仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

160 / 265
 別に意識したわけじゃないのに声優ネタっぽいものになった。


プリキュアの世界chapter64 イカと笑顔とつないだ手

 彼は、戦ってはいけない人間だった。いや、正確に言えばもう戦ってもらいたくない人間であった。彼は人間が大好きだった。皆の笑顔が好きだった。しかし、人間のような存在である怪物と戦った。怪物たちの笑顔を奪った。その笑顔は、彼にとっては誰かの笑顔を奪う笑顔だった。だから、彼は戦った。怪物であって、人間である彼らの笑顔を奪ってまで、守らなければならない笑顔があった。彼は人を殴るのが好きではなかった。でも、殴らなければならなかった。仮面の下で涙を流しながらでも、戦わなければならなかった。彼はその時、笑顔になることはできなかった。それでも、戦いが一つ終わるたびに、誰かに笑顔を向けた。つらい思いをしたその人もまた、笑顔になってもらえるようにと、彼は笑顔を続けた。そして誰もが笑顔になった。そして最後には、自分自身の信念と笑顔を犠牲にした彼の戦いは終わった。あれから、20年の時が経つ。彼は、故郷である日本にほとんど帰る事はなく、世界中を旅してまわっていた。それは、彼自身の心の傷をいやす為なのか。いや、彼は償いをしているのだと思う。自分の善のために失ってしまった多くの怪物たちの笑顔、自分が至らなかったから奪われてしまった多くの人たちの笑顔、その分まで世界中の人たちを笑顔にする。だから、彼は今日も旅を続けているのだろう。家族も、恩師も、一緒に戦ってくれた仲間とも会うことなく、今日も旅を続けているのだ。けど、彼は寂しくなかった。旅の途中で巡り合った多くの笑顔に出会うことができた。なにより、また新たな仲間もできたから。

 一人は、自分と同じく世界中を旅して、仲間をよみがえらせる方法を探している男。その仲間は、いわゆる人ならざる者であった。それは、あの自分が倒してきた者たちと同じだった。最初はかなり険悪な仲だったらしい、でも戦っているうちにお互いの事を理解しあえて、良き相棒になることができたそうだ。だが、最後の最後で戦いの中でその命を落としてしまった。でも、まだ希望はあった。彼のその手の中に、その大きくてどこまでも伸ばすことのできる腕の中に、相棒を取り戻すことができるという希望があった。彼は信じている。いつかまた相棒と共に笑い合える日を。彼は知っている。人の欲望がどれだけ大きく、根深く、そして暴走もしてしまうという事を。その事を刻んで彼は旅をしているのだ。相棒の心と一緒に。

 そして、もう一人は……。

 

「ん?」

 

 その時、彼の耳に聞こえたのは爆音だった。エヴェレストの山頂付近で起こったため、彼らはまず上にいるはずの登山者たちを心配した。エヴェレストを常人が昇るには酸素ボンベが必要だが、もしかしたらそれが爆発してしまったのかもしれない。そう考えたとき、それはちょっと違うんじゃないかと思う自分もいた。そもそも酸素ボンベを爆発させるにはライターなどの火が必要になる。この高度で、しかも吹雪が降る中でそのような物が使用できるとは考えられないし、そのようなものを使用する人がいること自体も考えられない。だが、登山者の酸素ボンベじゃないにしても、爆発が起こったという事は問題だ。何より、山肌の凍った雪の上にある新雪が雪崩となって落ちる可能性がある。さてどうするか。自分達だけだったら何とか逃げることはできるだろう。幸か不幸か、今日登山届が出されているのは自分たち三名のグループだけだ。だから、この近くに他に登山者がいる可能性は低い。……ならば、いったいなぜ爆発は起きた。登山届を出していない登山者がいるのか。だったら、早くいかなければならない。可能性はかなり低いだろうが、登山届を出すように義務付けられているとはいっても違法で山に入るもしくは、他の山から迷ってしまうという人間がいるかもしれない。登山届が出されていなければ、もしも雪崩で行方不明になったとしても探してもらえない。元々、エヴェレストという山では様々な理由で家族の元に帰ることのできない遺体が多い。担いで降りることもできないし、ヘリコプターも天候不順の日数が多く強風も吹くために使うことができないからだ。遺体は、エヴェレストの寒い気候のために腐敗することはないが、故にいつまでも山の上に残っている。それに山が好きだからエヴェレストという世界一の山で眠れるのなら家族も本望だろうという人もいるが、それ以外の人たちにとって家族が戻ってこないなど悲しいことこの上ない。もしも人がいるのならば助けに行かなければ。そう考えた三人は、急いで頂上へと昇っていく。そのスピードは常人のそれとは完全に逸脱したものだった。一歩一歩の足跡が雪の中へと残っていく。だが、雪の深さに反してそのくぼみはかなり浅い。これは、完全に足が沈むまえに次の足を前に出している証拠だ。そんな非現実的なことができるのは世界広しと言えども、ごくわずかしかいない。

