完璧に暴走しとるなこりゃ。
ー国道 11:17 a.m.ー
「もう追っては来てないわね」
レジーナが後ろを見ながらそう言った。何とか振り切ったようだ。一体人一人を殺めるために何人送り込んできたのだろうか。かなりの数を倒したはずだが、あの建物の下にいた数を思えばまだ十分の一と言ったところだろうか。ともかく、大きな国道に出ることができたため、ここからはバスで川の方まで行くということになり、ちょうどバス停に付いた時点でタイミングよく来たバスに乗車する。流石に出社ラッシュではないため、中はそれほど人数はいなかった。
一番後ろの席に座った士は、ようやくゆっくりと彼女と話をする時間ができたことに安堵しつつ、警戒は怠らなかった。
「それで、お前を狙ってきている奴の目星はついているのか?」
「うん。四葉署の刑事によると、犯人の目星はついていて、後は証拠を集めているんだって」
「四葉……四葉財閥は一体何者なんだ……」
四葉財閥は、多数の職種に手を出し、またその全てをことごとく成功させている会社。とだけ言っておこう。その手腕はかなり手広く、マナ曰く近々別々の職種の会社を三軒買うということを言っているらしい。だからと言って、警察一個を持っているのは何故だ。と聞くと、四葉財閥は日本経済の八割近くを牛耳っているから、そうまでしないと危ないのだとかなんとか。
「ここ最近は、ある国からの依頼を受けて、そっち方面に力を入れていたから、後回しになっていたけど、そっちは大体片づけたから一週間ほど前に私を狙っている人が誰なのかの調査を開始してくれたの」
「友達なのにか?少し薄情じゃないか?」
「さっきも言ったけどありすは一社員だもの。それでも、あの子だったら一声でグループ全部を動かせる。けど、依頼が依頼だったから……」
「依頼が依頼?」
「そう、実はその依頼って……」
その瞬間だった、そのバスを衝撃が襲った。
「なんだ!?」
「爆発!?」
「まさか……」
士は窓の外を見る。そこには、なにかメカメカしいスーツ、いや乗り物のようなものを着こんでいる……そう、鎧武のスイカアームズのような物が飛んでいた。
「なんだあれは……」
「あれは、ありすに依頼を頼んだ国が盗まれた兵器だよ」
「なっ、というか……なんで兵器が盗まれる?」
「正確に言うと設計図。あの人、本気で私を殺そうとしているみたい……」
名前は、アーマージャケットというらしい。マナはそう言うと、バスの運転手に止まるとこのバスが狙い撃ちされてしまうということを伝え、そして扉を開けるように言う。士は、そのマナの言葉に思わず彼女に言う。
「おい、何をするつもりだ?」
「ちょうどいいからあなたに見せてあげる」
マナは懐から携帯、いや携帯型になったシャルルを見せながら言う。
「プリキュアの力をね」
「なっ、おいマナ!」
「マナ!」
屋根に上がろうとしたマナにレジーナは叫んだ。
「これ以上は危険よ。いくらなんでももうもたない!」
「……大丈夫、だって私たちには……」
マナは、笑顔を見せながら言う。
「プリキュアのご加護がついているもの」
マナはそう言うと開かれたバスのドアから屋根部分にぶら下がり、そしてブランコの要領で勢いをつけて屋根の上へと出て、立ち上がる。走っている状況で立ち上がるのだから、重力や風速で、バランスが崩れて、少し気を抜けば落ちてしまいそうだ。だが、そんな彼女の事情なんて知らぬように、アーマーを着こんだ男はミサイルを撃ち込む。しかし、走っているバスを狙い打つのは、さすがに素人には難しい。マナはしゃがんでそれを避ける。マナを外したミサイルはそのまますぐ近くにある信号機に当たって爆発する。その爆風と黒い煙がマナを襲う。さらに、それによって混乱した周りの車は止まり、それをバスが避けようとして闇雲に動くためにGがかかる。だがマナは、バスにしがみついて離さなかった。
「ッ!」
そして、煙が晴れ、顔を持ち上げた瞬間、すぐ目の前にアーマージャケットの姿があった。アーマージャケットは、マナの首根っこを掴むと、そのまま持ち上げ、マナの足はバスの屋根から離れてしまった。このままでは、首を切られてしまうだろう。だが、マナはそれに対して慌てず、動じず、むき出しになっているアーマージャケットの操縦者の顔に親指ではじいた何かを当てる。それが当たった衝撃で思わずその手が外れたためマナは逃れることができ、すぐさま彼の後ろに跳んでいった彼に当てたものを取りに行く。マナが当てたのは変身に必要な道具のキュアラビーズだ。見れば、キュアらビーズは、風に流され、バスから離れようとしていた。
「と、ど、けーーっ!!!」
