仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 過去の英雄。過去の伝説を超えてやれ。


SAOの世界2-14

「くそっ!今日はなんて日なんだよまったく!!」

 

 警官は、路肩にパトカーを止めてそう言った。なにやらイライラしているようだが、当たり前のことなのかもしれない。

 

「そう怒鳴るな、少し冷静になれ」

「なれませんよ!こんなの、ファンタジーかなんかですって!」

 

 警官は、助手席にいる先輩に向かってそう言う。彼は、警視庁に所属している巡査である。その連絡があったのは、喫煙室でタバコに火を付けたときだっただろうか。渋谷の有名なビルの真上に空中に浮かんだ城が現れたというのだ。当初、職員も皆何をバカなことを行っているんだと笑っていた。だが、渋谷署の人間が駆けつけると、本当に城があって、しかも怪物がいたるところに現れたというのだ。もう、これは笑っている場合ではない。警視庁上層部は、管轄、縄張りに拘わらず、全警察官に出動を命じた。のだが、武器と言えば警棒か、外で使うのが初めての拳銃ぐらい。しかも弾に限りがあると来た。

 

「こんな時は自衛隊でしょ!?地球なめんなファンタジーでしょ!?」

「何を行ってるか分からんが、今首相も防衛大臣もいないからな…まさに手も足も出ないってことだ」

 

 手と足じゃなくて頭であろうに。怪獣退治の専門家(フィクションでは)は、首相や防衛大臣からの指令がなければ動けない。そんな大事な責務を持っている人物たちは、海外に出ていて連絡が取れないときた。こんな時に動かないで何が自衛隊か。と、その時無線から連絡が来る。

 

『こちら本部、新宿にある大型デパートで怪物が人間を襲っているとの連絡あり、至急急行願う』

「新宿の大型デパートって…」

「すぐ近くだな…」

 

 ここから走って10分と言ったところだろうか。自分たちはかなり近い位置にいるといえるだろう。

 

「回しとけ、おれが報告する」

「分かりました」

『新宿1、了解』

『新宿20、至急向かう』

『渋谷10、了解しました』

「こちら警視庁96番、至急現場に向かいます」

 

 若い警官は、パトライトのスイッチを入れる。この規則的なサイレンも随分と聞き慣れたものだ。自衛隊がどうとか、怪物がどうとか関係ない、そこに市民がいるのなら、善良な市民を守るのが警察の使命だ。彼は、サイドブレーキを降ろし、アクセルを踏んだ。

 

 

「ハァッ!ハァァ!!」

 

 蹴り、殴る。だが、それは防がれ、かわされる。そして攻撃を受ける。そんな繰り返しだ。

 

「どうしたどうした、戦士様よ!?」

「クッ!」

 

 PoHは、ユウスケを挑発する。場数で言ったら、多くの怪人と戦ってきたユウスケに分があるだろう。だが、PoHはそれを越すほどの修羅場を潜り抜けてきたとしか言いようのない男。その上、ユウスケは自分の力を出し切れていない状態だ。少しの隙を見つけられ、ソードスキルを当てられてしまう。人は行くところまで行くと、ここまで修羅になれるのか、ユウスケは戦いながらPoHに勝つ方法を模索するが、しかしどうしても勝てそうにもない。勝てるイメージが掴み切れない。それに加えてもう一つ、懸念事項があった。

 

「ハァ…ハァ…」

「詩乃ちゃん!しっかりしてください!」

 

 後ろで蹲っている詩乃だ。過呼吸になっているかのように息を絶え絶えに呼吸している。PoHの言う通り、本当に彼女が人を殺したことがあるのだろうか。確証は持てないが、しかしその状態を見たらそう思わざる負えないだろう。あの時自分が言った、人の命を奪っていい理由なんてない。おそらく、彼女のトラウマを引き出してしまったのは自分だ。もちろん、彼女にトラウマがあるなど知らなかった。だが、そんなことは理由にならない。早く、こいつを倒して謝らなければならない。

 

「ッ!」

「あぁ?」

 

 その時、デパートの入口の方から何人もの影が見える。服装からして警察のようだ。助かった、PoHを何とか押さえてもらって、その間に詩乃と夏海を逃がせれば。そう思ったのも束の間だった。

 

