仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 あれ、なんか最初にイメージしたモチーフから離れたような?


プリキュアの世界chapter63 本物の侍

 江戸時代。それは戦極の世を勝ち抜いた徳川家康が作り上げた穏やかな時が流れていた時代。織田信長が切り開き、豊臣秀吉が受け継ぎ、そして徳川家康が何百年という長きに渡ってもたらした安泰の時代。ここはその中心である江戸の街。安泰と言っても犯罪がなくなるわけではない。毎日のように殺人事件はどこかで起き、盗人は現れ、江戸のどこかで裁かれている。しかし、それでも狂ったかのように戦を続けていた戦国時代から比べればまさに、天国と言っても差し違えがないような誰もが安心して暮らすことのできる世の中だった。貧富の差があった物の、そこに住む人々がともに力を合わせて足りないところを補い合って生きてきた。

 時は1700年代の事、7代将軍家継が8歳という若さで早世し、8代将軍が紀州藩から連れられてきて数年が立った頃の事、今日も江戸の町はにわかに活気づいていた。米屋、八百屋、魚屋、豆腐屋、看板屋等々、たくさんの人間が行きかう通りで多くのお店が商いを行っている。戦が無くなって早幾年月、多くの人間の記憶から戦があったという事実は消えようとしていた。だが、前述の通り物騒な事件はやはり続いているのではあるが。ついこの前も奇妙な事件があった。突然天地がひっくり返ったと思ったら何やら奇妙な着物を着た人間たちが現れたのだ。それだけではない。見たこともない鉄の馬車や馬、それからこれまた奇妙な鎧をまとった者たちが次から次へとこの江戸の街で大暴れし、住民を恐怖の渦に巻き込んでいった。だが、それもほんの一日で終わり、鉄の馬車も馬も人間たちもどこかに消え失せてしまった。果たしてあれは夢だったのではないかという噂までたってしまうほどだ。しかし、自分達は知っている。自分たちを守るために戦ってくれた鎧をまとった人間の事を。自分たちは知っている。ともにこの江戸の街を守るために戦ってくれた奇妙な服に身を包んだ人間たちの事を。そして覚えている。鉄の馬にまたがった鎧を着た人間と共に走っていく白馬に乗った壮年の男性の姿を……。

 

「あ?」

 

 その時、一人の男性が声を上げた。普通であったらそのような言葉は人ごみの声にかき消されてしまうわけだが、しかし偶然にもその言葉を聞いていた女性が一人だけいた。

 

「どうしたんだい?」

「いや大したことじゃねぇんだが。この隙間、なんだか光ってねぇか?」

「えぇ?そんなことあるわけ……ほんとだねぇ」

 

 男性の言葉を聞いた女性は、否定しながらも男性が指さした家と家の間にある隙間に目を移した。すると、男性が言っている通りに本当に赤い光がうっすらと洩れているではか。二人はその隙間が広がるかの如くにじっと見つめる。その様子を見た周りの人達もまたなんだなんだと集まってきて二人と同じところを見始める。その内黒山の人だかりができ、否が応でも目立つようになった。それにしても、その光の正体が全くと言って分からない。気が付けば、先ほどよりも赤い光が強くなっていっているような気がする。だが、一体何の光なのだろうか。そう民衆が思っていたその時だった。

 

「ナー!ナー!」

 

 隙間の中から次々と赤い怪物が現れてくるではないか。どうやってそのような狭い隙間から人間サイズの怪物が現れるのか分からなかったが、そのようなことを考える時間はなかった。

 

「うわぁ怪物だァ!?」

「よ、妖怪変化だぁ!?」

「おいおい!また怪物かよべらぼうめ!!」

 

 我先にと逃げ出し始める町民たち。しかし、あまりのもたくさんの人が集まってしまったために人ごみをかき分けて進むしか方法がなく、半分以上の人間がすぐに逃げ出すことができないで転んでしまっていた。

 

「痛ってぇぇ……げっ!」

 

 怪物、ナナシの一体が一人の転んだ男性に迫る。男性は腰が抜けてしまったのかすぐに立ち上がることができないで座りながら後ずさりをするしかなかった。だが、それも民家の壁にぶつかるまでのわずかなまでであった。男性は三体のナナシに囲まれてしまう。

 

「来るな!来るんじゃねぇ!!」

「ナー!ナー!」

「ひぇぇぇぇ!!」

 

 男性が覚悟を決めたその時であった。あたりに和太鼓の音色が響く。

 

「な、なんだ?」

 

 その突然の出来事に男性は目を丸くして音がした方向を見た。それは、ナナシもまた同じ。すべてのナナシが音のした方向に目を奪われる。果たして、彼らの目の先にあったものは見たこともない家紋の書かれた白い布と旗、そして数人の黒い人間の姿。その、街並みとはあまり会わないような光景に目を奪われる中、男は突然後ろに倒れてしまう。

 

「大丈夫か?」

「あぁ、あんたら一体……その恰好、まさか前にこの街に来た……」

 

 その服装は、この世界で一般的であるはずの和服ではなく、少し前に来た未来人とほぼ同じよう恰好だ。

 

「この家には裏口があるから、そこから逃げてくれ」

「後は、私たちに任せて」

「お、おう!」

 

 その言葉で、男は家の裏口へと向かって行った。そして、男性二人、女性一人の若者は顔を見合わせて言う。

 

「行こう、鷹介、吼太」

「あぁ、久々に腕が鳴るぜ!」

「受け継いできた力……今こそ、正義のハリケーンを見せてやる!」

 

 そして三人は自ら服を掴んで脱ぎ捨てる。するとその下には……。

 一方、和太鼓の音に注目しているナナシ連中。次第に太鼓のテンポは速くなっていき、二人の黒子が白い布、陣の前を交差して横切るとともに陣が開かれていった。そして、その先には一人の男と、十人の女性の姿があった。全員が袴姿である。女性の中の一人、志葉薫が言う。

 

「こうして肩を並べて戦える日が来るなど、思ってもみなかったな丈瑠」

 

 薫は侍戦隊シンケンジャーの18代目シンケンレッドとして丈瑠たちが戦う中一人外道衆、血祭ドウコクに対抗するための封印の文字を使用するための修行に明け暮れていた。そして、当主がそのような修行をしているという事を悟られないためにシンケンレッドの影武者を立てて外道衆の目を欺かなければならなかった。そのために、志葉丈瑠はシンケンレッドとして本来ならば薫の家臣として薫と共に戦わなければならないことは達と共に戦っていたのだ。そして、薫が封印の文字を作り上げたことを境として志葉丈瑠は役目を終え、シンケンレッドとしての全てを薫に返して、ただ一人の男に戻った。その後紆余曲折があり薫が丈瑠を養子にするという強引な手段を用いて19代目のシンケンレッドとした時まで、二人が肩を並べて戦うことはなく、薫自身それ以前の戦いで傷を負って戦闘不能だったために事実上の最終決戦には立つことができなかった。そのため、こうしてシンケンレッドの名を受け付いだ二人が並ぶという事は初めての事であったのだ。