マナが、ラブリーコミューンを持った手をめいいいっぱい伸ばすと、ちょうどキュアラビーズをセットするスロットにはまった。まではよかったが、それをとることに夢中になっていたマナはバランスを崩し、落ちる寸での所で屋根の端を掴んだものの、少し手が滑れば一巻の終わり。そして、そんな身動きできないマナに向かって、立ち直ったアーマージャケットはロックオンする。今度は避ける事なんてできない。万事休すだと誰もが思う。士も思う。しかし、マナにとってはそれがピンチだとは思わなかった。マナは、右手に持ったラブリーコミューンの画面を親指で触る。十年前は右手で持っていても丁寧に左手で操作していたそれだが、今の彼女はそれでなくても触れるほどの手は大きくなった。
≪L!O!≫
その時、ミサイルが発射された。
≪V!E!≫
そして、爆発。その衝撃で天井はえぐり取られ、その爆風と煙がバスの中にまで充満する。数度咳き込んだ士は叫ぶ。
「マナ!」
しかし、そこに相田マナの姿はなかった。まさか、今の攻撃で消し飛んでしまったというのだろうか。だがしかし、レジーナはそう思っていなかった。
「大丈夫。マナは平気よ」
「なんで分かる」
「だって、マナだもん」
次の瞬間だった、目の前にあった交差点に一つの大きな影が落ちてきたのは。道をふさがれてしまったので流石に、バスも急停車し、士は何Gもの衝撃に耐えきれず、近くにあった物を掴まなければ転んでしまう所だった。何とか無事だった士は、目の前に落ちてきた者が何なのかを知るために、バスを降りて目を凝らす。すると、そこにあったのは……。
「あれは、さっきの……」
そう、そこにいたのは先ほどまで自分たちの上で大暴れしていたアーマージャケットだ。それが、何らかの衝撃を受けたのだろう。その装甲は少し凹んでおり、地面にはクレーターまでもできている。いったい何が起きたのだろう。だが、士はそこでようやくそのアーマーの上に誰かが乗っていることに気がついた。
「なんだ……あれは……」
彼女のその姿は優しくも見えた。愛に満ちているようにも見えた。たくましくも見えた。神々しくも見えた。桃色を基調とした服を着た金髪の女性。雰囲気だけ見ればだれかは分からない。しかし、何となくだが彼には彼女が誰なのか分かった。
「マナ、か?」
「そう。あれが、プリキュア……キュアハートなの」
そのつぶやきにレジーナがそう肯定した。因みに、彼女は海東の腕を掴んでいるが、恐らく奴がどこにも行かないようにであろう。
相田マナ改めキュアハートは、乗っているアーマーから降りて言った。
「みなぎる愛!キュアハート!!」
どうやら、彼女達プリキュアというのはシンケンジャー等の戦隊と同じく名乗りを上げてから戦闘に入るタイプらしい。自分もなにか考えるべきだろうか、と彼は自分の性格に似合わないようなことを考えていた。
アーマージャケットは、起き上がる。確かにアーマーは凹んでいたものの、それほどダメージを受けていないようだ。
「流石、プリキュアの攻撃にも耐えられることを謳っただけのことはあるわね」
「攻撃に耐える……か、なら長期戦はま逃れないね」
「あら、私は耐えることができるなんてこと言ってないわよ」
「なに?」
アーマージャケットは背中のバックパックから飛んできた時のようにジェット噴射してキュアハートに突撃しながら拳を突き出す。あれほどの推進力、押さえるのは無理だろうから、多分避けるだろう。と思ったが、しかしキュアハートはそうしなかった。マナは、その突き出した腕を受け止める。その勢いで彼女は少しだけ後ろに下がるもののすぐに止まる。レジーナは言う。
「プリキュアの力は……」
ハートは受け止めたその大きな腕を蹴り上げる。瞬間腕はバラバラに砕け散った。そして、アーマージャケット自体もその衝撃で大きく浮かび上る。近くにある高層ビルの、多分二十階程度の高さだろうか。マナは即座に跳びあがってアーマーの少し上で止まった。そして……。
「データでは予測もしようもないほどの……」
「ハァァァァァ!!!!!」
かかと落としを見舞う。瞬間、アーマージャケットはすさまじい速さで落ち、先ほどできたクレーターの二倍、いや三倍にもなるほどの大きさのクレーターが出来上がった。上にいるマナを見ると何か持っている。あれは、人間だ。多分アーマージャケットの操縦者だった者だろう。この高さから落とされたら流石に中にいる人間が死んでしまう可能性を考慮したのは間違いないだろう。レジーナが、彼女の活躍を総括する。
「とてつもない可能性を持ってるんだから」
「可能性……あれが……プリキュアの可能性……」
士は思わず写真を一枚撮った。その時の衝撃は、今までたくさんの世界で見てきた、感じてきた物と図ることのできないほどの物であった。
