何となく燕ちゃんをヤンデレにさせてみる。   作:心太マグナム

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はい今回でプロローグ終了です。

少し急ぎ足で書いたのでみなさん"?"と思い浮かぶかもしれませんが許して下さい。作者文才無いんです!これが作者の限界なんです!




久信の日記と彼の進路

A年X月Y日

今日から日記をつけようと思う。今日は鳶が始めて僕をお父さんと呼んでくれた記念の日だ。これから毎日その日に起きた何気無い日常の事を書いて、いつか大きくなった鳶と二人で見て思い出話ができると嬉しいな。ま、まぁたまに愚痴も書いちゃうかもしれないけど……。でもそれがいいスパイスになって鳶と僕が笑えるかもしれないし、書いちゃおう!うん!

 

A年V月X日

鳶と燕ちゃんはとても仲がいい。そのせいか鳶は何時でも燕ちゃんの後ろについて行くようになり、燕ちゃんも後ろについて行く鳶を見て笑っていた。鳶はほんと、お姉ちゃんっ子だ。今はまだいいけどいずれ離れなければいけない時がやってくるだろう。鳶が燕ちゃん離れできるか心配だなぁ……。

 

C年J月N日

鳶の燕ちゃん離れは予想以上に早くやってきた。あれだけお姉ちゃんお姉ちゃんと言っていたのに何時からか燕ちゃんの後ろについていかなくなってしまった。燕ちゃんは悲しそうだったけど、いずれやってくる日が今日だったとしか言いようが無い。

 

鳶は宿題も一人でやるようになったし、武術の鍛錬も前より真面目に取り組んでいる。きっと何か良いきっかけが鳶を変えたんだろう。鳶を変えたきっかけが僕じゃ無いのは親としてちょっと悔しいけど今の僕には頑張る鳶を見守ってあげる事しか出来ない。頑張れ鳶!!

よーし!鳶も頑張っている事だし僕も株の運用を頑張るぞー!松永の家名を高める為でもあるけど、一杯稼いで鳶と燕ちゃんに色々な事をさせてあげたいしね!

 

C年G月O日

うわー!?どうしよう!?株で大失敗しちゃったよ!?ミサゴちゃんは呆れて出て行っちゃうし借金ができちゃったよ!!こんな事なら株なんてやらなければよかった……。燕ちゃんと鳶は僕の事が心配だからと残ってくれたのはとても嬉しいけど、残ってくれた理由が理由だからちょっとツラいです、ハイ。

ハァ〜、こんな僕一人で子供達二人をちゃんと育てられるか、心配だなぁ……。

 

D年E月V日

一年前、僕は二人をちゃんと育てられるか心配していたけどそんなのは杞憂だった。燕ちゃんと鳶はとても出来のいい子だ。二人は子供ながら何でもそつなくこなすから手間が全然かからない。親としては全然頼られなくてちょっと悲しい……。

 

D年L月Z年

驚いた。僕は今とても驚いている。二人は出来が良すぎるなんてもんじゃなかった。今日燕ちゃんと鳶を近所でやっていたフェンシング体験教室に連れて行くと二人は少し練習しただけで何年間もフェンシングをやってきた子供達相手にアッサリ勝ってしまった。先生たちもこれには驚いた様で直ぐに僕の元へきてこの教室に入れたいと言ってきた。

最初は借金の事もあったから断ろうとしたけど先生は代金はこちらが受け持ちますからとかなり食い下がってきた。やがて根負けした僕が燕ちゃんと鳶を見ると二人は気が向いた時でいいならと了承してくれた。ゴ、ゴメンね二人とも……。

 

D年M月F日

今日はお祝いだ!初めて数ヶ月なのに燕ちゃんはフェンシングジュニア世界大会男女混合の部優勝、そして鳶はジュニア世界大会のベスト16、同じ年の子供の中では一番高い順位だ!今日はそんな二人を記念してのお祝いをしなきゃ!それにしても二人とも初めて数ヶ月でこの成績はとても凄い!流石は僕の娘と息子だ!鳶の方は大会で勝った同い年のドイツ代表の女の子に「次は負けない!」とほぼ無理やり握手されていた。戦いの中で出来た絆とでも言うんだろうか?これからも鳶の周りににこう言った子が増えると嬉しいな。

