仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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SAOの世界2-22

「っ…!」

 

 強い光に飲み込まれたリーファは、目が覚める。ここは、見覚えがある。ALO内にある宿屋だ。最後に、ALOから寝落ちした時に泊まっていた宿の屋根と同じ屋根が目の前にあった。もしかして、今までの全部が夢だったのだろうか。リーファは、ベッドの端に座ると思い出す。自分が、SAOの中に入って、兄を助けに行く、そんな夢。すごくいい夢だった。そう思っていた彼女だが、そんな彼女の考えを否定する存在が出現する。

 

「リーファおばさん」

「あっ…」

 

 そして、目の前に彼女が、ユイが飛んできた。それは、あることを端的に表してると言える。

 

「…夢じゃ、ないんだね…」

「はい…ここが、ALOなんですね」

「うん…」

 

 夢じゃなかった。夢のような話だ。けど、夢じゃなかった。リーファは、メニュー画面を出す。そして、いつものスペースにはその言葉。ログアウトというボタンがあった。よかった、自分もまた帰ることができるのだ。あの世界に、あの現実に、帰ることができるのだ。リーファは、ログアウトの前にユイに言う。

 

「ユイちゃん、私一度ログアウトするから」

「はい、私はリーファおばさんが…」

「あの、リーファおばさんってのは止めて、せめてお姉さんで」

「はい!リーファお姉さん!」

 

 おばさんでもまぁまぁ別に構わないのだが、しかし自分はまだおばさんと呼ばれる年齢には程遠いと思っている。そのため、一応ユイにはお姉さんと呼んでもらうことになった。

 

「うん、それじゃユイちゃん…またね」

「はい!」

 

 そしてリーファはログアウトのボタンを押す。確認ボタンにYESと入れると、彼女の意識はリーファという身体を抜けて、ゲームの世界から姿を消した。ユイは、その様子を感慨深く見守った。この2年間、自分がモニタリングしていたプレイヤー皆が夢見ていたこと、それがログアウトだった。ゲームは違うが、プレイヤーがログアウトしたということを見れて、ふと笑みがこぼれる。その時、ユイは宿屋の外の人々の声を聴いた。そこにある窓から外を見る。街を歩くプレイヤー、空を飛んでいるプレイヤー、みんな笑顔でいてくれている。SAOのプレイヤーだって、笑ったりしていた。けど、それはどちらかと言うと諦めというか、SAOの中で生活することに慣れてしまって、自暴自棄になっている人も数多くいた。でも、それとは違う。そこにある笑顔は、紛れもなくゲームを楽しんでいる笑顔。2年前のあの日、あの最初の日の数時間にだけ見られた、真にゲーム世界を楽しんでくれているプレイヤーの笑顔だ。ユイは、ALOのシステムにアクセスを試みる。成功した。茅場によって、このゲームに役割を与えられた彼女にとって、自分は今、ALOを構成する一つのプログラムとなっている。そしてユイは、ALOの情報を集めることにした。この後ゲームに戻ってくるリーファ、それからいずれこのゲームをプレイすることになるだろうキリトやアスナ、シリカといったプレイヤーのために。

 

 

 

「…」

 

 目を覚ました桐ケ谷直葉は、そこから見えた景色を見て安心する。よかった、窓から見える景色はまるっきり同じだと、先ほど一度家に帰って来た時に自分が自分の身体にしたこととまるっきり同じ体勢、服装であることが、自分が自分の身体に帰ってきたということを示していた。

 

「痛たたた…」

 

 直葉は頭にかぶっているアミュスフィアを外すと、起き上がった。やはり、体の節々が少し痛い。一度帰宅した時に、少しは身体を動かしてはいたものの、それでもやはり1日間全く身体を動かしていなかったつけが回ってきたと言えよう。それに、少しおなかも空いた。ともかく、そんなことを言っている場合じゃない。直葉は、まだ痛む身体の関節をほぐすように動かすと、万が一転ぶということがないようにゆっくりと立ち上がる。少しおぼつかないところはあるが、しかしすぐに慣れてキチッと立つことができた。そしてクローゼットから私服を取り出し着替える。着替えが終わっていざ行こうと思ったその時、ふとあることを思い出した。

 

「あっ、そういえば自転車は…」

 

 自分の使用している自転車は、兄を探しに行くときにデパートに駐輪してそのまま置いてきてしまった。移動手段としては電車があるが、ここからは少し離れたところにあるため、いけないことはないが、時間がかかってしまう。どうするか、と直葉が考えていたその時、家のチャイムが鳴った。直葉は返事をしてから玄関に向かって、そしてドアを開ける。そこにいたのは…。

