これで、なのはシリーズ知らない人も安心?
あの日の事を、今でも鮮明に覚えている。
私は、なのはと一緒にすずかやアリサに魔法の事、時空管理局のこと、そしていずれは二人で時空管理局の仕事に就くことを伝えに行った。
その時、アリサはとても怒っていた。そんな無茶ばかりして、もし死んでたらどうするのかと、何で自分たちに教えてくれなかったのだと、そしてどうして自分≪一人≫が傷つく道を選んだのかと。
さらに、二人はしきりに自分には魔法が使えないのかと、聞いてきた。
リンカーコア、それは誰しもが持っている魔力を放出する魔力の貯蔵庫。当然二人にもリンカーコアは存在していた。
けど、残念ながら二人のリンカーコアは魔導師になれる程の、魔力を操作できるほどの力はなかった。
あの時の二人の顔、悔しそうな表情と、無念そうに呟いた言葉は、今でもついさっきのように思い出すことができる。
あの事件の裁判が終わった後、自分はこの地球で過ごすために色々と勉強した。そして、知った。魔法はこの世界の人たちにとって憧れの存在であると言う事を。
空を飛ぶ魔法。好きなところに瞬間移動できる魔法。勉強も一人でにしてくれて、運動神経もあげれて、そんな好きなことができる魔法に、女の子は憧れを抱くそうだ。
やっぱり、二人ともそんな魔法に憧れを抱いていたんだな。一瞬だけ、フェイトはそう思った。
だが違ったのだ。その次に二人が言った言葉はこうだ。
『なのはちゃんのこと、お願い』
『あの子、すぐ無茶をするから、誰かが付いていてあげないと』
その時は、普通の言葉のように受け取った。でも、違っていた。
自分は、自分のことを恥じた。まさか、二人が私利私欲のために魔法を使いたいと思っていたなんて。
二人が魔法を使いたかったのは、魔導師になりたかったのは。
なのはと一緒にいたいからだ。
自分たちの親友の、なのはと一緒にいたかったんだ。
危険な場所に放り出されるかもしれない、未知の領域に足を踏み入れることになるなのはを、守りたかったんだ。
でも、自分たちには魔法が使えないから、自分に頼るしかなかったんだ。
本当は、自分たちがなのはの隣にいて、なのはが無茶なことをするのを止めたかった。なのはが無茶なことばかりする人間だとわかっていたから。
けど、私はその時言えばよかったんだ。
≪私には、なのはを止める資格なんてない≫と言うことを。
けど、言えなかった。言ってしまえば、それこそアリサが力づくでもなのはのことを引き止める。そう思ったから。
なのはが、自分の近くからいなくなる。そんなのは嫌だったから。
だから、私は言った。言ってしまった。軽々しく、言ってしまった。
『大丈夫、なのはは私が守るから』
私は、最低だ。
先程まで士たちが士郎と話をしていた病院の屋上。そこに、今度はフェイトが来ていた。
フェイトは、その病院から見える海鳴の街並みを眺めていた。
初めてこの街に来たのは、あの事件。通称《PT事件》で母親の命令でジュエル・シードを集めていた時の事。
ジュエル・シード。それは手にしたものに幸運を呼び、願いを叶える青白い石。正しい力の使い方を知らないと暴走してしまう危険な石。
彼女は、そんな宝石を母のために集めていた。優しかったお母さん。でも、いつからかおかしくなって、自分に暴力を振るうようになったお母さん。そんな母親がもとにもどって、また自分に笑いかけてくれる。そんな日を夢見て。彼女は戦った。
あの時、すずかの家の猫の純粋な願いを叶えてしまったジュエル・シードを封印するために向かった時。自分となのはは出会った。
それから何度も戦って、協力もして、話しかけてくれて、悲しいことも、どうしようもなく落ち込んだこともあった。けど、それでも最後にはなのはと友達になることができた。
母からの信頼を失って、母から自分の正体を告げられ、立ち直れなくなりそうになった。でも、なのはがいてくれたから自分は再び立ち上がることができた。そう、自分の人生はなのはに救われたもの。そう、断言できる。なのはは私の命の恩人。なのはは、私の全て。なのはは、私の友達。
それなのに、私はなのはを守れなかった。
私は、最低だ。
「フェイトちゃん」
「はやて……」