 

「そうだな……外道衆!好き勝手するのもここまでだ」

 

 丈瑠は、その薫の言葉を受けて一瞬微笑んでからナナシ共に向けて叫んだ。ナナシからして見ればそのような言葉を聞いたところで何ら変わりはないように見えた。相手は人間ではなくただの怪物であるのだから当然だ。

 

「うわぁ、でも袴って着るの初めて」

「ねぇ写真撮ろう写真!」

「賛成!!」

 

 一方、ハピネスチャージプリキュア大人子供含めて八人+キュウレンジャーのハミィは初めて着ることとなった袴姿という古風な着物に対して興奮していた。何故全員が袴姿であるのか。それは、元々シンケンジャーが変身する際には緊急時であることを除いて袴姿に着替えてから変身していたからだ。それは、シンケンジャーとして変えられない伝統的な正装であるためであることは予測されるが、それならば何故シンケンジャーと関係のないプリキュアとハミィまでも袴を着ることになったのか。身もふたもない言い方をしてみたら、ただ着たかったからだ。どういうわけか彼女達が転移する前まではいなかったはずのシンケンジャーのサポートをしている黒子たちが、この江戸の世界に来たら一緒に何人かついてきており、街中での騒ぎを聞いていつものようにシンケンレッド二人を袴姿に着替えさせようとしていたのだ。だが、その時になって興味本位に自分たちもそれを着てみたいと言ってみたところ、ならばという事で黒子たちが彼女達を着替えさせたのだった。何故余分に袴を、それもサイズがピッタリな物を黒子たちが持っていたのかは不明ではあるが、少なくともそのような趣味を持っていた黒子はいなかったであろうという事は予測される。

 

「お前たち、そう言うことは後でもできる。今は共に外道衆と戦う方が先決だろう」

「あ、そうでしたね」

「でも、結構な数が出てきてるわね」

「これ全部私達で倒さないといけないの?」

 

 人間六人分くらいは余裕ですれ違えそうな道の遠く先までナナシ連中で埋まっている。正直返信せずに戦えば骨が折れる。とはいえ、変身したらしたで今度はその先にある遠藤止との本戦があるため少しでも体力の温存、過去のプリキュアたちからしてみれば魔力の使用を抑えなければならないため、変身して戦うのは得策ではないというのが彼彼女達の考えだ。

 

「それでも戦うしかない」

「あぁ、それが俺たちの役目だ」

 

 地道に一体ずつ倒していくしかない。そう思っていたその時だ。

 

「俺たちもいるぜ!」

「ん?」

 

 丈瑠たちの頭の上を、一人の男性が宙返りをして飛び越えて彼らの目の前に降り立った。黒い衣装に身を包んだ男は、丈瑠たちの方を見るという。

 

「俺の名前はサスケ。お前たちと同じ時代から来た、忍者戦隊カクレンジャーのニンジャレッドだ」

「カクレンジャーの……」

 

 彼は、18番目のスーパー戦隊忍者戦隊カクレンジャーの忍者レッド、サスケ。本名は猿飛佐助という、真田十勇士の一人の子孫であり、その名前を受け継いでいる男だ。しかし、猿飛佐助というのは創作上の人間であるという説が有力であるので、何故そのような人間の子孫がいるのかはなはだ疑問ではある。

 

「さっき、俺たちって言ったわね。という事は、他にも誰か来てるの?」

「あぁ!頼れる仲間と、後輩がな!」

 

 そう言ってサスケが指さした方向へと目をやると、その先には民家の屋根、そして三つの影があった。その正体は……。

 

「乙女の純真雪の如く」

「月に煌めく三姉妹」

「折り鶴よ舞え、花と咲け!」

「三人そろって……」

「「「おしおきセーラー三姉妹!」」」

「お師匠様……いや、そんなはずないか……」

 

 そこにはセーラー服をきた三人組の姿。間違いなく江戸時代の人間ではない。あと、ついでに言えばどう考えてもセーラー服を着るような年頃ではない。特に左の人が。

 

「あの……どうしてセーラー服何ですか?」

「もしかして高校生の時に学校に行けなくて、今改めて高校に通い直しているとか……」

「どこのドラマの設定だ」

「……」

 

 おしおきセーラーシスターズというのは、左側にいる人間、鶴姫が幼いころからの友達と共に結成し、彼女が戦っていた当時にも一度再結成して妖怪と戦った経験のある物だ。今回、カクレンジャーとともにハリケンジャーの三人と、そしてさらにニンニンジャーの女性陣もまたプリキュアの救援に向かうという事を聞いた鶴姫がお遊びで取り入れたのだが、結果的に仲間であるサスケをおざなりにしている上に、どう考えても年齢と衣装があってなさ過ぎて、コスプレにしか見えないという悲しい事態になってしまった。と、いう事で。

 

「風花ちゃん、霞ちゃん、パターンB!」

「「はい!鶴姫さん!」」

「まだあるのか」

 

 少々ムキになった、というか後には引けなくなった三人は、セーラー服を脱ぎ捨てると、今度は着物姿に薄いカーテンのような布を持った姿となって再度現れる。

 

「乙女盛りに命をかけて!」

「風に逆らう三姉妹!」

「花と散ろうか咲かせよか!」

「「「有言実行三姉妹!」」」

「ココ・シャネル曰く、美しさは女性の『武器』であり、装いは『知恵』であり、謙虚さは『エレガント』である」

「「美しさは女性の『武器』であり、装いは『知恵』であり、謙虚さは『エレガント』である」」

「いや、それも相当……すみません」

 

 サスケ、ここで余計な一言を言おうとするが、ここは回避。ここでようやく彼彼女たちの紹介をしよう。男の名前はサスケ、そして女性陣の中で一番……お若くない方が鶴姫。どちらも18番目のスーパー戦隊、忍者戦隊カクレンジャーのメンバーである。戦国時代から退魔を専門とする忍者集団の末裔たちで結成された戦隊で、とあるおっちょこちょい二人組が騙されて現世に復活させてしまった妖怪たちと戦った。

 もう一方の二人は以前紹介したこともある手裏剣戦隊ニンニンジャーの内、風花と霞、またの名をニンニンガールズの二人である。

 

『美しさは女性の『武器』であり、装いは『知恵』であり、謙虚さは『エレガント』である。つまり、美しさが女性の武器なのは当たり前だが、女性を綺麗にさせるのは装いという知恵と、エレガントな謙虚さである。美しさだけで女性の全てが決まるという意味ではないという事にもとられますかな。顔を変えたり、性をさらけ出すより、身だしなみと心から整えてみ見ることですかな。では、私はこれで』

 

 と、言いながら謎の人物が通り過ぎていった。というかお前は誰だという言いたかったが、あまりにも何の前触れもなく現れた人物に対してそのようにスピーディーにツッコミを入れられる人材はそこにはいなかった。

