仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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プリキュアの世界chapter80 もしも彼らだったなら

 所詮、人間は怪物の餌にしかならない。物理的な意味でも、心理的な意味でも。

 だが、それは人間が 怪物に力で劣っていたとき、刃向かうための武器をなにも持っていなかった場合の事。

 人は、怪物だって殺すことができる。たとえ、それで自らが化け物と同じようになったとしても、怪物と恐れられたとしても、嫌われ、憎まれても、それでも怪物を殺すための兵器を作り続ける。いや、作り続けなければならない。

 人が人としていきるために。

 

「フッ!」

「ハァッ!」

「クッ!!」

 

 戦場の一角。そこでまた一つの戦いが終わりを告げようとしていた。

 

「おのれ……」

「さぁ、フィナーレだ!」

「あぁ!」

「はい!」

 

 高町なのはを絶望させようとしていたファントム、ケツァルコアトルは激しさを増してきたその戦場のどさくさにまぎれて別の世界に逃げようとしていた。だが、仮面ライダーウィザードフレイムドラゴン、マジレッド、そしてルビースタイルとなったキュアミラクル、キュアマジカルによって逃げ道を防がれ、囲まれる。

 

「こんなところで……」

「マジ・マジ・マジ・マジカ!」

 

 炎の身体を纏い飛んだマジレッドは、飛び上がるとケツアルコアトルスを赤が基調となった魔法陣で拘束する。

 

「「リンクルステッキ!!」」

「モッフー!」

「「ルビー!!」」

 

 二人のプリキュアは、魔法の杖リンクルステッキを呼び出しその中央部に、プリキュアたちに力を与える宝石、リンクルストーンの一つであるルビーが勢いよく嵌った。

 

≪フレイム ドラゴン!≫

≪ボー!ボー!ボーボーボー!!≫

≪ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!≫

≪チョーイイネ!スペシャル サイコー!!≫

 

 ウィザードは、スペシャルウィザードリング指にはめてウィザードドライバーにかざす。すると、炎を纏ったドラゴンがウィザードの後ろの魔法陣から飛び出し、浮かび上がったウィザードに吸収されるように同化し、その胸にドラゴンの顔が出現する。そしてもう一つ指輪をはめてウィザードドライバーにかざした瞬間に、ウィザードは浮かび上がる。そして、数々の罪を犯した罪人に今、審判のときが訪れる。

 

「レッドファイヤー!ミラクルフィニッシュ!!」

「紅の情熱よ!私たちの手に!プリキュア!!ルビー・パッショナーレ!!」

「ハァッ!!」

 

 炎とともにマジレッド、魔法使いプリキュアの三人が突撃し、その後ろからウィザードの胸部に出現したドラゴスカルの火炎放射が襲った。その攻撃がよけれるわけなく、なすすべもなくケツァルコアトルスに直撃した。

 

「ば、馬鹿な、こんなはず……ぐあぁぁぁ!!!」

 

 ケツァルコアトルス、爆散。それまで行っていた悪行にたいしての報いであるかのように、慈悲もなにもなく一人の怪人が滅んだ瞬間である。

 ファントムを貫いた魔法使いプリキュアの二人が、ウィザードの方に振り向いたその瞬間である。

 

「え?」

 

 ケツァルコアトルスの存在していた爆発の中心部、そこから一つの魔方陣が出現した。

 

「なにあれ?」

「あれは魔力だ。ファントムのな」

「ファントムの?」

「あぁ、ここに仁藤がいれば喜んだだろうな」

 

 と、晴人はここにいない仲間の名前を呟いた。彼の言う仁藤とは、ウィザードと同じく魔法の力で変身する仮面ライダービーストの変身者である。仁藤は元々はありふれた考古学を専攻す大学生であったのだが、ある遺跡で偶然見つけたビーストドライバーに封印されていたファントムであるビーストキマイラに仮面ライダービーストに変身できる力を与える代わりにファントムの魔力を喰うという契約を迫られた。その際、周囲をグールに囲まれていた仁藤には、契約する以外に生き残るすべはなかったであろう。こうして、仁藤は仮面ライダービーストに変身するという力を得た代償として、ファントムの魔力を食らい続けなればならなくなってしまった。が、彼自身ビーストキマイラとの関係は良好であり、さらにビーストキマイラもファントムの魔力以外の好物となる果物を見つけてそれを与え続けていることにより当初よりも命の危険を感じることは無いようだ。

 

「この魔力はどうするんだ?」

「大した問題はない。特例もあるが、このまま放っておいてもファントムが復活することは無いはずだ」

 

