しかし回りこまれる   作:綾宮琴葉

7 / 18
第7話 未知数

「うふふ。あたか~い」

「アスナ、とりあえず落ち着こう?」

 

 単刀直入に言う。背中のアスナが怖い。もとい、うざったいのだが弾き飛ばすわけにもいかず、乗っかって居るだけなので、とりあえずそのままにしてある。 とはいえ誰の目にも異常に見えるはずなのだが、認識阻害の結界のおかげなのか、A組という特殊環境のせいなのか、もう何も言われなくなってしまった。

 それとも考えすぎだろうか。これくらい割と普通のような気もする。ただし、アスナがべったりじゃなかったらの話。誰かアスナを再教育して欲しい所だが、もはや希望的観測なのだろう。

 

「アスナ~。ちょっとここ教えて欲しいんやけど、ええー?」

「あと五分フィリィしてから」

「なにそれ……」

「じゃぁ、そのフィリィちゃんが教えてくれへん?」

「まぁ良いけど……」

 

 背中のアスナは気になるものの、とりあえず近衛木乃香に勉強を教える訳だが……。どうしてこうなってしまったのか。あれから一年と九ケ月が経って、今は1月。何とか目立たないようにやってきた。やってきたつもりだった。

 

 けれども、あのA組の中で全く目立たずにいる事は不可能なのだと思い知らされた。

 

 それこそ、我関せずとばかりに常に外を向く長谷川千雨や、ザジ・レイニーデイみたいに無口で周りと会話が無いのならば違ったかもしれない。

 あるいは、適当にサボって出て来ないエヴァンジェリンと従者の茶々丸みたいに、傍若無人だったならばクラス内で目立つ事も無いのだろう。

 

「ねぇねぇ、真常さんっていつも難しい本読んでますよね!」

「……そうですね」

「私、本が好きな人に悪い人は居ないって思うんです!」

「のどか邪魔しちゃ駄目です。それに彼女が読んでいるのは赤本や参考書の類ですよ」

「本に変わりは無いと思う!」

 

 なぜだ! どうしてこうもネギ・スプリングフィールド関係者になる人物が私の周りに寄ってくるのか。宮崎のどかの性格が大きく違うせいか、邪険にしても何かと寄ってくる事が多い。

 私はアスナの面倒と、エヴァンジェリンの別荘での修行で手いっぱいだと言うのに。

 

 それにアスナも目立つ。彼女は小学校の時から常に学年トップ。そのせいで、超鈴音や葉加瀬聡美と共にクラスで勉強を教えて欲しいという声が耐えない。そしてアスナはいつも私の横にいる。

 ここまでくればどう考えても関わらないというのは出来ないわけで……。だからと言ってアスナに勉強を教えるなと、むりやり拒否させるのも心苦しいので余計な悩みばかりが増えていく。

 

「のどか、そろそろ図書館島へ行きますよ」

「うん! 真常さんまたお話してね!」

「……えぇ。機会があれば」

 

 やっと行ってくれた……。なぜかいつもテンションが高い宮崎のどかも不安の種の一人だ。今のところ、他に様子が違う人物が居ない事が救いでもある。

 あえて気になるキーパーソンを言えば超鈴音だろうか。彼女は未来人なので、火星出身と言えど私の事を知っている可能性がある。私の寿命は軽く数百年と聞いているし、正直想像も付かない所だが、彼女が知って居てもおかしくはないだろう。何の接触もしてこない所が安心でもあり不安でもある。

 

「……これで解る?」

「うん、ええよー。ありがとなー」

「どういたしまして!」

「アスナは何もしてないでしょ」

「あはは。また教えてなー」

 

 まるで自分の手柄の様に輝く笑顔のアスナに対し、柔らかく微笑えんで近衛木乃香が去っていく。

 原作だったならどうだったのだろうか。明らかに彼女達の立場は逆だろうし、近衛木乃香とはただのクラスメイトでしかないので、万が一他にこの世界に知る同郷が居たら、すぐに変だと言われてしまうだろう。まぁそれは三十二人目である私も同じなのだが。

 

 今日までの経験で、ある程度巻き込まれるのは想定しないとやっていけないと実感している。

 だからと言ってネギ・スプリングフィールドと深い関係を結ぶつもりはないし、万が一セクハラ小動物に仮契約などされそうになったら、最悪はこちらの手札がバレてでも阻止するつもりでいる。

