『模擬戦中断! 全員回避に専念しろ!!』
「「「「了解!」」」」
箒たちは千冬の指示に従い回避行動をとった。いくつかの攻撃は当たっているものの、それらは集中して放たれるのではなくバラバラに放たれただけのいわば威嚇射撃に似たようなものだったためISの絶対防御を貫通することなく、彼女たちの身体自体は無傷であった。
回避していくこと十数秒、弾が切れたのか地上からの攻撃が収まった。しかし攻撃が放たれたであろう位置には土煙が舞ってそれらの攻撃の主の姿はまだ見えない。
「一体、あの土煙のむこうに誰が……」
「レーダーにはISが接近した形跡なんてなかったけど……」
彼女たちが使用しているISには高性能のレーダーのようなものが備え付けてある。もしも敵が外部から接近してくれば警告アラートがなり彼女たちに知らせてくれるはずだ。それがなかったということは、敵は空からではなく地上から現れたということになるのだが、どちらにしてもどうやってIS学園のセキリュティを潜り抜けて接近したのか。
考えられたのは士や楯無が連れてきた中学生たちだが、彼らは全員二人のすぐそばにいるし、何かしたのであれば楯無がすでに行動に起こしているはずだ。
しかしそれがないということは犯人は士たちではないということか。では一体あの攻撃は。
「こそこそと隠れていないで、早く出てきなさい!」
痺れをきらしたセシリアがレーザーライフルであるスターライトmkⅢを土煙の中に向けて放った。土煙は一瞬にして薙ぎ払われ、爆煙が周囲に舞ったその刹那、煙の中から二つの影が空に飛んだ。そしてその姿をみた誰もが困惑した。
「え?」
「あれは……」
飛び上がったその姿。はじめはISなのかと思った。しかしそのフォルムが全く違っていた。ISはほとんどのそれが箒たちが使用しているもののようにメカメカしいもので、人が機械を纏っている、いや機械を無理やり着させられていると言ってもよい。元々ISが装備している武器は、そこまでのサイズに収まったことが不思議に思えるほどに時代を先取りした兵器群であるため大型になりやすかったのだ。ISを纏ったら全長が1.5~2倍になってしまうのはそのせいである。
それに引き換え、彼女たちの目の前に現れたそれらは、そういったISの常識には程遠いほどにスマートな外見をしていた。それも三体ともに。確かに内二体はISのようにメカメカしい姿をしているのは間違いない。だが、それでもあまりにコンパクトに武器がまとめられている。小さくなっているからその分出力が低いのかもと思ったが、先ほど仕掛けてきた攻撃から考えるとそれはないだろう。残る一体も、武器はどうやら手持ちの銃の身ではあるが、その後ろに生えている羽は、機械的な動きではなく間違いなく鳥の翼のような動きで羽ばたいており、生物的な何かを感じる。あれほどに生き物の特徴をトレースしたかのような動きは、さすがの篠ノ之束博士でも難しいだろう。
一体彼らは何者なのか。彼女たちの疑問が尽きぬ間に、再び攻撃が再開される。
「!!」
「ッ! そんなの!!」
半分をオレンジ色に、半分を銀色に塗装された乱入者は、手持ちの銃をシャルロットに向けてはなった。だがいくら正体不明の敵であったとしてもただのガトリング銃を相手に後れを取るような女性ではない。
シャルロットは、避けならがその手にマシンガンを出現させて所属不明機に向けて放つ。しかし相手もまたそれを難なく避けながらにして弾丸を放った。
シャルロットがまず驚いたのは敵のその動きだ。後ろに付く羽がまるで本物の鳥のように羽ばたいているということもそうだが、その飛び方はあまりにもスムーズで、何ら機械的な動きが見えない。まるで大型の鷹を相手にしているかのようだ。
