私がオルフェノクの方、つまり本物の一夏が操っているオリジナルISの名前を当初の『黒曜』から、『黒月』という名前にしているということを。
……ミスりました。恐らく、本小説始まって以来の大きなミスだと思います。
少女たちがそれぞれの戦いを繰り広げているなか、スタジアムの中では男たちの戦いが繰り広げられていた。
「ハァッ!」
「うッ!」
「一夏君!」
「行かせん!」
黒月の一夏の鎌型武器イザナミの攻撃を防いだ打鉄の一夏。だが、その勢いを殺し切ることが出来ずに衝撃が近接ブレードの奥、打鉄の一夏本人にまで及び、ダメージを喰らう。
それを見たクウガは、一夏を援護しようとトライチェイサーにまたがる。しかし、一夏のもとに向かおうとした彼の前に立ちふさがったのはディケイドである。
ディケイドは、ライドブッカーをガンモードにし、マゼンタ色の光弾を幾重にも放つ。
「ッ! ハァァァァ!!」
それでも、クウガは構わずにトライチェイサーのアクセルをふかした。耳をつんざくように大きな音を立てたトライチェイサーは、勢いよく発進したためわずかな時間だけウィリー状態になりながらも、ディケイドに向け直進する。
地面に次々と着弾する光弾、一部がクウガの身体を捉える。だが、それでもトライチェイサーは止まることなく、戦場に延びる矢の軌跡のように真っすぐに突き進んでいく。
「クッ!」
たまらずディケイドは横に転がるように避け、トライチェイサーはそのディケイドがいた地にタイヤの痕跡を付けて通り過ぎる。
「ふっ、少しはやるようにになったようだな」
ディケイドは、遠ざかるクウガの背中を見ながらそうつぶやいた。
少し前の彼であれば攻撃を避けるためにスピードを落とし、逆に集中砲火を浴びていたはずだ。
だが、彼はこちらの攻撃を物ともせず恐れることなく前に進んだ。これは、俗に無謀とも言われる勇気ある行動だ。
それは、時には自らの命を削る悪しき言葉でもある。だが、勇気なき行動では何も変わらない。誰もついてこない。ギリギリで命がけの行動だからこそ誰かがそれに感銘を受けるし、その人物についていきたいと思うようになる。そう、≪あの≫織斑一夏のように。
「一夏君下がって!」
「!」
クウガは、打鉄の一夏に向けてそう叫ぶ。一夏はその言葉を聞いてか聞かずか後ろに向けて全力で飛ぶ。
そしてクウガは、トライチェイサー事跳びあがり、その前輪を黒月の一夏に押してようとした。
黒月の一夏は、それをイザナミで防ぐ。鎌でトライチェイサーを切断するという方法も確かにあったが、クウガが鎌の間合いに瞬時に入り込んだために行動に移す時間もなかったのだ。
さて、鎌を使用してトライチェイサーを受け止めることはできた物の、このままでは折られてそのまま攻撃されることは時間の問題だろう。
「チィッ!」
「!」
ならば、と黒月の一夏はイザナミから手を離し、自らは空へと飛ぶ。
持ち主がいなくなり力が無くなったイザナミ、そして力の行き所を無くしたトライチェイサーのタイヤはそのまま空中に残ったイザナミを押しつぶし、鎌であった物を真ん中から二つに分かれさせて地面に降り立つ。
一方の空に飛んだ一夏はタイヤが掠るか掠らないかのギリギリで飛び上がり、空中からクウガ、そしてもう一人の一夏を見下ろせる位置へと到達する。
「空か……なら! 超変身!!」
クウガは、トライチェイサーから下車すると、マイティフォームからドラゴンフォームへと超変身し、地面に落ちている砕けたイザナミを拾う。
いや、砕けているというよりも切断されたという方が正しいかもしれない。バイクで踏みつけたというのにそんな鋭利な切断面となったことに少々疑問を抱くが、ともかくクウガがイザナミを拾い上げた瞬間、イザナミの破片は途端に姿形を変え、武器ドラゴンロッドになる。
そして、クウガは空中にいる一夏を見上げる。奇しくもそれは、空にいる一夏が初めてこの場所に現れた時と同じ状況であった。
「ハァッ!!」
クウガは、足に力を入れて一夏に向けて大きなジャンプをする。
仮面ライダークウガ、ドラゴンフォームは30m以上飛び上がることが出来るフォームだ。そのため、空中にいるISであってもこのフォームになれば攻撃を届かせることは確かに可能だ。しかし、忘れてはならない大きな欠点がある。
「そう簡単に近づかせるか!」
黒月の一夏は、クウガに向けて背中のポッドから無数の手裏剣型のミサイル≪フウマ≫が飛ばされる。
「クッ!」
身動きの取れないクウガにとって、それらが全て当たるということは必至。ドラゴンロッドを振っていくつかを撃ち落すことはできても、ダメージ0にまでは至らずに小規模な爆発であったとしてもクウガにとっては驚異的であった。