 

「アスナ、放課後だから”向こう”行くよ。降りて」

「あと十分~」

 

 その言葉を聞いて投げ飛ばしたのは言うまでもない。

 

 もちろん、華麗に宙返りしてふわりと降り立つアスナに、教室が沸いたのはもっと言うまでもない。なんでこう、目立ちたくないのに目立ってしまうのか……。

 

 

 

 前方から嬉々として迫ってくるチャチャゼロのナイフを見据えて、背に隠し持っている短いロッドをブレザーから引き抜く。素早くそれに魔力を纏わせると、正面に構えてナイフを受け止める。

 すると直ぐ横から茶々丸が突撃してくるが、長めの警棒を持ったアスナが拳を受け止め、一瞬の膠着の後にそれぞれが距離を取る。

 

「――氷神の戦鎚!」

「くっ、スロウ!」

 

 突然に空中に現れた、直径数mの氷球の落下速度を減速させる。

 それを見たアスナは飛び上がり、警棒に王家の魔力を、魔法無効化を付与して何度か叩きつける。すると氷球はあっさりと砕けて消え去るが、その隙に茶々丸から体当たりをされてアスナは闘技場に叩きつけられる。

 かという私も、時空魔法を使ったすぐ側からチャチャゼロに襲い掛かられ、ナイフの連撃を捌いている為にアスナの援護には向かえない。

 

「リク・ラク ラ・ラック ライラック 来れ氷精 爆ぜよ風精 弾けよ凍れる息吹 氷爆!」

 

 呪文詠唱を聞きとると、一瞬でチャチャゼロが離れる。私は慌てて倒れているアスナの側に瞬動術で駆け寄り、私が居る場所を中心点にミュートを唱えて、魔法無効化空間を作り出す。

 すぐにアスナも起き上がるだろうが、彼女の魔法無効化フィールドは奥の手。日ごろからそれに頼るとアスナの素性がばれるので多様はしない。

 

「物理攻撃ならば意味が無い」

「――うっ!?」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、声と逆方向から来る茶々丸のロケットアームが左肩に当たり、そのまま突き飛ばされてミュートの空間から弾き出される。

 不味い。と思った瞬間には、空間外で氷爆の冷気にさらされ、とっさに魔法障壁を張り氷漬けにされるのは防いだが、身体に氷が纏わり付いていた。

 

「それくらい魔法障壁で防ぎきれ。一戦で魔力が空になっては話しにならん」

「魔法障壁ごと氷漬けになりますよ!」

「ならば魔法を効率化して障壁の錬度も上げろ。お前も直接氷球を叩くのではなく、武器を投げるなり逸らすなり頭を使え」

「はい!」

 

 エヴァンジェリンの別荘で訓練をする様になってから、改めて分かった事がある。

 彼女は原作で見せた厳しさはもちろんの事、ネギ・スプリングフィールドに見せた優しさも持ち合わせている。訓練の内容はとても厳しいが、文句を言いながらもきちんと面倒を見てくれたのだ。

 

 そうは言いつつも、最初なんて素人の私は何度も怪我をした。その度にアスナが怒って大変だったが、私自身の為だとアスナを説得して落ち着かせ、彼女も現実の厳しさをわざわざ教えてくれているのだから、礼を言う事はあっても怒るのは筋違いだと言い聞かせた事で納得してもらった。

 

「さて、少し貰うとするか」

「またですか。――っ!」

 

 右腕にちくりと痛みが走ってから、彼女の口元から水音が聞こえる。もういい加減慣れてしまったと言えばそれまでなのだが、彼女は訓練が終わるとたまに私の血を飲んで魔力を補給している。

 彼女との決め事通り、月の頭に茶々丸が献血程度に採血をしているのだから、それを飲めば良いと思う。しかしそれは保管用で研究や魔法薬に加工しているとか。後々どんな危険なものになって返ってくるのか想像したくない代物だ。

 

「どうぞ、アスナさん」

「茶々丸さんありがとう!」

「真常さんには通常のものをお持ちしました」

「ありがとうございます」

 

 凄く良い笑顔でアスナが受け取ったそれは、ほんのり赤い色をしたスポーツ飲料。それを私の左側に座り込んで、確かめる様に少しずつ飲んでいる。ここまで来たら言うまでも無いだろうが、その赤いのは私の血を数滴使った回復薬だったりする。

 