 この特例というのは、かつて晴人と幾度となく死闘を繰り広げた上級のファントムの一人であるフェニックスのことだ。フェニックスは一度倒されても復活し、それどころか蘇るたびに強くなる特性を持っているまさに名前の由来である怪物と同じく不死身の強敵だった。その敵自体は、晴人のフレイム、ハリケーン、ウォーター、ランドの四つのドラゴンスタイルが合体したオールドラゴンによって太陽送りとなって永遠に死と再生を繰り返すこととなった。一説によればその後地球に戻ってきて東京で歴代仮面ライダーが倒してきた強敵を蘇らせて晴人やフォーゼと戦ったとか、大阪で晴人やキバ、ゴーストと戦ったと言われているがあまり定かではない。

 確かにフェニックスという前例があるものの、あそこまで強力な能力を持ったファントムはそうはいないはず。そう晴人は思っていた。

 

『待っていましたよ、この瞬間を!』

「え?」

 

 そう、確かに晴人の考え通りにケツァルコアトル自体には復活する能力はない。だが、その魔力自体を狙っていた悪霊がいた。

 

「ッ!」

「なに!?」

 

 空中から現れた黒い煙が、ケツアルコアトルの死体から放出した魔法陣の形の魔力を飲み込んだ。その瞬間、嵐のような風が当たりに吹く。ウィザードたちは、眼を守るために腕で顔を防御する。

 次第に嵐が小康状態となっていく。ウィザードは腕を下げてファントムの魔力があったはずの場所を見る。

 

「あれは……」

 

 そこにいたのは人影。シルエットからしてケツアルコアトルではないのは確かだ。槍のようなものを右手に、縦を左手に持った何者かの影。だが、その体からどす黒い悪意のようなものを感じる。一体アレはなんだ。

 

「ククククク……ヒャッハハハハ!!」

「ジョーカー!」

 

 そこにいたのはジョーカー。スマイルプリキュアの敵、そしてこの戦いの中でもなぎさや日向みのりを利用してたくさんの人たちを傷つけたジョーカーだ。しかしジョーカーは悪霊として実体のない姿だったはず。それなのに今のジョーカーは、まるで生身の肉体を持っているかのよう。なぜなのか。

 

「この時を待っていましたよ!あなたたちがこのファントムを倒すこの瞬間を!」

「まさか、ファントムの魔力を吸ったのか!」

「ヒャッハハハ!!それだけではありません!ザケンナーやウザイナーの闇の力、そしてこの戦場で放出されたあまたのプリキュア以外の人間のエネルギー、それを吸い、私は復活したのですよ!」

「クッ!」

 

 その時放出された力は、ジョーカーという一人の怪物が出すには圧倒されるほどの物だった。彼は、この戦場の混乱の中で戦士たちが敵を倒すために出したあらゆるエネルギーを源にしていたのだ。そして最後にはファントムから出た魔力を吸収することによって自らが復活するのに値するエネルギーを確保していたのだ。

 

「それじゃあ、遠藤止に協力していたのも!」

「もちろん、私が復活するため!そしていつの日にかピエーロ様を再びこの世に復活させる!!あのような小物、ただの道化にすぎません!」

 

 まさか、この戦場で起こったこと、いやこの戦場自体がこの男の手のひらに踊らされた結果だったとは。しかし、道化が道化を語ろうなどとは皮肉なものである。

 

「滅びなさい、プリキュア!!」

「ッ!まずい!!」

「避けろ!!」

 

 その刹那、ジョーカーの腹部にある牙を持った怪物のような顔の口が開き、そこから紫色の太い光線が放たれる。地をえぐったその光線は、はるか遠くまで届き、多くの怪人がその巻き添えとして葬りながら一つの山に当たる。

 

「あ、危なかった……」

 

 キュアマジカルは、自分のすぐそばを通った光線が放たれた先をみる。そこには確か山が一つあったはずだ。確かに、かなり大きな山が。だが、今はその山など見えず、遠くに見える青空だけしかない。あの攻撃で山一つが消えたのだ。その攻撃の威力、そしてもし自分たちが当たっていたらということを考えると背筋に戦慄が走った。

 

「この力、厄介だな」

「ウィザード!みんな!」

「ん?」

 

 そこに現れたのは、リ・イマジネーションライダーである仮面ライダー龍騎、仮面ライダー剣、仮面ライダーファイズの三人だ。

 

「ここは俺たちに任せて、いったん下がってくれ」

「あいつは、俺たちが相手をする」

「……わかった、気を付けてくれ」

 

