しかし回りこまれる   作:綾宮琴葉

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第11話 その理由

「ネギ先生ー! 2-Aにようこそー!」

 

 パンッと鳴り響く独特の破裂音と共に、空に投げ出される紙吹雪、掛けるだいたい三十人分。

 クラッカーの歓迎で迎え入れられたネギ・スプリングフィールドは、一瞬呆けた顔を見せたものの、直ぐに嬉しさと少しの恥ずかしさを浮かべた顔で、教室の中に飛び込んで行った。ちなみに、人数に含めなかった人が誰かはご察し頂きたい。

 

「わーー! 皆さん、ありがとうございます!」

「どういたしまして、ネギ先生。クラスを代表して歓迎いたしますわ」

「ネギ君よろしくねー!」

「そうだよネギ君。楽しんでいってね!」

 

 私達が高畑先生の所へ行っている間に、購買かコンビニで買って来たのだろう。中央に寄せられた三列程の長机の上には、ドリンク類とお菓子等が山の様に置いてあった。

 

 とりあえず、今日ここまで何も無かった事は素直に嬉しい。私もアスナも彼が魔法を使った所は見ていない。それに彼女達の会話を聴くと、他の誰かに魔法を使った様子も無い。

 今となっては、真っ先に魔法を見てしまいそうな宮崎のどかも、普段通りのハイテンショントークで、彼への接し方にも変化は無いと思う。今の状況ならば、巻き込まれる心配もなく上々と言える。

 

 机の上に配られたジュースを手に取り、一口啜って喉を潤わせる。本当に、安心感があるのは素晴らしい。とっても心が落ち着く。ぜひそのまま一般少年に育って欲しい。無理だとは分かっているけれど。

 

「ねぇフィリィ」

「どうかした?」

 

 いつも通り横にぴったりとくっついて座っているアスナが、落ち着いた雰囲気で、笑顔を浮かべて問い掛けてくる。

 少し機嫌が良いからだろうか。くっついたまま小首を傾けて、瞳を覗き込んでくるアスナに文句を言いたくならないのは。

 

「ちょっと落ち着いたね。ずっと難しい顔してるんだもん」

「……うっ。気をつける」

 

 彼への視線は抑えていたとは思うのだが、今度は顔に出ていたという事か。もしかして、私は色々と顔に出やすいタイプなのだろうか……。ポーカーフェイスが苦手なのは不味いかもしれない。アスナじゃないけれど、むしろ普段から笑っていた方が良いのだろうか。

 

 ふと笑った自分を想像してみて、何だかキャラじゃないと即座にその考えを否定する。A組の自己紹介の時もそうなのだが、私の印象はどうにも知的なクール美人と随分過大に評価されている。

 正直、自分を美人だなんて思っていないのだが、目立つ様な容姿に生まれたのは少々恨みがましい所も有る。自分で生まれを選ぶ事は出来ないし、白人の母を持ってハーフに生まれてきてしまったものはしょうがない。だからこそ、しらっとして周りと壁を作っているというのに。

 

「ねぇねぇ、ネギ君ってどこに住んでるの?」

「こら、あなた達。ネギ先生ですわよ!」

「あ、はい。今はタカミチのところに。でも、近くの部屋に今準備してくれてるって学院長が……」

「じゃぁじゃぁ、遊びに行って良いかな!?」

「賛成ー! 週末はネギ君の部屋で歓迎会だね!」

「え、えぇと。そんなに何回もしてもらうわけには」

 

 うん……。その、何と言うか、今日ほど一般人に生まれた人を羨ましく思った事は無いかもしれない。もっとも私が一般人だったら、今頃もう何十回も死んでいる気がしてならないのだが。

 あんなにあっさり下宿先が聞けるのは、さすがはA組といった所だろうか。このクラスの無駄パワー、と言うと駄目な様に聞こえるが。本当にそれだけは凄いと思う。

 

 私も外見は中学生だけれど、精神的には二十歳を超えている。そういう事もあって、よくもまぁここまではしゃげるものだと、少し年寄り臭い事を思ってしまったりもする。勿論それを口には出したりはしない。そんな事を言えば、両隣から攻撃が来るだろう。

 

 そう、何故か今日に限っては、アスナとは逆隣にエヴァンジェリンと茶々丸が座って居る。

 

