そう考えると、『ボレロ』が頭の中に思い浮かんでしまう……。
信じたくなかった。
信じていたかったのに。
あの人と、友達を信じたかった。
なのに、なのに……。
信じた私が馬鹿だったの?
確かに結婚した後も、二人は仲良くしていた。
でも、それは友達としてだと思っていた。
元々、あの子の方もスキンシップ過多な所があるし、
あの人だって、それを簡単に受け入れてしまう時だってあの時ですらあったこと。
だから、だから
あの光景だけは、信じたくなかった。
笑顔で二人っきりでいるところなんて、見たくなかった。
嘘をついてまで、二人っきりで仲良くしているところなんて見たくなかった。
ーぴかりが丘 00:36 p.m.ー
お弁当屋があるピカリヶ丘へと到着した彼女たちは、ゆっくりと話をしながら歩を進めていた。のだが、どうも様子がおかしい。
「到着!さぁ、ゆうこのところに行こう!!」
「……あぁ」
「そ、そうだね……そうでございますね」
「オホホホホ」
ボートに乗っていたメンバーで、はるかと、はるかからのお嬢様言葉講座を受けていなかったマナ、それと元からノリノリだったモフルン、シャルルの妖精コンビ以外の面々は、げっそりとやせ細ったかのような印象を受けるほどに疲れ果てていた。無論お嬢様言葉講座のせいである。途中で、どうして男である自分たちまでこれに参加しなければならなかったかについて頭の中で考えたものの、結局答えが出ることもないままにあれよあれよという間に話が進んでいってしまった。だが、短い時間の間に元々の口調を直すことなんてできるわけもなく、先ほどもヒメルダ王女……もとい、ひめがいつもの口調で喋ろうとしたところ、はるかの見るも無残な恐ろしい笑顔でさえぎられてしまい、はるかはそれに対して口元を手で隠して笑うだけだった。それにしても、一つ気になることがあった。彼女の秘書兼友達のレジーナが聞く。
「ねぇマナ。なんだか、ボートを操縦する前よりも元気じゃない?」
「ん?ちょっとね」
「ちょっと?」
そういえば、少し暗がりだったが、ボートを運転していたときの彼女は、イヤホンで何かを聞いている様子だったが。ラジオか何かを聞いていたのだろうか。そして、マナはどこかを見つめながら言った。
「ねぇ、士さん、海東さん」
「ん?」
「やっぱり、友達って、友情ってね、どれだけの時間が経ったとしても壊れることはないんだよ」
「?」
「うん……きっと、みんなもそう。ゆうこのところに行ったら、次は響たちのところに行こう。きっと、二人も仲直りしているはずだから」
「ヒビキ?仮面ライダーかい?」
海東の言葉は無視しよう。あとそれは、自分が以前言おうとして、寸での所でやめたネタだ。
「根拠は?」
「ない。しいて言えば、乙女の勘……かな」
「『乙女』……か」
「こらこら、そこを強調しない」
乙女という言葉には多々の意味があるが、それはともかく、としておこう。そういえば、士には何となくだが気になることがあった。
「そういえば、お前ら全員いい年ごろだろ?結婚してるやつはいないのか?」
「もちろんいるよ。まぁ、書類的には一人だけね」
「書類的には?」
「そうシャル。二人、異世界の王子さまと結婚した子がいるシャル」
「ほう、玉の輿か」
「あと百合の交配と栽培の許可が出ていれば、伴侶様が増えてらっしゃるのですがね」
「ん?」
「いえいえ、なんでもございませんことよ。オホホホホホ」
「ことよモフ!」
お嬢様言葉という物は、『トイレに行ってくる』を『花を摘みに行ってきます』など、時と場合によっては例え話のようにして誤魔化すパターンがある。はるかのそれを、訳すとようは、
『もしも、同性での妊娠、同性婚が合法化されれば、もっと既婚者が増えていた』
と、言うことである。だが、もちろんのこと先ほど少しの時間だけお嬢様言葉について学んだだけである士に分かるはずもない。みらいは言葉の意味を若干理解しながら言う。
「ちゃんと男性と付き合ってる人もいるんだよ。このメンバーだと……はるかさんだけだっけ?」
年下のはずのはるかに対して敬語になっているのは、はるかの言葉遣いが年下のそれに聞こえないほどに丁寧で、自分たちの事を敬っている使い方だからだろうか。
「彼は、遠くに行ってしまいましたが……」
「死んだのかい?」
「別に、そう言うわけではございません。今彼は、境界線の向こう側にいます。わたくしは、ただそれを待ち通しているだけ……」
何故だろう。もはやお嬢様言葉というよりも中二病をこじらせた発言のように聞こえてきた。百合が云々は、まだしも、流石に境界線の向こう側なんて言われてしまったら、さすがにおかしいということに気づく。
「そうおっしゃる士様と海東様はどうなんでしょうか?」
「僕かい?僕は士一筋さ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「ツッコミは無しかい?」
