仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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ネギまの世界2-12

『しらたき』『たい゛こ』『ねき゛』『こんにゃ』『はんへ゜』『きんちゃ』、七人衆のうち、6人が散っていった。それは、ラミアにとってあることを意味するものであった。

 

「クッ!あいつらがやられたか…」

『後はあいつがやられれば…あたしは…本屋、後の事…頼む』

「え?」

 

のどかはいどの絵日記に並んでいく文字をただ見ることしかできなかった。ラミアの思い、千雨の思いがそこにあった。

 

「ハァ!!」

「ぐっ!!」

 

ディケイドと明日菜の二人は七人衆最後の一人『ちくはふ』を追い詰めようとしていた。

 

「行くぞ神楽坂」

「ええ!」

 

ディケイドはベルトのケータッチを取り外し、そこに書かれた紋章の一つに触れ、右上の『F』の文字を押す。

 

《WIZARD》

《KAMEN RIDE INFINITY》

 

すると、胸に貼りつけてあったそれぞれ違うカードが一つの仮面ライダーのカードへと変わっていく。そしてディケイドの隣に仮面ライダーがもう一人、幻影のように現れる。それは変化したカードと同じ仮面ライダー『仮面ライダーウィザード インフィニティースタイル』であった。ディケイドが腰のライドブッカーをソードモードにして抜くと同時に、ウィザードもまたそれにシンクロし『煌輝斧剣アックスカリバー アックスモード』を持つ。ディケイドはさらにもう一枚カードを取り出し、右の腰に取り付けたディケイドライバーに装填する。

 

《FINALA ATTACK RIDE WI―WI―WI―WIZARD》

 

それと同時に、二人のライダーを中心とした魔法陣が浮かび上がる。本来ならここで斧が巨大化するはずだがケータッチで呼び出したウィザードはそれをせず、またドライバーの音声もない。そしてディケイドとウィザードは同時に跳躍し

 

「あぁぁ!!!!」

 

明日菜は魔力によってアップした身体能力と持ち前の運動神経の良さを利用してあっという間にちくはふの目の前に到達し、大剣『ハマノツルギ』を構える。

 

「はぁぁ!!!」

「ぐふっ!!」

 

明日菜は真一文字にちくはふを切り捨て、すぐにその場を退く。

 

「はぁッ!!!」

「ぐぅぁ!!」

 

次の瞬間にディケイドとウィザードが『シャイニングストライク』で追撃。勝負ありと誰もが思ったが。

 

「グ…うぅ……」

「嘘、まだやる気!?」

 

致命傷の傷、しかしちくはふはそれでも倒れず、そのままラミアの下へと飛ぶ。

 

「逃がすか!」

 

ウィザードは消え、ディケイドはケータッチをとり、基本のフォームに戻り、明日菜たちと共にちくはふを追っていった。そしてほかの生徒たちもまた、戦いをほとんど終結させ、ネギのもとへと向かっていた。

 

「ちう様…」

「!ちくはふ…」

 

タイマン中の二人のもとにちくはふが着いたとき、行きも絶え絶えでいつ死んだとしてもおかしくない状態であった。

 

「も、申し訳ございません……ち、力及ばず…無念です」

 

そう言い、ラミアの足下に仰向けになって倒れる。その様は、士たちを苦しめた時とは全く違うように感じられた。

 

「もういい…ありがとな……」

「ち…う……」

 

どうやら事切れたようだ。ネギは、その様子に少しだけ心を痛める。たとえ、どれだけ姿かたちが変わっていおうとその心は千雨であり、そして七人衆は千雨のアーティファクトによって生まれた電子精霊、つまり相棒のようなものなのだから。

 

「千雨さん…」

「…ネギ先生」

「え?」

 

その時、ラミアが笑ったような気がした。

 

「後は頼……ぐぅ!」

「!?」

 

何かを言おうとし、その瞬間ラミアが苦しみだした。

 

「おい!あたし!!」

「ぐぅぁぁっぁぁぁぁっぁ!!!!」

「なんだ、いったい何が起こっている」

 

その時、士やネギクラスのメンバーが集合した。だが、全員が全員突然の状況に戸惑っている。当たり前だろう。到着したと思ったらラミアが叫び声をあげながら苦しんでいるのだから。しばらくして、ラミアは沈黙した。

 

「…」

「千雨…さん?」

 