 そして彼らは見た。怪物たちの姿、そして二人の少女と、一体のぬいぐるみが飛ばされ、そして一人の少女が茫然と空に手を伸ばしている光景を。

 彼女は見た。もう会えないかもしれない。でも、会えると信じていた。会いたかった友達の姿を。自分を変えてくれた、かけがえのない友達の姿を。それを見た彼女、そして彼らは、無意識にその走るスピードを上げていた。彼は再び戦う。誰かの笑顔を守るため。彼は再び手を伸ばす。その手が、皆の明日を描くと信じて。彼女は走る。自分が信じた道を歩むために。

 

 最初に彼女達を襲ったのは困惑だった。

 

「寒っむ!どこやここ!!」

「雪山……だと思うけど……」

「もしも私たちが普通の女の子だったら、凍え死んでいたよ」

「寒いモフ……」

 

 なにゆえに自分たちは雪山にいるのだろう。しかも吹雪の真っ最中だ。気温が零下を下回っているのは当たり前であるとして、もしも自分たちが何の変哲もないただの人であったら、すでに凍死していてもおかしくない。因みに、エヴェレスト山頂に最も近いキャンプで測定した平均気温はー27℃~-36℃であるそうだ。そこまで来るともう寒いという感情よりも痛いという感情がすぐに来てしまうだろう。そう日野あかね、黄瀬やよい、緑川なお、そしてぬいぐるみで人間よりも寒さに対して耐性のあったモフルンがそう思う。

 

「って!なんでモフルンがここにおんねん!みらいとかリコはどないしてん!」

「分からないモフ。気がついたらここにいたモフ」

「っていうか、モフルンはどっちのモフルン?」

「モフルンはモフルンモフ!」

「いや、そう言う意味じゃなくて……」

 

 因みに正解は過去のみらいたちのモフルンである。どうやら、跳ばされる時に彼女達と離ればなれになってしまったようだ。一応みらいたちが変身するにはモフルンは必要不可欠ではあるのだが、現在の彼女たちは単独で魔法少女という物に変身することができるため大した問題にはならない。というか、もう一人の仲間であるみゆきの姿もないのだが、それは大した問題ではない。現在の問題は、自分達がどうやってあの世界に戻るかという事だ。当然だが近くにいつも自分たちが様々な世界を渡るために使っている本棚は見当たらない。むしろあったら逆に怖い。早く山を下りて近くの村で本棚を借りたほうが良いのではあろうが、現在何十m先も一切見ることのできない吹雪が吹いている最中なので、動くのはあまり良くないことになるのだろう。ここは、吹雪が止むまで緊急避難として風の当たらない場所で待つビバークという方法を取るべきか。いや、しかし自分たち素人では一体どこがそのビバークをするのに適した場所なのかが分からない。もしも彼女だったら。行方不明になってしまった友達だったら簡単にその場所を探してくれるかもしれない。もしも彼女がいてくれたら……。

 

「とにかく、穴を掘って自分たちで避難場所を確保するしか……」

 

 地面が硬い岩でできているのは素人の彼女達でも知っていること。しかし、その上に積もっている雪を掻きだすことぐらいはできる。それでずっと籠っているという事はできないだろうが、吹雪が少し止むまで待って、今よりもましになったら山を下って行こうか、そう彼女たちが話し合っていたその時だ。

 

