【改訂版】その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ   作:矢柄

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「おおっ、こんなにでっかく…」

 

「ははっ、努力した甲斐がありましたね」

 

 

立派に熟した果実が実る。茶色のセーターを着た立派なあご髭の男と白衣のメガネの男が大きく赤く実ったトマトを手に取る。

 

セーターの男は農夫であり、白衣の男は異国から来た研究者だった。農夫はその良く育ったトマトを手に取り、そしてかぶりついた。酸味とほのかな甘みを含む汁が口の中いっぱいに広がる。

 

 

「美味ぇ…、トマトってこんなに美味ぇもんだったんだなぁ」

 

 

農夫は思わず涙を流す。

 

時期外れの収穫。この北方の地においては10月となれば冬が到来する季節だ。かつては農夫も短い夏に多くの種類の野菜を収穫していた。

 

小麦、ライ麦、燕麦、ジャガイモ、キャベツ、テーブルビート。多くの作物を育て、家畜を飼い、妻や子供たちと共に平和な暮らしをしていた。ちょうど20年前の話だ。

 

平穏な暮らしに唐突な終わりを告げたのはノーザンブリア大公国の首都近郊に現れた忌まわしき《塩の杭》。全てはそのせいで大きく狂ってしまった。

 

 

「いつかは土で育てたいもんだがなぁ…」

 

「今すぐは無理でしょうが、いつかは叶うかもしれませんよ」

 

「だといいがなぁ」

 

 

国土の半分が塩の海に沈み、多くの人命が失われた。この農夫の農地は南部にあって、直接の被害は無かったが、すぐ近くにまで塩の海は迫っていた。

 

影響はすぐに現れた。北風と共に運ばれる大量の塩が砂のごとく襲い掛かり、多くの農地がダメになってしまった。

 

水も土も塩に汚染され、作物も草も育たない。多くの農園は閉鎖に追い込まれた。それどころか肺をやられる者まで出てくるほどだ。

 

そうして大公がどこかの国に亡命して、この国が自治州になって、十年以上の年月が経っても状況は何も変わらず、いや、悪化し続けた。

 

かつては自分たちが作っていた作物を、自治州政府から施しとして受け取る日々。それらは猟兵となった国軍が外国の紛争地帯に出向いて稼いだ外貨で外国から購入したものだ。

 

農夫もまたカルバード共和国に出向いて慣れない出稼ぎを行ったが、安い賃金でこき使われ、泥のように眠るだけの日々に幸福や安寧は存在しなかった。

 

風向きが変わったのは、リベール王国という南にある国から来た学者や技師が現れた頃だった。

 

彼らはツァイス中央工房という研究所の学者さんたちで、あの有名なエプスタイン財団の学者さんたちと一緒に、この農夫の土地に研究所と、そして奇妙な工場を建てた。

 

奇妙な工場の中は暖かく、不思議な青と赤の光を放つ導力灯が光を放ち、土の代わりに白い粒のような物を詰めた棚が上下に何段も重なっていて、そこに水が通されていた。

 

植物を育てるための工場なのだという。

 

最初は冗談か何かと思ったが、そんな良く分からない棚の上で確かに作物は育ち始めた。失敗もあった。それでも最初の僅かな収穫を見て、農夫は天命を感じた。

 

農夫はそれから彼らに頼み込んでこの工場で働かせてもらうことにした。導力技術と農学なんていうものを初めて学んで、農夫は必死になって彼らを手伝った。

 

農夫の努力は彼らも驚くほどだったようで、それだけではなく農夫はそれまで試されていなかったいくつかの作物の生産手法を考案し、彼らから正式な仲間として受け入れられるようになった。

 

 

「これで、俺の農園は蘇るかもしんねぇ」

 

「いえ、蘇らせましょう。エプスタイン財団の連中も本腰を入れましたし、将来的には封鎖地区にも工場を建てられれば大成功ですよ」

 

 

自治州政府も植物工場に大きな期待を寄せているらしい。

 

今はまだ生産できる作物の種類は限られているものの、最近になってイモ類についていくつかのブレイクスルーが果たされ、採算ベースに合う段階にまで研究が進んでいた。

 

麦やトウモロコシの類は試行錯誤が続くものの、彼らと農夫は絶対にいつかは成功させると意気込んでいた。

 

 

 

 

「やはりこの流れは止まらないのか…」

 

「独立国家と自治州では同盟は成り立たないよ。もはやノーザンブリアにとってリベール王国は必要不可欠な存在だ。それに、もうほとんど飲み込まれているだろう?」

 

 

ノーザンブリア自治州議会の議員である二人の男は灰色の街を見下ろして暖かなコーヒーを飲む。

 

自治州の未来を話し合う場において、現在議会における議論の焦点となっているのは一部の議員が提唱した一つの案についてだった。

 

それは、自治州のリベール王国への編入。その提案を王国に対して行うかどうかであった。

 

 

「他にどこの国が我々に手を差し伸べてくれた? 今彼らの手を振り払ったとして、ノーザンブリアに未来はあるのか?」

 

 