 

僕は二人が凄い結果を残した嬉しさのあまり、まず最初に鳶を思い切り抱きしめると鳶は照れ臭そうにしながら笑っていた。だけど燕ちゃんを抱きしめようとすると燕ちゃんは「おとん臭いよ」と言って僕の抱擁を躱してしまった。

べ、別にそんなに臭くないよ!ちょっと仕事の影響で中々お風呂に入れなかっただけだから!僕はまだヤングだ!加齢臭なんてするわけ無い!……ホントに臭くないよね?

 

E年P月J日

今日も今日とて燕ちゃんと鳶は武術の鍛錬をしている。二人は世界大会で結果を残して以降フェンシングを止めてしまった。二人はフェンシングをやめて以降、色々な武器に興味を持ち始めている。僕としては鳶がフェンシングを止めてしまったのでもうドイツの代表の子と会えなくなるかも知れないのが少し悲しい(可愛かったから)。

 

鳶はレイピアを使いこなしてはいたものの燕ちゃんに何かを言われて今は刀、槍、弓、他にも沢山の武器に手を出している。もう溜息しか出ない、二人はどんな武器も使いこなせている。自分の子供たちがこんなにも多芸とは思わなかったよ……。でも今の所実力は燕ちゃんの方が上かな?お姉ちゃんとしてのプライドもあるだろうし、負けるわけにはいかないんだろうね。

 

E年K月T日

数ヶ月経った今でも実力は燕ちゃんの方が上だ。まぁ燕ちゃんは小っちゃい頃からミサゴちゃんに武術を教わっていたしその経験の差があるんだろう。だけど鳶は思いの外負けず嫌いだったみたいで、燕ちゃんに負けない様に必死で頑張っている。このまま二人で切磋琢磨しあえる関係になってくれると嬉しいな。あ!そう言えばもうすぐ鳶の誕生日だ!誕生日プレゼントどうしようかな。

 

E年X月Y日

今日は鳶の誕生日、僕は鳶に誕生日プレゼントとして僕が自作した機械仕掛けのおもちゃを渡した。鳶はおもちゃのボタンを押したりしておもちゃの仕掛けを見て驚いたり楽しんでくれて、僕にありがとうと言って笑ってくれた。フフフ、頑張った甲斐があった!

あれ?そう言えば鳶が笑ったのを久しぶりに見た気がする。

 

F年S月R日

僕は気付けていなかった。燕ちゃんと鳶の間でこんなにも差があるなんて思いもしなかった。仮に鳶を万能と例えるのなら燕ちゃんのそれは全能としか言いようが無い。万能と全能とでは大きな違いがある。鳶はなんでもできる、だけど燕ちゃんは全てにおいて完全に鳶の上に立ってしまう。

 

今日は珍しく早く上がれたので鳶と燕ちゃんが一緒に鍛錬をしているのを見てた。鍛錬をする中で二人が模擬試合をしてたんだけどそれはもう試合とは言えず一方的なものだった。行った模擬試合全てが燕ちゃんの余裕の勝利。だけど鳶はいくら負けても何度でも立ち上がって燕ちゃんに挑む。だけど結局燕ちゃんが鳶に圧倒的な差を見せつけて勝つ。

 

暫く経ち、燕ちゃんが鍛錬を止めてからも鳶は必死な形相で鍛錬をやり続けていた。鳶が負けず嫌いなのは知ってたけどあの時浮かべてた表情と、燕ちゃんに挑み続ける執念、そしてあの形相で必死に鍛錬をやり続ける姿、僕にはちょっと異常に見えた。

 

少し、調べた方がいいかもしれない。

 

 

F年D月T日

クソッ!僕は大バカ野郎だ!今の今まで鳶が歪んでしまっているのに気づく事が出来なかった!!鳶を立派な大人にするって後輩の墓前で誓った筈のに!!なのに!僕は鳶の悩み、苦しみに気付けなかった!!ミサゴちゃんに捨てられたショック、忙しくなってきた仕事、そんなの言い訳にすらならない!!クソッ!クソッ!僕はなんて大バカ野郎なんだ!よくも今まで父親ヅラできたものだ!

