IS学園に通っていた織斑一夏は怪物だった。本物の織斑一夏が復讐するために帰ってきた。そのニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。
いったいどこから撮っていたというのか、あのスタジアムでの会話全てが記録された映像が動画サイトやSNSを通して全世界に拡散されたのだ。
だが不思議なことにその映像には織斑千冬が四年前に一夏を見捨てたという一連の話、そして一夏が経験した異世界での箒たちの話は収録されていなかった。
だが、その映像が世界中に与えた衝撃は尋常な物ではない。
IS学園には多種多様の国々から未来のエース候補ともいえる少女たちが通っている。その少女たちが今の今まで怪物と共に授業を受けていたという危険極まりない状況に陥っていたのだ。
これに対して日本政府の反応は早かった。早急にワームの織斑一夏の拘束を決定、明朝にも地元警察、場合によっては自衛隊が確保に向かうこととなった。
迅速な対応を取った日本政府。と言った文言を見るとあたかもこの国の政治家の決断力の速さに眼が持っていかれるかもしれないが、真実は少し違う。
もちろんこの突如もたらされた衝撃的な情報に日本政府は混乱の渦に巻き込まれた。その中で四年前の出来事によって一割ほどに減らされた男性議員が一夏の即時拘束を訴えた。
誰もが右往左往している状況の中で、正常な判断能力という物を失った中で放たれたこの言葉に対し、異を唱えることが出来る人間は誰もおらず、あれよあれよという間に織斑一夏の拘束が決まった。
そう、現在織斑千冬は聞かされた。
『と、いうわけだ。明朝警察が行くまで織斑一夏……おっと、違いましたね。怪物の監視は怠らないでくださいね』
「話が急すぎます。まずはこちらで調査します。拘束等に関してはこちらの回答を……」
『失敬だな。我々としてはそちらの学園にいる生徒の身の安全を守るために言ってるのですよ? 生徒のことを想う織斑千冬がみすみす生徒を危険にさらすことはしないはずですが?』
確かに、一夏の正体がワームであるとばれた以上そのような意見が出るのは当たり前だ。だが千冬は気が付いていた。この男性議員たちが考えていることが手を取るようにと。
「自らの保身のためには国民一人を切り捨ててもかまわない……四年前から、この国は変わらない」
『ん?』
「知っていますよ。あなた方が織斑一夏のIS学園入学を後押ししたということを……男性の権威復古のために一夏を利用しようとしていたことを」
千冬は怒りに震える手を抑えながらそう言った。先も言った通り、四年前の織斑一夏誘拐事件によって政治家の男女比率は完全に逆転し、結果日本の女尊男卑はそれを機に著しく促進された。
そのようなこと、もちろん古い考えに縛られた老人たちにとっては歓迎できるものではなかったことは確かだ。古き良き男尊女卑の世界を取り戻そう。そんなことを考えて裏から手をまわしてテロリズムに走っている政治家がいるということは千冬の耳にも入っていた。
そんな中で現れたのが男性で初めてのIS操縦者。それも、織斑千冬の弟だ。
その織斑一夏をIS学園に送り込み、男性は女性に劣る存在ではない。男性の方が上なのだと未来を生き、世界を形作ることになる女性IS操縦者に刷り込ませる。それが、この国に残った数少ない男性政治家の思惑だった。
だが、その計画の柱ともいえる一夏が実は人間ではなく怪物だった。普通の人間ならいざ知らず、見ず知らずの怪物が一夏の正体だったと聞かされれば、もう一夏の存在価値はないに等しかったのだ。
千冬は最初から全てを知っていた。知っていてなお、それでも一夏を自分のすぐそばで守るためにはこの学園に通わさなければならなかった。だから、渋々その提案を受け入れざるを得なかったのだ。
そして、一夏にはこの事実を伏せて普通に学校生活を送ってもらっていた。
例え彼が日本、いや世界中の男共の傀儡であったとしても彼は紛れもなく自分の弟なのだから。
けど、そんなことは彼らの知ったことなかった。
『言いたいことはそれだけかね?』
『とにかく全ては決められたこと。逆らうのであれば、我々の組織を動かしてもいいのだよ?』
