仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界2-14

 目の前で起こった爆発と閃光。吹き荒れた爆風は嵐のように鋭くその身体を襲い、爆発によって吹き飛ばされた地面の一部もまた飛びところどころの身体に当たる。

 鼻の奥に突き通る火薬と土のにおいと共に焦げ臭い香り。そして巻き起こった黒煙は濃く、太く、空高くにまで上るほどだったため、その攻撃だどれほどの威力であったことか容易に想像できる。

 サムライヅツはやはり、衝撃に耐えきれずにス火花をいくつも発生させながら爆発する。黒月の一夏はその小さな爆発にも巻き込まれないようにサムライヅツを切り離し、地面へと落す。

 これほどの威力だ。今は黒煙の中にあるためその全容がはっきりとは分からないが恐らくスタジアムの地面のほとんどがえぐれてクレーター状になっていることだろう。と黒月の一夏は考えていた。

 エネルギー残量を見た黒月の一夏は驚いた。あれほどの威力の武装を使った後だというのに、まだ最初に比べても半分はエネルギーが残っているのだ。これは周囲の自然エネルギーを吸収して発射することによってIS自体のエネルギーの消費を抑えるというサムライヅツに備わっている特性が影響していた。これで、打鉄の一夏とまだ戦える。

 しかし、一つ気になるのは自分が狙っておいて何ではあるが、仮面ライダークウガ、小野寺ユウスケのことだ。確かに束からは黒月の武装の中でも最大クラスの威力を持っているとは聞かされていたのだが、まさかこれほどまでとは思わなかった。

 恐らく、ISのシールドならば耐えきれることを想定していて、いやあの威力だそもそもそんなこと考えずに威力だけを追求していた可能性がある。

 そもそも対大型敵性生物用決戦兵器などという名称がつけられている武器だ。元々普通のISを相手にして使うべきものではなかったのかもしれない。はっきり言ってオーバーキルも甚だしい。

 

「大丈夫……だよな? あの人?」

 

 本来であれば、ディケイドにまかせっきりの状態にしているもう一人の自分の方に向かうところであるが、せめて生死の確認だけしておかなければ気になって仕方がないので、黒月の一夏はゆっくりと高度を下げていく。

 その時だった。黒煙を切り裂き、黒い尾を引いて虫の形をした何かが黒月の一夏めがけて飛んできた。

 

「なに!?」

 

 アレは何なのだ。先ほどまでは紛れもなくこのスタジアム内にはいなかった存在のはずだ。自分がサムライヅツを放った瞬間にスタジアムの外から現れたのか。それとも、何者かがディケイドのように別の存在に変身したのか。だが、そのようなことを考えている暇などなかった。

 

「ッ!」

 

 一夏は、突撃してくるソレとすれ違うように避ける。スレスレではあったものの何とか避けた一夏の背後に回ったソレは、さらにその姿を変えた。そして、その姿は紛れもなく彼らが知っていた物であった。

 血のように赤い装甲に身を包み、クワガタムシのようなツノを持ったその仮面ライダー、その名も。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

 仮面ライダークウガ、である。

 クウガは、握りこぶし一つで空中の黒月の一夏にとびかかった。

 

「クッ!」

 

 一夏は、黒月に搭載していた予備のイザナミを出現させるとその攻撃を防ぐ。イザナミは、ビーム状の鎌を出さずにいると、棍棒状の武器へと変わる二つの用途を有した武装であるのだ。

 

「ハァァ! ハァッ!」

 

 だが、クウガの攻撃はそれでは終わらない。クウガは握り拳を開くとイザナミを持ち、一夏を引き寄せるように力を込め、腹部を持てる力を全て込めて蹴り切る。

 

「ぐあぁぁ!」

 

 一夏は、その攻撃でやや後ろへと飛ばされる。クウガ自身は、イザナミから手を離し、再び巨大なクワガタのような姿に変形し、一夏の身体を頭上のハサミで挟み込んだ。それまでは劣勢だったクウガが、ここにきて初めて有利に立った瞬間である。

 

「あれは、一体……」

 