20年前の悲劇によりノーザンブリア大公国は崩壊し、自治州となった。政体が変わったことについては正直問題ではなく、無能な大公を排除した結果に過ぎない。

 

問題はこの国に蔓延する飢餓と貧困、そして見通しの暗さだ。

 

首都を含めた主要都市の消滅は経済崩壊をもたらし、ノーザンブリアの産業は崩壊した。それどころか、塩害によって農業も牧畜も深刻な被害をこうむった。

 

塩による水源の汚染は、工業用水の不足にも直結した。沿岸から溶け出す高濃度の塩水は沿岸漁業を壊滅させた。おかげで重要な輸出品の一つだった鱈の干物の生産もストップした。

 

産業が失われれば国は立ち行かない。腕のいい職人や技術者は外国に流出してしまい、残されたのは財産も手に職も持たない多くの難民たちだった。

 

主要産業は傭兵へと移った。国軍は傭兵となって紛争地帯をあてどなく渡り歩き外貨を稼ぐ。危険で不健全で不安定な仕事だ。

 

とてもじゃないが、こんな産業とも呼べないものに縋って内政など出来るわけがない。人口の流出を止める術はなく、ノーザンブリアからはあらゆる希望が失われた…かのように思われた。

 

状況が変わり始めたのは4年ほど前のことだ。リベール王国がノーザンブリア自治州において移民の募集を始めたのだ。

 

仕事にありつくことが保障され、賃金も悪くはなかった。衣食住が保障され、仕事も出来る。猟兵にならなかった男たちや女たちは恐る恐るそれに応募を始めた。

 

そうして、自治州の流れが変わり始める。ノーザンブリアにリベール王国から仕送りとして外貨が流れ込み始めたのだ。

 

その額は二年ほどで猟兵たちが稼ぎ出すミラを上回った。ノーザンブリア自治州の民衆の目に希望が宿りだしたのもこの頃だった。

 

恐れていた労働待遇も、リベール王国では破格の扱いと言っても良かった。少なくともカルバード共和国での奴隷扱いにも似た超低賃金労働とは異なった。

 

自治州に残る家族を養うこともできるようになった。独り身ならば食べるだけではなく、趣味にも手を出せて、休暇を取ることも出来た。

 

 

「民衆はリベール王国に行くことを望んでいる。このまま何もせず放っておけば我が国には人っ子一人いなくなる」

 

「…だろうな。俺の甥っ子もツァイス工科大学に行きたいと言っている。行けば向こうで就職することになるだろう。帰っては来ないだろうな」

 

「相手側も好感触だ。リベール王国は西ゼムリアを三分する大国の仲間入りを果たしたが、人口と国土の不足を問題視しているらしい。既にエレボニア帝国に飲み込まれかけていた自治州や自由都市のいくつかを横取りする動きに出ているようだし、この機を逃せばノーザンブリアは衰退するだけだよ」

 

 

拡大主義を掲げて強引とも呼べる手段で近隣地域への進出を行うエレボニア帝国に対し、リベール王国は熾烈な外交戦を行っていた。

 

エレボニア帝国に全ての権利を奪われるぐらいならば、マシな条件を出すリベール王国の側につくという判断を下した地域もいくつか現れており、軍事的にも帝国に対抗可能なリベール王国は国際舞台の主役の一つだった。

 

 

「それに、植物工場の事もある。話によればあれは技術実証を行うための実験施設の類らしい。技術が確立すれば王国で大規模な農業ビルというものを作る計画なんだそうだ。技術大国は考える事が違うな。食料自給を国防の戦略的支柱と位置付けている」

 

「…つまり、用が済めばリベール王国は撤退すると言うのか?」

 

「可能性の話だよ。採算が合うならばある程度は維持するだろうさ。だが、主要な開発地域はリベール王国にシフトするだろう。あの工場には増えてもらわなければ困るだろう?」

 

 

食料自給。植物工場はノーザンブリアの人間にそんな希望を抱かせるには十分な新技術だった。何よりも餓死を恐れる彼らであるから、食料を生産する工場は彼らの生存本能を動かした。

 

ただでさえ寒く痩せたこの北方の地で、塩害をものともせず食料を生産できる植物工場と言うのは、この自治州の食料の安定供給をもたらす可能性を秘めていた。

 

それだけではない。大型導力ジェネレーターによってもたらされる余剰導力を用いてリベール王国は塩水の淡水化プラントをも製造している。排熱は温水として街に暖房をもたらした。

 

小規模ながら工場を中心とした企業城下町が形成され、自治州経済はようやく正常に回りだしたと言っていい。

 

これが撤退するとなればどうなるだろう? 安全な水の確保はどうする? 企業城下町が消失すればオーバルストアや工房も撤退してしまうかもしれない。

 

ノーザンブリアに便利な導力器を低価格、あるいは無償でもたらしてくれるのはリベール王国のZCFぐらいで、彼らがいなくなれば暖房にすら事欠くようになる。

 

 

「んん、確かに。旧国軍や出稼ぎ労働者が稼いできてくれる外貨は食料や医療品、生活必需品を輸入するのに全て消えてしまう。食料の自給が出来るだけでもありがたい事だ」

 

