仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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魔法少女リリカルなのはの世界 2-19

 世界に、つかの間の平和が訪れていた。何者も空気を汚さない。何者も争わない。そして、ごく少数の人間しか存在しない。地球という星が生まれてから何十億年と続いた安らぎの時。

 人類はすでに滅びてしまったかのように静かに、そしてとても心地の良い風が吹いていた。それは、人類という大気を汚染する存在が消えてしまったから吹くのか、それとも、それが星そのものが持つ力であると誇示しているのかは、わからない。

 だが、一つだけ言えることがある。それは、この世界は、滅んでいるわけじゃないということ。

 そして、今もなお、その地球で戦っている者たちがいるということ。

 そして、ここが、今も旅を続けている高町なのはが帰ってくる本当の世界であるということ。

 そんな、当たり前の事であった。

 

「サンダー……レイジ!!」

「グラーフアイゼン!!」

《Schwalbefliegenn》

「ハァ!!」

 

 フェイトとヴィータは、それぞれに広範囲に攻撃することができる魔法によって、目の前に広がったドーパントの群衆を一網打尽に付する。地上を這うことしかできないドーパントたちに対し、自分たちが空中を飛ぶことができるというのは有利であるほかなかった。それが、幸いだった。

 しかし、これはいったいどういうことか。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……これで、何人倒した?」

「わからない……でも……」

 

 地上に降りた二人。浮遊魔法の維持のために魔力を垂れ流しにするのはあまりに非効率的であると考えてのことだ。

 あたりには生きた屍が何重にも折り重なっている。愛用のデバイスたちによると、全員が生存反応を示しているため死んでいないことは確かだが、ここまで人が倒れていると、一見してパンデミックの一つでも起きたんじゃないかと誤解されてしまうほどだ。

 それにしても、自分たちはこれだけの人数を倒したのかと感心してしまう。エイミィの報告を受け、各地に出動した自分たちは、それぞれ二人一組以上で行動してドーパントと戦い始めたのだ。

 しかし、倒しても倒しても次から次へとドーパントは現れ、かれこれもう一時間近くは戦い続けているだろうか。

 一体どこからそのような群衆が表れているのか、その疑問はドーパントの約半数が着込んでいる見覚えのある制服を見ればわかることだった。

 

「この制服、やっぱり……」

「あぁ、間違いねぇ時空管理局だ……」

 

 時空管理局。先ほど壊滅的なダメージを受けたと言われているあの時空管理局の職員だ。

 しかしなぜだ。なぜ管理局の職員が、クーデターを起こしあまつさえ管理外世界であるこの地球に押し寄せているのか。まったくもって意味不明だ。

 

「とにかく、シグナムたちと合流しよう。きっとまだ、ドーパントはいる」

「あぁ、わかってる」

 

 二人は、再び仲間たちと合流するために浮遊魔法を使用して飛び上がった。

 その瞬間である。

 

「ッ!」

「なに!?」

 

 彼女たちに襲い掛かった無数の火炎弾と羽の手裏剣。それぞれに防御魔法を使用したことによって攻撃自体は魔法陣によって阻まれて彼女たちにクリーンヒットすることはなかった。しかし、連続的に襲う種類の違う攻撃によって徐々に防御魔法を維持するための魔力が削られていく。このままでは、貫通するのも時間の問題だろう。。

 

「こんの……」

「ヴィータ、一度下に降りよう! このままじゃ防戦一方になる!」

「ッ! わかったよ!」

 

 二人は、一直線に自分たちが先ほどまでいた地面に向けて急降下していった。それは、まるでワイヤーの切れたエレベーターのよう。

 二人を襲った主は、そんな彼女たちについていくかのように一度攻撃を止めると降りていく。

 果たして、彼女たちの前に現れたドーパントは、南国の鳥を思わせるような綺麗な緑の羽根を持つ、細部は違うものの大部分のディティールが似た存在。バード・ドーパントと呼ばれている存在であった。一方は普通の、そしてもう一体は、原典の世界において仮面ライダーWとの戦いの際に進化した強化態と呼ばれるものだ。それが、彼女たちの周りを無数に飛び回っている。周囲の気絶した管理局員の姿も合わせると、まるで死体に群がるハゲタカのようにも見えてしまってやや滑稽である。

 いや、どれだけ滑稽に映っていたとしても自分たちが劣勢に陥っているのは間違いない。この先のことを考えると、自分たちは魔力を節約して戦わなければならないのだから。

 きっと、あの女は、簪美茄冬は来る。その時に備えて、魔力を残しておかなければならないのだ。

 

「いくよ、ヴィータ!」

「あぁ!」

 

 二人は戦う。その先に、きっと答えがあると信じて。

 

 

「フェイトちゃん、ヴィータ……」

 

 後方で状況をモニターしているはやては、そんな二人の状況をすぐさまモニター越しに把握する。

 本来であれば彼女たちに救援を送ってやりたいところだ。しかし、現状ほかに戦うことができる者たちも、それぞれのドーパントに対応するために必死になっているところだ。ここは、彼女たちの生存力という物を信じるしかないのか。