「我々が温めてやろうじゃなイ~カ!」

「ッ!」

 

 後ろを振り向いた瞬間、イカのような生命体が口からスミを吐き出した。彼女達三人の動きは、驚くべき程に速かった。そのスミに当たったら何かが起こるかもしれない。そう、身体が勝手に判断したのかもしれないが、三人はそれぞれ反射的にそのスミから避ける。モフルンはあかねが持ち上げて救出して、それぞれに散会した。そして、そのスミが純白の雪の上に落ちた瞬間スミは爆発し、その場に雪のクレーターを出現させた。恐るべき破壊力だ。当たっていたらひとたまりもなかっただろう。そうやよいが思っていた時である。二つの触手らしきものが彼女たちに向かった。

 

「ッ!しまった!」

「捕まったモフ!」

「あかねちゃん!なおちゃん!モフルン!」

 

 やよいは、仲間たちがどこからか伸びた二本の触手によって持ち上げられていく姿をみた。一体どこからか、やよいは目を凝らしてその触手の出先を探る。その内、吹雪は徐々に小康状態になり、敵の姿がやよいの目にも映ることになる。

 

「ゲソゲ~ソ!!」

「あれって、イカ!?」

 

 スクィッドオルフェノク、メ・ギイガ・ギ、そしてあかね達を拘束しているスペースイカデビルのイカ怪人三人衆である。先ほどの爆発は、メ・ギイガ・ギの攻撃によってもたらせたものだ。

 

「あかねちゃんたちを離して!」

「離せと言われて離すバカはいないゲソ!」

「ッ!」

 

 確かにそうではあるが、いざ言われてしまうと何だがむかつく。ともかく、仲間達を人質にされてしまって動こうにも動くことができないというのは確かだ。

 

「俺たちの軍門に下れぃ!さもなければ、三人は崖から真っ逆さまになるでゲソ!」

「そんなん卑怯やで!」

「そうだ!人質を取って誰かを縛り付けようとするなんて!筋が通ってないよ筋が!」

「えぇい煩い!勝てばいいでゲソ~」

「……」

 

 やよいは拳を握り、目をつぶって考えた。今の自分の力じゃ、あのイカの怪人を一瞬で倒して三人を救うなんてこと容易ではない。いや、まともに戦っても自分一人で怪人を倒すことなんてできるはずがない。ならば、諦めて降参するか。いや、そんなことできるはずがない。したくない。でも、そうしないと茜たちを助けられない。どちらか決断しなければならないのだが、でもどちらをとっても自分には最悪な結末が待っているはず。もう、どうすればいいのか分からない。弱虫で泣き虫な自分を呪ってしまう。と、一昔前の自分だったら思っていたのかもしれないなと、やよいは少し笑って言う。

 

「人質を助けるために、自分を犠牲にするか……自分を助けるために、人質を助けるか……知ってる?ヒーローって誰かのために自分を犠牲にする物なんだよ」

「やよい……」

「そうでゲソ!お前にはもうそれしか残されてなイ~カ!」

「でもね……私を犠牲にしてあかねちゃんたちが助かっても、皆はそれを許さない!皆は

私が犠牲になることを絶対に許さない!」

「やよい……」

「そんな物、ただの保身のための言い訳でゲソ!」

「確かに言い訳かもしれない!でも、私は知ってるから!あかねちゃんたちは、絶対に自分たちのために誰かを犠牲にするような人達じゃないって!どちらかしか取れなくなった時、どちらも取れるように頑張ることができる。それが、私たちプリキュアだから!」

「モフ!」

 