 一瞬、変な間が流れた後に未来のめぐみが言う。

 

「と、とにかく今は怪物たちと戦おう!」

「そ、そうだね!」

「……」

 

 丈瑠、その他戦隊組は無言でそれぞれに武器を構える。プリキュア組は徒手空拳で戦うため武器は持っていないためそれはそれでいいのだが。問題はめぐみである。もはや暗黙の了解であるかのようになってしまっているが、そもそも妊婦であるめぐみが戦うこと自体おかしなことなのだ。PC細胞という物が存在していなかったら、確実に流産していてもおかしくはない事ばかりをして来ている。いくら防衛手段があるとはいえ、それに頼り切って無茶をしてしまえば、お腹の中の赤ちゃんだけではなくめぐみまでもが危ない。妊娠、それから出産という物は母体と胎児、どちらかがダメになっては成り立たなくなってしまうのだから。

 

「めぐみ、お前は下がっていろ。外道衆などのためにお腹の子供を危険にさらす必要はない」

 

 そのあたりの事情について、この世界に来た時に一通り聞いていた薫は、そう言ってめぐみに自制するように促した。しかしめぐみは言う。

 

「心配してくれてありがとう。産婦人科じゃないけど、医者や看護師からは許可をもらっているから。もう少し強い敵相手には止めてって言われているけどね……」

「……なら、私が援護しよう。その方がもっと安心するだろ?」

「ありがとうございます!」

「いや……私はまだ子を宿したことがない。しかし、子供がどれだけ尊い物なのかは知っているつもりだ」

「……まさか、子供というのは俺の事を言っているのか?」

「あっそっか、丈瑠さん……それじゃ、私と薫ちゃんはママ友だね」

「ママ友か……悪くないな」

 

 それは、もしかすると薫にとって初めての友達なのかもしれない。自分もいつか誰かと結婚し、子供を産み育てることになるだろう。相手が誰になるかは分からないが。ここだけの話、丈瑠と養子縁組を結ぼうとした際、他にも丈瑠を婿として志葉家に迎え入れるという手段を取ろうとも考えたことがあった。双方ともに歳が近いし、丈瑠は火のモヂカラを操ることに非常に長けていた。だからこそ、家臣たちは皆丈瑠こそが本物の殿様出ると信じて疑わなかったのである。そんな丈瑠との間に将来的にできるであろう子供であれば、丈瑠や自分どころか、今までの歴代のシンケンレッドを超えたモヂカラを持った子供が生まれていた可能性がある。だが、あの時はあまりにも時間がなかったうえに、自分に付き従ってくれていた丹波を納得させる材料としては弱いのではないかと考えた結果、他人として迎え入れるのではなく、実子として、血縁関係のあるみとして志葉家にいれる方が容易いのではないかと考えた結果、今の自分と丈瑠の関係となった。戦が終わった後に考えるのも何ではあるが、正直、丈瑠以上の男に出会う自信はあるのかと言われると、ここまでできた息子はそうはいないであろうと考えてしまう。やはり養子ではなく婿として入れるべきだっただろうか。

 

「ひめ!それから子供の私達もめぐみの援護に回ってもらえるかしら?」

「了解しました!」

「あれ?そのひめは私の方?」

「一人だけ名前で呼んだからそうじゃない?」

 

 同姓同名、同一人物が同じ場所にいる時ほどややこしいことはない。そう心の中でつぶやくいおなではあったが、これによってことめぐみの防衛に関しては完璧になったであろう。

 

「行くぞ!」

「あぁ!」

「成敗!」

 

 その丈瑠の言葉と共に鶴姫たちは屋根の上から降り、それぞれに武器を持って全員がナナシ連中の元へと向かって行った。

 

「フッ!ハァッ!」

「フッ!ハッ!」

「ッ!ハァッ!!」

 

 丈瑠はナナシたちの群れの中枢にまで走りこみながら縦横無尽に斬って捨てていく。途中で幾度となくナナシの剣が丈瑠の身を襲うものの、それら全てを丈瑠は避け、時には受け止めて反撃をしながら勇猛果敢に行く。その姿は、まるで戦国時代の高名な武将であるかのようであった。

 薫は、めぐみを守ると言ったためめぐみの側を離れない。しかしそれはどちらかというと彼女にとっての足枷ではなく、むしろ守るべきものがあるという使命感をもたらしてくれるもの。それは、薫の力を何倍にも増量させるものとなったのだ。女性であるがゆえに丈瑠ほどの力はなく、荒々しい攻撃はすることができないが、しかし薫は自分が女性であるという利点を生かして軽やかに、そして傍目から見たら優雅と言ってもいいのではないかというほどに綺麗な舞のような動きを見せているかのように洗練された動きでナナシたちを斬っていく。それは、ある有名なボクサーが言った言葉、蝶のように舞い蜂のように刺すという言葉を表しているかのようだった。

 ハミィは、キュウレイピアを使ってナナシを次々と倒していく。一度三体同時に刀を振られてしまい、レイピアで防いだものの力押しでこられて地に伏してしまうが、しかしそれ以上剣が進むことはなく、おろそかになっていた足元へのキックを見まってその状況から脱出し、素早く立ち上がると回転切りによって周囲にいるナナシたちを斬り捨てた。

 

「食らいやがれ!」

≪SHU!≫≪SHU!≫≪SHU!≫

「ハァッ!」

≪ZBAAAAK!≫

 

 サスケは、手裏剣をナナシたちに向けて投げて当ててけん制した後、一度ナナシの動きが止まったところを見計らって背中から秘剣カクレマルを抜いてナナシたちを斬っていく。その際、なにやら英語で書かれた文字が浮かんできたが、サスケの他、その場にいた人間たちには全く見えていないものなので、これ以上は記述しない。というよりも放っておく。

 

「いいわね!行くわよ!」

「「はい!」」

 

 鶴姫のその言葉に、三人はバトンを取り出した。それを、頭の上で一回転させると、それぞれが新体操のリボン、ボール、そしてクラブに変化し、そして鶴姫が親指を下に向けるthumbs downと言われるジェスチャーを取りながら言った。

 

「成敗!」

 

 それは、忍者戦隊カクレンジャーが使っていた決め台詞の一つでもあった。その言葉を合図として三人はナナシに向かっていく。

 

「まずはこれよ!フッ!」

 

 鶴姫はボールを上に投げるとすぐに飛んで、バレーボールのボールのように力強くスパイクする。ボールはナナシに一直線に向かっていくが、その分だけ軌道が読みやすかったためかナナシの剣によって真っ二つに切られてしまう。だがその瞬間、中から大量の粘着力のあるのりのような物が飛び出してナナシたちの動きを封じた。

 

「フーセンガムで作ったボール。前に使っていた物を改良したものよ」

「お次はこれをどうぞ!ハァッ!」

 

