仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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もしかしたら、自分はここを生きがいにしているのかもしれない。自分は、ここを人生相談の場所にしているのかもしれない。もしかしたら…。


SAOの世界2-12

 一本の国道。そこは、普通なら多くの自動車が行きかって、エンジン音でうるさく、電気自動車が増えた現在でも時折排気ガスによってむせてしまうほどだった。だが、現在はここよりも少し手前にて交通規制がなされているために車は数少なく、そうそうきつく感じることはない。だが、自転車はその限りではなく、キリトは規制の隙を見つけて渋谷の方へと向かっていた。

 

(茅場昌彦は100層で待つと言っていた…どれだけ俺が急いだとしても…)

 

 2年間、この2年間で攻略されたのは全部で75層。しかも、それは無論自分一人の力ではなく、攻略組合計何百人にも及ぶ戦力があったからこそできたことだ。ただ一人で残り25層を攻略するなんて、かなりの時間を消費してしまうに違いない。ならば、できるだけ早く本丸に向かって…。本丸?

 

「待てよ…」

 

 キリトは、一度ブレーキをかけて立ち止まる。

 

(あいつは、あのボス部屋で最上階って言ってた…だが、最後に俺たちの元から去るとき、奴は本丸という言葉を使ってた。…この二つは違うんじゃないのか?それに、今考えてみると…)

 

 よく考えてみれば、自分はどこに行こうとしているのだろう。75層を抜けた先が渋谷だったのならば、ここが76層と言うことになる。と、いうことは迷宮区がどこかにあるはずだ。迷宮区は、その名前のとおり迷路状のダンジョンである。一つの層に必ず一つ、天にまで昇るほどの大きさの建造物がある。それが迷宮区。だが、周りを見てもそんなものが現れたようなことはない。ニュースでもそのようなことは言っていなかったはずだ。では、自分はどこに向かえばいいのだろうか。考えろ。奴が本丸と呼びそうなところを。彼が、最終決戦の舞台として選んだ場所を。

 

(考えるんだ…あいつが本丸と呼びそうなところ…自分の家?…いやそんなもの警察が差し押さえて入るのも困難なはず…だったら、奴の潜伏場所…いや、そんなアンフェアな事………考えろ…もっと単純に…)

「あっ…」

 

 そして、彼は一つ気が付く。あるではないか。このSAOの本丸が。先ほどみたニュースで名前の出ていた場所。

 

「行くしかない…これは賭けなのかもしれないけれど…!」

 

 そして、キリトはペダルをこぎ出す。向かった先は…。

 

 一方そのころの別の場所。ビルの屋上に何名かの人間の姿が見えた。大きなテレビカメラや、マイクを持った女性の姿が見える。彼らはあるテレビ局のスタッフで、先ほどテレビでこの現状について報告を行っていた者たちだ。そんな彼らは、モンスターが大量に発生した実状に地上での撮影は不可能と判断し、あるビルの屋上からその様子を撮影しようと考えた。そのビルは4階建てと、周りのビルからすれば低い方のビルであったため、この場所でも十分モンスターたちの行動を見ることができた。幸いなことに集音マイクも持参していたため、音もばっちりと聞こえる。

 

「ここならいいわね…カメラ、準備はいい?」

「はい!」

「中継来ます!5・4・3・2…」

「こちら、大手電機機器メーカーレクトのビルの前です!こちらには、多くの怪物が現れ現場は宗全となっております!警察はレクト本社内にいる社員を除いて周辺の住民の退去を完了しており、依然としてにらみ合いの状態が続いています!」

 

 リポーターは早口気味に現在の状況を簡潔に伝えた。とりあえず、レクトの周辺のビルの人払いには成功したようで、残るはレクトのビルの中にいる社員だけとなっているのだが、警察も銃の弾をほとんど使ってしまったためにうかつに手出しすることができなくなっているらしい。そのため、現在はモンスターがその場所から広がらないようにバリケードを敷くことに専念しているようだった。ディレクターの元に一本の連絡が入った。大手の老舗デパートで、モンスターと人間が戦っているとの情報だった。ディレクターは現在の状況を鑑みて、ひとまずここでのリポートは終わり、デパートの方へ向かうべきかと考える。その時、リポーターが何かに気が付く。

