【改訂版】その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ   作:矢柄

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建物の崩落でもうもうと立ち込めた煙が暗闇の視界をなお制限する。私はハンカチで口を塞ぎながら、徐々に視界が利き始めた周囲を見回した。

 

 

「まったく、侮れませんね、この世界のオカルトは。エレン、エリッサ、大丈夫ですか?」

 

「は、はぃ」「うん、エステルは?」

 

「怪我はありません」

 

 

壁や屋根が崩落している。おそらくは地下室への入り口も閉ざされてしまった。とはいえ、メイユイさんやヨシュアも上手く爆発から逃れたようだ。

 

新月の夜で、月の光は無く闇夜。暗殺者は爆殺に失敗したことに少しだけ悔しそうに口を歪める。

 

 

「流石は剣聖となりえる者か」

 

「ヨシュアっ、大丈夫ですか!?」

 

「うんっ、エステルも無事でよかった。罠もこれ以上は無いみたいだね」

 

 

派手な破壊工作。いや、建物内に潜む暗殺対象を攻撃する場合、爆発物を用いるのは確かに効率的だ。

 

Xの世界でも某独裁者を暗殺するために爆発物が用いられたらしいし。

 

しかし、札が爆発するとかどういう了見なのか。東洋の神秘で全てが解決できると思ったら大間違いなのである。

 

というか、こんなのにまで狙われるようになるとは、困ったものだ。とはいえ、形勢は一時的にはこちらが有利。

 

ただし、敵の別動隊の事を考えれば中期的には不利となる。であるなら、目の前の対象を速やかに打倒さなければならない。

 

 

「ヨシュア、生け捕りの余裕はなさそうです」

 

「うん、そうだね」

 

「……お願いできますか?」

 

「分かった。エステルを傷つけようとした報いだ、本気で行かせてもらうよ」

 

 

ヨシュアの姿が一瞬で消失する。メイユイさんが鎖のついた分銅を投げる。銀は分銅を回避するが、次の瞬間、その背後に現れたヨシュアに狼狽する。

 

《朧》。洗練されたヨシュアの必殺の剣が東方の暗殺者の急所を狙う。銀はそれを間一髪で防ぐが、ヨシュアによる猛攻が開始された。

 

双剣を用いた圧倒的な速度の乱撃。息をつく暇もなく繰り出される多方向からの攻撃に、巨大な大剣を振るう銀は紙一重で回避するものの、分が悪いようで追い詰められていく。

 

この《銀》とヨシュアとはさほど実力差があるようには思えない。なら、メイユイさんが加勢している状況ならば、まず負けはしないはずだ。

 

 

「ここだ」

 

「クッ」

 

 

ヨシュアの斬り上げに銀の大剣が弾かれ、暗殺者の体勢が大きく崩れる。続くメイユイさんの投擲した鎖が《銀》の剣に絡みつき、致命的な隙が生じさせた。

 

最後にヨシュアが止めを、というその時、黒い影がヨシュアと《銀》の間に転がり飛んできて、ヨシュアの行動を止めさせた。

 

 

「シニさん!?」

 

 

黒い影は満身創痍の銀髪のメイドの女性、顔見知りが弾き飛ばされてきたことでヨシュアはその場に固まってしまう。

 

そして《銀》はその隙を逃さなかった。絡められた鎖を千切り、大剣がヨシュアに振るわれ、咄嗟にヨシュアが体を庇うように盾にした腕を深々と傷つけた。

 

 

「くっ、何が!?」

 

 

シニさんが弾き飛ばされてきた方向に目を向け、次の瞬間私は太刀を振り抜いた。闇夜に火花が散る。

 

大剣の重量とその膂力に私はたたらを踏み、体勢を崩す。

 

 

「《銀》!?」

 

「油断したな」

 

 

もう一人の《銀》。いや、本物の《銀》。剣を合わせれば嫌でも理解できる。先ほどまでの《銀》がいかに未完成で、目の前の《銀》がいかに完成しているかを。

 

次に振るわれた大剣に私は完全にバランスを崩す。冷や汗が背中を流れる。明確な死を予感する。

 