 つづいて風花がリボンを新体操のようにリボンを伸ばし回転させて渦の形を取る。そして、大きく横に腕を振るとリボンはまっすぐにナナシたちへと向かい、そして複数のナナシがそれに絡み取られて、こちらもまた動きが封じられる。

 

「最後はこれ!ハァッ!」

 

 そして、締めに風花が二つのスティックを投げると、それぞれがナナシに突き刺さる。その様子をみた三人は横並びになって左腕を土台にしてその上で指を拳銃を撃つポーズにしてナナシに向けて言った。

 

「お仕置き!ファイナル!」

「ナー!?」

 

 瞬間、大きな爆発が起き多数のナナシたちがその爆風に飲まれていく。為せば成る何事もとはよくいったものではあるが、さすがに新体操の道具で倒されてしまったナナシに対しては1ミリだけ同情しても良いだろう。

 

「ハッ!ハァァ!!」

「魔力で強化すれば……ハァッ!いける!」

 

 武器を持って戦っている戦隊の面々とはちがい、徒手空拳で戦っているのはプリキュア組である。大人のいおな、ゆうこは遠くの方で戦っている様子が見れるが、それ以外の面々は先に言われた通りに薫のすぐそばでめぐみを守りながら戦っていた。とはいう物の、めぐみ自身が積極的に戦いに赴いているため、しかもなかなか強さを持っているためもはや守る意味はあるのかという疑問すら沸いてくる。『女は弱し、されど母は強し』という言葉がある。めぐみがかなり強いのはその言葉が関係しているのかもしれない。そして子供のめぐみたちは、そもそもPC細胞による恩恵を受けられないので変身していない今ただの子供達であるのに等しかった。だが、彼にソウルジェムを用いて変身する方法を教えてもらった時に一緒に教えてもらっていた方法、魔力によって肉体を強化することによって生身でも闘うことが可能になっていた。

 と、このように一見すればどう考えても負ける可能性のないような状況である。しかし、不安要素はまだまだある。その中でもっとも彼女たちを苦しめていたのは戦力差だ。戦隊プリキュア連合の人数は現在合計して14人、対してナナシ側は何十何百というすさまじいほどの数がいる。

 

「どうする、これではじり貧になるぞ?」

 

 今は優勢に戦っている彼らではあるが、人間いつかは疲れ果ててしまう。この期に及んでさらに増援など送られてこようものならば精神的にもダメージを喰らってしまうだろう。ナナシはほぼ無限に三途の川に存在すると言っても過言ではない。増援が来ないという事もあり得ないのだ。これは、やはり変身して一気に倒すしかないのかもしれない。そう思っていた丈瑠に、サスケは笑って言う。

 

「いや、こっちにだってまだ仲間がいるぜ!」

「なに?」

 

 その時だ。三味線の音色がどこからともなく聞こえてくる。お寺の尼さんのような恰好をした女性が弾いているらしい。青色を基調としたその恰好から、ただの尼さんではない事は確かである。あたりに響いた三味線の音色が止んだその時、尼は頭にかぶっていた布を取り、その下に現れたのは美しい女性の顔であった。

 

「七海!」

「知合いですか?」

「忍者戦隊の一人だ。私たちの世界で女優をやっている」

 

 野乃七海、彼女は鶴姫たちの世界。つまり元の世界においてトップ女優として活躍している女性である。しかし、それは世を忍ぶ仮の姿。本当の彼女は忍風戦隊ハリケンジャー青、ハリケンブルーなのである。

 そんな七海に対してナナシ共はまるでそれしか能がないように突撃していく。七海は、一度女性陣に微笑むと、手に持った三味線を弾く撥を構える。ナナシの巨大な剣が彼女目掛けて振り下ろされた。だが、その攻撃を七海は小さな撥を用いて次から次へと受け流し、そして同じく撥でナナシを斬る。その様子は、まるで時代劇や芝居を見ているかのように滑らかに、軽やかに、そして涼しげに見えていた。七海は、ナナシの腕を取り、首筋に撥を置いて言う。

 

「忍者同士の共闘を……」

「ナー!!」

 

 ナナシを斬る。さらにポーズを決めて言う。

 

「強く望んだ私の思い……アイドルなんて言わせない。女優魂見せてやる!!夢をかなえる人生を、ひとえに願え……掴みます!」

「か、かっこいい……」

「よっ!大女優!!」

 

 その美しくも勇ましい物言いにプリキュア、並びにハミィは目を奪われた。これこそ大女優のオーラとでも言えるのだろうか。かつての江戸にも本当にこのような女性がいたのではないか、そう思えるほどに彼女はこの江戸時代の風景にマッチしており、その見目麗しい姿をさらに映えていた。

 

「ガンバロー!!ニッポォォン!!!」

「え?誰!」

「あ、あそこ!屋根の上!!」

「ヒーローって屋根に上るの好きなの?」

「ってあれって、坂本龍馬!?」

 

 めぐみが指さした方向。そこには一人の男が屋根の上に登って叫んでいる最中であった。その背格好は、よく歴史の授業で目にする坂本龍馬そのもののようだった。だが、坂本龍馬は明治維新で活躍した人間だ。江戸時代の今にいるわけがない。そう、その男はこれまたハリケンジャーの一人、尾藤吼太であった。

 

「忍者の夜明けは!近いぜよぉぉぉ!!」

「ナー!!」

「ナー!!」

「今一度、外道衆を洗濯いたしそうろう!」

 

 そう言うと吼太は、懐から一丁の銃を取り出し発砲した。フリントロック式と呼ばれる形式の銃で、17世紀初頭に完成された銃であり、マスケット銃などの火器で使われた点火方法の一つでもある。日本では江戸時代に輸入されたとされている。また、火種を使わず、さらに火蓋を閉じたまま射撃体勢にかかることが出来るため、天候の影響が小さいという利点を持っていた。因みに、実際に坂本龍馬が使っていた銃はS&Mモデル2アーミー33口径並びにS&Mモデル1/232口径であるとされているため、実際に坂本龍馬が使っていた銃を使用しているというわけではない。

 

「人の世に、道は一つという事は無し!道は百も、千も、万もあるきに!!」

 

 吼太はそう言いながら銃を連射し、周囲のナナシたちを打倒していく。同じく懐にある刀を使わないのは、銃の前に刀など役には立たないと言った坂本龍馬を習っての事であろうか。

 

「辛ろうとも!!負けたら行かんぜよ!!」

 

 吼太の放つ弾丸は、ナナシを次々と貫いていった。しかし、吼太が貫いたのはナナシだけではなかった。辛くても、負けてはいけない。その言葉に心を動かされた者がいるのだ。

 

「辛くても……か」

「何だか、心に響くわね。この歳になると」

「うん」

 

