「平行世界を旅している……か」
「あぁ、俺たちはこの世界にただ通りすがっただけだ」
士が千冬と話しているのは、IS学園の学食の端っこのほうにあるテーブルである。
あの襲撃事件の後処理を他の先生たちに任せ、千冬は士に事情聴取していた。この世界にとってあれだけ未知の力を見せつけてしまったのだから、当然と言えば当然だろう。
当初、士は自分たちの話など到底信じてもらえないだろうと思っていた。だが千冬は荒唐無稽ともいえるような士の話を全て信じた。理由としては、この世界において最も優れた兵器であるISと同等、いやそれ以上の力を持った仮面ライダーの存在があったからだそうだ。
若干あまりにも簡単に信じすぎていることに疑問を感じはする者の、話が分かる人間であると今は認識しておく。
とにかく、当然であるがあの後授業は中断。一夏たちは骨や内臓に異常がないか調べるために保健室へと、専用機もまた未知の兵器と戦ったことが原因で様々なところで異変が起こってしまっていたためメンテナンス行きとなった。と言ってもそれほど大掛かりではない簡単な物であるため半日もかからずに戻ってくるそうだが。
「それで、今回の襲撃事件でIS学園に何か動きはあるのか?」
「海東大樹……と言ったか。学園中にある監視カメラも使って徹底的に探し回ったが、いまだ奴の居所はつかめない」
「当然だな」
奴には自分と同じ場所を移動できるオーロラがある。あれを使えば国どころか異世界に行くことだって可能だ。それを使って逃げられてしまえば、例え世界一優秀なIS乗りであったとしても追うことは不可能。
だが、あの男がそんな簡単にあきらめるとは思えない。今もきっとどこかで次の襲撃のタイミングを狙っているに違いない。なにせ、この場所はお宝の山があり、ついでに士までもいるのだから。
「目下のところ、しばらく全学年の授業はストップ。外部から警備のための人員も呼びガードを固める。特に、彼が狙っているであろう専用機持ちには常に二人もしくは三人で動くように通達を出した」
「こっちも、俺の教え子を警戒に回してある。まだまだガキであるのは変わらないが、ほんの少しでも役に……」
「「笑いのツボ!!」」
「アッハハハハハッハッハッ!!」
士が自慢げに千冬に話そうとした瞬間。いつもの首筋に二つの小さな親指が突き刺さった。まぁ、彼女たちであろう。
「レディーに向かってガキ呼ばわりは失礼です士先生!」
「です!」
「お、お前たちッ! 警備はどうした!?」
「その警備対象の俺たちがここにきているんだから、大丈夫だよ」
「と言っても、今は専用機もメンテナンスに出しているから私たちを襲う理由なんてないのだがな」
と言う箒の後ろには、一夏も含めて先ほどの戦闘に出ていたIS乗りの姿が見える。中には見知らぬ少女たちもいるのだが。
「ん? さっきの授業にはいなかった奴もいるな?」
「あぁ、彼女たちは私のクラスとはまた別のクラスの専用機もちだ。二人とも、自己紹介を」
「私は凰鈴音。一夏たちの隣のクラスの1年2組のクラス代表よ」
「わ、私は簪です。あの、お姉ちゃんを助けてくれて、ありがとうございます!」
「クラス代表? それに姉?」
「あぁ、クラス代表というのは……簡単に言えば学級院長のようだものだ。それと、簪は更識楯無の妹だ」
「ほぅ……」
あの楯無の妹だったか。と、行ってもかなり雰囲気に違いがあるが。姉の方はかなり頼りになる姉御肌の人間であるという印象だが、今目の前にいるこの簪はどちらかというと小動物的な何かの印象がある。とはいえ、髪の色合いから見て姉妹であるとみて間違いないのであろう。
因みに楯無はこの学園の生徒会長として、警備増強の陣頭指揮を行っているためこの場所にはいない。
「まぁ、俺にかかればこんなもの容易い事だ」
「何言ってんだよ士。箒ちゃんたちと違って、楯無さんは俺たちが手を出さなくても海東と互角以上に戦っていたじゃないか」
「手を出さなくてもか……お前、相変わらず変身しなかったんだな」
「相変わらずって、最近は俺だって変身して戦ってるだろ?」
士は皮肉たっぷりに言ったがユウスケの言うことも二重の意味でもっともだ。
結局のところ楯無は海東が他の仮面ライダーを召喚できないというハンデを背負っていたとしても終始互角、いや常に優勢で戦いを繰り広げていたし、もしも海東が時間停止という反則的な技を持っていなかったら勝っていたのは間違いなく楯無であっただろう。