 人は、多くの物を犠牲にして大人になっていく。お金や時間、家族や友達、犠牲にしたものが計り知れなさ過ぎて、本当に自分が大人になってよかったのかと悩むものもいるかもしれない。でも、それでも彼女たちは大人になった。犠牲にしたものを、犠牲になった物達を忘れないために。その犠牲になった物達に報いるために。人は選択に縛られる時が必ず来る。右の道を選ぶべきなのか、左の道を選ぶべきなのか。そっちの道を選んで、自分はどうなるのか。別の道を選んだ時、どうなるのか。人は悩み、そして苦しむ。どうして二つとも取ろうと思わないのか。それが限界だから。人間にはどうしても乗り越えるのことのできない限界が必ずある物だから。だからもう一つのあったかもしれない未来を斬り捨ててでも進まなければならない。未来を犠牲にして、もう一つの未来を歩まなければならない。本当にそれが正しかったかなんて、誰も知らない事。別の未来を選んでいたら、自分はどうなっていたんだろう。世界はどうなっていたんだろう。それは誰も知らない事。でも、いつだって後ろを向くと思う。あの時、あの道を選んでいたら、自分はもっといい人生を送れていたのかもしれないと。あの選択が、自分の人生の全てを選んでしまったのだと。それが、限界を超えることができなかった人間の罰なのだと。けど、人は頑張る。自分が選んだ道を必死でもがいて進む。辛くても、苦しくてももがいて、もがいて、前へと進む。この先に輝いている未来があることを信じて、前へと進んでいく。そうしたら、いつの日にか出会うことができるかもしれない。自分が捨てた未来に。二つの道が交わる時が来るのかもしれない。もう一度、もう一つの道も試してみるチャンスが来るのかもしれない。確かに自分は多くの犠牲を払った。でも、その犠牲を取り戻すチャンスがきっと来るのかもしれない。その時が目の前に来て、また道が二つに分かれていたらどうするか。今後、開くことがないかもしれない扉が目の前に二つある。自分はどちらの扉を選ぶべきなのか。その時、人は気がつくであろう。限界を超えるために必要だったものを。なんの捻りもない。あまりにも簡単すぎて見つけられなかった鍵の正体を。自分だけが持ち、その扉を開けるために必要な、ほんの少しの『勇気』という鍵の存在。それに気がつくことができたから、彼女は選ぶことができた。二つの道を取るという第三の隠された道を。

 

「ゲソゲソ!ならば、その選択を後悔するでゲソ!」

「ワァッ!」

「モフ!」

「皆!」

「さぁ!どう選択するでゲソ!」

 

 スペースイカデビルは、あかねとなおを別々の方向へと投げた。その拍子に、モフルンもまたあかねの手をすり抜けて飛ばされる。三人の内誰を助けることができるのか。自分に一番近い場所にいるのはあかね。今から走り出せばあかねは助けることができる。しかし、他の二人は……。

 

「君は赤い髪の子を助けて!」

「ッ!はい!」

 

 声の主は誰か。そんなこと、やよいは考えることなくその声の主の言葉に従ってやよいはあかねに向かって走り出す。そして、崖スレスレで大きく手を伸ばした。あかねはなんとかその手を掴むことができた。そしてやよいは、あかねの重さで自分自身が落ちないように足に精一杯の力を入れる。そして、なんとか落ちようとする寸前で止まることができた。

 

「モフルンとなおちゃんは!?」

 

 やよいは、すぐにまずモフルンの方を見た。そこには……。

 

「モフ!!!」

 

 人間はちっぽけな存在であり、一人じゃ何もできない。世界中全ての人たちを助け出すなんてことはできない。

 

「ハァッ!!」

 

 だから、皆手を繋いで助け合わなければならないのだ。いや、助け合えるはずなのだ。人はそれを忘れているだけ。たとえ、どれだけ時代が変ろうとも、たとえ、世界がどう変わっていこうとも、絆という物は絶えず続いていく物だから。一人だと嘆かなくてもいい。孤独だと悲観しなくてもいい。絶対に、誰かがあなたの事を思ってくれるから。

 

「絶対に助ける!」

 

 だから彼は手を伸ばすのだ。一人ぼっちだと思っている人たちを助けるために、そのちっぽけな手を伸ばすのだ。

 

「この手が届く限り!」

 

 手を伸ばせば助けられるに、伸ばさなかったら後悔するから。せめて自分の手が届く人たちを助けるために。彼は今日もその手を伸ばし続ける。簡単で、大切であることを伝えるために。

 

「モフ……」

「大丈夫?」

「ありがとうモフ!」

 

 彼は、火野映司。少しの小銭と明日のパンツでいきていくことができると豪語する世界中を旅している男だ。仮面ライダーオーズとしてグリードという欲望から生まれた怪物たちと戦った男だ。

