仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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魔法少女リリカルなのはの世界2-2

 一瞬の静寂が、空間を支配した。その理由は、今目の前で起こった事に起因する物だ。

 なのはたちの目の前で、仮面ライダーディケイドが一瞬の間にその姿をかき消してしまった。それは、まさしくなのはの相棒たるレイジングハートのソレと全く同じものだ。

 何の前準備もなく、何のためらいもなく、何の伏線もなく、彼は水上に現れた霧のようにあっさりと、突然消えてしまった。

 どこに行ったのかと辺りを見渡してみる。しかし、ディケイドの姿は当然ながら見当たらない。いるのは、ドーパントと、友達と、そして―――。

 

「ニャ……」

「あ……」

 

 赤いドーパント、フレイムアイズの足元にいた猫が弱々しい声を上げる。何やら随分と疲れているようにみえるその子は、倒れ込むと壊れたゼンマイ人形化のように全く動かなくなった。

 

「……」

 

 その猫に、フレイムアイズが嫌な雰囲気を漂わせながら近づいて行った。多分、今から自分の目の前で何か、想像もしたくないようなことを彼女はしてしまう。なのはの中にそんな考えが思い浮かんだ瞬間だった。

 

「ッ!」

「なのはちゃん!」

 

 なのはは、急に立ち上がると一直線にフレイムアイズの元に向かった。考えたくなかったことだ。いや、考えるのを放棄したことだ。自分の考えているようなことを彼女がするだろうか。絶対にありえない。だから、万に一つでもあるかもしれないその可能性を放棄したかった。

 けど、できなかった。

 0.1%でもその可能性があるとするのならば、この状況で自分がするべき行動はただ一つ。それは―――。

 

「!!」

 

 炎の剣を振り上げるフレイムアイズの足元に滑り込むことだけだった。

 

「ッ!?」

 

 身体を地面にこするかのような低い姿勢で滑り込んだなのはの直背後、フレイムアイズの目の前を通り過ぎた直後その背後に炎の剣が振り下ろされた。

 危機一髪だった。もしあともう少しでもタイミングが遅かったら、自分は≪この子≫もろとも真っ二つになっていたことだろう。

 

「ニャァ……」

 

 自分の腕の中でか細く鳴いている子猫もろとも、である。

 信じたくなかった。動物好きで優しい彼女が、猫を殺そうとするなんて考えるのも嫌だった。

 しかし、結局彼女はなのはの考えた通りの行動をとってしまう。これが、いったいどういう真実を指すのであろうか。

 一番に思いつくのは、見間違い。実は、彼女たちは自分のよく知っているアリサとすずかによく似た人物というだけであり、二人はまだどこかに捕らえられているという場合。

 いや、それはない。自分は友達の顔を見間違えるような人間じゃない。あの二人は、自分の友達の二人であるそう断言することが出来る。

 という事は、やはり操られているのか。いや、そうとしか考えられない。だって、そうじゃなかったらこんな残酷なことを、二人が出来るわけなんてない物。

 

「なのはちゃん!」

「ッ!?」

 

 なのはは、フレイムアイズがゆっくりと自分の目の前に来ていたことに一切気が付かなかった。見ると、フレイムアイズは炎の剣を再び振り上げている。

 まずい、このままじゃ殺られる。なのはは血の気が引くような気配を感じた。

 逃げないと。どうやって。脳が、これだけ逃げろと言っているのに身体が動かない。だというのに、どうやってここから逃げろと言うのだ。どうやって、この恐怖に打ち勝てるのだ。

 レイジングハートも無く、無防備な自分だ。もし今、彼女の攻撃を受ければどうなるのか想像するのに難くない。けど、逃げれない。

 怖い。とは、こんな感情だったのか。なのはは久しぶりに恐怖という感情を感じ取っていた。

 思えば、自分が怖いという感情を失って一体どれほど経つのだろう。

 命を賭ける戦いに何度も挑み、その度に勝って、たくさんの人たちを守ることが出来て、危ないことが何度もあったけど、でも最後は切り抜けて。

 もしかして、自分は戦場という物を勘違いしていたのかもしれない。命のやり取りをする場であるという事を分かっていなかったのかもしれない。

 自分は、自分の命の使い方を間違っていたのかもしれない。

 けど、どれだけ後悔したとしても結局は何もならない。命が失われてしまったら、何もできない。何もなせないのに、皆が、悲しむのに。

 

「ッ……」

 