 

「え?カメラさん、あっちにカメラを向けてください!」

 

 カメラマンは、その言葉にとっさに反応する。彼女が指さした方向には警察に止められる多くの野次馬が集まっていた。それから、急にモンスターが現れたために置いてけぼりにされてしまった車も数台見える。いや待て、その車の上を何かが飛んでいないか。まるでゲームの足場を飛んで渡るかのように、一つの黒い影がレクトへ向けて進んでいる。そして、警察のバリケードに一番近いクルマに到達すると、その影は勢いよくジャンプして警察を飛び越えていった。

 

「な、何なんでしょうか一体!警察のバリケードを抜けたのはモンスターではなく人です!しかもありえないジャンプ力…まさかあれは!SAOのプレイヤーなのでしょうか!?」

 

 リポーターは直感的にそう表現した。しかし、事実彼はSAOのプレイヤーであり、攻略組の中でも最も前線にいるプレイヤー、キリトだった。キリトは、モンスターを見るとすぐさま大きな声で言った。

 

「茅場昌彦!たどり着いたぜ、本丸に!」

 

 本丸。キリトは、この言葉の意味をレクトであるととらえたのだ。そもそも、SAOに置いて一番の要となるのは何かというと、ナーヴギアでも、インターネット機能でもなく、サーバーなのだ。サーバーとは、クライアントと呼ばれる者からの要求に応じて何らかのサービスを提供する側の機能あるいはシステムである。無論、SAOはそのサービスの中の一つである。つまり、SAOはそのサーバーがなければ機能しないのだ。元々サーバーは大手ゲームメーカーのアーガスが所有していた。しかし、SAO被害者に対する莫大な賠償金のために倒産した後は、レクトがそれを所有し、管理している。本丸、つまり、城の中核を担うのがサーバーであると考えるならば、茅場昌彦がいるのはこのレクトだろうと考えたのだ。そして、やはりそいつは現れる。

 

『よく来てくれたね、キリト君』

「…」

「皆さま!今聞こえましたでしょうか!男の声が突然…あぁ、今ビルに設置されている大型スクリーンに男の姿が映し出されました!あれが茅場昌彦なのでしょうか!?」

 

 リポーターの女性が言ったっとおり、大型スクリーンに男の姿、ヒースクリフの姿が映し出された。彼女を含めた現実世界の人間に置いて、ヒースクリフの姿と声を知っている者は皆無ではあった物の、その物腰からしてそれが茅場昌彦と考えるのが妥当だと彼女は判断したのだ。

 

「あぁ!このゲームを、クリアさせてもらいに来た!」

『できるかな?見たところ君は一人のようだが…』

「できるさ!なぜなら、俺は…」

 

 キリトは、剣を取りだし、スクリーンに剣先を伸ばして言った。

 

「ビーターのソロプレイヤーだからな!」

 

 キリトはそう言うとモンスターがひしめき合う戦場へと走って行った。1対50、下手をすればもっと多い。誰が見ても劣勢は明らかだった。彼に待つのは絶望なのか、希望なのか、だが昔の人物はよく言ったものだ。さいは投げられた、と。

 

 

 

 

「来てくれてありがとうアスナ」

「ううん、キリト君のためだもの、来ないわけにはいかないでしょ」

 

 第48層、リンダースにあるリズベット武具店にて彼女たちはそう言った。今回アスナが来たのはダークリパルサーの強化の手伝いのためである。と、言っても彼女にできる事と言ったら資金提供ぐらいであるのだが。

 

「でも、よくこんなにコルがあったわね…あんたたち新居購入のために色々と浪費したんでしょ?」

 

