仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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プリキュアの世界chapter55 想像を絶する仮面ライダー

「仮面ライダークライム……だと?」

「……」

 

 遠藤止は愕然としていた。見た目は、仮面ライダーディエンドの色を灰色にしただけの物。しかし、彼はそんなものを知らなかった。仮面ライダーディケイドの劇中にも、映画にも、どの仮面ライダーの作品の中にも登場していなかった仮面ライダー、その存在に彼は驚愕せざるを得なかったのだ。まさか、自分が死んだ後に生まれたライダーであるのだろうか。いや、何にしても、ここで殺さなければならない、そう彼は第六感で感じ取る。

 

「クッ!いけ、殺れ!!始末しろ!!」

 

 遠藤止は、そう周囲にいる自身の配下の仮面ライダー、スーパー戦隊に指示を出した。なんにせよ、相手はパチモノのディエンドただ一人、おまけに自分には時間停止能力があるのだ。何も怖いことはない。浅はかで馬鹿な転生者は、そう考えていた。

 

「手を貸してやる」

「いらないな」

 

 士の申し出即座に断ったクライムは、ゆっくりとスーパー戦隊、仮面ライダーに向けて歩き始めた。だが、敵は仮面ライダーやスーパー戦隊と同じ力を持っている。クライムに、朧に勝算があるというのだろうか。いや、なかったらあれほど冷静であるわけがない。

 かくして、戦いはいきなり始まったのだった

 

「!!」

 

 まず、ゴーカイジャー五人がゴーカイガンによる連射を行った。

 

≪toolride barrier≫

 

 それに対して、クライムは別段慌てもせずに、ほぼ同じタイミングであっただろうか、ディエンドのようにカードを銃の中に装填し、シールドのようなものが張られたのだ。銃から撃たれた弾はその壁にはじかれてしまい、クライムに届くことはない。

 その効果自体は、ディエンドも使うことがあるバリアのカードと同じである。しかし、みたところ違う点もあった。

 まず、一つ目にそのカードを入れた時の音声だ。通常ディエンドが使うバリアの場合は、≪attackride≫という音声が鳴る。これは、バリア自体が通常のカードであるからなので当たり前だがしかし、クライムがカードを入れた時の音声は、toolrideという聞いたことのない物であった。だが、音声の声色自体はディエンドライバーやディケイドライバーとほぼ同じ声色だった。何故音声が違うというのだろうか。

 違う点はもう一つある。バリアがあまりにも大きいのだ。ディエンドの使うカードの場合は、その範囲は人間一人分、つまりディエンドを守ることができるほどの大きさのものが出てくる。しかし、彼の使ったバリアは、その何倍もの大きさで、何車線もある道路を横断するほどの大きさの壁を出現させたのだ。自身の持っているカードとは全くの別物であるという事は、嫌というほどに分かってしまう。

 

「何!?」

「こうでもしないと、流れ弾が飛んじまうからな!」

 

 そう言いながらクライムは引き金を引いた。瞬間、銃口のすぐそばにあったはずのバリアが敵目掛けて飛んでいく。まさか、攻撃にも転用できるというのだろうか。しかし、彼のその言葉によって何故そこまで大きな壁を作り出したのかの答えが分かった。後ろにいる自分たちの事を考えてくれていたのだ。いくらゴーカイジャーでも、全ての弾がクライムに当てられるわけじゃない。その内何発かは後ろにいる自分たちに当たる可能性がある。彼は、そのことを考慮したからこそ体に全く合わないような巨大なバリアを出したのだった。

 クライムの放ったバリアは一直線にゴーカイジャーたちに向かっていく。だが、それに付属する形でクライムもまたバリアに守られながらゴーカイジャーへと向かっていく。ゴーカイジャーはゴーカイガンによって攻撃し続けている物の、一発たりともバリアを貫くことはなかった。

 

「はぁ!」

 

 バリアはゴーカイジャーの手前で消えようとしていた。その瞬間、クライムは大きく跳び上り、バリアが消えたとほぼ同時にゴーカイジャーたちの真上を通り抜け、敵本陣のど真ん中へと降り立った。

