仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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プリキュアの世界chapter86 醜

 どこだここは?男、門矢士は闇の中で覚醒した。

 みんなはどこにいる。士はあたりを見渡した。しかし、何も見えない。聞こえない。そして、声も出ない。

 ルイズ!才人!その言葉が響くことはない。

 シャルロット!キュルケ!シエスタ!誰も聞いてくれない。答えてくれない。

 アニエス!アンリエッタ!ティファニア!カトレア!まるで自分一人が世界に取り残されてしまったかのように。

 マナ!シャルル!鳴滝!雪広!桜子!まるで、自分一人が死んでしまったかのように。

 海東!ユウスケ!まるで世界から拒絶され、弾き出されてしまったかのように。

 夏海!!彼の身体はもはやそこには存在していなかった。

 

 未来の門矢士は困惑する。なんだこの状況は。自分たちはあの時、遠藤止を喰らったマンティストロフィーをミラクルライトの力も使って倒し、それで戦いは終わったはず。一体何があった。それになんなのだこの記憶は、次々とあの時の戦いの記憶が書き変わっていくかのように頭の中に浮かんでくる。そう、それはマンティストロフィーを倒してすぐのことだった。

 

「ッ!なんだ、何が起こった……」

 

 門矢士は、闇の中で目覚める。ギンガマンのアースの効果が消えて再び夜となってしまったのだ。

 その内、夜の暗さにも慣れてきてうっすらと周囲の状況が見えてきた。どうやら、周りの仲間たちは無事のようだ。しかし、いささか不可解なことがあった。

 

「変身が解けてる……」

 

 そう自らの変身が解けているのだ。当たり前であるが巨大化も解けてしまっている。

 だが、そのようなこと些細な問題だ。なにより問題だったのはディケイドライバーが失われていることだ。

 例え変身が解けてしまっていてももう一度変身してしまえば済むこと。しかし、その変身アイテムが失われている。

 いったい、自分たちを襲ったものは何だったのだろうか。

 

「士、これは一体……」

「海東……俺にもわからん」

 

 海東大樹が士に話しかける。どうやら海東もまたディエンドライバーを失っているようだ。

 

「ねぇ、私たち勝ったんだよね?」

「えぇ、遠藤止には……」

「だったら何があったの?あの時、私たち……」

 

 マンティストロフィーを倒した瞬間に、一度死んだような感覚を覚えた者が何人もいた。

 自分たちは生きている。当たり前だ。しかし、それが当たり前ではないようなそんな感覚。

 言い知れぬ恐怖が心を蝕もうとしていた。

 響いてきたのは声であった。

 

この世界をリセットする

「誰だ!!」

 

 野太い声。

 どこまでも遠くまで響き、なによりも近くとも消えてしまう、そんな不気味な声が、戦士たちを襲った。

 

新月が凍るよりも速く

夢現を見るよりも遠く

掴もうとすると弾かれて、壊され、砕かれ、抗う者全てを煤塵とする

夢芥など知らぬ

ただそこにあるは従う者のみ

想像力と創造力の暴走

その先にあるものは無である

拒絶することもまた可能

逃げることも可能

だがそれでも現出した

それでも作ってしまった

ならば我が破壊しよう

我は転生神

我は

ハーメルン

 

「ハーメルン?」

 

 緑川なおはその名称に聞き覚えがある。と言うのも、自分が所属していふプロサッカーチームの本拠地があるのがドイツのハーメルンだからだ。だが、恐らくそれはなんの関係もないだろう。

 

「ッ!」

 

 刹那、彼女たちの頭上から星が消えた。

 闇に隠れ見えなくなった。

 やがて闇は渦を巻いて一つの顔を作り上げた。

 男のようにも女のようにも見える。

 老人のようにも子供のようにも見える。

 地球人にも異星人にも見える。

 大きくて小さい。

 小さくて大きい。

 あつかましいほどにぶつかり合う光と闇がやがて交差して。

 また消えていく。

 飲み込んで。

 吐きだして。

 弄んでいる。

 なんだ。

 何者なのだ。

 この恐怖の具現化と言ってもまだあきたらずに、自分たちの心を蝕んでくる負のステレオタイプ。

 舞い降りるは恐怖の大王か、機械仕掛けの神か。

 安定と不安定のアンバランスの先に見えるその巨大な影であり光であり太陽であり月であり天国であり地獄であるその正体は。

 何にでもなれる暴走の化身。

 

「ついに、現れましたね」

「……渡、お前はあれがなんなのか知ってるのか」

 

