仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 今回の話、すごく大変だった。特に遠藤止のセリフが。自分の性格と正反対の人間を書くという事がこんなにも大変だったなんて……。


プリキュアの世界chapter 53 私達の言葉はただの綺麗事

 倒れ伏したプリキュアたち、その姿を滑稽に見ているひとりの男。果たして彼は何を口走るのだろうか。

 

「ククククク……アハハハハ!!!見ろ!!良い眺めじゃないか!!あのプリいキュアが!巨大な悪の意思だとかどうとかというのと戦い続けてきたあのプリキュアが!いま僕の前にひれ伏している!!!これを、良い眺めと言わずに何だというんだ!なぁっ!?プリキュア!!」

「クッ!」

「どうした!?立ち上がらないのか?いつものように綺麗事を吐いてな!」

「綺麗事ですって?」

「そうだ、綺麗事じゃないか。世界の平和を守る?笑顔をも守る?未来を守る?守る?守る?守る?だが、守った結果がこの世界じゃないか!お前らは何も守れやしない、世界中のどこかで戦争が起こり、どこかで泣いている者たちがいて、ある物は友情に絶望し、ある物は仕事で絶望し、ある物は欲望で絶望する!どうだ?これが、お前たちが願った結果だ!お前たちは、守ろうとした、だが結果はこのざまだ!こんな世界で自分たちが本当に世界を守ることができたと思ているのか!?」

「クッ!」

 

 悔しいが、全部とまでは行かないが彼の言っていることも事実である。今も世界のどこかで戦争、紛争、民族闘争様々な争いやもめごとが起きており、数多くの戦争によって毎日何十何百何千という人間が亡くなっている。そのたびに誰かの笑顔は失われ、止めようのない涙があふれ出している。

 自分たちの願った未来はこんなものではなかったはずだ。もっと、キラキラしていたはずの、もっと輝いていたはずの未来、だが結局はなぎさのようにうららのように響のように絶望し、まるで煤によって真っ黒になってしまったかのように未来がどす黒く見えてしまった。ある者は人間の汚さをしった。ある者は人間の暴力を知った。そしてある者は、性善説という物が人間全員に必ずしも当てはまるものではない事を知った。そして、人間の弱さも知った。

 

「そうだ、何も変わらない。結局は俺の元いた世界と何も変わらないんだよ!何がプリキュアだ!何が光の美少女だ!所詮は女じゃないか!結局、女は子供を産む機械だって」

「そんなわけない!!!」

「!!?」

 

 遠藤止が話を続けようとしたその時、それを否定する者がいた。

 

「めぐみ……」

「女の子は、子供を産む機械だって言葉は、絶対に使っちゃいけない言葉なの。あっちゃいけない言葉なんだよ……ッ」

 

 めぐみは、ゆっくりと立ち上がると、遠藤止にその眼差しを向けて言った。その眼にはまるで、炎が宿っているかのようで、遠藤止はそれを見ると後ずさった。

 

「私はまだ子供を産んだことはない。赤ちゃんがお腹にいる感覚を感じたことはない。でもね……それでも今ここにいるの……私と、誠司くんの子供がここにいるの!」

「なに!?」

「えっ!?」

 

 この発言には、遠藤止だけではない。第一回遠藤止対策会議に参加していなかった者たちのほとんどにとっては初耳の情報だったため、それなりの衝撃が与えられた。

 

「赤ちゃんってね、とても尊い物なんだよ。今は感じることができなくても、ものすごく暖かいの……ここにいるんだって、ただその場所を撫でるだけで優しい気持ちになることができる。それを感じ取ることができる人間を、一人の人間を、機械なんて絶対に言わせない!!」

 

 子は宝だ。目に入れても痛くない。そんな言葉が世界には蔓延している。だが、そんな難しい言葉を使わなくても、ただ心で感じ取ればいいのだ。これから先、その子供たちがどんな世界を見ていくのだろう。どんな人間に育っていくのだろう。そんなことを思いながら何ヶ月も子供を背負っていくのだ。男には絶対に完全にわからない事だ。だが、それでも、それでも、それでも、分かろうと努力していくことが大切なのだ。今の自分は、人間たちはそれを分かっていないのかもしれない。そのせいで、どれだけの人々に不快感を与えることか。子供を産んだ時の母親の表情を想像しよう、子供の事を思う母親の表情を想像しよう。それは、決して張り付いた顔じゃないはずだ。それは、決して他人に言われてしているという演技じゃないはずだ。私達は、それを守るために動かなくてはならないはずだ。そのために、赤ちゃんを大事にしなければならないはずだ。触れるときも、砂の城を触れるように、簡単に崩れてしまうからこそ、崩さないように触れなければならないのだ。それを、男は分かっていなかった。だからこそ、今分かろうと努力し始めている。成長し始めている人間が確かにどこかにいるはずだ。しかし、それを分かるときは来るのだろうか。いや、分からなければならない。いつか来るその日のために。誰もが、その日のために学ばなければならない。知らなければならない。そうしなければ、その資格なんてないのだから。

