あと、多分今回で後編に誰が出てくるか分かる人が現れるはず。
シエスタは、壁際から廊下を覗き見る。物が散乱してはいるが、取りあえず周囲には先ほどの虫のような怪物はいないようだ。今なら進むことができる。シエスタは、足元にいる小動物たちに指示を出して、廊下を進む。シエスタは、士に安全な場所に隠れるように指示を出されたものの、どこが安全な場所なのかなんてわからなく、実際屋敷中に先ほどの怪物がいるかもしれないわけだから、どこにいても無駄なような気もする。とりあえず護身用に台所にあった包丁を持ってきたが、心許ない。その時、廊下の奥から人の気配がする。
「まずい!」
シエスタは、先ほどの場所へと戻ろうとする。しかし、そちらからもまた人の気配が。
「ど、どうしよう……」
周囲を見る。だが、そこにあるのは四つのドアのみ。右端から順番に開けようとする。一つ目、開かない。その時、足音がさらに大きく聞こえる。
「は、早くしないと……」
二つ目、開かない。さらに足音は大きく。
「早く、早く……ッ!」
三つ目、開かない。足音は大きく。
「お願い、開いて!!」
四つ目。その時、人影が廊下を覗く。
だが、そこには誰もいなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
間一髪その部屋の中に入れたシエスタと小動物たち。ドアを背にして、シエスタは座り込む。心臓が、まだバクバクと音を立てて血液を勢いよく体中に運んでいるのが分かる。荒い呼吸が止んできて、ようやく周りを見ることが出るようになったころ、シエスタはあることに気が付く。
「ここは……一体……」
その部屋、は自分が回った各部屋とはまた違う構造となっていた。中央には見たこともないような大きな物が置いてあり、何やら大きな音を立てている。その物体には、何やら太い線のようなものが繋がっていて、それは壁際にまで続いている。
「これは……」
「見てしまったか」
「!」
その声が聞こえた。暗闇に潜んでいた男。ブロンドの髪をした男。彼女は、その容姿に見覚えがあった。
「大旦那様、いや違う……あなたも、怪物ですね」
「フフッ……流石に騙されはしないか」
ラ・ヴァリエール公爵は、そう言うとその姿を怪物へと変える。茶褐色の怪物だ。シエスタはその恐ろしい姿に一歩後ろへと下がってしまう。だが、シエスタは勇気を出し、そして聞く。
「こ、この大きな物は……何なんですか?」
「これか……この機械は君達のようなハルケギニアの人間に分かるようなものではない」
「機械?これが?」
シエスタは、その言葉に疑問符を浮かべる。シエスタの知っている機械という物は、自分の今は亡き故郷であるタルブの村で作っていたワイン、その工程の中で少しだけ使っていた木製のソレぐらいの物。だが、ここまでの、それも一目見ただけでその存在理由が分からない機械というのは、初めて見る。
「そう、そしてこれは我々ショッカーの次なる作戦の試作機……これを見られたからには生かしておけない」
「ッ!」
逃げなければならない。だが、脚は動こうとしない。恐怖で動かない。脚ともにいる動物たちは、総じて吠えたり鳴き声をあげたりしてワームを威嚇する。だが、それも無意味なこと。リオックワームは、シエスタへと少しづつ少しづつ近づいている。もうだめかもしれない。そう思ったその時、怪物は止まる。
「フッ、来たか……」
「え?」
その瞬間、ドアが吹き飛んだ。外からの明るい光に、シエスタの目が少しだけ眩み、手で光を遮る。そして、少しづつ手をのけると、その目線の先にいたのは……。
「シエスタ、無事か!」
「士さん!」
ドアから入ってきたのは、士を含め、騎士のような恰好をした女性、そして小学生くらいの子供二人。騎士らしい女性、アニエスと士は、シエスタとワームの間に割って入るかの如く立つ。士は言う。
「どうやら、お前がワーム共の親玉らしい」
「ふっそうだ。貴族としての生活も悪くはなかったが、だがやはりワームはワーム……来いディケイド」
「言われなくても、そのつもりだ」
「ハァ!」
アニエス、そして士はリオックワームへと向かう。その間に、鳴滝姉妹がシエスタに危害が及ばないように部屋の端へと衝動物たちと一緒に連れていく。
「ハァッ!!」
「フン」
アニエスは、袈裟切りにて斬りかかったがしかし、簡単にその刃を止められてしまう。アニエスは、ワームの手から剣を取り戻そうと動かそうとするが、ピクリとも動かない。
「クッ!」
「フン、ただの人間風情が私にかなうと思ったか?」
「ガハッ!」
アニエスは、その人蹴りによって剣を手放して大きく吹き飛ばされてしまう。それを見てワームは、剣を持つ手にさらに力を入れ、その刃が砕け散る。
「くそ……」
「フン……」
「フッ!」