 

「えっとリ…ではなくて直葉さんですよね」

「あやかちゃん、どうしてここに?」

 

 直葉の目の前にいたのは雪広あやかだった。あやかは、直葉の姿がまったくと言うほど変わっていたので、一度確認を取った。因みに、どう違うと言うとリーファの時は長髪の金髪、それにとがった長い耳が特徴的だった。しかし、今の直葉はと言うと、短髪で、しかも黒髪という日本のどこにでもいる日本人女性の顔つきをしていた。とはいえ、3-Aの少女たちは日本人離れした髪色をしたメンバーが多かったわけだが。

 

「士先生から、きっと直葉さんはすぐに病院に行くだろうから二人で迎えに行って来いと」

「二人?」

 

 直葉は周囲を見る。しかし、あやかの他には人の姿が見えない。そんな直葉の様子を見たあやかは少し笑って上を指し言う。

 

「上です」

「上?」

 

 直葉が上を見る。そこには…。

 

「バイタルは?」

「血圧100の65、脈拍は55、体温36.3…低いですが2年間安静姿勢のまま過ごしていたことを考えると問題はないかと」

「そうだな…お母さん、これからのリハビリについては後で理学療法士から説明があると思います」

「はい…ありがとうございます」

「いえ…」

 

 医者、そして看護師数名が和人の身体を検査し終え、翠に報告する。プレイヤーの家族を除けば、医療関係者が一番この日を待ち望んでいたのかもしれない。まず、看護師にできる事はバイタルサインのチェックと、体位変換、それから機材のチェックぐらいで、医師に至ってはほとんど彼らにしてやれることはない。医師が彼らにやることと言ったら、プレイヤーがゲームオーバーになって、無残な姿をさらしている中死亡確認を行うことぐらい。この医師も今まで何人ものSAOプレイヤーの死亡確認を行ってきた。そしてそのたびに無力感に心を痛めてきた。病気や事故ならともかく、目の前で殺人によって命を落としていく人間を助けることができないという事実。それは、人の命を救いたいと思って医師を志した彼にとって、胸が引き裂かれる思いの毎日だった。解放されたのはSAOのプレイヤーだけではない。医師や看護師もまた重圧から解放されたのだった。

 

「では、我々はこれで」

「はい、ありがとうございます…」

 

 そして、看護師が後で洗髪に来ることを言うと、医師と共にその部屋から出ていく。ナーヴギアを外した頭は、すっかりと髪が伸びきってボサボサとなっていた。そのため、洗髪や髪を切るという必要があったが、この病院にいるプレイヤーは、和人だけではない。他にも何名もその病院にはいるため、のんびりとしている暇はなかったのだ。

 

「かぁ…さん…」

「ん?」

 

 その時、和人が声を出した。先ほどまでは、それほど声が出ていなかったが、時間がたってようやく少しは声を出せるようになった。因みに、和人はサングラスをかけている。暗い物、つまり瞼の裏をずっと見続けてきた目の強い光が当たると、目を失明する恐れがあるのだ。そのため、医師はこの日のためにサングラスを人数分用意していたのだ。翠は和人の近くまで来て言葉を聞く。

 

「かぁさん…子供じゃ…ないって、いってごめん…」

「…ううん、気にしないで和人…あなたがどう思おうと、私とあの人にとってあなたは大事な息子よ」

「…ありが、とう」

 

 もしも、和人に涙を流す分だけの余分な水分があったら涙していただろう。自分は捨てたと思っていた。けど、彼女は拾ってくれたのだ。自分の帰るべき場所、自分がいるべき場所を。その時、ドアが勢いよく開く。

 

「お兄ちゃん!」

「スグ…」

 

 ドアの先にいたのは、直葉だった。直葉を家まで迎えに来たもう一人は、ファイナルフォームライドしたユウスケだった。一日の間動かしていなければその分筋力が落ちる。そのためバイクで移動した場合ユウスケの背中を掴む力がなくて落ちる恐れがある。そのため、バイクでなく、ファイナルフォームライドのクウガゴウラムの背中にあやかと一緒に乗って、あやかが直葉が飛ばされたりしないようにがっちりと掴んでこの病院に屋上に降り立ったのだ。

 

「…おはよう、お兄ちゃん」

「ただ、いま…スグ…」

 

 この一言二言にどれだけの思いが込められていたのか、当事者にしか分からない。だが、これだけは言える。よかった、うれしい、また会えた。その感情は、正しいと思う。

 

「明日奈さんたちも、帰ってきたのかな?」

「あぁ…きっと…」

 