 コルとは、SAOに置いて流通しているお金である。これは、モンスターを倒す、またはクエストをクリアする、もしくは所持品を売ると言った方法で手に入れることができる。しかし、アスナはキリトとの新居を買う際に、自分がホームにしている家までも売り払って、内装を整えていた。そのため、彼女が持つコルはかなり少なくなっている。リズベットからすれば、出来る限りの強化が出来るほどのコルが集まればいいなとは思っていた。のだが、アスナの所持金はかなり多く、リズベットはそれに驚いていた。これなら、最大値までダークリパルサーを強化することができるだろうが、こんな大金どこから持ってきたのだろう。

 

「うん…実はね…」

 

 そして、アスナは語る。この場所へ来るときのことを。

 

 

「はぁ、転移結晶持っていないから転移門まで戻らないと…」

 

 アスナは現在、転移結晶を所持していなかった。そのため、転移門がある渋谷に行き、そこからリンダースへと飛ばなければならなかった。なお、おそらく警察によって封鎖されているだろうからして、アスナはスニーキングミッションでその場まで進まなければならないので、かなりの苦労が予測される。そもそも、埼玉県から東京に戻るのですら、かなりの労力がいることだろう。その時、道路の方から声がかけられた。

 

「奥さん!」

「へ?」

 

 周りを見渡す。だが、そこには彼女以外の人間はいない。と、言うことは声をかけた人は自分に声をかけたということになる。だが、彼女には自分の事を奥さんなんていう人の心当たりは…。いた。

 

「やぁ~やっぱり奥さんだ」

「ニシダさん!」

「いやぁ~奇遇ですなぁ」

 

 22層で出会ったニシダである。彼は、SAOで出会った時から、自分の事を奥さんと言っていた。無論、キリトのである。ニシダは助手席から運転席を挟んで声をかけてくれたらしい。運転席には、彼の奥さんと思わしき女性が座っている。

 

「ニシダさん、これからどちらへ?」

「えぇ、実は東京のほうの釣り堀に会社の友達とね」

「東京!」

 

 アスナは、ニシダのその言葉に飛びついた。

 

 

 それから数十分後…。

 

「ニシダさん、ここまで送っていただいて、ありがとうございます」

「いえいえ、お役に立てて光栄です」

 

 結局、埼玉から東京までニシダの乗る車に同乗させてもらった。後ろの席には釣り堀に行くという話通り釣り道具や竿、それと写真立てが置いてあった。蛇足だが、ニシダ自身も普通車の免許を持っていた。しかし、SAOにとらわれている間に有効期限が切れてしまい、運転することができなくなってしまったらしい。だから奥さんが運転してくれているそうだ。

 

「では、私はこれで」

「あぁ、ちょっと待ってください」

「?」

 

 転移門へと急ごうとするアスナを制したニシダは、メニュー画面を出し操作する。そして、アスナのメニュー画面がそれに反応するかのように呼び出してもいないのに出てくる。そこには、ニシダからコルを受け取ったという旨のメッセージがあった。

 

「これ…」

「私にできるのはここまでですから…」

 

 ニシダは、メニュー画面をしまうと、何かを懐かしむように目を閉じた。

 

「私は、あの世界で様々な経験をしました。けど、釣りの腕前はだいぶ達者になったものの、どうにも戦闘関連ではからっきしで…だから、私があなたたちにできるのはもう、これぐらいです…」

「ニシダさん…」

 

 結局のところ、ニシダは釣りのレベルではマスタークラスではあるが、その代わりとして戦闘系列のスキルがあまり良くない。SAO内では、22層が解放されてからは、ずっとそこにいたそうで、22層にはあまりモンスターは出ないため、そっちのレベルが上がらないのは当たり前であろう。

 

「いやはや、本当に申し訳ない…」

「え?」

「本当なら、君たち若者でなく、我々のような大人が何とかしなければならないというのにねぇ…」

「ニシダさん…」

 