士は、リオックワームのわき腹目掛けて左から剣を振るう。しかしワームにその攻撃が当たることなく、その剣筋は、空を切るだけであった。ワームの姿が消えたのである。
「消えた!?」
「いや、クロップアップだ」
「クロックアップ?」
「あぁ、ッ!」
その瞬間、ディケイドのからだから火花が散って士が吹き飛ぶ。クロックアップとは、成虫体となったワームが使用することのできる能力だ。簡単に言えば、普通の人間では黙視することのできないほど超高速で動くことのできる能力である。
「クッ……だが、クロックアップには……ッ!」
士は、カードを取り出す。そしてそれをバックルに入れる間にも士は攻撃を受け、そして何度目かの攻撃の時にようやくカードを入れることができた。
≪KAMENRIDE KABUTO≫
その瞬間、士の身体が何かの機械の駆動音と共に変化している。そして、その姿が、赤いカブトムシのような姿に変化する。続いて、士は、一枚のカードをバックルに入れる。
≪ATTACKRIDE CLOCK UP≫
「士先生も消えたです!」
鳴滝姉妹の目にも、他の人間の目にも士の姿が消えたように見える。だが違う。士もまたワームと同じく高速で動いているのだ。士の変身した仮面ライダーカブトは、通称マスクドライダーと呼ばれている物で、原典では変身者の鍛え抜かれた天才的な身体能力によって、他のライダー・ワームの追随を許さないまさに最強無敵と評されるほどの仮面ライダーなのだ。
クロックアップの世界に入った二人の姿は見えない。だが、確実に二人は戦っているのだ。時々火花が散っているのが周りの人間にも見える。そして、一瞬だけ止まった。普通の人間の感覚ではの話だが。士とワームは、組み合い、言う。
「何故ルイズを狙った。あいつに何があると言うんだ?」
「ならば一つ教えておこう。あの少女は、我々の最大の作戦を妨害し得る可能性を持った女だ。だから、我々は奴から大切なものを奪い、この屋敷に幽閉した!」
「大切なもの?」
「そうだ!ついでに教えてやる!この世界は、お前が旅してきたどの世界よりも破壊された世界!貴様一人がどうとできるものではない!!」
「グッ!」
ワームは士の腹部を殴り、そしてその両腕を歯のように変形させて士を万力のように挟む。
「グア、ァァァ!」
元々昆虫のリオックは、強靭な顎を持っており、体長65-80mmと小さいながらも段ボール箱程度なら食い破ってしまうほどであるとされている。
「本当は殺してやっても良かったがな、それはかわいそうだというからこうやって飼い殺しにしていたわけだ!」
「ガハッ!!」
≪CLOCK OVER≫
電子音と共に士の身体はカブトからディケイドへと戻り、高速移動も解除される。
「士先生!」
「そんな……」
「あいつ、なんて強さだ……」
「士さん……」
士は、何とか立ち上がった物の、しかしこれ以上この場所で戦ってもらちが明かないと感じた。有効な対抗手段も思いつかない上に、今も上ではユウスケたちが戦っている。これ以上他の面々を危険にさらしていいわけがない。
「いったん退く、鳴滝!」
「はい!」
「アデアット!!」
鳴滝姉妹は、士のその言葉で自分たちが何をすればいいのか分かった。アデアットによって忍者服姿になった鳴滝姉妹は、続いて言う。
「「忍法!影分身の術!!」」
その瞬間、二人が四人、四人が八人、次々と増えていき、それらが全てワームに向かって行く。もちろんそれは分身だけで本人たちは向かわない。
「ふん、子供だましか?」
「子供だもん!」
「です!」
だが、少なくともその分身たちによって動ける範囲が無くなっていきワームの高速移動も効果を見せなくなる。
「今のうちに部屋から出るぞ!」
「はい!」
「ほら、行くですよ」
鳴滝の分身の何人かがシエスタの足元にいた動物を持ち上げ、そして一緒に逃げる。
「くっ!おのれ、逃がすか!!」
それに気が付いたワームだが、あまりにも分身が多く、かき分けながら進み、分身を壁に機械にと吹き飛ばしていくものの、結局追うこともできなかった。
「でも士さん、どうやって逃げるんですか!?」
「そうです、いくらシルフィードでも流石に多すぎるです!」
士は、シルフィードという物が何なのかは知らないためそのことについて何も言えなかった。ユウスケたちの考えの中では、ここで助けるのはルイズだけの予定だった。しかし、士とシエスタ、そしてペット十数匹の事なんて思いつかなかった。流石にこれだけの人数をシルフィードの背中に乗せるのは無理だ。がしかし、一つ考えがあった。
「鳴滝、お前たちがこの世界にいるってことは光写真館もあるってことだな!」
「は、はい。私たちはそこから……」
「なら、逃げる場所はあるってことだ!俺に考えがあるが、まずはユウスケたちと合流するぞ!」
