設定の捉え方を間違えていたらごめんなさい。
ーハルケギニア 現在ー
「とまぁ、そんなこんなでな」
「私達の世界の10年後か……」
マナは、士の話を聞いて感慨深くなる。当然だ。今彼女は自分達プリキュアの未来のことについて聞いているのだから。自分たちが守った世界で、自分たちがどう未来を生きているのか、それを聞くだけでもついつい笑みがこぼれてしまう。
「正確には、よく似た平行世界だがな」
「でも、どうして響ちゃんは奏ちゃんと別れようとしているのでしょうか?」
「だね……」
「ねぇ、ちょっと」
「ん?」
各々が感想を述べる中、ルイズがその話に切り込んだ。
「どうしたんですか?」
「私達、何事もなかったようにスルーしているけど、なんでトイレの中のヒビキの事が分かったのかしら?」
「あっ……」
「あれ、そういえば……」
「結構スムーズに話をしていたからスルーしていたです」
「そういえばそうだな。なんでだ?」
と、士自身も疑問に思ってしまった。無論士がトイレの中にまで侵入したわけではないし、響が鏡の中の自分に向かって話しかけていたとき、すでに店から出た後なのだから彼が知っているわけのない話なのだ。では、何故……。その時、机の上に置いてあったミラクルライトが光りだし、ホログラムのように映像が空中に投影された。
「これは……」
「あっ、まこぴーだ!」
そこには、一人の女性がどこかの部屋でメイクをしている様子だった。その衣装からすると、アイドルか何かだろう。
「まこぴー?」
「うん、まこぴーは、私の友達で、プリキュアの仲間だよ」
「おい、まさかこれは……」
「あぁ、あの世界の、僕たちが見ていなかった場所を映しているのかもしれないね」
そう。それは、彼らが知る由もなかった事実。知る手段もなかった裏の話。
ーヨツバテレビ 10:54 a.m.ー
「はい、これでメイクは完了よ」
「えぇ、いつもありがとう」
「では、私はこれで」
剣崎真琴は、いつも自分のメイクを担当しているメイクさんにお礼を言い、彼女が楽屋から出たことを確認すると、カバンの中から今日歌う予定になっている楽曲の歌詞と楽譜を取り出す。芸歴としてはすでに10年目に突入しているとはいえ、こうして収録の前の歌詞の確認を欠かしたことはない。一応本番まで一時間以上あるし、その前にはリハを挟むので、こんなに早くメイクを済ませる必要はなかったのだが、これが彼女の仕事に対する意気込みを表していると言えるだろう。
歌を歌う前というのはいつも緊張する。昔よりも慣れたと言えば慣れたのだが、それでもなお、緊張するということには変わりはない。歌の途中でその緊張がMAXになると歌詞が飛んでしまい、そのテンパリによってますます慌ててしまい思い出すなんてことできなくなってしまうだろう。だからこうして歌詞を確認するのはいつものルーティンとなっているのだ。その時、ドアをノックされた。
「どうぞ」
その言葉の後、三人の女性が楽屋に入ってきた。一人は自分のマネージャーであるDB。二人目は、一つ年下のモデルである天ノ川きらら。最後の一人は同じくモデルの蒼乃美希だ。マネージャーのDBは、扉を閉めると、すぐに煙に包まれて猫のような姿になる。そう、彼女も妖精なのだ。妖精と人間の二つの姿を交互に使用し、剣崎真琴の妖精としてのダビィと、マネージャーとしてのDBの二つの役割を持っているのだ。
「久しぶりね、きらら。フランスはどうだった?」
「えぇ、いい経験ができたわ」
「本当に、羨ましい限りね」
「あら、みきみきだって私が出禁になったジャパンコレクション帰りじゃない」
「フフッ、そうね」
と、DBが妖精に変化したというのに彼女達はそれを気にも止めなかった。それもそのはず。彼女たち三人ともプリキュアなのだから。歌手、剣崎真琴はドキドキプリキュアのキュアソード。モデル、蒼乃美希はフレッシュプリキュアのキュアベリー。そして、同じくモデルの天ノ川きららはプリンセスプリキュアのキュアトゥインクルに変身していた。この中で、キュアトゥインクルである天ノ川きららは、変身アイテムを返還したために変身できないのだが。変身アイテムを持っていてもすでに引退状態となっている他のプリキュアと変わらないと言えば変わらない。
「それで、今日はどうしたの?」
「実は、真琴には内緒にしていたけど、今日の収録のゲストがきららと、美希なんダビィ」
「え?そうなの?」
「えぇ……」
確かに、自分は台本を受け取っていなかった。それについてダビィに聞くと渋い顔をされるので不思議に思っていたが、まさかゲストにこの二人がいるなど知らなかった。
「でも、なんでダビィはそのことを……」
「実は……この出演者が……その……ダビィ」
「?」
「口で言うより、実際に見たほうがいいわ」
と、きららが取り出したのは今日の収録の台本である。中をめくると、確かに今日のゲストに二人の名前があった。次に歌手の名前だ。もちろん自分の名前も書いてあるし、ここ最近一緒に仕事をすることの多い一条らんこというバラドルの名前もある。それから……え?