 残酷なまでにあっさりと炎の剣が振り下ろされた。その瞬間だった。

 

「ッ!!」

 

 一人の怪物が、二人の間に割り込んで、フレイムアイズの剣をその身で受け止めたのだ。ドーパント、それも先ほどまで自分たちを襲ってきていたはずのドーパントが、なのはの事を守ったのだ。

 

「な、なんで……」

「言ったでしょ、私は貴方の事を助けに来たって……ハァァ!!」

 

 ドーパントは、フレイムアイズの剣を弾き飛ばすと、その腹部に手を接着させ、桃色の光を放った。フレイムアイズは、その一撃によって軽く吹き飛ばされ、あたりに散乱していたオフィステーブルのいくつかにぶつかると止まり、変身が解除される。

 その姿、やはり変身者はアリサ・バニングスだ。どうやら気絶してしまっている様だが、遠目から見ても外傷はなさそうで、そこは少し安心する。

 けど、何故。

 

「どういう事や、なんであのドーパント……なのはちゃんの事……」

 

 傍観者の立場で見ていたはやてたちもまた、動揺を隠せない。因みに、すずかが変化したスノーホワイトはすでにドーパントによって倒されて変身が解除され、こちらもすずかの姿に戻っていた。

 

「なんで、アリサちゃんが……私の事……貴方は、理由を知っているの?」

「……」

 

 ドーパントは変身を解く。なのはは彼女の姿に驚いた。何故ならドーパントの変身者であった女性は、自分が入院していた海鳴大学病院の女医の一人だったから。つい先ほども病院にいた際に自分に話しかけてきてくれていた優しい先生が、ドーパントに変身して自分の事を襲ってきたのだから。

 その肩には、アリサの剣を受け止めた際にできた真新しい傷がついていた。上述したことも含めて、なのはから信頼を得て近づくために傷ついたように見せたのだと思ったが、そのためにあれほどの深傷を負うだろうか。

 分からない。彼女が一体何を考えているのか。

 

「答えてよ!」

 

 なのはは、女性に対してつい要領の得ない質問をしてしまう。このとき、なのはの精神状態はとんでもなく危険な位置に達していた。相棒を消され、自分のために戦っていた人を消され、そして友達が自分を襲ってきて、もう何が何だかさっぱり分からない。

 その、混乱する心を何とかするためには叫ぶしか方法がなかった。

 

「なのは!」

「ユーノ君……」

 

 だからこそ、自分のよく知っている人間の姿を見てほっとした自分に間違いはないのだとはっきりと言える。

 ユーノは、ドーパントがなのはたちを襲ってきたという連絡を聞きつけて超特急で現場へと向かっていたのだ。途中でマスカレード・ドーパントの群れに遭遇して時間を喰ってしまったが、しかし何とかたどり着くことが出来た。

 だが、どういう状況なのだこれは。確か、門矢士が先に到着したという話を聞いていたはずなのに、彼の姿が見当たらない。

 それに倒れている二人の女の子。ソレは、自分のよく見知った女友達の姿だ。

 

「アリサにすずか!? どうして!?」

 

 何故二人がここにいる。どうして、散乱したデスク等の中心部で倒れ込んでいる。これではまるで、つい先ほどまで彼女たちが戦っていたかのようではないか。

 ユーノはなのはに説明を求める。しかし、なのはは何も言わない。いや、言えない。彼女自身が頭で整理もできていないのに、どうして説明なんてものが出来ようか。

 仕方がない。ここははやてに聞くしかないか。そう考えたユーノが、振り返ったその先、一人の女性。アリサとすずかの二人を連れてきたドーパントに変身していた女性が、口を開いた。

 

「来たのね、ユーノ・スクライア……」

 

 冷たい声だ。何もかもを凍てつかせるかのような、そんな凍えるような声。でも、何故だろう。どこか怒りを感じる。自分に対して、ユーノ・スクライアに対しての怒りのような物。自分は彼女に会ったことがあるのだろうか。いや、はっきり言ってない。

 自分は記憶力の高さを自負しているのだが、目の前の女性には会ったことがない。それは断言できる。ならなんだ。どうして彼女はこんなにも自分を、射抜くかのような、そして燃えるかのような目を向けている。

 まるで、親の仇でも見ているかのように、女性はずっとユーノの事を見ていた。

 

「ニャァ……」

 