「え、冗談だったの?」
完全にボケたつもりだったのに、それが軽く流されてしまったことに思わず海東は頭を抱えてしまう。
「やめとけ海東、こいつらには常識は通用しない」
「ねぇ、私たちを常識外れの人間だと思ってない?」
「違うのか?」
「う~ん……違いません」
そのひめの言葉に士は内心、今回の世界で初めて論破できたことに若干喜んだ、のだと思う。
「それで、士さんはどうなの?」
「俺か?いない」
「嘘。少なくとも気になる人はいるでしょ」
「どうしてわかる?乙女の勘か?」
「ううん、同じ恋をしている人としての勘」
と、レジーナは言った。
「ん?付き合っているのははるかだけだと言ってなかったか?」
「男の人とね、ねマナ」
「うん!」
「……大体わかった」
この数時間で、彼の中の常識が崩されていくかのようだ。たった一言でどういう意味なのかを察することができるようになってしまった。なんというか、この世界の人間は若干おかしいような気がしてならない。その時、みらいが士に耳打ちする。
「因みに、マナが付き合ってるのはレジーナだけじゃないからね」
「と、言うと?」
「通称マナハーレムって言ってね、ドキドキプリキュアメンバー全員と……」
「そういうみらいだって、リコと付き合ってるじゃない」
「モフ!」
「え、いやそれは、その……」
「やっぱり実験やる?」
「いいいい!あれは流石に……まだいいです」
「……まともな人間はいないのか?」
「士様」
「あぁ、待て待てお前の説教は面倒くさそうだ。マナ、代わりに頼む」
「うん、士さん。愛って何なのかな」
「まずい、こっちの方が面倒くさそうだ」
「まあともかく、愛っていうのは人それぞれにある物なの。それは形なんて関係ない。アダムとイヴっていうものから始まったって言われるから、男女の間での愛っていうのが一番多いのかもしれない。でもね、それは大昔の話なの。それから年月が経って、愛の形は人それぞれに変わって……だから、ね。男女の愛が一番まともっていうのは偏見だと思うな、私は……」
「偏見……か」
人を愛する。だが、自分と相手の性別違わなければならないというのは、士のただの思い込みだったのかもしれない。そういえば、性別ではないが、種族の垣根を越えて付き合っている、いや付き合っているであろう人間の事を思い出した。ファイズの世界の尾上タクミと、友田由里だ。二人は、付き合っているというよりもどちらかと言うとタクミが友田の事を見守っている、陰ながら守っているという感じだった。しかし、あの事件の後、二人は改めて付き合い始めただろう。いや、そうじゃなければおかしいだろう。尾上タクミは、オルフェノク、つまり怪人だ。あの後も、ひどい差別に晒されているのかもしれない。だが、多分二人は支え合っていることだろう。そして、もしかしたら理解者も増えているのかもしれない。一緒に戦ってくれる仲間ができているかもしれない。もしも、士が同性愛という物を否定するのならば、あの二人の事も否定しなければならない。そんなことしたくない、そう士は思った。
「だな、愛するっていうことに性別も、種族も関係ないのかもしれないな」
「そうそう、だからさ。士さんと海東さんも」
「それは、完全な誤解だ」
「右に同じく」
「でもさ、そんなに一緒にいるんだったら」
「「それはない」」
「ハモったシャル!」
「あんたたち、十分仲いいじゃん」
「「それもない」」
「またハモったモフ!」
本当にこの二人は強情である。まさに子供の喧嘩、どちらも一歩も退く気がない。だが、それが暴力に発展しないだけまだましだと彼女たちは思う。昨晩の一件はともかくとしてだが。そして、ついに士達はあるお店の目の前へとやってきた。
「さて、ついたよここが……」
プリキュアの一人が経営しているというおおもりご飯。かっこ、シャッターで閉じられている。かっことじ。
「ってえぇ!!?なんでシャッター閉まってるの!?」
「今日って定休日だったっけ?」
「いや、そんなはず……おかしいな?」
あの店の定休日は大体日曜日ぐらいのはず。今日はもちろん平日。では、どうしてその入り口が固く閉ざされてしまっているのだろうか。臨時休業までして、どこに出かけているというのだろうか。
「ゆ~こ~!ねぇ開けてよ~!!私このままだと飢え死にしちゃうよ~」
大げさではないかとは誰もが思うことだが、実際の所腹が減っては戦ができぬという。誰と戦をやると?無論海東とだ。ということはさておいて、はるかのお嬢様言葉講座の事も忘れてシャッターを力強く叩くひめ。取り押さえたほうがいいのだろうか。
「ヒメルダ王女!」
「ひ……!」
「王女として以前に、いち淑女として……」
その前にはるかに止められた。地べたに正座させられて年下に説教を受けている王女はともかく、というか、そっちの方が姫としてどうなのだろうか。それはともかく、改めてシャッターが閉まっている理由についてマナと考察してみる。
