しかし回りこまれる   作:綾宮琴葉

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第14話 ある日常の一幕(2)

「ねぇ、フィリィ」

「どうかしたの?」

「せっかくだからさ、水着着ない?」

「…………なんで?」

 

 しかも何がせっかく? 頼むからもうちょっと良く考えて発言して欲しい。今の季節は冬で、どこをどう考えても水着を着てはしゃぐ時期は過ぎ去っていると思う。 

 それにしても、ついにアスナの頭も春満開になってしまったのだろうか。例え春になったところで水着に辿り着くのは意味が分からない。

 

「アスナ、どうしてそんな結論になったのか説明してくれる? 出来れば順序立てて」

「フィリィの、水着が、見たいから!」

「…………とっても分かりやすい答えをありがとう」

 

 突っ込むのはきっと止めた方が良いのだろう。そのまま泥沼にはまってしまう気がする。

 というか、アスナは決して馬鹿ではない。いや、ある意味馬鹿なんだけれど。きっとその結論に至るまでに、アスナなりの高度な計算があるに違いない。

 うん、決して思いつきで言ってみただけで、その実は本当にただ見たいだけとか、いかにもアスナっぽい答えではないはず。

 

「茶々丸さんもフィリィの水着見たいよねー?」

「え、私ですか? ……そうですね。とてもお似合いだと思います」

「何をかんが――。いえ、何でも」

 

 危ない、危うく教室内で怒鳴りそうになった。落ち着いて。冷静に。私は目立っていない。目立っていないと言ったら目立っていない。深呼吸、深呼吸……。一体茶々丸が何を想像して言葉を詰まらせたか分からないけど、それは考えない方が良い様な気がする。

 

 それに、最近はどうも調子が崩れているような気がする。それと言うのも、彼が赴任してきてから緊張ばかりしているせいだ。

 何故だか分からないのだが、近頃の彼は教室に入り浸っている。少し前までは職員室に居たのに、書類作業も何故かここでやっていて、自分の担当教科以外でも居座っているのだから困る。先日の様な変な授業をしてこない分ましなのだが、やっぱり私を気にしているような、妙な視線を感じる。きっと、悩みすぎに違いない。間違いなく、疲れているのだろう。

 

「そうだね……。たまにはそういうのも良いかもね……」

「フィリィが壊れた!?」

「お、落ち着いてください真常さん」

「あぁ、うん。落ち着いてるよ。良いんじゃない、たまにそういうのも。レジャーだって重要」

 

 麻帆良学園だと、基本的に無いものを探す方が難しいくらいだし、温水プールとかもあったはず。図書館島がある湖とか、むしろ整備された砂浜があって海じゃないかとか思うくらいだし。

 たまにそういう所に行くくらい、大した問題は無いだろう。もっとも、それで水難事故とかに巻き込まれたら元も子もないけれど、プールくらいで多分死にはしない。

 

「あ、良いなー! 一緒に行きましょうよ。ね、夕映もそう思わない?」

「プールですか。ですが今は真冬ですよ?」

「違う、違うよ夕映。間違ってるよ! プールじゃなくて水着コンテスト! 審査員長はネギ先生で!」

「何ですってぇ! ネギ先生と水着でデートコンテストの会場はどこですの!?」

「委員長、アンタどっから沸いたのよ! でも水着かー。良いんじゃない? これは次のネタに頂きと言う事で!」

「ハルナ、その妄想力の逞しさをもう少し別な所に使った方が良いですよ」

「それはそれ、これはこれ。ってゆー事で、放課後はプールに集合!」

 

 

 

「いちばーん! 宮崎のどか回りまーす!」

 

 おかしい……。どうしてこうなったのだろうか。私はさっきまで教室にいた気がする。何だかとっても疲れた様な気がしていたのだけれど、決してプールに行くと言った覚えはないのだが……。

 とりあえず、アスナ達に引っ張られてきた私は、『ネギ先生と水着でデート!』と書かれた横断幕の下で、騒ぎはしゃぐクラスメイトの痴態と言ったら失礼だけれど、まぁ、それに近いものを遠巻きに見学している。

 

 繰り広げられている光景は、彼に好感を持つ数名が私物の水着に着替えて一列に並び、端から順にモデル歩きでお披露目。それはもう、ものの見事に水着コンテストをしている。

 とりあえず、宮崎のどかが真っ先に飛び出て、一番だと人差し指を立てながらくるくる回っている。彼女は原作と違って恥ずかしがったりもしていないので、驚く事にビキニだったりする。私だったらあんな恥ずかしい事はとてもじゃないけど出来ない。よく平気で出来るものだと感心する。

