仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 今回、ただ一人描かれなかったあの子の話。
 実はここである種の答えに近い発言をある人にしてもらったためにここまで引っ張ることになりました。


IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界2-11

「山田先生……一夏」

「ッ! 何故だ……」

 

 自分たちは、こんなところで何をしているのだ。IS学園屋上にいる少女たちはそう自分たちに対して怒りをぶつけていた。

 今彼女たちの前には二つの映像が投影されている。一つは、スタジアムで戦っている二人の仮面ライダーと二人の一夏の映像。もう一つは、連合軍と戦っている山田先生の映像。

 自分たちが二の足を踏んで立ち止まっている中で、山田は自分の道を、自分自身の決意を表明し、行動に移した。自分の未来がそれによって閉ざされるかもしれない、いや確実に閉ざされることだろう。そのリスクを背負ってでも生徒を守るために動いた。

 

「何故、私は今ここにいる。何故飛び出していかない……どうして……」

 

 それに対して、自分たちはいったい何をしている。恐らく、先生である山田よりも多くの時間を共にしていた自分たちが、一夏と一緒に戦っていた自分たちは、何故このような場所でただ彼女の戦いを傍観しているだけなのだ。

 いつもの自分たちであれば、いの一番に飛び出していくところであるのに、何故ここまで躊躇している。この心に宿っている気持ちはなんだ。このやるせない気持ちは一体なんだというのだ。

 

「迷ってるから……でしょうね」

「……」

「本当に怪物の一夏を助けていいのか。それを迷っているうちは、戦ってはだめよ」

「だがッ!」

 

 図星である。それは、楯無に言われるまでもなく分かっていたこと。分かっていたからこそ自分たちはあの時から一度も一夏のところに行こうとはしていないのだ。

 そうだ。迷っているのだ。本当に怪物の一夏を助けることが、一夏のためになるのかどうか。また逆で怪物の一夏を放置し、本物の一夏をこのIS学園に迎え入れて、それが救済という物になるのだろうか。

 結局はどっちもどっちである。どちらか一方の一夏を助けることはできる。でも、二人の一夏を同時に助けることなんてできやしない。

 それは、全部自分が弱いから。自分たちが、偽物の方を好きになってしまったから。

 何故、好きになってしまったのか、そう後悔してもしきれない。

 迷いは人を拘束する。身動きできない人間は何もすることはできない。ただ思案するだけ思案して、結局は何もしない。何もできない。

 迷い、戸惑い、漂い、そして無動作は無秩序を産み、悲劇を生み、そしてすべての嘆きを包括する物。それが、迷い。

 けど……。

 

「迷いこそ答え……か」

「え?」

 

 そうつぶやいたのはラウラである。ラウラは、一夏の映る映像を見ながら言う。

 

「昨晩、クラリッサに言われたことだ」

 

 それは、数時間前に時間が戻っていく。

 鈴音は、自分の心の中の整理をつけるために他人を求めた。本当ならば自分一人でなんとかしなければならないことなのだと思う。自分一人で決着をつけなければならないことだ。何故なら他人にどれだけ言われようとも最後に決断するのは自分自身なのだから。

 けど、他人に助けを求めることも決して恥ずべきことではない。決断できないと言うことを優柔不断の一言で済ませて良いわけではない。

 人は迷う生き物である。また、迷わなければいけない生き物でもある。

 例えそれがどれだけ堂々回りになろうとも、こうと決めて一直線にその道だけを突き進むよりも、たくさん迷って、悩んで、後悔をして、この道を選んで本当に良かったのかと後悔することもある。だも、この道を選んで良かったと安堵することがある。

 人間は、そんな曖昧な想いと呼ばれる物の中で生きている生物なのである。

 

「以上が、私が見聞きした情報だ」

『そのようなことが……』

 

 此処にいる少女もまた、ある人物に相談していた。

 けど、それは決して弱いからではない。勇気のある行動である。そう信じよう。

 

「クラリッサ、聞きたいことがある」

『なんでしょう、ボーデヴィッヒ隊長』

 

 彼女、ラウラが電話しているのはドイツのIS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ、通称黒ウサギ隊の副隊長を務めているクラリッサ・ハルフォーフである。なお、ラウラはその部隊の隊長である。

 ラウラは諸事情により戦闘関連以外の知識に疎いため、何か自分ではわからないことがある場合、こうして副隊長のクラリッサや、黒ウサギ隊の他のメンバーと電話してアドバイスを貰っているのだ。貰っているのだが、その日本の知識はアニメや漫画などのサブカルチャーから仕入れているため時折間違った、または歪曲した情報が混ざっていることがあるのだが。

 

「私は、誰を愛しているのだ?」

『はい?』

「私の好きになった織斑一夏は、私のことを命がけで助けてくれた偽物の方の織斑一夏だ。だが、その織斑一夏の性格の基盤となっているのは、本物の織斑一夏だ。私が好きになったのは、どっちの織斑一夏だいやそもそも……私が、織斑一夏のことを好きになったことは……間違っていたのだろうか……」