 

あの日の鳶を見てから僕は鳶の友達、鳶の通う学校の先生、いろんな人に鳶の事について聞いて回った。いろんな人に話を聞いていく中で僕は気づいてしまった。

 

鳶は周りから燕ちゃんの弟としてしか見てもらえてない事に!鳶がいくら努力しても鳶の努力を誰も見ようともしないし見る気も無い!鳶が血の滲むような努力をしていい結果を出したところで燕ちゃんの弟だから出来と当然としか言われない!誰も鳶自身を見ようともしていない!こんな事に今の今まで気付けなかったなんて!

 

僕は鳶の歪みに気づくのが遅すぎた。もっと早く鳶の歪みに気付いていればまだ何とかなったのかもしれない……だけどもう遅い……!僕にはもう鳶を止める事なんてできっこ無い……!鳶の身体と心は度重なる疲労と評価されない事に対しての悩みと苦しみですり減っている。

 

今の鳶には燕ちゃんに追いつきたいという思いしか無い!僕が無理矢理その思いを止めたら鳶は空っぽになって壊れてしまう!だけどどうにかしないといけない!僕は燕ちゃんのおとんだけど、同時に鳶のお父さんなんだからっ……!

 

 

 

 

 

「……あーあ。おとん、気づいちゃったんだ」

 

 

 

時は流れ、松永鳶は中学三年生になった年の夏。学生達が自らの決めた進路へ行く為一生懸命受験勉強をする季節。松永鳶は日が落ちて暗くなった夜道を一人で歩いていた。昔鳶は人懐こい笑みを浮かべ、他人の事を思える優しい少年だった。

 

だが今の鳶にはその面影は無く、目は荒み、顔は能面のようにピクリとも動かなくなってしまい人を寄せ付けなくなってしまった。

 

「……今日もダメだった。俺は昔の姉さんすら超えられないのか……。」

 

いくら鍛錬を続けても鳶は姉に一度も勝てた試しが無い。鳶の目には自身に圧倒的な差を見せつけて勝つ姉の姿が焼き付いて離れない。幾ら鍛錬しても姉に追いつけない自分の不甲斐なさに下唇を噛み締めながら家のドアを開ける。

 

ドアを開ければ出来立ての料理の匂いが漂い、鳶の胃を刺激した。鳶が履いていた靴を脱いでいるとタイミングを見計らったかのようにエプロン姿の燕が優しく笑いながら鳶を出迎える。

 

「おかえり鳶」

 

「ただいま姉さん」

 

笑顔で出迎える燕に対し、鳶は先程まで必死に鍛錬しており疲れも相当溜まっているが姉に心配はかけまいと、なんとか笑顔を作って姉に返事をする。

 

「鳶、ちょうどご飯出来たところだよ。今日も鍛錬頑張ってたからお腹すいたでしょ?早く食べよ!」

 

燕は笑顔で鳶を労うと鳶から鞄をほぼ無理やり奪い取り、手を引いて鳶を食事をする部屋へと誘う。

 

鳶は自身の鞄を持つ姉に導かれ、家族が食事する部屋まで行くとテーブルには出来立ての料理が湯気を立てながら鳶を出迎える。毎度完璧なタイミングで出来上がっている料理に未だ驚きは隠せない。

 

姉は何時も自分が帰ってくる時間丁度に料理を作り終えテーブルに並べている。いつの日だったか鳶が姉に何故自分が帰ってくるタイミングで料理を作り終えているのかと聞くと「毎日一生懸命頑張ってる弟の帰ってくる時間に合わせてホカホカの料理が作れずしてお姉ちゃんとは呼べないよん」と冗談のように言われてしまった。