 他のプレイヤーも目が覚めたと先ほどの医師が言っていた。ならば、アスナやシリカたちも目覚めたのだろう。次に会うことができるのがいつになるのか分からない。だが、生きているのだから、いずれ会うことができるだろう。その日まで、待つことにする。いや、これから訪れるであろうきついリハビリに耐え、そして迎えに行く。そして、彼女たちに言ってあげたいことが…。

 

「邪魔するぞ?」

 

 その時、またも扉が開いた。

 

「えっと…どなたですか?」

 

 翠がそう言うのも無理はない。彼が彼女の前に姿を現すのは初めてなのだから。胸元にトイカメラをぶら下げた一人の男。

 

「士さん…」

 

 門矢士である。士は和人に近づいて言う。

 

「元気そうじゃないか」

「あぁ…帰ってこれたからな…」

 

 感慨深く言った彼に、士は言う。

 

「あぁ、そんなお前に贈り物がある」

「え?」

 

 そう彼が言った瞬間、士の後ろに灰色のオーロラが出現。そして、中から現れたのは麻帆良ガールズに押されている車椅子に乗せられた3人の女の子の姿。和人には分かった。その少女たちの事が、サングラスで目が見えなくとも分かる。その少女たちは…。

 

「アスナ…シリカ…リズ…」

 

 士は、あやかとユウスケに直葉を迎えに行かせた後、自分はあの場にいたアスナ、シリカそしてリズベットの病院まで赴いていたのだ。今頃3人がいなくなったと病院は騒いでいるだろうが、そんなことは別に関係なかった。和人は、起き上がろうとする。しかし、とうぜんながら 腹筋も弱っているため起き上がることができない、はずだったが。

 

「クッ…」

「和人…」

 

 執念だろうか、和人は苦労しながらも、体の激痛に耐えながらも体を起こすことに成功した。だが、一つ行動を起こす事に息が上がってしまう。

 

「はぁ…はぁ…」

「お兄ちゃん!」

 

 直葉は、そんな兄をすぐの身体を支え、そして4人が向き合った。最初にその場を支配したのは沈黙。どう言葉を紡げばいいのだろうか。先ほど、分かれたばかりの彼女たちに向かってどう声掛けしたらいいのか。いや、分かっていたのかもしれない。和人が出した言葉、それは…。

 

「里香…」

「…」

 

 3人それぞれの…。

 

「圭子」

「…」

 

 偽りではない…。

 

「それと…明日奈」

「…」

 

 誠の…。

 

「初めまして…桐ケ谷…和人です」

 

 自己紹介だった。

 

「キリト君…ううん、初めまして、和人君」

 

 3人は、それに今できうる笑顔で返す。もう、彼と彼女達の間に偽りも、幻も、ネットもない。そこにあったのは、ただ温もりだった。直葉と翠は、それをみて涙が出てきた。特に、翠は、翠にとって自分の息子が、こんなにもたくさんの人に慕われているという光景を見ること自体が初めてだったから。自分の世界に閉じこもっていた息子は成長し、戻ってきてくれた。茅場昌彦を許すなんてことは絶対にできない。だが、息子の成長を喜ぶことができるのは、親の特権だ。これだけは、今回だけは、喜んでもいい。彼女は、和人が経験した2年間分の成長を一気に見せられているのだから。なお、涙しているのは、二人だけではない。

 

「グスッ…よかったですね、皆さん…」

「はい…戻ってくることができて…」

 

 麻帆良ガールズ四名と、そしてユウスケもまた涙していた。そして、桜子が言う。

 

「いつか…私たちも自分たちの世界に戻った時、感動するのかな…」

「あぁ…きっと…大切な友達が戻ってくるんだ…泣いて…そして最後には笑い合うことができるはずさ」

 

 ユウスケはそう答える。やまない雨はない。これは、数あるきれいごとの中でも真実の一つである。そして、例え雨が降っていたとしても、どこかはきっと晴れ渡っている。雨が嫌いなら、そこに行けばいい。そこに歩いていけばいい。君達には足があるのだから。だが、事情がなくて歩けない者もいるかもしれない。だったら、手を貸してもらってもいい。あなたの隣に、友がいるのだから。士はトイカメラを和人たちに向け、一枚写真を撮る。

 

「…」

 

 そして、士達は和人のベッドにピンク色をした何かを置くと、音もたてずにその場から立ち去った。

 

 

 

 

 2024年11月7日

 

 この日、6150人の主人公が

 

 1人の主人公と共に

 

 78億8950万7138人の主人公が住む世界に帰還した

 

 3849人の主人公の思いと

 

 1人の儚く、届かない夢をみたラスボスの思いと共に




次回エピローグ
そして、海東が手に入れたお宝とは?

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