その時、屋上にもう一人の人物が現れた。八神はやてだ。現在は独歩、つまり車椅子もなしに一人で立ち上がっている。
日常を送る上で車椅子が必要にないはやて。しかし、戦場や現場ということになると突然歩けなくなったり、走れなくなったり、膝折れを起こしてしまうと、それすなわち命取りになりかねない。そのため、現場に行くときには基本的には車椅子を使用し、日常生活ではリハビリの意味も込めて車椅子なしで立って、歩いて生活をしているのだ。
「はやて、なのはは?」
「なのはちゃんにはシグナムたちがついとるから」
あの後、取り敢えずなのはの護衛、そしてガイアメモリの捜査のシフトを制作し、それぞれに分かれることになった。現在、シグナムとシャマル、そして遅れて到着したフェイトの使い魔であるアルフがなのはの護衛に、ザフィーラとヴィータの二人がガイアメモリの調査に向かっている。フェイトはこの時間は非番である。というより、アリサやすずかが出て行った後に浮かない表情となったフェイトに仕事をさせたら危険じゃないかというはやての一存でフェイトには休憩の時間を与えた。
そして、はやてもまた、本来はなのはの護衛の時間であるが、今回の事件のヘルプということでミッドチルダから駆けつけたアルフとバトンタッチして、フェイトの元に来たのである。
「どうしたんや、フェイトちゃん。って、聞かなくてもわかるわ。アリサちゃんとすずかちゃんのことやろ」
「……」
フェイトは、はやてにそう聞かれてやはり俯きながら言った。
「はやては、どう思ったの?」
「なんのこと?」
「この地球から、すずかから離れなくちゃならないってなって……」
はやてもまた地球出身の魔導師。つまり、なのはと同じだ。彼女もまた時空管理局の管理外である地球から遠く離れたミッドチルダという異世界での仕事に従事する一人の女の子だ。つまるところ、なのはと同じ悩みを持っているのではないか。フェイトはそう考えたのだ。
「そんなん寂しいに決まっとるわ。といっても、楽しい思い出といったら夜天の書が起動してシグナムたちに出会ってからの時間しかないけど」
はやてには家族がいなかった。物心つくまえに両親を亡くし、とても大きな家で何年も一人で暮らしていた。車椅子生活であったために遠出もできず、また学校にも通えない。せめてバリアフリーが徹底された学校であったのならば話は別なのだが。あいにく、彼女の学区の小学校はそういったものがなかったようである。
はやては強い子供だ。たった一人で孤独に生活し、社会からも切り離されて生活して、それでもなお心が折れることがなかった。もしかすると、その心の強さはなのは以上だったのかもしれない。
「それでもヴォルケンリッターの皆に出会えて、すずかちゃんやなのはちゃんやアリサちゃんに出会えた。私の大好きな世界や」
そんな彼女の寂しさを解き放ってくれたのが夜天の書の守護騎士である四人の騎士、そして図書館で偶然出会えた月村すずか。
確かに、理不尽な形で世界から孤立させられた彼女だったがしかし、それでもこの世界での出会いが彼女をつくってくれたと言う事実には変わりない。そんな世界から離れるのはとても辛いことだ。
だが。
「だから……なのはちゃんはもっと辛いはずなんや」
「……」
なのはには家族がいた。自分よりもずっと前からアリサやすずかといった友達がいた。小学校に通い、たくさんの同学年の人間と話す機会がたくさん、たくさんあった。
なのはには、この世界でできた大きな幸せがあった。自分より、何倍、何十倍と楽しい思い出があるこの地球。そこから離れることはきっとなのはにとてはとても辛いこと。
「やのに、なのはちゃん……あまり寂しい顔してへんかった」
なのはには使命感があった。その使命感がなのはの心を寂しくした。そう、はやては推測する。
はやては、時空管理局に正式に入局することになってからのなのはが、寂しい表情をしている姿をみたことがない。時たま地球に帰ったときに、嬉しそうにしているなのはを見たことがない。
はやては、なのはが感情を大きく表出させている姿を見たことがない。
「私は、見たことあるかな。なのはが泣いているところ……」
「え?」
