仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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プリキュアの世界chapter9 パルクールin大貝町

 少女は、その日母と一緒に出掛けていた。まだ三歳で、幼稚園に入る年齢でもない少女は、母の手を取って歩いていたのだが、途中で母の友達に出会ったため三十分はここにいるだろうか。彼女は、それが井戸端会議という物であることを知るにはあまりにも幼すぎた。ふと、少女は空を見上げてみた。すると、どうしたことだろう。屋根の上に人が見える。何人もの人だ。あそこは危ないから昇ったらダメと言われているのに、どうしてあそこにいる人たちは昇るだけじゃなくて走っているのだろうか。少女は母に聞いてみることにした。

 

「ママ、ママ」

「ん?なに?」

「ほら、にんじゃさんがいるよ」

 

 少女は、少し前に見たテレビに出ていた忍者の動きにその影が似ていたからそう表現した。実際の所忍者ではなかったのだが、何も知らない純粋な子供から見れば、そう見えるのは仕方のないことなのかもしれない。母親は、子供の言葉を受けて屋根の上を見る。そこにいたのは、確かに複数人の影。しかし、その先頭を走る物には見覚えがあった。女性は笑って子供に言う。

 

「あの子は忍者じゃないわ」

「それじゃ、なに?」

 

 女性は、自分も昔あこがれたという事実を再確認し、懐かしみながら娘に言った。

 

「プリキュアよ」

「ぷりきゅあ?」

「そう、プリキュア」

 

 女性は、疑問符を浮かべる娘の頭を撫でながら再度その名前を言った。もしかしたら次にプリキュアになるのは、貴方かもしれないわね。と、付け加えながら。

 

 

 一方そのプリキュアプラスその他はと言うと。

 

「うん、そう!だから川の方にボートを回しといて!!それから……」

 

 どこかに電話をしながら当てもなく走り回っていた。

 パルクール、それは特別な道具を使うことなく、人工物あるいは自然の障害物によって動きが途切れることなく効率的に目的地へ移動することが目的のものだ。ちなみに、たまに間違われるが、宙返りなどの効率的に移動するという本来の趣旨から離れた、一種のショーのようなものはパルクールではなく、『フリーランニング』である。

 さきほど、マナ達には目的地のあてはないと言ったが、実際には当てはある。だが、その場所まで行くプロセスから考えると、かなり複雑に動かなければならないのだ。そんな彼女の後ろで士はレジーナに聞く。

 

「おい、マナは一体どこに電話をかけてるんだ?」

「マナの友達のありすって人の所。プリキュアの友達でもあって、今は四葉財閥の社員をやってるの」

「社員?なんでそんな人間にボートを回せと……」

「社員って言っても、その子は四葉財閥の令嬢なの。でも、いきなり重役に就任なんてしても社員のモチベーションとか、社会経験的に考えて今は社員として実地訓練のようなものをやって何年かしたら社長になるそうよ」

「……なるほど、ボートというのは私物のものということか」

「そう。そして、それを運転しているのは大抵……」

 

 レジーナがそう言おうとした瞬間、マナが振り向いて言う。

 

「そう、ううんいいの、ありがとう。レジーナ、今日は近くの川にボートを回してもらうから。シャルル、ナビゲートお願い。それから、士さんと海東さんも付いてきて!」

「分かった」

「僕に命令するな」

「はいはい、それはともかく今は逃げる!」

 

 レジーナは海東の命令するなという言葉を軽くあしらってそう言った。そう、実のところ彼女たちの後ろからは先ほどの男たちが追ってきているのだ。今も瓦屋根の一番高い、細い綱渡り状態になっている場所を走りながら逃げているが、正直言うとしつこくてしょうがない。マナは、ともかく彼らを少しでも振り切ることを考える。ふと、真向かいにある店が眼に入った。確かあの先には……。

 

「よし、皆、向かいの店に跳ぶよ!」

「分かった!」

「しょうがないか……」

 

 そう言うと、彼女たちは瓦屋根を駆け下りていき、そして端にまで来たところで踏切、大きくジャンプする。

 

「まっ、逃がすな!!」

 

 彼女たちを追っていた男たちもそれについていこうとするが、しかし一般人である彼らにとってそれはかなり無謀なことであった。見事に屋根の上にたどり着いた彼女たちと違って、男どもは飛行距離が足りずに店の壁にぶつかって落ちていった。

 

「この先、裏道に入るよ」

「あぁ」

 

 マナ達は、屋根を横断すると、その先にある蓋つきのゴミ捨て場に跳び下りてから裏通りに降りた。そしてまた彼女たちは走る。油断なんてできるわけがな。あそこまで人数をかけておいて、このまま彼らが引き下がるなんて思えないからだ。そして、その考えは当たっていた。彼らは裏道の出口付近に先回りしていた。引き返すか、いや、後ろからもまた人の気配が多数。挟み撃ちにされてしまった。

 

「どうする?」

「……あそこにある階段を使おう」

「え?でも、マナ……上り口は向こう向いて……」

 