 そして、めぐみの言葉を皮切りに、彼女たちはまた立ち上がる。いつものように、以前のように、彼女たちは絶対に立ち止まらない。

 なぎさが言う。

 

「あんたの言っていることは本当は正しいのかもしれない。今もどこかで誰かが泣いている。今、ここでこうしている間にもどこかで戦争が起きて、名前も知らない誰かが死んでいるのかもしれない。確かに、私達は何も守れていない、それは事実……でもね、戦争を仕掛けているあんたが言っていい言葉じゃない!」

 

 咲が言う。

 

「ここで私たちが諦めたら、めぐみや、満の子供たちが安心して暮らすことのできない世界になるのかもしれない。だったら、私たちはまだ戦わなくちゃならないの。それが、この世界に先に産まれた私たちの意思だから」

 

 のぞみが言う。

 

「女の子ってね、確かに男の人よりも力が弱くって、泣き虫で、感情の表現が極端で、だから時には未来を見失うことだってある。でも、それを仲間たちと補って生きている。補うことで、最高の笑顔を生むことができる。それが女の子だよ」

 

 ラブが言う。

 

「たくさんの涙があって、たくさん理不尽なことがあって、挫折もしてきて、でも笑顔もいっぱい見てきた。私達の行いが、笑顔を産むことを、この世界は教えてくれた。それを教えてくれたこの世界のためだったら、私たちはいくらでも闘える!」

 

 つぼみが言う。

 

「人はいくらでも成長することのできる生き物です。心の大きさも、どれだけでも膨らませることのできるとてつもない可能性を持って、みんな生まれてくるんです。その可能性を、女性という心を育む人達を否定する権利、貴方にはありません!」

 

 彼女たちの言葉は、遠藤止の胸に突き刺さっていく。そうだ、これだ。これがプリキュアだ。そう、彼は懐かしい気持ちになった。どんな理不尽にも耐え、勢いを増して押し寄せてくる津波のように相手の心から闘争心を根こそぎ奪おうとする、それがプリキュアなのだ。大人になって、心の支柱が弱くなっている。自分もそうだったのだから彼女たちもそうであろう。そう考えた自分が甘かった。むしろ、成長しているではないか。多くの理不尽を糧にして、まだ前に進もうとしているではないか。遠藤止は、その威圧感に押されて何も言えない。

 響が言う。

 

「私は、貴方に人生を狂わされて、皆に嫌われるだろうって思った。でも、それでも奏は、皆は私の事を、この子の事を受け入れてくれた……。この子は重荷なんかじゃない。この子は、私たちを繋いでくれた、かけがえのない宝物。キラキラ輝く未来を夢見て産まれてくる私と……奏の子供の未来のためだったら、いくらでも傷つくことができる!」

 

 みゆきが言う。

 

「何もできない私達だけど、笑顔になることができる。私達が笑顔でいるだけで、その笑顔がどこまでも伝わって、より大きな笑顔にできるって、私たちは知っている。ちっぽけだけど、それぐらいのことはできるんだって、教えてあげることができるから!」

 

 マナが言う。

 

「一人一人の言葉は小さくったって、その輪が広がっていけば、いつかは悲しむ人や、苦しむ人たちがいなくなる。そう信じるから、辛くたって乗り越えてこれた……今も、これからも!ずっと、ずっと!私たちは歩き続ける!!」

 

 皆、未来を見つめていた。未来を見ていない遠藤に分かるはずがない、この熱気、この迫力。もう、遠藤止に反論する余地はなかった。

 総括をするようにはるかが、そしてみらいがほのかが言った。

 

「綺麗事で結構よ。私達が戦っているのは、その綺麗事を未来につなぐためよ!!何年かかるのかは分からない。でも、いつかはその綺麗事が世界を救う架け橋になる。そう私たちは信じて大人になった!!」

「綺麗事を言いながら、少しずつでも世界中の人たちを助けたい……そんな気持ちが人間を形作っている。だから、私たちはまた立ち上がれた!」

「たくさんの人種がいるから、貴方のような意見を持った人がいるのは当たり前……けど、そのせいで大勢の人たちを傷つけた貴方の事を、私たちは絶対に許さない!プリキュアとして、女性として、そして……今を生きる人間として!!」

