【改訂版】その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ   作:矢柄

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「んー、エイね」

 

「エイじゃな」

 

「好き勝手言いやがりますね」

 

 

さて、時は流れエリッサがグランセルへと去り、それでも私の日常は変わらずZCFと王立航空研究所を中心としている。

 

ちなみに今日は新型戦闘機のモックアップが完成したのをお披露目している所だ。そしてこの暴言である。解せぬ。

 

まあ確かにその姿はお世辞にも格好良いとは言えない。なんというか、空を飛ぶ鳥的な要素が完全に剥落し、海洋生物のそれに酷似している。

 

そういうわけで、ラッセル博士とエリカさんから散々な評価を頂いている訳である。主に優美さの観点から。機能美を感じていただきたいのに。

 

さて、その機体の方であるが、まず、水平尾翼が無い。それどころか胴体と翼の明確な違いが見当たらない。

 

底面は平らな一枚板に見え、側面に細長い、中央に大きめの扉のような構造が見て取れる。ウェポンベイである。扉と胴体の接線はジグザグに切り取った奇妙な形状。

 

翼は端から始まり後端まで続く。上から見たら底辺がジグザグに切り取られた三角形に見えるはずだ。しかし平べったく、翼と胴体の継ぎ目が判然としないブレンデッド・ウィング・ボディー。

 

左右非対称の台形の二枚の垂直尾翼は内側に傾く全遊動式。インテークの入り口は菱形で、胴体を形成する傾斜とインテーク、垂直尾翼の傾斜はすべて一致している。

 

排気ノズルの形状も特殊で、上側が短くなった上下非対称。上下20°に偏向する二次元ベクタードスラスト。

 

 

「垂直がダメなのです」

 

「それは分かるがの」

 

「直角が交わる窪みは最悪です。あと、鋭角もやっぱりダメです」

 

「再帰性反射と回折に対する対策ね」

 

「平面が向く角度を一定にするように調整しました」

 

「まあ、インテークと胴体の膨らみの部分と、尾翼の傾きが平行になってるのは分かるわね」

 

「これは飛ぶのかの?」

 

「飛びます。というか、飛行船が飛ぶんですから、純粋に浮くだけなら形状なんて正直どうでもいいんです」

 

 

Xの世界の関係者が聞けばふざけるなと言うような内容であるが、あちらもフライ・バイ・ワイヤで割と無茶してるのだから文句を言われる筋合いはない。

 

浮いているのなら、後は推進力をつければいい。大抵の問題は推進力とフライ・バイ・ワイヤで解決できる。推力偏向ノズルがあればなお結構。

 

このXの世界のF-117とB-2の相の子のようなゲテモノは、とりあえず来年度末ぐらいには試作機を完成させて実際に飛ばしてみる予定になっている。

 

 

「私はこっちの方が好きだけど」

 

「わしもじゃな」

 

「まあ、それは、好みの差ですから。ええ、きっと」

 

 

新型戦闘機の素案はいくつかあり、F-22をイメージしたモックアップも用意している。分かり易くてオーソドックスで堅実な設計。水平尾翼があると安定性が違う。

 

何よりも格好よさが段違い。格闘性能を考えればクロースカップルドデルタ翼も考慮に入れるべき。カナードと水平尾翼はRCSに関して意外と変わらなかったり。

 

ただし、垂直尾翼は垂直だとRCSが高まるので、2枚のV字型が良い。内側に傾けるのも有といえば有りなのだけれど、すごい前衛的な形状になりそう。

 

 

「超小型反重力発生機関の見込みはついたんじゃろ?」

 

「ついちゃったんですねぇ。どうするんですか、あれ?」

 

「どうするも何も、出来ちゃったのは仕方がないでしょう?」

 

「でも、なんでああなるのか一切分からないんですよ?」

 

「それを追求するのがわしら科学者じゃろう」

 

「だからって、あんな訳の分からないものを実用化するのはどうかと思うんですけどね」

 

 

ある試行錯誤の結果として昨年、偶然生み出された新発明というか新発見。

 

それは本来全く異なる目的で作られたのだが、想定を上回る斜め上の結果を生み出す事となり、私達関係者は大きく困惑させられた。

 