PT事件。プレシア・テスタロッサ事件は。なのはの人生を、フェイトの人生を大きく変えた事件だった。
始まりは、ジュエル・シードが輸送船の事故によって管理外世界である地球に落とされたこと。
フェイトの母プレシア・テスタロッサは、これ幸いといったようにフェイトにそのジュエル・シードを回収するように指示を与える。その時のプレシアの笑みを、フェイトはよく覚えていた。
プレシア・テスタロッサはいつしか変わっていた。フェイトが知っている母の顔じゃなかった。
優しい表情をしてくれていた母は遠い昔の思い出となり、いつもいつも自分に暴力を加える。虐待をする。そんな人間になってしまっていた。
そんな母がジュエル・シードの話を聞いた途端に笑顔になった。フェイトが久しぶりに見た母の笑顔。それは、少し歪んでいたものだったかもしれない。しかし、それでも母は笑顔だった。
フェイトは奔走する。母の笑顔のために。またあの頃の母親に戻ってくれるように、ジュエルシードを集めた。その中でなのはと出会い後に兄となるクロノと出会い、時空管理局と出会い、痛いことや苦しいこともたくさんあったけど、フェイトは努力した。あの頃の母を取り戻すために。
けど、何もかもが違っていた。
フェイトが知っているあの頃の母親は、笑顔は、フェイトに向けられたものじゃなかったのだ。
事件の終盤。フェイトは信じがたい事実を聞く。
自分は、プレシアの本当の娘ではない。いや、そもそも人間ですらない。
自分は、プレシア・テスタロッサが過去の実験の際に事故で死亡した一人娘、アリシア・テスタロッサのクローン。人工生命体。
プロジェクト「F.A.T.E」という人間の業が生み出した怪物。
そう、自分の名前はただそのプロジェクトの名前を流用しただけ。自分は、親から名付けてもらうという最初の愛情すらも受けさせてもらえなかった。
そして、自分の心は崩壊した。
もし、なのはがいなかったら。なのはがそばにいなかったら、自分がどうなっていたのか、想像するに難くない。
そして、事件が解決し、自分は罪を精算するためにミッドチルダで裁判を受けるため、この海鳴の街を離れる事になった。
その時、最後になのはに会った時、なのはは泣いていた。
「私が、なのはの名前を呼ぶとね……なのはは泣いてくれたの。私と友達になることができて、嬉しそうに、泣いてくれて……」
≪なまえを呼んで、それだけで友達になれるから≫
だから、フェイトはなのはの名前を呼んだ。そして、友達になった。
そして、フェイトは時空管理局員、正確には嘱託の魔導師となった。自分のように、犯罪に手を染める子供を作らないために、自分のような悲劇を繰り返さないために。
そんなフェイトと、見知らぬ誰かも救いたいから入局したなのはは同じ道を歩んでいる。そう思っていた。
でも、それはフェイトの単なる思い込みだった。
なのはとフェイトの道は、近くにあったけど、本当は遠いところにあったのだ。
道が違うから、自分達の距離も離れていって、出会うことも稀になって、なのはが疲れている事に気がつくことが、なのはの身も心も限界に近づいているという事に気がつくことができなかった。
そして、あの日。
なのはが、落ちた。
そして、あの日以来、自分は二人の顔をまともに見れなくなった。
「あんなに、なのはの事を傷つけた私を、友達だと言ってくれた。そんななのはを守れなかった。それだけじゃない……」
あの時、自分となのはが、自分達のことをアリサやすずかに伝えにいった時、本当は嫌われるんじゃないかと思った。
生まれ方が違うから、人を傷つける力を持っているから。だから、友達だったけど、二人が自分のことを避けるんじゃないかって、そう思った。
けど、何も変わらなかった。
二人は言ってくれた。例え生まれとか、育ちとか、力を持っているとか持っていないとか関係なく、自分達が友達なのは変わりないと。
嬉しかった。それまで魔法の事を何も知らずに生きてきた二人が、あっさりと自分のことを受け入れてくれたことが。
だから……。
「私の事を知っても、それでも友達って言ってくれた二人との約束……守れなかった!」
フェイトは、目の前の手すりを強く叩く。
悔しかった。苦しかった。
何であの時言わなかったんだ。