ふんわりとゆっくり降りてきたマナは、男の脈拍を確認し、近くの壁にもたれかけさせると、変身を解いて士達のもとに戻ってきた。
「さ、行こう。目的地までここから走っても五分で着くから」
「あぁ……」
驚愕を隠し通すことのできない士は、力なく答えるだけであった。
ー大貝川橋の上 11:29 a.m.ー
「ここか?」
「そう。でもまだ来ていないみたい……」
到着した大貝川は、かなりの川幅の有るところであった。二車線の上下の車道がある大きな橋の真ん中あたりに来た四人だが、どうやら迎えのボートはまだ来ていない様子だった。レジーナは携帯の時計を見る。別段早すぎたわけじゃないはずなのだが、どうしたのだろうか。ともかく、ここで待つしかほかない。
「ここで待つしかないか……」
「だが、こんな広い場所、危険じゃないか?」
「そうだね……!伏せて!」
その言葉に、咄嗟に彼らはすぐに伏せる。瞬間、橋の手すりに何かが当たったように火花が散った。まさか、銃だろうか。
「今のは……」
「今反対車線から撃ってきた。ついに拳銃も持ち出してきたみたい……」
「本気でマナを殺しに来たシャル?」
「そうみたい……流石にまずいかな……」
そんなことを話している間にも橋の両端から車が迫る。逃げ道を封鎖されたされてしまった。川に飛び込んでも、よく見ると流れは急で、溺れる恐れもある。万事休すだろうか。その時、レジーナの携帯が鳴り始める。
「この番号……もしもし!今どこ!?……うん、うん、分かった!それじゃよろしく!マナ、もうすぐ下に来るって!」
「よし、皆。飛び込むよ!!」
レジーナの言葉にマナは即決した。というよりそれしか方法がないのではあるが、船がちょうど下に入ってきたときにタイミングよく飛び込むことで、船の上に飛び乗る算段なのだろうが、一歩間違えば前述した通り川の中に飛び込んで溺れる恐れがある。
「言うと思った……」
「言っておくけど、僕に命令できるのは……」
「そんなのもういいから」
とはいえ、この約一時間ほど彼女達と一緒にいたせいで何となくこうなる予想はできていたため、別に呆れることはあっても驚くことはない。
「もしもしはるか!準備はいい!?」
『いつでもよろしくてよ』
「1!」
『deux』
『「3!!」trois』
瞬間四人は欄干を飛び越える。その直後彼女たちを追っていた車が次々と彼女たちがいた欄干にぶつかり大破する。その内の二台はあまりの勢いに前転して川の中へと落ちていく。車、そしてガラス片、それらが次々と降ってくる中、船も、そして士達の姿もそこに見ることはなかった。
ー大貝川下流 11:36 a.m.ー
それから数分後、少し離れた流れの緩やかな下流の水面に水中から一つの影が上がってきた。それは、紛れもなく潜水艦である。そして、完全に上半分が露出した潜水艦の天井が開いていく。そこから現れたのは、士達であった。
「お前たちの世界では、潜水艦の事をボートっていうのか?」
「こちらは我が四葉財閥が作った新型のおボートですわ。今、試験運用中ですの」
士の愚痴に運転手である女性が言った。
「お前は?」
「ごきげんよう。わたくしは春野はるかと申します。かつてはキュアフローラとして相田さまたちのように世界の平和を守護して参りました」
「お前もプリキュアなのか」
「さようでございますわ。現在四葉財閥付属の病院で看護師をしております。以後、お見知りおきを頂きたく存じます」
このお嬢様言葉を使っている女性もプリキュアだそうだ。もはやプリキュアのバーゲンセールである。と思っては見たものの言わなかった。それにしても、飛び込んだらボートの影も形もなかったときには肝が冷えたが、まさか水中からボートが現れるとは思いもよらなんだ。四葉財閥の技術力は相当なもののようだ。士は周りを見る。どうやら、追っては来ていない様子だ。なんとか撒くことができた。
「さて、それじゃもうそろそろ僕は行くよ」
「その前にカードを返せ海東」
「君はそれしか言えないのかい?馬鹿の一つ覚えみたいだ」
「うるさい」
もはや、このやり取りは鉄板である。というか、あまりにも幼稚な言い争いのようにも、小学生の喧嘩のようにも聞こえる。士は、内心焦っていた。何故なら、もしここで彼を逃がしてしまうと、次に出会うのがいつになるのか分からないからだ。ここでカードだけでも取り戻しておかなければならない。だが、ここは船の上、いくらなんでも足場が揺れている状況で戦うのにも限界がある。果たしてどうするか。
「まぁまぁ、二人とも……」
そんな中、マナが何かを持って二人の間に入る。何だろうか、二つの輪っかであること以外はよくわからない……輪っか?
