仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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SAOの世界1-11

 約一時間後、キリト&アスナと麻帆良組が帰ってきた。

 

「ただいま帰ったです!」

「はい、おかえりなさい。おやつできてますよ」

「さあさ、どうぞ…おやキリト君、どうしたんですか?」

 

 おやつを持ってきた栄次郎は、キリトが若干落ち込んでいることに気が付いた。それにアスナが答える。

 

「実は、キリト君と私は、だんちょ…ヒースクリフさんに呼ばれて…」

 

 どうやら釣り大会が終わった後、キリト宛てにメールが届いて、内容はアスナと一緒に至急血盟騎士団の本部に来てもらいたいというものだったそうだ。だが、22層はモンスターの出現がまずない筈だったのだが、最近階層に似合わないモンスターがポップすることがあるそうだ。麻帆良組は攻撃手段は皆無である。アーティファクトを使えばどうとでもなるが、二人にはそれを伝えていなかった。そのため、キリトとアスナは写真館までわざわざ送ってくれたそうだ。

 

「はぁ…」

「ほらいつまでもくよくよしていない」

「だって、まだ2週間なんだぜ…」

「休暇中の私達を前線に召集するなんて、きっとよっぽどのことがあったんだよ」

「そりゃそうだけれど…」

「さっ、もう時間だよ」

「はぁ…」

 

 急を要する用事、何なのだろうか。キリトとアスナは4人を置いていくと、すぐさま外に出ていった。2人が帰ってくるまでの間、麻帆良組に釣り大会がどうなったかを聞く。結論から言うと、主は釣ることができたそうだ。湖まで行くと、自分たちのほかにも見物人がいたらしい。どうやら、ニシダは釣り人としてかなり有名だったらしく、ニシダが主釣りにチャレンジするという話を聞いてかなりの数が見物に来たのだ。ニシダの竿に主がかかって、キリトとスイッチを行った。最初は、主の重さに引きずられたがしかし、体勢を立て直し、湖の岸近くまで持ってくることに成功した。麻帆良組は、見物人に紛れて主の姿を一目見ようと駆け寄った。ところが、そこにいたのは魚はさなかでもモンスターであった。それを見た見物人は即座に逃げ出したがしかし、キリトだけは訳も分からず、竿を持つだけだった。結果、糸は切れてしまったが、それが出現のためのイベントだったかのように地上に大型のモンスターが出現した。モンスターは肺魚だったらしく、釣り上げたキリト達に向かって襲ってきたそうだ。しかしモンスターはさほど強くなかったらしく、アスナが剣を抜き、突撃してくるモンスターを一閃して瞬殺したらしい。が、問題はそこからだった。アスナは『閃光のアスナ』と異名が付くほどのプレイヤーだったので、周りは大騒ぎとなり、ついでにアスナが結婚していたという事実が知られてしまった。アスナは、SAOでは数少ない女性プレイヤーであるため、その美貌からして、男性陣からの人気が恐ろしいのだ。そのため、もしキリトと結婚したなんてことが話題に出てしまえば、それこそタブーであるPKをしにくるプレイヤーがいる可能性がある。だから今まで隠していたのに、これで平穏はなくってしまったということ、さらに休暇中であったのに急な呼び出しにあったことのダブルパンチでキリトはガッカリしていたらしい。いくら本人が潮時だと思っていたとはいえ、全くもって突然であった。それから間もなくして、キリトとアスナの二人が写真館に戻ってきた。だが、その二人の顔つきは暗い。そんな二人に、リーファが聞いた。

 

「お兄ちゃん、ヒースクリフって人はなんの用事だったの?」

「…」

 

 キリトは答えない。いや、間をおいてリーファに話し始める。

 

「75層のボス戦に参加してくれって言われた」

「え?」

 

 キリトたちが55層グランザムにある血盟騎士団本部に到着すると、ヒースクリフ他何名かが待つフロアに通された。そこで話されたのは、耳を疑うような内容だった。

 

「実はボス戦の前に、20人のパーティーが偵察に出たそうだ」

「偵察?」

「あぁ」

 