それはある意味において現代導力理論の欠陥を突きつけるものであり、しかしとにかく有用であることは理解された。

 

これにより様々なブレイクスルーが生じ、いくつかの技術的な限界が取り払われた。融合導力魔法における同調の問題にしかり、重力制御機関の体積に関する問題にしかり。

 

モノがモノだけに、これの実態を知る者はZCFでもごく一部。軍情報部にだって流してはいない。ジョーカーとして手元に残しているが、正直なところ切りたくない札である。

 

何しろ、私やラッセル博士ですらこの新素材において何が起きているのか今のところさっぱり分からないからだ。

 

 

「というか、エリカさんはエリカさんでとんでもないモノ作っちゃいましたし」

 

「核熱ジェットエンジンのこと?」

 

「それです」

 

 

正確にはロケットエンジンに近いもので、推進力を生み出すために大気を用いるが、別に大気が無くても推進力は発生する。

 

トリプルミラー型核熱ジェットエンジン。磁力に加えて電位による障壁、さらに反重力による障壁によりプラズマを閉じ込め、本来は反応に手間のかかるホウ素と水素を反応させるシステム。

 

重水素と三重水素を用いないのは中性子により周辺施設や作業員を被曝させないため。発生するのはα線なので比較的防護はしやすい。

 

ヘリウム3と重水素の反応は中性子を発生しないが、ジェットエンジンには向かない。短期での高効率反応を目指すためD-D反応の割合が高くなり、それなりに中性子が発生する。

 

発電ならばヘリウム3燃料はそれなりに有用だが、この天才様はCNOサイクルを実現してしまったのでその必要性は薄れている。

 

プロペラントとしては民間用ならば水を、軍用や宇宙開発の分野ではキセノンなどの希ガスか二酸化炭素を想定している。

 

とはいえこの画期的な推進システムもまだまだ問題が多く、出力も安定していない。それに容量が大きすぎて航空機や宇宙船に搭載するにはさらなる小型化が必要になる。

 

 

「だから、もうちょっと高効率なものが作りたいのよね」

 

「なら縮退でもさせますか?」

 

「……なるほど、その手があったわね」

 

「なんじゃ、面白そうな話じゃの」

 

「え、いや、冗談ですからね?」

 

 

いや、投げやり気味に適当なことを言っただけなんですけど、なんでこの人たち本気になっているんでしょうか。解せぬ。

 

そうしてエリカさんはものすごい勢いで広げたノートに数式と図を描き始めた。それにラッセル博士が加わり収拾がつかなくなる。

 

おい、それマイクロブラックホールじゃないか、やめろ、やめろ下さい。このヒト達はもしかしたら世界を滅ぼすかもしれない。

 

そもそも、次世代機の研究もそこまで急がれているものではない。

 

ラファールとミラージュという戦闘爆撃機で国防は十分であるし、そもそもあれらも軍全体に行き渡っているわけではない。

 

Xの世界で言うところの第4世代ジェット戦闘機とも言うべきこの二つの戦闘機は、重力制御という反則技により垂直離着陸機として機能し、豊富な搭載量は爆撃任務にも適用できる。

 

フライ・バイ・ワイヤと導力演算器による運動能力向上は今も更新され続けており、空戦能力もまだ伸びシロすら有様だ。

 

そしてお隣のエレボニア帝国といえば、まだ音速にすら到達できないプロペラ機が軍に行き渡ったかなといった状態。

 

ジェットエンジンについてはラファールの登場に触発された形で、今年になってようやく基礎研究を開始する部署がラインフォルト第三製作所に開設されたという具合だ。

 

そもそもエレボニア、カルバードともにレーダーすら満足に整備されていない状況ではステルス機を今すぐに投入する意味すら怪しい。

 

ということで、これはあくまでもステルスという概念の研究を行うための試験機となり、調子に乗ったZCFの熱心な(変態的な)技術者によってさまざまな新技術が投入されることになっている。

 

推力偏向ノズルやステルス性に適した形状の実証。排熱の抑制による対赤外線追尾。レーザーによる赤外線シーカーを無力化するアクティヴなミサイル防御。

 

これらは私の常識的な発案だ。

 

