仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 この時期の彼女の呼称ってどうなってんだろう……。


ゼロの使い魔の世界1-5

 ゴーン

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 ゴーン

 

 

 

 

 

 

 十一回鐘が鳴った。私は、この鐘の音をあと十二回しか耳にすることができない。外からの人々の喧騒が自分の耳にも聞こえてくる。きっと、そこにいる人たちは待っているのだろう。自分が、アンリエッタ・ド・トリステインが牢屋から処刑台に送られるその時を、このガリア王国の国民は待ち望んでいるのだ。

 あの日、レコン・キスタによってトリステインが攻め入られたとき本当は自分も城が落城するまで、戦いたかった。たくさんの国民を巻き込んだ戦争の原因は自分なのだから。自分が、従兄妹であるウェールズに送った恋文、あれをレコン・キスタの息のかかった物に奪われて、それが原因で引き換えに軍事同盟を結ぶはずだったゲルマニアとの結婚もご破算になってしまった。そして、トリステインはレコン・キスタが新たに建てた神聖アルビオン共和国に攻め入られ戦争、そしてガリア王国にまで攻め入られて泥沼の様相を呈してしまった。

 そして、ついにトリステインの王都トリスタニアに攻め入られて城は落城寸前となった。兵を率いていた自分も、貴族として最後の最後まで戦おうと思っていた。でも、母と自分を補佐してくれていたマザリーニはそれを許してくれなかった。母は言った。貴族としての死よりも、自分は娘として生きてもらいたいと。マザリーニは言った。例え兵士が何人死のうとも、軍の大将である人間が生きていれば負けでないと。だから自分は、数名の護衛と共に城から逃げた。そして、城は落城した。おそらく、二人とも死んでしまったのだろう。

 貴族としての死よりも命を取った腰抜けとして、自分は幼き頃からの友人で会ったルイズがいるであろうトリステイン魔法学院へと向かった。だが、そこに彼女はいなかった。

 ルイズは、使い魔すら召喚できなかったことから、家に強制的に連れ戻され、魔法学院も強制的に退学させられたそうだ。

 自分はなんて愚かなのだろうか。何人ものまだ戦っているであろう兵士を置き去りにし、そして友達が学院を退学させられたことを知らなかったなど。自分は失格だ、貴族としても、ルイズの友達としても。

 それから数か月、魔法学院で身を隠していたその時、神聖アルビオン王国が送り込んだ傭兵に学院が襲われたのだ。狙いは自分。その時、何名かの学生が残っていたが、自分が引き渡しに同意しなかったらその学生や先生を殺すと脅された。そして、傭兵との戦いの中で自分の護衛も、一人を残して全員死んでしまい、自分はその場にいた貴族の少女たちを守るために傭兵に捕らえられた。

 のだがその途中でガリア王国の者に強襲され、自分はガリア王国へと囚われ、そして今日の正午処刑されることとなった。

 

「……」

「貴方、そこにいるのでしょ?」

「……」

 

 アンリエッタは、ドアの前にいるであろう少女に声をかけたが、向こうから声は帰ってこない。その少女は、自分をアルビオンから奪取した本人だった。そのまま、自分の監視の任務に就いたらしい少女を何度か見たが、どう見ても自分よりも年齢が低い少女であることは間違いなかった。

 

「わたくし、まだあなたの名前を聞いていません……だから、せめて最期にあなたの名前を教えてくださりませんか?」

「……タバサ」

「タバサ?」

 

 アンリエッタは、ドアの向こうから聞こえてきた少女の声を聞くと、ハテナマークを頭に浮かべる。どう考えてもそれは人に付ける名前ではなかったからだ。ペットや使い魔の名前の中でも最もポピュラーな名称と言ってもいい。偽名だろうか。いや、こんなところで偽名を言ってもしょうがないだろう。もしかしたら、生まれたころから人間として扱われてこなかったのかもしれない。そう考えると、辻褄は合う。アンリエッタは少し、微笑みながら言う。

 