 

「ブレイクダンスって知ってるか?」

 

 そう言うと、クライムは地面に手を着き、ダンスを繰り出すかのように敵のディケイド、ディエンド、オーレンジャー達を攻撃する。

 彼の言ったブレイクダンスという物は、1970年代のニューヨークで発展していったと言われるダンススタイルで、ギャングが抗争をまとめる際に銃撃戦の代わりにブレイクダンスによるバトルを用いていたと言われているほどにアメリカではメジャーなダンスだ。だが、ダンスバトルという物は確かにあったが、それは双方のダンスの技術を競い合うという形のものであるだけで、本当にそれで戦っていたわけじゃない。しかし、そのダンスの形を見ていると、確かにそれで戦えないわけじゃないようにも思える。

 

「!」

 

 しかし、そのダンスのような攻撃の途中にも隙は現れる。シンケンレッドが秘伝再生刀シンケンマルをダンス中のクライムに向けて振り下ろした。しかし、その刃は彼の身体に当たることはなく、その足によってはじかれる。確かに、大きな隙があったことは認めるが、しかしそれ以上に朧の状況把握能力がその隙を上回るほどのカバー力を見せていたのだ。

 

「ハッ!」

 

 クライムはそのタイミングをみて、両足を地面に着けて立ち上がった。そして、シンケンレッドの刀を見ながら言う。

 

「いいデザインだな、使わせてもらう」

≪toolride sinkenmaru≫

「なに?」

「はぁ!」

 

 士は見た。クライムがシンケンマルでシンケンレッドを攻撃する姿を。しかし妙である。クライムはシンケンレッドの刀を奪ったというわけではない。他のシンケンジャーの手元を見てみても、誰もシンケンマルを手放したというわけではない。ならば、先ほど一瞬だけ聞こえた音声がその答えになるのだろうか。ツールライドシンケンマル、つまり彼はシンケンマルを作り出したというのだろう。しかし、いいデザインだなという言葉は、まるでシンケンマルが初見であるような印象を受ける。ならば、シンケンマルのカードはいつ手に入れたというのだろうか。ここからは詳しく見えていなかったが、自分たちのカードと同じものであるという事は、恐らくカードにはシンケンマルが書かれていたはずである。ならば、初見であるというのもおかしい。一体、あのカードは何だというのだろうか。

 

「はっ!」

 

 クライムはメガレッドのドリルセイバーをはじくと、一度跳びあがって後ろにいたオーレッドの攻撃から避け、近くにあった街灯の上へと降り立つ。そして、全てのヒーローたちを見下ろした朧は言った。

 

「いい機会だから、面白いものを見せてやる」

「あれは……」

「剣の世界のブレイバックル?」

 

 クライムが持ち出したものは、紛れもなく仮面ライダー剣の世界で見た変身ベルトのブレイバックルであった。クライムは、その中に一枚のカードを入れる。遠目から見た物なのでハッキリと分からないが、見たところ流星のような模様が入っていたようだ。

 カードを入れたブレイバックルを、クライムは他の仮面ライダーたちのように腰に装着する。その瞬間、仮面ライダーブレイドのように無数のカードが飛び出し、ベルトを形作っていく。

 

「変身!」

 

 そして、クライムが右にあるハンドルを操作すると、ブレイバックルのギミックが作動し、オリハルコンエレメントが出現しした。ブレイドの場合、そこに描かれているのはカブトムシをイメージしたイラストであるが、彼の場合、まるで流星のような絵柄が書かれている。

 そして、クライムは街灯から跳び下りてオリハルコンエレメントを通過していった。その瞬間、灰色のディエンドであったその姿は、全く違う物となった。

 真っ黒の姿に機械的なデザインで、後ろには羽のような物を付けた仮面ライダー。いや、仮面ライダーであるのだろうか。まるで悪魔のようにも見えてしまう機械的なデザインは、ネガの世界で出会った仮面ライダーオーガやダークキバのような禍々しさすらも感じる。

 

「まず手始めにこれだ」

≪INVISIBLE≫

 