 

 もっとも原作と体型は変らないので、フリル付き水着でボリュームを上げて見せているのだが……。あの鋭い目つきを見ると、獲物を狙うタカの目に見える。

 うん、これはきっと夢。きっとそうに違いない。目を逸らしてそういう事にする。

 

「おほほほほ! 宮崎さん、その程度のボディでネギ先生を落とそうとは片腹痛いですわ!」

「委員長!?」

「どうです、ネギ先生。この大人の魅力溢れんばかりの水着は!」

「は、はいっ、皆さんとってもお綺麗で似合っていると思います!」

 

 まぁ彼女みたいにスタイルが良ければ、ホルターネックで胸元を強調したビキニも似合うだろう。それに成長が早く、本人の性格もあって小学生の時から目立った存在だった。何気にある種の幼馴染なのかもしれないが、極力A組を避けていたので、彼女と深い仲になっているわけでもない。

 そういえばアスナとの親友フラグも折ってしまっていたのだが、流石にそこまで責任は持てない。彼女には彼女の人生があるのだし、もし彼と本気で人生を歩むのなら、それはそれで良いのかもしれない。もっともその時は、高畑先生に間をお願いして、魔法の世界の危険性を知らせるフォローくらいはするべきだと思う。

 

 それにしても全体のメンバーを見ると、高身長でグラビアかモデルなのかと思える体型が多い。誰が言ったか覚えていないがA組のメンバーを見て、彼をたぶらかす悪女の集団みたいに言っていたと思う。あれは誰の言葉だった事だろうか……。

 まぁ、思い出せないのなら、多分重要な事ではないのだろう。彼の取り合いで死亡フラグなんて立てたくないし、あの集団の中に突撃する気はまったく無い。

 

「ちっ……」

「エヴァンジェリンさん、もしかして羨ましいの?」

「はっ。私がか? あんな脂肪がうらやましいものか」

「えっ、それって……」

「ナンダ?」

「いいえ! なんでもありません!」

 

 あ、危なかった。今の彼女のセリフは、彼女達を意識しているのが丸分かりなのだが、これ以上言うのは止めておこう。危うく口を滑らせて死ぬ所だった。眼光が怖すぎる。悪寒が止まらない。

 普段の修行中の、鬼気迫るものとは種類の違う鬼を見た……。あれに逆らってはいけない。

 

 そういえば、彼女は原作で大人の姿に変身していたんだった。やたらと胸を強調して、大人っぽい美人の姿でドレスを着ていたけれども、コンプレックスがあるという事だろう。六百年の昔からずっと子供のままの姿なのだから、今日みたいに嫉妬する事もあったのだろう。

 

 ……あれ? そう考えると、なんで彼女はここに出て来たのだろうか。わざわざ見たくないものを見に来る必要は無いし、私もいつの間にか引っ張られて来たからここに居るのであって、自分で見たくて来たわけではない。

 周りに誰かが居るわけでもないし、それくらい聴いてみても良いかもしれない。

 

「あの、エヴァンジェリンさん」

「なんだ?」

「まさか、先生とのコンテスト、出たかったんですか?」

「何で私が? お前が出れば良いではないか」

「出るわけ無いじゃないですか」

「私は出て欲しかったなー」

「……出ないからね?」

 

 まったく。ただ単に、本当にただ単に水着を見たいだけならば、エヴァンジェリンの別荘にもプールはあるのだし、砂浜もあるのだからそこで泳げば良いと思う。

 もっとも女性用水着は比較的値段が高いから、私物なんて無いし買おうとも思わない。学園から支援金を貰っていても、いつ必要になるのか分からないから、そのお金は極力貯めるようにしている。だから私は学校指定のスクール水着しか持っていない。

 

「私にはまだ希望がある! これからどんどん背も伸びるし、胸だって大きくなるの! もう垂れてる委員長とは違うんだから!」

「な、なんですってー! 言って良い事と悪い事がありますわよ!」

 

 あぁ、それは不味い。確かにA組のメンバーは色々な意味で中学生っぽくない人が多い。けど、いくら彼を巡る事でヒートアップしたとしても、その手の言葉は本当に不味い。

 原作では割と貶されていた様な気がするけれど、だからと言って現実に言って良い事と悪い事がある。もう既に、彼女達の後ろで那波千鶴が修羅になり始めてる。彼女の前で老けているなんて絶対に言ってはいけない。言うなら、大人っぽいに抑えて言うべきだ。

 

 このままだと彼女によって制裁を受けるだろうし、ここはヒートアップする前に止めた方が……。あっ、けれども止めたら止めたで、彼女に親密に思われてしまうのだろうか? 不味い、身動きが取れない。

