西暦2048年7月14日。
さて、何となくボイスメモを起動したのは良いけど…今日はな〜んにも話す事がないんだよね。だから私、篠ノ之束の昔話…いや、8年前だから昔話という訳でもないかな?とにかく、過去の話でも録音するよ。
8年前の私は、まぁ子供だったね。今だから言えるけど、そりゃあもう子供だったよ。いい意味でも悪い意味でも。小さい頃から頭が良過ぎた所為で孤立して、コミュ障にもなるわ性格が変な方向に崩れるわで、遂にはアリスの不思議な国のコスプレもしだしてたからね…ああ、思い出すだけで恥ずかしいよ。
そんな私でも、一つだけ変わらない事があった。それが、〝
結果は…まぁ普通に想像出来た事なんだけど、失笑の嵐。当時の技術では到底実現し得ない技術が多数使われていたのと、当時の私が高校生位の年齢だった事もあり、評価は「子供が作り出した空想の産物」。その時はまともに相手をされる事はなかった。
だけどあの時発表したからこそ、今の私が居る。あの時発表していなかったら、多分今の私は居ない。
…っとマズイ、回避回避。ん〜…ここは使う方が良いか。
──ドドドドド!!
よし、オッケー。デブリ群の回避成功、損害無し。
…それで、何処まで話してたっけ…確か、学会に発表してからの先は話してないかな。それでその時に出会ったのが、あの企業達だった。
その出会いが、私と〝クラフト〟の出会いを引き寄せたんだ。
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学会発表直後の私は、その結果の前に打ちひしがれて、涙を流しながら帰路に着こうとしていた。
「すみません、ちょっといいですか?」
「っ………はい」
だけど、その前に後ろから私に話し掛けてきた人がいた。慌てて涙を拭って振り返ると、そこには一人の日本人の男がいて、すぐに学会にいた研究者の一人だと分かった。だから、私は嫌味を言われるのかと思って身構えたんだけど…
「私、こういう者でして…出来れば、少々お話をと思い」
「………AG-システム………?」
当時、世界の企業にはビッグ5と呼ばれる企業があった。アメリカの〝オーコリム〟、日本の〝AG-システム〟、ヨーロッパの〝フェイザー〟、オーストラリアの〝ピラナ〟、ロシアの〝キレックス〟。彼等は今までの企業を驚かせるような技術や常識を作り上げ、その得意分野では右に出る者はいなかった。そして、様々な分野に進出した5社は深刻な利害関係になっていた。当時はその利害関係も沈静化させていったが、完全に無くなったとは言い切れていなかった。
だけど、その時の私はそんな考えをしている暇などなかった。私に声を掛けてきたのは、世界のビッグ5の一つ。何故そんな大企業が、学会に失笑された私に声を掛けてきたのは、その時の私には分からなかった。
「…私に話しって…一体何の?」
「話しといっても、今は一つだけ質問させて下さい。私は、貴女の
「………はい」
真剣な目で私に質問してきた彼に、私も真剣に応えた。たとえどんなに馬鹿にされようが、その気持ちだけは絶対だったから。すると、彼は私の答えに満足したのか、笑みを浮かべた。
「…わかりました。では、また後日にお話をしたいので、連絡先を教えて下さい」
「っ、はい!!」
すぐに私は連絡先を交換し、そして学会の会場を後にした。その時の私の足は…多分、軽かったと思う。
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数日後、AG-システムから連絡が来た。その内容は、いきなり本社への招待状。それを聞いた時は驚いたね。いきなり本社に来いってのは思ってもいなかったし。
緊張しながらも東京にある本社に向かってみれば、そこには学会で会った彼がいた。彼の案内で社長室に通された。そこは、整然とした一室であり、何よりも4つのモニターが目に付いた。
「失礼します、社長」
「…彼女が、そうか」
「はい、篠ノ之束です」
そこで待っていたのは、AG-システムの社長〝船引 広明〟。厳格な表情で私を見た途端、私は反射的に礼をしていた。
「…君が目を掛けたのだ、即戦力には間違いあるまい。しかし、本当にあのプロジェクトに入れる気なのか?」
「あのプロジェクトの完成には、彼女の頭脳と技術が必要不可欠です。そして何よりも、彼女は
「…それ程言うのなら、私は何も言うまい。〝貴方方〟も、そうであろう?」
その時、社長の後ろにあった4つのモニターに光が入り、映像が映し出され、その映像に私は言葉を失った。
映っていたのは、オーコリム社長〝アドコック・エイドリアン〟、フェイザー社長〝アリエル・アズナヴール〟、ピラナ社長〝ウィリアム・スミス〟、キレックス社長〝フィグネリア・アルブゾヴァ〟。ビッグ5の社長が、勢揃いしていた。
