「基地R機隊」
グリトニルの基地管制システムが敵R機の来襲を探知した。ディスプレイ上では敵機の予測到達時間が表示されている。場所はグリトニルの大型ドック内、早期管制機ミッドナイトアイのパイロット兼管制官として様子を見守るイワノワ大尉は、戦闘に向かない自機を邪魔にならないように上手く隅に寄せて戦況を窺っている。そろそろこちらのR機が展開する時間だ。
R機――R型異相次元戦闘機は、地球連合政府が対バイド兵器として作り上げた汎用戦闘機である。R機は基本的に3つの特長を持っている。まず大前提として、ザイオング慣性制御システムを持ち、ほとんどの慣性・重力を無視した機動ができること。そして主兵装として高威力の波動砲を装備していること。最後にバイド素子を使用した万能兵器フォースを接続できること。この3つである。波動砲とフォースは特殊機体においてはオミットされているが、戦闘を前提とした機体にはほぼ着いている。R機は対バイド兵器であるとともに、
対人兵器としてもとても有用であった。戦争が起きるほどに。
イワノワ大尉はミッドナイトアイの強力な索敵能力で視界をとる。そのデータを心もとない精度の探知範囲に優れる基地管制システムのデータに被せて、各データを処理する。革命軍機を示す赤い表示と、友軍である連合軍機を示す緑の表示がもうじきドック内で対峙するだろう。どうやら革命軍側は2小隊がドックにまで辿りついたようだ。対してドック内で待ち構えるのは基地防衛R機隊のアントリオン隊だ。フォースを装備したアローヘッド5機と補給機POWアーマー1機で構成されている。通常R機の小隊は単一機種で構成されているが、この部隊は混成部隊だ。全機、地球連合軍を示すマークと同じコミカルな蟻地獄のエンブレムがペイントされており、イワノワ機の表示では緑の表示になっている。
『アントリオン1より各機、お客さんがそろそろいらっしゃる。態々我々の家までご足労願ったのだから、丁寧にお持て成しして差し上げろ』
全体通信で小隊長のフィルウォー中尉のからの通信が漏れ聞こえてくる。小隊内通信もできるのだからそれを使えとはイワノワも言わない。このくらいならまだ許せる範囲だし、戦闘前に士気を下げることもない。イワノワは静かに通常通信回路の音量を絞る。今回ミッドナイトアイが行うのは戦闘の行方を見守るだけであって、戦闘管制ではないのだ。
基地の警戒システムが基地への敵機の最接近を知らせるとアローヘッドが波動砲のチャージを始める。機首に青い光が集まり出すが、突如ドックの入り口の隔壁が吹き飛ぶ。アントリオン隊の予想より早かったようだ。動揺したような声が聞こえる。
『隊長! 隔壁が溶けました。チャージ間にあいません!』
『気が早いな、ミサイルで牽制してA地点まで後退!』
そもそも、この隔壁は通常ミサイル数発くらいでは壊れないはずなのだ。データを見る限り、おそらく“バルムンク”で一気に打ち抜いたのだろう。一拍置いて爆炎の切れ目から白い機体が姿を現す。革命軍機ステイヤーだ。革命軍が運用するストライダーやステイヤーは波動砲を持たない代わりに、エネルギー障壁を展開するバリア弾と、単発だが強力無比な兵器、戦術核ミサイル“バルムンク”の試作型が搭載されている。敵は閉所では使いにくいバルムンクを、正面隔壁を一気に打ち破るのに使ったのだろう。
迎え撃つのは連合軍主力機アローヘッド。波動砲のチャージを終えていないので通常弾頭のミサイルで迎撃するが、ステイヤーに届く前に傘のように展開した障壁に阻まれ、すべてステイヤーに届かず爆発する。バリア弾を展開したステイヤーに生半可な攻撃は届かない。その間にアローヘッドは波動砲チャージの時間を稼ぐため後退する。ザイオング慣性制御システムの恩恵を受けたアローヘッドは、加速や減速のたびに発生する強力なGをコントロールして慣性力を無視した動きを実現する。
『全機、反射レーザーだ!味方に当てるなよ』