 ケツアルコアトルとの戦いで消耗していた四人は、その言葉を受けて下がる。いや、この戦場において疲れていないもの、全快であるモノなどいはしない。すべての戦士が果て無く続く戦いにつかれていた。だから今できることは、できるだけ連戦させないということ。そうしなければ死人が出る恐れがあった。その場に残ったのは四人だけとなった。

 

「ククク……仲間意識ですか、虫唾が走りますね!」

 

 手を挙げたジョーカーのそれを合図としたかのように二体の怪人がその場に現れた。一体はミラーモンスターマンティストロフィー、そしてもう一体はオルフェノクの王であるアークオルフェノクだ。

 

「そっちも仲間を呼んだじゃないか?」

「仲間?利害が一致しただけの存在を仲間などと」

「言ってもわからないだろう……な!」

 

 その言葉を合図として、三人の仮面ライダー、そして三体の仮面ライダーは走り出し、激突した。

 

「フッ!ハァッ!!」

 

 剣はブレイラウザーを用いジョーカーと戦う。しかし。

 

「どこを見ているのですか?」

「なに!?グアッ!!」

 

 トリッキーなジョーカーの動き、そして素早い動きに翻弄され、剣立カズマは一撃も与えられない。まるで実体のない雲か煙と戦っているかのようだ。四方八方からのその攻撃は、あまりにも凶悪だった。そして彼自身が闇となりその姿が見えなくなる。見えない状態での四方八方からのその攻撃は、あまりにも凶悪、そして共謀であった。

 

「ッ!」

 

 身体を傷つけられた剣は、片ひざをたてて膝まずいた。そして、ブレイラウザ-のカードケースを開き一枚カード、剣に力を与えるラウズカードを取り出し、それをスキャニングしようとする。

 しかし……。

 

「フッ!」

「アッ!!」

 

 ラウズカードを持っていた手に対してジョーカーの攻撃が直撃し、彼の持っていたラウズカードを吹き飛ばした。

 

「そのカードがあなたに力を与えるようですね。しかし、そのような時間を与えるとお思いですか?」

「くッ!」 

 

 仮面ライダー剣の特徴。それが、ラウズカードを使用することによってそのカードに封印されたアンデットの力を使用することができるというもの。逆に言えばラウズカードを使用することができなければ力をなにも使用することのできないという致命的な弱点がある。そのウィークポイントを突かれてしまった。

 また別の場所。工場のような場所でミラーモンスターマンティストロフィーと対峙する龍騎もまた苦戦を強いられていた。

 

「またかっ!」

 

 その時の龍騎はマンティストロフィーの居場所を見失っていた。しかしそれまで一対一で戦っていたはずの彼がどうして敵の位置を見失ってしまったのか。答えはすぐに出現した。

 

「!」

「あッ!」

 

 もう稼働していない工場のあちらこちらにおかれている鏡。恐らくこの廃工場はもとは鏡を生産していたのであろう。そのひとつから突然マンティストロフィーの鎌がブーメランのように回転しながら龍騎を襲ったのである。龍騎は、背中に受けた攻撃に対して反射的に振り返った。

 

「!」

「グッ!」

 

 だがその瞬間、再びその背中に鎌による攻撃を受ける。先程からこの繰り返しだ。鏡のなかに潜んだミラーモンスターは、その世界から現実の世界にいる龍騎に対して鎌を投げていたのだ。

 

「このッ!」

 

 だが、なにもせずにやられているばかりの龍騎でもなかった。龍騎は飛ばされてきた二つの鎌を避けると、そのまま前宙しながら一つの鏡のなかのミラーワールドへと飛び込んだ。

 ミラーワールドの中の工場。そこはすべてが反転した異世界といってもよい場所。仮面ライダーやミラーモンスター以外の普通の人間では生きていくことのできない世界。

 

「うおぉぉぉ!!!」

 

 龍騎は、マンティストロフィーの姿を見つけると、ドラグセイバーを手にして咆哮をあげながら突撃する。マンティストロフィーもまたその龍騎に向かって二本の鎌を振り上げて突撃する。

 

《GUARD VENT》

 

 両者が相対する瞬間、龍騎はカードデッキから一枚のアドベントカードを抜いて左腕のドラグバイザーの中に入れる。

 

「!」

 

 マンティストロフィーの鎌が龍騎めがけて振り下ろされた。だがその瞬間、龍騎の盾であるドラグシールドが両肩に出現し、鎌による攻撃を防いだ。

 

「シヤァッ!!」

 

 龍騎は、がら空きとなったマンティストロフィーの腹部にドラグセイバーを突き立てる。

 

「ハァッ!ハァァッ!」

 

 龍騎はさらにドラグセイバーの連続切りにより、マンティストロフィーが徐々に後ずさりしていく。

 