 今度はブレイドのラウズカードか、それをスラッシュした瞬間、朧の身体が半透明となる。インビジブルというのもまたディエンドのカードの中にあるのだが、それは完全に自身の身体を消すカードであるのに対し、彼の使用したインビジブルは中途半端にだけ透明になるだけであった。だが、見えるのにあたらないという物は敵にとっては自分をあざ笑っているかのような効果を与えるのには効果的だ。

 

「お次はこのカード」

≪MADVULCAN≫

 

 続いて、朧の手にガトリング砲らしきものが現れた。そこから放たれる弾丸は目の前にいた偽物のディケイドに命中するだけでなく、その後ろにいたディエンドにも誘爆したかのようにダメージを与え、ついに二人の偽物の仮面ライダーは消滅し、カードへと姿を変えた。

 戦い方が違っている。そう、士は思った。先ほどの灰色のディエンドの時は、ブレイクダンスという戦闘に向いているとは思えないような攻撃方法だった。しかし、姿かたちを変えた今、ガトリング砲という傍目から見ても殺傷能力がある物を用いている。変幻自在、力を加えるとその姿形を自由自在に変化させることのできる飴細工のように別人のような戦い方をしている。自分もまた九つのライダーに変化して戦うことができるが、それであったとしても門矢士の戦い方から抜け出すことはできなかった。それに比べれば、まるで別人が戦っているかのような自由な戦い方は称賛に値するだろう。

 

「ウォーミングアップは終了だ。ここからは本気で行かせてもらう!」

≪EDOGIRIBLADE≫

≪EDOGIRIBLADE≫

≪EDOGIRIBLADE≫

「同じカードを三枚だと?」

 

 確かにあの世界の仮面ライダーは三枚のカードをラウズすることによって強力なコンボを使用していた。しかし、それは別々のカードを三枚ラウズしての必殺技だ。同じカードを三枚ラウズするなど、ましてや同一のカードが複数枚あるなどという事はあの世界でもない事だ。いや、もしかしたら朧に常識を求めても仕方がないのかもしれない。今は見守ろう。そのカードで一体何をしてくれるのかを。

 

「ひとぉつ!」

 

 まず一振り、日本刀によって目の前にいたオーレッドを切り捨てる。

 

「ふたぁつ!」

 

 二振り目、横にいたオーイエロー、そしてその両隣りにいたオーグリーンとオーブルーを切り捨てる。先ほどよりも攻撃の範囲が広くなっていないだろうか。それにこれはただの直感だが、恐らくダメージも大きくなっているように思える。

 

「次は痛てぇぞ……みっつ!」

 

 最後に三つ目の攻撃、それはメガレッドだけでなくその周辺にいたメガレンジャー五人全員を打倒し、五人はレンジャーキーへとその姿を変えた。やはりそうだ、一枚目までは普通の攻撃だったのに、二回目の攻撃は目の前にいる敵のみならずその両端にいた二人にも、しかも攻撃力が上がって攻撃していた。そして、三回目にはもっと範囲を広めて、メガレンジャーをレンジャーキーへと戻すほどのダメージを与えていた。これは仮説だが、恐らくあれは三枚連続でラウズすることによってその攻撃範囲と攻撃力を上げることができる効果があったのだろう。

 

「あぁクソ、やっぱり肌に合わないなこの世界、思ったように力が出せない」

 

 力が出せない、それは本気で言っているのだろうか。では、彼は一体どれだけの力を持っているというのだろう。もしも、本気が出せるというのならば、それは一体どこまで行くことができるのだろうか。分からないがしかし、今の時点でもチートクラスの能力を超えかかっているのは分かる。あの余裕が何よりもの証拠だ。

 

「一気に終わらせてやる……」

≪BREAK UP!!≫

「見逃したら一生後悔するぞ、変身!」

「!」

 

 その瞬間だった。すべての仮面ライダーはカードとなり、スーパー戦隊はレンジャーキ-へと戻ったのだ。

 

「何だと……」

「す、すごい……本当に一瞬しか見えなかったけど、今あの人ものすごい速さで全員に攻撃を与えていた……」

「本当かい?」

「えぇ、多分あれは……マッハほどの速さで動いていた……と思うわ……」

 

