仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界2-20

 暗い、冷たい。それが彼女の意識が覚醒した瞬間に感じた感情だった。

 どうやら、自分は眠っていたようだ。あれからどのくらい時間が経ったというのだろうか。

 見えるのは、必要最小限の明かりをもたらす小さな電灯、それから殺風景な天井。それに、この匂いは線香だろうか。

 

「ここは、私は一体……」

 

 ダメだ、情報が少なすぎる。まずは、自分がどこにいるのかを知らなければ話にはならない。

 起き上がって近くにいる誰かに事情を聞こう。そう思い、少し首を動かした。すると、そこには自分がいた。

 いや、正確には自分に擬態したワームが、何か驚いたような表情をしてこちらを凝視していた。

 

「どうした、そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして……」

「あ、あぁ……」

 

 とりあえず、知っている人間。と言ってもほとんど自分であるのではあるが、そんな人間を眼にして安心する。

 彼女に聞かなければならない。一夏のことを。本当は、もっと気になることが一つだけあったのだが、その前にゆっくりと起き上がった彼女は聞いた。

 

「一夏は、どうなった?」

 

 と。

 まずは自分のことをと思っていたはずの彼女が目覚めて最初の質問が一夏の事なのはもはや驚くことなどない一般常識のようなものだ。

 ワームの千冬は、苦虫を嚙み潰したような顔をして言う。

 

「ドイツ軍が現場に着いた時には、気絶して意識がなかったそうだ。つい先ほど目が覚めたが……記憶を無くしている」

「記憶を……」

 

 精神的ショックが原因か、身体的な怪我が原因だったのかは分からないそうだ。

 それより、やはりドイツ軍があの後すぐに到着したようだ。そこで、犯人たちも二人逮捕された。本当は、三人組の犯罪であったそうなのだが、一夏を監禁していた火薬庫で発生した爆発事故によって一名が死亡したらしい。

 今回、犯人二人が一夏を連れて車を走らせたのは、その爆発事故によって監禁場所が使えなくなったため、だったそうだ。もしかして、その爆発事故の際に一夏は頭を打って記憶をなくしたのかもしれない。

 それにしても、ドイツ軍に対して、自分のことを彼女はどう説明したのだろうか。モンド・グロッソの決勝戦に出場していたはずの織斑千冬と同じ顔をした者が、弟の織斑一夏のすぐそばで倒れていた。そんな怪奇現象が起こったのだから。不思議がらないはずがない。

 

「千冬、私のことはドイツ軍にはなんと?」

「安心しろ。お前は私の影武者で、私の代わりに一夏を助けに行ってもらっていたということにした」

「そうか……」

 

 自分は前回のモンド・グロッソの優勝者。だが、それすなわち兵器として用いられる可能性もあるISを一番上手に操ることが出来る人間ということ。他国の軍が自分のことを狙いに来るということは十分に考えられることだから、ワームの言った影武者という言葉を、ドイツの軍人は簡単に信じてくれたらしい。

 さて、本題に入ろう。千冬には一つ懸念事項が存在した。あの一夏。車の中で眠っていた一夏を見た時に感じた違和感、あの時は本当にただの違和感でしかなかったのだが、こうして彼女に会ってみると分かる。やはり、あの一夏の正体は。

 

「千冬、一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「……あの一夏は、ワームだろ?」

「……」

 

 ワームは顔色を一切変えることは無かった。多分、分かっていたのだろう。自分からこのような質問が飛んでくるということを。

 ワームは、ふぅと息を吐くと言った。

 

「そうだ。あの一夏は、私と一緒にあのオーロラの中に入ったもう一体のワームだ」

「やはり、そうか……」

 

 千冬は、自分に掛けられた厚い白布団を掴む。分かっていたことだ。あの一夏が本物ではないと。だが、それでも一縷の望みを託してこの質問を投げかけた。

 否定してもらいたかった。自分に一夏に対しての愛が足りないだけだと言ってもらいたかった。しかし、それもすべて無駄な願い事であった。

 

「では、本物の一夏は?」

「消息不明だ。火薬庫にあったのは、犯人の一人と目される成人男性の遺体のみ。恐らく、ワームが出現したオーロラに飲み込まれたのだろう……」

「では、別の世界に?」

「いや、オーロラは時に同じ世界に繋がることもある。可能性はかなり低いが、まだこの世界にいる可能性も……」

「そうか……」

 