『ああ、プロジェクトの第一人者直々の言葉だ。現場の言葉を最重要視するのは当然だろう』
『私達としても、プロジェクト進行が手詰まっている現状況を快く思っていないわ。彼女の腕で解決出来るのなら、私達は彼女を歓迎する準備がある』
まず言葉を失っている私を他所に、まず口を開いたのはウィリアム・スミスとフィグネリア・アルブゾヴァ。
『だけど…此方から見た限り、まだ大学…いえ、高校生位の年齢よ。あのプロジェクトに入れるのは早過ぎるんじゃない?』
「此方から送った彼女の発表を見たでしょう?彼女は、間違いなく〝天才〟です。あのプロジェクトに入れないならば、彼女はその頭脳の技術を有り余らせる事になるでしょう」
次に口を開いたのは、アリエル・アズナウールと彼。
『…決まり、だな。だがまずは彼女に説明をし、彼女の同意を得てからだ』
そして最後は、アドコック・エイドリアン。
『多分、君は今混乱しているだろうね。だけど一から説明するから安心して欲しい。だけど、これは我々5社の企業秘密に関わる事だ。だから今から言う事を話す事になると、受けるにしろ断る事にしろ、君には口止めをして貰いたい。それが嫌ならば』
「大丈夫です」
アドコックの喋りを私は強引に止め、答えを出した。此処で私が嫌という理由は無く、私の夢に近付ける唯一かもしれないチャンスを掴まない選択肢は、無かった。
『…なるほど、やはり彼が目を掛けただけはある。では、話そう。我々ビッグ5は今、秘密裏に協力してとあるプロジェクトを進行している。そのプロジェクトの名は、〝クラフトプロジェクト〟』
『我々人類は今、地球のみでその版図を広げているが、何れ資源や土地が足りなくなるのは目に見えている。そこで我々は
『7年の歳月を掛けて、我々は一号機の完成に成功したが、それはまだ宇宙進出に必要なスペックには程遠く、何よりも重要機関である〝反重力ジェネレータ〟が不安定だった。しかし、改良しようにも具体案が見つからず、プロジェクトの進行が止まってしまった。そこに現れたのが…君だ、篠ノ之束君』
『君が学会で発表した内容を見せて貰ったが、君の頭脳と技術があれば、我々と君の悲願が達成する事ができるだろう。我々に、その力を貸してくれないか?勿論、それに値する報酬は与えよう。クラフトプロジェクトの為ならば、我々は協力は惜しまない』
話された内容は、私にとって余りにも魅力的な提案だった。世界を股に掛けるビッグ5が協力して開発している
ISは開発出来なくなるけど、正に百利あって一害なし。
「…やります。やらせて下さい!!」
その提案を、私は受けた。
『ようこそビッグ5へ、篠ノ之束君。我々は君を歓迎しよう。そして、共に
そして、此処から私は変わっていった。
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クラフトプロジェクトに新たに入る事になった私は、すぐさまクラフトプロジェクトの開発ラボへと所属する事になった。そこはアメリカにある、表向きはオーコリムが買収した土地に超巨大な建物を建造した所。クラフトの実験の為に一定の広さと機密を保持する為にはアメリカが一番最適だった。私の夢の為とはいえ、箒ちゃんと離れ離れになってしまうのはとても辛かったけど、背に腹は変えられなかった。半年に一度は必ず帰ると約束して、私はアメリカに飛び立った。
そして、新人の私の紹介をしたらすぐさま開発。クラフトプロトタイプ1号機は問題しか抱えていなかったから、まずは全体的な改善を試みてみた。そうやって完成した2号機は…最早別物だったね。二回り位小型になったし。
その後も3号機、4号機と様々な方向からアプローチしたプロトタイプ機が完成していった。だけど…とある問題点だけは、どうしても改善出来なかった。
それは、反重力ジェネレータ。これだけは私がいくら理論を立てようが、いくら改善しようが言うことを聞かなかった。その時の私にとって初めて経験した〝詰まり〟に、私は焦っていた。だからこそ、私はミスを犯してしまった。
『反重力ジェネレータ、出力レベル7!!もう無茶だ篠ノ之、脱出しろ!!』
「まだ大丈夫、データ取り続けて!!A-06、A-16出力回路閉鎖、ブースター出力120%!!」
『馬鹿野郎、そんな速度で走り続けたら事故るぞ!!死にたいのか!!』
「大丈夫だよ、エアブレーキとバックブースター全開で速度は…っ!?何、バランスが…!!!!」
『束ぇ!!!!!!』
私が運転を担当したプロトタイプ7号機の試作運転で、私は無茶をして大事故を起こした。その時の記録映像を見た時は…よく生きてたな〜、って本心から思ったよ。何せ700km/h超えの速度から、バックブースターの出力バランスの差で横転してからの数十回転。最後は壁に激突して機体はボロッボロ。私も瀕死の重傷を負って、目を覚ましたのは3ヶ月後だった。