「撃ちますか!?」

「バカ野郎!人に当たったらどうする!怪物が離れたところを狙うんだ!」

「了解!」

「怪物…まさか、俺が?」

 

 彼の周りには、怪物と言われる異形の存在は、自分しかいない。と、言うことは怪物とは自分の事なのだろう。確かに自分の見た目は、怪物なのかもしれない。だが、本当の怪物は、今彼らの目の前にいるPoHだというのに、本当に倒さなければならないのは…。いや、彼らにとって倒すのは自分であってるのだろう。彼らから見れば、自分は一市民を殺そうとしている怪物。ただそれだけ、弁明もできやしない。

 

「ハハハッ!お笑い草だな!怪物だってよ戦士様よ!」

「グワァ!!」

「殺す…殺す殺す殺す!!」

 

 ソードスキル≪マーダーライセンス≫、武器を何度も振り下ろして敵を斬り刻む攻撃だ。それがユウスケに4回当たった。ユウスケの身体から火花が散った。

 

「うっ…あぁ…」

 

 ユウスケは、その攻撃による衝撃と、先ほどのモンスターを倒したときに落下した時の衝撃によるダメージもあって、変身が解けてしまう。その姿に衝撃を受けたのは、警官隊だ。

 

「に、人間!?」

「怪物じゃないのかよ…」

 

 今の今まで怪物だと思っていたのが人間だった。では、自分たちは何を倒せばいい。怪物はここにはいない。いや、怪物に変態していた人間を倒すべきなのか。いや、それとも、どうすればいい。

 

「部長!どうすれば…」

「…様子見だ…」

「へ!?」

「様子を見るんだ!それしかないだろう!!」

 

 ここにきて、彼らを襲ったのは、人間でもなく、怪物でもなく、恐怖でもない。混乱だった。自分たちはどう行動すればいいのか。まったく分からない。

 

「くっ、くそぉ…」

 

 口の中を切っただろうか、血が口元から外へと流れている。ボロボロになったユウスケは、なおも立ち上がろうとするがしかし、力が出せずにその場に蹲ってしまう。

 

「ユウスケ!」

「へっ…」

 

 PoHはそんなユウスケを尻目に、夏海と詩乃のところへと向かう。夏海は、詩乃を守るべく前に出る。

 

「来ないでください!詩乃ちゃんには手出しさせません!」

「おい…」

「ヒッ…」

 

 詩乃は、その威圧感に思わず言葉を漏らしてしまう。

 

「どうして辛いか分かるか?」

「え…?」

「それはな…中途半端に殺してるからだ」

「中途…半端?」

「詩乃ちゃん!聞いちゃダメです!」

「1人目は!…流石の俺も欠片ぐらいは動揺した…けど5人目ぐらいになってくるとなぁ、死を待つしかない奴のうめき声が楽しく聞こえてくる」

「…」

「詩乃ちゃん!」

 

 だが、奴は止まらない。

 

「殺せ!…それしか、お前の心が休まることは…」

「それ以上はやらせない!」

「あぁ?」

 

 それ以上は、ユウスケがしゃべらせなかった。ユウスケは這いつくばりながらも、PoHの足にしがみつき、何とか抵抗しようとする。だが、PoHは足蹴にし、力の出ないユウスケは簡単に転がってしまう。

 

「あぁ…めんどくせぇ…先に死んどけ」

 

 そう言いながら、PoHは武器を振り上げる。とどめを刺すつもりだ。ユウスケは逃げようとする。しかし、体がどうにも動かない。万事休すとはこのことか。

 

「クッ!」

「ユウスケェ!」

 

 殺られる。ユウスケは咄嗟に目をつぶった。次の瞬間、一発の銃声がする。

 

「チッ!」

「え?」

 

 見ると、PoHが後ろに下がっている。何があったのだろう、そしてあの銃声は…。

 

「おい、お前何を!」

 

 後ろからそんな声が聞こえた。見ると、警官の銃から少しだけ白い煙が見えた。どうやら、先ほどの銃は彼のものらしい。上司らしき人物に怒鳴られた彼は言う。

 

「部長!どっちを助けたほうがいいのか分かり切ってるじゃないですか!?」

「…」

「彼は、怪物なんかじゃない!怪物が、人を助けるもんですか!」

「…あぁ、全員!フードの男に向けて撃て!!盾ももって来い!!」

「了解!」

 

 警官隊は、ユウスケの援護に入った。銃だけでなく、ライオットシールドと呼ばれる盾も用いて、ユウスケや詩乃達とPoHの間に行き人間のバリケードを作る。

 

「あぁ…おもしれぇ!」

 

 今度は、警官隊とPoHの戦いが始まった。

 

 

本当に…?