だが、音速を超える空気が流れる層を機体表面に形成し、空力加熱や抗力を軽減する導力流体制御器だとか、尾翼のようなとても薄い構造体の内部に重力制御装置を組み込む技術だとか、

 

他にも、アクティブステルスとか、画像素子による光学迷彩。戦闘機レベルの筐体に搭載可能な戦術高エネルギーレーザー兵器の開発なんかはどうかと思う。

 

いや、私もアイデアは出したし調子に乗って関わったし、ラッセル博士とかエリカさんとかと一緒に悪乗りしたことはあったが、なんでお前ら数年で実用レベルにもってきてるの?

 

 

「あー、私、ZCFに戻るので。一緒の飛行船にのります?」

 

「そうね。ここの設備も悪くないけど、向こうのほうが落ちつくもの。ティータもいるし」

 

「そうじゃな」

 

 

そうして私たちは飛行船に乗りツァイスへと帰る。半島からツァイスまでは850セルジュほど。飛行船の速度ならば30分で到着してしまう。

 

そうして着陸した空港にて、私たちを出迎えたのはリシャール大佐だった。

 

 

 

 

「……なるほどのう。どうやって手に入れたのかは知らんが、こいつは大したもんじゃな」

 

「そうね。今のZCFですらこれ程のものは作れないでしょう」

 

 

リシャール大佐が持ち込んだ案件は即座にZCFのスタッフにより見聞される。

 

機密性の極めて高い情報なだけに、取り扱えるスタッフも限られてはいるが、誰もが一流の科学者や技師だ。

 

持ち込まれた資料は導力結晶チップに納められた画像データと各種数値、そして動画である。そこには全高7アージュほどの蒼い騎士人型が映し出されていた。

 

すなわち、人型機動兵器。

 

エレボニア帝国における最大の企業、ラインフォルト第五開発部から情報部が入手した仮称《機甲兵(パンツァーゾルダ)》についての機密情報にそれはあった。

 

 

「…シュミット博士の発明ですかね?」

 

「少なくとも資料の設計図にある《機甲兵》にはアヤツの設計思想が表れておる。じゃが、この蒼い機体は別物じゃな。アヤツにはこんな華美な機体を設計する趣味はないじゃろうからの」

 

「となると…」

 

「この蒼いのは間違いなくアーティファクトね。そしてそれを解析し、量産化に漕ぎ着けたと見るのが正解でしょう」

 

 

巨人の外観は巨大な鎧騎士のよう。昆虫の腕のような翼を背中に背負い、頭部には騎士兜のような飾りと見るべきものもある。

 

この青い機体のデザインには中性的な美術的要素が含まれており、優美で複雑なラインと装飾には機能的な意味を見いだせない。

 

つまり、試作機や軍用機と呼べるものではない。

 

対して他の機体(設計図のみ)は工業的なデザインが見て取れる。これは正しく量産機、軍用機と考えて良いが、そのデザインには青い機体の影響が見て取れる。

 

となればエリカさんの言う通り、蒼い機体は発掘されたアーティファクトと考えて良いだろう。問題はこの機体の分析と技術の取り込みがどの段階にあるか。

 

 

「大佐、生産は既に?」

 

「いえ、現在は設計図のみで部品の試作が行われている段階かと」

 

「いつ頃から研究開発が始まったんでしょう? 少なくとも関節部やインターフェイスの設計なんかの完成度は一朝一夕のものとは思えません」

 

「いや、それはお主が言う事ではないの」

 

 

私はほとんど反則をしているので理由がある。が、この目の前にある機体とデータには同じ雰囲気が感じられた。

 

すなわち、多くの試行錯誤を無視して正解に至る過程の跳躍。となると、向こうにもそういう存在が登場したか、あるいは例の結社が関わっているか。

 

 

「G・シュミット博士ですか…。いったいどういう人なんですかね?」

 

「ん、そうじゃな。基本的には研究さえできれば他はどうでもいいといった男での。それがもたらすであろう社会への影響など全く考えん」

 

 

ラッセル博士が顔をしかめてそう評する。優れた研究者であり技術者、しかしながら極めて気難しいとは聞いていたが、ラッセル博士とはよほど馬が合わなかったのだろう。

 