 あまりにも速かった。士には彼が動いたという事実を認識することすらもできなかったのだ。しかし、隣にいるほのか他数名は、PC細胞によって動体視力が上昇しているからこそ、その少しの動きを見ることができていた。だが、それはただ少しだけ認識できたというだけ、もしも自分たちが敵であった場合、それを避けられるかと言われたら最初の攻撃は避けれるが、続けての攻撃は避けることができないだろうと彼女たちは思った。

 

「馬鹿な、ありえない……こんな事、ありえるはずがない!!」

 

 自分の予想外の事ばかりが起きすぎて混乱している遠藤止は、さらにスーパー戦隊を一組、そして仮面ライダーを七人出現させた。その十二人の戦士たちの姿を見た士と海東はつぶやく。

 

「栄光の……七人ライダー」

「それに、最初のスーパー戦隊……秘密戦隊ゴレンジャー」

 

 一号ライダーを始めとした二号、V3、ライダーマン、X、アマゾン、ストロンガーの七人の仮面ライダー、そして世界最初のスーパー戦隊である秘密戦隊ゴレンジャーの五人がそこにいた。朧はそれを見るとあざけ笑う様な声を出して言った。

 

「馬鹿じゃねぇか?」

「なに!?」

 

 そう言うと、朧は変身を解いた。

 

「変身を解いただと?」

「どういうことだ……いや、まさかそう言う事か?」

「え?」

 

 士は今まで遠藤止が出現させたライダーと戦隊の動きを思い出す。確かに本物と寸分たがわない動きはしていただろう。しかし、どことなく脅威という物を感じなかった。まるでプログラミングされた機械のように規則正しい動きをし、全くというほど個性という物を感じなかったのだ。確かに、ゴーカイグリーンなどはその変身者のような動きをしていた。しかし、それもまたそう言うプログラミングであるかのように見えた。簡単に言えば、一人一人のアイデンティティが失われているのだ。そう考えた時、士の中である考えが浮かんだ。もしそうだとしたら、朧が変身を解いた理由もわかる。

 

「どういうつもりだ?まさか生身でこの仮面ライダー、スーパー戦隊の始まりを倒そうとでも?」

「それが転生者か……だったら俺は御免だな」

「なに?」

 

 朧は、一号目掛けて走り出す。一号ライダーはそれに対して振りかぶってパンチを繰り出した。しかし、朧はその拳に当たる寸前にしゃがんで避けると、カウンターパンチのようにアッパーカットで一号ライダーを倒した。

 

「な、なに!?馬鹿な、一号ライダーがただ生身の人間の一撃で……」

「この能力には三つの欠点がある」

 

 朧はそう言いながら指を三本立てた。その間にも、ライダーたち、ゴレンジャーは朧を殺そうと向かってくる。しかし、朧はそれに対していにかえさずに言うのを止めなかった。

 

「まず欠点その一、召喚されたヒーローたちは元となったヒーローの戦闘の経験がフィードバックされていない!」

 

 朧は、そう言いながらV3、Xのライダーキックを軽くいなして避けて彼らの後ろに周り、テコンドーのような動きで二人のライダーを蹴り倒す。

 そもそも、どうして栄光の七人ライダーは栄光の七人ライダーと呼ばれているのか。仮面ライダーとして、最初期から戦ってきた者たちだから、幾多の地球の危機を救ってきたから。もしかしたらそれは当たりなのかもしれない。ならば、何故そのライダーたちは今でも平成ライダーに見劣りしないほどの活躍を見せているのか。特に、武器を持っていな仮面ライダー一号や二号からすれば、平成ライダーの持っている飛び道具はかなり厄介なものとなるだろう。しかし、そういった飛び道具を持つ仮面ライダーにも二人は負けることなく、時には簡単に打倒すことだって可能である。何故か。答えは簡単だ。経験の差である。長年の戦いによって蓄積されて来た戦いの経験が、熟練の技が、その鍛え上げられた鋼の肉体が飛び道具をも凌駕するほどの力を仮面ライダーに与えているのだ。例え、数十年前のショッカーのテクノロジーが作り出した仮面ライダーであったとしても、その後の長年の戦闘によって、どこまでも強くなることができるのだ。しかし、遠藤止の呼び出した仮面ライダーは、元々の仮面ライダーの変身者たちの戦闘の経験をインストールされておらず、テキスト通りの戦い方しかできない。それはいうなれば、更新もされず、買い替えもされない数十年前のパーソナルコンピューターのようだ。

