仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 前回のセリフ、究極の悪じゃなくて究極の闇の方がよかったんじゃないかと思い始めた今日この頃。


SAOの世界2-15

 目を疑う光景。警察という職業柄、殺人事件の現場や、孤独死をしている人間の部屋に行くことが多い。そして、そこで多くの死体を見る。腹から血を流して冷たくなっている人間。頭を打って無くなっている人間。死後数日たってから見つかって、見るに堪えない姿になっているモノ。だが、それらは全てあり得る光景である。日常で生活していれば、まぁ見ることはあるかなという程度の光景だ。では、目の前のそれは何だ。人間と、人間らしき怪物が戦っている。しかも、怪物の方が自分たちを守ろうとしている。ヒーローショー?いや、これはそんなものよりもよりリアルであった。怪物が人を殴る音も、人が、怪物を斬るときの音も、どれも鈍く、鋭く、そして怖い。あの怪物、さっき名を名乗っていた。なんて言ったか、いやそう…。クウガだ。赤い戦士の名前、それはクウガ。彼が、クウガだ。

 

「はぁぁ!うらぁ!!」

「ぐっ!チッ!」

 

 PoHは、横から水平に刀を入れ、クウガを斬ろうとした。クウガは、それをPoHの真上を通るように飛んで避けて、PoHの後ろにしゃがむと、PoHに背中を向けたまま左足だけを伸ばしてPoHの背中を蹴る。PoHは、蹴られた衝撃で前に進むと、クウガの方にいったん向き直る。

 

「ハハハ…面白れぇ、面白れぇじゃねぇか!!」

「…」

 

 狂気に満ちた表情。今までの敵は、その表情を知ることは叶わなかった。しかし、彼の場合は違う。その顔がよく見える。今まで戦ってきた敵も、同じような顔を浮かべていたのだろうか。こいつのような顔を。

 

「おらぁ!!あぁぁ!!」

「くっ!はぁ!」

 

 クウガは、PoHの一撃目の攻撃をすんでで避け、二度目の攻撃の際に横に跳んで避ける。クウガとしての力を発揮できたのはよいことと言えよう。だが一つ、武器によるリーチの差に関してはどうにも不利だ。だが、なんとかできないわけではない。周囲を見る。あるのは警察の使っていた盾、いや盾では何の役にも立たない。では、銃。銃ならばあのフォームになれば、いやあれは遠距離専用と言っていいもの。一対多で使うならばともかくとして、一対一であれをやるのは得策ではない。何かないか、他に武器になり得る物。待てよ、そういえばここは服屋の前だ。と、言うことは…。

 

「あれだ!」

「おらぁ!」

「はぁッ!」

 

 クウガは、その攻撃を避けると、ガラスを割って、中からマネキンを引き出した。

 

「そんなもんで何をするつもりだ?」

 

 Tシャツを着ているマネキン。全身コーデを映すためのそれではなく、上半身だけのそれには、棒が一本刺さっているものであった。クウガは、近くの壁にそれを叩きつけ、マネキンだけを壊し、そこにあるのは棒だけとなった。そしてクウガは、変身した時と同じポーズをとり…。

 

「超変身!」

 

 ボタンが押される。その瞬間、赤い戦士だったその姿は青い戦士、ドラゴンフォームへと姿を変える。そして、彼の持っていた鉄の棒がもまた変形し、ドラゴンロッドと言う名の武器へと変わる。

 

「また変わりやがっただと?」

「ハァッ!」

 

 クウガは、棒術のようにそれを操りPoHの攻撃を逸らしながら戦う。これで、クウガがPoHに劣っていた所が改善された。PoHの武器は、包丁のような形だ。そのため、どうしてリーチが短い。今までは、クウガの方が武器を持っていなかったために関係のなかったことだった。しかし、クウガがリーチの長い武器を持ったことにより、アドバンテージが一切なくなってしまったため、形勢はがぜんクウガ有利となった。

 

「てめぇ、ふざけやがって!」

「はぁッ!…少なくとも、殺人をどうとも思っていないお前に言われる筋合いはない!」

「…」

「お前を野放しにしていると、また誰かが泣くことになる…だから、お前は俺がここで倒す!」

「はっ!言ってな!!」

「ユウスケ…」

 

 詩乃は、彼らの戦いを見逃さないようにしていた。いや、逸らすことなんてできなかった。本当は、ユウスケは戦わなくてもいいはずなのだ。警官達に後を任せて、さっさと退散してもよいはずなのだ。しかし、それでもユウスケは戦っている。その場にいる、全ての人間のため、会って間もない自分、名前も知らない警官たちのために、彼は一人で戦っているのだ。そんな彼から目を逸らすなんてできはしなかった。

 

「はぁ!」

「ぐっ!!畜生…」

 

 クウガが、腹部をついた瞬間、PoHは後ろへと逃れる。そして、天窓以外ほとんど光量がない為に暗いことに加え、大きな棚が数多いための死角により、クウガは彼の姿を見失ってしまった。このままでは逃げられる恐れがある。そんなことはさせるかと、クウガはドラゴンロッドを手放し、警官が落とした銃を一つひろう。そして、また変身の時のポーズを取る。

 

「超変身!」

 

