かくして戦闘は開始されたわけであるが、美墨なぎさの件を無しにしてもかなり手こずるであろうことは予想できた。何故なら、相手の大きさに問題があるのだ。今まで自分たちが戦ってきた怪人は、大体が人間サイズの大きさだった。仮面ライダーXの敵GODの大幹部であるキングダークやディエンド、つまり海東の出身世界のフォーティーンといったような例外を除けばの話である。しかし、彼の目の前にいる敵はなぎさを除けば全員が自分の二倍、三倍はあろうかという大物ばかり。かつてプリキュアたちはこんな化け物たちと戦っていたのだから、そりゃ自分より戦闘経験があるに決まっているだろう。ともかく、士もやれることはやるつもりだ。
「はぁっ!」
士は、ライドブッカーをガンモードにして、空中を駆けるジェットコースターの形の怪物に向けて射撃する。どうしてそんな現代的な乗り物に姿を変えているのか少々不明であった。その攻撃によって頭に来たのだろうか、ザケンナーは士の方を見て目から怪光線を発した。当然そんなものに当たる士ではなく、簡単に避けることができた。すると、今度はザケンナー自体が突撃してくる。士は、避けることなく仁王立ちでそれを寸前まで引き寄せる。そして、ザケンナーが士に当たる寸前に、士は跳びあがり、ジェットコースターザケンナーに乗車し、ソードモードにしたライドブッカーで突き刺す。これにはさすがに痛かったか、ジェットコースターザケンナーは無茶苦茶な動きをして士を振り落とそうとする。だが士は落とされないように足を踏ん張り、ついにザケンナーは墜落した。
「やったか?」
士は飛び降りると次のザケンナーを倒しに向かおうとザケンナーから目を離した。その時だ、ザケンナーがピクッと動いたのは。士の後ろで静かに、しかし確実に起き上がった。そして……。
「あなたに届け!マイスイートハート!!!」
「ラブラブラーブ……」
「なに?」
士は、その声に振り向いた。そこには確かに倒したはずのザケンナーの姿、そしてザケンナーに光線技を当てるキュアハートの姿があった。光線に飲み込まれたザケンナーはその眼をハートの形にして、煙の中に消えていった。その煙が晴れたそこにいたのは、あの大きな怪物の姿ではなかった。
「ゴメンナー」「ゴメンナー」「ゴメンナー」「ゴメンナー」
普通のジェットコースターの乗り物、そしてそこから出て行こうとしている小さな星型の黒い物体。それは、謝りながら散り散りに分かれて逃げていった。どういうことだろうか。確かに手ごたえはあったはずなのだが。その時、ハートが士のすぐそばにまで来て言った。
「プリキュアの敵は、ほとんどが浄化技じゃなければ倒せないの」
「なに?」
「ザケンナーは、浄化技じゃなくても倒せるらしいけど、それでも厳しいかな?」
プリキュアの敵は、というよりプリキュアの敵が使役する怪物は、大体が闇の力に準ずる物が無機物、生物関わらずに憑依するのだ。ザケンナー、ウザイナーもまた同じく。
ザケンナーは初代プリキュアであるほのか達が戦ったドツクゾーンという組織が使役する怪物だ。もともとは、どす黒く渦巻いている『怒れる天空の妖気』が凝集した不定形の生物であるそうだ。それが、様々な物に憑依することによって憑依した物体をモチーフにした怪物になるのだそうだ。それらザケンナーは、プリキュアの必殺技を受けると、憑依していた物体から引きはがされ、星型の『ゴメンナー』というものに分裂して、どこかに去っていくのだ。因みにこのザケンナー、キュアハートの言う通り浄化技でなく、力技でも倒すことすらできる。現に、必殺技によって弱っていたとはいえ、美墨なぎさはライダーキックよろしく跳び蹴りで倒したことがある。また飛行機型の素のザケンナーがなぎさとほのかの通常攻撃で倒されたこともある。