 だが、そうであったとしても、元々のスペックからして生身の人間では太刀打ちなどできないほどの力がある。それなのに、朧は簡単に仮面ライダー一号を、V3をXを倒すことができた。他の二つに理由があるというのだろうか。

 

「欠点その二、魂も心も入っていない人形が……そもそも強いはずがない!」

 

 ライダーマンがロープアームを使い朧を拘束しようとする。しかし朧はロープの先端を掴むとライダーマンを逆に振り回し、ストロンガーと仮面ライダー二号がそれに巻き込まれ、手を離した瞬間三人とも吹き飛んでいった。

 確かにそうだ。どのヒーローにも戦うにあたっての信念があった。海東大樹が四葉財閥の本社で言ったように、仮面ライダーは全員、戦う理由があった。人間は理由があるからこそ、目標があったらこそどこまでも自分を鍛え上げることのできる人種である。だからこそ、人間の自由と平和のために戦い続ける仮面ライダー一号は強いのだ。そんなものを持たない、戦う理由もない人形が、本物と同等の力を持っていると思う事こそがおこがましいことなのだ。人の魂はそんなに簡単に再現することなどできない。信念ともなったらなおさらだ。朧は、前述の欠点その一、そして欠点その二からこの偽物の仮面ライダーとゴレンジャーたちは弱いと感じ、変身を解いても余裕であると考えたのだった。と、なると三つ目の欠点何なのだろうか。まさか、この俺が相手だったことだとか言い出すのではないだろうか、と士がある意味での一抹の不安を抱えながら朧は話を始めた。

 

「欠点その三……は、後にしてっと……残り六人か……」

 

 始めたと思ったらすぐに終わった。後にするとはどういう事だろうか。今は、それを口走る時期じゃないというのだろうか。

 実は、士の考えは軽く当たっていたようだ。朧の中で、順序だてて話を組み立てる中で、遠藤止によるある行動という物が欠点その三を発言する条件となっていたのだ。そのため、朧は待っている。遠藤止がその行動をとるその瞬間を。そういえば、と朧は思っていた。

 

「仮面ライダークロノスと言えば……遠藤止、お前に面白いものを見せてやる」

「なっ、それは!!」

「あれは……」

「遠藤止と同じ……」

 

 朧が持っていたのは、遠藤止が仮面ライダークロノスへの変身に使用しているベルトに似たものであった。大きく違うところで言えば、遠藤止の使用しているそれは青色であるのに対し、朧が持っているそれは無色透明であるという事ぐらいか。それから、細部も少し違う気がする。

 

「変身!」

『ガッチョーン!!ムゲン!!ガシャット!!バグルアップ!!PRESENCE OR ABSENCE!!(UNIDENTIFIED!!)エンド・ザ・ワールド!!ムゲン!!(Fooooo!!)」』

 

 その瞬間、クロノスが変身した時のようなエフェクトとともに、朧の姿が変化していった。背中に十字架が描かれている黒のコートを纏った仮面ライダー、まるで神父であるかのように見える。両腕には腕輪がはまっているがそれがさらに不思議な雰囲気という物を醸し出していた。

 

「心の赴くままにすべてを救済(破壊)する!」

 

 これもまた、神崎朧の一つの姿である。複数ある朧の姿、一体どれくらい彼には姿があるのだろうか。いや、彼なのだろうか。まただ、少し気を抜くと朧の姿が、そしてその容姿がぼやけて行ってしまう。まるで、手を伸ばしても届くはずのない星屑のような。

 残った戦士たちの元へと走り寄りながらとあることを思い出しだ朧は、アマゾンの鋭い爪を避けながら言った。

 

