次の朝、麻帆良学園女子中等部の少女たちが目を覚ました。と言っても幾人かは眠ることすらできなかった。もちろんそれはネギそして自分たちの今後のことを考えてである。明日菜はいつも通りネギを起こしにクローゼットの上の彼の私室に登る。しかし当然だが彼はいない。だが彼女はもしかしたら全部夢で、今日もエヴァとの修行のためにいないのかもしれないと思いたかったもしれない。思い返せば、あの全ての時間が、ネギがこの街に来てからのすべてが大切なものになっていた。しかしそれももう思い出と成り果ててしまった。思い出はいくら考えても過去にしかならない。人は未来を見なければいけないのだ。しかし彼女には、彼女たちにはそんな余裕すらなかった。
「…」
「アスナ…」
そんな明日菜に声をかけたのはもう一人のルームメート近衛木乃香であった。荷物がまとめられている様子からして、彼女は終業式が終わったら京都にある実家に連れ戻されるそうだ。昨日の話を聞いて覚悟はしていたが、親友となった彼女と別れることはとても辛かった。そんな彼女に明日菜は笑顔を見せた。
「行こう、木乃香」
「…うん」
せめて最後まで親友でいたかった。離れ離れでいてもいつかはまた会えることを信じている。たとえそれがかなう事がないと分かっていても。
「…」
一方こちらはネギの入院している病院だ。彼が麻帆良学園がある方向に視線を移してかなりの時間になる。
「…みなさん、サヨナラです」
そして空港に行かなければならない時間になった時にこの言葉をつぶやいた。
「ネギ」
「士さん」
「行くぞ」
「…はい」
彼らは病院から出た。士は彼を自分の愛車『マシンディケイダー』の後ろに乗せて空港へと向かっていく。そこで本国からの使者と合流するのだ。
「もうそろそろ、ネギ先生が病院を出ますわ」
「ネギ先生…」
学校は昨日の停電がまだ続いていた。だが今日はほぼ終業式だけのために休校になることはなかった。3-Aにはほぼ全員がそろっていたが、エヴァンジェリンの席だけが空いている。
「おいロボ子、エヴァンジェリンは?」
「マスターは昨日から行方不明です」
「…そうか」
長谷川千雨を含めて何人かの生徒は目の下にクマを作っていた。だが彼女たちがどうあがいても大人の決定に逆らうことなどできない。子供というのは所詮無力なものである。
「こんなのってあんまりです…」
「夏海ちゃん…」
夏海とユウスケは写真館で話し合っていた。一夜たってもこの理不尽な決定に納得がいっていなかったのは3-Aの子供たちと同じである。
「たとえ掟であってても、そのために人命がないがしろにされていいはずがないです」
「…」
ここで何を言っても何も変わらないことは分かりきっていた。だがそれでも…そんなさなか……
「!」
外から爆発音がした。其れこそ地響きのようだと言ってもさし違いなく。
「今のはなんでしょう!?」
「まさか…」
夏海とユウスケは外にでる。この爆発音の原因を確かめるためだ。だが確かめる前に原因はほぼわかっていた。その同時刻に明日菜たちも同じ爆発音を聞いた。
「なっ!なに!?」
「みなさんあれを!」
桜咲の指差した方向にいたのは間違いなく昨日のあの怪物ラミアだった。
「フフフ…」
「あいつは!」
「フム、ラミアあるネ」
「あぁ…?おッお前は!?」
千雨はうっかり聞き流してしまいそうになったが、その言葉を発した人物は本来ならココにいることがあり得ないはずの人物の声であった。
「やあみんな久しぶりネ」
「超!?」
『超鈴音』二月ほど前まで行われていた麻帆良祭の後に転校していった元3-Aのメンバーである。だが事実は彼女は未来から来たネギの子孫で、魔法を世界に広めるために活動したのだが白い翼メンバーによって阻止され、未来に帰って行った者だった。それがどうしてこんなところにいるのだろうか。
「お前いったいどうして…」
「そんなことより、今は彼と一緒にあいつを止めることが先決ネ」
「彼?」
そんなことよりという事態ではないのだが、彼女が指差したのは一人の青年、小野寺ユウスケであった。
「いったいどこに行くつもりだ!」
「フフフ…簡単なことだ。あの世界樹だよ」
「世界樹?」
その声は麻帆良学園の中にいる明日菜たちにも響くように聴こえた。ユウスケにはその世界樹というものがよくは分からなかったが、この麻帆良学園の生徒たちには分かった。
「世界樹ですって!?」
『世界樹』正式名称「蟠桃」。標高270m、1年に1度だけ光という謎の木である。
「確か、世界樹は魔力を発しているんだったよな」
「そうネ、私は実際、学園祭の時にその魔力を使って世界を変えようとして失敗したネ」
「えっ!そうなの!」
この情報は昨日魔法を知ったメンバーにはまだ入っていないことであった。
「という事はあいつもそれを狙って…」
「あれ?でもあれって大発光の年でないと魔力を放出しないんじゃなかったけ?」
明日菜の言うとおりである。世界樹は22年周期で魔力が外にあふれ出ており、この年は異常気象により、1年早まってしまった。その魔力を使って超は魔法を世界に知らしめることに一時は成功したが、その後のネギたちの活躍により何とかそれをなかったことにし、世界樹騒ぎはそれで打ち切りとなったのだ。一度魔力を放出すると次に大発光を起こすのは22年後という事になるのだが…
「あいつの狙いは世界樹の中に溜め込んでいる魔力じゃないネ…世界樹の下にいる人物の魔力アル」
「!あの下に誰かいるのか!?」
超とラミアは同じタイミングで同じことをしゃべっている。彼女が目標にしている世界樹というものの下に誰かがいるという事自体にユウスケは驚きを隠せないでいた。
「あぁそうだ。その力を使えば私は絶大なる力を持って、この世界も、魔法世界も滅ぼすこともできる」
「魔法世界を滅ぼすだって!」
「それがあいつの本当の目的!?」
「そういう事ネ。彼女の計画を察知して未来から無茶をしてでもこの世界に警告に来たのだが、どうやらおそかったみたいネ」
超が帰った時代は何もなかったのだ。いや何もなかったというのは語弊がある。あったのは焼け野原としたいと哀しみだけであった。それは戦争をしていた時と同じであった。しかしその時以上の哀しみが世界にあふれ出ていたのだ。其れこそ超が戻った時点で魔法世界、そしてこの世界が滅亡寸前になるまでに…
「ふざけるな!魔法世界ってのがどんな世界かわからないけど…その世界の人たちが悲しむと言うなら俺は闘う!ネギ君の代わりに!」
彼の戦う理由それは『笑顔』である。彼は元の世界でも惚れ女性の笑顔のために戦っていた。そしてその女性が死んでしまった後、今度は世界中の笑顔のために戦うと決心したのだ。私は思う。みんなの笑顔のために戦い始めた人間もまた漢であるが、戦いの中でそれに気がつく人間もまた漢であるのだと。
「変身!」
「フン、馬鹿め」
ラミアは昨日と同じようにグールをだし、さらに昨日途中で出てきて、クウガとディケイドを圧倒していた七人の怪物までも現れた。言わずもがな戦力差は一目瞭然であった。
世界樹の下に封印されている人物がいる…。って設定あったような気がしたんですけれど?
なんか記憶があいまいになってきた。