 何の対策もなしにボス戦などという物に挑戦すれば、死者が出るのはほぼ当たり前である。くどいように言うが、SAOはデスゲームである。普通のRPGだと、一度戦って、ゲームオーバーになって、それから対策を練ってもう一度戦うなどと言うことが当たり前にできるが、ここだとそんなことはできない。なのでボス戦は、一度偵察隊を出して、ボスの能力、HP、攻撃などを知ることから始まるのだ。そして偵察隊が持ち帰った情報を元にして、ボスへの対策を立てていく。いつもはそのはずだった。いつもは…。

 

「けど、最初の10人が頂上に到達して、ボスの部屋に入った瞬間に、突然、入口の扉が閉じてしまったらしい」

「なに?それじゃ、中にはいったプレイヤーは転移結晶を使わないと外に出られないってことか…」

 

 そう言ったのはエギルだった。だが、キリトは首を振る。

 

「いや、その10人は、外に出れなかったそうだ」

「なっ…まさか!」

「あぁ、クリスタル無効化エリアだ」

「なんだ、クリスタル無効化エリアってのは」

「クリスタル無効化エリアは…」

 

 士の問いに、キリトが答えた。まず、エギルの言った転移結晶とは、SAOで主に使用されているクリスタル型のアイテムの一つで、『転移○○』と町の名前を言うと、そこにある転移門まで飛ばしてくれるそうだ。だが、それが使用できない場所が存在する。それがクリスタル無効化エリアである。通常迷宮区の限られた場所にしかないのだが、もし、クリスタル無効化エリアでHPが危険値まで削られてしまえば、境界線の見えないエリアの外まで走るか、死を待つのみである。実は、そのクリスタル無効化エリアが、前回74層のボスの部屋に存在したのだ。その時は、攻略組の何名かはその階層限定ではないかと淡い期待をしていた。だが、今回それが打ち砕かれた形となってしまった。74層では、軍のメンバーが何人も犠牲になり、軍の弱体化、並びにそれをきっかけとして軍の解体にまで至ってしまうほどの打撃を受けた。そして、今回もそれと同じく。

 

「そして、5分ほどして、扉が開いたその先には…部屋の中には何もなかったそうだ。ボスの姿も…10人の姿も…」

「そんな…」

 

 一番の衝撃はたった5分しか持たなかったことだ。偵察隊は先も言ったが、ボスの情報を仕入れる仕事を持つ。そのため、上級者のプレイヤーが選ばれることがほとんどだ。その10人が、ものの5分で全滅。これは次の攻略はただでは済まない。ヒースクリフはそう感じ、休暇中であったキリトやアスナを含め、可能な限りのプレイヤーに声をかけて、ボス攻略戦に挑もうと考えているそうだ。

 

「…かなり厳しい戦いになりそうだな」

「あぁ、それも今までになく…な」

「それで、お前たちは行くのか?」

 

 厳しい顔をするキリト、アスナ、そしてエギルに向かって士はそう聞いた。

 

「あぁ、というか行くしか」

「だめ…」

「え?」

 

 ないだろ。そう続けようとして遮ったリーファの目には涙が溜まっている。

 

「だめだよ、お兄ちゃん!死んじゃうかもしれないんでしょ!戻ってこれないかもしれないんでしょ!行っちゃヤダ!」

「リーファちゃん…」

「…リーファ、それでも俺は行かなきゃならないんだ」

「どうして?」

「…外に出るためだ」

「だからって…お兄ちゃんが、アスナさんが、行かなくても…」

「大丈夫。私たちが今までしてきたことをもう一度やりにいくだけだから」

「今まで…こんな…こんな……」

 

 拳を握り、言葉のやり場がなくなってしまったリーファは、キリトとアスナを押しのけて、外に飛び出してしまう。

 

「スグ!」

「リーファちゃん!」

「追いましょう!」

 

 夏海はそう言う。そして、安全性を考慮して、戦うことができるメンバーと戦うことのできないメンバー二人一組でリーファを探しだす。

 

 外は、すでに日が落ち始めていた。


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