次に振るわれる3度目の斬撃が、私の体を切り裂く明確な未来を知覚し、

 

 

「離れなさい!!」

 

「ぬっ!?」

 

 

3撃目が振るわれるその直前に、金色の髪の女性が身の丈を上回る長さの鉄塊と共に《銀》へと突貫した。

 

 

「まだ生きていたか。しぶとい」

 

「勝手に殺さないでほしいですわ!」

 

「クリスタさん!?」

 

 

黒い戦闘着を身に纏うクリスタさんの大剣は《銀》を捉える事はなかったものの、私の危機的状況を救うには十分だった。

 

 

「申し訳ございません、お嬢様」

 

「いえ、ラファイエットさんは?」

 

「……危険な状態です」

 

「…そうですか」

 

 

詳細を聞く暇はない。ラファイエットさんが加勢出来ない状態にあるという事だけ分かればいい。

 

敵はすぐ目の前、今にも私の首をかき切ろうと機を窺っている。

 

クリスタさんの身体はあちこち傷ついていて、それまでの激戦を物語る。先ほどよりも状況は悪くないが、良い状況というわけでもない。

 

 

「エ、エステル、私も!!」

 

「エリッサ、貴女ではまだ無理です」

 

 

言外に足手まといである意を伝える。エリッサは言葉に詰まり、酷く傷ついた表情になるが、ここで彼女に譲歩するわけにはいかない。

 

さて、と私は《銀》と改めて向き合った。

 

 

「不死身というのは複数いるからでしょうか?」

 

「さて、どうかな?」

 

「明らかに、あちらの《銀》さんを守りましたね。貴方にはそうする理由があった」

 

「……」

 

「だんまりですか」

 

 

言質はとれなかったが、どちらにせよこの場に2人いる《銀》はそれぞれ別人だ。完成形と未完成。

 

新たに現れた《銀》は明らかに上位者、研ぎ澄まされた、まるで波紋も波もない、鏡のような水面に映る月のような静けさを持っている。

 

それに比べて先ほどの《銀》は粗い。二人を比較することで良く分かる。

 

 

「一子相伝。不老不死の伝承の正体は、その技と知識、コネクションを全て弟子に継承させることで成立させているわけですね。幽霊の正体見たり枯れ尾花といったところでしょうか」

 

「ふむ、中々面白い意見だな」

 

「それほど間違ってはいないと思いますがね。《銀》という組織を運営するのは非効率ですし、弟子は常に一人か二人といったところでしょうか」

 

 

とにかく時間を稼ぎたい。時間が経てば軍が異変に気づく可能性が高くなり、増援を期待できる。

 

ヨシュアの方はもう信じるしかないだろう。メイユイさんが頑張ってくれれば、状況維持だけは出来るはず。

 

とはいえ、目の前の完成された《銀》はやはり別格だ。あれは父に匹敵するほどの化け物の類に違いない。

 

もっとも、そんな怪物のような暗殺者も、この屋敷の警備を突破するのには骨を折ったようだ。

 

 

「あれだけの備えをこの短時間で突破されるとは思いませんでした」

 

「割に合わん仕事だったがな。あの老執事はいいとして、何故メイドがこんなにも使えるのか」

 

「なら、どうして守りが固まっているこの家を襲ったんですかね?」

 

「闇夜に紛れる方が色々と都合が良かったのでな」

 

「それで気づかれていては、世話がありませんわね」

 

 

闇夜に紛れて寝首かこうとしたら、その前に気づかれたと。

 

 

「あの銀髪の女に気づかれたのは誤算だった」

 

「ボーナスださなくちゃですねぇ」

 

「そうしてやれ。あの女にはそれだけの価値がある。それまでお前が生きていればの話だが」

 

 

それで話は終わりとでも言わんばかりに、再び黒ずくめは動き出す。その踏み込みを受け止めたのはクリスタさんだった。

 

闇夜に赤く瞬く火花が散る。

 

 

「これ以上好き勝手にさせませんわ…」

 

「たった1人で私を抑えるつもりか…。自信過剰ではないか?」

 

「!?」

 

「えっ!?」

 

 