目を覚ました時には側に彼が居て、何であんな無茶したかを聞いてきた。黙っててもしょうがなかったから、私は本心を喋ったら…
「…馬鹿野郎」
「え?」
「馬鹿野郎だよ、お前は。何でそんな大事な事を誰にも相談しなかった?俺達は〝個人〟じゃない、〝チーム〟だ。誰か一人でも欠けるだけでも、〝チーム〟は成り立たなくなるんだよ。お前の心に気付けなかった俺達にも責任はあるが、お前にも責任がある。もっと他人を頼れ。〝チーム〟を頼れ。お前は此処にいる限り一人じゃねぇんだからな」
…正直、心にキュンときたね。あの状況であの言葉は威力が強過ぎ。それに…拗れてたとはいえ色々と初心だった事もあるんだよねぇ…
話逸れたから戻すよ。で、退院後はその言葉をきっかけに皆を頼るようになって、無茶もしなくなった。その後は…トライアンドエラー、試行錯誤を繰り返してった感じだね。改善すべき点を見つけては改善し、改良すべき所を話し合っては改良し、変更すべき所を決めては変更し。
それから3年後。クラフトプロジェクトは、遂に完了した。その栄えある完成機第一号の機体名は、〝Nx1000〟。
新たな大発明の発表は、世界中を驚かせた。常識をひっくり返したのもあるけど、その開発した企業がビッグ5。利害関係と思われていた大企業達が協力し合っていた、正に奇跡の産物だったのだからね。
勿論疑っていた人もいたから、デモンストレーションはすぐに行われた。場所はネバダ砂漠。そしてデモンストレーションは大成功。燃料を必要とせず、大量生産を可能とした全領域進入可能な、まるで空想の世界から飛び出してきた夢の乗り物に、人々は喜んで迎え入れた。
そして、今──
□□□□□
私は相棒であるピラナ製クラフト〝ヴィンド〟に乗って、宇宙から地球の帰路に付いている。クラフトが大量生産する体制が整った後、私は開発ラボから宇宙探査部へと異動し、宇宙探索を行っている。ヴィンドは私とピラナ社で作り上げた、私だけのクラフト。とことんスピードに拘った結果、私以外には誰も乗りこなせないじゃじゃ馬。私にとってはただの子犬同然だけどね。
…今思うと、本当に私は変わったと思うよ。あの拗れた性格が戻るし、仲間が出来たし、それに彼とも結婚したし。結婚の事はちーちゃんに伝えたら凄くショック受けてたし、箒ちゃんに伝えたら凄く驚いてた…その反応も無理が無いのが何とも言えないけど。
彼とは中々会えないけど…二人共忙しいし、彼は彼でやるべき事があるから、私は邪魔はしたくない。それに…うん。一夜を過ごすのが凄く大変。そう言った意味でも偶に会う位が丁度良いんだよね、あははは…
…兎に角、あと2時間で地球に戻る予定だし、それに今日は彼と2ヶ月振りに会えるんだよね〜。久し振りに一緒に食事出来るし、久し振りに家にも帰れる。箒ちゃんには明後日会う予定だからそっちの準備もしとかないといけないし、来週は反重力レースの出場もあるからヴィンドの精密検査も………凄く今更だけど、帰っても大変だなぁ。
…さて。まだ時間はあるけど、大気圏突入の準備をしないといけないから、そろそろボイスメモを終了するね。
あ、またデブリ群…これは避ける方向でいいや。ちょっと規模は大きいけど…ヴィンドと私ならこの程度、お茶の子さいさい。
反重力クラフト
ビッグ5と呼ばれるオーコリム、AG-システム、フェイザー、ピラナ、キレックスが協同して作り上げた小型宇宙進出機。反重力ジェネレータによって機体を浮遊させ、ブースターで前進するそのシステムは、燃料を必要とせずにあらゆる領域への進出を可能にした。防護技術にエネルギーシールドも備わっており、これで機体へのダメージを防止、軽減する。
基本的に宇宙用と大気圏内用のクラフトに分別されており、大気圏内用は大量生産の為、宇宙進出出来るまでの耐久性を持っていない。
尚、これらの技術の一部にはISで使用される筈だった技術も流用されている。
ピラナ製反重力クラフト ヴィンド
篠ノ之束がピラナ社と共に作り上げた、世界に一つだけの専用クラフト。
元々スピード性能を重視していたピラナ製クラフトをベースに、究極にまでスピードを突き詰めた結果、宇宙空間のみで使用される極音速航行では世界最速の57km/s(秒間57km)、大気圏内でも専用の特化チューンを行えばマッハ8での航行が可能。(一定の速度以上ではカーブは全く出来なくなるという致命的な欠点を持つ事になる)
但し、その代償としてハンドリングとエアブレーキ性能が全クラフトの中でも最低となり、篠ノ之束以外のパイロットには操れないクラフトとなっている。
対デブリ対策として、2門の40口径機銃が搭載されており、炸裂弾を連射する事によってデブリを破壊する事が可能。