 映司の伸ばした手は、間違いなくモフルンの手を掴むことに成功した。ぬいぐるみであるためあかねと比べて少し遠くに飛ばされはしたものの、しかしそれでも映司は身体の半分以上を空に投げ出してモフルンの手を掴んだ。そして……。

 

「なおはどないしたん!?」

「だめ!もう……え?」

 

 ここからじゃ見えない。そうやよいが言おうとした瞬間、彼女は見た。なおのもとにむかって氷が伸びて行っているのを。そして、その氷の上に見覚えのある女性が乗っていたのを。

 

「ッ!流石にちょっと無理かな……」

 

 なおは、何とか崖から飛び出ている岩を掴もうと手を伸ばす。だが、崖とは距離が離れてしまったために掴もうとしても掴むことができない。このままじゃ自分は死んでしまう。いや、諦めてはだめだ。やよいの見せた勇気だけは無駄にしない。なおは、ポケットにしまっているスマイルパクトを出そうとする。しかし、風圧によって上手く手がポケットに入らない。まだだ、まだ何か手があるはずだ。自分たちは生きないといけない。スマイルプリキュアは誰一人として欠けてはならないのだ。彼女が戻ってきたとき、もう一度皆で笑顔になるためには、全員がそろっていなければならないのだ。多くの人たちに言われた。もう死んでいるのだと。誰もに言われた。もうあきらめろと。でも、プリキュアの仲間たちみんな全員が信じていた。彼女は今もどこかで生きて、自分の築いた道を歩いているのだと。今も、自分の道を作っているのだと。誰もが信じていた。彼女とまた再開するまでは、死んでいられないのだ。だから……だから……。

 

「なお!」

「ッ!」

 

 その声が聞こえてきたとき、彼女は当てもなくさまよっていたその手を迷わずに伸ばすことができたのだ。

 なおは、女性の手を掴んだ。そして、そのまま氷でできた道の上に着地し、改めて彼女の顔を見る。そして、笑って言った。

 

「やっぱり生きてた……れいか」

「お久しぶりです。なお……」

 

 キュアビューティ、青木れいかは昔と変わらない笑顔をなおにみせてくれた。なおは、無意識にれいかの顔をよせて唇を重ねる。れいかは、それに対して抵抗はしなかった。約10秒という長い時間に渡って彼女のふっくらとした唇を独占していた。最後に彼女とキスをしたのは、前の冒険から帰って来た時以来だから、もう1年以上にもなるだろう。しかし、自分が好きになったれいかは何一つ変わらないで自分の事を迎え入れてくれた。だから、なおは彼女のことがいつまでも好きであるのだ。二人は唇を離し、そして氷を再び頂上に向けて伸ばしながら話し始める。

 

「なお、好きな人はできましたか?」

「うん、付き合っている人がいる」

「まぁ、ではもう少し抵抗すればよかったですね。これでは浮気という事になるのでしょうか?」

「大丈夫。女の子同士なんだから、あの人も許してくれる」

「なおがそう言うのなら……いい人を見つけられたんですね」

「うん……それより、れいかはどうしてここに?」

「エヴェレストを昇っていた時、突然目の前に灰色のオーロラが現れて……それに飛び込んだら、ここに来ていました」

「自分から飛び込んだの?」

「はい」

「もう……心配したんだから」

「でも、生きてると信じてくれてました」

「……うん」

 

 だから私は、旅に出ることができたのです。彼女は消息を絶ったわけじゃなかった。ただ、冒険をしに行っただけなのだ。帰る場所を、友達が作ってくれていると信じて、もう帰ってこれないかもしれなかったかもしれない。けど、寂しくなかった。友達が自分の事を待ってくれている。そう思ったから。

 

「れいかちゃん!」

 

 あかねを引っ張り上げようとしていたやよいはなお、そして変身を解いたれいかの姿を見た。やはり、先ほど自分が見たのは変身したれいかだった。なおも助かり、モフルンも自分に声をかけた男性が助けてくれた。あとは、自分があかねを引っ張り上げるだけだ。

 

「そう簡単にはイカせない!」

「ッ!」

 

