ディエンドがIS学園の地下で楯無と戦闘を行なっていた時とほぼ同時刻のこと。
「むッ……」
「え、織斑先生どちらへ!」
地上で生徒たちの避難誘導を行なっていた千冬が突如として走り出した。その直前に学園の横にある草むらに一度顔を向けたようだが、なにかあったのだろうか。
彼女を引き止める声を聞いた千冬は一度だけ振り返ると。
「すまない、私には少しやることがある! お前たちはそのまま避難を続けてくれ! 山田先生、それから光さん、生徒を頼みます」
「は、はい!」
山田はその言葉に返事を返すだけしかできなかった。その言葉を残し、千冬は校舎の裏へと消えていった。一体何があったのだろう。あの千冬が自分たちを残していくなんて、生徒たちの間に不安がよぎった。だが、その時生徒たちの避難誘導をしていた夏海がいう。
「皆さん! 不安になんてならなくて大丈夫です!」
「その通りです! 織斑先生も私たちなら大丈夫だと考えたから離れることができたんです! このまま行きましょう! 安全な場所まであともう少しです!」
夏海、それと山田のその言葉で落ち着きを取り戻した生徒。そうだ、自分たちが憧れたあの織斑千冬が何の考えなしに離れるわけがない。のっぴきならないわけがあったからこそ離れるしかできなかったのだ。そしてここに残った山田もまた普段はおどおどして少し頼りない感じであるが、IS学園の先生であり、そしてISについてよく知っている先生であることは間違いない。山田先生がいるなら、自分がいなくても大丈夫なのだ。そう信じたからこそ千冬が離れることが出来たというのなら、自分たちが不安にならなくとも大丈夫なのだ。
生徒たちは山田と夏海を、そして千冬を信じて再び歩を進め始めた。彼女たちが安全地帯へと入ったのはそれから間も無くのことであった。
『みなさん! 避難は完了しました!』
「了解! これで心置きなく戦えますわ!」
「あぁ!」
避難が完了した。ならば、これで流れ弾で生徒を傷つける危険も無くなったということだ。
報告を受けたセシリアはマスクドフォームのガタックが決して手が出せない高度にまで到達する。と現時点で残っているブルーティアーズ4枚を展開する。
「ここなら手は出せませんわね! ハァァァッ!!」
セシリアは地上にいるガタックに向けて一斉射撃、ビームの雨嵐がガタックを襲う。
だがガタックは前転を二度、三度と繰り返しながらなんとかその攻撃を避けていく。そしてビームはガタックに当たることなく地面に当たって土煙が舞った。
その時、攻撃がやんだ。エネルギーが切れたのか、それともこの土煙の中で攻撃すると地上にいるラウラに当たる恐れがあったからか。どちらにせよ、これはチャンスとばかりにがたっくは 再びベルトを操作しようとする。
その刹那だった。ガタックの両腕に何か紐のようなものが絡みついたのだ。それだけじゃない。腹部、脚、そして首、次々と何かが絡み付いていく。そのたびにガタックの動きは一つ、また一つと制限されて、ついにその動きが完全に封じられた。
やがて土煙が晴れる。そして、その紐状の物のその先にいたのは黒い機体を纏いし一人の少女だった。
「出力は落ちているが、お前を捕らえるのには十分だ」
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されているワイヤーブレードと呼ばれる六つの鞭。それがガタックを縛り付けていた物の正体であった。先程のガタックの攻撃によって多くの機能を失ったラウラであったが、逆に使う必要のなくなったエネルギー全てをワイヤーブレードへと流用し、セシリアをサポートすることに全力を傾けることにしたのだ。
「やれぇ、セシリアぁ!!」
「えぇ! これで終わりですわ!!」
ラウラがガタックを拘束している間にセシリアは急降下し、地上スレスレでガタックの懐へと滑るように入り込んだ。そして、スターライトmkⅢを腹部に接着させて、その引き金を引いた。
数秒後、ガタックを拘束していたワイヤーブレードが地面へと落ちる。セシリアの最後の攻撃のダメージによりガタックが消滅したのだ。