「植物工場の建設に関しては、併合の暁にはノーザンブリアでの建設を推進するという回答を貰っている。彼らはリベール以外の生存圏を欲しがっているようだ」

 

「あの国は小さいからな。エレボニア帝国との正面衝突が起きる可能性を考えれば、安全な後背地を望むのは当然と言う事か」

 

「そうであれば工業基盤の整備も行ってくれるだろう。そして我々は特別自治体としてある程度の自治権を許される。軍の解体も行わなくていいらしい。装備に関しては制限を受けるようだがね」

 

「元より新型の軍用飛行艇も購入できない身の上だ。旧式の軍用飛行艇を融通してもらえるという話だったな」

 

「ああ。流石に航空機は恵んでもらえないらしいが、自治州の軍隊としては上出来すぎるだろう」

 

「旧国軍や若者を危険な土地に行かせることもなくなる。そうなれば喜ばしいが」

 

「外国に散った同胞たちも、噂を聞きつけてこの地に戻ってきている。ノーザンブリア自治州民であることを証明できれば、優先的にリベール王国に働きに行くことが出来るからね」

 

 

しかし、その優先枠がいつまであるかは事実上王国次第だ。彼らが移民はもう不要と言えばそれまでとなってしまう。

 

だが、この国が王国の一部となれば、リベールとノーザンブリアは比較的自由に行き来できるようになるだろう。

 

 

「そう上手くいくかな?」

 

「それは我々次第だろう。併合されるとはいえ、人口比ではかなりの部分を占める事が出来る。女王陛下の不興を買わなければ、ノーザンブリアを復活させることも不可能じゃない」

 

「そして俺たちは大国の国民として国際社会で堂々と大腕を振って歩ける…か」

 

「王国議会にも定数の枠が用意されるようだ。才能と努力次第では大臣職にだって上り詰める事も不可能じゃない」

 

 

そうして数か月後、自治州議会はリベール王国との併合をかの国に提案するかどうかの住民投票によって民衆に問うことになる。

 

事前調査では実に80%以上の民衆が賛意を示しており、《北の猟兵》と呼ばれる旧国軍兵士たちも住民投票に参加するために自治州へと集結を開始し始めた。

 

 

 

 

「ふっ、また出し抜かれたか」

 

「リベール王国軍情報部。侮れませんね」

 

「アラン・リシャール。中々に優秀な男のようだ」

 

 

ギリアス・オズボーンは情報局からの報告書をデスクに置く。重厚な造りの木製のデスクは、しかし彼の持つ独特の迫力の前では役者不足に見えてしまう。

 

そんな彼の脇に控えるのは、若く可憐な乙女だった。空色の髪を持つ少女はあまりにも可憐で、竜かとも見紛う雰囲気を放つ男の前では一種の不自然さすら醸し出す。

 

 

「ですが、それ以上の脅威は…」

 

「エステル・ブライト。《空の魔女》か。彼女が《剣聖》を名乗るのはいつになるかな?」

 

「それほど遠くないのでは? 4年もかからないかと」

 

「楽しませてくれる。私が宰相になるのが2年早くとも、あの戦争には勝てなかっただろう」

 

「御冗談を」

 

「クレア、お前にも分かっているはずだ。あれはとびきりの異分子だ。私の盤を容易にひっくり返してしまうジョーカーだ。あの時点で航空機がもたらす戦争の革命を、いったい誰が予測できただろうか。戦略爆撃という恐るべき戦術の考案。航空機の登場は、戦争を戦場に限定しなくなった。経済と言う国家の中核を破壊し、そしてあの娘は帝国に、お前たちの安住の地などどこにもないと突きつけたのだ」

 

 

オズボーンは上機嫌で笑いながら話す。クレアが今までこの人物と付き合ってきた中で、このように上機嫌で話す場面は限定的であることを知っていた。

 

まるで子供の様に、お気に入りの玩具を愛でるように彼女の主は歌うように語る。

 

 

「情報機関の設立も見事だった。だがそれ以上に、国家の産業構造の改革について私は評価している。あれこそ私が理想形とする経済成長の姿の近似だ。踏み台とされた側としてはいささか悔しいがね」

 

「航空機の有用性について学べただけでも良しとするべきでしょう。より最悪な形での終わり方とならなかったのは、あちらの女王の手腕によるものでしょうが」

 

 

最悪、エレボニア帝国という国家が滅亡していた可能性もあるのだ。実際にそこまで追い詰められていたし、ハーメルの件が表に出ていたなら貴族勢力が向こうに寝返っていてもおかしくは無かった。

 

しかし、リベールは身の丈を知り、こちらが実施しようとしていたゲリラ戦への対応や統治コストを嫌って遠洋の小さな島々以外は領土の割譲も要求しなかった。

 

要求したのは賠償金と経済的価値のない南洋の島々、そして資源取引での協定だけ。莫大な賠償金を要求することで、まず国家の再建と国力の向上を図ったのだ。

 

それは最悪の場合に起こり得ただろう混沌と、それに伴って行われただろう生き地獄のような管理社会の到来を考えれば安いものだと思われた。

 