『情報操作は、こちらの得意分野だからね。織斑一夏を捕えてしまえばあとはどうとでもなる』
「……」
その後一方的に切られた電話。それから数分後、そこには粉々に破壊されたIS学園から先生に支給されたスマートフォンが残されているだけであった。
そして、女性は懐から別のスマホを取り出した。先ほどの彼女が壊したスマホよりも型落ちしているが、普通に使用することが出来るようだ。彼女は、それをある人物に連絡を取るためだけに使用している。そのある人物とは……。
「すごいことになってきたねぇ……まぁ予測できてたけどね」
篠ノ之束は、何度も何度も着信のBGMの鳴っている通信機器を投げ捨てるとパソコンの操作を続ける。
最初からこうなることだろうとは予測していた。そもそもこの世界にとって織斑一夏という人物のもたらす影響はかなり大きなものがある。
世界で初めて男でISを動かした織斑千冬の弟という、どこをどう切り取っても注目される的にしかならない人間だ。
そして、その織斑一夏を男側の刺客としてIS学園に送り込んだのに、いざ蓋を開けてみたらIS学園にいた織斑一夏は偽物。存在の大きさはどうあれど、世間一般的には怪物として認識される存在がISの学びの最先端であるIS学園に潜り込んでいたという事実に動じない者がいるとすれば、最初からしっていた自分か、もしくは自分の親友の彼女だけだろう。
とにかく、事ここにおいて一番慌てているのは織斑一夏のIS学園入学を全力で後押ししていた女尊男卑の世界を再び変えようとしていた男性たちであろう。彼らににとっては、救世主として送り込んだ存在がまさかの爆弾だったわけなのだから、知らなかったこととはいえ責任追及されるのは迷惑。恐らく今頃IS学園側に対して圧力をかけていることだろう。
全く、そんな人間たちばかりがいる世界だからこそ自分は嫌気がさしたというのに、何の学びも得ない馬鹿ばかりである。
自分がインフィニット・ストラトスの研究を始めた時期は、あまり覚えていない。学生の頃だったか、あるいはそれよりもずっとずっと前の事だったか。
最初は、というよりも最初から自分は好奇心旺盛だったから、色々なことに手を出していた。歴史、地理、数学、生化学、物理学、人間学。おかげで世界中のありとあらゆる情報を脳にインプットできてしまった。結果、自分の好奇心という欲求を満たす物は無くなった。そして、そんな自分について来れる人間はいなくなった。かつては疑似的な友人関係という物を勝手に結ばされた者たちは、自分の話について来れなくなり、その驚くような知識量と行動力に、周りの人間は自分を変人扱いして、次第に孤立していった。
けど、自分は悲しくなかった。知っていたからだ。生き物は優秀な物を恐れるよう生まれた時からDNAに刻まれているのだと。
皆望んでいるのだ。誰もが自分と同じ価値観を持って、でも自分の下に見れる人間であることを。人はそれを平凡とよぶ。自分はそんな平凡は願っても嫌だった。
自分にあるのは好奇心だけ。ただ、それだけでいい。
けど、そんな自分にも真に友達と言える人間はいた。それが、織斑千冬。
自分たった一人だった人生に介入してきた初めての他人。
彼女と自分は、親友であり、似た者同士だった。自分が知の天才であるとすれば、彼女は武の天才。身体能力は化け物だと言ってもいいほどで、それは他の誰よりも圧倒していた。それは、まさしく自分と瓜二つと言っても過言ではない。似ていない部分と言えば、彼女は自分よりもコミュニケーション能力があり、自分の他にも友人がいたというところだろうか。
そんな彼女は弟の一夏をめぐり合わせてくれて、自分の妹、箒との間も取り持ってくれた。自分の世界には、いつの間にか他人が三人いた。
そして、自分はある一つの目標が出来た。
地球のすべてを知ってしまっているのであれば、地球の外に出ればいいんじゃないかと。
彼の言葉を聞いた時、まるでコロンブスの卵のような発想だと思った。そうだ、地球がだめなら宇宙に出ればいいんだと。けど、現在の技術だけじゃ宇宙に出られたとしてもそんなに遠くに行くことが出来ない。なら、自分がその技術を凌駕するだけじゃないか。