ネギは呼ぶ。しかし、彼はその時気が付いた。彼女の雰囲気が変化したことに。

 

「え?」

「避けろ!ネギ!!」

「!!」

 

突然の光弾。士の言葉にとっさに横に飛びのいたネギだが。今までの攻撃よりさっきのこもった光弾に驚いた。

 

「フン…余計なことをする」

「お前は…千雨じゃないな」

「え?」

 

先ほどよりももっと太くなった声、そして口調も少ししかしゃべっていないが千雨とは違う物となっていた。そしてネギは士の言葉の意味が分からずであった。

 

「死ね!!!」

「ハッ!!」

 

士はライドブッカーソードモードを、ラミアは剣を構えて同時に走る。ネギはその間、頭の整理がつかなくなり、思考停止状態となっていた。

 

「ネギ先生!これを!!」

「え!?」

 

そんな彼を現実に戻したのは和香のその声であった。のどかは手に持ったいどの絵日記を見せる。そこに書かれていたのは…。

 

『あの日…四葉五月が死んで…エヴァンジェリンや龍宮以外はみんな死んじまった……』

『もしも、あいつが来なかったら…そう何度思ったことか……』

『でも今更言っても遅いという事も分かっている…』

『ある日、そいつは突然やってきた』

『そいつは私がゲートとかいうやつだと言い、私から怪物が生まれると言っていた』

『ゲートは絶望した人間から生まれるらしい。そしてそいつの言った通りのことになった』

『あたしは怪物へと生まれ変わった…そこまで来るのに時間はかからなかった。だがそこでその怪物も予想外のことが起こったそうだ』

『怪物になると自我を失うが、私は自我を失わなかった数少ない人間らしい』

『原理は分からないが理由は分かる。おそらく《ちくわふ》たちのおかげだ。あいつらが何とか自分たちの力を使ってあたしの自我を…』

『つまり…』

「つまりあいつらが死んだその時が」

「私の本当の死だ…」

「そ…そんな」

 

その千雨の推察通りだとするならば、ラミアの中の千雨はすでに…。

 

「千雨さん……そんなのって」

 

自分は、教え子を守ることができなかった。それどころか、自分たちは彼女を追い詰めて、最後まで人間としての意識を保っていたのに、それすらも殺してしまった。ネギはその事実にうつむいてしまう。

 

「しっかりしやがれ、ネギ!」

 

しかし、それを現実に引き戻したのもまた。

 

「あ…千雨さん」

 

千雨、この時代の長谷川千雨本人であった。

 

「私には分かる…あいつは……お前を陥れるために来たんじゃない!」

「あいつはお前に…私たちに止めてもらいたくて来たんだ!」

「!」

「私だったら…そうする……」

「千雨さん……」

 

確かに、ラミアは戦力として充実していたネギが来る前。そして昨日の戦いも、ネギを気絶させるだけにしとどめを刺そうとしなかった。今考えてみると、本当にネギを恨んでいるのであればその時に殺してしまえばよかったのではないだろうか。

 

「ハッ!!」

「グゥッ!!おのれぇ!!」

 

その時、士が戦いの間を見つけ、ネギの隣に帰ってくる。

 

「ネギ、お前がこの街に戻ってきたとき、あいつは嬉しそうだったぜ」

「え?」

 

士は確かに聞いた。ネギをこの街に連れて帰った時、ラミアが千雨と同じ口調、同じ声色でネギの帰還に喜んでいたことを。

 

「あいつは、お前だったらどんな苦難に会ったとしても、自分を止めてくれると信じたからこの世界に来たんだ」

「千雨さん…」

 

一体自分は千雨に何をしたのだろう。今のところのネギは千雨に何もしてやれていない。ただ、迷惑をかけ、ストレスの大本となって、千雨ののぞんでいる日常という物を壊している自分を、千雨は何をもって信用してくれているのだろう。ネギは知らない。それでも千雨が楽しいということに。ネギは知らない。この先の歴史でネギは千雨に、そして千雨はネギに何度も助けられるということを。ネギは涙する。自分を信じてくれた千雨に。

 

「ネギ!」

「明日菜さん…」

「千雨ちゃんを、助けてあげよう!」

 

明日菜も、否、明日菜だけでない。委員長も、木乃香も、刹那も、その目に涙をためていた。皆千雨のことを思っているのだ。時代は違っても、彼女は3-Aの仲間なのだから。

 