 そう、大人のプリキュアたちは語る。思えば、自分達はこの歳になるまで数多くの辛い日々を暮らしてきた。友達に会いたくても逢えなかったり、友達を信用できなかったり、自らの愛に応えてくれる人を無くしたり、自分達の隣にいる子供の頃の自分達からしてみれば、想像することが難しいほどの人生を送ってきた。しかし、その中でも自分たちはくじけなかった。負けなかった。辛くても前を向くのを忘れなかった。全ては、歩き続ければきっといい明日が来ることを願ったから。自分に負けなかったから。掴んだ今がある。自分にまけなかったからこそ掴もうとしている未来が今この中にある。辛いからこそ、笑って何とかなると信じて、絶望しそうになっても立ち上がって、そしたらいつの間にか大人になっていた。これから自分たちにどれだけ辛いことが訪れるのかまだ分からないがしかし、今までと同じことだ。辛くてもくじけそうでも、前に進み続ける。それができるのが人間だから、彼女たちは前に進み続けるのだ。それが、人間として生まれ、そして一度しかない人生を生きる自分たちの覚悟なのだから。

 そして最後の一人がゆっくりとその地に足を踏み入れた。

 

「あれは……」

「編笠?」

 

 笠は、古くは平安時代の末期に老女が使用されていた記録が残っており、江戸時代初期に若い女性が使用していた。大きな籠のような笠をかぶっていた虚無僧という僧がかぶっていたことでも有名であろう。種類によっては防具にもなったり、野営の際にその中にご飯やみそ玉等をいれての陣中食にも使用したと言われている。男は、歌を口ずさみながらナナシの中へと入っていく。しかし、その歌は背格好に似合わないほどにポップな歌であり、その異様さにナナシは何もせずにその男が中心へと来るのを見ているしかなかった。その内、一体のナナシが男に向かって襲い掛かった。しかし男は右に左にと体幹をずらしてその攻撃を避けると、後ろにいるナナシを蹴りつける。この攻撃を境にしてナナシたちは波のように攻撃を開始した。しかし、男はナナシの腕を掴んで投げ飛ばしたり、またその進む力を利用して受け流し、ナナシの勢いをそいでいく。そして、また一瞬の硬直状態に入ったその時、男はかぶっていた笠を取った。その下から現れたのは、忍風戦隊ハリケンジャーのハリケンレッド、椎名庸介であった。

 庸介は一度笠で敵を倒すとソレを手放して、腰に差していた刀を引き抜く。そして袈裟切りに、横一文字にとナナシたちを斬っていき、徳田のように一つ一つの動きにキレを入れながらにしてナナシを切り捨てる。ナナシは、次から次へと庸介に襲い掛かったが、まるでドミノ倒しかのように倒れていく。そして庸介は最後に回転切りによってナナシを斬ると、川のせせらぎのようにゆっくりと刀を鞘に戻していき、その鍔が鞘の入口にまで達したその瞬間に、まるでビデオの一時停止のように斬られた瞬間で止まっていたナナシが倒れて言った。

 野乃七海、尾藤吼太、そして椎名庸介。彼らが伝説を継ぐ者、忍風館第507期生疾風流忍者、26番目のスーパー戦隊、忍風戦隊ハリケンジャーである。宇宙忍群ジャカンジャを相手に、迅雷流忍者である電光石火ゴウライジャー、そして天空忍者シュリケンジャーと共に戦い、地球を救った若者たちである。

 

「待たせたなサスケ!」

「いや、グッドタイミングだ」

 

 サスケは、そう言った庸介に対してサムズアップで答える。これで歴代スーパー戦隊の忍者戦隊三つがそろい踏みしたことになる。ここまで忍者がそろっている様子を見た大人のひめがよからぬことを思いついた。

 

「あ、そうだ!」

「?ひめ、プリチェンミラーを取り出して何するの?」

「もちろんこれ!」

 

 ひめはカード、プリカードを取り出すと変身アイテムであるプリチェンミラーにカードを装填する。

 

≪ニンニンニンジャ、かわルンルン!≫

 

 その音声と共に、ひめの衣装が袴姿から忍者の衣装へと変化した。彼女達の使用しているプリチェンミラーは、本来のプリキュアへの変身アイテムとしての役割だけではなく、キャラクター、トップス、ボトムスの三種類のカードを重ね合わせることによってさまざまなコスプレを可能とする効果を持っているのだ。その種類は多岐にわたり、ほかにもポリス、探偵、ひよこなど様々な種類があるのだ。……ひよこなんて何に使うんだ?

 

「忍者でござる!」

「あ!そっか!ようし私も!」

≪ニンニンニンジャ、かわルンルン!≫

「たぎる十六夜!忍者ひめ!なんちゃって!」

「遊んでる場合じゃないわよ……」

 

 大人のひめに対抗するかのように変身、いや変装をしたひめに対していおなは呆れかえる。正直、この状況でよくもここまで遊んでいられるものである。だが、だからこそ彼女はひめなのだ。この性格を変える事なんてそう簡単にできそうにもない。それゆえ大人になった後も周りの人間にも迷惑をかけ、騒ぎを誘発させてしまうのだ。でも、大人になってもそこまで自由でいられる人間なんてそう何人いるのだろうか。大人になっても、子供の時と同じような性格で、同じように笑っている大人がどれほどいることだろう。子供の時は、こんな大人になりたくないという反面教師を持って、絶対に今の自分を忘れないで言おうと思った子供が何人いて、その内何人が心変わりしてしまったのだろう。いや、その本心は変わっていない。変わったのは環境だ。子供の頃は、何をやっても怒られるという事はあったが、許されることが多かった。服を泥だらけにして遊んでも、夏休みに遅くまで帰らなくても、自分より目上の人である先生や親と親しげに話しても、少しの間怒られるだけで、その後の人生が変わるまでの罰則が付けられるという事はなかった。しかし、大人になったらそんな事世の中が許してくれない。ある人は言う。変な人間だと。ある人は言う。遊び人だと。ある人は言う。常識を知らないと。ただ自分のやりたいようにやっているだけなのに、周りの人間たちはそれを固くなにして嫌がってしまう。誰にも迷惑をかけているわけでもないのに、そんなことをして恥ずかしくないのかと罵られる。子供の時には許されたことでも、大人になったら許されなくて、後戻りができなくて、だから大人たちは個性を失ってしまうのだ。人は、自分という物を保てなくなって、ただ一人の大人になり下がってしまう。そして、心の奥底に封じ込まれてしまった個性が出てこれないストレスで、物や人に当たってしまう人間が、社会不適合者としてみなされてしまう。そんな世の中で我々は生きていかなければならないのだ。だが、世の中がどうであれ、絶対に変わってはいけない信念がある。思いや、自分がこうでありたいという憧れがある。誰もがそれを忘れてはいない。忘れてはならない。忘れられるのは、元々そのようなものではなかったというただの建前だ。一人一人の個性があるからこそ、誰かに出会った時に面白いのではないか。この人は自分とは違う個性を持っている。この個性は誰にも負けない。そんなものがある世の中だから楽しいのではないか。彼女のようにさらけ出してみよう。自分自身の個性を。自分は、こんなことができるんだと表現しよう。それがたとえ陸の孤島であったとしても。叫んでみよう。これが自分なのだと。何物にも縛られることのない自分なのだと。皆に言ってやろう。皆に教えてやろう。そして言おう、お前も自分を出してみろと。