それが、彼女のライフワークとなった。
親友織斑千冬の協力もあってそれは自分ですらも予想ができないくらいに速くに結果が実った。それが、インフィニット・ストラトス。宇宙開発を目的としたパワードスーツだ。
真空空間でも行動することのできるシールドバリアー。隕石などを避けるためにつけられたハイパーセンサー。宇宙での情報共有を目的としたコア・ネットワーク等々。中でも彼女が自慢していたのは、自己防衛のために作った数々の武装。
隕石や地球外生命体が襲ってきたときに撃退するために付けたらしいが、前者はともかく、後者は完全にふざけているのではとは思う物の、まだ未知なる宇宙を探索するにあたって、何かがあっては困る。というか、地球外生命体はかならず存在するという彼女なりに真面目な理由でつけられたものである。
このスーツがあれば、例え宇宙のどんな状況、場所でも即座に対応することが出来る。彼女は学会でこのインフィニット・ストラトスを発表した。
だが、学会の反応は冷ややかな物だった。
皆自分よりも頭が悪いから、ISのすばらしさを知らないのだ。分かる頭を持ちえないのだ。例えどれだけ高性能でも、動いている姿を見せなければ意味がないのだ。
束の心は、その瞬間に歪んでしまった。
彼女の中にあったのは、まるで自分の子供を守りたい母性だけ。自分の作ったISがどれだけ優秀であるのかをこの言っても分からぬ馬鹿どもに教えなければならない。いや、それだけじゃダメだ。世界中が知らなければならないのだ。ISの力を。そのために必要なものは何か、恐怖、絶望、混乱、救世主。
結果、起こったのが白騎士事件。篠ノ之束がISの凄さを世間にアピールするために起こした、全世界の核ミサイルをハッキングして起こしたテロ事件。
その顛末は、知っての通りある人物が白騎士を操ってすべてのミサイルを破壊することによって幕を閉じ、結果全世界の人間がISの技術力を認めた。
『兵器』として。
最初は、純粋に宇宙でも活動できるように作ったはずだったのに、誰もそれに賛同してくれなかった。誰も自分のことを理解っしてkる得なかった。だから、自分の作ったものはすごいんだって、世界の役に立てるんだって、親友に示してもらうために起こしたテロ事件。
別に世界を滅ぼしたかったわけじゃない。彼女は信じていたからだ。ISを、そして親友を。だから悪魔にでもなれた。そしてISの力は世界に示された。これで、ISが平和的な利用に、そして自分にできた唯一の夢である宇宙開発のためのスーツとしての使用へと近づいた。ISのことを認めてくれた。
そう思ったのに……。
世界はISを兵器として見た。世の中の大人たちは全員が全員ISの価値を兵器としてしか見てくれなかった。
結果、誰一人としてISの平和的な利用を考えてくれる人間はいなかった。
それだけじゃない。彼女は世界中の軍事施設のコンピュータをハッキングした結果、ある事実を知った。
『織斑計画』、通称プロジェクト・モザイカ。
遺伝子操作によって意図的に最高の人間を作り出そうとしたある国の計画。
この計画によって作られた1000番目にして初めての成功個体。
それが、織斑千冬。つまり、自分の親友だった。
そして、その弟である織斑一夏は、この計画によって作られた第二成功個体だ。
自分の親友が、自分に目標を作ってくれた人間が他者によって意図的に作られた、いわば人工生命体。
さすがの自分もそこまでは考えなかった。そこまでしたら、それはもう神の所業に他ならない。倫理的だとか、技術的だとか、そんな問題は度返しで、ただただ優秀な人間を作り上げたいという人間の欲望の結果できた存在、それが自分に初めて他人という存在をわからせてくれた親友。
皮肉なことに、計画は少し前に凍結したらしい。自分、篠ノ之束という天然素材が生まれたことによって。
結局、自分と同等の立場の人間であると思っていた織斑千冬も、人間の勝手な欲望のために作られた生物だった。裏切られた気分だった。
彼女は、そんな物を作り上げた世界に、そして人間たちに、改めて絶望した。