研究結果がどのように社会に影響を与えるかを考えるべきは、その社会を担う人々、あるいは政治家の仕事であるという思想は、まあそれなりに理解できる。

 

結局のところ研究というのは競争という側面があるから、自分が世に出さなくてもいずれ誰かが発明するだろう。再発見や再発明というのはこの分野では良くある事だ。

 

だからといって、何もかもを全部他人に放り投げてしまうというのはどうなのだろう? 私も飛行機という技術を世に送り出した分、そこまで強く言うことは出来ないのだけれど。

 

だけれども、その発明や研究がもたらすだろう危険性を常に発信し続けるのは、警告し続けることは研究者の倫理としては必要だと思う。

 

抗生物質の発明者が、その濫用について強い警告を発していたことは知られている。そしてそれは多剤耐性を獲得した細菌の登場として現実となった。

 

核兵器を作った私は、その危険性を、それがもたらすだろう悪夢を発信するのは私に課せられた義務である。

 

宇宙利用の正の側面だけではなく、負の側面を伝えることも義務だ。惑星軌道上に大量破壊兵器が溢れるという悪夢は絶対に阻止しなければならない。

 

 

「博士。この機体は王国の脅威たりえますか?」

 

 

リシャール大佐の真剣な表情。国防に関わる彼の視点は、つまりこれがリベール王国を脅かすものであるかどうか。私たちのような技術的な視点とは少しばかり異なる。

 

 

「そうですね。二足歩行のこの機体に関していえば武装飛行艇の敵にはなりえません。この青い騎士についても、飛行能力を有してはいますが空力的に見てラファールでの対処は十分に可能でしょう。平野での戦闘ならば」

 

「つまり、市街地や山林では?」

 

「このリアクティブ・アーマーというのが曲者です。歩兵の対戦車兵装では対処できないかもしれません。山岳地帯や森林の多い国境地帯では戦車が活動できませんし」

 

 

障害物の少ない戦域においては、戦闘ヘリとしての能力を持つ武装飛行艇が圧倒的に有利になるだろう。そもそも頭長のある二足歩行型というのはそれだけで不利になる。

 

無駄な関節や大きな前面投影面積は装甲の厚さを制限する。高い重心と細い四肢は火力に制限をもたらすだろう。

 

だが、

 

 

「最大の懸念はこの技術が他に運用された場合ですね。たとえば、多脚戦車やパワードスーツへの応用がなされれば、数に勝る帝国に押し切られる可能性もあります」

 

 

エレボニア帝国とリベール王国国境は峻険な山岳地帯だ。そしてその先には深い森林地帯が広がっている。視界が悪く、足場も悪く、霧も出やすい。

 

これらの地域ではこういった踏破性のある脚を持つ兵器が高い効果を示す可能性がある。視界の悪さは遭遇戦を多発させ、それが二脚型の兵器の戦術的価値を十二分に高めるはずだ。

 

 

「とはいえ、このままなら導力パルス兵器には無力ですね」

 

「繊細な導力結晶回路が仇じゃの」

 

「対策は可能よ」

 

「費用対効果の問題ですよ。全てのシステムが導力仕掛けなら、それら全てを保護する必要がありますし、関節部の保護についての難易度は戦車や飛行艇におけるそれと比較になりません」

 

 

対導力エネルギー砲・導力魔法対策も一応はなされているが、あくまでも戦術導力器に対抗できる程度のレベルだ。

 

極端に波長の短い、過度な導力パルスの負荷には耐えきれないだろう。

 

ただし、それらもこの青い騎士、発掘されたアーティファクトの前にどの程度の効力を持つのかは不透明ではある。

 

 

「しかし、帝国でこのようなアーティファクトが出土するとは驚きじゃの」

 

「帝国には《巨いなる騎士》と呼ばれる伝承があるようです。『戦乱の世に“焔と共に輝き甲冑をまといし巨大な騎士”現れて、戦を平定する』と」

 

「焔…。なんとなく、嫌なワードが出てきましたね」

 

「七の至宝がらみである可能性…ね。どんなアーティファクトなのかは分からないけれども、これだけのアーティファクトを残す以上、かなりの大物の可能性があるわ」

 