『……』

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは普通の人間ではない。生体兵器として身勝手な人間たちによって人工的に作られた人間、いわゆる人造人間である。

 人間の身勝手で産まれたラウラは、様々な兵器の操作、操縦方法、戦略、体術等ありとあらゆる戦うためのスキルを仕込まれていた。もちろん、戦場で戦うために。そのため、彼女はこの学校にいる生徒たちの中で唯一軍隊に所属しているのである。

 そんな彼女の運命が変わった最初の出来事、それがISの出現だった。

 それまでの近代的な兵器全てが過去の遺物となってしまうほどに高性能なISに眼を付けた各国の軍隊は、そのISに最適応するために様々な手法を取った。その中の一つ、ドイツ軍が開発したのが疑似的なハイパーセンサー≪ヴォーダン・オージェ≫、通称≪オーディンの瞳≫である。脳への視覚信号の伝達速度の飛躍的な高速化と、超高速戦闘下での動体反射を向上させる能力を持つそれは、ラウラ・ボーデヴィッヒを含めた黒ウサギ隊の全六名に移植された。

 だが、ラウラはそのヴォーダン・オージェの移植は毒であった。理論上不適合はないと言われていたソレに適合できなかった彼女の左目は金色となり、能力を制御できなくなり、またそれまで手にいれてきたスキルの全てが著しく低下。彼女はそのことから出来損ないの烙印を押された。

 不適合だった理由が運であったか、それとも人造人間だったからか定かではない。しかし、それまで戦うことしか知らなかった少女、戦い以外の世界なんてなかった少女から戦闘能力という物が奪われたら何が残る。当然、待っていたのは自らの存在意義の消失。戦いのために生まれてきた自分が、戦うことが出来ないという事実。それが彼女の心を曇らせた。

 そんな彼女のことを救ってくれたのが、一夏の誘拐事件によって引退し、ドイツ軍のIS教官として赴任した織斑千冬だった。千冬の特訓によって戦う力を再び取り戻した彼女は、千冬の事を尊敬し、教官と慕うこととなった。

 それから何年かたち、IS学園に入学したラウラが出会ったのが、尊敬する織斑千冬の弟であり、彼女がISを引退する遠因を作った織斑一夏だった。

 そのため、ラウラは最初は一夏の事を毛嫌いし、またそれだけではなく他の学生も見下し、たった一人で何か見知らぬものと戦う日々を送っていた。

 その中、あるトーナメントで一夏やシャルロットと戦った彼女は、自身のISに仕込まれていた条約違反のシステムによって暴走、命の危険に陥った。そんな彼女のことを救ったのが、誰でもない自分が憎んでいた織斑一夏だった。

 

『だから、お前も守ってやるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 だから、自分は彼のことを好きになった。

 好きになってしまった。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ。自分を助けた、または優しくした人間を好きになる』

 

 けど、もしかしたら一夏以外が自分のことを助けていたとしても、ソイツのことを好きになっていたのかもしれない。

 実際の自分は経験していない、別世界の自分が経験したことなのであるから、その自分が一体どのように考え、行動していたのかわからない。だが、一夏の話によると、自分は他人に守られるという行動一つで他人のものとされてしまったらしい。だったら、別に一夏じゃなくてもよかったじゃないか。自分が好きだったのは、一夏じゃない、他人から守られたいという願望だったんじゃないのか。ならば、なんとも自分は被害妄想の大きな女だったのだろうか。

 

「私は、一夏のことを本気で好きになったと思っていた。だが、本当はそんな甘い言葉に踊らされているだけの道化だったのかもしれない……教えてくれクラリッサ。織斑一夏を好きになった私は、間違っていないのか? 本物ではない織斑一夏のことを好きになってしまった私は、本物の言うところの尻軽女なのか? 私は……」

 

 何と戦えばいいんだ。

 

『甘い言葉、ですか……』

 

 クラリッサはそういうとしばし目を閉じ、考える。そんな彼女のことを、黒ウサギ隊の他の隊員は自分のするべき作業を一時中断してじっと見ている。

 実は、クラリッサは転生者という言葉について知っていた。いや、それどころか二次創作という言葉も。彼女が日本について学んでいる時に偶然ネットで出会ったソレを、彼女はいくつか読んだことがあった。

 だが、そのどれもが彼女には気にいる物ではなかった。なぜならば……。

 

『確かにそうかもしれません。隊長がその言葉によって織斑一夏のことを好きになったのは紛れもない事実です』

「やはり……」

『ですが、それを最初に言ったのは誰ですか?』

「え?」

『誰がその言葉を最初に言い、誰が最初に行動に移し、そして誰が最初に隊長を守ったのですか?』

「それは……」

 

 答えなんて決まっている。けど、その先の言葉が何も出ないでいた。何故なら、答えの矛先が二人いるからだ。クラリッサは続けて言う。

 