それにユウスケの変身に関しても、確かにネギまの世界以前、仮面ライダーの世界を回っていた時には例え肝心な時でさえも変身するタイミングを見事に逃していたり、変身した方がいい場面でもなぜが変身しなかったりとなかなか見せばに友しかった。しかしネギまの世界以降はそれまでの鬱憤を晴らすかのように毎回変身し、それなりの活躍を見せているのだ。それなのになかなか変身しないと言われてしまうのは心外だ。
「まぁまぁ二人とも落ち着いてよ。ねぇ一夏君。この学食ってオススメのメニューってあるの? 私お腹すいちゃって」
「あ、僕たちもです!」
「です!」
「あぁ、ついてきてくれ。結構うまいんだぜここの学食」
「わぁ! 楽しみ!」
と、言うことで一夏と桜子、鳴滝姉妹に箒たち専用機持ち集団は券売機の方に向かい、その場には先ほどと同じように士と千冬。それから夏海とユウスケ、あやかとラウラの四人が残っていた。
「私と同じで、随分とにぎやかな教え子を持っているようだな」
「あぁ、と言っても俺は預かっているだけだ。こいつらには本来の担任がいる」
「えぇ、まだ幼いですが、しかしとても頼りになる先生が」
「フッ、そういってもらえるとその先生も鼻が高いだろうな。いつか、私もあってみたい」
「きっと驚くと思いますよ」
主に外見と年齢的な意味で。と、あやかは千冬に聞こえないように小声で付け加える。
「驚く……か」
と、ここで千冬は綾香に向けていた微笑みをとめ、若干うつむき加減になる。一体どうしたのだろうか。
「そういえば士、先ほどの話からすると君が記憶喪失だったのは昔で、今はもう記憶は戻っているんだったな」
そういえば、自分は彼女に記憶喪失だと偽ってこの学園の調査をしていたんだった。だが、どうして今その話を藪から棒にするというのか。
「あぁ、それがどうした?」
「すまない。こんなことを聞くのは酷かもしれないが……記憶が戻った時、どうだった?」
「なに?」
「いや、質問があまりにアバウトだったな。自分の記憶が戻った時、どんな感情が沸いた? 怒りか、憎しみか、悲しみか……驚きか……」
「……」
「士君……」
自分の記憶が戻った時。か。
「何もないな」
「なに?」
「元々の自分の使命というやつを思い出しただけだ。だからその時の俺はその使命を全うするために戦った。仮面ライダーの敵の親玉として、な……。そこに怒りや憎しみなんて物はない。なぜなら、それが元々の自分だったからだ」
「……」
あの時、自分の中には何もなかった。記憶はなかったが自分の家や妹とも再び出会うことが出来た。そして、自分のいた世界に帰ることが出来た。
目標が達成された時の虚しさ程、心に闇がともることは無い。目標が達成されて、自分がどう生きるべきなのか。何を目指すべきなのか。自分という物は目標という立った二文字の単語のために生かされていたのだと。そう思わなければならないほどに夢を叶えた人間に待っている世界は空白だった。
だからなのだろう。ふとした瞬間に自分の中に戻ってきたかつての使命だけが生きがいとなった。何もなかった自分が、再び目標を示されたような感じがした。
だから、自分はその使命を突き進んだ。例えそれが、人間から夢を奪うようなことであったとしても。
「だが、今となってはそんな使命よりももっと大事な物を見つけた。だから、もう記憶があったころの人生なんてものに未練はない。今の俺は、この旅の中で見つけた俺だからな」
「……強いな。あなたは。アイツも、あなたのように強ければ……いいのだが」
「アイツ?」
「一夏のことだ。アイツは、四年前より以前の記憶を失っている」
「え、そうなんですか?」
「あぁ……」
それから、千冬は話し始めた。そもそもの始まりは、二年前の第二回モンド・グロッソだった。
知っての通り、織斑千冬は第一回モンド・グロッソの優勝者。さらに公式戦無配というまさに伝説クラスの人物であった。そのため、第二回モンド・グロッソでは優勝候補筆頭。いや、ほぼ優勝間違いなしと言われていたほどで、合法的なISの賭博、トトカルチョでも千冬の人気はダントツで、順位二位となっていた選手でも10倍のオッズがつけられていたほどだ。だが、そのトトカルチョが元凶だった。