「…」

「行くぜ…ネギ……」

「…はい!」

 

ネギは涙を拭き、千雨、いやラミアを見る。千雨の心はもうそこにはない。しかし、千雨の思いを成すために。

 

「死ね!!」

 

ラミアは光弾を放つ。今度は10個ほどの弾を放っていることから見て、本気で殺しに来ていることが分かる。

 

「ハァァァァ!!!」

 

しかし、ネギはそれを即座に避け、ラミアに至近距離まで接近する。

 

「ハァ!ハァァ!!」

 

ネギはラミアに肘内、そして中国拳法の『鉄山靠』のコンボを繰り出す。

 

「ぐッ!」

 

さしものラミアもこれにはたまらず後ずさりしてしまう。そしてその隙を見逃さず、士は白い翼の書かれたカードを充填する。

 

《FINAL ATTACKRIDE NE―NE―NE―NEGI》

 

その電子音と同時に突風が吹き荒れ、ネギとディケイドの身体が持ち上がる。

 

「「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」」

「「全てを破壊し全てを再生するその脚よ」」

「「風と闇と合わさり新たな世界へと導く疾風となれ」」

『魔法の蹴り 31矢と10蹴!!』

 

瞬間、ネギとディケイドは分身し、無数の幻影が現れたかのようになる。そしてそのままラミアに向かって進む。

 

「クッ!くらえ!!」

 

ラミアはたまらず光弾を打ち出すが、二人を止めることはできずそのまま直進する。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

蹴りがさく裂する瞬間、無数の幻影は二人に重なる。

 

「「はぁ!!」」

 

二人の蹴りはラミアを吹き飛ばし、地面に大きなクレーターを作る。ラミアは一度起き上がろうとするが、体から閃光を発しながら倒れ。

 

「ぐ…ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

爆発四散した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…!」

 

その時、ネギを閃光が包み込んだ。次に目を開けた先には…。

 

「こ、ここは…」

 

そこは真っ白い空間だった。何も感じない、何も聞こえない、何も見えない。ただただ白い空間。ネギは自分の身体が雷天大壮から戻って普通の状態になっていることに気が付かないほど、その空間に見とれていた。

 

『先生…』

 

その時、後ろから声が聞こえた。そちらを振り返ると、ピンク色をした長髪の見知らぬ大人の女性がたっていた。いや、彼は直感で分かった。それが大人になった千雨であると。

 

「ち…千雨さん……僕…」

『ばか…そんな顔すんな……それより悪かったなこんなことにつきあわせて…』

「!そ、そんなことは……」

『この世界のあいつらのこと……まかせたからな………』

 

あいつら、それはもちろんネギクラスのメンバーの事だ。その言葉に、ネギは迷いなく言った。

 

「…任せてください!僕は、魔法…いえ、麻帆良学園女子中等部3-A 担任英語担当教師『ネギ・スプリングフィールド』です!!」

 

これからどんな試練があるかわからない。ましてやまた先生として戻れるかもわからない。これからの人生なんて分からない。だが、これだけは約束する。たとえどれだけの命の危機があったとしても、あのネギクラスの面々は絶対に守り抜くと。

 

『そっか…じゃあな先生……あいつらが呼んでいる…』

 

ネギにはその彼女を呼ぶ声は聞こえなかった。しかし、その表情をみ誰が呼ぶのか分かった。千雨は遠くに行こうとする。ネギはもっと千雨と話したかった。自分は父を見つけることができたのか。自分は立派な魔法使いになることができたのか。しかし、その時間もないようだ。だから…。

 

「千雨さん」

『ん?』

 

一つだけ聞きたかった。

 

「僕は…千雨さんの魂…救えましたか?」

 

千雨は息を一つはく。そして目をつぶり顔をネギに向けて微笑んで言う。

 

『あぁ、先生は私を救ってくれた恩人だ…』

 

刹那、また光がネギを襲う。ネギの目が眩む瞬間、30人程の人影がいた気がした。

 

「…千雨さん……」

 

気が付いたのは、麻帆良学園。先ほどラミアを倒した場所と、同じ場所であった。あれは幻覚だったのだろうか、ネギには分からなかったが、幻覚であろうと、未来の千雨と話せたのは良かったと彼は思う。

 

「ネギ!」

「「「「「「「先生!」」」」」」」

「…みなさん」

 

そこに、明日菜たちが駆け寄ってくる。そして、そのタイミングを見計らってネギは言う。

 