 アスナが怪我をした時に私の血で回復させると言った事に間違いはない。しかし、そんな事に関係なくエヴァンジェリンが私の血を飲んでいる時は、アスナはいつもそれを飲んでいる。とりあえず私の中でアスナの変態度数が右肩上がりなのは仕方が無いと思って欲しい。

 

「――ぅんっ」

「マスター。あまり飲み過ぎると、以前の様に真常さんが倒れてしまいます」

「む……。まぁ頃合か」

 

 心配そうな声をかけてくる茶々丸は、私と出会った時に大量に血を吸った事と、ショックを与えた事を気にかけ過ぎている様で、エヴァンジェリンが血を吸っている時は注意を促す事が多い。

 私としては、彼女もいずれネギ・スプリングフィールドの従者になるのだから、あまり良好過ぎる関係は築きたくない。エヴァンジェリンともギブアンドテイクだと思っているのだが、彼女の意図はまったく分からないので礼儀を欠かさない程度にしている。

 

 すると回復薬を飲み終えたアスナが、突然こちらに向かって清楚な顔つきで笑いかけてくる。何か嫌な予感がして構えるが、思ったほど変な事ではなかった。

 

「ねぇフィリィ。初詣行かない?」

「え、もう一月半ばだけど」

「じゃぁ週末行こうね」

「話し聞いてる!?」

「……マスター。出番です」

「何がだ。私は行かんぞ」

 

 どうして急に初詣に? ほぼ見た目外国人の私が言うのもなんだが、流石に時期外れ過ぎるのではないだろうか。

 このあたりで神社といえば龍宮神社だろう。あそこには龍宮真名が居るはずなので、あまり近寄りたくはない。とは言え彼女も魔法生徒で傭兵だから、依頼が無ければ下手に踏み込んでこないだろう。

 

 そう、神社と言えば、何故エヴァンジェリンは西洋式の城や塔のダイオラマ球しか持って居ないのだろうか。原作の修学旅行では京都を堪能する描写があった事から、かなりの日本贔屓なのだと思う。

 それなのに日本に来てからその建造物の一つも所持していないのは少し不思議に感じる。だからと言ってそれを口に出して、好感度をあげるつもりは更々無いのだが……。

 

 

 

 

 

 

そして週末。目覚めてから奇妙な違和感を覚え、恐る恐る周囲を見渡すと――。そこには六つの目。ルームメイトのアスナがいるのは分かる。だがしかし、なぜエヴァンジェリンと茶々丸が居るのだろうか。

 

 じっと見つめてくるその眼の沈黙に耐え切れず、思わず声をかける。

 

「……何、してるんですか」

「私が茶々丸さんに頼んだの。だから、この晴れ着着て?」

「私からもお願いします」

 

 とりあえず二人の言葉を無視して、無言でエヴァンジェリンの顔を見る。すると呆れる様な顔をして、めんどくさそうな口調で答えてくれた。

 

「……茶々丸にせがまれたからだ。勝手に着て勝手に行ってこい」

「まさか、作ったんですか?」

「もののついでだ」

 

 驚いてその顔を覗き込むが、照れた様子も無くごく普通の顔。彼女の好感度を上げたつもりは一切無いので、本当にただのついでなのだろう。いや、ただのついでと思いたい。

 あ、ちょっと待ってほしい。もしかして、茶々丸の好感度が上がっているではないだろうか? 何故、一体どこで!?

 

「一番、悩める真常さんをお連れします」

「え?」

「二番、戸惑うフィリィを脱がせまーす」

「ちょっ!?」

 

 まずいと思った時には既に時遅く、茶々丸にベッドから連れ出されたまま、アスナの手がパジャマのボタンを外していく。このままにされる訳にはいかないので、アスナの動きを阻害するために減速の魔法を唱える。

 

「スロ――ふぐ!?」

「失礼します」

 

 減速の魔法を唱えようとした瞬間、茶々丸の手に口をふさがれ詠唱が止まる。気が付けばいつの間にか脱がされていた。

 

 

 

「自分で……自分で着るのに」

「フィリィ着付けできるの?」

「……出来ないけど」

「大変お似合いです」

 

 とりあえず今の状態を説明すると、エヴァンジェリンと茶々丸に着付けをされて、まるで外国人観光客の集団の様になっている。

 アスナは髪の色に揃えたのか赤い着物。私は白みがかった金髪に合わされたのか桜色。茶々丸は薄い赤となんだか赤系ばかりだが製作者の趣味だろうか?