その時、士の右手首に、海東の左手首その輪っかがはめられる。そして二人は鎖で繋がれる。
「ここは落ち着いて話をしましょう」
「おい、なんだこれは?」
「手錠だよ。さっきはるかに持ってきてもらったの」
「こんなもので僕を押さえられると思って……」
海東は、その鎖をディエンドライバーで破壊しようとする。しかし、何発と銃弾を受けてもそれは壊れる様子はない。
「これは……」
「そちらも我が社の新商品でございますわ。たとえ大砲がお当たりになられてもお壊れになることはないですことよ」
「……一体誰を逮捕することを前提にしてるんだ?」
「備えあれば患いなしということですわ」
「さっさと外したまえ。こんなものを付けられたらお宝を探しに行けないじゃないか」
「それはいけません。海東さまと門矢さまの仲がお戻りになるまで、そのままお付けになってくださいまし」
とはいうものの、実際の所こんなものを付けて外を歩くことなんてできないではないか。と士が言おうとしたが、その前にはるかがなにかバッジのようなものを取り出して言った。
「ご心配には及びませんわ。『四葉財閥新商品モニター中』というこのバッジをおつけになっていればあまり怪しまれることは無き事ですわ」
「『あまり』ってなんだ……まぁともかくだ。これで俺とお前は離れられなくなったな」
「……みたいだね、気にくわないけど……」
と、海東はふてくされる。続いて、そうでしたわとはるかは言う。
「相田さま、あなたに一言おっしゃりたいという方を連れてきましたの」
「一言いいたい人?」
「どうぞ、お入りくださいまし」
そう彼女がボートの奥に向かって声をかけると、一人の女性が現れる。眼鏡をかけた、長髪の女性だ。それに対してマナ、レジーナが驚いて言う。
「り、六花!」
「げ……まずい」
「久しぶりね、二人とも」
六花は、士から見てもなにやら怖い笑顔で二人に迫る。なにやら、怒っているようだ。
「六花、どうしてここにいるの?」
「ほのかさんから連絡を貰ったのよ。あんた達が危険だから、ストッパーと身体検査要員で行ってくれって」
「ほ、ほのかさんから……ってことは……」
マナは、苦笑いで彼女の威圧から逃れようとするが、しかし当然無理だった。
「えぇ、あの事も聞いたわよ。この幸せの王子様」
「あ、あはははは……そう」
「マナ、どうして私も誘ってくれなかったの?」
「いや、だって六花は医学部在学中だし……」
「それでも、差支えがないように協力していたわよ。まったく、マナは愛を振り向きすぎなのよ」
「ご、ごめん……」
「レジーナもレジーナよ」
「ごめんなさい……」
「二人とも私は、ツバメなんだからいつでも頼ってもらってもいいんだから」
「『あの事』ってなんだ?」
「今は秘密で……」
と言ってマナは士の質問に口元に指を持ってきてナイショというポーズを取った。そして、六花は二人を十分に怒ったとみて、今度は士に顔を向ける。
「初めまして。私は菱川六花、キュアダイヤモンドとしてマナと一緒に戦ってたわ。あなたの事は、ほのかさんから聞いてるわ。そしてこの子が妖精のラケル」
「ラケルケル!!」
「あぁ、仮面ライダーディケイド、門矢士だ」
「同じくディエンド、海東大樹」
「よろしく。さて、マナにレジーナ、あなたたちには恐ろしい身体検査が待っているから
「う、うん。それじゃその後に人生相談でもしようか」
「人生相談と言っても、俺とお前らじゃ一歳しか歳が変わらないだろう」
「因みにはるかは私の一つ下だからあなたと同い年で、レジーナは諸事情があって実質十歳ね」
「……理由を聞くと複雑か?」
「ん~と、たぶんね。次の目的地についても続くかも」
「次の目的地?それってどこだ」
「ある国の要人を迎えに行くの」
曰く。本来なら、外務省職員としてその要人を出迎えて、色々な場所を周る公務があるはずだったが、今回の襲撃事件を予期されて上司からあの部屋で待機を命じられたそうだ。そして、要人への出迎えは同僚に任されたそうだが、要人が公務とは関係なしに行きたい場所があるから迎えに来てくれ。つまり逃げ出したいから手伝ってくれと言ってきたので、このまま要人と同僚の二人を迎えに行くのだそうだ。
「……そんなことして大丈夫なのか?」
「いいの。根回しもきっちりしてるし。それに、友達だし」
「……大体分かったが一応聞いておこう……プリキュアか?」
「うん、二人ともね」
「……世の中狭いな」
そして、そこに到着するまでに人生相談会が開かれたのだった。もはや、言うことは何もない。
この始末。あまりにもキャラが変わりすぎて自分でもオリジナルキャラを書いている感じです。
なんでこうなったって?資料が……。