「これって……」
「そう……やっと、チャンスが回ってきたのよ。あの子と会うチャンスが……」
それは、自分達がここ数年連絡すらできていなかった一人の友達の名前だった。最近、芸能界を取り巻いている悪い噂。それの真意を聞きたくて連絡を取ろうとした。しかし、彼女に親しい人たちですら連絡は取ることができず、真琴もかなり気にかけていたのだ。
「これを知ると、真琴が収録に集中できないと思って……」
「そう……ありがとう、ダビィ心配してくれて……」
確かに、自分が彼女の事を知った時、動揺して収録に集中できなくなるだろう。だが、彼女としては、収録現場で突然出会うというシチューエーションの方がもっと驚いてしまう。だから、逆にこのギリギリのタイミングで渡されてよかったのかもしれない。
「それで、どうする?彼女、すぐそこの楽屋にいるわよ」
「……もちろん、行くに決まっているわ」
彼女が間違った道を進んでいるとしたら、それを止めなければならない。なぜなら、自分達と彼女は、友達なのだから。
「はい、はい……分かりました。では……ふぅ~」
手首に、ビーズのアクセサリーを付けた女性は、また今夜もかと思いながらスマホを乱雑にテーブルの上に放ると、今日の収録の台本の出演者の欄を何度も見る。そこには、会わないように工作していたはずの自分の仲間だった者たちの名前が書かれていた。だが、それも昔の話。今は、彼女たちに会うことすら憚れる。才能の欠片もない自分が、やっと手に入れた今の地位。だが、そのために自分は芸能人として、いや人として外れた行為を行ってしまった。もう、彼女達と一緒に笑い合うことのできる自分はいやしない。その時、彼女は時計を見る。その時間を確認した彼女は、バッグの中から薬を一錠取り出すとペットボトルの水で流し込む。この薬は、一日一度決まった時間に飲まなければ効果が薄まってしまう。だが、これで三週間連続で飲んでいるので、来週一週間は飲まなくても平気だ。とはいっても、一週間後にまた飲み始めるので、それを忘れないようにメモしておかなければならない。もし飲み忘れてしまえば自分は……。その時、ドアをノックされたスタッフだろうか。しかし、収録のリハーサルにはまだ早いはずだ。女性は、返事をした。すると、外から四人の女性が入ってきた。
「!」
女性は、心底驚いた。そこにいたのは、台本に名前のあった自分の元仲間の姿だったのだから。
「久しぶりね。うらら」
「え、えぇ……」
真琴が女性、春日野うららに声をかけた。春日野うららは女優をやりながらもアイドルもしている売れっ子の芸能人である。彼女もまた、プリキュア5のキュアレモネードというプリキュアを昔していた。だから、彼女もきららたちと同じ、プリキュアの友達なのである。
「ど、どうしたんですか?私の所に……えっと、出演者へのあいさつ回りとか?」
うららは、しどろもどろになりながらも、机の上に出しっぱなしになっていた薬をカバンの中に放り込むように閉まった。だが、彼女達にはそれを見られてしまった。その薬も、カバンの中に入っていたピンク色の携帯も……。
「その薬……やっぱりあの噂は本当だったわけね……」
「ッ……」
うららは、きららのその言葉に反応して動きを止める。見られてしまった。美希が言う。
「数年前、あまり売れていなかったあなたが突然歌手、女優として売れ始めた。その不自然な売れ方から芸能界で噂されたこと……あなたは……」
「だったら、何だって言うんです!」
「……」
その言葉に、美希は思わず憐みの視線を投げかけてしまった。そんなもの彼女に向けてもしょうがないというのに。
「私には、真琴さんのように歌の才能もない……きららさんのような華やかさもない……美希さんのような……えっと、美希さんの、ような……」
「私のような?」
「すみません。思いつきません……」
「……せめてなんでもできるとか言って貰いたかっけど、傷つくわよ?」
「すみません。ともかく、私は皆さんのような特別な才能なんて一つも持っていない!だから……私にできる事なんて……」
鏡を前にしてうつむいているうららのその横顔は、確実に悲しんでいるように見えた。だが、その悲しみを出さないようにこらえて、でもこらえきれていない、そういう風に見えた。
「あなたのお母さまは、お嘆きになられるでしょうね」
「死んだ人は……悲しみません。でも、きっとそうですね……こんな馬鹿な私を……」
うららが幼い頃に亡くなったうららの母親は、元舞台女優として活躍しており、うらら自身もいつか母のような大女優になることを子供の頃から夢見ていた。
「だったら、のぞみやりんは?あなた、あの人達も避けているそうじゃない」
「できませんよ……今の私が、皆に顔を合わせるなんてこと……できるわけが……」
「うらら……」
苦しんでいる。彼女は確実に、しかしもう止まることができない。止めることができない。何故なら、彼女はもう自分で自分をどうとすることもできないところまで来てしまっているのだから。もし自分がそれを止めようとも、待っているのは事務所の信用を落としたことによる非道な扱いだろう。今まで情報統制していたものが無くなり、マスコミからの厳しいバッシング、辞めたくても違約金がどうのと言われて辞める事もできない。自分にできる事は、耐えて芸能人としてのトップを歩かされることか、人間として落ちてしまうか、いやもうとことんまで落ち込んでいるのだろうと彼女は思う。自分は、人間失格だ。
「すみません、ちょっと外の空気を吸ってきます……」
そう言ってうららは楽屋を出てしまった。四人は、追いかけることもなくその楽屋を後にする。
「それで、どうするの?」
「一応……あの子にメールしておきましょうか」
「そうね」
そして真琴はある人物にメールを送る。それは、もしもうららの事を見つけたら自分にすぐ連絡をしてくれと言っていた人物。彼女にとって一番の親友と言える人物だった。その女性の名前は……。
途中変なギャグを入れたのは本当に適当なことが思いつかなかったからです(本人が言っているようなことはあるいみ自称のようなものですし)。