だから彼女は復讐を決意した。
私利私欲の事しか考えていない世界に。自分の夢を、親友のすべてを汚し、弄んだ世界を破壊し、親友を人間として殺してあげる。それが、彼女の新しい目標になった。
その時から、彼女は人間としての心を失った。
そんな彼女が大ショッカーにスカウトを受ければ、承諾するのは当然の事だった。
すべては世界を破壊するため。この欲望に満ちた世界を、自分の夢をゆがめた世界を、破壊するため。
でも……。
「ん?」
その時、天井が崩落した。このタイミングだ、おそらく彼女だろう。束はテーブルの上にあった三つの注射器の中から二つを取ると、ゆっくりと振り向いて言った。
「ちーちゃん、おっひさー!」
「束……」
束は、いつも千冬ち接するときのようなテンションで彼女にそう挨拶をする。だが、彼女から返事はなかった。
織斑千冬は暮桜を待機状態にすると束にゆっくりと近づく。その顔は、暗がりでよくは見えないがしかし、声色からして怒気がこもっているということは想像するにたやすいことだろう。
「聞いたぞ……一夏は、お前のところにいたそうだな……」
「そうだよ~」
「私が、お前と連絡を取り合っている時も、ずっとそばにいたのか……」
「いやぁ~電話している後ろでいっくんがころんじゃった時とかはヒヤヒヤしたよぉ~」
束は、千冬の質問に対してふざけた返答をしてのらりくらりと躱している。ように見えるが、彼女と話すときはいつもこんな感じである。
そう、こうやっていつも束のペースに巻き込まれてしまうのだ。そしていつも逃げられてしまう。そうはいくものか。この話だけは、絶対に逃げられてはならないのだ。
彼女は、爪が食い込んで血が出てしまうほどに手を握りしめて言った。
「何故、黙っていた?」
「……」
束は、何も答えない。
「私が、一夏を探していることを知っておきながら……どうして……」
「……」
束は何も答えない。
「何故黙っていた、答えろ!!」
声を荒らげる千冬。だが、それでも束は何も言わなかった。まるで、そのことが分かっていたかのように、それを覚悟していたかのように彼女は千冬のすべての怒りを受け止めていた。
「何故……何も言わない……」
「意外だね、ちーちゃんのことだから、私のことを殴ってでも吐かせようとするのかと思ってた」
「……」
最初は、そうしようとも思っていた。けどやらなかった、やれなかった。
そのようなことでこの心の中にある彼らへの償いなんてできないと思っていたからだ。自分の中の罪を他人にぶつけることで得ることのできる安らぎは、どう高く見積もっても雨漏りした天井から落ちていた小さな雨粒一つくらい。あとの安らぎに見える存在は全て誰かを傷つけたということに関する快楽。であるのならば、自分はその程度のもので自分を救いたくなかった。
「教えろ。何故、私に黙ってた?」
「……いっくんが、それを望んでたから」
「なに?」
一夏が望んでいた。それは、どういう意味なのか。千冬がそう聞く前に、束はさらに続けた。
「ちーちゃんに怪物の姿のまま会うことなんて嫌だってさ……だから、私と二人でどうにか人間に戻る方法を探るためにいろんな世界を回ってたの」
「そんな……そんなこと……」
「私は気にしないって? でも、いっくんは気にしてたよ」
姉のことが好きだから。だから、一夏は人間織斑一夏として千冬に再会したかった。それは、まだ姉離れできていないゆえの言葉だったのかもしれない。あるいは、彼がまだ子供だったからきた当然の発言だったのかもしれない。
「自分の事だけじゃない。もしも怪物の自分がちーちゃんのそばにいたら、きっとちーちゃんにも迷惑が掛かるって……本当、お姉ちゃん思いなんだから」
「……」
そう、一夏はいつだってそうだった。子供のころから、ずっと、ずっと、そんな彼だからこそ、自分はあの時白騎士を纏ったのだ。日本を守るためなどという大層な理由ではない、弟織斑一夏を守るために。
聡明な読者諸君であったなら簡単に分かったことであろう。十年前のテロ事件、白騎士事件において白騎士を纏っていたのが誰なのか。あの、ほとんど誰もISのことについて認知していなかった時点で自分の手足のようにISを動かして数千にも及ぶ核ミサイルすべてを撃墜した猛者。