 打鉄の一夏は、突如変形したクウガに困惑の表情を向ける。それも当然だろう。人間であるはずのクウガが、突如として関節の曲がりなど完全に無視して変形してクワガタ虫のようになったのだから。本来であれば彼が生きていることが分かって安心するべきところではあるが、あまりにも突飛な出来事が目の前で起こりすぎて驚愕してそれどころではない。アレは一体何何のだろか。

 

「クウガゴウラムだ」

「え?」

 

 その答えは、ディケイドが知っていた。

 

「アレは、ファイナルフォームライドで仮面ライダークウガが変形して生まれた物だ。本来は、俺がカードを使わなければ変形することはできないんだがな」

 

 そう言って、ディケイドは恐らくそのカードであると思わしきものを一夏に見せる。確かに、そこにはクウガの姿と、彼が今変形しているクウガゴウラムという物の姿があった。

 このクウガゴウラム、ディケイドの言う通り本来はカードを使用しなければ変形することのできない姿のはずだった。しかし、ディケイドが世界の破壊者としての使命を受け入れて全仮面ライダーを相手にして勃発したライダー大戦の折、最後に残った(と本人は思っていた)クウガが自分の意志で変形したことがあった。それ以来、ディケイドのカードの力を使用せずとも自らの意思で変形できるようになったのだ。

 

「アイツは、あの力を自分で制御できるようにした、なら……」

「え?」

 

 それだけ言うとディケイドゴーストは、イヤと声を繋ぐと仮面ライダーゴーストの武器であるガンガンセイバーを持つという。

 

「後は自分で考えろ!」

「クッ!」

 

 こうして再び二人の対決は再開された。

 ディケイドが何を言おうとしていたのか、結局最後まで聞くことが出来なかった一夏ではあるが、しかし、士が自分に言おうとしていたことは、とうの昔に分かり切っていた。

 

(士さん、アンタは俺に伝えようとしてくれてるんだろ? 例え、誰かを殺すかもしれない力を持っていたとしても、その力も制御することが出来るんだって)

 

 ワームである自分は、その本能からいつ暴走して誰かを襲うのか分からない。自分にとって、自分が変身している一夏にとって大事な人である箒たちにいつ手を挙げるのか分からない。でも、それでも自らの意思でその本能を制御することが出来れば、そうすれば……。

 

(けど、違う、違うんだよ! 俺と、あの人は! あの人の力は全然違う!)

 

 自分の力はそんなにきれいな物じゃない。あの人の力は、他人を守るための力だ。けど、自分のはただ誰かを傷つけるかもしれない。そんな力であって、制御できたとしても何もいいことなんてない。むしろ、その制御が利かなくなったら誰かを殺すかもしれない。そんな時限爆弾のようなものだ。そんな力制御できたとしても何もいいことなんて。

 

「あいつと自分の力は全然違う……か?」

「え? ッ!」

 

 考えながら戦っていた一夏に対して、ディケイドゴーストはつぶやくように言った。それによって力が一瞬だけ抜けた一夏に対し、ディケイドゴーストは剣を振るう。油断は禁物ということだろう。

 

「確かに違う。だが、アイツにはもう一つ力がある。制御できなければ、多くの笑顔を奪う怪物となるしかない。そんな力がな」

「それって……」

 

 俺と同じだ。

 ディケイドが言っているのは仮面ライダークウガアルティメットフォームのことだ。全身を黒く染めたソレは、クウガの敵であるグロンギの大多数を一撃で倒せるほどの力を持ち、またその能力は多岐に渡る。まさしく凄まじき戦士というその異名に恥じぬ究極の力を持つ者なのだ。

 だが、その姿は制御することが難しい。いや、実質不可能に近く、もし変身すればグロンギ同様ただ戦うためだけの生物兵器になってしまうという恐ろしい物なのだ。

 かつて、別世界のクウガである五代雄介もまた最後のグロンギ、ン・ダグバ・ゼバを倒すため、ただそれだけのために短い時間のみ変身した姿。その時には、全てが真っ黒に染まるはずの身体において、複眼の部分だけが赤のままとなり、完全に闇に染まり切らなかったことが原因で五代雄介は自らを見失わずに済んだ。