 そんな、場合によっては険悪ともいえるような場面の中で、一匹の猫の可愛い鳴き声が響いた。どこか弱弱しい猫を人撫でした女性は、言う。

 

「どうやら、いつも以上にたくさんの人間を異世界に送って疲れちゃったみたいね……」

「え、異世界って……」

 

 それは、一体どういうことだ。なのはがそう質問をする前に女性は反転し、背中をなのはに向けたまま言った。

 

「その子は貴方に預ける。今日の所は、いったん退いてあげるわ。行くわよ、二人とも」

「ッ……」

「……」

 

 女性は二人に声をかけた。どうやら、すずかの方は何とか起き上がったようであるが、アリサの方は気絶したままのようで、女性がアリサをお姫様抱っこの形に持つと、目の前に不思議な渦を出現させる。それが、移動装置のような役割を持っているのだろうか。

 

「アリサちゃん! すずかちゃん!」!

「まってやすずかちゃん! その人は何もんや! 敵なんか、味方なんか、それだけは教えてぇな!」

「……」

 

 はやては懇願する。どこかに立ち去る前に、せめて彼女の立場を教えてもらいたいと。自分たちの味方なのか、敵なのか、それだけでもハッキリさせておかなければ今後の立ち振る舞いにも影響を与えてしまう。

 そんなはやての言葉に対し、すずかは悲し気な笑みを浮かべたまま言った。

 

「味方だよ……私たちの……」

「だったら、どうして夏海さん達を消したの!?」

 

 シャマルが叫ぶ。そして、なのはも思った。味方なら、なんであなたはそんなに悲しい顔をしているのかと。何故、そんなに決意に道が目をしているのと。 

 

「……大丈夫。心配しなくてもいずれ私たちみたいに戻ってくるはずだから」

「……」

 

 つまり、彼女たちは戻ってきたという事か、女性の言うところの異世界から。

 しかし、いつ戻ってくるというのだ。それに、その条件は何なのか。知らなければ、いけないことがたくさんある。なのに、何も、何も言葉に出ない。

 悔しかった。嫌だった。そんな自分の弱い心が。気が付きたくなかった。自分は魔法と、友達を失ったら、こんなにももろい存在であったという事を。

 

「さぁ、行くわよ……」

「アリサちゃん、すずかちゃん……」

「なのはちゃん、何も心配しなくてもいいよ。もう、なのはちゃんを、戦わせたりしないから……」

「ッ!」

 

 のどに硬い石が詰まったかのような衝撃を感じる。

 気が付いてしまったからだ。二人が、ドーパントになった理由も。だが、もし自分の思っている通りの事が事実だとするのならば、彼女たちが怪物となったのは、彼女たちが自分の代わりに戦っているのは。自分のせいという事になる。

 自分が、弱かったから、という事に。

 

「じゃあね」

「待って! あなたは……貴方は一体誰なんだ!」

 

 まだ何か情報を取ることが出来るはずだ。彼女の目的、彼女の正体、それを知るための手段がまだあるはずだ。

 けど、直接的に聞いたとしてもきっと彼女は答えてくれないだろう。だから、曖昧な情報を聞くことにした。ただ、それだけじゃ何の意味も持たない。しかし、突き詰めていけば必ず正体にたどり着けるであろう情報、名前という大切な物を。

 女性は一瞬だけためらうようなそぶりを見せると、一つだけため息をついてから言った。

 

簪美茄冬(かんざしみなと)……よ」

「簪、美茄冬……?」

 

 何だろう、その名前まえにどこかで聞いたことがある。

 そんな、ユーノの思考を知ってか知らずか、美茄冬は逃げるかのようにすずかと共に渦の中へと消えていった。

 

「一体、なんやっていうんや……」

「……」

 

 いくつかの疑問の残る戦闘の跡地。

 壊れた壁や机は、結界を解けば完全に元通りとなる。しかし、なのはの心に新たに刻まれた傷はあまりにも深く、修復には時間のかかる物となった。

 いや、もしかしたらもう元には戻らないのかもしれない。

 友達の悲しみに気が付き、自分のために戦ってくれた者を失い、相棒を失い、そして自分のために傷つこうとしている友達がいるという事に気が付き、自分の身勝手により多くの人間が不幸になる様子を目の当たりにした、この傷は。

 決して癒えることは無く、高町なのはの心に残り続ける。

 もう、涙を流す気力さえも、彼女は失っていた。

 この時、彼女の心は初めて壊れかけていた、のかもしれない。

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