 レジーナの言わんとしていることは分かる。店の中に入るためであろう階段の上り口は敵の方を向いてしまっている。このまま行ってそこから上ろうとするのは、危険を伴うだろう。しかし、マナの目が向いた方向を見たレジーナは察した。マナが何をしようとしているかを。レジーナはマナの言った言葉に了承を入れると、士、海東もまた呆れながら了承した。

 

「ハァッ!」

「!」

 

 マナ、他数名は跳びあがると、一階と二階の間にある踊り場の手すりに手をかけ、そしてそのままの勢いで踊場へと躍り出る。一見して、階段は上り口から上るのが鉄則、というよりそれしかないように思えるが、しかしそれ以外にも階段への入り方はあるということだ。マナ達は階段を駆け上りまたも屋根の上へとたどり着いて走り始める。今度は瓦屋根ではなく、コンクリート屋根の平べったい屋根、よく刑事ものなどで出てくる商業ビルの屋上と言えば分かるだろうか。因みに現在6階程度の高さであることを明記しておく。

 

「シャルル、この先にあるのって確か……」

「左にはこの前のデパート、右はアーケード街があるシャル!」

「それじゃ、アーケード街にしよう!デパートはこの前やっと修繕が終わったばかりでオープンしたばかりだし!」

「修繕?」

「うん、ニ、三月ほど前にもあの人たちみたいのが友達の何人かとのショッピング中に来て、それでその友達もプリキュアで、変身はしなかったけど……」

「なるほど、大体わかった。要するにデパートの中をめちゃくちゃにしたってわけだな」

 

 と士はレジーナの言葉に察した。どれだけだったと言うと、ある人物は流しそうめんのようにエスカレーターから男どもを雪崩落とし、ある人物は服屋のウインドウを割り、ある者は吹き抜けの飾りを落とし、ある者はフード街のテーブルをことごとく破壊したり等々、ともかく信じられないほどの被害を与えてしまったのだ。結果として、四葉財閥の支援によってデパートは改装され、その間の人的保障においてもかなりの値がかさんだとも言われるが、前述したありすのポケットマネーで事足りたのは当然だろうか。

 

ー大貝アーケード商店街 10:58 a.m.ー

 

 アーケード街と商店街は似て非なる物である。極端な違いは、アーケード街は、その名前の通り上空にアーチ状の屋根があること、商店街はそれがないこと。ではあるが、現在では屋根のない商店街は東京の菓子の名前のついている横丁ぐらいしか思い当たらず、ほかアーケードがなくてもアーケード商店街を名乗っている場所もあるそうなので、今ではどちらも同じ意味を持っているのかもしれない。

 今や、大型デパート等が増えたために過疎化が進んでいる商店街はしかし、この地域では少し違った。というのも、この商店街を仕切っているのは四葉財閥で、商売に対してのアドバイスをしているのが四葉ありすなのである。近くに大型デパートができても売り上げは変わることなく、それどころか年々増えている始末らしい。果たして彼女が何をやったのだろうか。それは、神のみぞ知る。というか怖くて聞けないらしい。

 それはともかくとして、現在士達四人は、二手に分かれていた。天井のアーケード横には作業員が点検するための通路がある。そこを進むのが士、マナ組。地上を走るのが海東レジーナ組である。何故分かれてしまったかは謎だが、二組は同じ目的地である川を目指して走っていた。その時、マナの目の前に黒服の男が立ちふさがる。そして士の後ろにも。

 さらに地上を走るレジーナ、海東組の前後にも何人も出現する。マナはともかくこちらが狙われる理由は秘書のレジーナがいるからだろうか。

 

「あぁもう、迷惑かけたくないのに……商店街の人達ごめんなさい!!」

 

 と、レジーナは大声で叫ぶと男たちの許へと走り跳ぶ。なお、その言葉に商店街の人たちはと言うと……。

 

「いいのいいの、どうせ保証金が出るんだし」

「もしかしたら店も新しくできるかもしれねぇしな!」

「頑張れよ、二人とも、それから誰だか知らねぇけど兄ちゃんたちも頑張れよ!!」

 

 随分と図太いというか、寛容的というか、理解のある人達である。というよりもはや相田マナが襲われるということは日常茶飯事なことのため別に問題はないのだろうか。

 

「フッ!ハッ!ハァ!!ハァァ!!!」

 

 レジーナは男の腹を肘内し、そのままの流れで顎に掌打を打ち、そして足を払う。男は受け身もとることができずにもろに頭から地面に激突し頭を押さえる。続けて、別の男を相手に胴回し回転蹴りを使用し、それが頭を直撃し、男は服屋のショーケースへと吹き飛びガラスを割って気絶した。

 

「フッ!フッ!フッ!!?」

「相手が悪すぎたね」

 

 一方海東は、と言うと一人の大男と戦っていた。男は海東の顔を殴ろうと右、左、そして右とストレートのパンチを繰り出す。しかし海東はそれを見切り、後ろに下がりながら首を寸での所で避けて簡単に避けていた。そして最後の右ストレートを繰り出した手を持つと、そのまま一本背負いで男を投げ飛ばす。海東は続けて迫りくる男たちの顔をディエンドライバーで殴っていって気絶させる。そして三人目を気絶させた頃、後ろから一人の男がひっそりと迫るが、男の腹部に後ろ蹴りを決めて沈黙させた。