 瞬間、クウガはまたもその姿を変え、緑色の姿、ペガサスフォームへと変化する。そして銃もまた、変化し、ペガサスボウガンという名の武器へと変化する。これが、遠距離攻撃に長けたと言った形態だ。だが、その長所はそれだけではない。このフォームの一番の利点、それは五感の内、視力と聴力の力を極限まで研ぎ澄ませることができるということだ。クウガは、耳を澄ませる。なお、聴力が極限まで研ぎ澄まされた場合、かなり遠くの声や音まで聞こえるため、それを絞らなければならない。現在クウガの耳には多くの音が聞こえる。サイレンの音、車の音、ヘリコプターの音、キャタピラらしき音、人が行きかい、それらの多くがどこか同じ方向へと向かっている。これは、キリトの声?もっと狭めていく。そして、聞こえる、足音だ。そしてそれの向かう先、それは…。

 

「そこだ!」

 

 クウガは、ボウガンを撃つ時のように金色のソレを引き、そして放つ。瞬間、弾のない空気弾が、ある場所に向けて飛ぶ。そして…。

 

「くっ!」

「え?」

 

 詩乃の後ろに忍び寄っていたPoHに当たる。

 

「詩乃ちゃん!行きましょう!!」

「う、うん!」

 

 おそらく、PoHは詩乃に危害を加えようとしていたのだと思われる。だが、クウガのおかげでそれがなされることはなかった。そして、クウガは、ペガサスボウガンを投げ捨て、PoHへと接し、天窓の下へと投げ捨てる。

 

「しまっ!」

 

 その言葉を発したのはPoHだった。クウガの放ったボウガンは、PoHの手に当たり、武器を持っていた右手が部位欠損したのだ。そして、それを拾うことなく武器から話されてしまった。今、彼は完全に無防備である。今しかない。クウガは走り出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 クウガの姿は光に包まれ、そして赤い戦士、マイティフォームへとなる。PoHは、ソレが迫ってくる姿がまるでスローモーションのように見えた。一歩一歩が、しっかりと地面を捉え、そしてこちらに向かってくる。PoHにとってそれは、悪魔のように見えた。

 

「ハッ!」

 

 クウガは少し手前でジャンプし、空中で一回転する。そして…。

 

「はぁ!!」

「グッ!!!」

 

 PoHの胸にマイティキックが決まる。PoHは、地面を大いに転がって止まった。だが、それでもなお立ち上がったPoHの胸、クウガに蹴りを入れられた場所に紋章らしきものが現れたのを見た。そして、自分のHPバーを確認する。だが、そこにHPは残っていなかった。PoHは、クウガに目線を戻し、そして笑みを浮かべて言った。

 

「あ~~~~~あ……。まぁいいか……」

 

 その言葉を最後にPoHはその身体を傾け、地面に倒れる瞬間に、その身体がガラスが割れるような音を出しながら砕け散った。

 

 ゲームオーバー、その日、PoHというプレイヤー名を使っていた人物が死んだ。最後の言葉は、どういう意味なのだろうか。いや、考えまい。狂気に満ちた人間の言葉など、考えたくもない。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 ユウスケは、息を整えるように深呼吸をし、変身が解かれる。今回の戦いは、いつものそれよりも精神的に難しかった。ほとんど生身の人間と戦ったのは初めてであったから。例え、それが犯罪者であってもその命は背負わなければならない。決めたのだから、そう覚悟したのだから。

 

「ユウスケ!」

「夏海ちゃん…」

 

 その時、夏海が駆け寄ってくる。詩乃は警官に任せてきたようだった。それを見たユウスケは言う。

 

「キリト君のところに行こう」

「え?」

「聞こえたんだ、彼は戦っている…士もきっとそこにいるはずだ」

「士君が…分かりました、行きましょう」

「うん」

 

 ユウスケは、夏海と共にデパートから出ようとする。その時、

 

「ユウスケさん!夏海さん!」

 

 詩乃の声が聞こえた。2人はそれに振り返る。

 

「私…私!強くなります!人の死を背負えるように、強くなりますから!!」

 

 泣き顔を見せながらそう言った。ユウスケは、それに笑顔とサムズアップで返した。それに、詩乃も、笑顔とサムズアップで返す。彼女は、もう大丈夫だ。自分の罪に押しつぶされるようなことも、PoHのような犯罪者になることもないだろう。彼女の人生がそれからどうなるのか分からない。だが、きっと彼女にも自分を支えてくれる良い人が見つかるはず。罪を一緒に背負ってくれる良い人が。だから自分は行こう。彼女が住むべき、平和な世界を取り戻すために。そして、2人は去っていった。

 

「…」

 

 その場にいた数十名の警官は動けなかった。目の前で行われたこと、それは殺人に値する物だろう。だが、正当防衛、過剰防衛のどれかにも当たるかもしれない。そして、少なくとも、彼のおかげで自分たちは守られたということは事実だった。本来なら、自分たちがしなければならなかったこと、それを彼に任せてしまった。その罪は、少なからず自分たちにある。罪を背負って行った彼にできる事、それは…。現場に在中した警官を束ねていた男は言う。

 

「総員!我々の代わりに戦ってくれた戦士に敬意をはらい!…敬礼!!」

 

 警官はその言葉に合わせてユウスケたちに向かって敬礼した。右手を頭の横に持ってきての綺麗な敬礼は、まさしく、漢に向かっての物であった。




 こういう時ってどういえばいいのでしょうか。お前は、悪役だが、物語を引き立ててくれたいい悪訳だったよって奴でしょうか。これ、元ネタ何なんでしょうね。
 次回、ついにいつものお約束の時間。
 あと、ある方からオリジナル仮面ライダーのコラボを持ちかけられましたが、あまりにもチートと思わしきもののため、保留とさせていただきます。

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