 一夏が、弟がまだ生きているかもしれない。その可能性はあった。あまりにも小さな可能性だが、それでも屍がなかったのならば、生きている可能性は十分にある。

 

「なら、早く助けに……」

 

 千冬は、自分が寝かされていたベッドの上から降りようとする。

 と、ここで気が付く。痛みがない。何も。あの足の、腕の、頭の痛みも何もない。それどころか、何年間もの休みをもらった時のようにすがすがしい気分だ。

 それはおかしい。ここ最近は、モンド・グロッソ前回チャンピオンとしてのプレッシャーでろくに寝てもおらず、マスコミ対応などで自分自身疲れ切っていたのを自覚していたはずなのにどうして。

 それに、あの場所ではあんなに、死にそうな痛みを味わっていたのに。疲れも、痛みも、まるでそれそのものが幻覚であったかのように今は身体から抜け落ちてしまっている。

 そういえば、忘れていたが、ここは一体どこなのだろうか。

 この線香の匂い、それに薄暗い部屋。それと、死。まさか、そういう事なのか。千冬は、自分が寝ていたベッドの頭側を見る。そこには、あるものが置かれていた。それを見て笑ってしまったのは、たぶんドイツという場所に似つかわしくない物だったからなのだろう。

 何故、ドイツにこのような物が置いてあるというのだろうか。そんな風に笑えるのは、彼女に余裕があるからではない。あまりのことに、そしてその物から浮かび上がる事実に対しての理解が追い付かなかったからだ。

 

「千冬、もう一つ聞いてもいいか」

「なんだ?」

「ここは……どこだ?」

「霊安室だ」

 

 今度は、ためらわない。きっと、今度の質問は千冬自身の事だから。どれだけ隠し通したとしてもすぐにそうと分かってしまう物だから。だから、彼女は何も隠さずに言った。ここが、死者の眠る場所であるということを。

 

「何故、ドイツに仏壇がある?」

「影武者である彼女も、日本人だと言ったら……病院側が用意してくれた」

「そうか。だが、貴様が本物だと思われているということは、私はこの世には存在しないハズの影武者……として死んだことになるな。無縁仏ということだな」

「何を言っている。本物はお前だ。それは決して変わらない」

 

 などと、よく分からないようなやり取りを続ける。きっと、千冬自身も落ち着きたいのだろう。顔には出していないが、相当パニックになっている。この状態から早く脱したい。でも、その方法が分からない。だから、こうしてすっとぼけたような質問を繰り返す。それは、ワームの千冬にも理解できていた。

 一体どれくらい話をしたのだろう。ようやく落ち着きを少し取り戻した千冬はワームに聞いた。

 

「千冬、死んだのは……私か?」

「そうだ」

「……そう、か……」

 

 千冬は、ワームの言葉をかみしめるように目を閉じ、口を閉じると天井を向く。

 そうか、やっぱり自分は死んでいたんだ。あの時、車の中にいた一夏が本物ではないと気が付いた瞬間、全ての情報が、自分の体の中から抜け出ていくような気持ちを感じた。記憶も、意思も、魂も、そして愛ですらも消え去ってしまった。

 そうか、あれが死だったのか。あれが、死という物を味わうということだったのか。死とは、このような痛みだったのか。

 もはやはっきりと思い出すことが出来ないが、しかしあの痛みは、あの苦しみは、あの孤独感は、確実に自分が味わったものとして身体に刻み込まれている。だから、意識をそっちの方向に向けると、再び彼女の頭の中には死の痛みが蘇ってくる。

 だめだ、自分の死にざまを思い出そうとすると吐き気がする。死の痛みを再現しようとすると気持ちが狂いそうになる。このままこのことを続けてみても意味なんかない。なら、もう一つの疑問を彼女に聞こう。目を開き、ワームの千冬の事をみた千冬は言う。

 

「千冬……死んだはずの私が、何故生きている? ここにいる私は、悪霊なのか?」

「……悪、とつけたがる理由は分からないではないが、心配には及ばん。貴様は、悪霊でもなければ幽霊でもない。ただ、人間として死んだだけだ」

「人間として?」

 

 それは、どういう意味なのか。そうつづけた千冬に対してワームは言う。

 

「それは……貴様自身が知っているはずだ」

「私……自身」

 