これでようやく一人目を撃破したことになる。安堵した二人は、エネルギー残量を見る。だが、予想通りそこにエネルギーはほとんど残っていない。これから他の仲間たちを助けにいくことは無理であろう。
「みなさん、あとは頼みます……」
自分たちはなんとか勝つこととができた。しかし、他の仲間たち全員が無事に帰って来ることができるのだろうか。二人は、未だ大空で戦っている仲間たちの姿を見据えた。
「どうやらセシリアとラウラは勝てたようだな!」
「あぁ、俺たちもこれで終わらせる」
セシリアとラウラの二人が勝てたことを確認した二人。次は自分たちの番だと、仮面ライダーバースに向けて飛ぶ。
バースはその姿を見るとブレストキャノンを発射する。
「ッ! そんなもの!」
「フッ!」
二人はそんなこともおかまいなしに攻撃を回避するとバースへと向かい続ける。いくら強大な攻撃であったとしても、直線的な攻撃で、それもかなりバーストの距離があれば避けることは容易かった。これがもし本物の伊達明であったのなら、いや意思のある何者かが操作していたのであればまた別の結果になっていたのかもしれない。しかし、所詮は意思のないただの偽物に過ぎない。心のこもっていない攻撃など士の、そして箒の敵ではなかった。
「はぁぁ!!」
まずは箒がバースの前に出て、二振りの刀を構える。バースはそれを見ると右腕のドリルを構え、箒に向けて右腕をのばした。
だが、そのことはすでにプランに織り込み済みである。
「ッ!」
箒は、身体を空中で突如きりもみ回転させてドリルをスレスレで回避しバースの後ろへと回る。そして、完全に隙ができたバースを相手とするのは、その後ろで急停止していたディケイドフォーゼの方であった。ディケイドは一枚のカードを取り出すとそれをネオディケイドライバーに装填する。
《ATTACK RIDE GATLING》
「ハァァァ!」
すると、ディケイドフォーゼの左足に青色のガトリングが出現する。これは、今ディケイドが変身している仮面ライダーフォーゼがアストロスイッチを使用することによって四肢に装着されるフォーゼモジュールの一つでり、その銃口から無数の弾丸がバースの身体へと放たれる。
「次はこいつだ」
《ATTACK RIDE SCISSORS》
さらにディケイドは一枚のカードを装填。左手にハサミ型の武器、シザースモジュールが出現する。これもまたフォーゼモジュールであり、フォーゼとその仲間たちが所有しているフライドポテト型のロボット、ポテチョキンを起動させるスイッチとしてアストロスイッチが使用されているものだ。
ディケイドは、シザースモジュールで左から右に、右から左にとバースを切り裂く。
一方その後ろにいた箒は、別段何もしていなかったわけじゃない。
「いまだ! 避け!!」
「ッ!」
ディケイドはその言葉を受けて上へと急上昇する。その瞬間であった。紅椿の武器の中でも最も出力、そして威力の高い武装、穿千と呼ばれるクロスボウ型のブラスターライフルが火を噴き、ディケイドと戦うために意識を向けていたバースの背中へと直撃する。
「やったか!」
「いや、まだだ」
しかしバースはまだ倒れていなかった。どうやら、攻撃の照準がややずれてしまい、背部のカッターウィングに当たったものの、本体には直接的なダメージを与えることが出来なかったようだ。
だが、飛行のためにしようしていた機会に致命的なダメージが入ってしまったために、バースは態勢を維持することが出来ずに地上へと徐々に落ちていく。
「フッ……終わりだ」
《FINAL ATTACK RIDE F-F-F-FORZE》
ならばトドメを指せばいいだけ。そういわんばかりに士はネオディケイドライバーに一枚のカード、仮面ライダーフォーゼの必殺技を放つカードを装填した。その瞬間に左の手足にあった二つのモジュールが消え、代わりに右足にドリル型のモジュールが出現する。
「はぁぁ!」
そして、ロケットモジュールから火が噴出しバースに向けてドリルを構えたディケイドが突撃。本物のフォーゼがプリキュアの世界で出したライダーロケットドリルキックである。