 

本当に…この苦しみから解放されるの?

 

「本当に、人を殺したら…」

 

私は拒絶することしか考えていなかった。

 

忘れなければならないと思っていた。

 

でも、そうじゃない。

 

受け入れるんだ。

 

そうすれば、この苦しみから解放されるんだ。

 

そうだ、その方がいい。あの人は、私を分かってくれている。私の苦しみを…分かってくれる。

 

あの人みたいになれば…私は…。

 

「詩乃ちゃん!」

 

夏海さん…。

 

「だめです!そんなの、人の考える事じゃありません!」

 

…貴方に何は分かる。

 

「貴方に、何が分かるんですか?」

「え?」

「人を殺したこともないくせに!同情なんて何の意味もない!共感なんてただの偽善!でも、あの人は私の事を分かってくれた!私と同じ痛みを知ってる!だったら私も!」

「!」

 

 夏海は、思い切りの力を込めて詩乃の頬を叩いた。

 

「私だって人を…士君を殺しました!!」

「…え」

 

 それは、数か月前。門矢士が破壊者としての自分を受け入れ、全てのライダーを滅ぼすべく戦っていたときの事。夏海は、士を止めるべくキバーラの助けを借り、仮面ライダーキバーラとしてディケイドを、士を倒した。その後いろいろなことがあって彼は復活したが、彼を刺したときのあの感触、人を斬った時の感覚は今でもこの手の中に残っている。そして、彼が死ぬときの表情も、彼女は死というものを何度だって旅の中で見てきたそして、自分自身の死ですらも味わった。

 

「それだけじゃない!私は今までたくさんの…元は人間だった怪物を倒してきました…」

「…夏海さん…あなたは…」

 

 いったい何者なの?その言葉が彼女の口から出ることはなかった。

 

「でも、どれだけの怪物を倒しても士君を殺したときの感覚は消えることはないんです!むしろ、日に日に、士くんの顔を見るたびに…あの時の、人を刺した感触が甦るんです」

「…なら…」

 

 だったら…。

 

「どうすればいいのよ…拒絶することも、受け入れることもできないんだったら…どうすれば…」

「背負うんだ…」

「え?」

 

 その言葉を発したのは、ようやく立ち上がれるようにまで回復したユウスケであった。

 

「君のトラウマを掘り起こして…ゴメン…」

「ユウスケ…」

「でも、人を殺したことはどうあがいても正当化することはできない。君が、人を殺したのは理由があったはずだ…それを、教えてくれないか…」

「わ、私は…ただ、お母さんに死んでもらいたくなかった…ただ、それだけ…」

「だったら、それでいいじゃないか…」

「え?」

「守れたんだろ?お母さん…君は、お母さんを助けたことを後悔しているのかい?」

「それは…」

「お母さんを助けるために君は人を殺した。でも、君のおかげでお母さんは助かったんだ。それは事実だ…」

「…」

「人の死は…どれだけ時間がたっても忘れることはできない…いや、忘れちゃならないんだ。その人が生きた人生、その人が生きるはずだった人生、それら全てを背負って生きていく…辛いからこそ、その死と一緒に生きていくんだ」

「…」

 

 そして、ユウスケはサムズアップした。だが、そこには笑顔はない。

 

「わぁぁ!!」

「!」

 

 瞬間、警官隊の叫びが木霊した。PoHのステータスはかなり高いらしく、元々の身体的能力の差のために警官隊は圧倒されていた。また、跳弾によって天井にあった電球はほとんど割れ、唯一の明かりと言えば、ユウスケがリザードマンと戦って1階に落ちてきたあの場所の屋上にある天窓からもたらされる太陽の光ぐらいである。

 

「ハーフタイムショーは終わりだ。続きを始めてもいいか?」

「…」

 

 周りを見る。警官に死人はないようだが、しかし切り傷が体に刻まれている者が大勢いた。人を傷つけるという行為をショーと言いやる男と、一人の死に傷ついている女の子。こんなの…。

 

「こんな…」

「あぁ?」

「はぁ!!」

 