「あぁ、雪城ほのか!」

「え、なに?」

 

 ほのかは、戦闘中の朧にいきなり呼ばれたことに少し驚いたが、何を言おうとしているのか、耳を澄ます。

 

「この紋様の事聞いたよな!」

「え?」

 

 確かに、自分は彼にその服の下に見えた紋様の事を聞いたが、それが今なんだというのだろうか。

 

「教えててやるさ。何故、俺がこの紋様を持っているか……それはッ」

 

 朧は腕を地面と平行させて交差させる。すると、腕にはまっている腕輪が光りだし、長短二振りの刀が出現する。

 

「有無であり有無で無く」

 

 それは、まるで曲芸のようにも見えた。アマゾンライダーの鋭い爪を防ぐと、そのまま回転して勢いを殺しながらアマゾンの後ろへと回ると×の字にアマゾンの背中を切り裂く。

 

「神であって神でも無く」

 

 アカレンジャーが、レッドビュートというムチ型の武器を朧の腕に巻きつける。しかしその瞬間刀が光りだし、超砲身の銃が出現してアカレンジャーを射抜く。

 

「人であり人でも無く」

 

 いい意味で言えば自由、そうでなければ奇想天外、言葉には表現できない動きを見せながら朧はミドレンジャー、モモレンジャーの元へと向かう。

 

「中途半端な存在であり中途半端な存在では無く」

 

 見ている者たち全員を惑わせる。そんな動きに見えた。そして、ミドレンジャーを左に、モモレンジャーを右にした瞬間、銃が光りだし、今度は本が出現した。そして本を開いて何かの呪文を唱えた瞬間、朧の身体から電気が放電して、モモ、ミドレンジャーを攻撃する。

 

「抑止力であり抑止力でもなく」

 

 放電が収まったころ、キレンジャーが空中から飛び込みの頭突き、メガトン頭頭突きを繰り出す。だが、朧はそれに動じることなくまた何かの呪文をつぶやく。すると、地面に何やら黒い渦のようなものが出現し、そこから一本の腕が飛び出し、キレンジャーの身体を握って、ビルの方へと投げ飛ばした。すると、キレンジャーは窓ガラスを割ってビルの中へとその姿が消えていった。

 

「自分であり」

 

 つかさず、アオレンジャーのブルーチェリーによる連続撃ちが朧に迫る。朧は本を閉じた。すると、またも光りだし、今度は一本の長い槍に変化する。しかし、それを振ると必つながりであった槍はまるで三節根のよう曲がり、結界を作るかのように朧の周囲を舞う。そしてそれは、アオレンジャーのブルーチェリーを弾き飛ばし、また一本の長い槍へと姿を変えてアオレンジャーの身体を吹き飛ばす。すると、槍は光を放って最初のように腕輪へと姿を戻した。これで全員倒れたか。否、違う。

 

「自分でも無く」

 

 アカレンジャーが、一号ライダーが、二号ライダーがそれぞれ飛び上り朧目掛けてキックを繰り出す。本物であったらどれだけ感動できる技であろうか。どれだけ貴重な光景であることだろうか。しかし、結局そこにいるのは偽物。朧は何の戸惑いもなく言葉を紡ぎながら腕を振り上げる。

 

「俺であり」

 

 その瞬間、腕輪が光を放ち始める。それは、まるで太陽のようだ。人類創世の光は、今そこにあった。そう思わせるほどの輝きがそこにはあった。

 

「俺でも無く」

 

 朧はその腕をゆっくりと下した。その瞬間であった。

 

「ーーーーーだからだ」

 

 最後の言葉、それは十二体の偽物の爆発音に消されてよく聞こえなかった。キレンジャー以外の十一体は道路にいたためにそれほど被害はないが、キレンジャーのみが突っ込んでいったビルのオフィスはかなりひどいことになっていることが予測される。それほどの爆発だった。