各機が誤射を防ぐために横一列になってから、付属のフォースロッドを通してエネルギーを注ぎ込まれたフォースが強く輝きながら青色のレーザーを多数発射すると、内部隔壁に数回反射しジグザグの軌道を描きながらその内の数本がステイヤーに命中する。閉所で展開するレーザーは存外に綺麗だ。『よし』だの、『何機だ?』など特に意味の無い言葉が通信に乗って聞こえてくる。ステイヤーの内2機はそのまま爆散し、1機がザイオング管制制御システムの恩恵を失って、慣性のままに隔壁に衝突し爆発する。
『アントリオン3、仕掛けます!』
『アントリオン4、俺も行きます』
『あ、馬鹿っ』
アローヘッドのうち2機が残るステイヤーに追撃を仕掛けようと前に出るが、イワノワの駆るミッドナイトアイの目にはアローヘッドに急接近する機影が捉えられていた。ステイヤーのそばをすり抜けていくのは、青い影。強力なバーニアを持つグランゼーラ革命軍の主力R機、エクリプスだ。エクリプスはその強力な加速性能に物を言わせて、フォース装備で正面攻撃が効かないアローヘッドの側面に回りこむと、レーザーを叩き込んだ。迂闊に行動して至近距離からレーザーを打ち込まれた迂闊に飛び込んだ2機はその場で沈黙。持ち主を失ったフォースは下向きにその場に留まる。
『あのバカ共が!』
フィルウォー中尉の罵り声が聞こえる。残った3機のアローヘッドによるミサイル攻撃でエクリプスも1機撃墜され、これで連合軍フォース付き3機と補給機1機。革命軍はステイヤー2機、エクリプス4機の計6機になった。これはギリギリの戦いになりそうだ。そうミッドナイトアイのレーダーを見つめながらイワノワは分析する。ここからどう動かすのか?
先に動いたのは革命軍のエクリプスだった。一気に加速して距離を詰めてくる。アローヘッドが波動砲のチャージを終える前に接近して勝負を決めるつもりだろう。しかし、ドック内の狭まった部分を通り抜けようと隊形を密集させたときに、レーダー上には何も無かったはずの空間に突如むくむくとPOWアーマーが現れたのだ。
『お、よくやった新入り』、『デコイ自爆させます!』、『いや、あのままで良い』といった会話が聞こえてくるあたり、フィルウォー中尉の作戦ではなくPOWパイロットのフェアプレイのようだ。
POWアーマーとの接触はほぼ確実に撃墜に繋がる危険行為だ、それが内部に自爆機構を備えるデコイであれば尚更だ。敵エクリプス隊は急に進路上に現れたPOWデコイを避けようと、ザイオング慣性制御システムの限界に挑みながら狭い通路で急停止を試みる。何とかエクリプスが基地内壁やPOWアーマーへの接触を回避したそのとき、フィルウォー中尉の『発射!』の声とともに通路の奥から白い光が溢れてきて彼らを包んだ。
アローヘッド隊はPOWデコイごとエクリプス隊を打ち払う。波動砲は波動エネルギーを虚数空間にチャージし指向性を持たせて開放するという兵器で、チャージ時間が必要な代わりに一撃必殺の威力を持つ。回避するには狭すぎる通路でエクリプスは消滅した。『一気に決めるぞ』その声とともに、今まで下がる一方だったアントリオン隊のアローヘッドは勢いづき、波動砲進路をなぞる様に前に出る。
『げ、エクリプス一機、残っていました。アントリオン5、波動砲コンダクタ被弾』
『アントリオン2フォローしろ』
途中にいた運よく射線から外れたエクリプスのバルカンで一機が中破するが、アローヘッドは止まらずに同じくバルカンを叩き込み、死に損ないのエクリプスを沈黙させる。残るはステイヤーのみ。最後とばかりにアローヘッドが機体に残っていたミサイルを全弾発射する。ステイヤーもバリア弾で防御を行い、バリアにミサイルが衝突し次々と爆炎があがる。
『全機、フォースシュート!』
フィルウォー中尉の命令とともに、何があろうとR機の前面で緩やかに回転していたフォースは、機体からの命令を受け一気に光度を増して、弾丸のように前面に飛び出す。バリア弾がステイヤーの前にまだ残っていたが、ほとんどの攻撃を自らのエネルギーに変換してしまうフォースにとってバリア弾は意味を成さない。反撃をしようとしていたステイヤーは、目の前に現れたオレンジ色の物体を避けることができず、フォースのオレンジ色の光に包まれて消滅した。