ガラスが割れる音。窓を数人の影が突き破る。そして同時に屋敷の陰からも何人かの影が現れた。

 

総数7。それらは全員、一人違わず同じ姿をしており、そしてその立ち振る舞いは完成された《銀》のそれと全く同一だった。まるでそれは―

 

 

「分身…? いつの間に!?」

 

「これは…分け身の戦技!?」

 

 

ユン先生から話では聞いたことがある。究極的に氣の扱いを極めたのならば、己の寸分違わない写し身を、自立させて行動させることが可能になると。

 

実演を見せて貰っていないが、窓ガラスを突き破ったそれらは実体を持つように思え、そして全員が巨大な大剣を構えている。

 

 

「ではゆくぞ」

 

「くっ、この程度!」

 

 

クリスタさんが剣を払いのけて、私のいる場所まで飛び退き、私とエリッサを庇うように立つ。

 

とはいえ、敵は8。ヨシュアらが相手しているのを含めて9。

 

対してこちらで戦えるのはエリッサやヨシュアらを含めても5人。分身体が本人よりも戦闘能力で劣るとはいえ、それがどの程度なのかは私も分からない。

 

 

「クリスタさん、何人ぐらい受け持ってくれますか?」

 

「……申し訳ございません。武運を」

 

 

謝罪の言葉と共にクリスタさんが敵中に走り出す。向かう先は、おそらくは本体。《銀》らが1体を残し彼女を迂回しようと動き出すが、

 

 

「█████████!!!」

 

 

金色の髪のメイドが、普段からは想像できない咆哮をあげた。流石に驚いたのか、《銀》の分身体たちの注意が彼女に集中し、脚が鈍る。

 

そして、その隙をつき、怒涛の勢いで《銀》本体に向け大剣をかざしながら突撃を敢行する。

 

 

「わたくしが相手です!!」

 

「小癪な!」

 

 

砲弾の様に放たれた大剣の切っ先。《銀》はなんとか剣で受け取るものの、一歩後ろへと押し出された。

 

脅威度が高まったのか、分身体の内の3体までもが彼女に殺到する。

 

しかし、残り敵4体がクリスタさんを回り込み、こちらへと向かってきた。私はクリスタさんが前後から挟撃されぬように、前へと踏み出した。

 

 

「エリッサ! 一体だけでもお願いします!」

 

「うんっ!」

 

 

とはいえ、同時に三人相手でも少々キツイ。

 

鉤爪のついた鎖が四方を取り囲むように飛び、私の動きを制限する。とはいえ、ただの鎖ならば斬るまでだ。居合をもって微塵にするが、その隙に三人に飛びかかられる。

 

動きを止めない。足を止めれば囲まれる。一撃一撃が重い。分身体と『本体』の攻撃精度と威力にほとんど違いがない。

 

そして厄介なのがその連携攻撃だ。

 

牽制とフェイントと本命の攻撃が織り交ぜられて、反撃にでる事が難しい。とはいえ、不可能ではない!

 

 

「弐の型《疾風》!」

 

「ぬっ!?」

 

 

独自の歩法を持って、三人の影を瞬時に斬る。ギリギリで防がれたが、分身体一体を斬りつけることには成功した。

 

消滅させるには至らなかったようだ。だが、一瞬の隙を生み出すことは出来た。瞬時に氣を丹田より練り上げ、全身に行き渡らせ、それを喉に集中させた。

 

 

「はぁぁぁ!」

 

 

《麒麟功》。毎日の修練により精度は高まり、運用におけるコストパフォーマンスや展開速度もかなり向上した。何よりも持続性においては3年前の二倍となっている。

 

この分野では父からはもう俺以上だとの言葉を貰ったが、あの人は色々と底が見えないので何とも言えない。

 

 

「見事なものだ」

 

「貴方ほどではありません」

 

 

分身体相手に一蹴出来ない時点でお察しだ。

 

クリスタさんは本体を含めた3体を相手に、守勢に陥りながらもその行動を牽制し続けている。

 

ヨシュアとメイユイさんはもう一人の《銀》相手に善戦しているが、相手が守勢に入っているせいで攻め切れていない。

 