 

本当に言葉通りの意味なのかはわからないが今は姉の心遣いに感謝しなければいけない。鳶と燕が座布団に座ると今まで自分の部屋で何かをやっていたのかヘロヘロな久信が現れる。久信は帰ってきた鳶を見つけると幼い頃の鳶のような人懐こい笑みを浮かべる。

 

「おかえり、鳶」

 

「ただいま父さん」

 

久信の笑みにつられるように鳶も笑顔を作って久信に向ける。久信は鳶の返事に頷いた後余程腹が減っていたのかいそいそと座布団に座る。全員が揃いいただきますという声の後食事を始める。

 

夕飯を食べ終えた後はシャワーを浴びてその後すぐに勉強を始めてしまう。鳶にとってはこの時間だけが唯一心安らげる時間だ。

 

父親と話し、姉と話し、優秀な松永燕の弟という劣等感を忘れさせ、松永鳶という存在が確かにここにいる事を実感できる唯一の時間。たまに父親が仕事で帰ってこれず姉と二人だけの食事になってしまうがこの時間はどんな時でも1日の中で幸せなものだとそう思える。

 

そんな時間は直ぐに終わりを告げるのだが。

 

夕飯を食べ終え松永家の一同はそれぞれ別の行動を取る。久信は新聞を読み、燕は裁縫をし、鳶は必死に勉強をする。普段と何ら変わらない日常の中、久信が唐突に燕の方を見る。

 

「燕ちゃーん」

 

「ん?何おとん」

 

久信の呼びかけに応え、燕が裁縫をする手を止めて小首を傾げると久信はポケットから財布を取り出して千円札を手渡す。

 

「ちょっとアイスを食べたくなっちゃってさ、千円上げるから何か適当なのかってきてもらって良いかな?」

 

「えーそんなの自分で行ってきてよおとん」

 

千円札を手渡して頼む久信に対して燕はあからさまに面倒だという顔をしているが久信はそれでも引かない。

 

「ごめんごめん、最近働き詰めで疲れちゃててさ……ここは僕を労うつもりで頼むよ〜」

 

その後幾らかのやり取りの後、いくら言っても引き下がりそうにない久信の顔を見て根負けしたのか燕は片手で頭を押さえてため息をつく。

 

「もーしょうがないなぁおとんは。鳶は何時ものでいい?」

 

「いいよ」

 

ため息をつきながら燕は久信から千円を受け取った後自身の弟に何時も食べているアイスでいいのかと聞くが鳶は勉強に集中しているのか適当だ。燕はあまり相手にして貰っていない寂しさに対する表れなのか鳶の頭を軽く叩く。

 

「もう鳶、話聞いてる?全く、頑張るのはいい事だけど頑張りすぎて体壊しちゃうから体調管理だけはしっかりするんだよ?」

 

小言のように取れる軽い説教をした後燕は顔を鳶の耳元に近づけると吐息を吹きかけるように鳶にしか聞こえない程度の声量でボソリと呟く。

 

「頑張ってね、鳶」

 

呟いた声に鳶の顔がピクリと動く。鳶は勉強を一旦止めて顔を上げてもう背中しか見えない自身の姉の方を見つめる。もう姉に自分の顔は見えないとはわかっているが自身の歪んだ目標と願いのためにやっているだけの勉強を心配しながらも応援してくれる姉に対して多少の罪悪感を感じて少しだけ笑いながら小さな声で礼を言う。

 

「……ありがとう、姉さん」

 

彼が小さく呟いた礼の言葉に燕は背中を向けたまま手をヒラヒラと振って応える。その後燕が玄関と部屋を繋ぐドアを閉めたのを確認すると鳶は再び勉強を始める。ドアを挟んで向こう側にいる姉の浮かべた笑みに気付かぬままに。

 

「ほんとに頑張ってねん、と・ん・び♪」

 