 それにしても、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 突然地球全体という途方もない規模での結界が張られたと思ったら、今度は海鳴全体をお覆い隠すと思われるほどのドーパントが表れて、自分たちを襲ってくるなんて。これではまるでゾンビ物のパニックホラー映画の世界観だ。

 

「一体、何がしたいんや、簪美茄冬は……」

「それはこっちのセリフよ」

「え?」

 

 はやては、一瞬魂が抜けたと錯覚するほどの驚きを受けた。そして、恐る恐る背後を確認する。そこには、紛れもなく、先ほど自分が話題に出した女性簪美茄冬の姿があった。

 

「美茄冬、どういう魂胆や、こんなことして……!」

「それはこっちのセリフよ……突然地球に結界が張られたと思ったら、こんなことになっているなんて……」

「……なんや、それ。この状況は、アンタの仕業やないんか?」

「私に、そんな力があると思ったのかしら?」

 

 正直に言おう。思っていた。だって、士やユウスケなど、多くの人間を別世界に送るような猫を持っているような人間だ。そんなことの一つや二つ簡単にできるような人間だとてっきり思っていたのだ。しかし、この反応、おそらく彼女は嘘を言っていない。

 時空管理局に勤め始めて多くの人間の嘘や戯言に付き合ってきたはやては、そんなことも安易に想像することが可能となっていた。しかし、だとすると一体だれがこの惨状を引き起こしたのか、というのが問題になるわけだが。

 

「なんにせよ、今はこの状況を何とかしなくちゃ……そうでしょ? アリサちゃん、すずかちゃん?」

 

 今度は驚く暇なんて与えられない。彼女がそう言った瞬間に彼女の左右に魔法陣が出現し、二人の見知った少女が、リンディの家の中に現れた。二人とも、どこか目つきがさっき見た時よりもきつくなっているような気がする。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん……」

「はやて、なのはは?」

「……この家んなかで寝とる……しばらく起きてこうへんやろ」

 

 はやてはあえて、なのはが美茄冬が持っていた猫型のロストロギアを使用したという事実を言わなかった。言ってしまえば、また彼女たちが心配してしまうから。

 

「そう」

 

 アリサはただそれだけを言うと、玄関のドアに向けて歩き出す。すずかもまた、それに無言で付き従う様に背後を歩いて行った。この家もフェイトを訪ねて何度も訪れてたことがあるから、もはや勝手知ったる物だったのだ。

 

「アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

 はやては、彼女たちのことを呼び止めようとする。しかし、それ以上の言葉が浮かんでこなかった。だからなのかはわからないが、二人とも、はやての言葉を無視するかのようにただただ狭い廊下を歩いているだけだった。

 はやてにはもう、何もわからないのだ。どうすれば彼女たちを止めることができるのか。どうして彼女他を止めなければならないのか。そして、一体どこに着地点を求めればいいのか。

 はやては何もわからない。力を持ったものに、力を持たぬ者の気持ちが分からない。劣等感、悔しさ、後悔、孤独、喪失。その全てをこれまで経験してきたはずのはやてでも、分かることができない。することが浮かばない。

 もしも、できることがあるとするのならばそれは。

 

「私たち……前のような関係で、いられるやんな?」

「……」

 

 これほどまでに愚問といえるものがあっただろうか。そんな答え、自分でも知っているというのに、どうして自分は聞いてしまったのか。

 きっと二人もそれを知っているのだろう。振り返ったアリサの言葉が、ずっとこれからも頭に残り続けることになる。

 

「いられるわけないでしょ。だって……手に入れちゃったんだから、戦う力……もう、何もなかった日常には、戻れない……」

《flameeyes》

《snowwhite》

《lyrical》

 

ドーパントへと変質した三人を、ただ後ろから見ているしかなかったはやて。三人は、部屋から飛び出すとすぐさまある場所に向かった。おそらく、あのドーパントたちの群衆の中にだろう。

 一人ぼっちとなってしまったはやては、ゆっくりと座ると、額に手の甲を乗せると言った。

 

「ほんまに、これがアンタの望みなんか、簪美茄冬……」

 

 友達を守りたい。救いたい。そんな願いに付け込んで戦わなくてもいいような人間たちを戦場に送り込んで、それで満足だというのか。

 いや、きっと満足なのだろう。だって、それが彼女がやりたかったこと。

 彼女が、自分の世界で臨んでいたことのすべてだったのだろうから。

 それにしても気にかかる。簪美茄冬は、今回のこのドーパントの大量発生に関してまるで知らないというそぶりを見せていた。自分の直感通りあれが真実であるとするのならば、一体、このドーパントの群衆を送り込んできたのはどこのどいつであるのか。

 この事件、まだまだ謎が深まっていく気がする。そんな嫌な予感を感じずにはいられないはやてであった。

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