 意味が分からない。人間として死んだとか、自分自身が知っているだとか。全くわけが分からなかった。

 だが、何だろう。この頭に浮かんだもの。ソレの方法がよくわかる。まるで、歩き方も何も知らない赤ん坊が本能的にその方法を知るときのように、まるでそれが以前からできていたかのように浮かんでくる。

 なんだ、何だ。コレは。この感情は。一体、何だというのだ。この自分は。頭の中に浮かんでくるこの怪物は。一体、何だ。

 

「なん、だ……」

 

 なんだか、少し眩暈がしたようだ。千冬は倒れそうになる頭を手で支える。

 瞬間、悪寒にも似た何かを感じ取った。気持ち悪い。だが、それも一瞬で終わった。

 そして目を開け、手を見た千冬は愕然とする。

 

「ッ!?」

 

 なんだ、この手は。先ほどまで肌色であったはずの手は、灰色で、しかも普通の人間のよりもより大きく肥大しているようだ。爪もより大きく、鋭くなっており、切れ味はナイフと同じかそれ以上はありそうだ。

 変わったのは手だけではない、身体も足も、それに顔も。触れる場所、見る場所が全て人間のそれとは全くの別物になっている。これではまるでワームのような怪物ではないか。

 何なのだ、一体。影から現れた全裸の織斑千冬のイメージは言う。

 

「一体、これは……」

「オルフェノクだ」

「おる……ふぇのく」

「そうだ」

 

 ワームは、オルフェノクについて語る。

 曰く、自分たちの組織にもオルフェノクという存在はいた。

 曰く、オルフェノクは死した人間がごくまれに変化する存在。

 曰く、人類の進化の一つであるという者もいる。

 曰く、怪物としてではなく普通の人間のように生きる者もごくまれにいる。

 曰く、オルフェノクは寿命が短い。

 等々。千冬は、ようやく心を落ち着かせて、元の人間の姿になった。

 そうか、オルフェノクか。自分は、一度死んでオルフェノクとして覚醒したのか。いや、そもそもあれほどの大怪我を負ったのだから、生きている方が不思議であったのだ。五体が満足であること自体、運が良いというのにそれ以上のことを望んでも仕方がないのだろう。

 

「すまない、取り乱してしまった」

「いや、これまで私も何人もオルフェノクになった人間を見てきたが、貴様のように立ち直るのが早い人間はいなかった。強いな、織斑千冬」

「当然……私は、貴様なのだから……な」

 

 そこまで言うと、千冬は目を閉じて考える。これからの事、この後の事、一夏のことを。

 一体、どのくらいの時間が経ったのだろう。思考を巡らせ、たどり着いた答え。千冬は、目を開くと言う。

 

「2,3頼みたいことがある」

「なんだ?」

「私は、本物の一夏を探しに行く、その間……一夏のそばにいてくれないか?」

「……先ほどの話を聞いていたのか? 確かに、一夏はこの世界にいるのかもしれない。だが、別の世界に行ってしまった可能性の方が高いのだぞ、それにあの一夏は……」

「だが、私の弟だ。偽物であったとしても、コピーであったとしても、記憶が……なかったとしても、今はもう私の弟の一人だ」

 

 千冬は迷いなく言った。

 考えてみれば彼女の発言は問題発言もいいところだ。本物の一夏をコピーしたとはいえ、その記憶はすでに消失してしまった怪物を、弟と言い張るなんて倫理的にもおかしな話だ。

 だが、それでも彼女は偽物である弟の事であったとしても、本物の弟のように思う。だが、本物の一夏の代わりというわけでもない。

 今は、自分には二人の弟がいる。本物の一夏と、ワームの一夏の二人が。そう考えているのだ。

 

「呆れるな。怪物であったとしても、普通に受け入れるなんて、どうかしているとしか思えない」

「今は、私も怪物だからな。怪物の一夏の気持ちも分かる……。誰かに受け入れられるのかという不安も、迫害されるかもしれない不安、そしてもし迫害された時の孤独さも。だから、放っては置けない。孤児を保護するのと同じだ」

「……」

「それに、お前も……今は、もう一夏の二人目の姉だ。だからこそ、一夏のことを託すことが出来る」

 