燕は玄関と部屋とを繋ぐドアを閉めた後燕は歩いて15分程の所にあるコンビニへ行くためサンダルを履きながらもクヒッと歪んだ笑みを浮かべて小さな声で再度鳶を応援する。誰にも見せていない歪んだ笑み、そして再度送った鳶への応援。その真意が一体なんなのか、それを知っているのは笑みを浮かべる燕自身だけである。

 

 

燕が玄関を出て、歩いて15分程の所にあるコンビニへ行った後久信と鳶の二人だけになった部屋には鳶がシャーペンを走らせる音とノートと教科書をめくる音だけが部屋を包む。そんな部屋で久信が燕がいなくなったのを待ってたかのように視線を鳶に向ける。

 

「鳶、少しだけ良いかな?」

 

「……父さん。ああ、いいよ」

 

久信が鳶に声をかけると鳶はシャーペンを動かす手を止めて視線をノートから父親へと移す。父親の何時にない真剣な表情を見て鳶はどうしたんだ?と思いながらも言葉には出さず久信の口が開かれるのを待つ。久信は新聞を置き、鳶が緊張しなくて済むように出来るだけ笑顔を作りながら鳶にずっと考えていた事を話す。

 

「鳶、唐突な話になっちゃうんだけど、東に行ってみる気はないかな?」

 

「東?」

 

父親の唐突な提案に鳶が小首を傾げると久信はウンと頷く。

 

「うん、東には川神学園って所があってね?そこを色々調べたんだけど中々いい学園と思うんだ。」

 

川神学園、聞いた事がある。確か前に"松永燕の弟"という単語を出され激昂して追い出した天神館というところの姉妹校で川神院総代を務める川神鉄心が学園長を務める学園で自由な校則とユニークな行事があるという程度だが。

 

鳶はそんな学園を何故父親が勧めるのか解らず、再び小首を傾げていると久信は心配やら悲しみやらがごちゃ混ぜになった様な表情でずっと言いたくて、だけれど言えなかった事を漸く口にする。

 

「鳶が僕たち家族以外にちゃんと自分自身を見て欲しいっていう願いがあるのは知っている。」

 

「…………」

 

いろんな感情が混ざった表情のまま真っ直ぐ鳶を見据えながら言う久信に対し、鳶は何も言わず下唇を噛み締めて久信から視線を逸らしてしまう。

 

理由は二つある、先ず自分の願いを父親に見抜かれてた己の愚かさから。そしてもう一つは久信の顔が自分の事を心から心配し、悲しんでいる事がわかってしまい、父にそんな顔をさせてしまっている罪悪感からだ。

 

久信は鳶の心の中を知ってかしらずか下唇を噛み締めて目をそらす鳶の口が開かれる間も無く川神学園を勧める理由を話し始める。

 

「……鳶は今、燕のちゃんという存在に異常に囚われすぎているんだ。そこで、自分自信を見つめ直すついでに少し燕ちゃんから離れてみないかい?」

 

姉という存在に囚われている、正しくその通りとしか言いようがない。姉を頼るのを止めた日以降、彼はその時間の全てを憧れの姉を超える為に勉強と鍛錬をしてきたのだから。

 

「東にはまだ燕ちゃんの名はまだ広まってない、鳶も知っていると思うけど川神学園はその校風からかいろんな人がいる。そのいろんな人の中で、きっと鳶自身をちゃんと見てくれる人が居るはずだよ」

 

「俺自身を見てくれる、人」

 

松永燕の弟としてではなく松永鳶自身を理解してくれる人、そんな人は姉を超えない限り現れることはないと思っていた。だけどもしかしかたら父親の言う様に姉を超えなくとも自分自身を見てくれる人がいるのかもしれない。

 

もしそんな人と出会って仲を深める事ができたら、このいつの日からか歪んでしまった目標と願い、そして姉に対する劣等感を捨て去り昔の様に姉に何も隠さず本当に仲の良い姉弟に戻る事が出来るのだろうか。

 