 士は目の前に現れたはず、しかしぼんやりとしか見ることのできないソレを見た渡の言葉を聞いた。

 

「アレは、この事件の元凶……遠藤止を殺し、能力を与え、この世界に転生させた神とも言える存在……ハーメルンという神です」

「神……だと?」

「はい。転生者となる一般人を殺し、その欲望と孤独を利用して異世界に送り込む神……転生神と呼ばれるものたち。ハーメルンはその一柱です」

そう、我は個、しかし群。我は無、我は有。我は過去、我は明日。我は一日、されど無期。

 

 言葉など発することはない。その頭に直接響かせてくるのだから。

 言葉などという残酷なものを用いる無駄はない。直接心を握りつぶすのだから。

 

我の作った一つの世界、あの者が望んだ理想郷、お前たちはそれを破壊してしまった。

「自分が転生させた男を殺されたからその復讐に来たということか!」

何故そのようなことする必要がある。

「え?」

人生に絶望し、妄想の中に逃げ、現実から目を逸らし、生きたままに死んだ人間など山のようにいる。その山の砂一粒が砕けてもなんともない。

「こいつ……」

 

 ソレは完全なるエゴの鬼神であった。人という存在を自らの所有物とし、それがどうなろうともなんとも思わないような外道。

 

「なら、なんでこの世界に現れた!」

「そうよ!どうでもいいというのならこのまま放っておけばよかったのに」

 

 そう、未来の門矢士達を見逃したように。

 

アレの妄想が現実化した世界。それを取り除かなければ次に作る妄想の世界の邪魔になる。遊び尽くし、面白くなくなった玩具を捨てるのは当たり前であろう。

「え?」

 

 やはりエゴに塗れた発言。しかし、その中に明らかに聞き逃してはならないような言葉があった。

 

「アレって、遠藤止のこと……この世界が、遠藤止の妄想の世界だっていうの?」

フフフ……それはどうかな?

「え?」

何故前世で他人と仲良くする術を持たなかった者が転生した時から友や仲間を作り出せる?何故自身の都合の良い展開になる?何故その世界の人間が転生者のいいように動く?その答えはただ一つ……異世界など存在しない、ただの現代人の妄想の産物だからだ。

「異世界が、存在しない?」

その通り。遠藤止を殺したのは、その他大勢と同じ、人生に絶望し、現実から逃げ、そして面白い欲望を持っていた。そしてこの世界はその遠藤止の欲望に見合った妄想の世界だった。ただそれだけに過ぎない。

 

 異世界という物は存在しない。自分たちが今いるこの世界が別の誰かの作り出した世界。そんな言葉、信じられるはずがない。

 仮に、この世界が遠藤止の理想とした妄想の世界であるのなら、遠藤止がそのようなことを言っているはずだ。自分の妄想なのだから。

 いや、ハーメルンは明確にこの世界が遠藤止の妄想の世界だとは言っていない、ただ現代人の妄想の産物と言っただけだ。

 それにもう一つ大きな問題がある。それは……。

 

「嘘だッ!異世界がないのなら、ここにいる僕たちは一体なんだって言うんだ!」

 

 ハーメルンの言葉に尾上は叫ぶ。そう自分たちはこの世界のプリキュアを助けるために別の世界からやってきたのだ。それなのに異世界がないのだとしたら、自分たちはどこから来て、そしてどこに帰ればいいと言うのだ。

 

嘘ではない。お前たちの住む世界もまた別の人間の妄想が現実となった世界。そこに必ずしも転生者がいるとは限らない。時にはその世界の既存の人物、時には別世界の既存の人物、そして時には自分の願望を人として、世界を蹂躙する機械として送られる人物。それが異世界を勝手に作り、そして塗りつぶす。数多のIFを形とするために、自分勝手な欲望を形作るために。

「どう言うこと?」

「……さぁな」

「既存の人物の世界……数多のIF……転生……TVの中の存在……ッ!」

「こまち?」

 

 秋元こまちは気が付いてしまった。多くの人間が気が付いていないハーメルンの言葉の真意に。

 海東や熊本が遠藤止のアジトに突入した時のほのかのウンチクと、今ハーメルンが語った言葉、そして小説家である自分のそれまでの活動の中で出会った数々のネットの中だけの非公式の、決して明るみに出てはならない物語。

 この世界がもしもその世界であるとするのならば、仮面ライダーや戦隊の世界もそうであるとするのならば、ハーメルンの言葉の意味が分かる。

 だが、信じたくない。この世界が……。

 

「虚構の中の虚構……二次創作の世界……」

 

 だなど。

 