 

 綺麗事は、戦争を止めるカギになり得ない。誰かの事を動かすカギになり得ない。ならば、何故綺麗事という言葉があるのだろうか。決まっている。綺麗事は誰かを動かすためにある言葉なのじゃない。自分自身を動かすためにあるのだ。自分の心を動かすために、綺麗事をつぶやかなければならないのだ。それが人生の目標だから。叶わないかもしれない、遠く及ばなくて笑われるのかもしれな。でも、決意を笑う者がいてもいい。夢だ戯言だと笑われてもいい。だが信念を笑うやつは許してはいけない。例え届かない夢だったとしても、夢を持たないよりもいい。目標を持たないよりはいい。自分たちが生きているのは、ただただつまらない人生を、ただただ戯言のような人生を満たす為ではない。綺麗事という目標のために、歩いていくため。今を生きていく。それは、転生者である人間には理解できない事であった。

 

「黙れ!ただの作り物の人形共が、作られた肉体と魂を持った怪物どもの言う言葉など!」

「君が何を言おうと、彼女達には通じない」

「なに?」

 

 その言葉を言ったのは、遠藤止に手錠で繋がれているディエンドであった。

 

「君の言葉は、ただの言葉だ。そこに心がこもっていない。まるで、誰か他人の言葉をあたかも自分の意見かのように並べているだけの蓄音機だ」

「黙れ!」

 

 遠藤は、ディエンドの腹部を蹴り上げる。しかし彼は言葉を止めなかった。

 

「ッ!……彼女たちの言葉は……ただの言葉じゃない、決意だ。例え君が次の一生を賭けてもたどり着くことのできない心理だ……」

「黙れ、黙れ!」

 

 遠藤はさらにディエンドの頭を殴る。しかし彼は言葉を止めなかった。

 

「何故だか分かるかい?……人生が一度きりしかないからさ!……一度きりしか、ないからこそ、その生に全てを賭けて戦いぬくという覚悟を持つことができる!」

「黙れ!!」

 

 遠藤は、さらにディエンドに銃を向ける。しかし、それよりも先にディエンドは遠藤のガシャコンマグナムに手をかけ、銃口を地面に反らした。彼は言葉を止めない。

 

「君のように、二度目の人生を喜んでいるような男の放つ言葉に……心なんて宿るわけがない……君が遠藤止という男の人生を楽しむのは勝手だ、君が自分の好き勝手な人生を送るのも自由だ……だが、その自由のために誰かを不幸にさせる人間は……人間じゃない!ただの、化け物だ!」

「黙れッ!!!黙れッ!黙れッ!!」

 

 その言葉に、遠藤止はさらに激昂しディエンドを殴り続ける。だが、それはもはや己が間違っているという事を証明するための行動に他ならない物であった。

 人の人生には限りがある。例えどれだけ長生きしたとしても、人は百年と少ししか生きられない。その中で、順風満タンに自分自身の人生を送れる年数なんて、一体いくらほどあるのだろう。七十年?六十年?五十年?分かるはずがない。分かるはずがないからこそ、今目の前の人生を一所懸命に生きるのだ。来年死ぬかもしれない。明日死ぬかもしれない。今死ぬかもしれない。でもそれでも人は己の今の人生を必死で生きる資格があるのだ。義務があるのだ。そうはいっても、その義務を放棄し、明日を生きる事にも希望が見いだせない人間は山ほどいる。それもまた当然だ。今を生きるのにも精一杯になっている人間なんて山ほどいる。それが現実だ。だからこそ、この一分一秒を全力で生きぬけばいい。そうすれば、一分後の自分の人生が見えてくる。一時間を必死で生きる。そしたら、次の一時間後に生きている自分が見えてくる。少しづつ、少しづつの辛い人生を、楽しみに生きていくことなんて簡単にできる事じゃない。だが、それが生きているという実感だ。真実だ。心理だ。次の人生はいい物でありますように?クソくらえだ。記憶を持ったまま転生できます?唾をかけて捨ててやる。次の人生なんて、次の人生の自分が決める事。今の自分が怠けた結果を次の人生に持っていくなんてこと、例え神が許したとしても、自分自身が、自分自身の心が許さない。絶対に、許さない。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

「……ッ!」

 

