今回は、ある世界に現れた彼の出自に関わる話となります。
読者諸君らは、一人、いや一体忘れてはしないだろうか。
あの猫によって消えてしまったただ一つの存在を。
確かに、彼女には魂はこもっていなかったのかもしれない。
だが、幸か不幸か、彼女もまた所有していたのだ。
たくさんの、自分自身の可能性というものを。
これは、そんな彼女が経験したとある世界の物語の一片である。
≪Where is this?(ここは?)≫
レイジングハートが目覚めた、いや再起動したのは怪しげな研究機材で埋め尽くされた部屋だった。何に使うかはっきりわからないようなものから、怪しげな、人を拘束する台という、どう見ても人道的配慮のなされていない物体も存在している。
散らかり放題の薄暗い実験室と思わしきその部屋に、一人の人間が自動のドアを潜って現れた。
≪Who exactly is that scientist……(あの科学者は一体……)≫
白衣を着ていることから見ても科学者であるのは間違いない。男性科学者は、正気のない顔をして椅子に座ると、目の前のパソコンを打ち始める。
情報が必要だ。レイジングハートはもう何度目かとも付かないほどのダウンロードを開始した。
あの猫によって消されて以降、彼女もまたこれまで沢山の世界を回ってきた
主人が友人と共に死ぬ世界。
友人を殺された主人が壊れ、復讐に身を滅ぼす世界。
はたまた、自分が先に壊れ、主人をサポートすることができなくなった世界。
≪Is that so... In this world, I was developed by Alhazard... (そうですか……私は、この世界ではアルハザードで開発されたことになっているのですね……)
ダウンロードを終了させたレイジングハートは、改めて自分の置かれた状況を再認識した。
どうやら、この世界の自分は大魔導師、プレシア・テスタロッサが目指したアルハザードで開発されたデバイスであるらしい。
いや、もしかしたら自分のメモリーが壊れているだけであって元の世界でも自分はアルハザードで開発された可能性だってある。自分自身の記憶も定かではない。それは、あの世界で出会った破壊者、門矢士と同じでもあった。
≪master…≫
これから、アルハザードが崩壊して本来のマスター、高町なのはに出会うには一体何十年、何百年何百年何千何万の時間が必要であろうか。
自画自賛、自惚になってしまうのかもしれないが、彼女ほど魔法の使用に長けた魔道士はいないだろう。ソレに加えて、彼女のほど誰かという存在が必要な魔道士はいない。
彼女はその誰かのサポートなしでは生きることもままならないほどに危うい人間であるのだ。自分はあの世界にいる時からそれに気がついていた。そして、魔導師としては一流だが、メンタル的な面では、魔導師の中でも最弱な人間であるとも。
自分は、そんな彼女に甘えていた。だからこそ、彼女がもう戦えないのではと思うほどの怪我を負った時にも、治して一緒にまた戦ってもらいたいと願った。
でも、そんなの自分勝手な機械の言い分。どこかではもう彼女には戦ってもらいたくないと思っていたのかもしれない。
けど、それでも、彼女が好きだった。彼女以上のマスターがいないと知っていたから、彼女と離れたくなかった。
自分は、とんでもない大馬鹿者だ。
「よし、これで……」
ふと、研究者は立ち上がると、手元にあるテープレコーダーと思わしきものに言葉を吹き込み始める。
「研究日誌、第656号……ついに我が研究が実を結ぶ時が来た」
「私が開発したこのデバイスには、感情を集めエネルギーとする力がある。これさえあれば、エネルギー問題に苦しむこの世界を救うことが出来る」
「デバイスは、対象者の肉体からとある細胞を抽出し、結晶化させる。それを中継点とすることによって人間の中にある感情を抽出し、デバイスがそれをエネルギーへと変換。そして、我が研究所にある装置へとその感情のエネルギーを送るというわけだ」
「このデバイスの優れた点は、普通のデバイスと違い、複数人の少女を登録できる。いや、契約と言ってもいいだろう。その結果、多くの人間から感情のエネルギーを取ることが出来るというわけだ」
「だが、問題もある。一つは、我々の世界の人間は感情という物を失ってしまっているという事だ。その結果、感情のエネルギーは他世界の人間から取ることになってしまうという事」
「問題はもう一つある。結晶化したとある細胞は、怒りや憎しみといった感情を多く取り込むと、変質してしまうという事だ」
「もしもその結晶が変質してしまえば、私にもどうなるのかは分からない。だが、契約者である人間が無事であるという保証はない」
「前者の問題に関しては、持ち主のとある細胞の一部を利用することによるギフトを与えることを、計画に利用させてもらう礼とすることにした」
「後者に関してはいまだに解決方法を見いだせてはいないが、しかしそれが解決できれば、このデバイスを異世界へと送り出そうと考えている」
「この計画が成功できれば、我々の世界だけではない。他の多くの世界のエネルギー問題をも解決させる手立てとなるのだ。絶対に成功させなければならない」
「それに先立ち、私はこのデバイスに名前を付けることにした」
「この過酷なミッションに挑む彼に付ける名前は……」
「『QUEST』だ」
レイジングハートが見たもの。それは、赤い瞳に白い体、そして耳から伸びる毛とそこについている輪っかが印象的な生物型のデバイス。
その生物は、そのすぐ後にアルハザードの崩壊の余波に巻き込まれて未完成のままとある次元世界に降り立つこととなる。
そして、そこで自己分裂を繰り返し、多くの人間の手に渡り、『クエスト』という名前も過去のものとなり、多種多様の新たななまえがつけられることになる。
しかし、それはまた別の話。