 あれ? というか今、何で関わろうとしたのだろう? このまま傍観に徹すれば良いのに。

 

「ねぇ、フィリィ? 本当に水着持って来てないの?」

「……腕引っ張って連れてきて、言う事がそれ?」

「え、だって、レジャーも良いよねって言うから。水着取りに帰ったと思ったのに」

「アスナだって制服じゃない」

「私はフィリィの見たかっただけだもん」

「いや、もんって言われても……。そんな事より、あっちがヤバそう」

 

 既に彼女達の他にも、水着コンテストに出ていたクラスメイトが彼を囲んではやし立てている。このままだとどんどんエスカレートしていくだけかもしれない。

 それに、彼があの状況で揉みくちゃにされているのも良くない。主に、教育的な意味で。

 

 そう言えば原作でも、散々女子の塊の中に放り込まれていた気がするのだが、よく真っ当な少年のまま道を間違えなかったものだと思う。それだけ英国紳士的な性格なのだと思うけれど。もし、中の人がちょっと違ったり、女子に興味が出てくる年頃だったらと思うとゾッとする。

 

「み、皆さん落ち着いて~」

「ほらほら、ネギ先生~」

「ネギ先生こちらですわ!」

「ネギくーん」

「あの、僕――は、はくしょーん!」

「「「キャーー!」」」

「わぁぁ、ごめんなさーい!」

「委員長がいきなり脱いだー!」

「違います! 突然破れたのですわ!」

「すごーい夕映! 私こんなマジック見た事ないよ!」

 

 あれは『風花 武装解除』……。やっぱりくしゃみでの暴発癖は残っていたと言う事か。とにかくこのまま放置は良くない。

 魔法の事や、目立つ目立たない以前に、さすがにフォローしないと人として不味い。

 

「とりあえず上着かけないと。後はバスタオル。その辺にあるもの何でも良いから持ってきて」

「分かった! エヴァンジェリンさんも……」

「何で私があの小娘どもの面倒を見てやらないといけないんだ」

「じゃぁ、茶々ま――あれ、居ない?」

「葉加瀬さんがどこか連れて行ったよ」

「それじゃ、有るだけで良いからバスタオル持ってきて。委員長! この上着使ってください。後、他の人もバスタオルを!」

「あ、ありがとうございます。ほら、皆さんも落ち着いて!」

「でもこんな事ってあるの? 何で皆、いきなり破れたのかな?」

 

 不味い……。どう考えても理性的な理由が思いつかない。水着は『風花 武装解除』の効果で、花びらが散る様に吹き飛ばされて、半分以上破けている。マジックと言ってもこれだけのメンバーの水着に仕込まれていたって考えるのは無理がある。しかも殆どのメンバーが私物。言い訳がきかない。

 そうなればさっきまで集団の中に居て、無事だった彼はどうしても注目されてしまうだろう。男性とは言え子供だから容赦はされると思うが、色々な意味で不味い。最悪、クラス中に魔法が認知される。

 

 けれども危機感の中で突然、室内に突風が吹いてクラスメイト達の間を凪いで行った。

 

「皆、さっきのはあれだ。竜巻現象と言う奴だ」

「あら、龍宮さん?」

「えー、じゃぁ、皆が集まると竜巻が起きるんだね!」

「すごーい! 竜巻初体験だよ!」

「は、はい。竜巻です! 凄かったですよねー。あははは」

「ネギ君。それは良いんだけど、君は目を隠すか何かするべきじゃないかい?」

「きゃー♪ ネギくん見ちゃいやーん」

「え、うわわわ、見てませんよー!」

 

 信じた!? いくら竜巻と言っても、室内温水プールで起きたって言うのには無理がある。もしかしたら、彼女が認識阻害の魔法か何かを使ったと言う事だろうか。そうじゃなければ、学園に張られたものが影響したのかもしれない。いずれにしても、助かった事は間違いない。

 

 それにしても随分と機転が利く。まるでこうなる事が分かっていた様な? もしかして、あらかじめ対処をする様に依頼を受けていたという事だろうか。

 もしここで魔法を龍宮真名が使っていたとしたら、多分としか言えないが、彼は魔力を感じ取ったかもしれない。何も無かったと言う事は、彼が慌てて気付けなかったか、他の誰かが使ったという事だろう。という事はどの道、彼は監視されているという事になる……。

 

 はぁ、スプリングフィールドとは言っても、それはそれで難儀なものかもしれない。もっとも、原作でも超鈴音や桜咲刹那など関係者からずっと睨まれていたのだし、今ここで監視者が増えた所で同じかもしれない。

 とにかく、着替える生徒を更衣室に送り届けて、後は関係者に任せておけば良いだろう。

 

 

 

「皆さんお待たせ! 出ておいで茶々丸!」

「おぉ! 真打登場か!」

「どんな水着なんだろうねー」

「あれじゃない? ハカセの事だから、ダイビングスーツとか?」

 

 というか、茶々丸に水着って良いのだろうか? 今の茶々丸は思いっきり人形というか、ロボット丸分かりの外見なので、魔法関係者と言うか、人間じゃないのをバラす事になるのでは?