 何だ、一体あの者は何をした。最後の攻撃、何も見えなかった。気がついたら、ゴレンジャー、仮面ライダー全員が爆発していた。遠藤止は目の前の状況を信じることができなかった。何十というヒーローたちをわずかな時間で殲滅した朧という存在に恐怖しか感じなかったのだ。まずい、このままこの男を野放しにしては置けない。このままでは、自分の世界が壊されてしまう。そんな事、遠藤止は嫌だった。

 

「まだだ!まだ俺にはクロノスの時間停止能力も、何十何百という手駒が残っている!」

「言ったな?そのセリフ」

「なに!?」

 

 朧は微笑みながらそう言うと、遠藤止のすぐ傍へと駆け寄る。

 

「ッ!」

 

 遠藤止は、すぐさまベルトを操作して時間を止めようとした。しかし……。

 

「なっ、なんでだ!なんでベルトが動作しない!?」

 

 ボタンを押しても、時間が止まることも、ポーズの音声が鳴ることもなかった。

 

「無駄だ。仮面ライダームゲンの能力……それは、全ての仮面ライダーの特殊な力を元から完全に無効化する能力だ」

「なっ、馬鹿な……」

 

 朧の言葉に驚愕しているのは、遠藤止だけではない。士も、海東もまたその言葉には驚きを隠せなかった。仮面ライダーの全能力の無効化、それができるとしたら仮面ライダーカブトのクロックアップ、バイオライダーの液状化、いや最悪変身以外の力をも全て奪われる恐れがある。そう、いうなればそれはライダー殺しの能力。まさに、最凶にして最悪な能力である。

 

「そして、これで後顧の憂いを断つ!」

「ぐあっ!!」

 

 またも朧の、ムゲンと言ったか。ムゲンの腕輪が光りを放つ。今度はその光が収まる前に突っ張りのようにクロノスのベルトに一撃を加えた。

 

「な、なにを……」

「お前のベルトをリプログラミングした。もうこれでお前は二度と時間停止能力を使用することができない」

「なんだと……ッ!?」

 

 リプログラミングとは、医療用語の一つで、有性生殖での配偶子形成過程あるいは人為的な分化能の獲得過程のエピジェネティック修飾の消去及び再構成の事を言う。そしてそれは、エグゼイドの世界においては攻撃対象である敵の能力を自由に追加・削除・書き換えることのできるシステムであるのだ。今回朧は、それを利用してクロノスの時間停止能力を削除した。これは、朧がこの世界に長時間いることができないため、万が一のことを考えて士たちの勝利への道を作り上げることが目的であった。渡と、鳴滝という男が言っていた。自分は、この世界からしたら水と油とも言うべき存在。互いに反発し合い、たがを消そうとする存在。自分がこの世界にいればいるほど、被害は爆発的に跳ね上がる。今は、あまりその様子を見せてはいないが、それこそ、世界を崩壊に導いてしまうという可能性すらあるのだと。

 

「そして……お前の欠点その三!」

「グアッ!ガハァ!」

 

 ムゲンは、顔に一発殴り、腹部を蹴ると言った。

 

「お前が使っているのは他人の想像物だ。自ら想像する権利を投げ捨てた人間に、勝利を創造することはできない!」

 

 想像は人間を人間であると証明する物。個人を証明するために必要な物。最初に、世界に降り立った創造は火であった。それを人はどう使うのかを想像することによって、あらゆる分野に火を使っていくことを想像していった。木があった。しかしそれを切り倒すにはあまりにも人間のすでは無力だった。クマのような爪もない、マンモスのような鼻もない。人間はあまりにも無力だった。しかし、だからこそ道具を想像し、やがて斧が創造された。さらに、弓を創造することによって獣を狩ることも可能となった。皮膚の上に着る物を想像し、服を創造した。そして服を創造したことにより羞恥心を創造した。寒い夜に耐えるためのものを想像した。そして家を創造した。そして家を創造したことにより誰かと一緒にいたいという思考を想像した。そして家族という絆が創造された。人の歴史は、想像し、創造していくことで形作られていったのだ。遠藤止は、想像することを止めた。それは、人生を創造しないという事に等しい。誰かの想像をそのまま自分の想像物とすることなど不可能なのだ。想像は人一人が持っている物。その物の中で生き続ける物。それを他人が扱っていくことは不可能なのだ。どこかに欠点が出る。どこかでぼろが出る。どこかで失敗する。遠藤止は、自分自身の勝利の形を、想像力の放棄という形で失っていたのだ。