バースは何とかその攻撃から逃れようとする者のウィングが機能不全を起こして上手く動くことが出来ない。ならば攻撃を防ぐか。否、自由に動くことが出来ないが故にディケイドのいる空を見ることすらもできなかった。
バースはなすすべもなくディケイドフォーゼの攻撃を背中で受け、もろとも地面へと直進していく。
そして暫くした後バースとディケイドは地面へと激突。その衝撃で舞った土煙がやんだころ、そこにいたのはただクレーターの中にいるマゼンタ色の仮面ライダーのみであった。
「残るはあいつだけか」
「よし、他の皆は勝てたみたいだな!」
「それじゃ、あとは僕たちだね!」
「あぁ! いっくぜぇぇぇ!!!」
シャルと一言二言会話を交えた後、一夏は白式の唯一の武器雪片弐型を持ちビルドへと突撃する。
「はぁぁぁぁ!!!」
ビルドのホークガトリングを上手く避けながら接敵した一夏はすれ違いざまに一度、戻るときにもう一度ビルドの身体を切る。背中を向けた一夏に対してビルドはホークガトリングの引き金にその指をかけた。
しかし、その銃口から弾丸が放たれることは無かった。
「させないよ!」
シャルロットが、無防備になる一夏を守るように重機関銃デザート・フォックスを構えた。銃口から放たれる弾丸は、ビルドの身体を捉え、その動きを封じるには十二分の働きをしてくれた。
一夏は、何の策もなしに突撃したわけじゃない。突撃した結果それを回避されても、攻撃した後でも隙が出来てしまうのは分かっていたこと。だが、シャルロットという仲間がその隙を補ってくれるということを知っていたのだ。それは、彼とシャルロット、いやシャルロットだけではない。他の少女たちにも言えることだった。
一夏は信用していたのだ。自分の仲間たちのことを。仲間たちならば互いの欠点を補い、互いに助け合うことが出来ると。だからこそ、彼は少々無茶で無謀であったとしても敵に対して突撃を繰り返すことが出来るのだ。
「今だよ! 一夏!」
「応! これでぇ!!」
ビルドがシャルロットの攻撃によって真っ逆さまに落ちようとする瞬間、一夏の雪片弐型は変形しエネルギーの刃が出現した。
これは白式の単一仕様能力、零落白夜である。相手のエネルギーシールドを切り裂き直接操縦者にもダメージを与えることのできる対IS兵装とも呼ばれる武装であり、競技用の兵器であるISに対しては最も有効であり、危険な武器である。ただ一つの欠点を除きさえすればISの武装の中でも最強の部類に入る武器であるのだ。
「終わりだぁぁぁ!!!」
一夏は再び零落白夜を構えてビルドへと突撃する。これでビルドを切り裂いて一気に勝負を決めてしまおうと考えたのだ。
だが、そのエネルギーの刃がビルドの身体を捉えようとした瞬間。天地が逆転したままのビルドが反転して一夏に向けてホークガトリングを構えたのだ。
「ッ!」
撃たれる。そう直感した一夏は瞬時に動きを止める。しかしそれがミスであった。
ビルドはオーバーヘッドキックのように身体を縦に回転させ、故意か必然か、足が零落白夜に当たりその手を離してしまう。
「しまった! ッ!!」
一夏は、落ちていく零落白夜を拾わんと地面へと向かう。ビルドはその一夏の後をホークガトリングを撃ちながら追う。
後ろを見る余裕もない一夏はなんとか避けようとするも当然ながらいくつも当たってしまう。エネルギーシールドのおかげで肉体へのダメージはない物の、このままでは零落白夜を掴む前に倒される恐れがある。
「一夏! ッ!!」
シャルロットは一夏を助けようと再び銃を構えた。しかし上から下に急降下しているビルドを捉えるのは難しく、さらに下手に撃ちすぎると一夏に当たる恐れがあった。そうなれば、敵の手助けになりかねない。シャルロットは横からの攻撃に切り替えるべくその場から地面へと急転直下して二人の後を追う。
一方地上まであと少しとなった一夏は、必死に唯一の武器をその手にしようと手を伸ばしていた。だが、どうしてもそのあと少しが届かない。
「くそ! あと、もう少しなのにッ!! 届け……届いてくれッ!!」
『殺さないで……』
「ッ!」
シャルロットの、いや他の仲間たちの目にも分かった。一夏が空中でバランスを崩したのを。