次いで驚いたのは、敵の放つ弾丸。いくつか、自分の攻撃が敵に当たりそうになるものがあった。だが、それら全てが敵の放つ攻撃によって相殺されて、否こちらの弾丸を破壊しながらも進んできているのだ。なんだこの威力、普通じゃない。そのデザインも同じだ。弾丸が銃口から放たれた瞬間は、確かに普通の長細い弾丸であった。しかし、それが放たれてから数センチ進んだところで弾丸が変化して、オレンジ色の鳥の形となっている。一体どんな原理でそうなっているのか皆目見当もつかない。
全く未知の相手を前にしてシャルロットはどう戦えばいいのか困惑していた。しかし、ただ一つわかっていることがある。この敵の纏っているスーツ、武器は紛れもなくISと違うものだということ。ただ、それだけだ。
「シャルロット!」
「シャルロットさん!!」
箒とセシリアは所属不明機と戦っているシャルロットに加勢するためにスピードを上げる。だが、それは先ほど飛び上がってきたもう一人の所属不明機によって遮られる。箒とセシリアは、現在シャルロットと戦っている方をα目標、現在自分たちに攻撃を仕掛けている方をβ目標、そして地上でラウラとたたかっている者をγ目標と設定し、まずは自分たちに攻撃を仕掛けるβ目標を相手にすることにした。
「そこをどけ!!!!」
箒は雨月、空裂の二振りの刀をとる。β目標の胸から放たれる光弾を斬りながら進むその姿は、流石の最新鋭機といったところか。しかしβ目標はそれに意を返さずに右手のドリルを紅椿に向けて飛ばした。箒は、それを刀同士を組み合わせて×の字にし、その中心部分で受け止める。
(ッ! 重い!)
攻撃を防げたはいいもののその重さを受け止めるために徐々にそのスピードを落としていく箒。刀の強度自体は強いためにその刀身が削れることはないのだが、押し切られるのは時間の問題であろう。箒は、そうはさせるかと言わんばかりにスラスターの出力を上げ、徐々にドリルを押し返していく。
「箒さん!」
セシリアは、そんな箒を援護するために機体名称と同じ武装、ブルーティアーズを飛ばした。先ほど箒の奇襲に対応して飛ばしたものと同じ四枚の羽が様々な動きを交えながらβ目標へと迫る。だが、その動きが余計だった。
β目標がセシリアの姿を一瞥すると、右肩にあった機械が動きだし、ワイヤーに繋がれたフックがセシリアに向かって伸ばされる。
「ッ!」
セシリアは、それを避けれなかった。セシリアは、ブルーティアーズを使用している間はその動きを制御することに思考をとられてしまい動けなくなってしまうという欠点があったのだ。
欠点を補うために付けられた腰部のミサイルを飛ばしてフックに当てるものの、まったくスピードが緩む事ない。
フックがセシリアの身体を掴んだのはそれから数秒後のことであった。結果、セシリアは身動きを封じられてしまう。振り解こうと試してみたが、力強すぎるフックが緩むことはない。
一方β目標は後ろの翼に付けられたスラスターの出力を上げて箒に肉薄した。どうやらそのドリルにもセシリアを拘束したフックと同じようにワイヤーがつけられていたようだ。そして、ドリルを再装着した勢いのまま箒の二振りの剣に全体重を載しかけた。
力負けしないように踏ん張る箒であったが剣の方に意識を集中させていたことが悪手であった。がら空きになった左の脇腹をβ目標の左手の鈍器が容赦なく打ち込まれる。攻撃自体はISのシールドによって箒の身体に当たることはないとはいえ、衝撃はそれ相応に箒の身体を揺さぶる。その瞬間に箒は隙を作ってしまった。
β目標は箒の二振りの剣を押上げ箒の前面が無防備となったところで腹部を蹴りながら勢いよく下降する。それと同時にセシリアもまた敵とワイヤーで繋がれているため地上へと落ちるしかない。箒もまた重力に押しつぶされながら進んでいるために逃れることが劇ず、そのまま地面へと激突した。
(ッ! エネルギーは残り半分! 持つのか……!?)
