それは、ルイズの留年が決まった直後のヴァリエール家にまでさかのぼる。
「そうか……」
カリーヌからの報告を聞き、自室でそうつぶやいたのは本物のヴァリエール公爵である。公爵は、領民から送られてきた大量の報告書の閲覧を少し止め、目頭をぎゅっと押す。少し暗いところで近くの物を見すぎたせいで、眼精疲労が起こっているのだ。そして、その最中にもカリーヌに聞く。
「それで、ルイズの婚約者には?」
「彼は、現在所在が分からず、噂によればレコン・キスタに寝返ったとも……」
「むぅ……」
ルイズの婚約者というのは、トリステイン王国にある魔法衛士隊の一つ『グリフォン隊』の隊長を務めている人物だ。彼は、ある特別な任務のために単身アルビオンに向かったのだが、それ以来帰ってきていないというのだ。そしてそのすぐ後アルビオン王国は崩壊、レコン・キスタが神聖アルビオンを建国した。そのため、特別任務というのは嘘で、レコン・キスタに寝返った。または、元々レコン・キスタの間者で、全ての任務を完遂したために元の鞘に収まったのではないかという話もある。
「……やはり、奇跡は起こってくれなかったか……」
「はい……残念に思います」
ラ・ヴァリエール公爵は、残念そうにつぶやいた。なぜなら、ルイズが努力していたというのを一番近くで見ていたのは、この公爵も含めた家族全員だからだ。だがその努力が実を結ぶことなく、使い魔を召喚することができなかった。これにてルイズは、いわば貴族失格の烙印を押されてしまったも同然となってしまった。なんとも、空しいものがあった。ここで、公爵は非情な、だが彼女の人生にとって勇気のある決断を下さなければならない。
「このまま、あの子を学院に置いていても劣等感にさいなまれるだけだ……そう思わないか?」
「はい……」
「エレオノールは、アカデミーから帰っているか?」
「はい、今は自室に一人います」
「そうか……」
公爵は、それだけ言うと立ち上がり、ドアにかけていた鍵を、『アンロック』の呪文で解除して、自室から出る。カリーヌもまた同じく部屋から出る。すると、ドアを抜けた先には、一人の桃色の髪の女性が立っていた。
「父様……母様……」
「カトレア、盗み聞きしていたのか?」
「耳に入ってしまったんです……それで、ルイズは……」
「聞いての通りよ、残念ながら……」
「そう……」
カトレアは、二人の話を聞くと途端に顔が暗くなってしまう。これからルイズに待ち受けるであろう辛い人生、それを考えると胸が張り詰めて痛くなってしまう。
「……カトレア、これからエレオノールの部屋に行く」
「エレオノール姉さまの所へ?」
「あぁ、ルイズの事について相談しようと思っている」
「ルイズの……分かりました。なら、私もエレオノール姉さまに頼んでみます」
「うむ……」
一方、そのエレオノールはと言うと、自室にある鏡面台のイスに座って一人、鏡の中にいる自分を見つめ、思いつめていた。それはなにも、またも婚約破棄された件についてではない。それも確かに心苦しいが、それ以上に心苦しい一件があった。自分の妹の一人が、伝統あるトリステイン魔法学院を留年してしまったのだ。いや、それは彼女が学院に入ったその時から予想されていたことだった。
あれは、今から何年前の事だっただろう。ルイズが魔法を上手く使えない事を知ったのは。何をしても失敗し、爆発しか起こせないルイズを、周りの使用人やメイドは皆バカにした。当時、ひどく彼らに激昂したものだ。当然だ。自分の妹がバカにされて怒らない者等いやしない。彼女は、身分の低い平民や下級貴族にまで上から目線で、見下げているような性格なのだが、それはルイズの一件が原因となり、そういった者を見限っているからともいえるかもしれない。ある日、彼女がルイズを励まそうとルイズの部屋を覗いた。家族の中で唯一魔法が使えないのだ。きっとひどく落ち込んでいるに違いない。