それは、ISの開発者、篠ノ之束の唯一の親友であった織斑千冬を除いていない。
別に、彼女たちは共犯だったわけではない。束が世界中の兵器をハッキングしたのち事後報告で千冬に伝えられたことだった。束を止めようにもすでにミサイルは発射秒読み段階で止めることが出来なかった。
だから、千冬は束から送られていた白騎士を纏って空に飛び立ったのだ。すべては弟がいる日本を核の炎から守るために。
結果、千冬はミサイルすべてを撃墜し、束は彼女の前から姿を消した。
それからは、連絡は取り合う物の、実際に会うことはほとんど稀になってしまった。しかし、彼女の心の中に生まれた狂気には気が付いていた。
だから彼女もまた戦っていた。束の凶行をとめる。ただそのために。しかし、その途中である事件が発生する。
それが、織斑一夏誘拐事件。
あの事件によって生まれた歪み、今こそその終止符を打たねばならぬ。束は、手に持った二つのアンプルを見せた。
「これは?」
右手には赤い液体の入った注射器、左手には緑色の液体の入った注射器である。
「赤いのは『フォトンブラット』オルフェノクにとって毒みたいなもので、これを注入したら、オルフェノクは灰になって消滅するの」
つまり、オルフェノクを殺すことが出来る物質。どうやら、ショッカーから実験のサンプルとしてもらった物を培養して作ったらしい。
「……左手のは?」
「こっちは、私がオルフェノクの王のDNAから作った液体。これをひとたび注入すれば、人間として残った部分全部をきれいさっぱり壊して、相手を完全にオルフェノクに変えちゃう優れもの。もちろん、普通の人間に使ってもOK! あ、でもその場合はオルフェノクになる前に死んじゃうかもしれないけど」
それは、オルフェノクの王のみが持つ能力。
人類の進化系オルフェノク。だが、その進化はあまりにも急激すぎた。結果、細胞はその負荷についていくことが出来ずその力の代償として寿命は人間のそれよりもはるかに短い。
しかし、アークオルフェノクはそのオルフェノクの欠点を克服することが出来る唯一の存在である。
その方法はたった一つ。オルフェノクに残った人間としての部分。それを取り除くことによって完全にオルフェノクへと進化させることによって寿命という概念を無くし、不死の肉体を手にいれることが出来るのだ。
だが、その代償として人間としての姿は消失。その人物は、完全な怪物として生きることとなる。
「何故、このような物を……」
「……私といっくん、前にとある世界に行ったことがあってね、そこでオルフェノクの王の腕をゲットしてきたの。大ショッカーの命令で、それを使ってオルフェノクの王を復活させるために」
束の言うそれは、あのプリキュアの世界での出来事。遠藤止が出したアークオルフェノクが倒される直前に横切ったうさぎの影。それが篠ノ之束である。アークオルフェノクのDNAデータを採取する、それが大ショッカーによって下された束への命令だった。だが、知っての通りアークオルフェノクは仮面ライダーファイズによって倒されてしまった。そのため、束と一夏はアークオルフェノクがまだ生きている世界を探していくつもの平行世界を移動していたのだ。そして見つけたのが遠藤止の出現させたアークオルフェノク。あとは、火事場泥棒の形でそのデータを採取することは容易であった。
これにより、オルフェノクの王復活のための計画は動き始めた。束の持っているソレは、その副次効果によって生まれた薬だ。
千冬は、束の言葉に不信感しか持っていなかった。
「束、私がそのような話を信じると思うか?」
「えぇ~信じてくれないの~ショック~」
「信じてたまるか。そもそも、お前が他人の命令を素直に聞く人間じゃないことは重々承知だ」
「……ちーちゃんにはかなわないなぁ……」
束は、そういうと哀しげに笑いながら言う。先ほどから、千冬はなにか背中がむずがゆくなる気分だった。これまでの束を知っているからか、自分の知っている束とあまりにも違いすぎるからか。