 

「全くブレイブな奴らだぜ!!」

「え?」

「今の言葉……」

 

 彼女たちは、この時代に響くはずのない声を聞いた。ブレイブとは勇敢を表す英語である。しかし、この時代の日本は鎖国をしているため、国交があったのは確かオランダや中国、朝鮮、アイヌや琉球王国だったはずだ。どうして英語が聞こえてくるのか。答えは明瞭である。彼らもまた未来から来た救援なのだ。その時、六人の若者がナナシとめぐみたちの間に現れた。

 

「待たせて済まない」

「遅れたことを、許して≪おくれ≫」

「え?あの……え?」

「気にしなくていい。そんなことよりも、最高にキュートだな。今度俺とデートしないか?」

「お断りします」

「ohmy……」

 

 遥か太古の昔より戦い続けてきた一つの戦隊があった。それから時を超えて現代によみがえった暗黒種デーボスに立ち向かうべく、六人の若者たちがその力を受け継いだ。彼らこそ、強き竜の者と評される37番目のスーパー戦隊。獣電戦隊キョウリュウジャーの桐生ダイゴ、イアン・ヨークランド、有働ノブハル、立風館ソウジ、アミィ結月、空蝉丸である。……のだが、ちょっと様子がおかしい。

 

「皆の衆!今日はこれでいくでござる!」

「わお!この前手に入れた新しい変身ね!」

「そいつは最高にブレイブじゃねぇか!行くぜ!」

 

 というと、六人はそれぞれスマートフォンを取り出す。彼らの本来の変身アイテムはカブリボルバーという銃なはずなのだが……。

 

「「「「「「ブレイブ!オン!」」」」」」

 

 その声とともに、六人はダンスを踊り始める。それは、まるでサンバのように荒々しく、そして力強い物である。そして、そのダンスが終わった瞬間それぞれのスマートフォンから武器が出現して、その衣装が変った。

 

「炎のブレイブ!ヴァルガス!」

「水のブレイブ!セレナ!」

「樹のブレイブ!ランセル!」

「雷のブレイブ!エゼル!」

「光のブレイブ!アトロ!」

「闇のブレイブ!マグルス!」

「勇敢戦隊!」

「「「「「「ブレイブ!フロンティア!」」」」」」

「勇敢戦隊?」

「ブレイブ……フロンティア?」

「あの、あなた方はキョウリュウジャーでしたよね?」

 

 戦隊の先輩、後輩、そしてプリキュア問わずその光景には困惑する。彼らは確かに獣電戦隊キョウリュウジャーである。しかし、その戦いが終わった後も新たな地球の脅威が続々と地球に迫ってきていた。戦隊は基本的に自分たちの敵を戦い終えた後は後輩に後を任せることがほとんどではあるが、もしもより強力な敵が来た時の事に備えて彼らは特訓を始めたのだ。そして、その中で彼らは得ることができた。キョウリュウジャーとはまた別の戦隊の力を。それが、勇敢戦隊ブレイブフロンティアであったのだ。因みに、青の人がなぜか性別が変っている気がしないでもないのは触れてはならないタブーである。

 

「行くぜナナシ連中!!」

「「「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

 キング、いやヴァルガスのその声とともにブレイブフロンティアの六人はナナシたちに向かっていく。と、ここで薫がつぶやいた。

 

「まるでコスプレだな……」

 

 と。確かに、普通の戦隊の変身とは違ってスーツに身を包んでいるわけでもなく、生身で顔まで出している現在の彼らは、スーパー戦隊という物の様式から離れすぎている。そのため、薫がコスプレと言ってしまうのも分かる気がする。

 

「コスプレっていえばさ……」

「え?」

 

 ゆうこは仲間達を見渡して苦笑いをしながら言う。

 

「なんだか、ここにいるほぼ全員がコスプレしているような……」

「……」

 

 そう言われて気がつく。ハリケンジャーの三人、カクレンジャーの鶴姫、ニンニンジャーの二人とプリキュアの姫二人、そしてキョウリュウジャー六人。ひめ以外のプリキュアとハミィが着ている袴もまたコスプレだと定義したら、結局のところコスプレしていないのは普段の戦いの時点で袴をよく来ているシンケンジャーの二人とサスケだけという事になってしまう。因みにサスケ自身も江戸時代に来るまではウェスタン風の衣装を着る事を考えていた。しかし、その恰好では江戸の町には合わないと思ったために断念していたのだ。思えば、その時点でサスケだけが自重してくれてよかった。

 

「よっしゃトドメだ!」

「ってはや!?」

 

 などと言っている間に、六人はナナシの半分以上を倒していた。それほど長くしゃべっていた自覚はないのだが、それだけ彼らが強かったという意味なのだろうか。それとも、また別の理由か。

 

「「「「「「ブレイブソード!」」」」」」

 

 六人はそれぞれの武器をある一点を中心として刃先を並べる。その瞬間、中心が大きく光る。その後、武器を天にかざすと、武器はそれぞれの色に光りはじめ、持ち主の手を離れて空へと浮かんでいった。そして最後に、武器同士が結合していき、一つの巨大な武器を作り出した。人間の何倍にも大きな剣を、ヴァルガスは支えるように持ち、他の五人もまたヴァルガスの身体を支える。

 

「「「「「「ブレイブソード!アタック!!」」」」」」

 

 ヴァルガスが、その言葉と共に巨大な剣を地面に突きたてると、剣からエネルギー体が飛び出し、その進行方向にいたナナシを押しつぶしていった。ちょうど剣の幅と道の幅がほとんど同じであったため、ナナシたちは逃げることができずにエネルギー体に押しつぶされ、この時点でほとんどすべてのナナシが倒された。

 

「よっしゃぁ!ブレイブだぜ!!」

「す、すごい……」

「というか、振り下ろすんじゃなくてまっすぐ進んでいくんだ……」

 

 普通に考えたら、剣は振り下ろすものだ。しかし、彼らはその斜め上の方向を行っていた。先ほども言った通り、剣からエネルギー体が飛び出していった、つまりナナシたちを倒した場所は、どちらかというと刃の部分ではなく持ち手側で押しつぶしていったのだ。冷静に考えてみると、エネルギー体という事ではどちらで倒したとしても同じ事だった可能性があるが、しかし彼らの行ったことはあまりにも奇怪な物であったと言えよう。

 

「なんにせよ、これでナナシは全員倒すことができた。感謝する」

「いいってことよ!それより……」

「……そうだな」

 