 本来、子供たちを守るためであれば、自分たち大人が危険をおかさなければならない。しかし、自分には戦闘の手助けなどできない。だから、子供に全てを託さなければならないというのは、かなり心苦しいものがあるのだ。

 

「奥さん、これだけは忘れないでほしい。君達は、私なんかよりも多くの時間を生きることができるだろう、その中で大きな挫折や、立ち直れないようなこと…そして大事な人との別れという物もある。けど、それは全て終わってしまえば過ぎたこと…時は流れに逆らうことはできない…」

「…はい」

「このSAO事件の最中、私も大切な人を失った…」

「え?」

 

 そしてその目線は、車の方へと向けられる。まさか、あれはそういう意味だったのだろうか。

 

「でも、それも過ぎたこと…私は何度でも経験したが…大切なのは、その後どうするか…」

「…」

「悲しんではいけないとは言わない。けど、人の死に慣れてもいけない。この後の人生、君達には多くの試練が待っている…けど、立ち止まってはだめだ。歩き続ければ、きっと道は開ける。どれだけ時間がかかってもいい。まっすぐ、自分の道を歩きなさい」

「…はい」

 

 そして、ニシダは奥さんと一緒に去っていった。その後、警察の目をかいくぐり、アスナは転移門へ、そしてリズベットと合流したのだ。

 

「過ぎたこと…か」

「…リズはどう思う?」

 

 過ぎたこと。SAO事件に巻き込まれたことはすでにそれになり欠けている。この一連の事件で、自分たちは社会的に大きなものを失ってしまった。精神的にも、ひどく傷ついてしまった。だが…。

 

「そうね…どちらかと言うと、SAOをプレイしなかったらキリトに出会うことはなかったわけだし、刺激的だったのは間違いないわね」

「…うん、私もSAOをしていなかったら、キリト君やニシダさん…それだけじゃなくて、色々な人に出会うこともなかった…」

「感謝とは行かないまでも…SAOが私たちの世界を広げてくれたのは、間違いないわね」

「うん…」

 

 茅場昌彦に感謝することもできないし、肯定することもできない。だが、もしも自分たちがこうしてゲームの中に閉じ込められなかったら、この2年間の出会いはなかった。少なくともアスナは最初の一日程度プレイしたら、もう一度プレイする予定はなかったし、もしデスゲームになってなかったらリズベットもこうして武具店なんてものをやっていなかったかもしれない。確かに、このゲームのために人生がめちゃめちゃになってしまったのは認めるが、その代わり大きく成長させてくれたということも、また誠であった。

 

「ねっ、アスナ…ん?」

「メッセージ?」

 

 リズベットが何かを聞こうとしたその時、二人同時にある人物からメッセージが届く。そこに書かれていた名前は≪アルゴ≫、SAOの情報屋の女性である。通称≪鼠のアルゴ≫は、キリトと同じくβテスターで、その経験や情報網などから、有益な情報を数多くのプレイヤーに提供してきた。が、ここで二人に疑問符が付く。通常アルゴはどんな情報にもお金を取るのだ。守銭奴と言われればその程度だが、しかしその分情報は正確なものを取り扱い、誤った情報を流すことはない。その正確性から、ラフィン・コフィンのアジトの情報から、奇襲作戦の漏洩まで、誰が犯人なのかを捜す際、いの一番に候補に挙がり、一瞬で犯人候補から外れるほど信用におけるほどであった。それはともかくとして。報酬も支払っていないのに、あのアルゴがこうしてメッセージを、それも複数のプレイヤーに同時に送るというのは、初めてであった。一体どんなことが書かれているのだろう。二人は、メッセージを開く。そこに書いていたのは。

 

「え?」

「嘘…」

 

『緊急:シリカからの伝言。キリトがヒースクリフを倒しに一人で向かった』

 

 まるでクエストのような見出しが、そこには書かれていた。




 ニシダさんの友人は、あの人が元ネタの人になる予定。まぁ本人は出てこないが。
 次回、使い古されたお約束展開が待っている。
 あと活動報告の方もご覧になってください。

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