「そ、大ショッカーの命令なんて本当は知ったこっちゃなかったよ。私の本当の目的はオルフェノクの王を復活させることじゃない。この薬を作るため……」
「その薬で……何をするつもりだ」
「いっくんを……殺してあげるの」
「ッ……」
「人間として死んで、完全なオルフェノクになったら、いっくんが死ぬことは無い。そうなればちーちゃんも幸せになれるでしょ?」
「……なら、何故その薬を作った時にそうしなかった? いや、むしろその時から一夏がこの場所からはなれるまで何度もチャンスがあったはずだ。それなのになぜ……」
「……選んでもらおうかなって」
「選ぶ?」
「そう……」
まさか、千冬は束の言葉に嫌な予感を感じた。だが、まさか彼女がそのようなことを言うとは、いや彼女はすでに心の壊れた、いわゆる怪物だ。何を考えてもおかしくはない。
果たして、束の発した言葉は千冬の想像通りの物であった。
「ちーちゃん選んで? いっくんを、人間として殺してあげるか、それとも……これ以上苦しまないように人生を終わらせてあげるか」
「……」
やはりそうか。彼女は一夏の命を天秤にかけているのだ。
一つは、人間としての織斑一夏を殺し、怪物として孤独な人生を歩ませる道。
一つは、これ以上一夏に怪物としての人生を送らせて孤独にさせるくらいならいっその事殺す道。
いや、後者にはこれ以上一夏が罪を犯す前に止めてもらいたいという束の意志のようなものを感じる。恐らく、そちらの方が本音であるのだろう。
人間織斑一夏を殺すか、それとも織斑一夏を殺すか。あまりにも重い受け皿でめまいがしそうになる。
ここで千冬は一つ聞いた。
「束……もしもどちらも選ばなかった場合……その場合、一夏の寿命はあとどのくらいだ?」
「持ってあと……1か月ってところかな?」
「そんなに……」
「いっくんの身体を使って実験したからね。いっくんの寿命を延ばすために色々と、でもそれがうらめにでちゃった」
「……一か月……か」
束も、何とかして一夏の身体を元に戻してあげるために努力はした。しかし、いまだかつてオルフェノクを普通の人間に戻す研究に成功したものはいなかった。それもそのはず。オルフェノク化というものは人間の進化の先の一つなのだから。その進化という大それたものに、人間というちっぽけな物が入り込むすきなどどこにもなかったのだ。
例えどの道を選ばなかったとしても残りの寿命は一か月。それが、束の出した試算だ。そして、一夏もこのことを知っている。彼は、人生の最期を復讐という歪んだ物で終わらせようとしている。そんなこと、させてはならない。千冬の選ぶ道はすでに決まっていた。一瞬だけ目を閉じ、一呼吸した彼女は小さな、か細い声で言った。
「そう……か、分かった」
「……」
「……まったく、怖いものだな……人間という物は」
千冬は束の手から注射器を受け取った。
『フォトンブラット』の入った、注射器を。
「束、どうやら私も……人間が嫌いなようだ」
「そっかぁ、私と同じだねちーちゃん」
「あぁ、そうだな……」
実は、プリキュアの世界行以降と以前ではコンセプトが違っています。具体的に言うと、プリキュアの世界以前で確実にコレとしていた決まり事を完全に外しております。果たしてそれは何なのか、このインフィニットストラトスの世界が終わるころには判明するかと思います。
最近、自分としては文字数が少ないとおもうのですが……
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最低でも5000文字欲しい
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最低でも6000文字欲しい
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もう少し心理描写を描いて欲しい
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もう少し会話を増やして欲しい
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このままの文字数でもいい