そんな事不可能に近いが鳶はそう思わずにはいられなかった。自分が変わり果てる前の本当に幸せだったあの頃に戻れるのなら、ほんの少しでもその望みがあるのなら手を伸ばさずにはいられない。

 

鳶は震えるような声を喉から絞り出す。

 

「父さん、俺「ただいま〜」っ!!」

 

川神学園に行きたい、鳶がそう言おうとした時コンビニから帰ってきた姉の声により彼は一気に現実に引き戻される。コンビニから帰ってきた姉はビニール袋をぶら下げながら部屋へと入り、久信と鳶に買ってきたアイスを渡す。

 

「はいアイス。これはおとんの分で、これは鳶の分!」

 

「……ありがとう、姉さん」

 

鳶は姉からアイスを受け取ると頭を少し下げて礼を言うと燕はいいよと笑いながら手をヒラヒラさせた後、座布団に座って袋からアイスを取り出して食べ始めようとする。しかしアイスを一口食べようとした時、燕は何かを思い出したような表情を浮かべ、その表情のまま視線を久信に向ける。

 

「あ、そうだおとん。さっきおとんの会社の人に会ったよ。おとんと連絡つかないから伝えて欲しいって言われたんだけど、直ぐに会社に来てくれってさ」

 

「え?ケータイにはそんな連絡何も……げ、バッテリー切れてた……」

 

燕の言葉を聞き、頭にクエスチョンマークを浮かべた久信がケータイの画面を見るとそこには黒い画面しか映っておらず何を押しても動く気がしない。バッテリー切れに気づかなかった久信はため息をついてアイスを冷蔵庫にしまい、作業服を着て出かける準備を始める。

 

鳶が久信に視線を送ると久信が着替えをしながらアイコンタクトで"また後で話そう"と言っているのを理解し、頷いた後自分が好きなアイスを食べ始めた。

 

アイスを食べ終えた後久信と鳶は先ほどまでのやりとりを一旦忘れ、再び勉強を始める。先程までの会話は聞かれてないはず、鳶が燕もまた先ほどまでと同じように裁縫を始めると思っていた時、燕が鳶に視線を送る。

 

「鳶、さっきまでおとんと何話してたの?」

 

燕がそう言った時、まさか聞かれるとは思ってなかった鳶の目が大きく見開かれる。鳶は驚いた時に目を見開く癖がある、その事を知っている燕は先程まで鳶と久信が自分を抜きにした方が都合がいい話をしていたのを理解し、鳶の隣まで座布団を持って近寄る。

 

「教えて欲しいなぁ鳶。さっきまでお姉ちゃん抜きでおとんと何話してたの?お姉ちゃん、気になるなぁ」

 

隣で笑いながら頬づえをつく姉を見て、鳶は先程までの話は姉の前でするのが躊躇われる気がした。とりあえずこの場を凌ぐ為にどう言った内容を話していた事にしようか、鳶がそう思っていた時燕が鳶の心を見透かすように釘をさす。

 

「鳶、わかってると思うけどお姉ちゃん鳶に嘘つかれるのスゴくキライなの。鳶、正直に話してくれるよね?」

 

警告のような姉の声を聞き、鳶は最早黙る事も嘘をつくのも許されない事をすぐに理解した。

 

「父さんに、川神学園に行ってみないかって言われた」

 

「……へぇ」

 

鳶がそう言った瞬間、燕の表情が一気に変わった。燕の表情は先程までのような笑みは完全に消え去り、そんな重要な事を私抜きで話すの?と言っているような気がした。だがその表情は一瞬ですぐに燕は口角を僅かに釣り上げ、鳶の耳元まで近づく。

 

「鳶」

 

わざとかそうではないのかはわからないが燕は鳶の耳元に息を吹きかけるように鳶の名を呼ぶ。先程まで食べてたアイスのせいか甘い吐息と共に燕の妖艶な声が鳶の心に忍び込む。燕がとても鳶の一つ上とは思えない妖艶な声で鳶の名を呼ぶと鳶は何故か体をカタカタと震えさせ、怯え始めてしまう。