「ハァッ!」

 

 そして最後に袈裟斬りをするべくドラグセイバーを振り下ろした。

 

「!」

「ぐあっ!」

 

 だが、その刃がマンティストロフィーに届くことはなかった。マンティストロフィーは左手の鎌でドラグセイバーを受け止めると、逆側の右手の鎌で龍騎を切り裂いた。龍騎は、その勢いで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 マンティストロフィーは、ここからが本番だと言わんばかりに、手持ちの鎌を二倍ほどの大きさにし、さらにその背中に半透明の羽を生やした。龍騎は立ち上がり、体制を整えようとした。

 

「っ!うわッ!」

 

 だが、それよりも前に浮かび上がったマンティストロフィーが龍騎に突撃しその身体を宙に浮かす。そのまま二人は勢いを殺さないままに鏡に突撃して現実の世界へと帰還し、コンクリートの壁にめり込むようにぶつかった。

 

「うッ……」

 

 強い、これまで戦ってきた自分の世界の仮面ライダーよりも、戦ってきたミラーモンスターたちよりも遥かに。

 それもそのはず、マンティストロフィーがこの世界で食らった命の数は、彼の世界のミラーモンスターの比ではない。ミラーモンスターは人間やミラーモンスターを補食することによって強くなっていく性質を持っている。そしてもしもそのモンスターと契約した仮面ライダーがいればその仮面ライダーもまた強くなる。この性質を利用して別世界の龍騎の世界において、契約したモンスターに人間を襲わせていた仮面ライダーもいたほどだ。

 先程も言ったとおりマンティストロフィーがこの世界で食らった命は別世界でのミラーモンスターの比ではない。ウィーンでの大量無差別失踪事件の被害者や、遠藤止が目撃者を始末させるために各国でマンティストロフィーに食らわせた人々、何百もの人間を食らったそのミラーモンスターは最強、最悪の力を持つミラーモンスターであるといっても過言ではなかった。

 そして最強、最悪の怪物と戦う者も今ここにいた。

 

「フンッ!」

「うわぁぁ!」

 

 アークオルフェノクの放った光弾はファイズのすぐそばに着弾し、大きな爆発を起こす。その爆風ですらファイズに与えるダメージは大きかった。

 

「くッ……」

 

 強すぎる。いままで戦ってきたどのオルフェノクよりも強大な力だ。このままでは負けてしまうかもしれない。いったいあのオルフェノクはなんだというのだ。

 

「尾上大丈夫か!」

「三原さん……」

 

 倒れているファイズのもとに、仮面ライダーデルタ、三原修二が駆け寄る。デルタは、ファイズに肩を貸して立ち上がらせながら言う。

 

「あれはアークオルフェノク、オルフェノクの王だ」

「オルフェノクの、王?」

「あぁ、そして乾が……俺の世界の仮面ライダーファイズが最後に戦ったオルフェノクだ」

「え?」

 

 アークオルフェノク。それは、三原修二にとっては忘れることのできない強敵の名前だ。オルフェノクとは、一度死んだ人間がごく稀に覚醒する人類の進化形態のことだ。だが、その代償として以前三原が尾上に語ったようにその寿命が短い。だが、そんな短命の宿命を、人間としての姿を捨てることを代償として廃し、永遠の命を与えることができる存在、それがアークオルフェノクであった。三原のいた世界でも一人、アークオルフェノクによって永遠の命を与えられたオルフェノクが存在する。

 乾巧がファイズとして戦っていた世界において、アークオルフェノクは一人の少年の命を生け贄にする形で復活し、その凶悪な力をもって敵味方問わずに恐怖のうずに巻き込んだ。

 最終的には三原と、乾、そしてもう一人の仮面ライダー、木場勇治によって倒すことができたが、その犠牲は小さくなかった。その戦いで木場が犠牲になり、さらにそれまでの戦いの反動によって、乾巧ももうまもなくして死亡した。多くの犠牲のもとに倒すことができたあのアークオルフェノクが再び彼の目の前に現れたのだ。

 

「ふん!」

「危ない!」

 

 二人は、アークオルフェノクの放った光弾を左右に避けた。そして、それぞれ物陰に隠れる。

 

「どうする、どう戦えばいい……」

 

 あのオルフェノクの強さを知っている。だからこそ三原は迷っていた。いったいどう戦えばいいのだろう。もしも乾であれば、木場であれば、そして草加雅人であったならばどうしていただろう。だが彼らはもうこの世にはいない。いま戦えるのは自分、そしていま自分とともにいるファイズは尾上タクミなのだ。アークオルフェノクと戦った経験を持つのは自分一人、ならば自分がまだ経験の浅い尾上を導かなければならない。そんな考えを持っていた。