 

「良いんですか? バレても」

「その時はその時だ。どうにでもなる。第一、お前こそ気を抜き過ぎではないか? さっきのはバレないレベルでの極小魔力行使で、障壁を遠隔で展開してやれば済んだ事だ。追加の修行でもしてもらおうか?」

「う……。すみませんでした」

 

 確かにそれは一理ある。けれども、制御も魔法の発現場所の指定も、極限まで抑えてやれとはまた無茶な事を言う。時空魔法ミュートならまだ少し制御が効くけれど、魔力や作用が大きくて周囲にバラさずに使うのは難しい。

 使い方や、魔法の密度の訓練はしてきたけれども、西洋魔法系の制御がまだまだ甘いのは事実。やぶ蛇だったかもしれない……。

 

「あ、フィリィ。茶々丸さん出てき……た?」

「え……。アレ?」

「……無様だな。もう少し様式美の重要性と言うものを学ばせるか」

 

 私達の前に姿を現した茶々丸……だと思われるそれは、とりあえず丸かった。

 頭も丸ければ、胴体も丸い。全体的にネイビーカラーのフォルムに包まれて、顔の正面だけが円形に切り取られた窓ガラスで確認できる。

 そう、つまりは潜水服。どこからどう見ても、水着ではない何かだ。

 

『あ、あの。ハカセ、これは……』

「良くぞ聞いてくれたね! これは深海五千メートルまで潜っても堪えられる仕様の潜水服だよ! 水着を着たいって言われた時はどうしようかと思ったけど、これでばっちり! 明日からは素潜りで魚が取れ――あぁ、しまったぁぁぁ! これじゃ、光学兵器が使えない! アームパンチも使えないし、そもそも使ったら水圧に耐えられない!? くぅ、だがまだまだ。私の科学に敗北の文字はない! 待っててね茶々丸! 私がもっと完璧な潜水服を――」

「根本的に……間違ってる」

「うん、あれじゃ可愛くないよね。オシャレじゃないし」

 

 少し、頭が痛いかもしれない。葉加瀬聡美の科学の実績以外への興味の無さは分かっていたけれど、これはいくら何でも無い。私でも思うくらいだから、周りの反応はもっと悪いだろう。

 

「ねぇハカセ。絡繰さんももっとオシャレしたいんじゃないの?」

「オシャレ? 茶々丸、そうなの?」

『あの、でも、私にそう言うのは……』

「絡繰さんだって、女の子だもん、オシャレしたいよねー」

「そうそう、ネギ君も絡繰さんのカワイイ水着みたいよねー」

「え? はい、そうですね。可愛らしくて良いと思いますよ」

『え、えぇと……』

 

 待て……。何でこっちを見る。私に期待されても困る。どうせ見るなら、エヴァンジェリンに意見を求めたら良いと思うのだが、これは……。私が何か言わないと駄目な空気だろうか。

 

「真常さんはどう思いますか? やっぱりここは、基礎ボディの耐水性を上げてマリーン仕様が良いと思いませんか?」

「うむ、それはありかもしれない。海上防衛装備と言うのも、準備をするのに越した事は無いだろう」

「おぉー、龍宮さんもそう思いますか! それなら茶々丸。早速改修してみようか?」

『え、あの。私は……』

 

 ……はぁ、しょうがない。そんな悲しそうな目で見られて、さすがに無視は出来ない。ここで私が怒鳴りつけると目立つだけだし、葉加瀬聡美にこっそり耳打ちするのが良いだろう。

 

「葉加瀬さん」

「はい? なんでしょう」

「(茶々丸さんに、普通の女性用水着を着せて普通の女の子に見える様に出来ないのは、科学の敗北じゃないんですか? それとも葉加瀬さんの科学力は、それを認めるんですか?)」

「そ、それはっ!」

 

 こんな所でどうだろうか。まるで雷に打たれた様なショックを受けている彼女だが、超鈴音との科学の結晶である茶々丸は、彼女達のプライドを刺激するのに大きな要素を持っていると思う。