 

「問題は現在です。既に3つの自由都市とノーザンブリアを含む2つの自治州がリベール王国への編入を希望する提案を行い、王国はこれを了承しました。アルテリア法国もこれを許可する見通しです。リベール王国の次期主力戦闘機のスペックが報告にある通りならば、我が国に勝利の目はありません」

 

「外交力と諜報能力に武力が付随するほど厄介な事は無い。私への誹謗中傷も無視できないレベルに達している。それに比べ情報局は不甲斐ないな。良くやっているのは分かるが、国内での跳梁を防げないのでは情報局の意味がない」

 

 

クレアは唇をかむ様な悔しそうな表情で、しかし反論はできない。リベールの情報部は優秀で、そして我が国の情報局の防諜体制を嘲笑うようにすり抜け、実態をつかむことができていない。

 

《M》と呼ばれるコードネームの人物が暗躍しているらしいが、それが個人なのか、複数の人間なのかも分かっていないのだ。

 

情報局は荒れる国内の統制にかかりきりだった。貴族派の動向も監視せねばならないが、カルバード共和国から密輸される麻薬の追跡も負担となっていた。

 

カルバード共和国のマフィアと民族主義勢力が絡む複雑な構造に、国内では一部の貴族や役人がこれを手引きしていて厄介この上ない。

 

この麻薬の密輸ルートの構築にもリベールの情報部が絡んでいるのではという推測がなされているが、それも憶測に過ぎない。

 

ただ、これだけ緻密で複雑かつ、摘発や根絶が困難なルートの構造に、何者かが裏でデザインしたのではという憶測だけで語られているだけで、証拠は何もない。。

 

そして、さらなる問題はこの書物だった。帝国では発禁処分として、所有するだけでも罪になるが、この部屋では特別な許可により資料として置かれている。

 

 

「カール・マルクス著《資本論》そして《共産党宣言》。思想浸透戦術とは。笑うしかあるまい」

 

「閣下、笑い事ではありません。これに影響され、国内では労働組合と呼ばれる組織、共産党を名乗る一派が跋扈しています。つい先月にも帝都で大規模なストライキが発生したばかりじゃないですか!」

 

 

経済の考察から始まるこの著書は猛毒を含んでいた。

 

それは資本主義という現在ゼムリア大陸を動かす経済の根幹の否定であり、王権や貴族の特権を時代遅れの不完全な存在、社会発展における過程と言い切ってしまった。

 

そして、資本家と労働階級間における階級闘争という概念を導入し、そして共産主義という全く新しい社会システムを提案してきたのだ。

 

その社会システムは一見して素晴らしいように思える。平等を謳い、特権を排する。だが、それは明確な皇室への反逆であり、カルバード共和国の共和政すら霞むほどの過激な思想だった。

 

そしてこの思想は重税に喘ぐ民衆に同情する知識層を大きく刺激してしまった。

 

カール・マルクスの著作は帝国政府による規制にもかかわらず、既に帝国各地に拡散している。

 

印刷所はカルバード共和国らしく、麻薬と同様の手口で帝国国内に持ち込まれている。だが、その著者については誰も知るところではなかった。

 

 

「情報局の分析では、複数の著者による合作であると推測されています。おそらくはリベール王国軍情報部、いえ、こんな概念を新しく生み出すとなれば…」

 

「まるで魔女の呪いということか」

 

「しかし、これは諸刃の刃になるのでは? この思想の分散は敵味方を選びません」

 

「貧富の格差が問題となるのだろう。リベール王国はあれだけの発展を達成しながら、それを民衆の所得に上手く分配している。それに、著者曰く全てはモラルの問題だそうだからな」

 

 

これらの書物の『著者』と予想された少女は、大学における講演で語った。どんな政体であろうと、携わる人間のモラルが低下すれば失敗するのだと。

 

拝金主義が蔓延すれば資本主義は弱者を搾取する醜悪な装置へと変貌し、民衆はミラの奴隷に成り下がって、互いを助け合う人間らしい心すら失うだろう。

 

だが、共産主義も特権的な地位を独占する官僚の腐敗が進めば、自らが否定する悪質な専制政治へと堕する。彼女は講演においてそう警告した。

 

新たな特権階級が生まれ、それを維持するための恐怖政治が敷かれることになる。民衆は平等という名の競争の存在しない環境に向上心を奪われ、社会は非効率化を極めるはずだと。

 

 

「経済格差というよりも、底辺にて自活できない人間を生み出さなければ革命は起こらない。同時に幅広い視点を与える教育によって思想の極端化を押しとどめられると考えているのだろう。情報部にはカウンターを行うよう指示を出しているようだがな」

 

「最低賃金の保障や医療保険制度の設立はこの作戦の布石だったのでしょうか?」

 

「義務教育もだろう。多少、遠回りな手段だがいやらしい手でもある。しかし義務教育の発想はすばらしいな。帝国においても導入を考慮すべきか」

 

 

子供の教育を国が率先して行うと言うのは、洗脳という意味において素晴らしい手段だった。

 