そう思って、覗いた先に見たのは、本を熟読しているルイズの姿だった。エレオノールは、部屋に入らず、そっとその様子を見守ることにした。本を抱え、勉強机に向かった彼女は、今度はなにやらノートに書き写しているように見えた。間違いない、ルイズは勉強しているのだ。まだ幼く、重い本を持つのにも一苦労している。だがいつか、ちゃんと魔法を使うことを夢見て、どうしたら魔法を使うことができるのか、それを彼女は過去の歴史、現代史、色々な物から答えを探ろうとしているのだ。そんな彼女の姿のなんとも勇ましいことか。その時、彼女は肩を叩かれた。後ろを振り向いたそこにいたのは‥…。
過去の事を振り返っていたエレオノールは、その時ドアが開く音を聞いた。目から流れ落ちそうになる水滴を寸での所で拭きとったエレオノールは後ろを向く。そこにいたのは父や母、そしてもう一人の妹のカトレアであった。
「父さま……」
「すまないな、なんどノックしても返事が来ないから、アンロックを使わせてもらった」
「いえ、気づかなかったのは私の方です。それで……やはりルイズの?」
「うむ。ルイズを、家に戻すことに決めた」
「そうですか……」
「そこで、お前に頼みがある」
「もしかして……アカデミーに?」
「あぁ、何とかならないか?」
彼女の言うアカデミーとは、王立魔法研究所の別名であり、新しい魔法の研究やマジックアイテムの解析等を行う機関であり、王都トリスタニアに置かれている。エレオノールは、そこで研究員として土魔法の研究に努めているのだ。エレオノールは、父の言葉を聞き少し考えてから言う。
「……三つ、問題がありますわ。まず一つ、いくら私があそこの研究員だとしても、コネで入ったと知られれば、学院と同じように、周りから嫌がらせを受ける可能性もあります」
「……確かに」
ルイズが学院で生徒からいじめを受けていたということは、学院のとある先生から聞いている。無論、それはヴァリエール家という名門貴族であるというのに、魔法を失敗させる唯一の貴族だということから。それに加え、コネで入ったと知られれば、今度はアカデミーの面々から嫌がらせを受けることは確実だろう。
「二つ目、これが一番の問題……あの子が、それを了承するか……」
「そうね、ルイズはプライドが高いから……」
「それにもう一つ、私もあの子から嫌われているしね……」
エレオノールは、ほくそ笑むように自笑した。
「エレオノール、それは……」
「そうね、きつく当たっていた方があの子がもっと頑張ってくれるんじゃないかって思ったからっていうのもあるけど……」
あの日、ルイズが勉強している姿をみたエレオノールの肩を叩いたのは公爵であった。そして、公爵の仕事部屋に呼ばれた彼女は、公爵から言われた。
『これから、自分とカリーヌはルイズにより一層厳しく接することにする』
と。その真意は明らかだった。ルイズは普段の生活を見れば一目瞭然だが、負けん気の強い人物だ。だから、自分たちがルイズにきつく当たることによって、彼女に発破をかけもっと努力してくれるのではないだろうか、そうすればいつかは魔法が全て爆発に変換されるという欠陥がなぜ起こっているのかを突き止めてくれるのではないだろうかと。無論、二人も調べられるところまでは調べる。だが、その本質を知るのはルイズ自身でなければならない。まさに、獅子の子落とし、獅子は我が子を千尋の谷に落すというものである。
それならば、と元来ルイズと同じように負けん気の強く、そしておそらくだがルイズが大きくなったら自分と同じような性格になるだろうと考えてたエレオノールもその話に乗った。だが、この話はカトレアにはしなかった。カトレアは、優しい気質の持ち主だ。そんな人間がいきなしにルイズだけに厳しい態度で接することができるとは考えづらい。そのため、カトレアには飴となってもらい、自分達はムチとなろうと決心したのだ。とはいえ、カトレアにはすぐに自分たちの目論見はばれてしまったのであるが、ちゃんと飴としての役割を果たしてくれた。