 

鳶は姉が時折見せるこの声が苦手だ。姉のこの声を聞いていると自分の中で姉という存在が埋め尽くし自分という存在が何もかも飲み込まれ、もう姉から逃げられなくなってしまう気がしてしまう。それがたまらなく恐ろしい。鳶は姉の声を聞かなくてもすむように手のひらで耳を塞ごうとするがそれは出来なかった。

 

燕がいつの間にか鳶の隣から後ろに移動しており、鳶の背中に自身の身体を押し付けながら鳶を腕ごと後ろから抱くような形で顔を耳元まで近づけている。自分を抱く姉の腕に大した力が入っているようには見えない。だが鳶には姉の腕を振り払い耳をふさぐ事が出来ずにいた。

 

身体が思う通りに動かずにいる鳶を見て燕は愉しそうにクスリと笑うと先程と同じように妖艶な声で鳶の耳に囁く。

 

「鳶、最近お姉ちゃん以外に誰かと何処かに行った?」

 

鳶は少し驚いた。自分が怖いと思っているこの姉の声に何を言われるのかと思っていたら言ってきたのは簡単に答えられる事だった。考えるまでもない何処かに行く、つまり遊ぶ訳が無い。

 

鳶は姉を超える為に友達も何もかも切り捨てて全てを勉強と鍛錬に費やして来た。偶に姉と一緒に買い物などに行きはしたがそれ以外は全てを勉強と鍛錬に費やして来たのだ。

 

 

鳶は上記ほど考えてはいないが、妖艶な姉の声を聞いて恐ろしくて震えながらも首を横に振る。首を横に振る鳶を見て予想通りの返事が返ってきた燕はクスリと笑う。

 

「そうだよね、鳶はお姉ちゃんとしか何処かに行ってないもんね。鳶が最近友達と遊んだなんて聞いてないもん。……鳶は今友達みたいな人っているの?」

 

いる訳が無い、鳶は首を横に振る。

 

「そうだよね、鳶は今友達いない。あれ?おかしくない?今友達いないのに、何で東で友達が出来るなんて思うの?」

 

「……え」

 

燕の疑問に鳶が固まる。言われてみれば確かにそうだ。自分は姉を超える為に全てを費やすために過去にいた友達を切り捨てた。そしてそれは東に行っても恐らく変わらないだろう。

 

ここで鳶が先程までの久信との会話を思い出したら何かが変わっていたかもしれない。だが鳶には先程までの久信の会話なんて思い浮かばない。鳶の心は今、姉という存在で埋め尽くされている。他にあるとすればそれは姉のこの妖艶な声に対する恐怖くらいだ。姉という存在、そして恐怖しか無い彼に先程までの久信との会話が思い浮かぶ訳がない。燕はそんな彼の心境を知ってかしらずか固まる鳶に先程と変わらず息を吹きかけるように話す。

 

「鳶は今まで必死に努力してた。きっと仮に東に行ってもそれは変わらなくて、鳶は今までと同じように一杯努力する。そうだよね?」

 

きっとそうだろう、鳶は姉の言葉に震えながらも首を縦に振る。

 

「そうだよね、鳶は東に行っても今までと同じようにひたすらに努力して過ごすよね?あれあれ?おかしくない?今友達がいないのに、東に行って今までと同じように過ごして友達が出来ると思う?思わないよね?」

 

姉が出した疑問、そして最後の断定するような燕の口調に返す言葉など思いつく筈もなく鳶は震えながら首を縦に振り肯定する。震えながら自身の言葉に予想通りの返事を見せる鳶に燕は決して鳶に見せないようにしながら愉しそうな表情を浮かべる。

 

「鳶は何で東に行きたいの?」

 

「お、俺は……ひ、東に行って……俺自身を見てくれる人に「見てくれる人なんていないのに?」……あれ?」

 

鳶が震えながら考えを言おうとした時、燕が鳶の言葉に被せるように言うと鳶は先程自分が何故そう言おうとしたのかわからなくなり、震えながら自分自身に疑問を投げかける。

 