ある程度の倫理観や考え方を画一化することが可能であり、団体行動への適応力を持たせ、愛国心を植え付ける事が出来る。治安維持や国民の統制にこれ以上有効な手段は無いだろう。

 

 

「ふふ、しかし難しい相手だ。既に相手も私のことを認識しているようだ。予想以上に政治基盤を固め切れていない」

 

「我々もまだ動ける段階にはありません」

 

「仕方あるまい、将来を見据えて養成しているのだからな。それにリベールばかりに気を取られて、古狸どもに足元をすくわれるわけにもいかん。今は国内改革と支持基盤を固める事に専念せねばなるまい」

 

 

 

 

1198年の10月。第56回女王生誕祭の始まりが宣言されると共に、5機のそれまで見たこともない形状の飛行機が王都グランセルの上空を飛び去り、5色のスモークによる飛行機雲の軌跡を空に描いた。

 

その飛行機は民衆が今まで見たことのない程の異様な速度で飛び去り、そして大気を引き裂くような轟音は市民たちを大きく驚かせた。

 

それは剣のような外観。市民たちの知るプロペラのついた航空機なのではなく、ジェットエンジンと呼ばれる暴力的な推力を生み出す内燃機関を積載しているその機体だ。

 

もちろんそれが内燃機関であることなど公表されておらず、ZCFの小さな英雄が開発した新型の導力エンジンとして報道されているが。

 

翼の形状もクリップドデルタ翼といい、F-15などに見られるそれはプロペラ機のテーパー翼を見慣れた市民からは異質なものに思えた。

 

 

「あれが《ラファール(疾風)》と《ミラージュ(蜃気楼)》か」

 

「早いですな。あれで最高速度の半分も出ていないのでしょう」

 

「音が大きすぎるように思えるが?」

 

「実際の巡航速度では音を置き去りにするのですよ将軍。いや、小官も実際に目にするまでは信じられなかったのですが」

 

「巡航速度時速18,500セルジュ…。ミラージュの最高速度は時速24,000 CE/hセルジュ。ラファールにいたっては最高速度時速26,000セルジュ。途方もないな」

 

「ラファールは最大8トリム、ミラージュは6トリムの爆弾を搭載するのだとか」

 

「だがあの娘によれば、あれですらまだまだ未完成と言う話だったな」

 

「初期不良は新兵器には付きものですが。あと、対空兵装に不安が残るのだとかで。軍としては今のままでも十分と考えているのですがね」

 

 

リベール王国軍の次期主力戦闘機として開発された《ラファール》と《ミラージュ》は、名前こそXの世界のフランスで開発された戦闘機のそれと同じであるものの、詳細はいくらか異なる。

 

《ラファール》はロシアのF-15やSu-27に近い形状をしており、双発のエンジンと双垂直尾翼を持つ、全長22アージュほどの大型戦闘機だ。

 

また《ミラージュ》はフランスのミラージュ2000に酷似しており、単発のエンジンとクランクト・アロー・デルタ翼をもつ、水平尾翼を持たない全長14.5アージュ程度の軽戦闘機となっている。

 

双方ともにブレンデッドウィングボディ、そしてストレーキを採用しており、低速度域においても良好な運動性能を獲得し、また空気抵抗の低減に寄与しているという。

 

さらに、金属水素燃料を用いた大出力のエンジンはアフターバーナー無しでも110kNの推力を実現しており、超音速巡航(スーパークルーズ)を実現している。

 

これは初のジェット戦闘機としては異様な性能を確保しており、さらにアフターバーナーを用いれば音速の2倍以上の速度で飛行することが出来た。

 

加えて、導力演算器によるフライ・バイ・ワイヤとCCV技術の組み合わせによる操縦の補正と補助は、従来では困難な機動を可能としている。

 

ただしこの機体が搭載するはずの空対空ミサイルの命中精度が所定の数値を下回っており、開発は予想以上に難航したらしい。

 

もっとも、命中精度を問題視しているのは《彼女》であって、軍はその性能にはそれなりに満足しているのだが。

 

そもそも現行で配備される対空ミサイルであっても、は現在他国が標準的に配備している軍用飛行艇や戦闘機に対して9割以上の命中率を達成できると考えられており、軍は十分すぎると考えていた。

 

そして、それは機動力のみならず攻撃力においても《ラファール》と《ミラージュ》が他国に対して圧倒的に優位であることを証明している。

 

すなわち、世界最強をほしいままにする空の王者だ。

 

 

「それにしても調達価格3億ミラというのはどうなのか。戦車の十倍以上の価格というのは少しばかり高すぎると思うが」

 

「それに見合った性能と言う事でしょう。《ミラージュ》はその半額程度ということですし、理論上は現在の戦闘爆撃機トネールの1000機分の働きをするようでして。垂直離着陸能力を持つ《ラファール》は例の飛行空母の中核となる戦力ですから。博士によれば、なんなら20年かけて機種転向すればいいとのことで」

 

「数年後には新しい戦闘機が登場しているのだろうな」

 

「まあ、彼女ならやりかねませんね。新型爆撃機も2年後には生産が始まるのだとか」

 

 