エリッサの状況は良くない。分身体相手にかなりの苦戦を強いられているようだ。

 

つまり、この3体を早く倒し、他に加勢しなければジリ貧になる。

 

 

「では、行くぞ」

 

「……」

 

 

瞬間、視界から分身体の1体が消えたように見え、私の背後から剣を振り下ろす。

 

同時に怪我をさせた分身体は無数の針を投げてきた。私は這うように姿勢を低くして、針をやり過ごす。

 

そして、背後から同時に襲い来る上段からの斬撃。

 

 

「っ!?」

 

 

だが、それは織り込み済みだ。

 

次の瞬間、私は低い姿勢のまま背後の分身体に対して振り向きざまに太刀を振り抜いた。

 

刃はそのまま分身体を大剣ごと斬り飛ばす。実体のない剣などこの程度だ。

 

そして分身体の首から上がゆっくりとずれていって、床に転がった。そしてそれは霞のように蒸発し、紙の札が一枚だけ床に残される。

 

 

「五の型《残月》」

 

「ほう!?」

 

「まだです!」

 

 

間髪を入れずに私はその先の分身体2体の間を特殊な歩法により駆け抜けた。二体ともに一撃目を防ぐものの、

 

 

「弐の型《裏疾風》か。なるほど」

 

「同門の方と戦ったことがあるようですね」

 

 

裏疾風は二段構え。1撃目よりすぐ後に、鎌鼬とも称される2撃目を背後に見舞う。

 

が、仕留め損ねた。それほど甘くはない。

 

 

「すばらしい剣の冴えだ。既に剣聖の域に到達しているのではないか?」

 

「まだまだですよ。事実、誰一人として守れませんでしたから」

 

「フフ、逃げないのか?」

 

「逃げ切れるか微妙ですし」

 

 

逃げるだけなら可能だ。ただ、皆を見捨てるという選択肢がないだけ。

 

私は改めて《銀》の分け身と向き合った。

 

 

 

 

1分ほどの時間の経過。私と分身2体は膠着状態となり、その横で事態は悪い方へと急展開していく。

 

真っ先に脱落したのはエリッサだった。気絶しただけのようだが、そこからパワーバランスが崩れ始める。

 

倒れたエリッサを守るために私は守勢となり、クリスタさんは何とか分身体を1体倒していたものの、《銀》本体が分け身を追加していくせいで、徐々に追い詰められていっている。

 

そして、この追加されていく分身体が厄介極まりない。

 

これらの一部がもう一人の未熟な《銀》へち加勢に回り、ヨシュアらを追い詰めていく。

 

そして、

 

 

「…っ、ごめん、エステル」

 

「ヨシュア!?」

 

 

満身創痍のヨシュアが膝をつくと、メイユイさんも追い詰められていく。

 

刻々と悪化する戦況。理性は、ここで私が単独で逃げ出すことを訴え始めた。いや、馬鹿な。それだけは出来ない。

 

 

「お嬢様、これ以上は保てません。お一人で離脱を!」

 

 

《銀》本体と分身体相手に立ちまわっていたクリスタさんが、こちらに後退してきた。その姿は痛々しいほどに傷ついていて、全身が血だらけという状態。

 

だけれど、

 

 

「クリスタさん、少しだけ、時間を稼いでもらえますか?」

 

「……長くはもちませんわ」

 

「十分です」

 

 

ならば問題は無い。勝機はまだある。

 

私の背中を向けて立つ彼女の後ろで、私は静かに氣を練り上げる。

 

 

「ぬっ!?」

 

「これは…、止めさせろ!!」

 

 

《銀》たちが急いで私を取り囲もうとするが、

 

 

「█████████!」

 

 

咆哮。その細い身体の何処にどのような発声器官があるのかと疑うほどの、空気を震わせる遠吠え。威圧。

 

それは、猟兵たちが戦場にて編み出したという―

 

 

「ウォークライか!」

 

「私を…見ろぉぉぉぉ!!」

 

 

刹那、私は、私たちは白亜の断崖絶壁を幻視した。

 

高く聳え立つ断崖のような存在感が、《銀》の足をその場に縫い付ける。

 