第二回モンド・グロッソ当日。姉の応援のために会場に向かていた織斑一夏が誘拐されたのだ。
犯人はマフィアの下っ端だった。どうやら組織での軍資金を稼ぐためにトトカルチョで二位の選手に莫大なる金をかけていたらしく、優勝候補筆頭の千冬の弟である一夏を誘拐、彼の解放と千冬のモンド・グロッソの出場辞退を交換条件として日本政府に要求を突き付けたらしい。
だが、モンド・グロッソはこの男尊女卑の世界において 最も権威のある世界大会としてすでに国家の威信をかけた大会となっていた。国家の威信とたった一人の人間の命。日本という国がどういう判断を下すのかは、聞いていた士やあやかたちも想像することは容易かった。
日本政府は誘拐犯の要求を飲まず、千冬は大会の出場。挙句の果てに、千冬には一夏が事件に巻き込まれたことを伝えなかったのだ。結果、織斑千冬はなんなく第二回モンド・グロッソ優勝となった。
一方の一夏はというと、通信を傍受したドイツ軍の精鋭が監禁場所を特定し、犯人三人の内二名を逮捕、一名が死亡という形で救出された。
だが、一夏は要求を飲まなかった報復として暴行を受けていたらしく、知らせを受けて大急ぎで駆け付けた千冬が彼に再会したとき、千冬のことも、ISという兵器のことも、自分のことも何も覚えていなかった。
その後の日本を待っていたのは世界中からのバッシングだった。自分たちの名誉のために一人の国民を見殺しにしようとしたことは自国民のみならずすべてのIS保有、非保有国問わずで非難され、千冬はこんな国のためにISに乗りたくないとIS競技からの引退を発表し、一夏の救助に手を挙げてくれたドイツ軍の教官として赴任した。
この千冬の引退が最後の決め手となり、当時の内閣は総辞任。当時はまだ一対九の割合であった男性議員も、その後の総選挙よりそのほとんどが姿を消した。
この事件は日本の歴史において男尊女卑という日本古来からの風習の最大の転換期としてたった二年前の出来事にも関わらず歴史の教科書に載るほど、日本人にとって印象的な出来事であった。
「そしてドイツで一年間教官として付いた後、私はIS学園の教師として赴任した。というわけだ」
「なるほど、大体分かった」
「でもひどいです。名誉のために一人の男の子を犠牲にしようとするなんて……」
「まぁ、こういう時に犠牲になるのはいつも子供だからな」
「全くだ。だからこそ、このIS学園の存在意義があるともいえるのだがな」
「……」
不幸中の幸いだったのは、一夏がすべての記憶と一緒に、誘拐され、暴行を受けていた時の記憶もまた忘れていたことだろう。
と、ここでユウスケが疑問に思っていたことをふと口にする。
「千冬先生。一つ思ったことがあるんですけれど……」
「なんだ?」
「どうして、女尊男卑なんかになったんですか?」
「ん?」
「それは、ISが女性にしか扱えないからではないのですか?」
「それはそうなんだけど……確か、ISが初めて日の目を見たのって、10年前の白騎士事件だったんですよね?」
「……あぁ、そうだ」
白騎士事件それは10年前に起きたテロ事件の通称である。
ISの開発者篠ノ之束によってISの存在が発表された1か月後。当時はまだISという存在はただの宇宙探索用の機械としてあまり注目はされていなかった。
そんなある日、日本を射程距離内とするミサイルの配備された全ての軍事基地のコンピューターが一斉にハッキングされ、2341発以上という途方もない数のミサイルが日本へと向けて発射された。
当時の日本の軍事力ではある程度までは撃ち落すことはできるものの、およそ半数のミサイルが日本に着弾、多くの被害が出ることは予想された。
しかし、そんなミサイルの残った半数を『白騎士』と呼ばれるISが撃破。そのう上、その白騎士を捕獲若しくは撃破しようとした各国の最新鋭軍事兵器の大半を、一人の死者もなしというおまけ付きで無力化し、ISという兵器の脅威的な戦闘能力に関心が集まった事件。それが、白騎士事件である。
この白騎士事件を境とし、ISの価値は上昇し、ただのおかしな開発者であった束はたちまち世界を代表する天才科学者という本人にとってはうれしくはない称号をもらった。
そして、世界は男女の社会的な立場が完全に逆転し、女尊男卑。つまり世の中は全て女性の地位の方が上であり、男性はすべて下だという考えになったのだ。