《ラファール》と《ミラージュ》は爆撃機としても用いることが可能だが、戦闘に主眼を置いた機体であり、運動性能の向上のため特に導力演算器関連に高いコストを支払っている。

 

だが、一年戦役にて趨勢を決したのは爆撃だった。このため、空軍は使い勝手のいい爆撃機、近接航空支援や戦術爆撃を専門とする機体を欲していた。

 

 

「《グワイヒア》か」

 

「空軍としてはこちらを増産したいという意見が多いんですけどね」

 

「やはり調達価格は高いがな」

 

「飛行艇よりはマシかと…」

 

 

これら3機種は高価で、計画されている数の分だけ調達したとしても莫大なミラが吹き飛ぶ。維持管理費を考えればさらに途方もない金額となる。

 

最低でも1,000トリム近い質量を重力制御だけで浮かべ、さらに姿勢制御する軍用の飛行船よりははるかに安上がりとはいえ、これは小規模な国家が支えきれるものではない。

 

このような馬鹿げた予算の使い方が可能なのはエレボニア帝国からの賠償金があればこそだろう。

 

賠償金を元にリベール王国は国家予算の3倍という莫大な戦時国債を一気に返還し、そして戦後復興と急激な高度成長に突入することができたのだから。

 

とはいえ、潤沢な資金も軍事費にばかり用いることは出来ない。公共事業や助成金だけではなく、教育費や社会保障に用いる予算も増えている。

 

軍事に投じる予算額は全体の2割を維持しているものの、飛行艦隊の建造や陸軍や海軍の近代化を行う予定がある以上、あまり無駄遣いはできなかった。

 

 

「全く、エレボニアを降してから金銭感覚が狂いそうだ」

 

「ははっ、分かります。借金もなしで税収の1.5倍の予算を組んでいるわけですし。《勝利の女神様》さまさまですね」

 

「儂としては、槍を手に戦場を駆けた日々が懐かしいがな」

 

「我々とてついていくのにやっとです」

 

 

それはまるで巨大な機械の歯車の一部になったような気分だ。戦闘機乗りならばまだ騎兵の気分は得られるだろうが。

 

そんな風に感傷に浸っていたところ、二人は周囲がざわめき出すのを感じ取り、南の空を見上げた。

 

 

「なんだ…、なんだあの大きさは?」

 

「すげぇ、あれが飛行空母ヴァレリアかよ…」

 

「噂には聞いていたが、なんとも美しい飛行船だな」

 

 

グランセルが巨大な影に覆われる。上空には今まで見たことのないような巨大な飛行船が浮かんでいた。

 

灰色の船体は巨大な流線型のシルエット、それを少しばかり小さな艦が4つ、巨大な艦を護衛するように前後左右をかためて飛行する。

 

そして巨大な艦に《ラファール》《ミラージュ》が吸い込まれ、そして発着する様子を観客たちに見せつける。

 

 

「ヴァレリア級飛行空母1番艦《ヴァレリア》か。馬鹿げた大きさだな」

 

「近くで見ると圧倒的ですね。あれの同形艦が再来年にさらにもう一隻就航すると言うのですから、時代が変わったという実感があります」

 

 

ヴァレリア級飛行航空母艦。全長270アージュの世界最大の飛行船にして世界初の飛行航空母艦。

 

70機あまりの新型戦闘機および爆撃機と10隻あまりの軍用飛行艇の運用を可能とする、まさに空を飛ぶ化け物だ。

 

そして何よりも艦載機による核兵器の運用を考慮に入れており、高空を飛行し、敵の先制核攻撃を察知した時点で報復を行う抑止力となるべく建造された。

 

リベールが空の支配者であることを世界に表明するための艦といえる。

 

もっとも、《ラファール》も《ミラージュ》の二機種ともに未だ解決しなければならない問題があるようで、本格的な配備はもう少し後になるらしい。

 

しかし、その事実が他国に発覚しなければ、リベール王国が侵攻作戦においても最強の打撃力を得たと思わせる事が出来る。

 

そしてその周囲をかためるのがリッター級飛行巡洋艦である。リベール王国の街道の名前を冠するこの艦は、今年までに4隻が就航している。

 

こちらも未だ訓練不足で錬度は高くないものの、陣形を維持するぐらいならば出来るようだ。

 

リッター級飛行巡洋艦は主力艦艇を護衛や威力偵察、通商破壊を目的として建造された飛行艦艇であり、艦隊護衛のために対空戦闘能力に秀でた大型飛行船だ。

 

戦車や武装飛行艇を遥かに上回る装甲を持ち、上空30,000セルジュ以上の高空から15リジュ砲8門を投射するこの艦は、1隻だけで敵機甲戦力を壊滅させるだけの能力を有する。

 

さらに、対空ミサイルおよび対艦ミサイルを運用する能力を有しており、しかも、将来的には垂直ミサイル発射管(VLS)を運用するための拡張性を持って建造されている。

 

最終的には飛行航空母艦2隻を中核とした70隻近い軍艦からなる大飛行艦隊が完成する予定だった。

 

 

「なにはともあれ、これで飛行艦隊構想が実現するな」

 