その一瞬、《銀》の意識は完全に私から外れていた。

 

 

「目覚めろ龍脈、力を示せ」

 

「しまっ―!」

 

 

彼女が生み出した貴重な、僅かな時間。それで十分だ。

 

意識を世界の内面に没入させる、それだけの時間を稼いでくれた。

 

自らの内の外へ、外界の内面へ。この奥義は元来の《螺旋》の型とは大きく異なる。もはや似ても似つかない奇形であるが、その本質は違わない。

 

無にして螺旋。有る事と無い事は同じ。

 

把握しろ。見えないならば無いことと同じ、見出すならば有ることと同義。全ては観測の先に答えがある。

 

理の本質を捉えろ。

 

無数の針、鉤爪、札の付いた苦無が私に向かって投擲された。そんなものはどうでもいい。もう視えている。螺旋の導きに沿わせて収斂する。

 

そして全ての力は正確に、精密に、完全に制御された形で右手に握る太刀の先端へと伝導される。

 

そして私は剣を、ただ大地に突き立てた。

 

 

「奥義《竜陣剣》」

 

 

その瞬間、空間が歪み、同心円状にその歪みは拡散した。

 

私が為したのはただの呼び水。伝導する螺旋がこの世界に渦巻くより大きな力、その均衡の中にある大きなゆがみ、負荷を刺激し、地表へと表出させたに過ぎない。

 

地震兵器のようなものだ。マントルの対流が生み出すプレートの動き、それらが原因となる岩盤に蓄えられたストレスを、衝撃か何かで解放を促すように。

 

刺激したものが、地中深くの七耀脈であり、そしてそれが相互作用する高次元のエネルギーの奔流であるという違いはあれど。

 

解放されたエネルギーは物理的には振動として、導力学的には強烈な導力波パルスとして地表へと表出する。

 

あらゆる属性が掻き乱され、様々な物理現象として世界を掻き乱す。

 

投擲された暗器の全てはその運動エネルギーをかき回されて、逆方向へと弾き飛ばされた。

 

空間の歪みは衝撃波。不可視にして歪みは音速の数十倍を超えて伝播し、暗殺者とその分身たちを弾き飛ばす。

 

衝撃波が放たれるのと同時に大地にも異変が生じた。

 

亀裂と表現すればいいのか、あるいは魔法陣と称すればいいのか。とにかく、剣を中心に蜘蛛の巣のような、しかしより複雑な幾何学模様が大地の亀裂となって広がる。

 

その拡大速度はやはり音速を遥かに超え、それは瞬く間に直径百アージュを超える巨大な円陣を形成した。

 

そして暴力的な力は、純粋な導力波パルスとしては周囲の存在を電子レンジの如く分子レベルで加熱させ、

 

そして霊的なレベルにおいてはそれを招き入れた私の精神と感応して、より具体的な現象として世界に顕現しはじめる。

 

大地は激しく揺さぶられ、大地の亀裂から生じた光は大気を蛍光させ、白く輝く電光が亀裂から無数に生じて大蛇のようにのたうち回った。

 

衝撃波と地震によって建物の構造物はその強度の限界を超える力を受けて崩壊し、吹き飛ばされる。

 

それは世界の終末を現出させたかのような光景であった。

 

 

 

 

「ぐぉぉぉぉ!?」

 

 

《銀》は慄いた。

 

彼が生み出した分身体は、一瞬にして紙の札に戻され、炭になってしまった。

 

《後継者》はその衝撃と雷撃の嵐に耐えられず弾き飛ばされ、既に意識を失っていた。

 

彼、《銀》の肉体と言えば、まるで血が沸騰するかのような熱量に蹂躙されようとしていた。

 

しかし、そのような恐ろしい雷撃の蛇は彼女の兄妹や従者たちを襲わず、むしろ守る様に彼らを避ける。

 

異常だった。このような現象を彼はその生涯において一度も体験したことが無かった。そうして彼の疲弊し、そして病に蝕まれた身体を容赦なく雷の蛇が焼いていく。

 

口から血が滴る。ただ姿勢を低くして、この恐るべき嵐が過ぎ去るまで耐えるしかなかった。

 