「では、タバサさん……あなたに、感謝します」

「感謝?」

「はい……この国に連れてきてくれて、ありがとうございます……もし、あのままアルビオンに連れていかれていたら、どうなっていたか……」

 

 ここからは、少し低俗な話になるかもしれないので若干割愛するが、あの時自分をアルビオンにまで連れて行こうとしていたのは全員男ばかりであった。加えて、アルビオンにまでたどり着くには、かなり距離もある。もしあのままアルビオンにまで連れていかれていたらその道中で……。ということも考えられる。

 

「任務だったから」

「それでも、あなたでよかった……あなたのおかげで、私は純粋な心のまま始祖様の所に、母やウェールズ様の所に参ることができます」

「……任務だから」

「あなたの使い魔は大丈夫ですか?怪我をしていたみたいですけれど……」

「……大丈夫」

「そう、良かった……」

 

 あの時、タバサが傭兵たちと戦った際、タバサが連れていた使い魔の竜が負傷していた。幸い大事には至らなかったようで、アンリエッタは胸をなでおろす。

 使い魔は、貴族にとって生涯を共にするパートナーだ。死んでしまったらまた別の使い魔を召喚すればいいのだが、今になって思えば生き物の命を何だと思っているのだろう。なんて、自分勝手な生き物なのだろうか貴族という物は。使い魔がいなくても、人は生きていくことができる。どうして、誰も気づかなかったか。古い慣習に縛られ、生きていくこをも制限されるなんて、どうかしている。

 

「タバサさん……私、友達がいたの」

「……」

「二人の間には社交辞令なんてものはなくて、なんでも話すことができて……一緒にたくさんの遊びをしていた。でもその子は使い魔を呼び出せなかったからって家に連れ戻されて……私は友達らしいことを何もできなかった……何も、何も……」

 

 アンリエッタは、そう言うと大粒の涙を流し始める。

 

「国のために、トリステインのためにって重い荷物を背負って、たった一人の本当の友達すら救おうともしなかった。国も救えず、国民も救えず、友も救えない……貴族として育てられて、なのに貴族として戦場で死ぬことすら許してもらえなかった。……私なんて、いなければよかったのに……私がいたから、死んでしまった人たちがいて……私の人生、何だったんですか……」

 

 それは、誰にも話すことのできなかった少女の心からの叫びだった。自分に偽りの笑顔を見せる汚い大人たちを見続けて、国のために尽くすと言っておきながら我先にと逃げていった汚い人間。それらによって汚れてしまった心を本当に純粋な心と言えるだろうか。彼女にとって、幼いころに自分に向けてくれルイズの、たただただ純粋な笑顔が、親友との思い出が、彼女の心の有りどころだったのかもしれない。しかし、自分はその親友を自分から手放してしまった。

 きっと彼女も自分の事を恨んでいるのだろう。自分たちの友情が偽りの物だったということに気づいて、絶望しているに違いない。だから、せめて、今頃自分のように幽閉され、暗く寂しいところにいるであろう親友に一言、ただ一言でいいから謝りたかった。

 どのくらい泣いたのだろう。泣きすぎて、もう涙に使う水分をも無くしてしまったアンリエッタは、ドアの外にいるタバサに言う。

 

「タバサさん……」

「なに?」

「一つだけお願いしてもよろしいですか?」

「……」

 

 タバサは何も言わない。

 

「私の友達に、言伝をお願いします」

「……」

 

 タバサは何も言わない。

 

「貴方の純粋な笑顔が好きでした。もう、あなたは私の事を友達とは思っていないかもしれませんけれど、私は、あなたの事を友達だと思って始祖の元に参ります……と」

「……」

 

 タバサは何も言わない。

 

「貴方に頼むのは、違うかもしれませんけれど……」

「……」

「……」

「……名前」

「え?」

 

 タバサは言う。

 

「名前が分からないと、伝えられない」

「ルイズ……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」

「ルイズ……」

 

 タバサはその名前に覚えがあった。タバサは以前、トリステイン魔法学院へと通っていたことがあるのだ。戦争が激化する中で故郷であるガリアへと他の貴族のように連れ戻されたが、その時、自分が唯一少しだけ心を開いていた女性の悪友のなまえがルイズだった。そういえば、そのルイズも自分が連れ戻される少し前に強制的に家に連れ戻されていた。使い魔を召喚できなかったから……。