 ユウスケは、傷ついた身体にも拘わらず、PoHに向かって突撃する。そしてレスリングのタックルのように腹部に突撃する。その激突の衝撃で、PoHは唯一外の光が届いている天窓の下へ転ぶように沈んでしまう。

 

「お前、そんな体でどうやって…」

 

 満身創痍のその身体でどうして動くのか、PoHにはなはだ疑問であった。だが、それにはPoHの知らない力が動いていたのは確かだ。いや、知るわけはない。分かるわけはない。それは、PoHが絶対に手に入れることのできない誰もが心の中に持っている思いの力なのだから。

 

「こんな奴が笑うために…誰かが泣くのを見たくない!」

「あぁ!?何戯言を言ってんだ!」

 

 PoHは、攻撃してくるが、ユウスケはその瞬間その腕を両手で掴み取り、そのまま背中越しにPoHに言う。

 

「俺は!みんなの笑顔を守って見せる!!」

「はっ!綺麗事だな!」

「あぁ!綺麗事さ!けど…目の前で泣いている人も守れないんなら!綺麗事を言う資格だってない!!」

「ッ!なんだ、この力は!?」

「みんなの笑顔のためなら!究極の悪だって受け入れてやる!!!はぁっ!」

 

 ユウスケはPoHの腹に蹴りを入れる。その攻撃で、Pohと距離をとる。それが覚悟なのか分からない。これで、赤い鎧を纏うことができるのか分からない。いや、そんなのはもうどうだっていい。変身できるのか、変身できないか、そんなものもはや関係はなかった。だが、一つだけ分かることがある。やつの言う通り、自分の見ていない場所で泣いている人たちがいる。それすらも、自分は笑顔にすることができない。だが、だからといって目の前にいる泣いている子を無視する理由にはならない。そして、自分が戦っているのは、こんなやつの笑顔のためではない。笑顔になるべき人達のためだ。笑顔になることができない人たちに笑顔の意味を教えたい。だが、それを阻むものがいるのであれば、自分は、どんな罪も悪意だって背負ってやる。それが、彼の…。

 

「だから詩乃ちゃん!見ていてくれ!!」

「ユウスケ…」

 

 クウガの…。

 

「俺の!」

 

 覚悟なのだから。

 

「変身!!」

 

 ユウスケは、腰に手をあてがう。その瞬間、腰にベルトが出現する。そして、いつものように右手を左上に、そして左手をベルトの右側の上にあてがう様に移動させる。そして、それぞれを逆位置へとスライドさせていく。それは、いつも通りだった。だが、その瞬間、その場にいる全員が聞こえていた。心臓の音。鼓動が重く、そして規則正しく、その場を支配してるようにのしかかる。PoHは、変身の隙を与えてなる物かと、突撃を慣行する。しかし、それは無駄なことだった。ユウスケはベルトの左側のスイッチを押す。

 

「うらぁ!」

 

 まず、右手でPoHの顔を殴る。瞬間、その右手が変化する。

 

「はぁ!はぁっ!」

 

 次に左足でわき腹を蹴る。変わる。右足で蹴る。変わる。

 

「ハァァァ!!!うらぁ!!」

 

 そして左手がPoHの腹部にめり込み、それを合図にしたかのように身体に赤い鎧が纏わっていくように変化を起こし、そして顔がフルフェイスのマスクで覆われる。ユウスケは、それを待っていたかのように、PoHを投げ飛ばす。

 

「なに…あれ…」

「ユウスケ…」

 

 詩乃には、それが神々しくも見えた。つい先まで見ていた彼とは全く違う。色だけではない。その身体からあふれ出るオーラのような物すらも違っていた。天窓からくる光が、まるでスポットライトかのようにその赤い戦士の姿を照らし出していた。血のように赤く、そして燃えるような紅の姿。PoHは、その姿を見て言う。

 

「なんだ、その姿…」

「クウガ…」

「クウガ?」

 

 ユウスケは、小さく言った。そして、次は自信をもって、自分に言い聞かせるかのように言う。

 

「そうだ、クウガだ!!」

 

 その日、新しい伝説を塗り替えるべく彼はまた、始まった。 




 なんだか最近、ユウスケが活躍する回だけ仮面ライダーディケイドのBGMじゃなく、クウガの方のBGMが頭の中で鳴っている。

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