。外部カメラが捉えた映像では、ベルメイトの衝撃波の余波のようだ。そしてアラームが鳴り響く。バイド汚染警報である。基地内でバイド素子が検知された場合に鳴り響くもので、閉鎖空間では最悪の報告だった。

 

 

「デンバー司令! ベルメイト肉塊から飛び散った微細バイド体が外壁に付着。バイド係数は小さいですが、一部内部に侵入しました!」

「港湾区画の閉鎖を急げ! ある程度の大きさのバイドに侵入されたら汚染が始まる」

「駄目です。閉鎖信号が途絶、港湾区画手前からの連絡系統が寸断されています」

「基地防衛隊を派遣して、手動で閉鎖に向かわせてくれ、二次被害を出さないように連絡は密にさせるように」

 

 

防衛隊は警備など歩兵能力のある部隊を組織し直した部隊で、宇宙服一体型のパワードアーマーを装備している。彼らの利点は多少の物理的な防御力と補助腕力、人間用の通路を通って行動できる点だった。ただし、バイド汚染に対する防御力はほとんどない。

 

 

デンバーがそこまで指示を飛ばしたところで、駐留艦隊より連絡があり予備ビーコン起動したとの報が入る。デンバーは基地側にあるメインビーコンの電源を落とすと、ヘイズ少将が予測した通りほとんどのバイドが駐留艦隊――そこにあるビーコンに誘引されグリトニルから離れていった。多くの基地職員が胸をなで下ろす。しかし、ディスプレイに呼び出された基地内地図には汚染区域が赤く色分けされており、すでに被害を受けた港湾区画は半分近くでバイド素子が検出されている事を示している。一刻の猶予もない。

 

 

デンバーは基地司令として、バイド汚染の食い止める手段をあれこれ講じていると、急に司令室の外にドタバタという大勢の足音が聞こえてきた。そして、入室許可を得て入ってきたのは工兵隊のラス中佐だった。扉の向こうには大勢の工兵部隊が従っている。何事かと思うデンバーだが、すぐに発言を促す。

 

 

「デンバー司令、Team R-TYPEから対バイド障壁のパネルを徴発させてください。あれを中枢区画の衝撃吸収帯にそって設置すれば、中枢区画そのものを対バイドシェルターにできます」

「まさに籠城戦だな。それにはどのくらいの時間が必要だね?」

「資材があれば6……いえ5時間ほどでやってみせます」

「我々は戦って果てることでは無く生き残ることが仕事だからね。その作戦に関する資材の徴発を許可する」

 

 

ラス中佐は胸を張って返事をすると、彼の部下とともに走ってTeam R-TYPEの研究区画へと向かっていった。それを見送ったデンバーは、連絡員からのバイド迎撃の報告に舌打ちした。タブロックとゲインズによる攻撃で基地の港湾部との接続構造に一部歪みができているらしい。その間隙から不定形の微小バイド体が侵入しているようだ。本来ならば取るに足りない微細バイドでも生身の人間には驚異的だった。防衛部隊が各所をかけずり回っているが、微細なバイドをすべて遮断することは難しく、ゆっくりと侵略されていった。

 

 

***

 

 

人を一回り大きくしたような影が通路の壁面を蹴りながら港湾区画を移動していた。本来は1G程度の重力が設定されているエリアであるのだが、バイドの襲撃に伴いその機能は停止している。薄い空気中に物が漂う中、目的の場所までたどり着いた防衛部隊員達は腕力、脚力に補助を加えるパワードスーツに物を言わせて歪んだ作業用ハッチを無理矢理こじ開けた。

 

 

「こちら警備03チームより司令室、これより港湾区画P3まで閉鎖します。ロック確認。エアを抜け!」

「! 曹長、まだ負傷者がいる可能性が」

「どのみち汚染区画にいたなら助からん! エア排出!」

 

 

ガコンという重々しい音ともに隔壁がしまり、少し歪んだロック機構がギチギチと音を立てて噛み合わさり閉鎖される。赤い警告表示付きのレバーを引くと、向こう側では轟々という空気がうねる音や様々な物が衝突する音が聞こえてくる。悲鳴のような物は聞こえてこなかったので、生きた人間はいなかったようだ。しかし、ロックする前に通路の奥に見えていた不定形のバイド体が報告より増えているということはそういう事なのだろう。

