みなさま、はじめまして。
私はこの国の政府の歴史保全部に勤めております。名前は申し上げられませんが、まわりの者には“リト”と呼ばれていますので、そのようにお呼び下さい。
……呼ぶ機会があれば、ですが。
リトと名乗る女性はそう言ってにこやかに頭を下げたのち、表情を引き締めた。
────消去を開始します。
◆
リトの仕事とは、道を誤った審神者の収容と、本丸及び刀剣の浄化である。
しかし、浄化というのは正確な表現ではない。
本丸、刀剣に生じた
審神者、本丸、刀剣。
これらは、いつからか歴史に生じ始めた歪みを正すため、国の勅令で設置された。
この国は古来から
であるならば、人がながく愛した物にも当然神は宿り、それを
そして、審神者と呼ばれる力ある者が、名立たる刀剣の九十九神──刀剣男士と呼ばれる──を顕現させ、それを過去に送り込み歴史を改変せんとする者たちを屠り歴史を守る。
九十九神はその名の通りに神であり、敬うべき対称である。そうでなくとも、通常、相手のかたちが人である以上、人は相手を対等に扱う。
そうして刀剣男士と審神者は善い関係を築く。
それが本来の在るべき姿なのだが、まれにそれを外れた者もいた。
そんな審神者の務める本丸では、神は敬われず、対等の地位もなく、ただただ道具として扱われるのみ。
それは不満を溜め、悪意を生み、害をもたらすようになる。
害とは滓。
それがもたらすモノは善いモノであるはずがなく、そうなる前に対策を取るのが、リトが属する悪質本丸矯正執行課なのだ。
「────消去終了」
雲の切れ間からのぞく太陽が、リトの顔に影を落とした。
そこへぽんっと軽い音をたてて、まるでぬいぐるみのような独特な容姿を持つ黒い狐が降ってくる。
リトが両手を出したところへ難なく着地したそれは、尻尾をまるめて愛らしくお座りの体勢をとる。
「お疲れ様でございます、主様!」
「うん、ちょっと疲れたな。お水お願いできる?」
「畏まりました! では少々お待ちくだされ」
現れたときと同じく狐が消えると、程なくして今度は前足でペットボトルを抱えるようにして現れた。
リトは受け取ったペットボトルを開栓すると少し口に含んでそれを捨て、数秒ほど眺めてから水を飲みはじめる。
リトの片腕に抱かれて嬉しそうにすり寄る黒い狐──くろのすけという──は、リトが初めて顕現した式神だ。故にくろのすけはリトを主と仰ぎ従順に仕えている。
とはいっても、普段は愛玩動物と大してかわらず、リトに愛でられながらおつかいをこなすくらいだ。
「うぅ~~、くろのすけ、ありがとう。だいぶ癒された」
「なんのこれしき! ささ、これで今日の案件は終わりでごさいます。戻って報告書を書かれれば、その後はこのくろのすけめがマッサージを致しましょう!」
「わーいそれステキー! よーし、リトさん頑張りますよー!」
くろのすけのもふもふの毛並みに顔を埋めて癒し成分を補給したリトは、愛らしい肉球マッサージを楽しみに本丸を後にした。
閲覧ありがとうございます。
普通に読むことが好きなだけの人が思いつきだけで綴っていく物語です。
手探りで進めていくので、ご意見、ご感想などあれば、どしどしお願いします。