 

「お前の想像の底は見えた。消えろ、創造なき者よ!」

「何をッ!」

 

 瞬間、朧の腕輪が光りだし、また一冊の本が出現する。そして呪文を唱えた瞬間、空中に一つの光珠が打ちあがる。そして、それが爆発したかのような瞬きを見せた瞬間、周囲を白い光が覆った。そして、世界は色を失った。

 

「何だ、この光は!?」

「お膳立ては済んだ」

「え?」

 

 士たちは、その声が聞こえた方向を一斉に見た。朧の姿が見える。周囲は光で覆われて真っ白であるはずなのに、その姿だけははっきりと見える。

 

「どうやら、俺がこれ以上この世界にとどまっているとすべての世界が崩壊してしまうんだとさ」

「お前……」

「安心しろ。平行世界の行き来を妨げていた壁は取っ払った。すぐに応援が来る。俺は、自由な旅を続けるさ……いつ始まって、いつ終わるのか分からない旅をな……」

 

 朧は、その手に鍵を持っていた。その鍵が壁を取り除いたものであるというのだろうか。まったくもって、最後の最後まで驚かせてくれる人間だ。

 

「旅……か」

 

 彼もまた、自分と同じ。世界をめぐる旅をしているのだろうか。本当は、もっと話を聞きたいところだが、どうもそれは問屋が卸さないらしい。世界が崩壊する。それは、あの時のようなことなのだろうか。すべての平行世界が消滅する危機にあったあの時と。

 

「じゃあな。もう会うこともないだろう」

「あの!」

「ん?」

 

 朧がどこかに消えようとした瞬間、咲が彼を呼び止めて言った。

 

「……みのりを助けてくれて、ありがとう!」

「……ありがとう、か……」

 

 朧は振り返って笑みを浮かべながら言った。

 

「知ってるか?ニチアサって何か?」

「ニチアサ?そういえば、遠藤止がそんなことを……」

 

 お前はニチアサじゃないと、そんな事を言っていた。

 

「遠藤止から、仮面ライダーもプリキュアも、フィクションの存在だって聞いたな?」

「あぁ……」

「スーパー戦隊、仮面ライダー、そしてプリキュア……君たちがフィクションの、テレビの中だけの存在である世界では、日曜日の朝に三つ一辺に放送されていたらしい。そこから来た名称が……ニチアサ」

 

 その瞬間、光がもっと強くなり、朧の姿をかき消そうとしている。

 

「その世界の希望だ」

「希望?ただのテレビ番組がか?」

「テレビ番組?違うな……ドキュメンタリーだな」

「ドキュメンタリー?」

「生きているじゃねえか。俺も、お前達も、誰もが明日(未来)に向かって一生懸命生きている……なら、それはフィクションじゃない。ドキュメンタリーだろ?」

「……だな」

 

 朧は消えた。すべてを破壊し、全てを創造して。




 以上で、仮面ライダークライムの出番は終了です。今回は、私の勝手な都合で大幅な弱体化をせねばならず、朧の本当の力の十分の一も出すに至りませんでした(事実、SOUR様提供の設定の中にある必殺技を一つも出すことはありませんでした)。私自身、初めて他作者様とのコラボを持ちかけていただいてここ数か月どのように格好良く登場させるべきなのかを悩んだこともありました。実はこれはSOUR様にも言っていないのですが私は以前から、というか現在進行形で想像から創造するという設定のロボット物小説を書こうと思っています。もうまるっきりネタがかぶっているような感じで、それなのに出していいものなのかと、出したら何もかもが終わってしまう気がすると悩んでいました。が、それは私個人の勝手な理屈。朧をどう出そうか、自分の小説で使おうとしていたセリフを言って貰おうとか、そう言ったことを考えるだけで色々と楽しかったこともありました。SOUR様、改めて私に仮面ライダークライムの設定を貸していただきありがとうございました。厚く御礼申し上げます。

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