 もちろん、声はかけない。今朝方あんな事をした彼女は、彼の印象に強く残っただろうし、変に注目はされたくない。教室の魔法関係者も、あの行動にはヒヤリとしたはずだし、本当に一体何を考えての行動だったのだろうか。

 それに後々、彼は彼女と戦う事になるのだから、ここで親しいと思われて関係を邪推されても困る。多分、一般生徒は何とも思ってないと願いたい。席順は元から隣と斜め前の彼女達だし、何よりも彼に注目していてこちらに構っている場合でもなさそうだ。

 

「やぁ、皆やってるね」

「あ、タカミチ!」

「どうだい、ネギ君。皆良い子達だろう?」

 

 少し、嬉しそうな表情の高畑先生だ。先生なりに溶け込めるのか心配していたのだろう。それに今日の彼の様子を見る限り、多少なりとも先生の心得について、面倒を見てくれたのだろう。

 ある意味注意し過ぎていると、魔法関連のイベントが起こらずに、魔法先生じゃなくて子供先生のまま物語が進んでしまうのだが……。その方が都合の良いのはある種の真実なので、なかなか困った所でもある。

 

「うん! 皆良い人ばかりで。……あっ」

 

 でも、と言い淀んだ彼の目線がこちらに向いて来るのが分かる。うぐ……。隣に居る彼女に向いているのは分かるのだが、私の方を見ないでもらいたい。思わずアスナの方に視線を逸らすと、大丈夫だとばかりに微笑んでいる彼女の顔が視界に入った。

 分かっている、彼が見ているのはエヴァンジェリンであって、私ではない。冷や汗交じりの自分に、大丈夫だと言い聞かせて頷く。

 

 そう言えば、やはり彼はナギ・スプリングフィールドの事で、まだアスナに何かを聴きたいと思っているのだろうか。アスナは「タカミチから聞いた」と答えたのだし、高畑先生に向かってその質問をしてもらいたいものだ。

 

「あぁ、エヴァの事かい。大丈夫だ、根は良い人なんだよ」

「……フンッ」

「マスター、落ち着いてください」

 

 反応に困る……。教室内はまだまだ騒がしいものの、彼女の態度はそれとかなりの温度差が有る。高畑先生は彼女を信用しているのだろうが、他の魔法関係者はそれ程でも無いだろう。何せその名前だけで、有る意味スプリングフィールド姓並みの爆弾になっているのだから。

 

 しかし、私達を取り巻く状況は原作よりも複雑だろう。私というイレギュラー、学園の魔法関係者から不干渉を約束された魔法生徒が居る。

 そしてそこに、ネギ・スプリングフィールドという、彼女にとっての獲物が入り込む。彼が自分で行動を取れば、よほどの事が無い限り学園長は見て見ぬ振りをするだろう。そうなれば魔法先生達も進言しにくい。仮に私に彼女を止める様に頼むのは約束に引っかかる。

 

 もっともエヴァンジェリンはそれをあっさり破ってきたのだが、正義の魔法使いを掲げる彼らは、約束というものを容易に破らないと願いたい。

 そしてその彼女の元で、私達が修行を重ねているのも事実。学園長の公認なので、他の魔法関係者からはある意味腫れ物に触る状態なのだろう。不干渉と言う約束がなければ、修行をしている最中に、彼女の家に度々踏み込まれる様な日々になっていたかもしれない。

 

「気分が悪い。私は帰る」

「……え」

「かしこまりました」

 

 突然、不機嫌をそのまま貼り付けた様な顔で立ち上がり、わざとらしく大声で宣言する彼女。不意打ちの言葉に、思わず声が漏れてしまった。そして当然、再び彼女に注目が集まる。

 本当に、何をしているのだろうか。いくら何でもこの行動は彼女らしくない。それとも既に、何か彼女の計画が始まっているのだろうか。

 

 教室の視線を集める中、一度彼を睨みつけてから、何事も無かったかの様な調子で教室を出て行く。けれども教室を出る直前に、彼女の口元が笑みの形に吊りあがっているのが見えた。それから、一瞬だけ私達に向けた意味深な視線も。

 

 ……何かがあると言う事だろう。そうでなければあんな事はしない。

 

「気にしないでネギ君!」

「そうですわ、彼女はいつもあんな調子ですもの」

 