「むしろ、この人形兵器よりもそちらの方が脅威と考えるべきでしょう」

 

 

雰囲気からすれば、その奥に控えるのは『火の至宝』だろう。属性からして破壊的であり、軍事転用の容易さを想像させる。

 

そのようなモノがエレボニア帝国の手に渡ればどのような結果を生むだろうか? 彼らが十分な自信をつければ、再びリベール王国に対して野心を抱かないとも限らない。

 

 

「ですが、差し当たっては第五開発部よりも第二製作所の動きの方を注視すべきかもしれません」

 

「蒸気機関を搭載した戦車…ね。いったい何のためにこんな物をって、まあ、少し考えればわかるわね」

 

 

よりにもよって蒸気機関を用いた戦車である。冗談かと思うようなシロモノではあるが、実用レベルにまで持っていったのは流石ラインフォルトというべきか。

 

しかし、よくぞ蒸気機関を戦車に収まるサイズにまで縮小できたものだ。

 

熱効率は内燃機関に優れる部分はあるが、十分な出力を得るにはどうしても大型化してしまうという欠点からは逃れられないはずなのに。

 

そして、そんな労力に見合うだけの戦術・戦略的価値をこの戦車に与えるためには、考えられる状況は限られる。すなわち、

 

 

「導力エネルギーが使用できない環境下での機甲戦力の運用ですね。あちらも導力パルス兵器を開発した…とか?」

 

「それなら既存の戦車に一時的にシートなりを被せて防いだ方が安上がりだわ。それだけの理由で蒸気戦車なんて色物を開発する必要はないと思うけれど」

 

「ならば、他の何か…じゃろうか?」

 

 

その原理は分からないが、とにかく帝国は導力が使用できない状況を生み出し、その環境下での戦闘を前提とした武装を少数であるが製造している。

 

で、あるならば王国側もそれに対応した兵器を用意すべきだ。ならば、とりあえずは―

 

 

「私は新型の内燃機関でも設計しておきましょう。非導力化については以前から蓄積もありますし、ガソリンや軽油は共和国から供給を期待できます」

 

 

石油由来燃料を用いたジェットエンジンの開発は既に完了している。内燃機関についてもすでにガソリンエンジンが存在し、発電機を組み合わせた通信の非導力化も実現している。

 

とはいえ、そこまで効率的ではないのが難点であり、戦車に搭載するようなガスタービンエンジンはいまだ作成していない。

 

 

「ふむ、ならワシはこの人形と同じようなものを作ってみようと思うのじゃが?」

 

「まあ、お任せします」

 

「待ちなさいアルバート・ラッセル。私を無視して勝手に作れるとは思わないことね!」

 

 

そうしていつも通り取っ組み合うエリカさんとラッセル博士。緊張感のいまいちない二人の遣り取りに私はクスリと笑みを漏らす。

 

私はこの時、こんな事態においてもこの二人や、あるいは父さん、そして優秀なリシャール大佐やモルガン将軍がいれば対処しきれると考えていた。

 

すぐ傍で苦悩する大佐の事を深く考えずに。

 

 

 

 

 

 

「大佐、どうでした?」

 

「やはり博士たちもあれが《至宝》にまつわるものだと予測していたよ」

 

「情報部の予測通りというわけですね。女王陛下は?」

 

「七耀教会に問い合わせると。悠長なことだ。例の導力爆弾《ソレイユ》の運用も制限をかけたまま…」

 

 

いや、あの恐るべき兵器にしろ《火の至宝》の前に通用するかは未知数だ。未知の物こそ恐ろしいというのは的を得た表現だ。

 

であるならば、帝国がそれを手にする前に攻め滅ぼすか、あるいはこちらも対抗して《至宝》を手にするかだが、それを女王が許すはずもない。

 

城の地下に隠された導力反応の調査の許可も出ていない。アルジャーノンは効果的であるが、毒ガスや生物兵器には脆い部分がある。

 

目の前の赤い仮面の男が不敵な笑みを浮かべる。ロランス・ベルガー。ジェスター猟兵団から引き抜いた恐るべき剣の使い手。

 

相当のキレ者でもあり、カノーネ君に並ぶ私の右腕として活躍してもらっている。彼をスカウトしたのは…はて、いつだったか?