『気を抜くな、索敵』
『こちらに熱源ありません』
『エクリプスも全機沈黙しています』
『ふむ、これで戦闘終了だな。……イワノワ大尉殿よろしいか?』
ぎりぎり勝利というところだろう。イワノワが音量を絞っていた通信回路を戻し了承を伝えると、たちまち鬨の声が聞こえてきた。やはり隊内通信でやるように注意するべきだろうか? そんなことを考えながら言う。
「こちらイワノワ。シミュレーション訓練を終了する。アントリオン隊各機は10分後にミーティングルームに集合」
『こちらフィルウォー。了解した。さあみんな大事な大事な反省会だ。撃墜判定された2人は先に行って準備をしておけ』
***
「では本日の検討会を行う。今回の状況設定は劣勢下での迎撃戦。まあ、革命軍と一戦した後に後退し、グリトニル内で待ち構えるといったものを想定している。駐留艦隊や私のミッドナイトアイの支援の全く無い状態である」
イワノワがホワイトボードの前に立ち、シミュレーテョン演習のまとめに入る。目の前の椅子にはフィルウォー中尉を隊長とした基地R機隊主力の面々、基本的に問題児が多い。隊長のフィルウォーも一見まともに見えるが、喧嘩っ早く問題を多々起している。そんな隊でフィルウォーがまず撃墜された二人を叱責する。
「2小隊来たって事前に言われているのに1小隊止めただけで突っ込むとは自殺志願者か? あと油断していたとはいえバルカンなんか喰らう距離に近づくんじゃない」
「ステイヤーはアローヘッドの天敵ですから、減らしておきたいと先走りました」
「すみません。ステイヤーに気を取られてエクリプスが見えませんでした」
「おう、あれは油断しすぎだ。お前らは今日の掃除当番な」
うな垂れる隊員3人と叱り飛ばすフィルウォー。そのまま、新人としか呼ばれないPOWパイロットに話を向ける。
「POWは今回中々良い活躍をしたが、如何せん出てくるのが遅いな」
「隊長、R機と一緒にしないでください。POWは足が遅いんです。あれでギリギリです」
「デコイだけでも先に飛ばしておけばいい」
POWアーマーは新人ながら意外といい動きをした。しかし、宇宙空間を巡航しているならともかく、閉所でアローヘッドに全く付いていけていないのは、操縦の腕の問題だろう。そう思いイワノワはフィルウォーの評に付け足す。
「フィルウォー中尉の言葉ももっともだ。機敏に動けるように。POWは脚部があるから閉所ではもっと早いはずだ」
イワノワとアントリオン隊の面々は問題点の洗い出しと、新しい戦術案について検討していく。暫く議論があり検討課題が挙がったところで、イワノワが話す。
「さて、では最後に私から確認だ。波動砲の効率の良い運用は? 」
「閉所、ドッグ入口などで敵が密集した状態のときにぶち込む事です」
「今回は、波動砲を撃つ前に侵入され、後退をさせられているな?」
「ええ、少佐殿のミッドナイトアイが無かったので、基地の管制システムで対応しましたから情報が大まかでした。今までの経験と予測として、隔壁前で結集を待って一気に打ち破ってくると考え、隔壁を破るのにかかる時間を逆算して、波動砲をチャージしましたので間に合いませんでした」
「何故そのような事態が起きた?」
「小官の読み違いです」
イワノワは叱責しているわけではないが、フィルウォーは意外と神妙に答えてくる。
「よろしい。実は今回は事前にAIの思考回路を代えてあったのが原因だ。人間はAI以上に“変な”行動をする。想定はいいが、状況を決め付けるな」
イワノワ大尉の「解散」の声とともに、基地R機隊アントリオン隊は、標準時12時を大分過ぎた時間に食堂に駆け込んだ。
色々こっそり修正
R機説明回
でも、ここに来る読者はそもそもR機のことなんて知っていると思う。