 そして五代雄介と同じく仮面ライダークウガの姿になった小野寺ユウスケもまたライダー大戦の際にアルティメットフォームとなった。全身が真っ黒になり、本来であれば暴走するはずだったその姿に。しかし、彼は暴走しなかった。それは何故か。

 

「アイツは受け入れたんだ。究極の闇の力を。例え、その力で自分の身が破滅しようと、誰かの笑顔を守れるのなら……ってな」

「そんな、もし失敗したらその誰かを殺すかもしれないのに……」

「あぁ、だからアイツはそんなに容易くその姿になることは無い……だが、いざその時になったら、アイツはためらいなくその姿になるだろうな」

「……」

 

 誰かを殺すかもしれない。でも、その力で誰かを助けられる。自分が傷つくかもしれない。でも、それでも誰かのことを守りたい。そのためだったら、身の破滅すらも恐れない強い男。それが、小野寺ユウスケ。だったのか。確かに、自分なんかと違う。なにより違うところ、それは彼は自分の力に立ち向かっているということだ。

 対して自分はどうだ。自分はただ誰かを傷つけるのが怖いって、ただそのためだけに力の制御から目を背け、逃げ出そうとしていた。誰かを傷つけるのが怖い。違う。本当に怖かったのは、誰かを傷つけて傷ついてしまう自分の心だ。自分はただ守りたかっただけだ。自分自身の心を。恐れていただけだ。織斑一夏という人間がやらないことをやってしまう自分を。

 自分は臆病風に吹かれていたのかもしれない。守れる力がすぐそばに、自分の中に備わっているというのに、ソレを怖いものだとずっと思って、見ようともしなかった臆病者だ。自分には守れる力があるのに、誰かを笑顔にすることが出来る力があるのに、その思いが、心があるというのに。

 もう、逃げ出す自分はやめよう。もう、自らの力を畏怖する自分はやめよう。もう、人間として≪だけ≫の自分からは卒業しよう。

 

「けど、そのためには……」

「ん?」

「俺は……お前を……」

 

 打鉄の一夏は、空中を飛び続けるクウガゴウラムに向けて飛ぶ。すべての決着をつけるために。

 

「ふっ、世話のかかる奴だ」

 

 ディケイドゴーストはその姿を追うことは無かった。

 

 一方、劣勢である黒鉄の一夏は、この状況を打開する方法を考えていた。しかし、どれほど考えてもこのクウガゴウラムのハサミから逃れる方法が思いつかない。

 このハサミの万力が閉じ塚の如くきつい締め方、とてもじゃないが力技で外すことはできない。なら、クウガゴウラム本体の方を何とかしなければならないが、イザナミの鎌では、クウガゴウラムの堅い装甲を突破することは不可能。スピードをプラスした攻撃であればなんとかなったかもしれないが、動きを封じられている中でそのようなこと到底不可能だ。それに、クウガゴウラムのハサミによって黒鉄のシールドエネルギーは減り続けている。このままいけば、すぐにエネルギー0残量は底を付いてしまうだろう。

 万事休すだった。このまま、自分はもう一人の一夏との決着をつけないままに彼女たちの元から去ってしまうのか。そんなこと、嫌だ。けど、結局今の一夏には何も逃走手段はない。一方で、クウガの方はただ一夏のことをこのままはさみ続けてそらを飛び続ければそれで戦いは決する。

 ソレでいいのか。本当に。

 クウガには迷いがあった。確かに一夏はIS学園を襲撃し、友の心を傷つけ、復讐すると言ってのけた悪人。しかし、そんな一夏に対して救いの手を差し伸べた人間がいた。

 自分の仲間であり、数多くの世界を共に救ってきた仮面ライダーディケイド、門矢士。

 あの男が何故襲撃者である方の一夏を助けようとしていたのか、何故自分たちと敵対する道を選んだのか、それが分からない。

 これまでの旅の経験からして、彼が意味のない行動をとるということはほとんどない。と、ユウスケは思っているが実際のところ特に意味もない行動をとることが多々あるのが門矢士という男であることをユウスケはあまり理解していないのだが、それは置いておこう。