『確かに別の世界の隊長を、織斑一夏とはまた別の人間が助けた結果、隊長がその人物のことを好きになったかもしれません。ですが……』

「……なんだ?」

『所詮は二次創作! 公式を超えることは無い!』

「ッ!」

 

 その声を境として、のべつ幕無しにクラリッサはさらに続けた。ラウラは、それを黙って聞いているしかなかった。

 

『転生者は、いわゆる攻略本を持っているような状態です。どのタイミングでどう行動し、どう言葉を発せればその人物が自分のことを好きになるのか把握しています。オリ主やクロスオーバーもまたそうです。二次創作の作者は全員が原作で主人公がどのような行動をとっているのか把握している状況です。だから、主人公と同じ行動をとらせれば、隊長を……いや隊長だけではありません。主要なヒロイン全員をものにするなんてこと簡単なこと。ですが、この世界の織斑一夏は違う! どう行動していいかわからない、どう言葉を発せればわからない、いや下手をすれば死ぬかもしれない。それでも隊長のことを守るために決死な行動をした。そんな重いリスクを背負っていたからこそ、隊長は、彼のことを好きになったんです。違いますか!?』

 

 クラリッサは、二次創作という物が嫌いではなかった。だが、その中でも嫌いなジャンルがあった。それが転生とオリ主。特にチートを持って転生するという二次創作は大が付くほどの嫌いだった。

 人生に攻略本なんてものは存在しない。人間にはそれぞれ何億何兆通りもの人生が存在して、その道を歩いている。そして、当然だが一個人が他人の人生の歩みを覗き見ることなんてできはしない。だからこそ、人間関係がこじれたり、互いに互いを理解できなくて傷つけあうということがあるのだから。だが転生者は違う。

 普通の何の変哲もない世界から自分の知っている漫画やアニメの世界に行くという転生系二次創作は、その誰かの人生を先にのぞき見し、どのようなストーリー展開で、誰がどのような人生を送って、どのように生まれ育って、どのような苦悩を抱えていて、どのような弱点があって、そしてどのような言葉で落されたのかを知っている。

 さらに言えば、二次創作という世界において自分の願望を投影したようなオリ主。これもまた上記と同じ事。例えその本人が攻略ルートという物を知らなかったとしても、作者がその原作がどのような展開であるのか知っていれば、いや知っていなければ二次創作なんてものはかけはしない。だから知っている者がその展開通りに主人公を動かしさえすれば、後は簡単にハーレムという名の非人道組織を作り上げることが出来る。

 二次創作とは、人間の欲望の集合体だ。モテたい、誰かに好きになってもらいたい、尊敬してもらいたい、友達が欲しい、そして、原作の主人公が憎い。そんな数々の願望を元に作られたものだ。そこに他人を想う気持ちなんてない。他人の心を揺り動かす力なんてない。あるのはただの暴力的で自分勝手で横暴なねじ曲がった醜い怪物だけだ。

 けど、原作主人公。この場合の織斑一夏は違う。

 果たして、織斑一夏は最初からラウラのことを落とすつもりで戦っていたか。はじめからラウラが暴走する可能性という物を想定していたか。ラウラが暴走していた時に、助ければ好きになってもらえるなんて欲望のもとで動いていたか。ラウラを助ける時、絶対に死なない、そんな保障がどこにあったか。そして、ラウラに言った自分が守る。あれが、ラウラのことを落とすつもりで発した言葉だったか。

 全て否。全て、一夏の欲望の元に出た言葉、しかしその欲望は欲求に基づいた行動ではない。本当に誰かのことを想って、誰かのことを心配して、そして誰かのことを命を賭けてでも助けたいと願った真の欲望。転生者やオリ主のようにねじ曲がった負の欲望なんてものじゃない。

 彼女、クラリッサはそれを伝えたかったのだ。しかし。

 

「だが……だがッ! ……織斑一夏は二人いるんだぞ……それも一方は織斑一夏の記憶をコピーしただけの偽物だ。私はどうすればいい? どう行動をとればいい? 教えてくれ、クラリッサ……」

 

 消え入るような、願うようなその言葉に対し、クラリッサはしばし沈黙した。そして、言う。笑みを浮かべて、安心したように。

 

『その迷いこそが、答えなのではないですか?』

「え……」

『私は、いえ私たちは信じています。隊長を、そして織斑一夏という少年たちのことを……』

「……」

 

 そういうと、クラリッサは電話を切る。

 彼女はラウラの言葉で確信したのだ。自分の隊長は、大丈夫であると。本質が分かっているのであれば、正しいとは言い切れないかもしれない、しかし誰もが幸せになる答えを知っているのだと。

 だがもしそれを容認しない者がいるとしたら、いや彼女の想像では、確実に一人の人物はラウラの答えに賛同はしないだろう。もし、自分の思った通りの人物であったのなら。もし、その考えが自分の思った通りだったら。

 その日、黒ウサギ隊の全メンバーが秘密裏にドイツを離れた。




 ちなみに『所詮は〜』のセリフの元ネタは、私と同じく二次創作小説を執筆している妹と二次創作について議論した際に出たワードです。
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