 次々と声をかけて彼を慰めていく様子が見えるが、赴任初日からこれはでは、かなり厳しいと感じただろう。仲良くしてくれる生徒達ばかりだと思っていた所に、世間一般からみて、不良と呼ばれるような態度。

 自分自身を良く思っていないと、あからさまな態度で接してくる彼女を彼はどう思うだろうか。まず、間違いなく心配と不安。そして生真面目な彼の事だ、どうにか解消しようと心の中に留め置くだろう。

 

「ねぇ、フィリィ」

「え、なに?」

「エヴァンジェリンさん、何がしたかったのかな?」

「それは……。分からないけど」

「でもわざとらしかったよね」

「うん。まぁ、ね……」

 

 彼女の狙いはどこにあるのだろう……。さっきの行動は自分に注目を持たせて、彼を惹きつけようとしているのだろうか。けれど、それならばわざわざ不良っぽく見せる必要は無いと思う。

 場合によっては、彼に好感を持つクラスメイトのフォローの方が目立つだろうし、初めから好感を持っている宮崎のどか達の方が、より自然に仲良くなって行くだろう。彼女自身も、ただの少女を偽って近づく手段だって取れない事は無いはずだ。

 

「わーかったぁ!」

「うわ、なによ柿崎」

「間違いないね! あのつれない態度! 彼の気を誘う演技とみた!」

「え……?」

 

 いや、それは。無いと思う。完全にゼロかと言われれば疑問だけれども、さすがにそんな事は。

でも、まさか……。彼女が好きなのは彼の父親のはずなのだし。

 

「でもエヴァンジェリンさんって、気はかけてるよね?」

「……うっ」

「お、もしかしてフィリィちゃん事情通? 何か知ってたりするのかな~?」

 

 出たな、麻帆良のパパラッチめ……。こういう時だけ口も手も早いのだから困る。

 

「ちょっとお待ちなさい! 私もネギ先生が好きですわ!」

「委員長! マジで!?」

「え、えぇぇ! 僕ですか!?」

「当然ですわ! こんなにも礼儀正しく愛らしい少年! 愛が、愛が溢れて!」

「うわ、鼻血がー! 保険委員ー」

 

 いや、ちょっと待って本当に。彼女が何をしたかったのか分からないけど、彼を巡っての恋愛の話は禁句だと思う。

 突然始まったカオス状態に、唖然としている彼に詰め寄って「好きな娘は居る?」、「好きなタイプは?」と、急にクラスメイト達がざわめき立つ。もはや押し寄せる恋愛マニアや恋バナ目的で、収拾がつかない様に見える。

 

「それで? フィリィちゃんの見立ては?」

「……さぁ? 機嫌が悪かっただけじゃないんですか?」

「私はフィリィが好きだよ?」

「……何でアスナが答えるの?」

 

 ちょっと待て。そんな艶っぽい瞳を投げかけられても困る。何でこんな事に?

 

「いや~、アスナのフィリィちゃん大好き振りは周知の事実だから良いんだけど、私はあの無口・無愛想少女が気になるわけでさ~? そこの所の真実はどうなのかなーって」

 

 ……良くない! それじゃ私がそっちの気があるように思われてしまうじゃないか。本当にこのパパラッチはろくな事を言わないから困る。

 とりあえずここは、治める方向で何かを言っておいた方が良いだろう。

 

 けれども、私が口を開く前に押し入って、ハイテンションで彼に飛びつく生徒が居た。

 

「私だって、ネギ先生の事好きだよ! こんなに小さいのに先生になって頑張ってるし、尊敬するお父さんを追いかけてるんだよね! 夢があって素敵でカッコイイ! それに本が好きなのも良いと思う! 私はネギ先生と本屋王になる!」

「な、宮崎さん!? 良いでしょう、私もこの勝負は譲れません。どちらがネギ先生をより好きか、勝負ですわ!」

「はいはーい! ネギくーん、私も立候補するよー!」

「ちょ、ちょっと、皆さん落ち着いてー!?」

 

 宮崎のどか!? いくら何でも好きになるのが早すぎじゃ!? ちょ、ちょっと落ち着こう。何だろうこれは。何でいきなりこんな事に? それはもうA組の暴走パワーが凄いのは分かっているけれど、彼女達がネギ・スプリングフィールドという個人を恋愛感情で取り合いになるのは早すぎるのではないだろうか。

 それともまさか、ただふざけているだけなのか。宮崎のどかと雪広あやかに関しては、ある程度本気なのかもしれないけれど、いくら何でも……。あ、そうか!