 改めて、意味のない行動をとることがないはずの門矢士が、わざわざ襲撃者である方の一夏の味方をした。これには一体どんな意図があるというのだろうか。一夏を説得するため、獅子身中の虫になるため、ありとあらゆる可能性が思い浮かぶし、彼だったらやりかねないという信頼に近いものがある。けど、なんだかソレとは違う気がする。

 ユウスケ自身もよくわかっていないが、しかしなにかが引っかかるのだ。何なのだろう、自分は何を見落としているというのだろか。一体、何を。

 

『守り切れるかよ!! あんたにもな!!』

『一番許せねぇのはお前だ……お前がいたから……人生を奪われたんだ……。俺は……あんたを絶対に許さねぇ……絶対にだッ!!』

『人間……か。甘すぎる……甘すぎるんだよ、お前は!』

『世界が崩壊しようが、この学園の生徒がどうなるかなんて知ったこっちゃない。そもそも、俺は世界の破壊者だからな。それでも止めたいのなら……力づくで止めて見せろ』

 

 まさか、二人の目的は。織斑一夏がここに帰ってきた本当の理由は。

 その時だった。一つの影がクウガゴウラムと黒月の一夏の間に入り込んだのは。

 

「ッ!」

「なにッ!」

 

 勢いよく飛び込んだその影は、クウガゴウラムのハサミを力づくで開こうとする。完全には開くことは無い、しかしわずかながらにハサミの力が緩くなり、黒月の一夏は身体を捻ることによってクウガゴウラムのハサミから逃れることに成功し、二人の間に入った打鉄の一夏もまた、黒月の一夏を追う。

 そう、打鉄の一夏だ。クウガにとって味方であったはずの打鉄の一夏が、ワームの一夏がもう一人の一夏こと、オルフェノクの一夏のことを守ったのだ。

 けど、どうして。

 

「一夏君……」

 

 困惑するユウスケは、ワームの一夏の背中に向けてつぶやくように彼の名前を呼んだ。

 

「すみません、ユウスケさん。でも……こいつだけは、もう一人の俺だけは、俺が戦わないと……」

「……分かった」

 

 何か、覚悟を決めたのだろう。二対二ではない。一対一のタイマンを織斑一夏は望んだ。

 こういわれてしまえば、本来この勝負のサポート役であった自分の役目は終わりだ。クウガゴウラムは、サムライヅツによって崩壊した地面ではなく、観客席のほうへと降り立ち、元の仮面ライダークウガの姿になる。

 観客席に降り立ったクウガの姿をみた打鉄の一夏は、黒月の一夏を見ると言う。

 

「待たせたな……決着を付けよう」

「……ハッ! そう来なくちゃな! 面白くねぇ!!」

「いっくぜぇぇぇぇ!!!」

 

 この最終決戦、初めて他の誰かの邪魔のない二人だけのタイマン勝負の場が訪れた。

 最初に仕掛けたのは打鉄の一夏。近接用ブレード葵にて斬りかかる。黒月の一夏は、自分に残っている数少ない武装の一つイザナミを構える。それは、まるっきりこの戦闘の一番最初の突撃の再現のようだ。あの時は、違いといえば、あの時と攻守が逆転しているくらいである。

 

「フッ……」

「なに!?」

 

 だが、二人がぶつかり合うことは無かった。葵を両腕で持って構えていた打鉄の一夏は、突然左手だけを離し、アサルトライフルの焔備を出現させて黒月の一夏に向けて放った。

 

「クッ!」

 

 打鉄の一夏が突撃してくることを予想していた黒月の一夏は、相手が攻撃方法を変えてきたことに対して驚きながらも、冷静にイザナミを回転させて疑似的なバリアを出現させる。バリアは、アサルトライフルの銃弾をはじいていく。いくつかの弾は散発的に自らに当たってはいるが、シールドエネルギーが若干量減っているくらいで致命傷にはならない。