ウザイナーはSSプリキュア、つまり咲や舞が潰した組織が使役していた怪物だ。元々、ダークフォールという組織の幹部たちによって闇に染められた精霊たちが様々なものに憑依し、姿を変える怪物である。現在、精霊たちはSSプリキュアの活躍によってそのほとんどが解放されたのだが、それ以降も何度もプリキュアたちの前に現れ、彼女たちを襲っているのだ。これに対して、まだ闇に染められた精霊たちが残っているのではないかという仮説があるが、定かではない。
「要するに、変身できない今俺にできる事は弱らせることぐらい……だな」
「そう言うことだね、それじゃよろしく!」
「少し気にくわんが……分かった」
士は、ライドブッカー一度回転させてから引き金を引く。今回はサポートに徹するしかないが、それでも一切攻撃が効かない敵でないだけましであると考え、キュアハートの後ろをついて行く。
ディエンドもまた、キュアビート、キュアダイヤモンドから士が聞かされた情報と同じことを聞いた。
「なるほど、つまり彼らを倒すには浄化技が必要っていうことだね」
「えぇ、そういうことよ」
「大体わかった。それなら……」
ディエンドは、わざとらしく士の決めセリフを使うと、二枚のカードをディエンドライバーの装填する。
≪KAMENRIDE ZANKI TODOROKI≫
「彼らの出番だ」
ディエンドが引き金を引くと、二体の仮面ライダーが出現する。よく似ている二人の緑色の仮面ライダー。仮面ライダー斬鬼と仮面ライダー轟鬼だ。二人は、響鬼の世界の仮面ライダー、音撃戦士とも言われる者だ。魔化魍という怪物たちから人々を守るために戦う者たち。音撃打の戦士、音撃射の戦士、音撃斬の戦士に分けられる戦士で、二人は音撃斬の戦士である。音撃戦士は、それぞれ清めの音と呼ばれる音撃を放つための武器を使用しており、斬鬼と轟鬼が使用するのは音撃震というギターに似ている武器だ。魔化魍の体内には邪悪な魂が宿る土塊があり、それを清めることによって彼らは魔化魍を倒している。そのため彼ら音撃戦士は、仮面ライダーでも数少ない浄化技を持つ者たちと言えるだろう。
「へぇ~ギターで戦うんだ」
「あぁそうさ、それが何か?」
「私もギターを使うのよ、もちろん普通に弾くことだってできるわ」
「なるほどね、それじゃセッションしてみるかい?」
「いいわね」
「ちょっとあなたたち!!」
「「ん?」」
「そう言った話は後にして!!」
まるで、次の音楽会の構成でも話した居るかのような二人に向かって叫んだのはキュアダイアモンドである。彼女は怪物二体の説明をキュアビートがする間ザケンナーとウザイナーを抑える役目をしていたのだが、少し待たせすぎたようで、しびれを切らし彼女は二人に怒鳴ったのだ。
「ごめんダイアモンド、それじゃ行きましょうディエンド、斬鬼、轟鬼……私たちの心のビートは……」
そして、ビートが髪をギターの弦のように弾くとエレキギターの音のような物が鳴った。
「もう止められないわ!」
「はぁっ!」
ディエンドは、バットウザイナーと大木ウザイナーに向けて弾丸を撃ち込みけん制しながら斬鬼、轟鬼とともに走って近付いていく。斬鬼はバットウザイナーに飛び掛かり、轟鬼は大木ウザイナーに飛び掛かり、その身体に斬撃を入れる。さらにディエンドは、カードを装填する。
≪ATTACK RIDE BLAST≫
「ウザッ!?」
その音声が鳴った直後、ディエンドライバーは分身し、複数の銃弾が発射されウザイナーに当たっていく。それによってのけぞったウザイナーの隙を見逃さず、二人は音撃弦・烈雷をそれぞれのウザイナーに突き刺す。バックルに装備されている音撃震・雷轟を烈雷と合体させる。その瞬間、それぞれの烈雷の両サイドが開く。そして、二人は爪で雷轟を弾く。