 決して馬鹿になどはしていないが、原作でも後期で水中稼動が可能になっていたのだから、今の兵器拡大やちょっとした改修をする路線よりは、もっとバレない様な見た目を作る事が優先だと思う。出来ればそのまま私達を巻き込まないように、一人の女子生徒の振りをして欲しい。

 

「や、やりましょう! やってみませますよ! いくよ茶々丸。どこに出しても恥ずかしくない立派なレディにしてあげるからね!」

『は、はい』

「がんばってください。僕、応援してますよ!」

「またねー、可愛くなって帰って来るんだよー!」

「む、むむむ、もしかして新たなライバル登場!?」

 

 まぁそんなわけで、コンテスト? らしいものはうやむやの内に終了した。これ以上彼を取り合うのは他所でやって欲しい。

 もっとも、私が呆れ果てた目を送っていた時に、彼女の意味深な視線に気付いていれば、あんな事には……。

 

 

 

 

 

 

「リク・ラク ラ・ラック ライラック 誓約の一本の黒い糸よ 彼の者に一日間の制約を」

「……え? あの、えっ?」

「おはよう……フィリィ。私も、捕まっちゃった」

 

 い、今のは魔力封印の魔法? 何故、どうして? いや、それ以前に捕まった!?

 一体何が起きているのだろうか。目の前にいるのはエヴァンジェリン。何か分からないけれど、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。そしてアスナを羽交い絞めに捕まえた茶々丸。

 

 「私も」と言ったという事は、アスナも魔力を封印された? おそらく気も封印されているだろう。何を思って彼女が行動に出たのか分からないが、何故今さら私達を捕まえるのだろうか。血が必要なら保存しているものを使えば良いだろうし、理由を無理やりつけて吸う事だって出来るだろう。

 

「どうだ? あっさり捕まった気分は」

「……感知結界は張ってあったと思うんですけど」

「教えた本人に効くと思うか?」

「……いいえ」

「ならば、大人しくこの薬を飲め!」

「んぐっ!?」

 

 何これ? 何か煙が。視界が真っ白に!? 一体何の薬を――。

 

「フィリィがちっちゃい……」

「えっ? な、何で?」

「私はこっちの赤い薬だ」

 

 小さな手? それも小学生の時みたいな……。まさか、子供にされた!? 目の前に居るエヴァンジェリンは大人の姿になっているし、年齢を魔法で操作されたとしか思えない。けれど、どうしていきなりこんな事を?

 

「あの……まさか、この間の水着の事……」

「さぁ、何の事だろうな? お前達には今日一日その姿で過ごしてもらおうか。もちろん、子供服と水着は沢山用意したぞ? フフフッ」

「……泣いて良いですか?」

「思う存分泣くが良い。この私が、大人らしく子供を受け止めてやろう」

「ママって呼びま――痛っ!?」

「それはやめろ」

「あの、真常さん。出来れば私の事を……」

「茶々丸!? お前何があった」

「良いなー! フィリィ、私の事おねーちゃんって、――むぐぅ!?」

「お前も子供になれ!」

 

 何なのだろうか、この状況は。そう言えば、年齢操作の幻術キャンディが原作にあったかもしれない。まさかこんな所で使われるなんて……。魔力を封印された私じゃ解除ワードは詠唱出来ないし、ミュートで魔法無効化も出来ない。

 それにしても、この間の事をこんなに念に持っていただなんて……。どこが気に障ったのか分からないけれど、多分、雪広あやかの胸。酷いとばっちりだけれど、まぁ、楽しそうだから良いか……。

 

 いや、良くない! 何で突然日和っているのだろう。この姿のまま部屋から連れ出されたら目立つだけだし、異常を感じて誰かが来たらどう説明するのか。

 

「あの、さすがにこのまま外に出るのは……」

「安心しろ、茶々丸にダイオラマ球を持ってこさせている。さぁいくぞ! 子供の立場を分からせてやる!」

「は、はぁ……」

 

 何て準備の良い。そこまでして大人だと主張したかったのだろうか。原作の彼女は基本的に真面目というか老獪なところがあるが、悪乗りしたらずいぶんと暴走していた様な気もする。

 まぁ、ダイオラマ球で時間も何とかなるみたいだし、今日は遅刻と諦めておこう。最悪欠席かもしれないから高畑先生にメールを入れて、後は彼女の気の済むようにしておこう……。出来れば、ランドセルと胸ワッペンとかやめてください。本当に……。




 この日常の二話は、閑話や幕間扱いにしようか悩んだのですが、ネギの行動やオフィーリアの原作キャラへの干渉などに意味があるので、そのまま番号を振りました。
 次回の更新からはストーリーを進めて行きます。

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