「な、なに!?」
「これは……」
その衝撃にルイズは吹き飛ばされそうになるが、しかし士はその服を掴んで何とか踏みとどまった。ワームは、何体か吹き飛んだようだが、成虫態のワームはどうやらその限りではなかった。成虫態ワーム三体は、その場にとどまっている。それにしても、先ほどのアレは一体……。
「士!?」
「士先生!?」
「ん?その声は……」
ふと、壁ああったところから聞き覚えのある声が聞こえてくる。土煙が止み、その姿がようやく見えるようになり、確信が持てた。
「ユウスケ、それに鳴滝姉妹か」
それは、竜の背中に乗ったユウスケと鳴滝姉妹、そしてその後ろに三人、その後ろの石の巨人肩の上にも一人いるようだ。それらは、誰なのか分からなかったが、しかし、その姿を見たルイズが言う。
「キュルケ!!」
「は~いルイズ、久しぶりね」
「なんで、あんたが……」
何故、ユウスケたちがここに来たのか、それは二日前に遡る。
「アニエス、皆さん……一つよろしいですか?」
「なんでしょう」
「何ですか?」
光写真館で、アンリエッタは開口一番そう言った。
「無理を承知で、皆様にお願いしたいことがあります。……トリステインにて幽閉されている、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを救出してもらいたいのです」
「ルイズ・ふら……なんだって?」
「陛下、それは……」
その名前にユウスケたちは聞き覚えはなかった。しかし、キュルケとタバサの二人にとっては、それは極々身近にあった人物の名前であった。キュルケが知っている様子なのをみて、ユウスケは聞く。
「キュルケさん、ルイズ・フランソワーズさんって?」
「ルイズは……元トリステイン魔法学院の生徒よ」
「元?」
「そう、貴族はみんな一人に一匹、使い魔を召喚する。私にとってのフレイム、タバサにとってのシルフィードのような物ね」
「へぇ……」
「でもルイズは、それを召喚することができなかった」
「できなかったって……それじゃ、どうなるの?」
「トリステイン魔法学院では、二年にあがるさいに使い魔を召喚して、その召喚した動物によってそれぞれ火・水・風・土、そのいづれかを専攻するのかを決めるの」
「でも、それができなかった……」
桜子のその返答を聞いて、キュルケの表情は暗くなる。
「結果ルイズは留年……まっ、予想されていたことだけれどね」
「え、なんでですか?」
「ルイズは……今まで魔法を成功させたことがないのよ」
「成功させたことがない?」
「そう……」
石を練成しようとしたら爆発。空を飛ぼうとしたら爆発。何かをしようとしたら爆発。魔法成功率ゼロ、普通は簡単に使うことのできるはずの魔法を使うことができない事から、彼女は半分イジメに近い扱いを受け、ゼロのルイズと揶揄されてきたそうだ。
「そんな……かわいそうです」
「そうね、あの子も一生懸命に頑張って、努力して、座学だけなら、あの子は学院の中でもピカイチだった。あの日も……他の皆が帰った後も先生と二人残って日が暮れるまで挑戦していた……でも、無駄だった」
「……」
「……それで、ルイズちゃんはどうなったの?」
「それから間もなくして、家に連れ帰られて、幽閉されたと聞いているわ」
「いったいどうして?」
「ヴァリエール家は、私達王家と血縁関係にあるほどの盟主です。そんな家から、出来損ないの貴族が出るのを嫌がったんでしょう」
「そんな、ルイズちゃんにはルイズちゃんの人生があるのに……たった一つできないだけで……」
「そう、でもその一つがあまりにも大きなものだった」
人間、一つくらいは欠点がある。それが人間なのだ。だが、ルイズのその欠点は、あまりにもひどい物だったとしか言いようがない。アンリエッタは言う。
「私は、幼い頃からルイズと一緒に遊んだりして、仲のいい友達でした。でも、私は学院に匿われた時になってようやく、彼女の近況を知ったのです」
「……」
「私、ルイズに約束していたんです。……困っていたら助けてあげるって。でも、本当にその時になったら何もしてあげられない……その約束も、あの時まで忘れていた」
「……」
「私、友達失格ですよね」
「……そうとは言い切れないんじゃないかな?」
「え?」
そう言ったのは、桜子だった。
「だって、本当に友達だと思っていなかったら、そんな昔の事なんて思い出さないもの」
「そうです。お姫様は、それが大事だと思ったから、ルイズさんの事を本当に思っていたから、覚えていたはずです」
「だから、心配しなくていいと思いますよ?」