衝撃による痛みに耐えながらもISに残ったエネルギーを確認する分まだ冷静であろうとする箒。しかしてβ目標は冷酷にも次なる攻撃を仕掛けてくる。
「ッ! はぁぁぁぁ!」
一方唯一飛ばずに地上にいたγ目標と戦っていたラウラは、他の面々とは違って有利に戦いを進めていた。
「このIS、先程から飛ぶそぶりも見せない。まさか、飛ぶことができないのか?」
そう。先程からγ目標は空中にいるラウラに向けて光弾を飛ばすことはあっても空中に飛び上がるということはしていないのだ。事実ラウラの考察は当たっていた。今ラウラが戦っているγ目標は空を飛ぶことができないのである。だから地上から光弾を飛ばすことしかできないのだ。
その光弾自体も威力は確かに申し分ないのだが、いかんせん相手の能力が悪い。何故ならラウラのシュヴァルツェア・レーゲンにはAICが備わっているからである。
AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)とは慣性停止能力を発生させる装置の事だ。慣性、つまり運動の性質の事であるのだがラウラのAICはその慣性を文字通り停止させるのだ。その相手はなにも武装だけじゃない。敵ISに能力を行使すれば敵の動きを止めることもできる。それに加えてラウラはこの四人の中では唯一の軍属のため戦闘力はずば抜けている。これらの能力により、一対一においてラウラは有利に立てているのだ。
そう、その時までは。
「ハッ!!」
油断もしない、隙も見せない、自分にとって有利な位置で戦う。それは、軍属であるラウラからすれば当たり前であり、なおかつ忘れてはない事であった。ただ一つだけ彼女のミスを挙げろと言われれば、それは攻撃の方法を変えてしまったこと。
もしも空中から80口径レールカノンのパンツァー・カノニーアを撃つというその戦法をそのまま続けていたのならば、敵は避けきれなくなってそのまま倒されていたことだろう。しかしラウラは自ら敵に近づきAICで敵を拘束しようとする。
未知の敵に対して攻撃方法を模索していた中の行動、それ自体は良くあること。しかし、問題だったのは敵の攻撃範囲内、つまり地上に降りてきてしまったことだった。
《cast off》
「なに?」
《Change Stag Beetle》
敵がベルトに付けられたクワガタ虫形の装備のツノを操作すると、銀色を主体としたその装甲がパージされ、中から青色を主体としたスーツが出現する。
「くっ! はぁぁぁ!!」
ラウラ、敵からパージされた装甲を紙一重で避けながら接敵を試みる。これはただのISではない。いや、ISでもないのかもしれない。得体の知れない不安がラウラの脳内で警鐘を鳴らす。
だが、拘束さえすれば例え敵がどのような能力を持っていても関係はない。ラウラが接敵を辞めなかったのはそれが理由なのだ。しかし、それがラウラを絶望へと誘う行動だったと気がつくのはすぐの事だった。
「ハァッ!!」
≪Clock Up!≫
「!」
ラウラの手が敵へと延びようとしたその瞬間、聞こえてくるのは電子音声。それと同時に敵の姿が消えうせる。
姿を消したのか。だが、どこに。ラウラが周囲を見渡そうとしたその時であった。
「グアッ!!」
ラウラは背後からの爆発と衝撃に襲われる。敵の攻撃のようだ。ようだと断定しなかったのは、その敵からの攻撃が見えなかったからだ。
「一体……ッ!」
その時、彼女の目の前に半透明の警告を示したディスプレイが出現した。
スラスター、そしてこの機体最大の特徴であるAICが動作不良になったらしい。先ほどの爆発、あれはスラスターとAICがある肩を攻撃されたための物だったのだ。
≪Clock Over≫
「くっ……」
恐らく、今目の前にいる敵の攻撃によって。
ISがこの世界最強の兵器であること。それは揺るぎない事実だ。だが、彼女たちにとって誤算だったのは敵の装備が異世界の技術だったということ。
そしてもう一つ。彼女たちが戦ってきた者たちは良くも悪くも全てがISだったという事だ。
ご都合主義的な物を排除していったものの、ISの性能に対して意志のない仮面ライダーの力でどう戦えばいいのかを思案した結果、こうなりました。若干ラウラの戦闘シーンは無理があるなぁ、と思いながら書いたのですが。