「一体どうしたんだろう……」
「出かけてるのか?」
「それはないよ。だって、今日ひめが来日することはゆうこにも伝わっていたはずだし……少なくとも、連絡の一つぐらい……」
「この店に裏口はあるかい?」
と、海東が聞く。
「え?確か、勝手口はあったはずだけど……」
「なら、そこから忍び込もう。中に手がかりがあるかもしれない」
「コソ泥の本領発揮か?」
「怪盗と言ってくれ」
「いや、でも……」
お弁当屋に忍び込もうとする怪盗なんているだろうか。と突っ込みそうになったが、それをするとさらに状況をややこしくしそうだから、マナは言葉を出すことを止めた。
「なんだい?」
「ううん、それしか方法はないか……はるか、ひめ、裏口に行くよ!」
「と、言う様に……え?あ、はい。承知しました。ほら、行きますわよ。ヒメルダ王女」
「しょ、承知しましたでございます」
ということで、士達は裏口へと回っていった。そして、確かにそこには一つのドアがあり、海東はどこからか針金を取り出して鍵穴に入れようとした、その時だ、マナが海東に手を止めるように言った。
「ねぇ、何か聞こえない?」
「ん?……そういえば、誰かが叫んでいるような……」
士達は、ドアに聞き耳を立てる。ひめははるかによって、そんなこと淑女がやるようなことではないと止められたものの、それでも少しぐらいは聞こえた。
『……分かってるんだよ、ゆうこ!』
『落ち着いてめぐみちゃん!』
「ゆうこ?めぐみ?」
「二人ともひめと同じ、ハピネスチャージプリキュアのメンバーだよ。でも……」
「でも?」
「なんか、喧嘩している……みたい」
それは聞いていれば分かる。だが、さらに聴いてみる。
『落ちついてなんていられないよ!だって、だって……私見たんだから!!』
『み、見たって何を?』
『誠司が、貴方と一緒にいるところをだよ!』
「誠司?」
「誠司君は、めぐみちゃんの旦那さんだよ。大学卒業を卒業して、誠司君が就職してから結婚したの。そう、今の時期に……」
「ほぅ」
『い、一緒にいたってそりゃ、彼とは友達だし……』
『普通だったら、そうだけど……でも、私が見たのは、一週間前の水曜日の事なんだよ』
『ッ!』
『その日の朝、誠司はいつも通りに仕事に出たの。その時にね、お弁当を忘れていって……それで追いかけたの。そしたら、誠司は……このおおもりご飯に入って行った』
『ッ……』
『なんだかおかしいって思っていたの。ここ最近、夜帰るのも遅いし、晩御飯もろくに食べてないし、それで……張り込んだの、私……それで、誠司君が……この店に毎日毎日……』
『そう、見られてたんだ』
『ッ!』
瞬間、中から何かが落ちる音がした。
「おい、まずいんじゃないか?」
「海東さん!」
「任せてくれたまえ」
「あれ?僕に命令するなじゃないんだ」
「僕に命令するな」
言い直しやがった。それはともかく、少しまずいかもしれない。サスペンスの見すぎかもしれないが、このパターンは大抵……、早く二人を止めなければいけない。
『やっぱりそうなの!?誠司と……誠司と……』
『お、落ち着いてめぐみちゃん違うの!』
『違うって何が!』
『え、えぇっとそれは……その……』
『どうして何も言ってくれないの!?それならそうってはっきり言って!!』
『い、言ってって言われても……』
『私……ゆうこだったら、ゆうこと誠司が不倫しててもいいかもって思った……』
『え?』
『だって、二人とも、私の友達だし……十年前も皆で戦って、だから、正直に言って貰えれば、私……私……』
『めぐみちゃん……そんなの、だめだよ』
『ッ!』
「開いた」
「めぐみ!!」
我先にとひめが中へと入って行く。そして、ひめはピンク髪の女性を取り押さえた。彼女がめぐみで、その目の前にいるのがゆうこだろうか。
「間に合った……よね?」
「ひめ……」
「久しぶり。元気してた?」
「マナ……それにみらいにはるかも……」
地面に何かが刺さる音がした。何かは、言わない方がいいだろう。めぐみは、ようやく落ち着いたようだ。ひめが、それを見てめぐみの拘束を解いた。それがいけなかった。
「ッ!」
「あっ、めぐみ!!」
めぐみは、ひめやドアの前にいたマナ達を振り切って外に逃げてしまう。
「追いましょう!」
「うん!」
「ゆうこは!?」
「ちょっと相楽君に電話して、話していいか聞いとく!」
「分かった!」
なにが?士はマナに言いたかったが、今はそんなこと言っている場合じゃない。士達は早急に外に逃げていっためぐみを追っていく必要に迫られていた。
そういえば、麻帆良ガールズに異世界の王子様と結婚する予定の女の子いたな、と今更ながらに思ったりして。
Q、どうしてファイズをこんなに贔屓しているの?
A、タクミだから。野球でも、同名の人を応援したくなったりしません?