 その攻撃のダメージにより、ディエンドは変身を保てなくなり、海東大樹へとその姿を変えて地に落ちた。遠藤止は、ただ無言でガシャコンマグナムを海東の顔に向ける。もはや、遠藤止には議論をする力など持っていなかったからだ。ただ、暴力の身に頼った男には、もはや手はそれしか残されていなかった。しかし、海東はその銃口を先ほどのように退けることはしなかった。いや、できなかったと言った方が正しい。先ほどから遠藤止が行っている攻撃による痛みで、腕を上げることができなかったのだ。

 

「海東さん!」

「海東!」

 

 万事休すか?いや、彼はこの場面から反攻の機会を探ろうとしていた。そう、彼はまだあきらめていない。生きているのだから、当たり前である。次の一手を、ここにいるすべての人間の命を守る。それが彼が、自分の命を懸けてでも守ろうとしたものだったから?違う、これが自分の意思なのだ。これが、自分が守ると決めたものなのだから。

 あたりを奇妙な沈黙が襲った。耳に入るのは少しの風の音ばかり。それもかなり強い風の音であり、それがまた奇妙なものだった。風邪なんてもの吹いていないのだ。頬に、肌に心地の良い風等当たっていないのだ。だが、それでも彼女たちの耳には風の音が鳴り響いている。そして、それはどんどんと、まるで近づいているかのように大きくなっていった。違う、これは風の音なんかじゃない。

 それが、車のエンジン音であることに最初に気がついたのは一体誰だっただろうか。しかし辺りはすでに四葉財閥や警察たちによって完全に封鎖されている。車が近づいているなどという事は絶対にありえないはずだ。しかし、幻聴であったとしてもあまりにもリアルすぎるものだった。答えは、一体何なのだろうか。彼女たちは、ほぼ同じタイミングで後ろを向いた。その時だった。

 一枚のカードが横をすり抜けて行ったのは。

 

「なに!?」

 

 カードは、まるでブーメランかのように一直線に遠藤止の胸をかすめると、こちらに向かってくる車に向かっていった。おそらく、そこから投げられたものなのだろうが、ほのかはその光景に既視感を覚えた。今朝、自分が研究室で自分が実践してみせたダーツの矢のように壁に刺さるカード。おそらく、そのカードと今の一瞬に見えたカードは同一の物だろう。

 その時、彼女はその意味に思い当たり、うっすらと微笑んでいたという。今この世界にそのカードと同一の素材を持っている人間は三人いる。一人はそのカードで変身する海東大樹、一人は遠藤止。先ほどの遠藤止が召喚した偽物の仮面ライダーが消滅した後に残った物から推測するしかないが恐らくそうなのであろう。だが、二人ではない事は明らかだ。では、残った最後の一人しかない。そう、停車した車から現れたその男……。

 

「お、お前は!?」

 

 遠藤止は、その男の顔を見た瞬間、まるで幽霊でも見たかのようにそう叫んでみせた。それに意を返さず、男は言った。

 

「偽物か、本物か、そんなものは関係ない。何をもって本物だと判断するか、何をもって偽物だと断言するか、何をもって異物だと証明するか。本物と偽物を分ける証拠なんて、何一つない。例えこの世界が偽物の世界だったとしても、そこで必死になって生きている人間もまた偽物だとは断言できない。いや、人間に偽物も本物もない。悩み、苦しみ、恐れ、悲しみ、悔やみ、そして楽しんで生きている。それが、この世界にいるべき人間たちだ。それだけでいい。断言してやる。今あるこの人生を必死に生きようとせず、快楽と欲望を満たすためだけに動くお前は、この世界に必要ないとな」

「異物だと、この俺が異物だったら、他の世界から渡り歩くお前は何なんだ!お前だって、俺と同じように他の世界から来た異物じゃないか!!お前は、何だっていうんだ!!」

 

 海東は見た。プリキュアは見た。遠藤止は見た。聞いた。沸いた。彼は生きて帰ってきた。

 

「俺か?知っているだろ……俺は……」

 

 恐らく、そこにその男がいることは奇跡に近いことなのかもしれない。ご都合主義はなはだしいのかもしれない。しかし、それでも彼は帰ってきた。そして、彼は断言してくれた。遠藤止と同じ、この世界の異物として。いや、異物なんて言葉彼にふさわしくない。彼もまたこの世界に生きる人間だ。この世界にきてまだ24時間たっていない、しかし彼もまたこの世界で必死に生きたこの世界の住人だ。それ以外に何もいらない。そう、その男の名前は、彼の名前は、その勇者の称号は。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!!」

 

 ここに、この世界の主人公の一人が帰ってきた。




 途中でネタが切れかけてきてパソコンの中に眠っている小説から持ってこないといけないほど、自分の言葉のボキャブラリーが切れてきています。まぁ、今回の話の内容からしたらしょうがないとも言えますが。

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