仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 この作中では、独自のカップリングを行っています。定番のものもあれば、そうでないと思うものまで人それぞれにあると思いのますので心してください。


プリキュアの世界chapter7 二人の妹

ーベーカリーPANPAKAパン 二号店 06:03 a.m.ー

 

 パン屋の朝は早い。特にこのパン屋ではそれが顕著であった。それには、この店の立地に関係がある。この場所は、周りの中学、高校の通学路の一つになっており、学生たちの自転車がよく通る。また、駅への道の一つとなっているため、会社へ通勤する人や大学へ通学する人たちが、お昼ご飯にここのパンを買っていく。そのため、彼女は通常八時~十時頃と言われる開店時間をかなり早めているのだ。そのため、彼女は四時、時にはもっと早くに起きてパンを一人で焼き始める。少し前には、一号店の方にいる父や母にも手伝ってもらっていたのだが、上手にパンを焼けるようになってからは、手伝ってもらわなくても大丈夫になっている。流石にちょっと量が多い為大変だが、店がOPENしたらバイトとして雇っている人たちにフロアを任せているおかげでちょっとは余裕があるのが救いだろう。

 その時、店の勝手口が開いて一人目のバイトが顔を見せた。

 

「おはよう、咲」

 

 彼女は美翔舞。自分、日向咲の同級生だ。彼女は普段、絵描きをしているのだが、それほど売れているとは言えず、それだけで食べていけるとは言えない。そのため、咲から絵描きとして彼女が大成するまでの間ここでバイトしていればどうかと誘われ、それ以来二年間に渡ってここでバイトをしている。ところで、この二人はただの同級生の女友達という関係一つで表すことのできない関係にあった。と、言うのも……。

 

「おはよう、それにおめでとう舞……」

「ありがとう」

 

 咲はそう言うと、ゆっくりと舞の身体を抱き寄せ、そして唇を重ねる。舞はそれに一切抵抗もせず、むしろ喜んでそれを受け入れていた。そう、この二人は相思相愛なのだ。かつてプリキュアとして一緒に戦っていた二人は、その戦っていた一年間で友情を確かめあった。それからの十年で二人の友情はさらに深まり、ついには……というか他の同級生によればやっぱりそれが愛情に変わったらしい。因みに、あまりのラブラブぶりを見て、舞の兄も含めて家族公認なのだそうだ。

 

「キモッ……」

「あ、みのり……」

「毎朝毎朝吐き気がする」

 

 日向咲の妹を除いての話ではある。日向みのりは今年で十八になる高校三年生だ。思春期真っ只中の反抗期の真っ最中である。主に咲限定の話ではある。みのりには、姉が親友で同性の舞にキスをしたり、それから時々……をしたり、とにかく同性愛という物に理解を示すことができず、姉に嫌悪感を示していた。

 

「姉貴、パン二つ貰っていくから」

「うん、行ってらっしゃいみのり」

「……」

 

 みのりは、無言で裏口から出て行ってしまう。そんな嫌悪感を示すほどであるのなら、姉と一つ屋根の下一緒に暮らしているのはなぜかと考えてしまうが、先ほども言った通りこの店は駅への道の途中にある。みのりが通っている高校は電車で何駅か乗り継ぎ行くことができる場所にあるため、どちらかと言うと実家よりも駅が近くにあるこの二号店から通学したほうが時間に余裕ができるという考えかららしい。

 

「みのりちゃん……変わっちゃたわね」

「変えたのは私たちかもしれないけどね……」

 

 みのりが変わってしまった原因は自分たちにある。それはハッキリと分かっている。どうやって彼女に自分たちの事を理解してもらうか、いや多分理解してもらうには相当な時間を必要とするはずだ。だから、焦らずに、でもあまりにも時間をかけてしまうと彼女の心を壊してしまう可能性だってある。あまりにも難しい問題を抱えてしまったものだと、彼女たちは思っていた。