自分は、なのはの無茶に、傷つきながらも、それでも自分と話をして、友達であると強く言ったその無茶に助けられた。だから、自分にはなのはの無茶を止める権利はないんだと。だから、なのはを止めることはできないんだと。
なのに、なのに……。
「フェイトちゃん……私も、同じや。なのはちゃんが無茶せえへんかったら、私はあのまま夜天の書の中から抜け出してなかったかもしれへん」
八神はやての誕生日となった日の午前0時、全てが始まりを迎えた。
夜天の書。当時は、闇の書という名前だったソレが目覚め、シグナムたち四人の騎士を出現させたのだ。
天涯孤独であったはやてに初めてできた家族。
だが、それと同時に彼女の寿命のタイムリミットも始まっていた。
闇の書。それは、魔導師の魔法の源である『リンカーコア』の魔力を喰らうことで、ページを増やし定期、全六六六頁が埋まれば持ち主たるマスターに凄まじい力を与えるアイテム。しかし、その強大な力故に時空管理局から危険なロストロギアとの認定を受けたアイテム。であった。
はやては、魔力を集めることを望まなかった。そんなことせずとも、はやてには家族たるヴォルケンリッターの四人がいるだけで、もう十分だった。そのため、彼女は魔力の蒐集を望まなかった。
だが、そんなはやてを急かすかのように、闇の書は足りない魔力をマスターたるはやての魔力から徐々に徐々に奪い去っていた。
結果、はやての麻痺は両足のみならず、他の部位にまでもたらされようとしていた。
ただ、身体が動かなくなるだけじゃないか。いや、そうではない。もし麻痺が内臓にまで達してしまったら、消化をつかさどる臓器にまで達したら。
もし、肺にまで達したら。
もし、心臓にまで……。
死ぬ。はやてが、死んでしまう。
ヴォルケンリッターにとって、はやては初めてのマスターではない。しかし、はやてはこれまでのマスターと比べれば最も良いマスター、最も優しいマスターだった。
他のマスターは、自らの私利私欲のために魔力を集めることを強制した。
毎日毎日戦いの日々で、中には奴隷の方がまだましな暮らしをしているというほどに劣悪な環境の中に置かされた時もあった。
でも、はやては自分たちの事を家族として受け入れてくれて、騎士甲冑なんて戦うことなんてないからいらないといって服をそれぞれに買い与えてくれて。一緒に夕飯を囲み、本当の家族のように優しく接してくれた。
そんなはやてが、死ぬ。そんなこと、ヴォルケンリッターの四人には耐えられなかった。
だから、四人は決行した。
他世界の動物から魔力を蒐集し、時には自分の事を捕まえに来た管理局員を返り討ちにして。
けど、決して一般人から魔力を奪うということは無かった。自己防衛のため以外で人間から魔力を奪うということは無かった。
その中で、ヴォルケンリッターはなのはやフェイトたちと出会い、そして戦った。
一番大切な人間を守るために、他の誰かが大事にしている人を襲う。それは、完全に自己満足で、自己欺瞞で、そして≪偽善≫だ。けど、それを分かっていたとしても、彼女たちは戦った。誰にも頼ることが出来ない彼女たちは、自分たちの正義を誰にも、はやてにも相談することなく、戦ったのだ。
そして、あの年のクリスマス。闇の書にまつわる悲しい物語は終結した。悲しげな別れを残して。
その戦いの最中、なのはは幼い体でリミッターを解除して使用するフルドライブモード、≪エクセリオンモード≫となって戦った。だが、それは文字通り無謀な挑戦だった。
安全装置を外した結果、なのはの身体は強い負担を受け、結果この出来事がなのはの大怪我の原因の一端を担ったと言われている。
そうだ、この無茶をしなければ、無茶をしてでもはやてを助けようとしなかったら、なのはは大怪我を負わなかったかもしれないのだ。
「あたしも、なのはちゃんがあないになった原因の一つなんや」
「はやて、あの時はやてを助けるためには、なのはのエクセリオンモードによる攻撃しかなかった。だから、はやてが気に病む必要なんてないよ……」
「せや、フェイトちゃんが助かったんも、私が助かったんも、全部なのはちゃんが居ったからや……つまるところ……助けてもらった人間が、誰かを助けるななんて言うのは……無理なんや」