 

 

 

ロレントより北西180セルジュ、上空10セルジュ。この距離からも闇夜を煌々と照らす光の濁流が視認できた。

 

 

「…ほう、あのバカ娘め。あそこまで高めたか」

 

「老師…、これはいったい?」

 

 

黒髪の少年、リィン・シュバルツァーは軍用飛行艇の小窓からその異常な現象を食い入るように見つめる。

 

なまじこの手の道に片足を突っ込んでいることもあり、リィンは目の前の事象が如何に現実離れしたものであるかを理解していた。

 

あれは人間個人が為せるような規模の現象ではない。火山噴火か竜巻か、そういった自然の猛威の類に違いないと理性は判断する。

 

しかし、その隣で対照的に、リィンが師事する剣の師、ユン・カーファイは面白そうに口角をあげ、そして個人を指す言葉を漏らすのを見て、その推測が間違いである事を知る。

 

そして、彼が何か事情を知っている事を薄々察する。

 

 

「娘……、まさか、老師、あの現象を引き起こしたのは…?」

 

「うむ、あの娘、毎度のことだが想定外の事象を引き起こすの」

 

「あんな…、あんな力を個人が御しているっていうのか…?」

 

 

前方、大地に刻まれた直径百アージュの円陣は魔法陣のように光り輝き、その様子は遠目でもはっきりと見て取れる。

 

白い雷はまるで大地に封印された恐ろしいものを呼び覚ましたような、そんな畏れさえ少年に覚えさせる。

 

 

それは龍の降臨だった。

 

 





《銀》のおとーさんとの戦いです。

31話でした。改訂版ではメイドさん(金髪)を強化しました。メイン盾。

<ハウリング>
補助クラフト、CP20、自己、基本ディレイ値3000、[挑発効果] ・DEF+25%・被ダメージ時CP+10
叫び声で威圧と気合により敵の注意を自分に集中させる。持続効果はゲーム的に3ターン。

<ウォール・オブ・アルビオン>
補助Sクラフト、CP100~、自己、基本ディレイ値3500、[敵攻撃完全自己集中3ターン]・最大HP30%分のダメージ遮断・「全状態異常防止3ターン」・貫通攻撃遮断
敵を威圧し、その攻撃を一身に受け止める奥義。
ゲーム的には直線貫通攻撃を自身のいる位置で受け止め、後ろに貫通させない効果も発生する。なお、全体範囲・円範囲攻撃などは受け止められない模様。



グランディア好きですか? セガサターンのRPGの中ではアレが一番秀逸だと思うのです。壁越えした時の感動は正直震えました。

竜陣剣はロマンです。ガドイン直伝カッコイイ! でも結局どういう原理で相手にダメージ与えるのかいまいちよく分かんない。

興味がある方はプレイステーションでもできるのでやってみてはいかがでしょう。グランディア3は…、多くは語りませんが、プレイヤーの好み次第ということで。



次回、リィン君のリベール訪問。なお活躍はない。

では、閃の軌跡についての致命的なネタバレを。


仲間たちの危機に際してリィンに語りかける声が脳内に響く。
『力が欲しいか? 力が欲しいのなら…くれてやるっ!』
そしてリィンは魔剣《ヴァリマール》の力により抜剣覚醒するのだった!

抜剣覚醒しすぎるとカルマ値が溜まってバッドエンドになるので未プレイの人は要注意。

《ヴァリマール》の正体はナノマシンの集合体。焔の至宝から生まれた分体の一つで、金属生命体であり、過去にナノマシンを統括するコアを埋め込まれることでリィンは特別な力を得た。

そう、魔剣《ヴァリマール》には他の分体を殺す特別な能力が備わっているのだ。

敵キャラにも分体を埋め込まれた奴が出てきて、リィンたちの前に立ちはだかる。終盤では魔剣《オルディーネ》を持ち抜剣覚醒すら行う謎の敵が登場する。

新たなる魔剣の使い手を前にリィンの魔剣《ヴァリマール》が折られ、リィンの心まで折られてしまう。
リィンは立ち直り、再び剣を取ることができるのか?


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