『雷電 激震』
『雷電 斬震』
『轟』
『轟』
斬鬼が『音撃斬・雷電激震』、轟鬼が『音撃斬・雷電斬震』を繰り出すことによって清めの音を敵に送る。そして二人は同時に弦から手を離す。その瞬間、ウザイナーは憑依していた木、バットから分離する。そして、分離したウザイナーは小さな無数の精霊へと変化して散会していった。それを見送った轟鬼、斬鬼はギターを回して地面に付きたて、彼らは消えていった。
「はぁッ!!」
「ウザッ!」
「フッ!!ハァ!!」
「ザケンナー!!」
ダイヤモンドは石ウザイナーの繰り出してくる鋭くとがった石を避けながら接近し、その顔の中心に蹴りを入れる。ビートは、交通ザケンナーの頭にめり込むようなかかと落としを落とした。そして、顔の前面に蹴りを入れてその勢いで元の位置に降り立つ。
「行くわよ!」
「えぇ!」
≪ラケル!≫
≪ソソ!≫
キュアビートが一度フィンガースナップによる綺麗な音を鳴らすと、一つの青い音符が出現する。ビートはそれを手で優しく包み込むと、子を愛する女神のように音符を胸に抱く。
「弾き鳴らせ!愛の魂!!」
すると、音符はどんどんと大きくなり、その形をギターと変えた。
「ラブギターロッド!」
これが、キュアビートの専用武器、『ラブギターロッド』である。通常時は、このギターのヘッド、つまり頭部分にフェアリートーンのラリーがはまってバリアを張ったり、音符で攻撃したりするのだが、今回はそのためにその武器を出現させたわけではない。
「おいで!ソリー!!」
≪ソソ!≫
「チェンジ、ソウルロッド!」
ソリーがヘッドの部分に収まった瞬間、彼女はギターのボディ部分をヘッドの下までスライドさせる。これは、『ソウルロッドモード』という物で、必殺技を使う際はこの状態にするのだ。これで、ビートの準備は整った。
それと並行して、ダイヤモンドはハート型のキュアラビーズをラブリーコミューンに装着する。そして、変身した時のようにラブリーコミューンの画面をハートの形になぞる。
「煌めきなさい!トゥインクルダイヤモンド!!」
彼女がその指をウザイナーに向けた瞬間、その指先から無数の氷の刃が飛び出す。それらはウザイナーに当たり、そしてキュアハートの時と同じくその眼をハートの形にして洗脳されたかのように言った。
「ラブラブラ~ブ……」
そして、その姿は消えてしまった。
「駆け巡れ!トーンのリング!!」
一方ビートは、ギターのボディがあった部分を持つと、反時計回りに体を中心とした大きな円を描く。
「プリキュア!ハートフルビートロック!!」
そしてザケンナーに照準を合わせて、ギターのボディにあった引き金を引いて円を打ち出す。円はまっすぐザケンナーにむかい跳び、そしてさながらフラフープのようにザケンナーを囲んで回る。
「三拍子!1・2・3……」
ビートはそれと同時に、まるで指揮棒を振るかのように左に右にそして上にとギターを振る。そして、敵に背を向けて跳びあがって言った。
「フィナーレ!!」
瞬間ザケンナーは光と共に大爆発を起こし、ザケンナーはゴメンナーとなって立ち去っていった。なお、この爆発による被害は一切ないのであしからず。二人は、敵を浄化できたことを確認すると、他のプリキュアを助けるために走り出した。