 

《exceed charge》

「尾上!!」

「はぁぁ!!」

 

 しかし、三原の考えがまとまるよりも前に、尾上が動き出した。円錐の形をしたポインティングマーカーという目標をポイントし、普通のてきであれば動きを止めることのできるポインターがアークオルフェノクに突き刺さった。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

 そして、ファイズが自らが隠れる障害物から飛び出して必殺技であるクリムゾンスマッシュを放つ体制にはいった。

 しかし……。

 

「!」

「ッ!うわぁぁぁ!!」

 

 アークオルフェノクをポイントしてたいポインティングマーカーは、ただ腕を振るうだけで取り払われ、さらに空中にいるファイズに向けて光弾が放たれた。身動きがとれなかったファイズはその攻撃をもろに受け、吹き飛ばされ転がり、壁にぶつかって止まった。そしてその衝撃でベルトが外れて、変身が解除されてしまう。

 

「くっ……」

「尾上!ッ!Fire!」

《Burst Mode》

 

 生身の尾上タクミに向かい、アークオルフェノクが歩を進める。デルタはそのアークオルフェノクの気を逸らそうとデルタムーバーをブラスタ―モードにし、フォトンブラッドの光弾を放つ。それ事態はなんなく払い除けられたものの、なんとかアークオルフェノクの意識を自分の方に向けることに成功したデルタは、最強のオルフェノクと一対一の対決を覚悟して走った。

 

「く、そ……」

 

 一方深刻なのは尾上の方だ。変身が解除されてしまい、一度自分の世界に帰るか、もしくは人工衛星イーグルサットがある世界にいかなければまた変身することができない。だが、この激戦の中でそんな時間があるかどうか分からない。いや、辛うじて変身ができたとしても、あの最強のオルフェノクに対し、どう戦えばいいというのだ。自分の放てる中で一番強力なクリムゾンスマッシュですらも易々と退けるような怪物を相手に自分がどう戦えばいいという。どうすればあの怪物に勝てるというのだ。どうすれば。

 

「ぐあぁっ!」

「ぐ、あぁ!」

 

 その時、自分のすぐそばにさらに二人の仮面ライダーが吹き飛ばされて変身が解除された。

 

「シンジさん、カズマさん」

 

 それは自分と同じ、リ・イマジネーションライダーとされているシンジとカズマだった。二人もまた、それぞれジョーカーとマンティストロフィーとの戦いに破れたのだ。そしてアークオルフェノクに破れた自分も含めたこの三人がその場所に吹き飛ばされたのは、もはや奇跡とっていも過言ではない。

 

「ヒャッ!ハハハハハ!!弱い!実に弱いですね!」

 

 そこに現れたジョーカーは、とても耳にさわる笑い声をあげながらさらに続ける。

 

「所詮あなた方はオリジナルのライダーの代役、つまり偽物である存在が私に勝てるはずないのですよ」

「偽物?違う、僕たちは……」

「違う?何が違うというのですか?借り物の仮面ライダーである分際で、自らが本物であると言うのですか?」

「ッ!」

「遠藤止が言ってましたよ、オリジナルの仮面ライダーのデットコピーであるのが、あなた方であると」

 

 確かにそうかもしれないとカズマは思っていた。渡が言うには、平行世界には自分ににた存在である剣崎一真という人間が仮面ライダー剣として戦っていたそうだ。彼は、自分がどれだけ傷ついても人間のために戦い、そして人ならざるものになってでも大切な仲間の命を守ったと聞く。果たして、自分はそんなことができるだろうか。確かに命をかけて戦ってきた。傷ついても、そのたびに立ち上がり、そして勝ってきた。そう、門矢士が自分の世界にきたときもそうだった。けど、もしも彼が来なかったら自分は勝てていただろうか。あのとき、門矢士がいなかったら今ごろ自分はBOARDからクビになってベルトも奪われたまま仮面ライダーに変身することもできなく、鎌田やハジメ社長の思惑のままにいきる世界で怯えて暮らしていたかもしれない。

 もしも剣崎一真だったら一人でも、鎌田や社長を倒して、世界を救っていたのかも、そう考えることが幾度となくあった。世界を守るために傷つくことをいとわず、仲間のためには自分が異形のものになることもためらわなかった剣崎一真、自分が彼と同じ存在にはなれない。所詮、自分は彼の平行世界の同一人物であり、代役の自分が、勝てるわけない、守れるわけない。

 自分は、自分達は無力だ。


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