だが、結局失敗の原因を掴むことはできず、ルイズも努力して座学だけで見れば学院でも一、二を争うほどになったものの、魔法についてはからっきしのままだった。あんなに、努力を欠かさなかったというのに魔法がダメだというだけで人生を決められてしまうというのは、なんとも悲劇的すぎる。その時、エレオノールが閃いた。
「でも、ちゃんとアカデミーの試験を受けて、一定の点数を取ればなんとかなるわ」
「むっ……」
「それに、歴史の本とかを特に熱心に見ていたから、考古学専門の部署とかだったらあの子も居場所があるかも……」
「そうか……魔法の試験はあるのか?」
「魔法が使えないなら、あの子は平民と同じ扱いにされるかもしれないけれど……でも、ヴァリエール家の三女をそう簡単に悪いようにはしないはずよ」
エレオノールが考える唯一の、そして最善の方法、だが最もシンプルな答えだ。つまり、コネでもなんでもなく、ちゃんとした形で入社試験を受けさせようという話だ。座学であれば、何とかなる。後は、実施試験と同等の魔法の試験だが、魔法が使えなくてもルイズでも何とかなるような部署に配置してくれるかもしれない。資料整理とか得意なのじゃないだろうか。ヴァリエール家は王家と血縁関係にあるため、貴族の中でも位でいうならかなり上。学院のガキ共とは違って、立派な大人であるアカデミー職員が大掛かりな嫌がらせをするとは限らないし、上層部も悪いようにはしない。エレオノールの近くの部署に配置されればなお良い。これしかない。
「よし、その線で話を進めよう」
カトレアは、光明が見えた気がして、先ほどまで暗かった表情が一気に明るくなった。
「ありがとうございます。エレオノール姉さま」
「でも、残る問題はあと一つ。あの子がアカデミーの試験に受かるとは限らないわ」
「大丈夫。なぜならルイズは私とあの人の……」
その時、カリーヌの言葉を遮るように窓ガラスが割れる音が響いたq。
「なんだ今の音は!」
「行きましょう、あなた」
そうして、四人はすぐさま一階へと降りる。果たして、そこで待っていたのは……。
「これは……」
「何ということだ……」
地面に倒れ伏しているのは、この屋敷に長年仕えている執事やメイドたち。みな、すでに息絶えているようだ。
「一体、どうしてこんなことに……」
「門番!衛兵は何をやっている!!」
「だれも来ない」
「!」
その声と共に、一人の男らしき者が現れる。いや、男だろうか。影になって見えない。何やらゴツゴツしたシルエットのように見える。そして、次第に、明るい場所にまで来ると、その全景が分かった。
「なっ!」
「あ、亜人!?」
亜人、彼女達にはそう見えた。異形の姿をしたその生物たちは、また次々と後ろから現れる。エレオノールとカトレアはその姿に驚き、声が出なかったが、異様な状況等になれているカリーヌと公爵は違った。
「誰も来ないとはどういうことだ?」
「言っている通り、全員殺した」
「殺しただと?ヴァリエール家の守衛を全員……?」
「そう、そして貴様らヴァリエール家の人間も……」
その瞬間、前の方に来ていた四体の亜人の姿が揺らめき、そして変わった。
「なに!」
「すぐにそうなる」
「わ、私たちの姿に!?」
カトレアが驚愕してそう言った。彼らが変化したのは、紛れもなく自分たちの姿そのものだったのだから仕方ない。寸分たがわないその姿、今は横にいるのが本物であるとはっきりするのだが、もしもこれが混ざってしまえば、一切分からなくなってしまうだろう。
「クッ!」
エレオノールは、杖を取り魔法を使おうと前に出る。しかし、それはできなかった。カリーヌに首根っこを掴まれてしまったのだ。
「な、母様!」
「戦うな!今は逃げる!」
「な、何故です!」
「この状況で、私たちは敵わない!」