「俺は、なんで東に行きたいんだ……?」

 

恐怖は人から冷静な判断力、思考を奪う。先程までずっと恐ろしいと思っている姉の妖艶な声を聞きづつけていた鳶にもそれは同じ事を言えるだろう。鳶にもはや物事を冷静に考える力など無い。あるのは姉の妖艶な声に対する恐怖と突如として浮かび上がる疑問。

 

混乱する鳶に燕は疑問を浮かべる鳶に思考させないよう、自身にとって都合良くなるようにするため、畳み掛ける。

 

「今と変わらない生活してるのに鳶を見てくれる人なんている訳ない。それは何処に行っても変わらないよん。何処に行ってもかわらないなら、鳶の事をちゃんと見ているお姉ちゃんと一緒の学園に行った方がいいと思わない?そう思うよね?」

 

畳み掛けるように話す燕の言葉に物事を深く考えられなくなってしまった鳶が否定できる筈もなく首を縦に振る。首を縦に振る鳶を見て燕はニコリと笑って鳶に最早聞くまでも無いことを聞く。

 

「鳶、鳶は進路どうするのかな?」

 

東に行く理由が思いつかない。西は何処に行っても扱いは変わらない。何処に行っても変わらないのなら……せめて自分自身を見てくれる人がいる所に行く以外思いつかない。

 

「姉さんがいる、学園」

 

望む返事が返ってきた燕は先程までの妖艶な声が嘘のように元の明るい声へと戻る。

 

「そっかそっか、鳶はお姉ちゃんが大好きだもんね。うんうん、お姉ちゃんと一緒の学園に行くのは当然だよね」

 

燕の声が先程までの妖艶な声から元の声に戻ったが鳶は未だにカタカタと震え怯えている。燕は鳶の正面へと移動すると鳶の顔が自身の胸に行くように抱きとめ、優しく鳶の頭を撫で始める。

 

「フフフ、いい子だよ鳶。いい子いい子」

 

燕が優しく鳶の頭を撫でているのは怯える鳶を宥めるためでは無い。頭を撫でているのは自分の望む通りの進路を選んでくれた鳶を褒めるためだ。

 

やがて会社から久信が帰ってくるだろう。だがもう遅い。久信が懸命に説得する度に燕がそれよりもより強く自身の学園に行かせるよう鳶の脳内に刻みこむ。やがて学園に願書を出しに行くその日になっても久信の願いが鳶に届くことはなかった。

 

こうして松永鳶は東には行かず、姉と同じ学園に行く。そこでの生活は今までと何ら変わらない。燕の弟というレッテルを貼られ、何をしても自分自身は決して評価されず、姉という存在を超える為に何もかも切り捨てる日々。そんな彼の日常が変わるのは彼が二年生になってとある学園に転校してからである。




ここでオリ主くんの強さについて話させて貰います。

ここのオリ主くん、久信の日記のフェンシングの部分を見てわかると思いますが結構強いしハイスペックです。元々の才能と血の滲むような努力のおかげでクリスや一子といった武士娘を相手に同じ武器で戦っても苦戦せずに倒せるくらいには強いです。色んな武器を使いこなし、臨機応変に戦えるある彼ですが色んな武器に手を出しすぎた結果、燕ちゃんといった格上に対する決定力、もしくはワンチャンを失ってしまっています。

そしてこの作品の可愛いヒロイン燕ちゃん。彼女は作者の意向によりちょっとだけ強化されています。具体的にはマスターランクの武士娘相手に同じ武器でも同等以上に闘え、平蜘蛛さえ使えれば大抵の相手、百代やヒューム卿を相手にしてもほぼほぼ勝てます。川神学園三年時の彼女にとって勝つのは当たり前で、彼女が敵の事を探るのは相手の切り札等といったものにより起こる"万が一"の敗北を防ぐためです。まぁちょっとだけ強化しただけですからそこまで気にしなくて大丈夫です。

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