なんだ、今の映像は。手を伸ばした瞬間、一夏の脳裏に映ったのは、化け物に向けて手を伸ばしている瞬間だった。まさか、あれは自分の……。
「一夏! 危ない!」
「ッ、あっ!」
シャルロットの声で我にかえった一夏。気が付けばグラウンドがもう間近にまで迫っていた。、
なんとか寸でのところで急停止できた一夏であったが、あともう少しで自滅するところであった。このような戦いの場において油断や他のことに気を取られるなどは禁物。そう考えながら戦っていたというのにいざこういうときに限って不測の事態が起こるもの。先ほどのフラッシュバックがそれだ。
恐らく、あれは自分が二年前に何者かに誘拐された時の記憶なのだろうが、果たしてそれは本物の記憶なのか、それとも自分の想像力が生み出した幻想なのか。どちらとも見当がつかない。
いや、そんなことを考えている暇はない。一夏は、地面に落ちている零落白夜を拾う。その瞬間、上空からのビルドの攻撃が一夏の周囲の地面を削った。
一夏はそれから避けるために地面と平行になって飛んだ。
「今度こそッ!」
そして急速反転し、今度こそビルドを仕留めようと超スピードをもって突撃する。
ホークガトリングの弾丸がいくつもシールドに当たってはいるもののやはりお構いなし。要は倒してしまえばいい。この斬撃を当てさえすればいい。そうすればこっちの勝利なのだから。
「てやぁぁぁぁぁ!!!」
一夏は雄叫びを上げながら零落白夜の先端を空に掲げる。これで終わりだ。そう心の底から叫ぼうとしたその時だった。
「え?」
零落白夜が突如として元の雪片弐型へと戻ってしまう。まさかと思った一夏の目の前にディスプレイが出現する。そこには、白式のエネルギー残量が空であると示す表示がなされていた。
「しまった、エネルギーが!」
これが零落白夜の最大の欠点である。確かに零落白夜には相手のエネルギーシールドを切り裂く力があり、相手のエネルギーを奪う力がある。しかしそのためには逆に白式エネルギーを大幅に消耗する必要があるのだ。
そのため、これまでの戦闘でも一夏は何度も零落白夜の使用によるエネルギー切れで負けたり、戦線を離脱したりと言ったことが多くあったのだ。
今回もまた、最後にこの戦線に加わったためエネルギーには余裕があったはずなのだが、エネルギー残量の事など眼中にない戦い方をし、さらに今までに受けたことのなかった未知の武装によってISのエネルギーシールドにも負荷がかかったためにいつも以上にエネルギーの消耗が激しかったのだ。
今はまだISも展開できるほどのエネルギーが残っているが、いずれはISも展開できなくなってしまうであろう。その前にこの戦線を離脱しなければ、こっちの命が危険にさらされる。そう、あの時のように……。
「あの時? あの時って、一体……ッ!」
まただ、また自分の頭の中に何かが映り込んできた。今度は拳銃を向けられる自分だ。一体何なのだ。先ほどからのこの映像は。こんなこと今まで一度たりともなかったことだ。それが、一体、どうして……。
だが、そんなことを考えていられるほど余裕なんてなかった。ビルドが再びホークガトリングを一夏に向けて構えたのだ。エネルギーがほとんど枯渇した今、先ほどまでのように避けることなんてできない。だが、逃げなければただ蹂躙されて終わりだ。何とかしなければ。けど、どうやって。一夏は思考を巡らせるのだが、答えなんてものは見つからない。敵は待っていてくれないというのに。
ビルドがホークガトリングの引き金を引こうとする。だが、それでも一夏の身体は動かない。彼の目には、ビルドの様子がまるでスローモーションの映像かのように見える。極限状態になるとこのように周囲の映像がスローになると聞いたことがあるのだが、実際に体験してみるとそれはただ死という物の恐怖から逃れようとする人間の本能なのだと分かる。
動け、動かない。避けろ、避けない。頭と身体が別個の生物となってしまったかのように身体が言う事を聞いてくれない。そうこうしている間にも、自分の命が風前の灯火であるというのに。
「ッ!!」
動け、動いてくれ。じゃないと、守れないじゃないか。また自分は、いや自分たちは守れないのか。誰も、何も、あの少年の命さえも……。