 そう、過程はどうであれ彼らのおかげでナナシを打倒すことができたのは確かだ。変身を解いたキングたちキョウリュウジャーは、丈瑠たちの元へと駆け寄った。これでこの世界の脅威は去ったと言えるだろう。だが安心しきってはならない。ナナシは隙間から大量に発生する物だ。もしかしたらまたどこかの隙間から現れるのかもしれない。そう思って彼らは警戒を解くことはなかった。

 その時だ。どこからともなく馬の鳴き声が聞こえる。

 

「何?」

「ん?」

「何だ?」

 

 城の方向。江戸城の方から聞こえてきた耳を貫くほどの鳴き声。それと同時に、蹄が土を蹴り上げる音も聞こえる。それは、次第に近づいてくるように大きくなりはじめ、そしてついに、その姿をその民家の影から見せた。純白の馬に乗った一人の侍。その男がこちらに向かって馬を走らせていることは明らかだ。しかし、何故か分からないが丈瑠たちにはその動きがとても遅く見えた。それほどまでに馬の一挙手一投足が重く、そんな激しい動きを見事に操っている侍の姿が美しく見えたのだった。

 馬は、丈瑠たちから遠く離れた場所で止まり、男は馬から降りる。丈瑠は、全員よりも一歩前に出てその男の目を見た。なんとも力強い目力であろう。少し気を抜くと体が勝手に後ろに下がってしまうかのようだ。これほどまでのプレッシャーを味わったのは初めてだ。一体、男は何者なのか。侍は、そんな丈瑠の目を見ながらゆっくりと歩き出そうとした。その時である。民家の隙間が赤く光りを放ち始め、中からナナシ連中が次々と現れた。

 

「!」

「まずい!」

「避けろ!!」

 

 鷹介は、侍に向かってそう叫んだ。しかし、侍はその言葉を受けても避けようとせず、腰に差している刀を素早く抜くと、後ろから迫ってくるナナシの攻撃を見もせずに避けて横一文字に斬った。

 突然の反撃に周りのナナシは困惑する。一方侍はその異様な風体に対してたじろぐことなく刀を顔の横で構えた。

 

「ッ!強い……」

「まさか、ただの侍があそこまで……」

「……」

「……そうだな、丈瑠!」

 

 薫は、丈瑠とアイコンタクを取るとともにその侍の元へ向かう。ナナシはその動きに対して体を二人の方向へ向けた。その瞬間である。侍が気の逸れたナナシに対して斬撃をみまう。そのすぐ後に丈瑠と薫もまたナナシたちを斬って捨てながら進み、侍のすぐそばにまで寄ると三人は背中合わせの格好となる。

 

「俺は、志葉家19代目当主……志葉丈瑠だ」

「先代当主、志葉薫という」

「志葉家……そうか、お前たちはあの者の子孫か……俺は、貧乏旗本の三男坊、徳田新之助だ」

「徳田……新之助……」

「江戸の街を守るために戦ってくれて感謝する。ここからは俺も一緒に戦う」

「あなたほどの剣の達人に助けていただけるなら……こちらも安心して戦うことができる」

 

 この男の見せた剣裁き。遠くから見ていてもほれぼれする物だった。手加減をしていてあれほどの力を持っていれば、ナナシにも対抗することができるはずだ。そう丈瑠は考えていた。どうして徳田が手加減をしていたと考えるのか、答えはその刀の向きにある。ナナシを斬る時、徳田は鋭利な刀身ではなく、棟の方で戦っていた。つまり、みねうちのみで戦っているのだ。それすなわち、刃物で戦っているのではなく、棍棒で戦っていると言ってもいいのかもしれない。しかしそれでもナナシ共は倒されていった。それは、ひとえに徳田の腕がナナシのそれよりも数倍上であることを顕著にして示しているという事が言える。今の時代には見ることのできない本物の侍の腕。その姿を間近で見れることに、ひとえに丈瑠と薫の心はワクワクしていたのかもしれない。

 

「いざ……参る!」

「うむ!」

「!その家紋……」

 

 戦闘に入る直前、薫は刀に刻まれた家紋を見た。自分の記憶に間違いがなければ、その家紋は確かかつて江戸の街を統治していた武将の家が掲げていた物だ。という事は、侍はその者に仕えている男という事か。いや、この圧倒的なカリスマ性とプレッシャー。見ているだけで汗が吹き出してしまうほどの力強いまなざし。まさか、この男は……。

 

「天に変って成敗する!」

 

 その言葉と共に丈瑠、薫、そして徳田は……いや、徳川吉宗は散会してナナシを討伐に向かった。そう、徳田新之助とは仮の姿。その正体は、それは徳川吉宗。前の将軍の早世に伴い徳川御三家の一つ、紀州藩から江戸に来た徳川幕府8代将軍、徳川吉宗であった。将軍として江戸幕府を守っている一方、素性を偽り江戸の町に出て悪党どもを懲らしめる。それが、徳田新之助の真の姿であるのだ。

 

「!」

 

 吉宗は一体、また一体とナナシを斬る。細い刀でナナシの巨大な剣の力を受け流しながら、まるで時代劇であるかのように斬っていくのだ。ナナシは大きな剣を振り下ろした。しかし吉宗はそれに対して動じることはせずに横からその剣に対して刀を当てると、剣は彼のすぐ真横を通って地面へと刺さった。吉宗はその剣の上に足を乗せ、刀をナナシの首筋に当てる。その行動を見て、我先にとナナシ共は吉宗の後ろを取った。しかし、それに対して吉宗はただそのナナシたちを見るだけだった。ただそれだけであるが、しかし結果としてその眼差しによって、まるでメデューサの目を見てしまったかのようにナナシたちはその動きを止める。吉宗はその隙を見逃さず、見向きせずに首筋に刀を置いたナナシを斬ると、そのままの流れで自身の後ろにいたナナシたちを斬り捨てる。まるでかぶきの見え切りのようだ。鋭い目つきでただ見るだけ、ただそれだけで勝負が決まっていた。ナナシたちにとっては吉宗の刀が大きく見え、自分達の剣は棒きれのように見えていたであろう。丈瑠、薫もまたその勢いによっていつもの二倍ほどにまで自分たちの力が高まっている感覚に陥った。いつもより切れ味よく、いつもよりもはるかに速く、そして今までよりも充実感に溢れていた。しかしそれは斬ることに対してではない。一人の侍として、強い侍と共に戦えることに対して充実感を持っていたのだ。彼らは言う。この感覚は、二度と忘れることはできないだろうと。

 

「ハァッ!」

「……成敗!」

 

 ほぼ同時に三人は最後に残ったナナシを斬り捨てる。その瞬間、全てのナナシが爆発を起こして消滅する。しかし、まだまだ隙間からはナナシたちがあふれ出してくる。

 

「まだ来るか……」

「上等だ!やいナナシ連中!!この江戸の人間には指一本触れさせねぇぜ!」

 