 強いを通り越して呆れる。ワームの千冬はそう云い放ったがしかし、千冬はそれでももう一人の一夏も自分の弟だと、そう言い放つ。

 こんなこと普通の人間が言うことが出来るだろうか。確かに怪物である故の迫害など、それこそ湧き出てくるほどに覚えがある。だが、だからと言ってワームの織斑一夏を庇う理由はないはずなのだ。むしろ、自分に危害が出てくる恐れだって存在するというのに、聡明なはずの千冬がそのような判断を下すことに驚きを隠せない。

 いや、もし自分が彼女と同じ立場だとしたら同じことをした。何故なら、自分もまた織斑千冬であり、二人の織斑一夏の姉であるのだから。

 

「分かった。だが、一夏の捜索、それと保護の礼にドイツ軍の教官を引き受けることになった。だから、一夏のすぐそばにはいてやることが出来ない」

「そうか、それは残念だが……確かに、礼は尽くさなければならないな」

 

 とりあえず、一夏に関しては日本で二度とこのような犯罪に巻き込まれないように厳重な警備を強いてもらうようにしようということになった。世界大会優勝者である織斑千冬に、そう言ったツテとうものがあるのが幸いした。

 世界大会と言えば、である

 

「そういえば、モンド・グロッソの方はどうなった?」

「あぁ、当然総合優勝だ。まぁ、この暮桜の力があれば当然だがな」

 

 どうやら、あの後彼女は順当に戦い抜き、総合優勝の栄冠を勝ち取ったらしい。当の本人は暮桜の性能のおかげだと考えているようだが、暮桜がどれだけの性能を誇っていたとしても、それを操る本人の能力がなければ存分にその力を引き出すことが出来ないことを考えると、やはりワームの千冬の力が自分と同じか、それ以上の物だったと考えるのが無難であろう。

 

「そうか……千冬、二つ目の頼みだが……」

「引退……か?」

「流石私、同じことを考えていたか」

「いや、それが日本政府への一番の圧力になる。そう考えただけだ」

 

 確かに、そもそも一夏のことを見捨てた日本政府のためにもうこれ以上ISに乗りたくないというのもあったが、世界大会二連覇を果たした自分を引退に追い込んだとなれば日本政府に与える影響は巨大な物となる。下手すると、総崩れとなることだろう。

 それに千冬は思ったのだ。これ以上誰かが不幸になるくらいなら、ISには乗りたくないと。

 開発者であり親友である束を傷つけ、一夏を傷つけ、そして自分自身を殺したIS。平和利用のことを考えているうちに、取り返しのつかないことになってしまった。

 千冬は恐れたのだ。ISの怖さを。自分自身の強さを。そして、それに反比例してあまりにも小さな自分自身の心の弱さを。

 

「では、頼む。そして、三つめは……」

 

 十数分後、千冬の姿はICUで眠っている一夏のすぐそばにあった。ガラス越しではあるが、しかし見える一夏の姿。様々な機械に繋がれていて、だがそれでも偽物であると気が付かない擬態能力の高さをうかがえる。

 だが、千冬はそんな擬態能力であったとしても、一夏が偽物であることを気が付いていた。

 理由は自分でも分からない。だが、もしかしたらその直前にワームの千冬の事を見ていたから偽物と本物の違いに、自分でも気が付いていない違いに気が付いていたのかもしれない。

 例えば、息遣い。車の外側から見た時、気絶している一夏の息遣いが確かに少しだけ違っていた。それは、本当に微妙な違いすぎて、彼女にしか分からないような繊細な違い。

 それほど、織斑千冬は織斑一夏のことを見ていた。愛していたと言ってもよい。

 

「さようなら、一夏……」

 

 眠り続ける一夏に対して、千冬はそう言った。聞こえるはずがない。届くはずがない。だが、せめて心だけでも届けばそれでいい。そんな気持ちだったのだろう。

 千冬は、ガラスに当てていた手を離すとすぐ病院の屋上へと向かう。

 

「全く、最後に一目一夏に合わせて欲しい等……本物のお前が頼むようなことじゃないぞ」

「そうだ。だが、私はあの一夏を見捨てるのだ……だから」

 

 屋上で待機していたもう一人の千冬に対して、千冬はそう言った。

 罪悪感だ。もう一人の、生きているかどうか分からないような本物の一夏のことを探すために、もう一人のワームの一夏を見捨てるという決断をした自分の罪。

 もう一人の千冬は、お前は不器用すぎるぞ、と本物の千冬の事を優しく笑う。そして、一つの携帯電話を投げ渡した。

 