その時、彼は自分の中にもう一つの存在があるかのように感じた。
「一夏!!」
「ッ! シャルッ!!」
刹那。ホークガトリングの引き金が完全に引かれようとしたその時、シャルロットがビルドに向け突貫する。ビルドはとっさにシャルロットのほうに身体を向けるが、シャルロットの方が一歩早かった。
ビルドの身体はシャルロットに抱き着かれたまま一緒くたに地面へと激突する。
起き上がろうとするビルドはしかし、胸の上に置かれた何かによってその動きを阻害される。
「はぁ、はぁ、はぁ……これで、終わりッ!!」
それは、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのシールドの裏に隠されていた秘密兵器。灰色の鱗殻、グレー・スケールと呼ばれる兵装。69口径パイルバンカーである。その先端は鋭くなっており、リボルバー機構によって打ち出すことによって連続した打撃を可能としており、その威力は第2世代ISでは最高クラスとなっている。
その絶大なる威力と凶悪性から、付けられた通称が楯殺し。そんなシャルロットのとっておきの切り札が、今その火蓋を切る。
「ハァァァァァァァ!!!」
轟音と衝撃が周囲に響き渡る。一発一発の打撃が重く、痛く、そして鋭くビルドの身体に幾度も突き刺さる。
相手が意識のある人間であればすでに息絶えているほどの攻撃。しかし、シャルロットは相手が意志のない怪物であることから考えて何度も、何度も、それこそオーバーであるとも自分でも思うほどに撃ち貫いていく。
そして、ついに最後の一発が放たれた。一夏に、そして周囲で見守っていた仲間たちの間に異様な緊張感が走る。一瞬だけだった。しかし、まるで時が止まったかのような。そんな状態が数秒続いた後、バンカーが身体を貫通したビルドの身体は跡形もなく消え去った。
地面に突き刺さったバンカーを右に左にと動かしながら抜いたシャルロットは、ISを解除し、ゆっくりと尻餅をつくかのように倒れこむ。
「はぁ、これで……終わったんだよね?」
「あぁ、あいつがもう一度仮面ライダーを召喚しなかったらな」
そういいながら士もまた変身を解き、箒たち専用機持ちもISの展開を解除する。その様子を見て、一夏もまたISを解除しようとしたその時だった。ユウスケと共に量産型ISの下に向かった楯無から通信が入る。
『ハロ~、こちら楯無。賊は逃げたみたいよ』
「楯無さん。よかった、無事で……」
『士、やっぱり犯人は海東だった。暮桜っていう専用機を狙ってたらしいんだけど、ここにはなかったらしい』
楯無の画面にユウスケもまた入り込んできた。どうやらこの通信はテレビ電話と同じ仕組みをしているようだ。
「ほう、奴にしては珍しいことだな。それで、海東は今そこにいるのか?」
『いや、あいつに時間を止められて……気が付いたらもう海東の姿がどこにもなかったんだ』
「なに? 何も盗らずにか?」
『えぇ、私のミステリアス・レイディも、量産型のISも、一つも手出しされていないわ』
気が付いたらどこにもいなかった。つまり逃げたということか。あの海東大樹が、時間停止という禁じ手を使ってもなお盗みを働かなかった。どういうことだ。
時間を停止させられたということは、恐らく使ったのはあのジオウの世界で奴が手にいれた時間停止能力を使ったのはすぐに断定することが出来る。ならば、考えられるのはユウスケと楯無の時間が停止している間に何者かが海東を撃退したということ。
だが、ディエンドの利点である召喚能力を封じているとはいえども十分すぎるほど強いディエンドを倒せる者がこの世界にいるのだろうか。心当たりがあるとすれば彼女であるが、彼女は夏海やあやか太刀と共に他の生徒たちを逃がすために誘導しているはず。
何者なのだろう。あの、海東大樹を簡単に退けさせた者とは。味方であればいいのであるが。
「やっぱ……このままじゃ、クソッ!!」
人の気配を察した男は、すぐさまその場から離れる。果たして、その後に来る女性はその場で見渡したものの、終ぞ彼の姿を見つけることはできなかった。