「今日で一週間……か」
桜子は、洗濯ものを干しながらそうつぶやいた。この世界に転移してから今日でもう一週間経ってしまった。あの背景ロールが降りた際に出てきた鏡の中、そこに吸収されるように消えた士は、いまだ帰ってきていない。ユウスケや夏海が言うには、こんな事は初めてなのだとか。栄次郎は連絡がないのは元気な証拠と言っていたが、しかし一週間もそれがないのは流石に心配である。その時、追加の洗濯ものを持って女性が写真館から出てきた。
「桜子さん、私も手伝います」
「うん、ありがとうテファさん」
ティファニアは、光写真館がこの森に来る前に存在したログハウスに一人で暮らしていた少女だ。現在は、そのログハウスが光写真館によって上書きされてしまったため、食材を取りに外へと出ていたティファニアは、取り残されてしまったのだ。そのため、ティファニアも一緒に光写真館で住むこととなった。
よくティファニアについて語る際誰もがその胸の大きさを主張する。噂によればHカップだとか。因みに 調べたところ桜子はDカップ。鳴滝姉妹がAカップで雪広あやかはEカップ、そして光夏海はC又はEカップらしい。まぁそれは別に特筆すべき場所でもないし興味もない。彼女の最大の特徴は、その耳にある。普段は帽子で隠してはいるのだが、一緒に暮らしているので隠し切れることもできず、つい先日桜子たちもその耳を目撃することとなった。
ティファニア曰く、彼女はハーフエルフなのだそうだ。どうやらエルフはこの世界では忌避される存在であるそうで、特に人間とエルフの間にできた子供である彼女はその出自のせいで友達すらいなかったそうだ。綺麗ではあるが、人の気配のしないこんな森の中で住んでいるというのは、それもまた理由なのだろう。とはいえ、桜子たちはゲームの世界での話ではあるが一応エルフのリーファという前例を見ているし、別に忌避する理由もないので逆に胸のつっかえが取れた形となったティファニアともっと仲良くなるきっかけにもなった。
「士さんという人が見つかるといいですね」
「うん……ユウスケといいんちょ、今頃どうしているのかな?」
洗濯物を干しながらティファニアは言った。現在写真館の中には栄次郎しかいない。ユウスケはあやかと共に一週間前からバイクで士の痕跡を探し回っており、鳴滝姉妹と夏海はクックベリーという果物を取りに行っている。なお、ユウスケがあやかを連れて行ったのは、あやかのどんな人物とでもアポを取ることができるというアーティファクトが必要になるときがあるかもしれないと考えたからだ。そして、二人は今日例えどんな結果であったとしてもこの場所に戻ってくるということになっている。しかし、彼がこの世界に来ているというあてはないし、例え来ていたとしても、世界は広い。そう簡単に見つける事なんてできないだろう。
「桜子さ~ん」
「テファ姉!」
「あ、夏海さん達帰ってきましたね」
その時、夏海達の声が聞こえてきた。その背中にたくさんの果物を乗っけて。
「どうだった?」
「今日も大量です!」
「クックベリー以外にも、おいしそうな果物がありました」
夏海の言う通り、クックベリーという果物以外にも色とりどりのおいしそうな果物が沢山あった。これで今日のおやつはかなり豪勢になることだろうこのうえなしである。当然だが、この辺りにスーパーなどの食料を買うことのできる場所はないため、ここ最近は食料がなくなることを危惧しておやつもかなり質素になりかけていた。栄次郎の作るおやつは確かに美味しいが、材料がなかったら作れるものも作れない。そのため夏海たちは、ティファニアに果物の場所を教えてもらい、食料調達に向かっていたのだ。
「ユウスケは?」
「ううん、まだ。もうそろそろ帰ってくると思いますけれど」
この言葉が正しいことを、彼女たちは知ることとなる。爆発音と共に。
「今のは!?」
その爆発は、自分達から見てそう遠くない場所で発生したようだ。
「あの爆発……もしかしてユウスケが……」
「行ってみよう!」
「うん!」
何があったか分からないが、もしかするとユウスケとあやかに危険が迫っている可能性がある。夏海達はその場に採ってきた果物を置くと、すぐさま爆発がした方へと向かって行った。
場所としては、黒い煙がモクモクと出ているのが見えるのでいっさい迷わずに済んだ。が、問題は到着した後にあった。現場に到着した彼女たちが見たものそれは。
「クッ……」
クウガに変身したユウスケと、その隣には剣を持ったブロンドの髪の女性が……。
「……」
ユウスケの後ろにはあやか、そして明るい紫色の髪の女性。その後ろには馬がいる。
そして彼らの前には……。
「……」
「ウゥゥゥ……」
大きな杖を持った青髪の眼鏡の少女。その後ろにいる大きな動物はドラゴンだろうか。かなり弱っているようだ。だが、そんなもの関係ない。もっと彼女たちが注目しなければならないのは、その二組の間で板挟み上になっている岩の巨人。
「テファ……」
その肩に乗っているフードをかぶった女性は、なにやらこちらを見て驚いている様子だ。三つ巴の状況なのだろうが、一体何があったというのだろうか。
「あらら、なんだかややこしいことになっているみたいね……」
と、さらに赤い動物と共に現れたのは赤い髪の女性。というか、それはこちらのセリフである。実際どうしてこうなったと言わざる負えない状態だ。ここまでややこしい事態になった理由は、昨日にまで遡らざる負えない。
次回、設定をいじくりまわした結果がこれだよ。