「これは?」

「緊急時の連絡手段だ。こっちで何かがあった時に、連絡する」

「すまない」

 

 時間はもう真夜中。というよりも本物の千冬が霊安室で目を覚ました時には既に夜中の零時を過ぎていた。だから、このような携帯電話、用意するのに苦労したことだろう。

 そしてもう一つ。

 

「暮桜、返すぞ」

「あぁ」

 

 彼女の愛機、暮桜を受け取った千冬はすぐさまそれを展開する。

 もう、用事は全て済んだのだから長居は無用。この場所には、もう一夏のこと以外の未練はなかった。

 

「カッコウ……」

「ん?」

 

 ふと、ワームの千冬がそう言った。何なのだろか。

 

「いや、お前が変化したオルフェノクの姿が、カッコウにそっくりだったからな」

「カッコウ……オルフェノク、か」

「オルフェノクは、その人間の心理や本質が反映される……という噂がある」

 

 カッコウ、ユーラシア大陸とアフリカで広く分布する日本でもポピュラーな鳥で、カッコウのことを歌った曲もあるほどだ。

 そして、そんなカッコウには托卵という習性が備わっている。自分の卵を他の鳥の巣の中にいれ、孵化させてその巣の持ち主である別の種類の鳥に育てさせるのだ。

 なるほど、今の自分がまさしくそれだ。偽物とはいえ、自分の弟を、自分のコピーとはいえ他人に任せるのだ。だから、これ以上無責任な自分にうってつけの物はないだろう。

 

「無責任な私には、ぴったりだな」

「そうか? 私には、それもまた愛情だと思うが」

「なに?」

「確かに、カッコウは他の鳥に自分の子を託してそれっきりだ。だが、それは他の鳥に育ててもらうことによって自分が襲われた時に一緒に子供が死なないようにと、子供を守るための手段の一つだと、私は思う」

 

 なるほど、いいように解釈するとそのようになるのか。しかし、言われてみればそうなのかもしれない。

 カッコウは、例え自分が死んだとしても子供だけは生き残ってもらいたいという強い願いを持って他の鳥に自分の大事な、とても愛情を注ぐべき子供を渡す。そんな辛い決断を下すことのできる強い鳥。例え、それが親として間違っていると、自己満足であると分かっていても、子供のためには鬼となる。そんな子供思いな鳥。

 

「冷静になれ、織斑千冬。大丈夫だ。お前の居場所は、私が守る。だから、必ず『二人』で帰ってこい」

「……あぁ」

 

 ワームの千冬の、もう一人の自分のエールを聞いた千冬は、力強く頷く。その顔には、彼女が蘇った時以降失われていた笑みが浮かんでいた。

 きっと、楽しみなのだろう。一夏と一緒に彼女の元に帰ってくることが。何か月、何年かかるか分からない。しかし、帰ってくる。最愛の弟と共に、最愛の弟の元に、自分自身の元に帰ってくること、それが彼女の生きる意味となったのだ。

 月明りに照らされながら、織斑千冬は飛び立った。何が起こるか分からない。何に出会うか分からない。そんな旅が始まったのである。

 千冬は、その旅について後のこう語っている。

 確かに、楽しいことばかりじゃない。辛くて、苦しい出来事もたくさんあった。そもそも、旅の中で一夏を見つけられなかったこと自体が辛い出来事の中でも筆頭に入る物だ。だが、私はその旅の中でいろんな人たちを見て、いろんなものを見て、いろんなことを学んだ。その経験は、決して色あせることなく自分自身の中に残り続けている。この経験を後世に語り継いでいく。それが、今の自分のなすべきことであると信じる。信じて、先生を続けているのだ、と。




 ここでそれぞれの怪人態の名称を整理してみよう

オルフェノク一夏→???
ワーム一夏→デルマプテラワーム(ハサミムシ)
オルフェノク千冬→カッコウオルフェノク
ワーム千冬→蛹体ワーム

 オルフェノク一夏に関しては、一つ考えがあるので、後の話で明かされることでしょう。だが、我ながら変なところからモチーフを持ってくるものである……。正直オルフェノク一夏のモチーフの動物を読者が知っているのか微妙な動物持ってきちゃいました。

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