 アンリエッタは、タバサの言葉を聞いてうれしく思った。名前を聞いてくれたということは、少しでも自分の言伝を伝えてくれる可能性ができたということだ。この後、自分が処刑されることによってトリステイン・ガリア間の戦争は終わるだろう。そうすれば、タバサがルイズと会う時がやがて来るかもしれない。自分の思いを伝えてくれる可能性が残った。これで自分は……。

 

「……シャルロット」

「え?」

「シャルロット・エレーヌ・オルレアン……それが私の名前だったもの」

「オルレアン……それって……」

 

 タバサは、自分が何故そのようなことを口走ったのか分からない。だが、なにかが嫌だった。何が?たぶん、このまま自分の本当の名前を知らないままアンリエッタが死んでしまうということが、嫌だったのかもしれない。

 アンリエッタは、オルレアンという言葉に聞き覚えがあった。それは確か、現在のガリア王国国王の苗字だったのではないか。では、彼女は国王の親戚筋に当たるのではないか。では、何故そのような子供が、危険な任務に、それもまるで動物のような偽名を用いていたのだろう。

 

「私のお父様は、オルレアン公シャルル……ジョゼフ一世の弟」

「オルレアン公シャルル……あの……」

 

 オルレアン公シャルルとは、現在のガリア王国国王のジョゼフ一世の弟だった人物だ。十二歳でスクウェアクラスに達するほどの天才的なメイジであり、次期国王は彼であると噂されるほどの人物だったと聞いている。しかし、結果は兄のジョゼフ一世が王位を継承し、本人は死亡したらしい。まさか、その娘がタバサ、いやシャルロットだったとは。

 

「シャルロット、貴方のような身分の子が、どうしてあんな危険な任務を?」

「……私は邪魔な存在だから」

「……」

「任務中に死ぬこと、ジョゼフはそれを望んでいる。だから……」

「そんな……」

 

 詳しいことまでアンリエッタは聞いていないが、オルレアン公シャルルは、ジョゼフ一世に暗殺されたらしい。もしも、その後復讐を恐れたジョゼフ一世が、シャルロットを殺そうとするのなら、辻褄はあってしまう。シャルロットは、彼からしてみれば姪っ子なはずなのに。

 狂ってる。このハルケギニアは狂っている。命を道具のように扱う人間、それが人の上に立って、命令し、人々の暮らしを奪って。そして身内の命すらも簡単に奪おうとする。

 自分たちは何を間違えてしまったのだろう。ハルケギニアは、何を間違えてしまったのだろう。始祖は、こんな世界を望んでいたのだろうか。奪い合い、殺し合い、人を見下げる人間ばかりが上に立つ、そんな世界を望んでいたというのか。

 

「シャルロットさん……私達、もっと違う形で出会えたら、ルイズのように仲良くなれていたのかもしれませんね」

「そんなの……誰にも分からない」

「そうですね……きっと、始祖にすら分からない事です……」

 

 あぁ、あの頃が懐かしい。幼いころ、ルイズと一緒に城のほとりの湖の周りを蝶々を追いかけて走り回って、石に躓いて転んで、一緒にそれで笑い合って、それで、確か……。

 

『泣きたくなるように悲しいことがあったら、必ずおっしゃってくださいまし。私が抱きしめて差し上げますわ』

『じゃあわたくしは……』

 

 思い出せない。その後の言葉が、思い出せない。私は、なんて言ったのだろう。思い出すことができない。まるで、思い出したくないような、そんな感じだ。

 

「そろそろ時間」

「……分かりました」

 

 シャルロットが、ドアの外からそう声をかけた。アンリエッタは、それを聞くと、ゆっくりと立ち上がる。そして、外からドアの鍵を開ける音が聞こえ、そのドアが開かれた。

 

 

 

