仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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ゼロの使い魔の世界1-8

「ここに帰ってくるのも、久しぶりだね……」

 

 その森に、自分がかくまっている少女がいる森に久方ぶりに帰ってきた緑色のフードをかぶった女性、マチルダ・オブ・サウスゴータはそうつぶやいた。マチルダは、元々アルビオンという国の貴族であった。しかしある時、国王によって家名取り潰しにあい、サウスゴータ家は没落してしまったのだ。彼女の父は、王の弟であるモード大公の直臣を務めるほどの有能な人物であり、忠誠心も高かった。だが、その忠誠心がサウスゴータ家の没落にもつながってしまったと言っても過言ではない。ある日、モード大公とある女性との間に娘が生まれた。本来ならば祝福されなければならない事なのだが、モード大公が愛した女性がまずかったのだ。相手はエルフだったのだ。

 エルフは、人間とは違う種族であり、ゲルマニアという国の東にある砂漠に住み、始祖としてこの世界の人々に崇められているブリミルがハルケギニアに初めて降り立ったとされる伝説の地域、『聖地』を支配している種族だ。ハルケギニア最高の先住魔法の使い手であり、優れた戦士でもある彼らは、多くの者は人間を蛮族として軽視しており、また聖地をめぐってたびたび人間と交戦し、勝ち負けを繰り返しているが、大きく見ればエルフの優勢な魔法力に対して人間側の圧倒的な劣勢を見せており、エルフの軍に『戦術的』に勝利するには、数において十倍近く勝らなければならないとされている。

 この十倍という数字、端から見てもかなり高い数字である。どれだけ高いかと言うと、例をあげるとするならば、我々の住むこの日本の戦国時代、織田信長や豊臣秀吉などと言った武将が活躍した遠い過去には、籠城した兵隊を倒すのに力づくでは、籠城側の三倍の兵が必要であると言われたのだ。戦略を立てていればそれ以下ですむ場合もある。だが、エルフの場合は、戦略を立ててすら十倍の兵がいるという、これが恐ろしい数字と言わずなんというか。ともかく、こうした戦力差や、過去の聖地奪還運動の敗戦から、ハルケギニアの人間たちは、エルフを恐怖の象徴として見ているのだ。

 そんなエルフと、その間にできた子供である。例え赤ん坊であったとしても恐怖の対象となってしまった子供、ティファニア。モード大公の兄である王ジェームズ1世は、彼女と母親双方に追放命令を再三下したが、モード大公はそれらをすべて拒否した。結果実力行使にでたジェームズ1世は、モード大公を投獄し処刑。その後、ティファニアと母親はサウスゴータに匿われたもののその代償にサウスゴータ家は、御家取り潰しということとなってしまった。また、ティファニアの母親も、追手の軍人に殺され、ティファニアはマチルダの助けを借りてウエストウッド村にある森に隠れ住んだのだ。

 

「全く、あの男も没落貴族だからってこき使って……帰ってくるのに一年近くかかるなんてね」

 

 マチルダは、自身がかくまっているティファニアを養うために金が必要であった。しかし、国王に歯向かったサウスゴータの娘であるから、表に出て職を探すの困難だ。第一、仕事中にティファニアを追っている国王軍に見つかってしまえば笑い話にもならない。そのため、彼女にできる事と言ったら裏の仕事、盗賊稼業で貴族から宝石等を盗むぐらいしか方法はなかった。そして約一年前、トリステインにある魔法学院に学院長の秘書として忍び込み、『破壊の杖』という宝を盗み出した物の、使い方が分からずまさしく宝の持ち腐れとなってしまった。その後、秘書をやめた彼女は途方に暮れ、その途中にレコン・キスタに誘われた。その後は、神聖アルビオンと名前を変えた国の王に仕え、ティファニアに送る金も確保できていたものの、優秀なメイジである彼女に与えられる仕事の量は多く、やっとのことで休暇を貰い、久方ぶりにティファニアに会いに来たのだった。

 

「あの子は、元気にしてるかね?」

 

 休暇がなくとも、手紙を出すことは可能だったので、仕送りと共にちょっとだけ嘘も交えて手紙による現状報告を行っていた。ティファニアから送られてきた手紙は、どれも純粋なもので、特に安定した仕事に付けたことに対して喜んでくれたことに関しては、心が痛くなってしまうほどだった。確かに安定した仕事だ。だが、汚い仕事であるということは盗賊の時と、『土くれのフーケ』と呼ばれていたときと何ら変わらないものだった。娘同然のティファニアに秘密を作ることがどれだけ心苦しいものであるか、改めて手紙のやり取りによって察したのだ。

 

「さて、感傷に浸るのはこれぐらいにしようかね」

 

 マチルダは、改めてティファニアの待っている家へと歩き出そうとした。その時だ、どこからか轟音が聞こえた。

 

「何だい今の爆発は!?」

 

 爆発と言えばあの少女だが、いやそんなはずはない。何故ならあの少女は、などと考えている場合ではない。もしかしたらその爆発の主がティファニアに危害を加えるかもしれない。マチルダは、一つの魔法を使うと、すぐさまその場所へと向かった。

 

 

「アニエスしっかり掴まってて!」

「分かってる!」

「あやかさん、お怪我は!」

「私は平気です!それより今は逃げることを考えてくださいまし!」

「はい!」

 