「二次創作?」

「あッ……」

 

 つい言葉にでてしまったようだ。いや、きっとそうなるように仕向けられていたのかもしれない。なぜなら、自分の言葉は自分が考えて発言したものなのではないのだから。きっと、今この話をすることがこの場所での自分の役割なのだろう。

 ならば、あえてその役割を完遂してやろう。

 

「……ほのかさん、あなたは転生物の小説を知っていましたね」

「え?えぇ……」

「では、知っているはずです。二次創作という物を」

「え、えぇ……アニメや漫画を見たファンが妄想した事を小説やゲーム、動画や同人誌にすること……え?それってまさか!」

「そう、この世界もまた……いえ、仮面ライダーや戦隊の皆さんの世界もすべてが二次創作の世界だった……」

「なに?」

その通り。まさか、それを理解できるものがいるとはな……。

「そんな……それじゃ、私たちはTVの中の虚構の、その虚構……実態のない操り人形ってこと?」

「それじゃ、遠藤止も?」

「おそらく……」

 

 なんということだ。自分たちはただTVの中の存在というわけではない。TVの中の存在から派生した妄想の産物だったとは。それもTVの中であればいざ知らず、二次創作という妄想が絡んでくるのであれば、自分たちはその妄想の持ち主の思うがままに操られてしまう。そうか、だからこの世界は妄想の産物であるのか。ほのかたちは、よく考えるとあまりにも絶望的なその答えをすんなりと受け入れてしまっていた。

 海東大樹は言っていた。たとえ自分たちがTVやアニメの中の人間だったとしても今こうして歩いているのは僕たちの人生だと。

 違う。妄想の持ち主が作り出した人生だ。そこに個別性の考えなんてものは存在しない。あるのは、ただ身勝手な独りよがりの、それこそ将棋の駒か何かのようなおもちゃとされている人生だけ。

 逆らうことなんてできない。目を背けることなんてできない。自分たちの命も、結婚相手も、仕事も、これからの人生もまるまるたった一人の人間によって握られてしまっている。

 

「だからって!黙って殺されるわけにはいかない。俺達には、やるべきことがあるんだからな」

 

 そう。自分たちにはやるべきことがあるのだ。たとえそれが作られたものであったとしても。張りぼてであったとしても、あきらめることはできない。なぜなら、それが自分たちにつけられた設定であるのだから。

 

「うん!まだまだ私たちは戦える!行くよメップル!!え?」

「メポ?」

 

 なぎさは、誰もいない虚空に手を伸ばした。もちろん、そこには何もなかった。パートナーの妖精も、相棒も、そして先ほどまですぐ近くで共に戦っていた仲間たちの姿も。

 

「なにが起こった……ッ!」

「みんな、いるの?」

「声は聞こえる……」

「でも、なぎさの姿が見えないメポ!」

「チョッピ!どこなの!……どうして、チョッピの声が……」

「一体、僕達に何を……何をしたハーメルン!」

 

 仲間たちの声だけは聞こえてくる。いや、声すらも聞こえないものまでいる。気配も、感じ取ることができない。なぜだ、一体自分たちに何をしたのか。その質問に対して一瞬の沈黙ののちハーメルンの言葉がまた響く。

 

貴様たちは本来は姿形のない人間。消えてなくなるのが当然だ。

「姿形のない?」

自らの姿を思い浮かべることができるか?自らの友の姿を思い浮かべることができるか?今までの人生を思い返せるものがいるか?

「何言ってやがんだ!そんなの当たり前だろ!!」

 

 モモタロスのその叫びに対して、何人かの人間が同意した。だが……。

 

「ッ!なんだ……どうして……」

「竜さん?」

「そんな、昔の……グロンギと戦っていた時の姿しかわからない……?」

 

 かつて、自分たちが戦っていた時の姿しか思い返せない者が何人かいる。まるで、それ以外の姿がないかのように。

 

「嘘、どうして……」

「大人になった私たちの姿が……」

「でも、未来ちゃんやはるかちゃんの大人になった姿はわかる!」

「えぇ、けどそれ以外のみんなの姿が……あの時の姿しか……」

 

 プリキュア組も、何人かの今の姿は思い出せる。しかし、それ以外となると皆目見当もつかないほどにまったく記憶には存在しなかった。まるで、最初からそのような姿はなかったかのように。もしくは、薄曇りのガラスの向こう側に映っているかのようにうっすらと、そしてぼんやりとしかその人物の絵が見えてこない。

 