 その場は、異様な熱気に包まれていた。広場の中央に置かれた処刑台とギロチンを中心として、平民が総出でその場所を取り囲んでいる。そして、今か今かとその時が来るのを待ち望んでいる。一番近くの建物の屋根の上にいる女性はその光景を見ると、なんとも腹立たしく思ってしまう。そして、ついに城の中から女性が現れた。

 城の中から現れたのは、後ろ手に縄で縛られた白いドレスを着た女性。アンリエッタ・ド・トリステインその人だ。少し、髪が短くなっている気もする。

 その瞬間、まるで歓声を上げるように国民がその様子を祝福する。やはり見ていて腹立たしい。自分が守らなければいけない女性。それがここまで辱めを受けている姿を見るのが、どれほど胸を痛むことなのか。女性は早く飛び出したい気持ちを抑えて、彼が言っていたその時が来るのを待つ。

 

 

 

 不思議と、心は安らかだった。腕を縛るロープの痛みも、周囲の罵声も何も感じなかった。一歩一歩、自分を殺すために作られたその場所へと続く木で作られた道を歩く。そのたびにギシッという音が耳に聞こえる。小さいはずのその音は、どの雑音よりも彼女の耳を貫いた。

 アンリエッタの髪は、先ほどよりも少しだけ短くなっていた。先ほどまでは髪の毛が少し長く。首まで達していたのだ。髪が長いと、ギロチンに駆けられる際に髪まで巻き込んで気持ち悪さが出たりする。その配慮のためにシャルロットがアンリエッタの髪を少し切ったのだ。そして、その髪とそれから自分の杖をシャルロッテに形見として渡した。

 つい、昨日まで自分の心は死んでいた。この日、自分の命が奪われるということを知っていたから。まるで雷雨の時の空の雲のように重い空気で、一日一日を過ごしていた。沈んだ心で、夜も怖くて眠れない毎日。明日が来るのが嫌で嫌で、せめて少しは時間を先延ばしにしたいと今日という日が来るまでちゃんと眠ることはできなかった。ちゃんと練れたのは、昨日の夜だけ。それが、せめてもの抵抗なのかもしれない。この後、自分の頭は胴体と離れ、永遠に繋がることはない。おそらくその後自分の首は、トリステインへと送られるだろう。そうなった時、トリステインの人々に、クマがひどい自分の顔なんて見せたくない。だから、せめてじっくりと熟睡して顔色を良くしようとした。そして、今日の朝ごはんは食べなかった。自分の死体から糞尿が漏れて異臭を放つなどという醜態を、この国の人々に見せたくなかったから。

 ついに彼女はギロチンを目の前に止まった。上にある刃、それが降ろされたとき、自分にどれだけの時間痛みが襲うのだろう。できるならば、すぐに死にたい。それこそ、刃が首に到達した瞬間にでも死にたい。少しでも痛みが続くのであれば、それはたぶん数十分にでも、数時間にでも感じられるだろう。あぁ、やっぱり大丈夫だ。落ち着いている。昨日までは、きっと自分はギロチンを前に泣き叫ぶだろうと思っていた。死にたくない。まだ、生きていたかった。そう思っていたから。

 だが、それがどうだろう。自分は、まるでその瞬間を待ち望んでいたかのように心が澄んでいる。たぶん、シャルロットに自分の思いを託したから、もう後悔が無くなったからだろう。後は、自分が死ぬだけ。潔く、格好良く死ぬだけ。

 

「ではこれより、トリステイン王国王女、アンリエッタ・ド・トリステインの斬首を執り行う。姫殿下、何か言い残すことはないか?」

「ありません。速やかに刑を執行なさい」

「では」

 

 ついに、その時が来た。アンリエッタは、目の前に立てられた板の足元にある台の上へと乗ると、板へと身体を預ける。すると、周囲の執行人の助手の者がすぐさま板に付けられている二つのベルトで上半身、下半身をきつく縛る。もう関係のないことではあるが、後が残ってしまうのではないだろうか。これでもう、彼女は動くことができなくなった。