 

 

「やはり、計画を進めるしかないようだ。彼女は反対するだろうが、彼女の能力を今以上に、十全に国力に反映できる体制を構築するべきだろう」

 

 

エレボニア帝国の不穏な動きがなければ、正直なところこのままの体制を維持するのも悪くはないと考えていた。

 

女王陛下の調和を重んじる外交も、今のリベール王国の国力を背景にすれば極めて有効に働いている。

 

陛下の態度は多くの国々にリベールが正義、エレボニアが悪という印象を決定づけている。

 

国力の増大とともに高まる軍事力も、陛下のイメージが軍事国家としての印象を弱め、エレボニア帝国への抑えという肯定的なイメージ戦略を打ち出すことに一役買っていた。

 

そういった我が国への印象は貿易面において優位に立つのに役立っている。少なくともラインフォルトは侵略国家の企業というイメージを免れえない。

 

そしてZCFは正義の味方、しかもその技術力により強大な侵略国家に勝利した側というイメージを前面に出せる。

 

これは大陸諸国においてZCFの、国内企業のアドバンテージとなっていた。

 

だが、それはあくまでもエレボニアがこれ以上我が国に野心を抱かないという前提条件によるもの。彼らが強大な力を手に入れればどうなるか。

 

帝国軍や帝国貴族たちはリベール王国を過度に恐れ、そして憎むとともに嫉妬心を抱いている。苛烈な戦略爆撃はそれだけ彼らの心を抉ったのだろう。

 

そして、セントアークとバリアハートを無血開城し、ノルティア州の工業地帯を灰塵にされ、帝都ヘイムダルまでも陥落させられた記憶は拭いされないようだ。

 

 

「しかし大佐、いいのですか? この計画では、貴方は最終的に法廷に立たされることになっている」

 

「ふっ、構わないさ。これだけの混乱を起こせば彼も軍に戻らざるを得なくなる。そして、《空の至宝》を王家に献上すれば計画は成功となる」

 

「大した愛国心ですね。しかし、次に玉座に座る王が姫殿下で良いのですか? 傀儡にするには聡すぎると考えますが?」

 

「傀儡にするつもりはないさ。何よりも彼女と懇意にしている姫殿下ならば、他の王族よりもまだ安心できるというものだ。そもそも次代の王が再び女王となるのは、ある意味において悪くはない。強大な力は警戒を生むが、女王が再び元首となればそういった印象も多少は薄れるだろう」

 

 

リベール王国が《空の至宝》を得た場合、多くの国々が我が国を警戒するだろう。何よりもアルテリア法国の横やりが入る可能性は高い。

 

七耀教会との協定なりを結び、至宝の所有を確定した後に女王陛下には玉座を姫殿下に譲ってもらう。これが成れば私は舞台から退場しても構わない。

 

姫殿下は彼女に強い影響を受けている。女王陛下は『力』に対して否定的な思想を持っているが、姫殿下は外交重視の姿勢を持ちつつも軍事力に対してはより現実的な態度を示していると見られている。

 

何よりも勤勉で誠実な態度と、陛下譲りの聡明さ、そして可憐な容姿は国民からの人気も高い。王としての器ならば、他の王族とは一線を画している。

 

対して他の王族は見たところ器が小さい。特に陛下の甥であるデュナン公爵は自己中心的で浪費癖が強い。単純な性格は傀儡としやすいが、その強欲は周辺国に要らぬ警戒を呼び起こすだろう。

 

 

「最後にクーデターの主犯である私が舞台を降りれば、姫殿下が傀儡であるという誤った印象はさらに薄まるだろう。ならば私は斬首刑となるのが最も良いが、さすがにそれは無いだろうな。まあ、国外追放かノーザンブリアに左遷されればシナリオとしては上出来だ」

 

 

後はエステル・ブライトと、可能ならばカシウス・ブライトがこの国を取りまとめるだろう。一度引退したあのヒトを軍に戻すというのは気が引けるが。

 