「ええ、今までは艦隊といっても軍用飛行艇でしたし、大型艦があると迫力が違いますよ」

 

 

 

 

「というわけでクローゼ、私は女王陛下とお話があるので」

 

「ご一緒できない話なんですね…」

 

「申し訳ないのですが」

 

「いいんです。こうして会いに来てくれるだけで私は幸せですから。ふふっ、こんな言い方ではいけない恋をしているみたいです」

 

「姫が望むなら、今度は赤いバラの花束をお持ちしましょうか?」

 

「ダメです。そんなことをされたら、本当にエステルさんのことを恋慕してしまいますから」

 

「残念ですね。クローゼを虜にして、王国を裏から操ろうと思っていたのですが」

 

「なんて恐ろしい考えなんでしょう。でも、そんな悪いエステルさんにも心惹かれる私は王女として失格です」

 

 

そうしてクスクスと笑いあう。女王生誕祭の夜、私は王城に宿泊することになった。

 

そして、パーティーが終わった後、女王陛下と個人的に謁見する約束をしているのだ。その前に、私はクローゼと遊んでいたのだけれど。

 

 

「今日は一緒にお泊りしていただけるんですよね」

 

「ええ、眠らせません」

 

「ドキドキします」

 

「では、行ってきます」

 

「はい」

 

 

クローゼと分かれて部屋を出ると、侍女さんが待機していた。彼女に連れられて女王宮の階段を上り、陛下の部屋へと通される。

 

前の会議の後も二度ほど会う機会があり、申し訳なさそうな表情で会議の顛末について謝られてしまった。

 

 

「ようこそ、エステルさん。クローディアとは良くしていただいているようですね」

 

「はい、こんばんは女王陛下。クローゼとは親友ですので」

 

 

月夜に照らされた窓の傍で、穏やかな雰囲気と同時に威厳らしさを兼ね備えた老女王が私を出迎えた。この部屋のレイアウトは初めて訪れた5年前とほとんど変わっていない。

 

ただ女王陛下は少し歳をとって、白髪が青い髪よりも多くなり、顔のしわもずいぶん増えた様に思う。

 

 

「あの子にとっても、貴女という友人がいる事は良い経験になるでしょう。それと、今日は無理を通してしまって申し訳ありませんでしたね」

 

「いえ、まあ、あまり厄介ごとには巻き込まれたくないのですが」

 

「ふふ、それはもう無理というものではないですか?」

 

 

教科書に名前が載った時点で諦めるべきというまっとうな考えは無視したい。

 

しかし、私がこの国の発展を主導する立場と思われているのはどうかと思う。五か年計画だって情報部設立の件だって、私は提案しただけにすぎない。

 

 

「評価が過分です。あれらは実際に動かしている人たちの功績ですし」

 

「嘘ですね。双方から何度も助言を求められていると聞いています」

 

「陛下の情報網の正体がいまいち分からないのですが」

 

「それも嘘でしょう」

 

「ふふ、どうでしょうか」

 

 

王室であるアウスレーゼ家は代々七耀教会との関係が深い。

 

その歴史は七耀教会成立時にまで辿ることが可能なほどで、これはもしかしたらアウスレーゼ家が《七の至宝(セプト=テリオン)》に関わっていた可能性を示唆するものかもしれない。

 

リベールの土地にゼムリア文明が大きく関わっていたことはヴァレリア湖の湖底調査や情報部などの調査で判明している。

 

例えば、去年から行われているZCFによる潜水艇と超音波を用いたヴァレリア湖における湖底の調査において、アーティファクトや遺跡が大量に埋蔵されていることが明らかになっている。

 

そういった遺物の調査から、この地域において極めて高度な古代文明が存在し、そして《七の至宝(セプト=テリオン)》の存在を匂わせるものも多く出土していた。

 

また、引き揚げられた物の中には古代の導力人形が多く含まれており、中には兵器と思われるものまで多く発見された。

 

状態の良いものについて分析を行っているが、電子顕微鏡や核磁気共鳴分光法、質量分析や原子吸光分析などによる調査により、いくつかの未知の素材についての調査が進んでいる。

 

純粋に考古学的な興味もあるが、作動原理の多くが未知のアーティファクトを調査することは大変に意義がある。

 

エリカさんが嬉々として調べているが、私にとっても興味深い物ばかりが発掘されていて、特に導力人形のアクチュエーター系や論理回路については非常に興味深い。

 

これらの発見が、リベール王国における産業用ロボットやコンピューター関連技術の研究開発を大きく進展させようとしていた。

 

産業用ロボットの発展は人口が少ないリベール王国にとっては必須の技術であり、王国の将来を握る技術の一角でもある。

 

それはともかく、アウスレーゼ家と七耀教会の関係である。七耀教会というのは思った以上に優れた情報収集能力が有るようで、王家は親衛隊を介してこの情報網と接触している可能性が高い。

 

 

「放射能の影響に関する報告は受け取っています」

 

「そうですか。やはり、それが一番のネックでしたか?」

 