「…僕は、まだまだ未熟です。でも、それでも、皆さんの先生をしていいですか?」

「当たり前でしょ!」

「ネギ先生がいて、私たちがいて3-Aじゃん!」

「けど、魔法世界はどうすんだ?」

「あれが許してくれるとは思えんがな…」

「もう千雨ちゃんもエヴァ様も、盛り下げるようなこと言わないでよ…ってあれ、エヴァ様ってなに?」

「大丈夫!魔法世界っていうのにだって私達みんなが言ったらきっと分かってもらえるはず!」

 

当然と言えば当然ではあるが、本来小学校に通っていなければいけない年齢のネギが先生を続けるのは普通では無理である。普通では。

 

「いや、その必要はないよ」

「高畑先生!」

「タカミチ!」

 

そこに現れたのは、空港で時間稼ぎをしていた魔法先生たちであった。大体の先生の服がボロボロであるのに対し、近衛門とタカミチはあまり傷がないところから、他の先生との格の違いが垣間見える。

 

「魔法世界で、ナギの友人たちが頑張ってくれてね。…今回は特例中の特例で不問とするそうだ」

「本当ですか!?」

 

ネタバレすると、昔ネギの父親と共に戦った人間が魔法世界で話し合い(肉体言語)をして、色々なところに多大なる迷惑をかけたそうだが、高畑はそのあたりについて何も言わなかった。

 

「やったーネギ先生!!」

「ネギ!!」

 

その報告に、明日菜たちはネギの下に駆け寄る。その合間にも高畑はタバコに火を付け一服する。一仕事終えた後のタバコはいつもいい味をしている。しかし、いつにも増して今日は最高の味だった。

 

「高畑」

「士先生…僕は期待するよ……英雄となる彼でなく…これからを担う彼と、彼が成長させるあの光たちに……」

「そうか」

 

高畑の目に映る少年少女がこれからどう成長し、どのような人生を歩むのかまだわからない。あのラミアのいた未来のような人生を歩むのか、それとも超鈴音の未来と同じ人生を歩むのか、はたまたまったく違う人生を歩むのか。誰も知らない。けど、だからこそ楽しみだ。

 

「そういえば、モモタロスが消える時にネギ君のことを『ねぎま』って間違えてたらしいぜ」

「ねぎまって…焼き鳥じゃないんですから……」

 

ユウスケはモモタロスをバカにするように言う。彼は電王の世界で色々とひどい目に合った。主にモモタロスのせいで。そのため、ユウスケは若干モモタロスを敵対視?しているようだ。

 

「ねぎま…ふっ……」

 

士は首元にぶら下がっているトイカメラをネギたちに向ける。相坂さよ、明石祐奈、朝倉和美、綾瀬夕映、和泉亜子、大河内アキラ、柿崎美砂、春日美空、絡繰茶々丸、釘宮円、古菲、近衛木乃香、早乙女ハルナ、桜咲刹那、佐々木まき絵、椎名桜子、龍宮真名、超鈴音、長瀬楓、那波千鶴、鳴滝風香、鳴滝史伽、葉加瀬聡美、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル、宮崎のどか、村上夏美、雪広あやか、四葉五月、ザジ・レイニーディ、長谷川千雨、神楽坂明日菜、そしてネギ・スプリングフィールド。クールキャラで通している生徒以外はみな満面の笑みを浮かべていた。その世界での役割が終えるとき、士の写真はそれまで歪んできた写真がきれいに映るようになる。だから、これから彼が映す写真は子供たちの未来と同じ。

 

「『魔法先生ネギま』……か」

 

素晴らしいものとなるであろう。

 

「よ~し今夜は皆でパーティーだ!!」

 

さらに忘れてはいけないのがもう一つ。

 

「そして!明日から待ちに待った夏休み!!!」

 

今日の朝までしずんだ思いで迎えるであろうと思われていた夏休み。だが今は違う。これから一か月半、きっとたくさんの思い出を作ることになるだろう。たくさんの冒険をすることになるだろう。

 

「ええ天気―――――」

 

澄み切った青空、白い雲、そして太陽。そのすべてが世界をいつでも照らしている。今日彼女たちが見ている空はいつもよりキラキラしていた。

 

「夏休み日和やっ♡」

 

世界一熱い夏休みが始まった。




次回、エピローグ。
そして新たな旅の仲間が加わる…。

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