「でも、日本の男尊女卑の歴史は2000年以上。それが、ISっていう兵器が出ただけでそんな簡単に変わるものなのかな?」
「俺も同感だ。大体、コアはたったの467個。しかも兵器としての流用は公には禁止されていて、たかだか一競技のための兵器としてなっている。これで簡単に男女の立場が逆転するのか?」
ユウスケと士の意見も一理ある。
このISができたから女尊男卑になった。という理屈は少々苦しいものがあるのだ。
士の言う通りいくらISという兵器が優秀であったとしても、その機体数が467と決まっており、さらに軍事兵器としての運用もできないのならば、いくら兵器として優秀であったとしてもそれは女性の権利上昇にはあまり関係のないはず。
さらに言うと、世界は軍事国家だけじゃないのだ。ISとは全く関係のない会社や企業が大量にあって、そのほとんどがそれまで男性主導でやってきていたもの。それがISなんて物ができたから女性にすべてを明け渡します。なんて野心も向上心もプライドのない会社ばかりだったらとっくの昔にすべての会社がつぶれていてもおかしくはない。
世界はそんな簡単ではないのだ。
それなのに、この世界では男女平等を飛び越えて女尊男卑という少々行き過ぎともいえる状況になっている。それも、たった10年という短い間に。
「確かにな。君たちの疑問はもっともだ。私自身も、こんな世の中になるなど思わなかった。だがな……私は、一つだけ持論を持っている」
「持論、ですか?」
「あぁ……それは……」
「千冬姉!」
「ん?」
その時、昼食を買いに行っていた一夏たちが帰ってきた。
一夏は、千冬の隣に座ると聞く。
「何かあったのか? なんだか雰囲気が重いけど……」
「いや、なんでもない」
千冬は、フッと笑いそう言った。
「ん? また人数が増えてないか?」
「え?」
「あはは、ばれちゃった。どうも、新聞部です!」
「新聞部?」
「はい。IS学園整備科の黛薫子です!」
IS学園には当然のことながら他の普通の学校のように部活動という物がある。テニス部やラクロス部、料理部、それに茶道部と多種にわたり、彼女は新聞部の副部長を務めている。
「今回の襲撃事件、ISと同等の力を持つ仮面ライダーっていうのにみんな興味あるのよ。と、言うことでインタビューお願いします!」
「フッ、いいだろう。あぁ、それからカメラはもう少し角度をつけて」
「士君!」
と、偉そうな態度をとる士に向け、夏海は親指を見せつけた。
「おい、それだけはやめろ。俺を笑い死にさせるつもりか?」
これまでの二回、それも複数人による同時攻撃を味わっている。これ以上やられても御免だ。
「ねぇねぇ、仮面ライダーに変身してみせてよ! みんな仮面ライダーが変身した姿を見たいって言ってるのよ」
「ふっ、悪いがそれは無理だ」
「え?」
そういうと、士は立ち上がって黛の方をじっと見て言う。
「力は大切な時に使うもんだ。分かったか?」
「は、はい……」
意外なことを士が言うものだな。と、ユウスケは思っていた。士の性格からいって変身はしない物だとは分かっていた物の、まさかそのアフターケアまで行うとは。やはり、あのプリキュアの世界での出来事は少なからず士に影響を与えていたということか。
とはいえ、前回のゼロの使い魔の世界においてルイズを元気づけるためとはいえ不必要な場所で変身をしたのはどうなのかという疑問もわくのだがそれはそれである。
「だがそうだな……おい、千冬」
「なんだ?」
「この後の授業は中止……だったな?」
「あぁ、そうだが?」
「なら、いいエキシビションを提供してやる。専用機持ちのいい練習にもなって、新聞映えする……一石二鳥のな」
「エキシビション?」
その後、士の話を聞いた一同、IS組は千冬とラウラといったごく少数を除いて驚愕し、夏海、ユウスケ、麻帆良組はまたこの男はと言った風に頭を抱えることとなった。
一夏の誘拐事件は、主犯を亡国機業ではなくマフィアとし、本来は世間一般には公表されていないところを全世界に公表したという形に変えました。
理由? しいて言うならこの世界には亡国機業が存在しないからです。
因みに、実は今回の士のセリフの中に一つあるバラエティ番組で士の役者さんが言ったセリフが隠れています。どれか分かるかな?