これがこのドラゴンフォームの欠点。確かにこのフォームは他のクウガのフォームよりも爆発的にジャンプ力を上げることが出来る。だが、それだけである。自由にそらを飛ぶことはできず、ただジャンプしたらそれっきりであるため直進的な動きしかできない。身体を回転させる、体勢を変えるなどして若干の方向の修正はできたとしても、大体の軌道は簡単に読めてしまうのだ。だからもし、その軌道を把握され、さらに相手が遠距離系の武器を所持しているとすると、これほどまでに狙いやすい的はないことだろう。
「ユウスケさん!」
地上にいる打鉄の一夏は、クウガが劣勢であると見るや否や、すぐに空に飛び出した。しかしこちらも忘れてはならない。この地上にはもう一人の敵がいるということを。
「仲間のピンチに周りが見えなくなるところが、お前の悪い癖だ……変身!」
≪KAMENRIDE GHOST≫
≪レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!≫
ディケイドは、一枚のカードをネオディケイドライバーに装填。瞬間、マゼンタのその特徴的な色合いの仮面ライダーは、オレンジ色のラインが浮かび上がる真っ黒な姿へと変身する。
そしてその身体に上からパーカーが舞い降りることによって一本の角が生え、オレンジ色の顔が浮かび上がった。命を燃やして戦った仮面ライダー、仮面ライダーゴーストである。。
「フッ……ハァ!」
ディケイドゴーストは、ライドブッカーソードモードを手に、打鉄の一夏を追うように浮かび上がる。
仮面ライダーゴーストは幽霊をモチーフとしていることからか、空を飛ぶ、浮かび上がるということがデフォルトの能力として備えられている仮面ライダーだ。そのため、空中を主戦場としている敵に対して数少ない適任であると言えるのだ。
「ッ!」
それを見た打鉄の一夏は、反転しアサルトライフル焔備を放つ。
一夏が元々使用していた専用機白式にはこのような遠距離系統の武器は存在しなかった。だがだからと言って一夏が銃の扱いに慣れていないというわけではない。授業の合間合間を見て、シャルロットやセシリアに教えを受けていた事が功を奏した。さすがに彼女たち程とは言えない物の、最初にこの学園に来た時と比べると、はるかに射撃技術は向上しているのだ。
「フッ」
とはいえ、それまで実践ではほとんど近接戦しか経験のない一夏と実戦経験豊富な門矢士の間には確実に乗り越えることのできない大きな壁があった。
「ッ! なんで!?」
軽やかに、それこそ風に乗るかのように乱射されるアサルトライフルの球を避けていくディケイドゴースト。それは、あまりにも自然的すぎて、弾が彼の身体を通り抜けるかのようにも見えた。先ほどの直線的な動きしかできなくて攻撃をほとんど喰らっていたクウガと全くと言っていいほどに対照的だ。
「はぁぁ!!!」
「ッ!」
ディケイドゴーストは、ライドブッカーを振るう。幸いにも、その攻撃は一夏に当たることは無く、焔備に当たる。いや、どちらかと言えば一夏が焔備にライドブッカーの刃を当てて自身の身体に当たるのを防いだと言ったほうが正しいのかもしれない。
それは彼自身が意識的に行った物ではない。ただ、無意識のうちに行われた行動、直感的に身体が動いた結果がこれだったのだ。
焔備から手を離した瞬間、真っ二つになる焔備。そして小さな爆発が起こり、爆風が打鉄の一夏を襲う。だが、規模が小規模であったため打鉄のシールドエネルギーは若干の減少を見たのみで済んだ。
「悪いが、俺はもう一人の一夏と違って手加減はしない」
手加減するしない以前にもう一人の自分が手加減していたなんて初耳だと思いながら、一夏は体勢を立て直す。
遠距離武器を失ったのはかなり痛いことである。だが、元々自身は近距離戦闘が得意であり、アサルトライフル自体自分は牽制目的で持ってきたと言っても過言ではないため、戦力が半減するということは無いのが救いか。
しかし、その代償として彼には、彼らには他にも支払わなければならないものがあった。
「うわぁ!」
「!」
クウガはその叫び声と共に空中から勢いよく地面に激突する。
そう、打鉄の一夏がディケイドによる妨害によってクウガを助けにいくことができなかったために、黒月の一夏の攻撃を一切防ぐ手だてがなかったクウガは、そのまま攻撃を受け続けるしかなかったのだ。
結果、クウガは攻撃のほとんどをその身体に受けて地面に激突するしかなかった。
黒月のミサイルによる攻撃、それにこの地面に激突する衝撃。とても耐えられるものじゃない。そう誰が見ても考えるだろう。しかし実際には違っていた。昨日も、そして今も。
「くっ、うぅ……」
「あれは、銀色のクウガ?」
「タイタンフォームで防御力を上げたか。あの攻撃を受けながら大したものだ」
ディケイドは打鉄の一夏と対峙しながらそう呟いた。
そう、クウガは上空で黒月のフウマの爆風にさらされるなかで自らの変身のなかで最も防御力に長けたタイタンフォームへと超変身していたのだ。
彼がこの戦略を使うのは、これで二度目。一度目に使用したのは昨日の鈴音戦で同じように地面にたたきつけられた際に使用していたのだ。とはいえ、あの時は今回以上に大きな土煙が上がっていたため誰もそれに気が付いていなかったのだが。