当然のこと。お前たちには実像がないのだからな。

「実像……つまり、実際の映像がない……」

そう、写真もない。映像もない。かつて戦った時以降その人物として表れていない。だからその人間としての像は薄れ、そして消えかかっている。そして、なおかつ今のお前たちがいる場は映像でも何でもない『文字』だけの世界。

「文字だけの世界?」

つまり、小説の世界。それも公に認められたわけでもない、勝手に作り、勝手にもてあそび、勝手に止められる。そのような世界の上でお前たちは踊らされているのだ。

「冗談じゃない。誰であろうとも、僕の自由を奪うことは」

奪うのではない。最初からこちらにあっただけの事。すべての主導権は、どのような物語にするかは、どのような結末にするのかは我が決めること。この物語も、最初はハッピーエンドで終わらせるつもりだった。だが、お前たちはやりすぎたのだ。そして長すぎたのだ。結果あるはずがない要素が集まり、あるはずのない戦いが起こった。それどころかそれぞれの言葉も、人格もオリジナルのそれとはかけ離れ始め、そして世界中に怒りが、憎しみが、恨みが蔓延した。このような世界を残すくらいであればこの世界を消し、新たな世界を作る。それが我の望み。それがお前たちの破壊に対する我の答え。

『……』

そうは思わないか?未来の門矢士。

「『なに?』」

 

 その言葉に驚いたのはこの世界の門矢士だけではない。先ほどまでルイズたちと共にこの世界のことを見ていた門矢士である。

 自分のいる位置もあまりよくわかっていないが。どうやら自分はハーメルンのすぐ近くにいる様子だ。

 

「未来の俺……どういうことだ?」

本来であれば遠藤止を倒し、その下僕と化したミラーモンスターが倒されたところで、この世界の戦いは終わり、お前たちはそれぞれの世界へと帰っていく。はずだった。今我のすぐ近くにいる門矢士はその未来の中の一つ。とはいえ、様々な要素が絡み合った結果本来の戦いの歴史とは全く違う戦いとなってしまったがな。

『それが俺の感じていた違和感の正体か……』

 

 自分の記憶とは一致しない戦いと、その戦いに参加した戦士の数々は、その要素が原因となって引き起こされたこと。だが、ここで一つ疑問点が生じる。もしも本当に過去の戦いが変わってしまっているというのなら、今ここにいる自分という存在は何だというのだろう。本当に過去が改変されて島田というのなら未来の自分も存在しないはずだ。それなのに……。いや、今実際に消えかかっている。自分の存在も。自分が歩んできた時間も。すべて。

 

「未来の俺がそこにいるのか……」

そう。そしてお前が出会うはずだったものたちも。しかしそのような歴史、未来などもう必要ない。もう語ることは無い。ここで、お前たちという傀儡を殺すことによってその命を新たな人形へと移し替える。変身する力を奪ってしまえば、お前たちにできることは何もない。

 

 エゴの怪物。自らの感情ですべての世界の行く末を勝手に決めてしまう。そこにはハッピーエンドを迎える喜びも、バッドエンドになってしまった悲しみも存在しない。自分が変えてしまえるからだ。それまでの過程など放り出して、どうとでも変え、そしてその中で生まれる喜怒哀楽の感情すべてを無視する絶対的な神。生死をいかようにでも変え、誰かのハッピーエンドの裏で誰かのバッドエンドが生まれるということを全く考えていない私利私欲に走る神。今目の前にいるのは、そんな人間として大事な誰かをいたわるという感情を捨て去った悲しい神だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつから狂ってしまったのだろう。最初はただ、ハッピーエンドが見たい、未来の彼女たちが見たいと始めたことであったのに、ただ自分のためにと作った世界なのに、途中から多くの期待がプレッシャーとしてのしかかり、その期待に応えなければならないと数多くの不必要な要素を混ぜ合わせることになった。結果、世界のコピをー目指すことになってしまった。でも、そんなことは不可能だった。個人が全てを管理することなんてできない。一度ふくらんだ妄想という風船をしぼませても、たるんだゴムは元には戻らない。崩壊を始める世界。暗く、苦しく、ゴールすらも見えない世界。こんな世界を見て誰が喜んでくれる。こんな世界を見せて何の感情が生まれる。醜い醜い醜い。こんなことを考えているものがいること自体醜い。弱音を吐いてでも、血反吐を吐きながらもそれでも終わらせてはならない。

 憧れを放出する醜さ。

 妄想を垂れ流さなければいけない苦しさ。

 逃げ道を塞がれ、それでも歩かなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

そんな醜さこそが

 

 

 

 

 

 

 

 

二次創作なのだ。

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