シャフティング・マインド(凍結)   作:lock

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こんばんは。
夏休みの宿題が全く進んでいないlockです。
6話「回想ーRecollectionー」を投稿します。


回想ーRecollectionー

「ハア、ハア・・・くっそ、あのエセ教師・・・」

 

ユウトは、泥だらけになった靴を脱ぎ()て、目の前の合成獣(キメラ)を睨み付けた。

スタミナにはそこそこの自信を持っていたユウトだったが、コケだらけ、ぬかるみだらけの地面を小一時間も走り続ければ、さすがに息が切れてくる。

 

「グルルル・・・」

 

キメラは低く(うな)り、太い左腕を振り上げた。

 

グオッ、ドバァン!

 

ユウトを粉砕せんと襲い来る腕を見切り、またも直前で回避する。

キメラは、自身の攻撃が全く当たらないことに腹を立てたのか、大きく咆哮する。

その音量は、モニタールームにいるチナツでさえ思わず耳を塞いでしまう程だった。

チナツは、ヒュウ!と口笛を鳴らす。

 

「ほおー、まさかこれほどとは・・・吠え声も立派な攻撃手段になるな。聴覚強化とか使ってる奴が聞いたら、卒倒すんじゃねーのかこれ?」

 

楽しそうにメモを取るチナツ。

だが、今度はユキが『それでも教師ですか!』と憤怒の声を上げることは無かった。

代わりに、モニタールームの扉が開く音と、走って出ていく人の気配。

 

(へえ・・・)

 

チナツは一人ほくそ笑むと、ホログラムウィンドウを呼び出し、キーボードを叩き始めた。

 

そのころ。ユウトはようやくキメラの視界から外れ、草むらの影に隠れることに成功していた。

 

「ハーッ・・・やっと見失ってくれたか、あのゴリラ」

 

だが、あくまでも小休止。高い視点で周囲を見渡せるあのキメラには、すぐにでも見つかってしまうだろう。

ユウトは胡坐(あぐら)をかき、これからどうするかを考えた。

 

(最優先事項は、ここから脱出すること。ここにいたら、命がいくつあっても足りないからな・・・そのために採れる選択は、思いつく限りでは3つ)

 

1,キメラを出し抜いてボールを手に入れ、テストをクリアする

2,どこかにあるかもしれない脱出口を探す

3,ひたすら逃げ回り続けて、いつかテストが終わるのを待つ

 

(まず、3は無い。あの自分の生徒を実験台にするようなクソアマの性格を考えると、俺が死ぬまで実験を続けかねない。2・・・も少し難しいな。こんだけハデな実験するんだ、そんな脱出口があるような設計にはなってないだろ)

 

ユウトは、上を見上げる。遥か上方に、ちらりと換気ダクトが見えた。

 

(テレポート能力や、飛行系の能力(チカラ)の対策もしてあるんだろうな・・・もはや牢獄じゃねーか)

 

ということは、採る道は一つ。

とその時、なぜか唐突に視界が少し暗くなる。

その意味を考えるよりも先に、体の方が動いた。

 

「やばっ!」

 

重心を思いっきり前に倒し、そのまま転がる。

全身泥だらけになって後ろを振り向くと、轟音と共に、隠れていた草むらがぺしゃんこに潰されていた。

 

「グルゴロロ・・・」

 

「・・・そりゃ、待ってちゃくれないよな」

 

モニターを見つめるチナツは、この先の展開を予想した。

 

(休憩して、少しは体力も回復しただろうし・・・ゴリちゃんの攻撃を避けつつ、ボールを捕る機会を窺う、かな)

 

だが、顔を上げたユウトの瞳には―――

 

「いつまでも逃げてばっかりだと思うなよ、キメラ!!」

 

逃げの意識など、微塵も映ってはいなかった。

 

「ゴアアアアアアアッッ!!」

 

ユウトの声に呼応するように、キメラもまた、雄叫びを上げる。

 

「おお、これは・・・」

 

面白いことになってきた!

 

チナツはモニターを凝視した。

これから起ころうとしていることの全てを、記憶に焼き付けるために。

 

ユウト達のいる辺りは太い木が比較的多く、周りをぐるりと囲んで、半径10メートル程の広場を形成していた。

3メートルもの身長を有する怪獣と戦うには、余りにも狭い空間。

しかしそれを逆手に取り、相手の動きを鈍らせて、勝機を見出(みいだ)すか。

モニターを見つめるチナツは、そう考えた。

だが。

 

「うおおおおおお――――!!」

 

回り込むことも、相手の様子を窺うこともなく、ユウトは真っ直ぐに走り出した。

素人が見れば、ただ玉砕に向かうようにしか見えないだろう。

だがチナツは、「くっそ、バレてたか!」と、だがどこか嬉しそうに、頭をパシッと叩いた。

 

「それが正しい!最も有効な、能力(チカラ)を使わずに素手でゴリちゃんを倒す方法!」

 

キメラが、両腕を振り上げる。

むざむざ自分に無策な特攻を仕掛けた敵に、死の鉄槌を下す為。

合わされた両手が固く握りしめられ、間近に迫るユウトの脳天へ力強く振り下ろされ・・・

もう何度目かもわからない、ぬかるんだ地面へのクリーンヒットを成功させた。

 

「・・・グオッ?」

 

確かに仕留めたはずの目標を見失い、困惑するキメラ。

だがふと、右腕に違和感を覚え、自身の腕を見下ろす。

そこには、何やら重たい物が張り付いていた。

 

「!!」

 

その物の正体に気付いたキメラは、それを振り払おうと、両腕を滅茶苦茶に振り回した。

だが、それは決して離れようとせず、むしろ胴体に向かってじりじりとにじり寄って来る。

自分の右腕に向かって左腕で攻撃すれば、あるいはそれを引き剥がせたかも知れない。

だが、混乱した獣の脳では、その答えを導き出すのが遅れてしまった。

そしてそれは―――ユウトは、少しずつ、少しずつボールに向かって進んでいった。

 

「あとちょい・・・!!」

 

(振り回されながらでも、一瞬片手を離してボールを掴めば・・・そうすれば、能力(チカラ)を見せる事無く、テストをクリアできる!俺の能力(チカラ)を、使う事無く・・・)

 

俺の、能力(チカラ)を・・・

 

俺の、チカ、ラ―――

 

チカ×―――わ×れな×で―――だ×きら×―――お××ちゃ×―――お×さま××い×の代わり―――つい×くん×―――ほ×とう×―――チカ×―――わ×れな×で―――だ×きら×―――お××ちゃ×―――お×さま××い×の代わり―――つい×くん×―――ほ×とう×―――チカ×―――わ×れな×で―――だ×きら×―――お××ちゃ×―――お×さま××い×の代わり―――つい×くん×―――ほ×とう×―――

 

じゅ、じゅ、じゅ                   じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ   じゅじゅじゅじゅじゅじゅ         じゅじゅじゅじゅじゅじゅ     じゅじゅじゅじゅじゅじゅ      じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ  じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ      じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ         じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ

 

 

 

「ヤメロ・・・」

 

ドシャッ。

地面に打ち付けられたそれは、ボロ雑巾のように泥だらけで。

動かなくなった獲物を前に、巨腕の怪物は腕を振り下ろす。

 

グシャリと、何かが潰れる音がした。




また1分前かよ俺…
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