 

 考えてみれば今の時点で、神楽坂明日菜という彼の側にいる理解者が居ない。

 

 だからこそ、彼の取り合いが起こるのは必然なのかもしれない。元々彼への好感度が高くなる様な人間のクラス分けなのだし、その事を言い出すのは結局誰であっても同じ。

 そう考えると早くても遅くても、この取り合いは始まっただろう。と言う事はまさか、エヴァンジェリンの行動はそれを促した? わざわざ彼女が? いくら何でも、ありえないと思う。彼に対する悪い印象を与える事で、好きでも嫌いでもない普通の状態のクラスメイトを、プラスの方向になる様に仕向けたというのだろうか。一体なんのメリットがあって……。

 

「じゃぁ、私はフィリィが大好き!」

「アスナッ? じゃぁって何!?」

「フィリィの綺麗な髪が好き! 綺麗な肌も足も好き! とっても心配してくれてる所も、実は沢山々々悩んでても優しい選択をして――ふぐぅ!」

「うぉぉぉ! 生百合発言キタァーー!」

「ハルナ、興奮するのは失礼ですよ。だれでも、その、個人の趣味というのは、あるものですから」

「違います……。アスナはただの友達です。この馬鹿は黙らせますから、ネギ・スプリングフィールド先生をどうぞ。ほら、今なら隙だらけですよ」

「何ですってっ!」

「そ、そんなー!?」

 

 アスナの突然の発言に、慌てて口を塞いで言葉を閉じ込め座らせる。あまりの発言に一瞬呆けてしまったが、いくら何でもこんな悪目立ちはしたくない。それに私はアスナと恋愛する気は更々無い。友達だと思っているのは事実だけれど。

 ちなみに親友と言うには、前世の事やこの世界の事、未来の事など隠し事をしている私にはふさわしくないと思っている。

 

 本当に何のだろうかこの状況は。歓迎会をしていたと思ったら、いつから告白大会に?

 それにしても、ここまで騒ぐのは良くない。教室内がめちゃくちゃになるとまでは行かないが、完全に彼を放置して、好意を持っている生徒だけでの取り合いに発展している。

 

「こらこら、皆ネギ君を放って置いちゃだめだぞ。誰の歓迎会かこれじゃ分からなってしまう」

 

 収拾がつかなくなり始めた教室で、手を叩いて注意を促す高畑先生の姿。そのまま窘める様な口調で、暴れ始めそうになっていた生徒を抑え始める。

 その事に混沌としていた教室内は静まり、ようやく落ち着いた様子を見せた。

 

「申し訳ありません、ネギ先生。せっかくの歓迎会だというのに」

「ごめんねネギくーん」

「すみませんでした……」

「あ、いいえ。僕は嬉しかったですよ」

 

 さすが自称英国紳士だろうか。まずは褒める。その鉄則をこんな時でも発揮する所だけは凄いと思う。普通の女子生徒ならば、自分を見てくれて礼儀正しく、しかも優しい。その上で社会的地位もある優良株。なんて思ってのめり込むのだろうか。

 英国紳士といえば、「礼儀正しい・身嗜みが良い・女性を大切にする」というイメージが先立つと思う。それを忠実に再現する彼は、確かに好印象ではある。スプリングフィールドじゃなければ。

 

 おそらくそう育ったのは、義姉のネカネ・スプリングフィールドや、あちらの魔法先生の賜物なのだと思う。さすがに英雄の息子と名高い魔法の世界の顔を、イメージの悪い少年になる様な教育をしなかったと言う事か。そう考えると、原作の魔法を乱発する一般常識の無い行動が疑問になるのだが、そこは魔法学校の一般常識に毒されたという事だろう。

 

「ほら皆、そろそろ時間も遅くなってきたのだから、お開きにしようか」

「えー、でもまだ十八時前ですよー」

「もう十八時だよ。続きは今度またやるんだろう?」

「そうですわ! ネギ先生、ぜひ教員寮を教えてくださいませ!」

「は、はい。もちろん!」

 