そして士達は階段を昇っていく。
「フッ!ハァ!!」
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
そのころ、二階ではユウスケがワームを殴り蹴り、シャルロットが氷の矢≪ウィンディ・アイシクル≫を飛ばす。だが、これで蛹態のワームを倒せるものの、成虫態のワームにはけん制にしかならなかった。成虫態三体の内、一体があまり積極的に攻撃してこないためまだましではあるのだが。
「ユウスケ!」
「士、遅いぞ!」
「こっちもちょっと手間取った」
そして、士を含めた全員が、ユウスケの周りに集まった。その場にいないのは、外で飛んでいるシルフィードとゴーレムの肩にいるマチルダとキュルケ、そしてルイズのみである。
「どうする、ワームがかなり集まってきたぞ?」
「心配ない、この世界限定なら、やりようはある。ゴーレムの上にいる奴らを呼べ」
「え?」
「いいから、俺に任せろ」
「くっ、マチルダ!キュルケ!降りてきてくれ!」
「はぁ、なんでさ!」
「いいから早く!」
シャルロットもまた、口笛によってシルフィードを呼ぶ。そして、マチルダとキュルケがルイズを連れて二階へと舞い降りた。
「で、どうするんだよ!」
「これだ」
次の瞬間、灰色のオーロラが出現する。
「これは……」
「そうか、これを使って!」
「あぁ、同一世界なら大丈夫だ」
「へ?」
「行くぞ!」
「あ、ちょ待てよ!!」
その士の言葉と同時に、ユウスケを始めとした全員がそのオーロラへと飛び込んでいく。そして、マチルダがそのオーロラに飛び込んだ瞬間、外にいたゴーレムは土の塊となって崩れ落ち、屋敷にはワームだけしかいなくなってしまった。
「逃がしたか……」
「フフッ、いいじゃないあの子たちの行先なんてたかが知れてる」
「そう、何故なら彼女は……」
そこに、リオックワームがしゃべりながら現れる。そして言う。
「ゼロなのだからな」
「士君!」
「よう、夏ミカン」
「士先生も、ルイズさんという方のところに?」
「あぁ、使い魔として呼ばれたらしい」
「使い魔?」
「あぁ……」
オーロラに飛び込んだ士たちが次に見たもの、それは光写真館の目の前にいた夏海たちであった。そして次に写真館から出てきたのは……。
「ルイズ、ルイズ・フランソワーズは?」
「安心してください陛下、ルイズ様は助けました」
「今は疲れて寝ているようだがな」
「そうですか……ありがとうございます」
どうやら、彼女がアンリエッタ姫らしい。なるほど、なんとも気品のあふれる感じだ。
「アンリエッタ……」
「ん?」
その言葉をつぶやいたのはシエスタである。
「貴方が……アンリエッタ姫……なのですか?」
「……はい」
「……タルブという村を……ご存知ですか?」
「タルブ……もちろんです。この戦争で一番最初に焼き尽くされた……」
タルブは、この戦争において最初期に焼き尽くされてしまった小さな村の事だ。
「私は……そのタルブの村の出身だったんです……」
「え?」
「本当なら、私もその時期に休みをもらって帰省しているはずでした。でもルイズ様と一緒にヴァリエール家に連れていかれて、何とか私は、私だけは助かりました。でも、私の家族や知り合いは、皆……皆、死んでしまいました……」
「……」
「どうして……降伏しなかったんですか?」
「……それは」
「戦力差は圧倒的だったはずです。勝ち目なんてなかった……それを分かっててなお降伏勧告を無視して、あろうとか、貴方は戦場から逃げたした!……まだ戦っていた兵士や、助けを求めた平民を置き去りにして!……私の故郷を壊したんです!」
「ッ!」
「なっ!」
シエスタがその手に持っていたのは、護身用にヴァリエール家から失敬した包丁だった。
「償ってください……皆に……死んで償ってください!!」
「くっ!」
それに対して、アニエスが二人の間に入る。周りの人間は、シエスタの迫力に対して動けるものなどいなかった。
もしも、ルイズが気絶していなかったら彼女もシエスタに何か言ったであろう。
いや、何か言っている。寝言だろうか。
「この……バカ…犬」
その時、ルイズの目から涙が落ちた。
なんだ、今一瞬誰かの名前が見えた気がする。
忘れちゃだめな人
忘れたくない人。
忘れたくなかった人。
貴方の名前は。
…名前は。
サ……イ…………ト
次回、仮面ライダーディケイド エクストラ 「俺は、誰だ!」「さぁ、殺しなさいシエスタ」「綺麗事が、世界で一番素敵な言葉なんだって……」「お前が未来を願うんだったら、光るんじゃないか?」「ゼロだったら!誰かと一緒に始めればいいの!!」「俺はもうどこにも行かねぇ!!」「こいつを誰だと思ってる?」「私を誰だと思ってるの?」
【伝説の使い魔】全てを破壊し、全てを繋げ