 そしてそれから十数分、バイトに雇っていた人達が次々と店に入ってきて開店準備を整えていく。そして最後の一人が、開店の数分前に入ってきた。

 

「ごめん!遅れた!!」

「ギリギリセーフ。今日もまた寝坊?」

「えぇっと……うん」

「もう、今度から気を付けて」

「うん!モチロン!!」

「みゆきもやよいも来てるから、はやくエプロン着てきてラブ」

「うん!じゃなくて、ウィムッシュオーナー!」

「それ、冗談だったのに……」

 

 と、咲はついこの間彼女に振った冗談を掘り返されて苦笑いする。ちなみに多分彼女はウィムッシュの意味を知らないだろう。ここで舞以外の三人のバイトの説明をせねばなるまい。まず、一番最後にきた女性。桃園ラブ。彼女は本来ここから少し電車に乗った先にある町、四つ葉町で地元のダンスチームに入っていた女性なのだが、諸事情によってチームから脱退し、次の仕事を探す間、バイトとして咲の店で働いている。続いて星空みゆき、彼女は絵本作家になることを夢見ている少女である。そして黄瀬やよい、彼女は漫画家を夢見ている少女。二人とも、まだ良い出版社とのめぐり合いがない為に、才能はまぁまぁあるというのに大成していない、つまり舞と同じだ。ここで働いている理由も舞と同じく、バイトで生計を立てているから。一応咲からは十分といえる給料を払ってもらっており、晩御飯等も売れ残ったパンを持って帰っているため食費にはあまり困っていないため、ここでのバイト一本で生活することができている。が、今夜は彼女たちの友達がサッカーの大きな国際大会の決勝に出場するので帰りにワインでも買って二人で観戦しようという話になっている。

 因みに、すでに察していると思うが、彼女たちも元プリキュアである。日向咲はキュアブルーム(ブライト)、美翔舞はキュアイーグレット(ウィンディ)。この二人で一組のプリキュアなのだが、ほかのプリキュアと違ってこれと言った名称はない為、仮の名前としてSSプリキュアとしておこう。桃園ラブはフレッシュプリキュアのキュアピーチ。星空みゆきはキュアハッピー、黄瀬やよいはキュアピースとして、そして彼女たちの友達で現在ドイツにいるサッカー女子日本代表のエース緑川なおもキュアマーチとしてスマイルプリキュアというチームで活動していた。なお、彼女達三人をバイトとして雇い入れたのは舞やいろんな人からの進言があったためということを付け加えておく。舞、ほかプリキュアのなかでも秀才の面々曰く、彼女達(天然)三人組を放って置いたら、変な仕事をしてしまいそうだとかなんとか。と説明されたが、咲にも舞の言っていることの意味があまりよくわからなかったということも付け加えておく。

 時刻は朝6時30分、今日もまたベーカリーPANPAKAパンのシャッターが開く。

 

 

ー花咲家 07:27 a.m.ー

 

 そしてここにもまた、絶望から立ち直ってバイトに出ようとしている女性が一人。女性は髪のセットを整えると、鏡の前に立って改めて自分の姿を確認して、コーディネートになにかおかしなところはないか確認する。今日から親友の母親が経営している服飾店でしばらくお世話になるわけだから、変なコーディネートをしていたらいくら親友のよしみがあると言っても失礼に当たってしまう。うん、たぶん大丈夫だろう。一応妹にも確認しておいた方がいいだろうか。

 

「ねえ、まだなの?えりかさんが迎えに来てるよ?」

「あっはい!あの……服はこれでどうでしょうか?」

「どうって……あのね、そう言うのは向こうの服を貸してくれるに決まってるでしょ?」

「え?」

 