「理由の一つです。兵器というものはいずれにせよ人と土地を痛めつけるもの。戦火によって一生の怪我を負う事も、放射能の毒も、また大きな観点から言えば同じでしょう。ただし、長期の汚染と核の冬については恐ろしいと感じました」

 

 

核兵器についての詳細な情報は、ラッセル博士と私の直下に属する研究者たち、そして女王陛下とモルガン将軍といった少数の人々しか知らない。

 

そして女王陛下には核兵器に関わるほとんどの情報を閲覧してもらっている。核兵器がもたらすだろう危険性については私と同じぐらい理解しているはずだ。

 

 

「より恐ろしいのは、それを持つ人間が完璧ではないと言う事でしょう。私はこの兵器が現場の判断で用いられてしまう可能性、情報が外国に漏えいする危険性を危惧しました。残念ながら、今の軍の将軍たちの多くにこの兵器を持つだけの資格があるとは思えないのです」

 

「セキュリティーについてはカペルを利用することで保障できると考えていますが」

 

「それも専門の技術者が協力してしまえば、外してしまえるのでしょう。国を預かる者として、自らの剣を信用できないというのは不甲斐ないばかりですが。あの兵器が拡散する可能性が僅かにでもあると思うと、情けない話ですが私は二の足を踏んでしまうのです」

 

「《ソレイユ》が恐ろしい兵器であることは理解しています。世界を滅ぼしかねないことも。それに、扱いについては最初から陛下に一存する約束でしたので」

 

 

開発においての約束事の一つだ。核という強大な力を私の一存で扱う訳にはいかない。嘘や隠し事をするのは間違っている。

 

そこには主権者の意志が必要であり、第三者の意見を取り入れなければ悲劇的な結末を迎える可能性を危惧せずにはいられなかった。

 

限定的な核戦争ですら気象に大きな影響を与えるだろう核兵器を安易に扱ってもらうのは困る。引き金を引くものは、その武器がどのような物であるかを正確に知っている必要がある。

 

 

「貴女の事ですから研究所には『在る』のでしょう?」

 

「ええ、『在り』ます。組み立てなければなりませんが、配備する命令があれば、いつでも」

 

「今はそれで良いと考えています。そして、心配な事は貴女そのものにもあるのです」

 

「私ですか?」

 

 

女王陛下は悲しそうな、思いつめた顔で私を見つめる。

 

 

「貴女は本質的な部分で人間というものに失望しているのではないか、そう思うことがあります」

 

「……」

 

「ゆえにもっとも単純な暴力という論理を信奉する。確かに世界の多くの事柄が暴力によって支えられているのは否定できません」

 

 

社会の根幹は暴力である。本質的に、暴力を背景としなければ法はその実効性を伴わない。よって国家権力は暴力によって支えられ、秩序や日常もまた暴力によって維持される。

 

人と人の対等な関係もまた暴力によってのみ維持され、よってこれを拡大した外交もまた暴力を背景にしなければ成立しない。

 

愛情や友情はあやふやだ。尊いものであり、美しいものであることは認めるし、助け合いの精神も信じている。だけれども、それを維持して守るには暴力が必要になる。

 

対等な関係を維持できるのは、外部からの制裁という暴力を恐れる心があるからで、これが無ければ愛情や友情もちょっとした原因で支配へと変容するだろう。

 

あやふやな存在や論理に筋を通すことが出来るのは、結局のところ暴力しかありえない。だから私は力を求める。

 

私の正義を他者に押し付けるための暴力だ。正義は人の数だけ存在するが、ある程度の画一化を行わなければ社会の秩序は保たれない。秩序が無ければ私の周りの大切なモノを奪われる可能性がある。

 

そんなのは絶対に許せない。もう二度と、私のモノを奪わせない。

 

 

「貴女をそのように駆り立てた理由は承知しています。そして私にそれを否定することなどできません。事実、私は失敗して、帝国による侵略を許した愚昧な王なのですから。だけれども、やはり私は世界が暴力だけで支えられているという論理を受け入れたくないのです」

 

「理性と良心を支えるのもまた暴力と言う柱だと、私は思っています。確かに、瞬間的な判断でなんの強制もなく良心のままに動くこともあるでしょう。ですが、継続的な状況で秩序を保てるのは暴力だけだと、確かに私は考えています。それでも、陛下の考えまでは否定しません」

 

 

人の数だけ思想がある。絶対などという言葉は存在しない。私はそれで良いと考えている。私に余裕がある限りは、どんなものでも受け入れよう。

 

妥協と寛容なくして人は生きていくことは出来ない。それに、女王陛下のそういう甘さも、また愛すべきものだろう。

 

 





巨大飛行戦艦って萌えますね。ゴウンゴウン音を鳴らしながら飛ぶのがカッコイイです。

28話でした。

農業ビルって好きです。人類を自然環境から隔離するという思想が好きです。自然と共生するには、人類は多すぎて、我がまま過ぎるのです。

ドーム型都市とか、ジオフロントとか、メガフロートとかがいいです。スペースコロニーはちょっとコストがかかりすぎるかな。


<改訂>
ミラージュとグワイヒアを付け足しました。僕は悪くない。
あと、エステルが准将ってのもやめました。



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