 ガリアから戻ってきたユウスケたちは、一匹の竜から逃げていた。いや、正確に言うと竜の上にいる女の子である。

 

「エア・ハンマー……」

 

 その瞬間、ユウスケが通った道の地面がえぐれたように凹む。エアハンマーは、空気を固めて不可視の槌を作る呪文である。風系統の魔法の一つで、人間程度なら簡単に吹き飛ばすことのできる攻撃だ。

 

「くっ!あの攻撃は、厄介ですわね!」

 

 あやかは、懐から迎撃用の杖を取り出す。しかしそれに対してアンリエッタは言う。

 

「あやかさんダメです!」

「何故です!」

「彼女は……シャルロットさんは、私の……ッ!」

 

 恩人、その言葉を紡ぐ前に、アンリエッタのまたがる馬の目の前の道が凹み、それに足を取られた馬は転び、二人は落馬してしまった。

 

「クッ……アンリエッタ姫、怪我は?」

「私は大丈夫です……」

 

 衝撃に比べて、二人にこれと言って重いケガはない様子だった。馬から落ちたときに、偶然芝生の上に落ちたためであろうか。だが、馬の方はこれ以上走るのは無理の様子であった。その時、ユウスケとアニエスの二人が戻ってくる。

 

「陛下、お怪我は!」

「私とあやかさんは大丈夫です」

「そうですか……ッ!」

 

 そして、四人の目の前に先ほどまで上空を飛んでいた竜が地面へと降り、そしてその背中から一人の少女が降りてきた。アニエスは、その姿を見て驚愕の表情を浮かべた。今まであのように自分たちを正確に攻撃していたのは、年端も行かない一人の少女だったということ、そしてそんな少女が竜を使役しているということは、彼女達を驚かせるのに十分な物であった。

 

「アンリエッタ陛下、貴方を連れ戻させてもらう」

「シャルロットさん……」

「ちがう、私はタバサ」

「違うことはありません!あなたは、シャルロット……シャルロット・エレーヌ・オルレアン、私の恩人です!」

「違う私は、タバサ」

「シャルロットさん!」

 

 二人の間で巻き起こる謎の問答。アンリエッタは少女の事をシャルロットと呼んでいる。だが、対して少女は、自分の名前をタバサであると言っている。果たしてどちらが正しいのだろう。いや、その表情を見れば明らかだ。アンリエッタが、シャルロットという名前をつげるたびに、少女が唇を嚙んでいる。それはあまりにもごくわずかで、おそらく少女自身も分かっていないのだろう。だから、おそらくシャルロットというのが、彼女の本当の名前なのだろう。ではそれを使わないのはなぜか。それは、前回のSAOの世界のキリト達と同じ、本当の名前を奪われているからなのだろうか。だったら、彼女が苦しいと思っているのなら、彼女を救わなければならない。ユウスケは一歩踏み出した。その時、地響きが鳴った。

 

「な、なんだ!?」

「あれは……!」

 

 アニエスが見た方向。そこには、巨人がいた。近づいてくるとそれがたんぱく質で作られたものでないことが分かる。どうやら、石で作られた巨人のようだ。その肩には人間が乗っている。あれは、何なのだろうか。

 

「ゴーレムだ……」

「ゴーレム?」

「あぁ、土系統の魔法……あそこまで巨大なのも珍しいがな……」

 

 これはまずい。新しい追手に追いつかれたか。シャルロットの実力がまだ未知数なうちに現れた新たな敵の存在は、二人の手を止めるのに十分だった。

 

「陛下を守りながらでこの状況は……」

「でも、やるしかない!」

 

 ユウスケは、変身する。その瞬間、見知った顔が複数人走り寄ってきた……。

 

 

 

 

「と、言うことがあったんです」

「それは、随分刺激的でしたね……」

 

 諸々のことがあった後、あやか達は光写真館に戻り、今までにあったことを報告した。写真館にやってきてから、アンリエッタはドレスから普通の衣装を夏海から借りて着替え、アニエスもまた鎧を脱いで普段着の状態となっている。なお、シャルロットとマチルダはどうなったかと言うと。

 

「はい、マチルダ姉さんコーヒーです」

「ありがとテファ」

「シャルロットさんにも」

「……タバサ」

 

 あの後、ティファニアの姿を見たマチルダは、ゴーレムを引っ込めてティファニアに説得され、シャルロットはその場に現れた学院時代の友人であるキュルケに説得されて二人もまたここに来た。なお、キュルケはゲルマニアで一目ぼれしたユウスケを追っていたそうだ。何なのだその執念は。因みにけがをした馬と、シャルロットの使い魔の竜のシルフィードは、外でシャルロットとアンリエッタの治癒魔法にて治療を行われ療養中である。

 

「それで、士さんは見つからなかったんだ」

「うん、文字通り隅から隅まで探したけど……あとは、トリステインか東にいるか……」

 

 そもそも、ユウスケたちが旅に出たのは士を探すためであった。だが、彼の姿はどこにもなかった。残るは、戦時中のトリステインか、エルフたちの住む聖地を含めた東の砂漠か、だがどちらにしても危険だ。

 

「アニエス、皆さん……一つよろしいですか?」

「なんでしょう」

「何ですか?」

 

 その時、アンリエッタが口を開いた。




 次回、主人公の元へ視点を戻すことができます。
 あと、アンリエッタさんがタバサじゃないとおっしゃるので、これからも地の文含めてシャルロットという名前を使用していきます。

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