 と、ドアを開けて入ってきた学校に行く用意を整えている妹のふたばに言われてしまった。そういえば、よく考えるとこの服は確かにあのお店で買ったものではある物の、昨年買ったものだ。今は新しいデザインの服が売り出されているだろうし、そういった服を着なければお客さんも購買意欲がそそられないだろう。この数十分の自分の戦いは何だったのだろうか。

 

「まったく、ほら早くしてよ。えりかさん待たせたら悪いよ?」

「はい。それじゃ、行きましょうか」

 

 花咲つぼみはふたばと一緒に一階へと降りていく。花咲つぼみの家は花屋である。そのため、自分の店で働くという道もないことはなかった。のだが、母や近しい人たちに、中学高校大学と散々花屋で手伝いを重ねてきたのだから、一度別の職種も体験したらどうかと助言を受け、それじゃうちでしばらく働いたらと親友が言ってくれた。夢を逃した自分は、しかしまだチャンスがあると思っている。それが何年先になるのか彼女に分かるはずもない。だから、その日のために、その日まで自分は己を鍛えなければならない。そう思っていたからこそ、親友の服屋を手伝うという選択もまたいいかなと彼女は思ったのだ。そして、店の外にはふたばの言う通り、服屋の娘でありつぼみの大親友の来海えりかが待っていた。

 

「遅いよ、つぼみ~」

「御免なさいえりか」

「どうせ、服をどれにしようか?ってので悩んでたんでしょ?」

「うっ……」

「大当たり~さすがえりかさん」

「えっへん。一体何年つぼみの親友をしていると思っているの?」

 

 とえりかは得意げに言った。実際の所、彼女たちの関係はふたばの年齢と同じ、十年間にも及ぶ。それほど長い間親友であり続けるというのはかなりの根気がいると思うし、その間に幾度となく喧嘩があったというのによくも今まで友情を保ったものである。

 

「それじゃ、えりかさん。よろしくお願いします」

「任せなさい!」

「じゃ、行ってきます!」

「もうふたばったら……車に気を付けるんですよ~」

「分かってるって!」

 

 ふたばは、手を振りながら小学校へと登校していく。その後ろ姿に向かってつぼみは手を振り終えると、少し寂しそうになる。あの日から毎日のように彼女を送っているのだかが、何回と送り出そうとも、事故に遭うことはないか等と気になってしまう。これは姉の性というしかないだろうが、それはまたえりかも同じこと。ふたばが生まれてから、えりかもまたつぼみと同じようにふたばの事を気にかけてくれていた。どちらかというとつぼみよりも一層という言葉が枕詞についてしまうかもしれない。ただ、そのせいでふたばの口調が若干えりか寄りになっている気もするが。それでも、活発に育ってくれることは悪くはないと思う。

 

「さて、それじゃ行こっかつぼみ」

「はい、えりか」

 

 そして、彼女たちは隣にある服屋、『フェアリードロップ』へと向かう。説明のタイミングがなかったためここで書くが、花咲つぼみ、来海えりかの二人もまたプリキュアである。花咲つぼみはキュアブロッサム、来海エリカはキュアマリンとして、月影ゆりとおなじくハートキャッチプリキュアとして十年前戦っていた。その時以来しばらく変身して戦ったりはしておらず、後輩たちに戦いを任せてはいるものの、ここ最近心配になるようなことを聞いた。それが、プリキュア行方不明事件。現在プリキュアとして活躍している現役の子供たちが世界中で次々とその姿を消しているらしい。プリキュアの情報を毎週放送してくれるプリキュアウイークリーが伝えてくれた情報なのだが、このままだと現役のプリキュアが一人もいなくなってしまうのではないかと危惧しているらしい。自分の祖母や、同級生といったOGにはまだ被害者は出ていないものの、だからと言ってよかったと言っていいものではない。できるならば、この平々凡々な毎日が続けばいいなと、心から思うつぼみだった。




 本当は二人にも鬱展開用意してたけど、すでに向こうで苦しんでいる彼女たちにこれ以上の苦行を与えられない自分の弱い心。

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