 さすがに高畑先生は手馴れている。もっとも、今度は教員寮で大騒ぎになるのは確定だから、次は別の先生が飛び込んでいくのかもしれない。そう考えると少し、いや、かなり問題がある気がする。

 

 

 

「すまない、ちょっと残ってもらえるかな」

「今からですか? 少しなら構いませんが」

「おや、私もかい?」

「え、マジで?」

 

 教室の後片付けをする中で高畑先生が順に、魔法生徒の桜咲刹那、龍宮真名、春日美空と声をかけていく。その事に思わずピクリと反応してしまった。

 

 すでに、ネギ・スプリングフィールドは職員室に戻っている。ゴミ捨てをしたまま帰った生徒や、都合で帰った生徒もいて、教室内の人数も疎らだ。

 もちろん、心根素直な彼は自分も手伝うと言い出したのだが、それでは誰のための歓迎会なのか分からない。自分達で準備した歓迎会を、自分達で後片付けするのは当たり前の事だと説得されて、素直に職員室に戻って行った。

 

 しかしここでの魔法生徒の引き止めは、少し怪しいと感じる。魔法関係は不干渉を約束している私の前での発言は、やや不自然ではないだろうか。それとも私の考え過ぎなのか。

 まさか、高畑先生は学園長側で、その考えに賛同しているのだろうか。いや、学園側である事は間違いないのだけれども、さすがにあからさまな事はしないと思いたい。

 

 高畑先生に向かって懐疑的な視線を送ると、分かってもらえたのか、軽く首を左右に振って応えてくれた。つまり、私達は除外と考えて良いのだろう。もし、私達にも絶対に伝えたい事があるならば、先程交換した携帯のデータで、電話でもメールでも連絡が出来るだろう。

 

 そう考えると、彼女達を何のために残したのか。おそらくとしか言えないけれど、この場で最も自然な答えは彼の為の先手だろう。もし何かがあった時に、彼を裏からサポートして欲しいという事なのか。あるいは、逆に見て見ぬ振りをしろと言う事なのか。

 まさか、パートナーになってあげて欲しい、なんて事は頼まないと思う。もしもそれだったら、女子の気持ちを軽視している様で、高畑先生を軽蔑してしまいそうだから止めて欲しい……。

 

 けれど、何にしても学園長にとって都合の良い内容だろう。あまり面白い話ではなさそうだ。

 

「アスナ。掃除終わったから帰るよ」

「うん、晩御飯どうするの?」

「……軽食にしようか。お菓子ばっかりだったし」

 

 まぁ私も体型くらいは気になる。……身長が低いのも気になるけれども。そこはこれからの成長にかけたいと思う。普通の人間に比べて寿命も遥かに長いといわれてしまっているし、いくら体調が良くなる体質を持っていたとしても、150cm程度のままで長生きしたくはない。

 

「ね、フィリィ。手、繋いで帰って良い?」

「なんで?」

「わーい。フィリィの手~」

「相変わらず人の話を聴かない……」

 

 まったく。なんでいつもこの馬鹿娘は日本語が通じないのだろう。まぁ、意図してやっているのは分かっているのだけど。

 だからと言って、手を繋ぐと言いながら、腕に抱き付いているのはおかしい。いつから日本語はそんな愉快な変化を起こしたのだろうか。誰か教えて欲しい。

 

「I want to hold your hand.(手を握って良い?)」

「何で英語なの……。しかも腕掴んでるでしょ」

「掴んでないよ、組んでるの」

「……はぁ、分かった。歩き難いから手で」

「やったー、晩御飯は超包子の回鍋肉が良いな~」

「どう考えても軽食じゃないでしょ? おにぎりとかサンドイッチで」

「じゃぁフィリィの手料理……」

「また今度ね」

 

 とにかく、エヴァンジェリンが何を企んでいるのか分からないけれど、きっともう何かが始まっている。もし宮崎のどかがパートナーで、アーティファクトも原作と変らないのならば、ピンチになる事もあるだろう。

 もしもの時でも関わりたくはないけれど……。視認出来る遠距離から、時空魔法で援護も考えておかなくてはいけないだろう。最悪の時はお金を使って、龍宮真名辺りに依頼という方法もありかもしれない。多分、彼女がA組の中で最も現実的に行動できるだろう。


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