 続いて、アンリエッタの乗った板を助手が二人がかりで持ち上げる。アンリエッタは、比較的軽い為、その際にはなんら支障もなく、地面と平行にすることができた。そしてそのまま板をずらして、彼女の頭が少しだけ台からせり出す。

 アンリエッタの目の前には、藁でできたかごだけが見える。中には羽毛しか入っていないが、赤黒くこべりついた血が、そのかごが何なのかを教えてくれる。それは、自分の落とした首を入れるかごである。中に入っている羽毛は、衝撃を吸収して、顔が傷つくのを抑えるための配慮だ。それは、他国の者とはいえ、自分を貴族扱いしてくれているということで、アンリエッタは心のなかで処刑人に感謝をする。

 執行人が自分の服を正しているのが 感覚で分かる。髪の毛の時と同じで、服の裾が首にかかってしまうのを防ぐためだ。

 そして、執行人は下から木の枠をスライドさせ、位置を固定すると、上からも同じような枠をスライドさせ、二つを組み合わせて固定させる。これでもう頭はほとんど動かない。執行人はこの後速やかに刃を地面とつないでいるロープを切って罪人の首を刎ねなければならない。それまでの時間が長引けば長引くほど、罪人の恐怖心が増すための配慮であった。しかし、今日のそれは、少しだけいつもと違った。執行人の男性はロープに手をかける。

 アンリエッタは、死を前にして思う。もし、次の人生という物が、生まれ変わりという物があるのなら、今度はこんな世界に生まれたくない。ハルケギニアの貴族になど生まれたくない。せめて、次は平民に生まれ変わりたい。こんな醜い世界じゃない、もっともっと別の世界があるはず。平和で、誰の心も荒んでいない優しい世界があるはず。そんな世界に、生まれたい。そして、できればまたルイズやシャルロットと出会って、三人仲良く平和に暮らしたい。そんな願望を望むのも、ダメなことなのだろうか。いや、きっと始祖は許してくれるだろう。自分の人生は確かに短く、波乱に満ちてはいたけれど、一生懸命生きぬいたのだから。

 

 その時、鐘が鳴った。

 

ゴーン

 

 十二時をつげる鐘だ。

 

ゴーン

 

 これが十二回鳴り終わったその時、ギロチンの刃は降りて、自分の首は刎ねられるのだ。

 

「陛下!!」

 

 アンリエッタは、その声を聞いた気がした。後ろの方で何人かの兵士の声が聞こえる。

 

ゴーン

 

 あの声の持ち主、確かアニエス。トリステイン銃士隊隊長で、魔法学院が襲撃された際唯一生き残った、自分の部下だ。彼女が助けに来てくれたのか。

 

ゴーン

 

 だが、たぶん自分が助かることはないだろう。確かに、彼女の力なら、ここにいる兵士や貴族を倒すこともできるかもしれない。だが、その間に自分は死んでしまう。だから、彼女が自分を助けることはできない。

 

ゴーン

 

 だが、うれしかった。まだ自分を助けに来てくれる人間がいたことが、何よりもうれしかった。自分を命がけで助けに来てくれるような人間がまだいたことが、うれしかった。それだけで彼女は笑顔になることができた。

 

ゴーン

 

「ありがとう……アニエス」

 

ゴーン

 

 走馬燈なのだろうか、幼き頃の記憶がよみがえる。

 

ゴーン

 

『泣きたくなるように悲しいことがあったら、必ずおっしゃってくださいまし。私が抱きしめて差し上げますわ』

 

ゴーン

 

『じゃあわたくしは……』

 

ゴーン

 

『ルイズが困ったときは必ず助けてあげる』

 

 あぁ、ようやく思い出せた。あなたとの大切な思い出。

 

ゴーン

 

 ごめんなさい、約束……破っちゃった。

 

 

 

 

 

 

ゴーン

 

シュルルル……

 

シャーーッ!

 

バキッ!

 

 それが、彼女が聞いた音だった。




 実は、これが書きたかったことの正体。ちょっと前だったらもう少しうまくできていたんですけれどね。
 そういえば、現実でギロチンを最初に提案したのはジョゼフって人らしいですね。

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