 

「フィリがかわいい」

「アスナ、歩き難いから……」

 

 和服というものはどうしても足元の動きが制限される。学園内だから良いものの、外に出た時こんな格好では行動し難いだろう。それ以前にアスナがピッタリとくっついて居るので、それ以上に動き難かったりする。

 

「はぁ。とりあえず参拝したら帰るよ?」

「おみくじ引きたいなー。フィリィも引かない?」

「帰る前に写真を撮りましょう」

 

 写真を撮る? 確か、茶々丸の目にはカメラが搭載されていたはず。それならばわざわざ写真を撮る必要が無いと思うのだが……。あれ? なにか引っかかる様な。

 

「あぁぁっ!」

「フィリィ!? どうしたの!」

 

 もしかして初めて会った時、エヴァンジェリンに血を吸われた時の様子や、さっきの様子とか全部録画されているのでは!?

 それを見て好感度が上がった!? それじゃまるでアスナの様ではないか。

 

 突然に閃いた認めたくない現実に、ギギギと音がなる様な動きで茶々丸に視線を向ける。

 

「どうしました、真常さん」

「入学式の後や、これまでの事。さっきの様子……録画してる?」

「…………イイエ」

「茶々丸さん。私にも見せてね」

「一緒に見ましょう」

「……消しなさい!」

 

 あぁもう、一体何がどうなってこんな事に! アスナだけでもいっぱいいっぱいなのに、なぜ茶々丸のフラグが立っているのだろうか。

 さすがにエヴァンジェリンのフラグは立っていないだろうから、これ以上変な事になるのはもうやめて欲しい。

 

「フィリィ、おみくじだよ! 引きに行こう?」

「さぁ真常さん、おみくじです」

「……話題逸らしたでしょ?」

 

 ジト目で見つめるとあからさまに目線を逸らし、誤魔化しの微笑みを浮かべる二人。何だか変なところまで似てきた気がする。

 睨んでいても仕方が無いので、そのままおみくじが売られている場所まで移動。途中でもう一度消しておいて欲しいと念を押すが、きっと消さないのだろうと確信めいたものを感じた。

 

「やった、大吉! 待ち人来るだって」

「私は小吉です。回り回って福になるそうです」

「フィリィも早く!」

「分かったから引っ張らないで」

 

 おみくじかぁ……。前世で魔法は無かったし、神仏や精霊なども縁は無かったけれど、この世界では違う。神様の様な人は実在しているし、精霊もちゃんといる。そういう意味では、おみくじを引くのには大きな意味もあるのかもしれない。

 

 促されるまま備え付けのくじを引き、店番をしている巫女さんに番号を告げる。そこには。

 

「え、これって……」

「なんだったの?」

「大凶。必ず時満ちる」

「だ、大丈夫! 良い事あるから」

「真常さん。私のおみくじを差し上げます」

「ありがとう。でも、大丈夫だから」

 

 アスナと茶々丸が一生懸命励ましてくれるのは嬉しいのだが、私にとっては大凶の結果よりも後の文の方が気になる。

 『時満ちる』と言うのは普通の人なら何も感じないだろうが、私には時空魔法がある。その分、余計に気になってしまうのだが思い過ごしだろうか。

 

「フィリィ、帰りに甘いもの食べて行こう?」

「え、なんで?」

「行きましょう」

「ちょっと!?」

 

 突然二人に両腕を引っ張られたまま歩き出す。気に掛けてくれているのだろうが、なにぶん和服なので非常に歩き難い。転ぶからゆっくり歩いて欲しいと声をかけると速度を合わせてくれたが、フラグが立ち過ぎて、嫌な予感ばかりがする。

 

 とりあえず、食べるもの食べたら今日は寮から出ないで過ごす事にする。

 

 

 

「あんみつ美味しいね」

「おいしいけど……。浮いてるんだけど」

「かわいいので問題ありません」

「……あると思うよ?」

 

 麻帆良学園都市は基本的に何でもある。ここだけで生活が全て整える事ができて、外部に出れば娯楽施設などにも事欠かない。

 

 要するに、学園の敷地内にはオープンな店舗も沢山あると言う事になる。そんな中でも通りに面したテラスのテーブル席で、橙に近い赤、白っぽい金、淡い緑と特殊な髪色で、和服の集団がいれば嫌でも目に付くわけで……。