 だが、スペースイカデビル、そしてその隣にいるメ・ギイガ・ギは待ってくれない。動けない今またあのスミ攻撃を吐かれたら今度こそ命はないかもしれない。その前にあかねを引き上げなければならない。そう思って力を再度入れたやよいだがしかし、結局スミによる攻撃が来ることは二度となかった。

 

「はぁぁぁ!!!」

「!?」

 

 何者かがメ・ギイガ・ギに飛びつき、スミを吐くのを阻止したのだ。

 

「うおりゃぁぁ!!」

 

 男性は立ち上がると、今度はスクィッドオルフェノクをなぐる。何度も、何度も、何度も、そして蹴る、何度も、何度も、何度も、その姿は彼女達には悲しそうに見えた。苦しそうに見えた。自分自身を押し殺して戦っているような、そんな風に見えた。

 

「ゲソ!?小癪な真似を!」

「ッ!」

 

 スペースイカデビルは、触手を伸ばして男性の手首に巻きつける。そこからは力比べだった。男性は巻き付いている触手を掴んで力を入れて引っ張った。スペースイカデビルもまた同じく、力を入れて引っ張る。まさに綱引きのような形だ。互いに一歩も引くことのない膠着状態が続く。それは永遠に続くのかもしれない、そう思えるほどに長かった。

 

「ッ!!」

「ゲソ……」

 

 男性は歯を食いしばって力を入れ直す。イカデビルもまた、さらに力を入れる。男性は、口の中を斬ったのだろうか。唇から赤い血が流れている。それほどまでに彼は力を入れていた。引っ張られないように、引っ張るために、そして……。

 

「おりゃあぁぁぁぁぁ!!!」

「ゲソォ!?」

 

 男性は、最後の力を振り絞ってスペースイカデビルを投げ飛ばした。彼は、力比べに勝ったのだ。だが、その顔には笑顔はなかった。そこにあったのは、ただ空しい背中だけであったのだ。

 

「……」

「五代さん……」

「……」

 

 れいかが五代と呼んだ男性は、ただ彼女の方を向いた。そこにあったのは、笑顔でサムズアップをする顔だった。いつ彼が笑顔になったのか分からない。しかし、確実に言えることが一つだけある。それは、本当は心の中で傷ついているのであろうという事。雪の生なのか、目の奥が涙で濡れているように見えた。彼は、五代雄介は、仮面ライダークウガは、笑顔で、泣いていたのだ。そんなことをしている間に、やよいはあかねを、映司はモフルンを引き上げ終え、そして五代に合流した。本音を言えば彼をこの戦いに巻き込むことに渡は躊躇した。彼にはもう、誰かを殴ってもらいたくない、彼自身の笑顔を失ってもらいたくないから。けど、それでも彼は戦うことを選んだ。何故なら彼は……。

 

「おのれよくも!」

「それはこっちのセリフや!」

「よくもあかねちゃんやなおちゃん、モフルンに酷いことしたわね!」

「あんた達みたいな外道、許しちゃ置けない!」

「外道もまた一つの道。しかし、それを極めさせるわけにはまいりません!」

「この手が届く、世界を守るために!」

「皆に……笑顔でいてもらうために。もう一度、この力を使う……俺は、クウガだから!」

 

 あかね、やよい、なお、れいかはスマイルパクトを、映司はオーズドライバーを持って並び立つ。そして……。

 

 

≪≪≪≪Ready?≫≫≫≫

「変身!」

「…………変身!」

「「「「プリキュア!スマイルチャージ!!」」」」

≪タカ!トラ!バッタ!≫

≪タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!≫

≪≪≪≪go!gogo!let's go≫≫≫≫

≪sunny!≫

≪piece!≫

≪merch!≫

≪beauty!≫




 実は冒険つながりであの戦隊の人を出そうと思ったんですが、今まで飛び入り参戦させた戦隊、仮面ライダーのボリュームがとてつもないことになってきたので整理するために添削した結果没となりました。今後、もしかしたらある仮面ライダー復活のために登場してもらうことになるかもしれませんが、それもかなり後になると思います。
次回→過去と未来を行ったり帰ってきたり

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。