それでも、この二人と姫殿下の才気があれば、私程度の人材が消えようと大した影響はあるまい。特に彼女ならばあのオズボーンとも対等に張り合えるだろう。

 

私の後釜はシードにでも任せてしまえばいい。

 

あの男は生真面目で苦労性ではあるが、私に代わる人材としては申し分がない。彼ならばモルガン将軍に代わり軍を率いるに十分すぎる。

 

事を成した後は、全て他人任せというあまりにも無責任な計画。それは私の元来の在り方からは大きく外れる。

 

しかしながら、それによって得られるリターンを考えれば実行すべきだろう。それに、同時に一時的な独裁に伴う強権でもって政府と軍に巣食う老害たち、不正を働く寄生虫共も一掃できる。

 

 

「カノーネ君には苦労かけることになるがね」

 

「彼女なら大佐の行くところ何処にでも着いていくでしょう」

 

「まったく、私のような男のどこが良いのか…」

 

「ほう、彼女の気持ちには気づいていましたか」

 

「ふっ、私はそこまで鈍感ではないよ。さて、我々も仕事を始めようか」

 

 

 

 

 

 

「やあ教授。そろそろ始めるのかい?」

 

「ああ、博士の方も調子はどうかね?」

 

「問題はないよ。リベール王国の早期警戒網は厄介ではあるが、出し抜くことは不可能ではないね。教授の方は苦労しているようじゃないか?」

 

「あの国の諜報網の精度が当初の予想を超えて高くなったからな。しかし、そのおかげで面白い人物とツテができた」

 

「怪盗紳士君は意外に協力的だからねぇ」

 

「ふふ、しかし今回の計画、博士にも来て頂けるとは恐縮だ」

 

「なに、私の興味は彼女にあってね。かつての古代ゼムリア文明にすら無かった設計思想…すばらしいとは思わないかね。これほど私の興味をそそる対象はレン以来だね。…だから分かっているよね?」

 

「ああ、もちろん。彼女もまた面白い歪みを持っている」

 

「頼むよ教授。そのために騎神の情報をリベールに流すことを許可したのだから」

 

「分かっているとも。しかし、あれは剣帝を潜り込ませるのにどうしても必要だった。なに、事が進めばリターンはそれ以上だ」

 

「ふむ、君の手腕に期待しようか」

 

「では、我々も仕事を始めようか」

 

 





ステルス機はどういうのがいいかしら? オーソドックスにF-22とかF-35系? あるいは空飛ぶエイみたいなキワモノでいくか。YF-23というのも…。

最近はアクティヴ・ステルスに嵌っていますがね。


043話でした。

というわけで、原作通りの開始となります。うん、まあ、カプア一家とか出そうと思うとどうしてもね。

新たなゲストとしては第六柱さんにご登場いただきます。あとは、閃の軌跡Ⅱのプレイ次第で執行者No.1さんにも登場いただくかも。あれ、これ勝てなくね?

SCの終盤まで書けたら、ヴァレリア湖上空での飛行戦艦同士の殴り合いを描写する予定。以下に改善がなされたグロリアス改の素案を掲載。

使徒とかと戦えるレベル。ラミエルなら勝てるかも。ゼルエル相手ならちょっと無理かも。いったい誰と戦っているんだ? なお、防御面ではこれ以上のチートが…


《ぼくのかんがえたさいきょうのぐろりあす》
(装備案その1)超々高出力光学兵器『ディスラプションレーザー』
出力15テラワットにも及ぶ超高出力レーザー砲。6基の光学式標準砲塔より全天球方位に照準・照射を可能とする。ロイドは死ぬ。

(装備案その2)広域速射砲『プロトンキャノン』
近接航空防御用のエネルギー兵器。アイオーンType-αが搭載しているモノと同じ。ロイドは死ぬ。

(装備案その3)垂直発射装置
総数128セルの垂直発射方式のミサイル発射機。巡航ミサイルから対艦ミサイル、対空ミサイルまでなんでもござれ。ロイドは死ぬ。

(装備案その4)艦首光波衝撃砲『クエーサー』
1kgの質量に相当する重量のブラックホールを蒸発させ、そのエネルギーを前方に収束照射する戦略兵器。ロイドどころかクロスベルが消し飛ぶ。


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