戦士たちが親友に向かっていく姿を見ながらほのかは考える。マナ達の言う通り完全にジョーカーに支配されていないとするならば、どうにかしてジョーカーをその身体からはじき出しさえすれば美墨なぎさを取り戻すことはできよう。しかし、もしも失敗すればなぎさは死んでしまう恐れがある。ではどうするか。プリキュアの浄化技はどうだろうか。浄化技は、十年前それぞれのプリキュアたちが戦っていた際に使っていた必殺技の大多数に付属していた効果と言ってもいい物。それを使って、敵によって心を怪物にされた人や、無機物の物まで浄化することができていた。しかし、今回のそれは十年前の幹部の怨霊がなぎさに纏わりついた物、あの自信たっぷりな笑みからそう簡単に行くとは考えていない。それ以外に打つ手はないというのだろうか。いや、発想を逆転させるのだ。どうして、十年分の憎しみが怨霊になったジョーカーは、なぎさの身体を完全に飲み込むことができないのだ。どうして、時間がかかっているというのだ。考えられるのは、なぎさの中でプラスになる物が、ジョーカーというマイナスを中和しているということだ。では、そのプラスになる物は何だというのだろう。考えろ、考えろ、考えろ……。
「あっ……」
「メポ?」
その時、一つの考えがまとまった。もしそれが作用したとするならば合点がいく。しかし、新たな疑問が生まれた。もしもそれが作用しているとするならば、どうしてジョーカーを完全に拒絶できないのだ。あれの力からすれば……。いや、そういえば実験結果の中に気になる物があった。もしもあれが精神的なものに左右されるとするのならば、絶望していた彼女の心にジョーカーが潜り込んだということに合点がいく。だったらあの方法ならばもしかすると……。いや、ダメだ。自分は彼女に近づくことすらできていないではないか、試すチャンスすらも……何より、自分もまた……いや、可能性があるのならやるしかない。もしも自分が……自分をおとりにすれば……。
「……信じているわよ、なぎさ……ムーンライト!!」
ほのかは、この中で一番年長であり、実戦経験が一番豊富であるキュアムーンライトに自分の考えた作戦を伝えた。それを聞いた瞬間、ムーンライトの、そしてメップル、ミップルの顔色が変わった。
「ほのか、あなたなぎさと心中するつもり!?」
「ほのかそれはいくらなんでも無茶メポ!」
「他に方法はないミポ!?」
「色々考えたけど……これが、ベストだと私は思うわ……お願い、力を貸して」
ムーンライトは、その真剣なまなざしに押されてしまう。彼女の安全を考えるなら、絶対に了承してはいけない作戦。ほのかが死ぬ可能性が高い作戦。また、目の前で大事な人が死んでしまう可能性がある、そんな無謀な作戦。しかし、ムーンライトは賭けてみることにしてしまった。彼女たちの友情を。
「……一つ約束して、死なないでほのか……私はもう、誰かが……コロンや父さんのように死ぬところを見たくはない」
十年前のあの激戦に次ぐ激戦の数々。何十人ものプリキュアがそれぞれに戦っていたあの時代、キュアムーンライトだけが味わった苦い記憶。それがパートナーの妖精コロンの死、そして父親の死。当時から、親のどちらかがすでに亡くなっているというプリキュアは確かにいた。しかし、彼女の父親の場合は戦場で、彼女の目の前で死んでいるのだ。自分を支えてくれていた妖精のコロンは、操られた彼女の父親の攻撃から彼女をかばって消滅し、洗脳が解け三年ぶりに再会した父親もゆりをかばって爆死、もう誰かの死を見たくないと思うのは当然であろう。ほのかも、それをちゃんとわかっていた。そして、笑顔で言う。
「えぇ……約束します。絶対に私は生きて……そうだ、四葉財閥が主催するクリスマスパーティーにみんなで行きましょう。私、この頃忙しくて招待状が届いてたのすっかり忘れてた……」
「えぇ……必ずよ……必ず……生きて帰ってきて」
「はい」
そして、作戦は開始された。
なお、途中にあった『雷電 激震』や『雷電 斬震』と『轟』は、響鬼劇中の書道の字というイメージです。