 

 

人間ならともかくバイド体に対して銃火器はほとんど意味が無い。足や触手といった移動器官を破壊して行動を遅くすることはできるが、その分バイド汚染物質も飛び散る。なので、一番の方策は通路を閉鎖すること。そして、助けが来るまでともかく閉じこもるしか無いのだ。

 

 

強制排出された空気とともに大きめのバイドは外へと吸い出されていく。ここまで入り込める小さなバイド体は、そこまで強くは無いので、物理的な攻撃力はほどんどないのが救いだった。少しでも時間が稼げるかもしれない。彼らは徐々に生存範囲を狭めながら籠城に向けて準備を続けた。

 

 

***

 

 

「Team R-TYPEにはまだ連絡が付かんかね?」

「はい司令。なんども連絡を試みているのですが、一向に応答がありません」

 

 

司令区画ではデンバーがTeam R-TYPEのラボに連絡を入れるように命令していた。Team R-TYPEの研究者達は狂人ではあるが、バイドに関する知見や技術は一流であることは間違いない。彼らの力を借りて対バイド戦線を構築しようと思っていたのだが、何度連絡員が通信を試みても連絡が付かない。外に出られる方法が無い以上、いないはずは無いのだが研究区画は治外法権に近く、内部に監視カメラも無ければ人感センサーの類いも無いため全く様子が分からない。基地司令の強権で無理矢理踏み込むこともできるが、そこに割く人員が勿体ない。

 

 

幸い、ラス少佐が求めていた対バイド装甲材はまだ資材置き場にあったため、勝手に徴発しているが、この緊急時に協力体制すら組もうとはしない研究者達に、司令部の人員は怒りの感情すら覚えていた。

 

 

他所でのTeam R-TYPEの所業を知っているデンバーは仕方ないと割り切り、邪魔をしないならと一時思考の奥に追いやることにした。そして各所に散って封鎖作業を続けている防衛隊各員に連絡を付けるように命令した。

 

 

***

 

 

ラス中佐は部下を引き連れて中枢区画とその他の区画の間にある衝撃吸収用スペースに来ていた。基地中枢は外部からの衝撃を逃がすように構造的に独立している。周囲の区画ブロックに四方八方から吊られている様な構造になっている。今からここに対バイドパネルを敷き詰め、その間を瞬間硬化充填剤で固めるのだ。ただし、これをやると完全に孤立して出入りできなくなる上、バイド侵食にはある程度の時間耐えられるが、外部から艦首砲クラスの攻撃を何発も受ければ流石に物理的な衝撃で破壊されるだろう。殻が割れる前に柔らかい中身である人間はお陀仏かもしれない。さらにいえば、外に取り付いているバイドが有機物や対バイド処理をしていない物質を取り込んで巨大化、バイド係数を増大させることがあれば、そのままじわじわと汚染される恐れさえあった。ともかく時間稼ぎのための作戦だ。

 

 

「よし、お前ら工兵隊の本気を見せるぞ! 第一班はパネルを搬入、二班、三班は設置していけ、四班は瞬間固着充填剤を設置していけ。まだA剤B剤を混ぜるなよ!」

 

 

気合いの入った男達が怒声を上げながら一気に空間に雪崩れ込んでいく。幸運なことに、ここのところずっとグリトニルの修繕に係りきりだった工兵隊の設備改造に関する練度は、軍内でトップクラスだった。そして、明らかに一つの基地には大きすぎる規模であったのも幸いする。男達は、巨大なパネル同士をあり合わせの機材や道具を使って貼り合わせていく。その後ろでは“C級危険物”と書かれた充填剤が2種類ずつ設置される。そしてラスはそれを監督しながら小型の炸薬を充填剤にセットして行く。一つ間違えてこの場で充填剤混ぜ合わされれば、爆発的に膨らみそのまま硬化してここにいる全員が巻き込まれかねない。大変危険な作業であるが、時間が無いため同時進行することになり、神経もすり減らす作業となっていた。

 

 

工兵隊員が各所に取り付いてパネルを設置し続けるが、司令区画の表面を覆いきるにはまるで、コップを使って風呂に湯を溜めるような作業に感じたが、ラスは行程を考えながらどこまで短縮できるかを考えていた。

 

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