 もしかしたら認識阻害の結界があるおかげで、特殊と思っているのは私だけかもしれない。いや、私だけだと思っておこう。

 

「はぁ……。目立ちたくないのに」

「フィリィは何もしなくても目立つよ?」

「同感です」

 

 じゃぁ何で連れて来たと言いたい所だが、あんみつが美味しいので素早く食べて帰る事にする。こんな時に現金なものだが、甘いものは人類が見つけた文化の極みの一つだと思う。

 

「あの~、すみません」

「え?」

 

 突然に声を掛けられる。一体誰かと思えば、まさかの宮崎のどかと綾瀬夕映。

 

 いい加減にして欲しい、今日はもうこれ以上フラグも何も要らない。私はさっさと帰って寮に閉じこもりたいので、ここで長話とかやめて欲しいのだ。

 

「やっぱり! 二人一緒に居るとすっごく目立ちますよね! それに着物なんて着ちゃって日本交流会ですか? わぁー、良いな~。とっても綺麗だしとっても似合ってると思います! あ、写真とって良いですか? 一緒に写りましょう!」

「のどか、引かれてますよ」

 

 原作の彼女ではありえない行動で、そんな淡い希望はいとも簡単に崩される。

 

 それにしても、この人は本当に宮崎のどかなのだろか? 生まれてくる人間を間違っているのではないだろうか。きっと中の魂が違ったり特殊な環境だったり、何かあったに違いないと勝手な推測ばかりが頭をよぎる。

 

 違うとは思うのだが、まさか知らないだけで魔法生徒だったりしないだろうか? 私が今まで関わって来てしまった行動のせいで、彼女が変わったなんて思いたくないのだが……。

 

 嫌な予感を拭う為、二人が魔力を隠していたりしないか入念に感じ取ろうと精神を集中する。二人に不思議な顔をされながらも、一拍の間を置いてから何も無いと感じ取れたことに安堵する。私自身も魔法使いとして成長はしているので、基礎的な事は出来たりする。

 

「Excuse me. May I ask you something?(すみません、ちょっと宜しいですか?)」

 

 突然にネイティブな英語で問い掛けられる。私は宮崎のどか達の方に気が向いていた事で、一瞬反応が遅れ、それに気付いたアスナが答えるが。

 

「Sure, what――(もちろん、何を――)ナギ!?」

「――っ!?」

 

 危うく驚きを声に出しかけて、何とか留める。この状況、このタイミング、しかも原作よりも早い時期の来日。目の前には赤い髪の少年、ネギ・スプリングフィールド。

 

 子供用のスーツにコートを羽織り、大きなリュックに長い魔法使いの杖。間違いない。

 

「すみません通じませんでしたか? とてもお綺麗で目立っていたし、同郷の方かと思って……。つい英語で話してしまいました」

「ナギじゃ……ない?」

「父をご存知なんですか!?」

 

(アスナ! 今話しちゃダメ!)

 

 慌ててアスナに念話の魔法を飛ばす。一瞬驚いた顔をしたものの、お願いと念を押すと、小さな時にタカミチから話を聞いただけと誤魔化してくれた。

 

「そうだったんですか。僕はタカミチを探しているのですが、道に迷っちゃいまして」

「案内、出来るよ。フィリィも行く?」

 

 ここはどうするべきか……。もう魔法を使って誤魔化すわけには行かない。念話の魔力を感じ取られても困る。

 それよりも問題なのはネギ・スプリングフィールドの態度が妙に冷静な気がすぎる。宮崎のどかに起きている様に何か影響が出ているのだろうか。本当はこれ以上関わらず帰りたいのだが、ある程度見極める必要が有るのかもしれない。

 

 そう決めると付いていくと返事をして、ゾロゾロと職員室に向かっていく。原作通りなら、彼は私達の部屋に転がり込む事になる。だからこそ確認をする事が優先だと感じる。

 職員室に向かうメンバーが総勢六名と、初めから原作と違う展開になってしまったが、これくらいなら誤差の範囲内と思いたい。

 

 これから向かう先はおそらく学園長室。あのぬらりひょんを相手にするのだと気を引き締め、距離を取りながら付いて行った。




 晴れ着の色に意味はありません。アスナ達は原作で着ていた浴衣などに合わせたのと、主人公は白に近い金なので薄い色にしただけです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。