仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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ゼロの使い魔の世界1-3

「つまりこういうことか」

 

 床に片足を立てて座る士は、そう言いながらライドブッカーの中からいつも自分が使用しているライダーカードをすべて取り出す。そしてそれらのカードをババ抜きをするように両手で扇状に広げていく。因みにルイズはと言うと彼の後ろで洗髪が終わり、メイドのシエスタによって泡立てたタオルで体を拭かれていた。

 

「ここはハルケギニアという大陸で、俺たちが今いるのはトリステインという国、他にもゲルマニア・ガリア・ロマリアといった国がある。でいいか?」

「はい、そうです」

 

 シエスタがそう答える。士は続けて言う。

 

「んで、この世界ではメイジという魔法使いが貴族又は王族としてハルケギニア各国の支配階級を形成していて、魔法を使えない俺やシエスタと言った人間は平民という分類になっている」

「……」

「魔法は系統魔法という物で全部で四つある。まず、土」

 

 士はそう言いながら仮面ライダーウィザードのランドスタイルのカードを床に置く。

 

「水」

 

 今度は、ウィザードウォータースタイルのカードを。

 

「風」

 

 次にハリケーンスタイル。

 

「そして……火」

 

 最後にフレイムスタイルのカードに当たる仮面ライダーウィザードに変身するライダーカードを置く。ウィザードの全フォームの属性とまるっきりかぶっている。これは偶然だろうか。いや、偶然だろう。

 古代中国に端を発する自然哲学の思想の一つに、五行思想という物がある。万物は木火土金水の五種類の元素からなるという説のことだ。ウィザードの四つのスタイルとこのハルケギニアの魔法の四系統もこの五行思想を元にしたものだとしたら……。いや、ウィザードはともかく異世界にまで五行思想が伝わっているとは考えにくい。やはり偶然なのだろう。

 

「さらにもう一つ、伝説の系統として『虚無』という物がある」

 

 そう言うと士は、シルエットも何もない本当にブランクのカードを一枚置く。今まではどのカードにもシルエットというか影が見えていたのだが、そのカードともう一枚、合計2枚のカードには影も形も見当たらない。こんな事はあの世界以来だ。仮面ライダー響鬼の世界。あの時も、一時期響鬼という仮面ライダーがいなくなってしまったためにその存在が消え失せて、シルエットすらもカードに浮かばなかったということがあった。そういえば、ウィザードにはインフィニティースタイルという他の四つのスタイルとは一線を画したスタイルがある。虚無の魔法も他の四系統と違う物、もしも、五行思想が伝わっていたのなら、これが金という役割を担っていることになるのだろうか。

 

「で、ルイズはどの系統の魔法も使えないんだな」

「えぇ、そうよ」

 

 ルイズはそう肯定する。

 

「私は、去年の春の使い魔召喚に失敗してメイジ失格の烙印を押され、トリステイン魔法学院を留年……名家の面汚しだって家に連れ戻されて、メイジの証の一つであるマントも取り上げられて。挙句にこんな落ちこぼれをもらってくれる家なんてないから政略結婚の道具にもされないって幽閉されたのよ」

「で、でも使い魔を召喚できましたし、サモン・サーヴァントも成功させたんですよね?だったら……」

「馬鹿言わないでよ、使い魔を召喚したら平民だったなんて、良い笑い者よ。そんなのでお母さまやお父様が納得してくれるわけないわ」

「そう……ですか……」

「それに、魔法学院はもう……」

「そう、でしたね……」

 

 だが、シエスタはそのルイズの表情に少しだけ安心した。こんな感じでも言動以外に関しては確実に昨日よりも明るくなっているのだ。というか、そもそも昨日までほとんど『うん』『そう』『死にたい』ぐらいの言葉しか発していないのだから、言動すらもまぁまぁ明るくなっている。シエスタにとってみれば、恩人であるルイズがとびっきりの笑顔を見せてくれることほど幸せなことはないのだが、流石にそれまでには時間がかかるようだ。

 

「使い魔召喚ってのは、そんなに大事なことなのか?」

「当たり前でしょ、使い魔ってのはメイジにとって生涯のパートナーなんだもの。自分がどんな使い魔を呼んだかで自分の系統をはっきりさせることができる。だから、使い魔を呼べないメイジなんて、メイジじゃないのよ」