 だが、打鉄の一夏の攻撃はこれで終わりではなかった。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 葵をもった一夏は、その刃先をイザナミのバリアを作り出している一夏に向けるとその中心を貫くかのように力を籠める。

 計算か、それとも偶然だったのか、このバリアの中心部分はもっともエネルギーが小さく、その場所に継続するダメージは、徐々に徐々にバリアの出力を奪っていく。

 そして、ついにバリアは完全に消滅し、黒月の一夏はじかれたかのようにイザナミを吹き飛ばされ、体勢を崩してしまう。

 

「これでぇぇぇぇ!」

 

 相手ISの武装はこれで全て無くなったはず。あとは、この葵で斬りかかれば、クウガゴウラムによってエネルギーを削られている一夏は元も子もないはずだ。

 勝利を目前とした一夏、しかしその時になってようやく気が付いた。

 昨日現れた一夏の操縦していた≪黒曜≫は、こんな形だったかと。

 

「フッ……」

 

 その瞬間だった、黒月の紫色のラインが鮮血と見間違うがごとくに赤く光り輝き、その姿を瞬時に変形させたのだ。

 

「クッ!」

 

 それに目がくらんだ打鉄の一夏は、スピードを緩めてしまう。その隙を黒月の一夏、いや黒曜の一夏は見逃さなかった。

 

「フッ! はぁぁぁぁ!!!」

「ぐあぁぁ!!」

 

 黒曜の一夏は打鉄の一夏の腕を蹴り上げると、そのままの勢いで打鉄の装甲を殴り、抉り、引きちぎる。

 

「う、腕が……」

 

 手が動かない。いや、正確に言えば打鉄の手の内部機構まで破壊されてしまったのだ。先ほどの、たった一度の攻撃だけで致命的なダメージだ。これはまずい。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 黒曜の一夏はその後も息をつかせぬような殴る、蹴るの連撃。黒月が様々な武装を使用しての戦法であったのに対して、黒曜はその真逆を行く、武器を一切使わない徒手空拳のみでの戦法を得意としているのだ。そしてその破壊力、攻撃力、速度、ともに黒月の倍か、それ以上の力を有しており、一切逃げることが叶わない。

 

「こ、このままじゃ……」

「ハァァァ!!!」

「グッ!!!」

 

 連撃の最後に腹部に蹴りを入れられた打鉄の一夏、スラスターにもダメージが入ったことによって出力の調整が出来ずただ地面に落ちていくしかない。

 地面にクレーターを作って落ちた一夏。その周囲には先ほどのサムライヅツによって数多くのクレーターが存在していたのだが、その中でも一番きれいで、均等な大きさのクレーターはここしかない。

 そのクレーターの中心にいる打鉄の一夏を見下ろすように黒曜の一夏もまた舞い降りる。

 打鉄の一夏は、ゆっくりと顔を上げながら言う。

 

「お、驚いたぜ。まさかこんな隠し玉を用意しているなんてな」

「あぁ、俺もビックリだよ」

 

 この反応、彼もまた黒月が変形するものであるということを知らなかったということか。もし知らなかったとして、すぐさまそれを操ることが出来る能力というのは、一種の才能だ。さすがは敵になったとはいえ織斑千冬の弟である。

 けど、だったら俺も、偽物だったとしても、織斑千冬の弟。絶対に負けたくない。

 

「立てよ、ISが動かないんだったら、生身で勝負だ」

「あぁ……そうだな」

 

 もう打鉄は再起不能だろう。この戦いの後修理を頼んだとしても直るかどうか分からない。

 黒曜の一夏はISがダメでも生身での戦いを望む。人間同士、いや怪物同士での決着を最後まで付けるにはそこまで必要なのか。いや、必要なのだろう。何せ、自分たちには力があるのだから。怪物化という普通の人間にはない恐ろしい力が。

 だが、それにはまだ早すぎる。

 

「こっちの、隠し玉を見てからな!!」

「なに!?」

 

 そう叫びながら打鉄の装甲を砕き、その中に手を突っ込む一夏。そして、打鉄の中の様々な機械を引きちぎりながらも取り出したのは、黒曜の一夏も見覚えのあった白いブレスレットだ。