一陣の風が吹いた。まるで、二人の削れた心を慰めるように。でも、そんな慰め、今はいらない。
二人とも傷つきたかったのだ。なのはのように。自分達のことを救ってくれたあの女の子のように。
でも、二人は十分に傷ついた。身も心も。それこそ、もう二度と立ち上がれなくなるほどに、傷ついた。けど、それでも立ち上がることができた。なのはがいたから。
身体に受けた虐待の傷も、母に言われた心無い言葉も、なのはがいたから癒すことができた。
一度家族が失われた悲しみも、全てを壊したいと思うほどの絶望感も、なのはがいてくれたから救われることができた。
そう、自分達はなのはのおかげで今がある。なのはが助けてくれた命。彼女のおかげで、今の自分達の人生を歩むことができるのだ。
だからこそ、なのだ。自分達には、なのはを止める権利はないのだと。
自分達以外に助けを求めている人間がいるかもしれない。
自分達以上の悲劇に見舞われている人間がいるかもしれない。
自分達以上に、孤独の中にいる人間もいるかもしれない。
そんな人間達を、なのははこれからも救ってくれるかもしれない。
なのはは、そんな人たちにとっての希望になるのかもしれない。
けど、そんな人たちを救うために、なのははこれからも無茶をするかもしれない。
でも、そんな無茶が自分達のことを救ってくれたのだ。
そんな無茶をしてくれるから、自分達は今があるのだ。
なのはがそんな無茶をしなかったら守れない人間がいる。
なのはがこうして休んでいる時に悲劇に見舞われている人間がいる。そんな人たちのことを思ったら、自分だけ幸せになるつもりなんてそうそう起きない。
誰もが幸せになる世界。そんなものあるわけがないのは分かりきっている。なのに、それを求めてしまうのが人間の悪い癖。そして、なのはを見ているとそんな世界にしてくれるんじゃないかという淡い期待も出てくる。
そんな期待、なくていいのに。そんな世界なくても人間は生きていけるのに。
「わかっている。なのはにはもう、これ以上無茶をしてもらいたくない。なんなら、アリサやすずかたちがいる場所で待っていてもらいたい……私の事を……私の居場所になってもらいたい……でも……」
そう考えられるほど、私は弱くない。私は……。
「私には……なのはがいないと生きていけないから……なのはがいないと、戦えないから……」
その私の弱さが、親友から親友を奪った。三人の友情を崩壊させた。
悔やんでも、悔やんでも、悔やんでも、悔やんでも、悔やんでも。
どれだけ自己弁論を並べたとしても、自分の本性を隠すことはできない。
自分はなのはに依存しているのかもしれない。なのはがそばにいなければ、自分は戦えなくなるのかもしれない。そんな自分を想像できてしまうからこそ、怖いのだ。なのはが、近くから消えてしまうという事が。
あの時、自分がアリサとすずかに自分の出生の秘密を話した時、拒絶されるんじゃないかと怖かった。なのに、何故話すことが出来たのか。
なのはがいたから。勇気を出したから。違う。
もし、二人に拒絶されても、自分にはなのはがいたから。なのは以外は必要ないと思ったからじゃないか。
そうだ、自分は自分のことが大切で、自分の事しか考えていなくて、でもなのはにはそんな自分のことを好きになってもらいたいと考える自己中の化身。
なのはのそばにいてはいけない。これ以上、なのはの近くにいるとあの子をまた危険な目にあわすかもしれないから。
でも、自分からなのはを取ったら何が残る。一緒に歩いてくれる親友を無くして、自分には一体どんな道が残されている。
どれだけ考えても答えはでない。どれだけ思いを寄せても答えは浮かばない。どれだけ、考えあぐねても、どれだけ、どれだけ、どれだけ。
「それは、違うんじゃないですか?」
「え?」
その時、フェイトの背後に現れたのは、光夏海、そして小野寺ユウスケであった。
「なのはちゃんのためだけじゃないと戦えないなんて、それは違うと思います」
「どうして……そう思うんです?」
「私たちに話してくれたじゃないですか。自分のように犯罪に手を染める子供を作らないために、自分のような悲劇を繰り返さないために管理局員になったって」