「はい、姫様がそう考えていたとしても、大事なのは、ルイズさんがどう考え、どう思っているかです」
「そう。だからこそ、ルイズちゃんを助け出そう。姫様と、ルイズちゃんが話す時間を作るために」
囚われの少女を助け出す。それをためらう者など、この中にいるわけがなかった。
「ありがとうございます……アニエス、貴方は?」
「私は、陛下の騎士です。陛下が望むなら、なんでもしましょう」
「ありがとう、アニエス……」
「でも、どうするんだい?ヴァリエール家の守りは硬いよ」
マチルダはそう言った。彼女の言う通り、ヴァリエール家の守りは堅牢であろう。お金があるということは、それ相応に戦力を整えているだろうから。もしかしたら門番ですらかなりの力を保有しているかもしれないし、それどころかそこに住んでいるルイズの親姉妹も強い。母のカリーヌに至っては、マンティコア隊隊長を歴任し、烈風カリンなど言われトリステイン国内では知らないものはごく少数というほど有名なのだ。
「というか貴方、学院にいたときと口調変わってない?」
「これが素なんだよ、悪い?」
「いや、でも今の方が生き生きしている気がするのは確かよ」
「ありがと」
以下長い為省略。その後、アニエスやユウスケ、あやか、それとヴァリーエル家についてよく知っているキュルケを中心として作戦会議を行った。そして、決行するのはシルフィードを回復させたいため二日後の朝。並びに、シルフィードの体格を考え、メンバーを厳選することとなった。結果、ユウスケとアニエスをはじめ、魔法を使うことができるシャルロットとキュルケ、マチルダの三人。に加え、人数を増すために鳴滝姉妹が向かうこととなった。アンリエッタも行きたがったが、アニエスによって止められて、彼女達の帰りを待つこととなった。
そして、今に戻る。
「変身!ハァッ!」
「フッ!」
ユウスケはクウガに変身してその部屋に舞い降りる。そして、アニエスとした他の面々も同様にルイズのいる部屋へと降り立った。
「こいつら、ワームか!」
「あぁ、ヴァリエール家のほぼ全員と入れ替わっている。人間なのはルイズとシエスタだけだ」
「シエスタ?」
「この家に仕えているメイドだ。悪いが、俺はそいつを迎えに行ってくる。ユウスケ、ルイズを頼んだ」
「分かった!」
「私たちも行くです!」
士は、ユウスケにルイズの事を頼むと、鳴滝姉妹、そしてアニエスと共にこの屋敷の一階へと向かった。ユウスケは、ワームに向けて杖を向けているルイズに向かって言う。
「君、危ないから下がるんだ!」
だが、ルイズの返答は彼にとって意外なものだった。
「嫌よ!」
「え?」
「敵に背中を見せるなんて、貴族のすることじゃないわ!」
そのルイズの返答にキュルケが言う。
「何言ってんの!命と名誉どっちが大事だと思ってるわけ!?」
「名誉よ!」
「なっ!」
即答。その答えにはさすがのキュルケも驚愕した。
「ここで戦って、立派に死ねるなら本望だわ!」
「何だっていいから下がりなさい!」
「嫌よ、離して、離しなさいよ!!」
キュルケは、体格差を生かしてルイズを羽交い締めにする。だが、それでもルイズはじたばたしてそれから逃れようとする。そして、ルイズは言う。
「お願いだから、せめて貴族らしく死なせてよぉ!」
「ッ!」
その時、肌を叩く綺麗な音が響いた。
「あ、貴方は……」
「タバサ……」
「……」
それをしたのは、シャルロットだった。そして、彼女は言う。
「貴方が死んだら、アンリエッタ姫が悲しむ」
「姫様?……え、でも……姫様は……」
ルイズは、アンリエッタがすでに処刑されてしまったと屋敷の人間から聞いていた。一番の親友、そして一番心を許していた人間の死、それが彼女の心の枷を外した要因の一つだった。しかし、シャルロットは言う。
「彼女は生きている」
「え?」
「あぁ、処刑される直前に助けたんだ。今は、俺たちの仲間の所で匿われてる」
「生きてる……本当に……」
「あぁ、俺たちがここに来たのも、君を助けてほしいって頼まれたからさ」
「……私、なんかを」
「君の事をまだ助けたいって思っている人がいるんだ。だから、君はここで死ぬべきじゃない。生きるべきだ」
「……姫さま……」
二人の説得によってようやく落ち着いたルイズは、キュルケに連れられ、マチルダのゴーレムの方の上まで飛んでいく。そして、ユウスケとシャルロットは、ワームの方へと向き、士が帰ってくるまでの殿を務めることとなった。
次回、ゼロの使い魔の世界前編最終回。そして、明かされる(予想通りの)衝撃の事実とは。
あと、キリがいいので本日8時30分に次を投稿します。