 

「おいおい、バッテリー切れてたんじゃなかったか?」

「あぁ、だから打鉄のエネルギーを少しずつ使って充電しといたんだ。本当はお前のISが消耗してきたタイミングで乗り換える予定だったんだけどな……」

 

 それは、試合のルールには完全に違反している行為。途中で別のISに乗り換えるなどということは決してできない。しかし、それは公式戦、試合という戦闘とは違う物の場合のみに適応される物。そう、これは試合じゃないのだ。だからと言って何をしてもいいのかと聞かれたら違うと胸を張って言うことが出来る。しかし、昨日の戦いのとき小野寺ユウスケは自分が勝つ確率を少しでも上げるために千冬に頭を下げるという屈辱的な行為をしてでもISのデータを受け取った。確かに、それは正々堂々という物からはかけ離れたものであったのかもしれない。しかし、ルールや掟に縛られた人間が自由な発想を持つことが出来ないのと同じように、常に誠実に、そして公平にと戦おうとすればするほど敗北を喫し、何も守ることが出来なくなる。そんなこと、御免だ。

 

「俺も、皆を守るためならなんだってやる。そう決めたんだ」

 

 一夏はユウスケから教えてもらった。例え正義の味方であったとしても、誰かを守るためなら、どれだけ汚い泥でもすすって生きていかねばならない。時にそういう時が来るのだと。その時、それでも正しいことを捻じ曲げることは悪のすることだと頑固になってしまえば、自分の守ろうとしたものを守ることすらできずに、被害は大きく広がってしまう。

 ルールを守ることは簡単だ、だがルールを破ることはもっと簡単だ。それなのに人はルールを守ることに一生懸命になる。それは世の中がルールを絶対に守らせるようにできているから、ルールを守らないような人間を排除していくから。確かにそれは正しいのかもしれない。しかし、時にはルールを破らなければならないような状況に陥ることは多々ある。車にはねられそうになる子供を助けるために赤信号の中飛び出したり、ホームから転落した人間を助けるために線路に飛び降りたり、救命処置のために女性の衣服を破いたり、それらはすべて突き詰めていけば罪に問われかねない物。だが、それでルールを守ったとして、待っているのは人を救えなかった悲しみのみ。どうして、自分は救おうとしなかった。動けたはずなのに何故動かなかった。自分の判断は間違っていなかったのか。その両親の呵責に悩まされることになり、やがて人は絶望の中に沈むことになる。そうなる前に行動をするべきだ。もしかしたら、それは自己満足なのかもしれない。例えルールを破ったとしても人を助けられたのだから後悔はしていない、それは、ただ自分の罪を正当化しているにすぎない。ルールを守っても、ルールを破っても、またそれでどのような結果が待って言おうとも誰かがほめてくれるわけじゃない、どれもが正しいと決まったわけじゃない。それでも人はルールを破ってでも立ち上がる。そこに命がある限り、守るべきものがある限り、そしてもしそれが破ってはいけないルールだった場合、大丈夫何とかなる。どれだけの大馬鹿野郎であったとしても絶対にいるのだから、≪お前、何やろうとしているんだ≫と、正論をぶつけて止めてくれる誰かが、友が、見知らぬ人間がいる。だから、人はおろかな道であったとしても前に進もうとするのだ。ソレを悪だと断言してくれる人が周りにいる限り。

 

「来い……」

 

 一夏は集中する。ソレを呼ぶために、そんなことをする必要もないだが、それでも一夏は心を込めて相棒の名前を呼ぶ。もしかしたら、これが、この≪変身≫が最後になるのかもしれないから。

 

「白式ッ!!!!」

 

 織斑一夏の専用機、白式復活。そして純白のISと、漆黒のIS、相対する二つの存在がついに向かい合った。決闘の終わりは近い。




 本物一夏のISの名前を間違えただって? まんまと騙されてくれたな(作者が)。
 まさか、黒曜とは黒月の強化フォームの名前だったなんて……。知らなかったぁ……。いやマジで。
 一体どこに秘密が隠れているのか分かりませんね。
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