カリーヌは、歴戦の戦士だ。一目彼らを見ただけでどれだけ強いのか、そして強者であるこの屋敷の守衛たちを破ってきたその強さは明らかな物だと分かった。このままこの狭い屋敷内で戦うのは不利と見た。公爵も同じ意見のようだ。
「一端退き、戦力を整える!」
「ッ!」
「行くわよ、カトレア、エレオノール」
「はい」
「……分かりました」
しぶしぶ了解した様子であるエレオノール、そしてカトレアはカリーヌについていく。公爵は、カトレアの後ろを走る。殿というわけではないが、もしも後ろから襲ってきた場合いち早く自分を盾にして、彼女達を守るためだ。公爵は、彼らの足を止めるべく『ウォーター・シールド』という水の系統の魔法で壁を作る。これで、少しは時間稼ぎができるはず。
「無駄なことを……」
亜人達はそうつぶやくと、一瞬にして姿を消した。
一方、カリーヌたちは、屋敷の外に出ることに成功した。外はすっかり日が落ちて、夜となっていた。だからだろうが、地面に横たわる衛士たちの数を全て数えることはできなかった。
「……」
カトレアは、そんな状況の中屋敷の中に残してきた動物のことが気にかかった。彼らは大丈夫だろうか。まさか、小さな命にまで手を出すなどしないだろうか。ともかく、無事であることを望んだ。公爵が言った。
「よし、どうやら追っては来ていないようだ。この暗さだ。飛んで逃げればあいつらの目から逃れられるだろう」
「はい」
「……いや、そう上手くは行かないみたいですあなた」
「え?」
カリーヌがそう言った先を見ると、そこには先ほどの比ではない数の亜人がいた。その一番先頭には、先ほど自分たちの姿になった怪物もいる。
「フフフ……」
「先回りされてしまったか……」
当然の事、ヴァリエール家の面々は知らなかったが、彼らワームにはクロックアップという能力がある。目に見えない速度で動くことのできるワーム相手に逃げることは不可能であろう。
「空に飛ぼうとも無駄だ。我々ワームには、飛ぶことのできる者もいるからな」
「ワーム、それがあの亜人の名前か……」
「どうする?何もしないまま私達に殺される?それとも、勇ましく戦って玉砕でもする?」
と、ワームの後ろにいる者が言った。よく見えないが、遠くにある門までそいつらはいるのだろう。自分たちが進んできた後ろの道はすでにワームどもに閉ざされている。逃げることも、進むこともできない。ならば、進むのみ。
「カリーヌ、エレオノールとカトレア……そして、ルイズを頼む」
「え?」
「先ほどの会話からして、奴らはヴァリエール家全体を狙っているだろう。ならば、ルイズの身にも危険が迫ってるやもしれぬ」
「……しかし、この状況でどうしろと……」
「……私が道を開く」
「え?」
そう言うと、公爵は一人杖を持って踏み出す。
「お父様!」
「ほう玉砕する道を選ぶか」
「それもいい。だが、その言葉は間違いだ」
「なに?」
公爵は言う。
「なにも、プライドのためだけに無謀な戦いを選ぶのが貴族ではない。だが、何もしないままで死んでしまうのは、人間として失格だ。ならば、私は未来を託す道を選ぶ」
男なんてここ一番の時に何もできない生き物。女性という救世主が側にいなければ生きていくこともままならない。だから、男にできる事は未来を残すことのみ。子供という未来を、女性という希望を、男にできる事は、それぐらいしかないからだ。その時、声が響く。
「いいセリフだ。感動的だな」
「ん?」
その言葉に公爵も、エレオノール達も、そしてワームですら周囲を見渡す。だが、誰が発したのか分からなかった。その瞬間、ワームの前に青色の光の弾が落ち、火花が散った。
「フッ!」
その掛け声とともに、一人の男が公爵の目の前に降り立つ。どうやら、この屋敷の上から跳び下りたようだ。彼は、立ち上がってから言った。
「だが、無意味だ」
手に持っているのは銃だろうか。何やら見たことのない装飾がなされているが。
「貴様……ディエンド!何故ここに!」
「でぃえんど?」