 

「ハァッ!」

 

 士は、作業用の通路の両方の手すりを持って力を入れて浮かぶと、目の前に迫る男の胸付近に連続蹴りをお見舞いする。すると、男は吹き飛び、後ろにいた何人もの男を巻き込んで倒れこむ。それを一瞥した士はすぐに後ろを向いてマナの方を見る。確か、人数で言うと本命であるマナのほうが相手をする人数が多かったはずだ。はずなのだが、マナはそれほど苦戦している様子はなかった。

 

「フッ!ハァッ!!」

 

 マナは四人目か五人目に対峙した男のみぞうちを殴ると、その衝撃で男は腹を押さえながら崩れ落ちる。マナは追撃に、地面に膝を付けた男の頭をスレッジハンマーで殴りつける。男はそれを受けて下にある金網に勢いよく頭をぶつける。

 

「ハァッ!!」

「ッ!」

 

 その後ろから男が蹴りを入れようとする。マナは逃げ場が少ないことを察すると右側の手すりを両手で持ちながら跳びあがってそれを避ける。そして倒立の形になったマナはもう一度通路の方に倒れ、男の首に足を絡め、首投げの要領で男を投げようとすると、左側の柵が壊れ男共々下に落とす。男は、直真下にあった魚やの陳列棚の上に落ちて気絶する。マナは、何とか直前に男を放したため落ちず、そして瞬時に四葉財閥製のエアバックが開いて強打することを逃れる。通路の上に仰向けで落ちる。すぐさま他の男がマナを襲おうとするがそんな男にマナの後ろからやってきた走り寄ってきた士が飛び蹴りで後ろにいた男たち共々一掃する。これで通路上の襲撃者はすべて倒せたようだ。地上の方も同じく。

 

「ありがとう士さん」

「あぁ」

「ぐ、う、うぅ……」

 

 そんな時、マナが最初に倒した男が、どうやら気絶しなかったようで腹を押さえながら言った。

 

「こ、この化け物め……ゴフッ……」

 

 どうやら、今度こそ気絶したらしい。化け物。という悪魔の言葉を残して。この言葉は、正直きつい物だろうと士は思った。自分もあまりにも人並み外れた能力を持っているからこそ分かる。そして蔑まれた来たからこそ分かる。プリキュアとしての能力、その後遺症のように彼女達が得た身体能力、これは人間として、日常生活を過ごすには行き過ぎる力だ。この光景を見ても分かる。今は手加減しているだろうが、これは簡単に人を殺すことができる力だ。人は、自分よりももっと強い力を持つ者に恐怖心を抱く。やがてその恐怖心は蔑みに、差別に、そして怒りへと変わるだろう。多分、彼女は落ち込んでいるだろう……。

 

「化け物でいい」

 

 そう思っていた士は、見た。彼女が笑っているのを。

 

「それがみんなを守る力になるのなら、それでみんなが笑顔になるのなら……私は化け物って言われたってかまわない。化け物なら、化け物なりに頑張るだけだよ」

 

 たくましい。そう彼は思った。考えてみれば彼女たちはこの世界で十年間も戦い続けてきたのだ。精神的にも成長しているのは間違いないだろうし、人間としての元々の器も出かかったのかもしれない。なるほど、ほのかが彼女の事を上に見ているのも何となく分かる気がする。そして……。

 

「マナちゃん!いいもん見せてくれてありがとよ!」

「マナちゃん、あんたは若者の期待の星なんだから頑張んなよ!!」

 

 地上から声援が送られる。それは、店の店主たちからだ。

 

「マナ!あいつらがまた来てる!早く逃げよう!!」

「うん!……みなさん応援ありがとうございました!また明日買い物しに来ます!!」

 

 レジーナの言葉を受けたマナはそう言いながら手を振った。しかし、それだと困る店もあった。

 

「そりゃ困る!うちはしばらく店じまいだから、できれば先延ばしにしてくんねぇかな!?」

 

 その言葉を放ったのは、先ほど男が落ちてきた魚屋の主人だ。その言葉に彼も含めて全員が笑顔になった。もしかしたら、いや間違いなく彼女は愛されている。人に、地域に、そして世界に。などと考えてみたりする。

 

「行こう、士さん」

「マナ……お前、強いな」

「当たり前じゃん?私を誰だと思っているの?」

「相田マナ……だろ?」

「そう、外務省職員相田マナ。まぁ、来年には肩書が変わるかもしれないけど」

「?なんでだ?」

「来年には被選挙権もらうから、衆議院議員選挙に出ようかなって」

「なるほど、大体わかった」

 

 先ほどの期待の星とはそう言うことか、と士は思った。なるほど、こんな少女が議員になって世のため人のために働くというのなら、この世界の日本はいい国になるかもしれない。いや、もしかすると数年後には……。ともかく、良い未来への道筋が見えた士は、レジーナ、海東の二人と合流して地上を進んでいく。目的地はすぐ近くだ。


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