「ってことは、お前はそうとう優秀なメイジなんだな」

「え?」

「俺は、世界一優秀な使い魔だ」

「どっからそんな自信が生まれるのかしら……」

 

 ルイズは門矢士を知らない。知っている物からしたら、実際彼ほど優秀な使い魔なんていないと言えるだろう。が、今のところルイズの目の前で行動を起こしてもいないので、しょうがないと言えばしょうがない。

 

「さて、終りましたよ」

「ん、いつもありがとう」

 

 そう言うとシエスタは立ち上がって、使用済みのタオルやルイズの脱いだ服等をまとめる。

 

「それでは失礼します」

「えぇ、それからディケイドの事は内緒ね」

「一応言っておくが、俺の名前は士だ。門矢士。門矢が苗字で、士が名前だ」

「なによそれ?それじゃ、ディケイドって何よ」

「ディケイドってのは……」

 

 士は、カードをまとめると立ち上がってバックルを装着する。そして一枚のカード、先ほどルイズに見せたカードを取り出すと。

 

「これの事だ。変身!」

[KAMENRIDE DECADE]

 

 カードをバックルに差し込むと、士の身体を赤のようなピンクのような鎧が纏った。

 

「え?」

「な……?」

 

 ルイズとシエスタは、その光景に驚愕しかなかった。鎧を瞬時に纏う魔法なんてものはない。ということは、魔法ではないというのは確実だろう。では逆に何だ。彼は、いったい何者だ。

 

「あ、あんた……」

「これが、ディケイドだ」

 

 ディケイド、これがディケイド。血を全身にかぶった悪魔にも似ているのかもしれないその姿。二人は、恐怖すらも感じた。

 

「ちょうどいい、シエスタ」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 士にそう言われたシエスタは緊張で思わず声が裏返ってしまった。

 

「この屋敷の中を案内しろ」

「え?」

「ちょっと、言ってるでしょ!あんたが使い魔として召喚されたってことが母様たちに知られると……」

「だったらこうすればいいだけだ」

[Attack ride invisible]

 

 士は一枚のカードをバックルに挿入する。すると、その姿が虚空の中へと消失する。ルイズはそれを想像していなかったために驚き、周囲を見渡すが、無論シエスタだけだ。彼はどこに行ったのだろう。

 

「え、ちょ、どこに行ったのよ!?」

「お前の目の前だ」

「え?」

「姿を消すカードを使った。お前らの魔法じゃこういうのはできないのか?」

 

 できるかできないかと言えば、おそらくできる。だが、それにしたって四つの系統全てを足すことのできるメイジ、スクウェアメイジの中でも、特に水に特化したメイジぐらいにしかできないのではないだろうか。どちらにしても、ルイズはそれをできるメイジにあったことはない。

 

「まぁいい。これなら屋敷の中をうろついても大丈夫だろ?」

「え、えぇそうね……」

「よしシエスタ、俺はお前の後ろをついていくが、俺はいないという体裁で普通に仕事をしていろ」

「は、はい分かりました!」

 

 そしてシエスタはボロボロの服やタオル等を持って部屋の外へと向かう。士もまた、見えないだろうが外に向かっているようだ。

 

「ルイズ、一つ言っておく」

 

 と、その前に士の声が響いた。

 

「何もかも出来すぎるってのは、欠点でしかない。そう考えれば、何もないゼロってのは一番可能性がある数字のはずだ」

「それってどういう……」

「自分で考えろ。行くぞシエスタ」

「はい、では失礼します」

 

 そして、ドアは閉められる。ルイズの頭の中で、士の言った言葉が反響し、そのたびに耳が痛くなった。

 

 可能性?可能性ってなんだ。ゼロはどんな数字をかけてもゼロのままじゃないか。自分は何も持っていない。夢や希望すらも持つことのできない。何も持てない、才能や持っている物で使い魔にすら負けている。そんな自分にどんな可能性が残っているというのだ。はっきり言える。欠片もない。他人より、誰よりも劣っている自分に、出来損ないの人間に、可能性なんて、残っているはずがない。




 何もかも出来すぎる結果、彼は出番を奪われる。
 ところで、ゼロの使い魔の始祖って神様っていう意味あいと、死していくところ(天国のような)という意味合いの二つがあるのでしょうか?

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