ワームがそう言ったのを、カトレアも聞いた。
「さぁ、いつものように移動したら、この屋敷だった……それだけさ。それよりも」
「む?」
ディエンドという人物は、自分の方に向き直って言う。
「助けてもらいたいかい?」
「なに?どういう……」
「そのままの意味さ。僕には、君達四人を助けることができる」
「……本当か?」
「あぁ、その代わり……お宝を僕にくれないかい?」
「宝?」
公爵はそう聞き返した。宝、お宝、もしやすると、彼が最近巷を騒がせている土くれのフーケなのだろうか。だが、この際誰でもよかった。しかし、お宝と言ってもめぼしい宝石類は屋敷の中にある。戻って取りに行くことはできない。どうすれば……。いや、あった。宝物が。だが、まだ足りない。あと一つだけ欠けている。それならばお宝なんて呼べない。公爵は覚悟を決めた。
「……分かった」
「交渉成立だね」
「だが、ここにはない」
「なに?」
「トリステイン魔法学院という場所にいるルイズという少女が持っている」
「え?」
「お父様?」
「……」
エレオノール、カトレアはその言葉に疑問符が立った。ルイズが、宝を持っているとはどういう意味だろう。だが、カリーヌは無表情。恐らく、その言葉の真意が分かっているからだろう。それを聞いたディエンドと呼ばれた男は、一つ笑みを見せて言う。
「……ここにないのならしょうがない。早くそのルイズっていうのに会わないとね」
そう言った瞬間、ディエンドの目の前にオーロラが現れる。このオーロラは、一体何なのだろう。何か、新しい魔法であろうか。アカデミー所属のエレオノールも見たことのないものだ。
「さぁ、入りたまえ」
「そうはさせるか!行け!」
公爵の姿のワームは、周りの緑色をした怪物たちに命令口調で言った。そして、ワーム共は一斉にディエンドに、海東に向けて突貫する。それに対して海東は一枚のカードを取り出すと、ディエンドライバーにセットする。
「君たちの相手は、僕の兵隊が務めさせてもらうよ」
そして引き金を引いた。
≪KAMENRIDE RIOTROOPER’S≫
その瞬間、三体の仮面ライダーがその場に出現する。彼らは、ファイズの世界の仮面ライダーである。剣と銃を武器とする仮面ライダーで、ディエンドの出現させるソレは、三体がセットとなって出現するものだ。一体一体の性能は主だった仮面ライダーには及ばないものの、その代わり生産性を高めることを主とし、質より量を重視したためフォーメーションを組んで敵を圧倒することができる。現在の場合も、彼らがワームには敵わないことは海東も重々承知している。だが、こと牽制に関してはこれで十分だ。ライオトルーパーがワームに突撃した様子を見て、海東が言う。
「こっちだ、死にたくないのなら急ぎたまえ」
「分かった。行こう」
「えぇ、カトレア、エレオノール行きますよ」
「……絶対に戻ってくるから……」
「ほら、カトレア行くわよ!」
海東に続いて公爵、カリーヌ、エレオノールと入って最後にカトレアが後ろ髪引かれる想いでオーロラの中へと入って行った。それに対し、ワームもまたライオトルーパーを倒してオーロラへと突き進んだが、しかしオーロラはすぐに消えてしまい大多数のワームが入ることもなく空ぶってしまう。
「チッ……まぁいい。今は装置を取り付ける」
「了解」
「ねぇ、それ本当に大丈夫なの?この前みたいに誤作動でも起こしたら……」
「フッ、案ずるな。すでに正常に動きだしている。メンテナンスも行い、この試運転での成功が次の作戦への礎となるだろう。……この」
暗闇の中から一つの球体の装置がオーロラの中から現れる。淡い光を放つその装置を見ながら、リオックワームは言った。
「記憶改変マシーンのな」
これが、事件の始まりであり、彼らの作戦の第二段階であることは、まだこの時誰も知らなかった。
じつは、今ちょっと画策していることがあったりする。そういえば……もうすぐあの日から一年か……。