 サスケたちもまた三人に合流する。ナナシはどんどんと湧いてくるが、戦い方はこれまでとは変わらなければいつまでも戦い続けられるはず。しかし問題が二つある。一つは、彼らが人間であるという事。戦い続けていればいつかは疲れ果ててしまうだろう。だが、もう一つの問題が一番の課題である。それは……。

 

「お前たち、よくやってくれた」

「え?」

「だが、ここから先は俺たちに任せてもらおう」

「なに?」

「お前たちにも、やらなければならないことがあるのだろう?」

「……」

 

 そう、それが一番の課題だった。元々自分たちが次元の壁を越えてきたのは、プリキュアたちへの救援のためだった。なのに、このような場所で戦っている場合ではないのだ。だが、この江戸時代の人達を放って自分たちが行くわけにはいかなかったのも事実。それを徳田は見透かしていたかのように自分たちに先に行くように言ってくれているのだ。しかし相手は怪物ナナシ連中、いやもしかしたら妖共もまた出てくるかもしれない。ただの人間である徳田にすべてを一任しても良いのだろうか。

 

「案ずるな。この世界には優秀な侍や忍者……火消しの面々もいる。何より、この江戸の町は俺たちの街だ。未来はともかく、今の俺たちの世界は、ここに生きる者たちに任せてくれ」

「徳田……」

 

 ここは確かに丈瑠たちにとっては過去の世界。しかし徳田達この街の人間にとっては確かに生活している今という時間なのだ。彼らが生きていくこの世界は彼ら自身が守らなければ意味がない。守らなければならないからこそ、丈瑠たちにばかり頼っていてはならないのだ。だから彼は戦うのだ。徳田新之助という一人の侍そして、徳川吉宗という一人の殿として。

 

「分かった」

「ありがとうございます徳田さん!どうか、ご無事で!」

「もちろんだ」

「徳田、俺はお前に出会えてよかった」

「未来は……任せてくれ」

 

 丈瑠、薫のその言葉を最後とし、それぞれが向かうべき場所へと向かていく。そして、そこには一人徳川吉宗のみが残された。いや、違う。民家から一人の男が現れた。その男もまた侍か、腰に刀を下げていた。そして、『ショドウフォン』もまた丈瑠と同じように持っていた。

 

「あのような若者たちがいれば、志葉家……そして未来は安泰だな」

「殿……」

「明日からはお前も一人の殿だ……」

 

 男は吉宗の有力な家来の一人であった。実は、吉宗の元にはナナシを含めた外道衆の暗躍の情報が耳に入っていた。そのたびに多くの家臣たちや火消しが戦いに出ていたが、その分被害も大きくなっていった。そのようなときに、外道衆に対して優位に働くモノが発見される。それが、モヂカラであった。同じころ、吉宗の家来の一人がとてつもなく大きなモヂカラを持つと判明した。結果、その男を中心としてある一つの外道衆の討伐隊が組まれることとなった。そして、他にもモヂカラを持った者たちを見つけ、法律の制定も行い、ようやく明日から彼らの活動が開始され、それと同時に危険な任務に就くことになる彼らのために吉宗は、家来に自分と同等クラスの権限と役職を与え、任務を遂行する際のなまえを与えることにした。果たして、その男の名前は……。

 

「行くぞ、烈堂!」

「……あぁ!」

 

 烈堂はショドウフォンを取り出すと、空中に文字を書いた。

 

[火]

 

 それを反転させると文字は彼の顔に張り付き、烈堂の服装を大きく変えていく。そして、腰に差したシンケンマルを抜いて言う。その姿の名は……。

 

「シンケンレッド……志葉家初代当主志葉烈堂……」

「徳川家八代将軍徳川吉宗……」

「「参る!!」」

 

 今を生きる二人は進む。未来にまで続く平和な世界を信じて。

 

「よし、お前たち、準備は良いな?」

「あぁ!ここからは忍風戦隊ハリケンジャーの本番だぜ!」

「私達ニンニンジャーもです」

「別の世界の私と、それから私と誠司君の子供のために!」

「やってやろうよ、皆!」

「キタコレ!皆い感じにあったまってきた!」

「いくぞ丈瑠、徳田に任された未来……」

「あぁ、俺たちならば……きっと切り開ける」

「ブレイブな奴らが集まったぜ!」

「俺たちスーパー戦隊と!」

「私達プリキュアの!」

「そして……人間の底力!」

「今こそ見せてやる!」

「チェンジだ!」

 

 サスケ、鶴姫はドロンチェンジャーを、椎名鷹介、野乃七海、尾藤吼太はハリケンジャイロを、志葉丈瑠、志葉薫はショドウフォンを、桐生ダイゴ、イアン・ヨークランド、有働ノブハル、立風館ソウジ、アミィ結月はガブリボルバーを、空蝉丸はガブリチェンジャーを、伊賀崎風花、百地霞は忍者一番刀を、ハミィはセイザブラスターを、そして大人のめぐみ、ひめ、ゆうこ、子供のひめ、ゆうこはプリチェンミラーを、二人のいおなはフォーチュンピアノを、子供のめぐみはソウルジェムを持って並び立つ。そして……。

 

「「「「「「ブレイブ!イン!」」」」」」

≪≪≪≪≪≪ガブリンチョ!!≫≫≫≫≫≫

≪ガブティ~ラ!≫

≪パラサガン!≫

≪ステゴッチ!≫

≪ザクト~ル!≫

≪トリケェェラ!≫

≪プテラゴォォドン!≫

「いざ!尋常に!!」

「「「「「「キョウリュウチェンジ!!」」」」」」

≪シロニンジャーシュリケン!≫

≪モモニンジャーシュリケン!≫

≪≪ザ・変化!≫≫

≪≪ニンニンニン、ニンニンニニン!≫≫

≪カメレオンキュータマ!≫

≪セイ・ザ・チェンジ!≫

≪≪≪≪≪≪≪かわルンルン!≫≫≫≫≫≫≫

「「スーパー変化!ドロンチェンジャー!!」」

「「「忍風・シノビチェンジ!ハァッ!」」」

「「一筆奏上!」」

[火]

[火]

「「ハァッ!」」

「「「「「「ファイヤー!!」」」」」」

「「シュリケン変化!」」

「スターチェンジ!」

「「「「「「プリキュア!くるりんミラーチェンジ!」」」」」」

「「プリキュア!きらりんスターシンフォニー!!」」

≪シロジャー!モモジャー!ニンジャー!≫




 最初は、受け継がれているというか過去から未来に継がれている系のメンバーで組んでいたんです。ハリケンジャーもカクレンジャーも先代の方々がいて、キョウリュウジャーもまた100yearafterがあったりして、なのに……何故かコスプレ回に……?
 このプリキュアの世界がもう1年もやっているのですが、流石に長すぎると起こられてしまいました。多分今年中にはプリキュアの世界は終わるんじゃないかと思うんですが……。
次回……雪山。

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