「確かに、その道に来るまでになのはちゃんが手を貸してくれたのかもしれない。でも、その思いに、なのはちゃんは関係ない。君自身の思いだ」
「私自身の……」
「はい。フェイトちゃんがその思いをしっかり持っている限り、例え……なのはちゃんがいなくなったとしても、戦えると、私たちは信じています」
「俺たちにその話をするときのフェイトちゃん……いい笑顔だったよ」
「笑顔……」
確かにそう。自分がこの思いを持てるようになったのは、なのはに助けられたから。なのはがいなかったら思うこともできなかったから。だから、自分にはなのはがいないといけないと考えたのかもしれない。でも、違う。根本的に間違っていた。
夢を持つことが出来た理由。それは、全て過程に過ぎない。大事なのは、その夢を持ってからどうするか。そこに他人がかかわっていたとしても、大切な出来事がかかわっていたとしても関係ない。もし、関係させようとしたら、その他人に重荷を背負わせてしまうかもしれない、逃げ道を作ってしまうかもしれない。自分は、貴方にあこがれたのに、貴方のせいで自分はこうなってしまったという。そんな逃げ道必要ない。
確かに、一緒に歩く人は必要だ。そばにいる人間は必要だ。でも、いつまでも一緒というわけじゃない。いつかは、離れて行ってしまうかもしれない。なら、離れた瞬間に夢は終わりを迎えてしまうか。
違う。人の夢はそう簡単に終わらない。例え、誰かがいなくなっても、例え一緒に歩く人がいなくなっても、それでも夢を追う人生は決して終わりを告げることは無い。それが、大事な物を見つけた人間の本当の思いであるのならば。
なのはがいないとダメだというのは、ただのフェイトの勘違い。
フェイトは、例えなのはが近くにいなくても大丈夫。だって、彼女にはなのはと同じように彼女の事を支えてくれる大切な仲間が何人もいるから。例え、なのはと離れ離れになったとしても、なのはが生きている。ただ、それだけで戦える強い女の子であるのだから。
「フェイトちゃんは……なのはちゃんにどうなってもらいたいの?」
「私は……」
自分は、なのはにどうなってもらいたい。そんなの、決まっている。なのはが大怪我を負ってから、決まっているはずだったのに、それをずっとずっと先延ばしにしてきた。そのせいで、友達との友情に傷をつけて。
まだ後戻りはできる。まだ、取り返しはつく。彼女は、親友はまだ生きているんだから。
自分は、なのはに……。
その時だ。
「え?」
「なんです? この鳴き声……」
「鳴き声?」
ユウスケと夏海の二人が、急にキョロキョロとし始めた。二人は、どうやら何かの鳴き声が気になっている様子だ。しかし、である。
「なんや? 二人とも、何が聞こえとるん?」
「え? 聞こえませんか? この鳴き声……」
「この鳴き声って」
「ッ!」
「え!?」
あっという間だった。二人の姿が急にかき消えたのは。
まるで、最初から二人がそこにいなかったかのようにユウスケと夏海は屋上から忽然と姿を消したのである。
魔力の反応も何もない。なら、ドーパントの仕業か。いや、ドーパントからの攻撃があったとしたらどこかにその痕跡がありそうな物。ずっと、二人の事を見ていたが、何らかの攻撃があったようには思えなかった。
なら、一体ふたりは どこに消えたというのか。
「夏海さん……ユウスケさん……」
「と、とにかくリンディさんに連絡を取るんや!」
「う、うん!」
消えた二人の異世界からの客。二人が行動を始めると同時に、屋上に一体のドーパントが舞い降りた。
「……狙いはそれちゃったけど、まッいいか……ねぇ」ニャー
ドーパントが、手の中に抱くのは赤い首輪をつけた黒い猫。その頭を一度撫でると、か細く鳴き声が聞こえる。
「リリカル……マジカル……」
ドーパントは、屋上から消える。まるで、最初からそこには存在していなかったかのように。
謎のドーパントが抱いていた猫には元ネタが存在します。
後編である展開を考えたは良いもののあまりに行動に矛盾が生じてなんとかならないかと考えた結果、ある意図していなかった伏線の存在を思い出した。その結果、元ネタにはなかった首輪を付けることに。
まさか、四年も前の思い付きが伏線になるなんて……。