クウガは、立ち上がりながら考えていた。自分の使える対空中戦の戦闘方法は三つ。内一つであったドラゴンフォームでの攻撃は、早々に破られてしまった。使える戦術が減ってしまったことに関してはダメージが大きい物のまだあと二つの戦術がある。だが、二つの戦術の内一つはドラゴンフォーム並み、いやそれ以上に失敗したときのダメージが大きい物。使うにしても自らの身体が何等かのタイミングで隠れている時を狙うしかない。
となると、とれる方法は一つしかない。
「流石の防御力だな。だが、これならどうだ?」
黒月の一夏は、不気味な笑みをうかべると黒月の後ろのバックパックが変形していき、一夏の前面に展開、巨大な砲台のようなものに変わる。
「対大型敵性生物用決戦兵器。サムライヅツ……一度の戦闘で一回しか使えないが、その分威力はあるぜ」
アレはマズイ。打鉄の一夏も直感的にそう感じた。そもそも一度の戦闘で一回しか使えないという時点で、強大な威力を持っているということを表している。つまり、そのたった一回だけでも戦闘を決めてしまう可能性があることを表しているではないか。
止めるべきだ。打鉄の一夏は、すぐに行動に移そうとする。しかし、結局のところソレはディケイドゴーストによって止められる。
「よせ、もうあの大砲のチャージは始まっている」
「だからって!」
確かに、見ると黒月の一夏のサムライヅツは淡い光を放ちエネルギーをためているように見える。仮にこれで一夏が止めに入ってもチャージが終わってしまうほうが早いかもしれない。
けど、だからと言って止めないわけにはいなかった。だが、それでもディケイドゴーストは言う。
「今止めに入ったら巻き添えを喰らうぞ」
もし、止めに入ろうとしている時にあの銃を撃たれてしまえば、ユウスケだけじゃない、打鉄の一夏のほうにも大きな被害が出てしまう。撃たれる前に止められたとしても、エネルギーを充填している現在の状態で止めてしまえば、行く先の無くなったエネルギーが暴走して爆発する可能性もあり、やはり一夏が巻き添えになる可能性があるのだ。
どのみち、この状況で彼にできることはただ一つ、確実に安全であるともいえるこの空中で、サムライヅツが放たれるその瞬間を黙って待つことだけだ。
しかし、そう言われても何か行動に移さないと。このままじゃユウスケを守ることが出来ない。そう心の中の募りを隠し通せない打鉄の一夏に対してディケイドゴーストは言う。
「一夏、お前はアイツのことを、ユウスケのことを信じていないのか? それが、お前にとっての守るということか?」
「ッ!」
「守るということは、ただ自分が動けばいいって事だけじゃない。相手のことを信じて待つって事も大事なんじゃないのか?」
「あっ……」
刹那、一夏の脳裏が水面に水滴が落ちたかのような感覚に陥る。
考えてみると、俺は自分一人で仲間たちを助けてきたのか。違う。俺だけじゃない。箒や鈴、セシリア、数多くの仲間たちのおかげで、クラスメイトを、この学園の人たちを助けてきたんじゃないか。そうだ、俺一人の力じゃない。俺だけじゃできなかった。みんなが一緒だったから。みんなで一緒だったから。仲間たちを信じてきたからこそできた事じゃないか。独りぼっちじゃできないことでも、仲間たちと一緒ならできるから、俺は笑顔で空を飛ぶことが出来たんだ。みんなが一緒にいたから、俺は安心して戦うことが出来たんだ。たった一人ですべてを救うことなんてできない。もしそんなことが出来る者がいたら恐らく、ソイツは人間じゃない。人間の皮をかぶった別のナニカ。そんなモノ、誰からも畏怖の対象にされ、恐怖に慄き、避けられる存在になるはずだ。だって、人間は不完全なのだから。完璧な人間なんて存在しないから。だから人は人同士で集まりあう。肩を寄せ合う。弱いから。人間は一人一人が弱いから。けど、だからと言って相手を弱いと切り捨ててその全部を守っていてもしょうがない。だって、人間が弱いのが当たり前なのだから。信じなくては。例え人間が弱い存在であったとしても、仲間たちはその弱さの中に強さを見つけることが出来る人間なのだと。信じなくては、守るという言葉を構築する最後の一ピースを。
だから一夏は信じることにした。今、地上にいるクウガのことを。
彼ならば、必ず一人でも自らの身を守ることが出来るということを。
「これで、終わりだ!!」
「ッ!」
一夏は、真剣なまなざしでクウガに向かって閃光が伸びる瞬間を見る。だが、その目には絶望なんてものはなかった。そこにあったのはただ一つ。仲間を信頼している者だけが見せる期待の目つきだけだった。
スタジアムの観客席に向かう通路。そこには、この無人のスタジアムの中にただ一人だけ、決闘を見守っている女性がいた。
女性の手には、スマートフォンが握られている。その女性は、上空にいる二人の一夏の姿をみるとただ一言つぶやいた。
「速く来い、時間がないぞ」
と。